「この先って？」
「豊川の別荘だよ。私とたぶん初音もだけどさきちゃんと初めて会って遊んだ場所でね……近道になるけどダメだよね、私有地だし」
「………」


…………ふーん。祥子ちゃんと。


へー……小っちゃい頃のういちゃんズをとっかえひっかえして遊んだんだ？こーんな素敵な場所で？
滅茶苦茶かわいすぎる姉妹とひと夏を過ごした幼馴染で？今はあっちのういちゃん独占してる？ズルじゃん！

そんなの欲望を抑えきれなくて、いつかこっちのウイちゃんにも手を伸ばして侍らそうとするやつじゃない？
ういちゃんズ独占禁止法に抵触するやつじゃないの？ほんとズルいよねオブリビオニス祥子ちゃん。

そんなズル、まな許せないなあ………だったら────

「………ウイちゃん。入っちゃおっか」
「ダ、ダメだよ！不法侵入だよ！？ま、まあ地元の子みんなここのお庭を突っ切って近道にしてるけど……」
「じゃあ大丈夫だよ。さ、行こ？」
まなは立ち入り禁止って書かれた線を跨いで、まだその向こう側で躊躇してるウイちゃんに手を伸ばした。

「わ、私は、ダメだよ……悪いことしたんだから……」
でもウイちゃんは未だ震えたまま、線を越えられない俯いた顔。

「私は豊川の、初音とさきちゃんのいる世界に入っちゃ…………きゃっ！？」
でもそんな怖気る身体を───線のこっち側、まなの側に引っ張り込んじゃうっ！

「こっちの世界に行けないなんて悲しいこと、勝手に決めないで………あとっ！！まな的に許せないので！」
「ま、まなちゃん意味わかんないよ！……ダメ、ダメなのに……………うわっ！？力つよっ！嘘でしょ！？」

祥子ちゃんだけウイちゃん達と素敵な夏の思い出持っててズルい！まなだってウイちゃんの故郷でキャッキャウフフした楽しい思い出欲しい！ぜ〜〜〜っっったいに上書きしてやる〜〜〜って叫びたくなっちゃう！

それと───


「踏み出せないならまなも一緒に悪い子になるから！ウイちゃんもこっちの世界に来ていいんだよっ！」
「……っ……悪い子に……わ、わかった！行くから引っ張らないで〜〜ッ！」


─────
───

無理やり入らされたその庭園は、変わらず丁寧に剪定されたお花がいっぱい咲き誇っていて。
雲一つない空の上から、ひかえめな月の光が色とりどりの花弁たちをやさしく照らしていた。

「わぁっ！お花がいっぱい……ええー！？テラスに、噴水まである！？この別荘すっご……！キレイだねウイちゃん！」

でも、そんな花々よりも私の瞳には、私の手を握ってくれてる眩しい笑顔しか映らなかった。
それを彩るよう、少し色を抜いた艶のある黒髪が、月光を吸ってキラキラと無邪気に踊って。

「うん……ほんとキレイ……」
思わず見惚れちゃった。だってお姉ちゃんと並ぶアイドルの中のアイドルだもん。当たり前。

私が憧れた、アイドル、だもんね。
私が絶対叶える夢だって、ここで出会った女の子と約束した夢。
私がもう叶えることはない夢の頂。
私が………

「ウイちゃん？どうしたの？」
「はっ……う、ううん、なんでもないよっ！」

「………ほんとに？」
「ほ、ほんとだよー？あっ！？ここの薔薇の木陰でさきちゃんと別荘の大人たちに見つからないよう内緒でお菓子食べたなー懐かしーなーアハハ！さ、さきちゃんって最初お淑やかな子なのかなーって思ったんだけど遊んでみるとすっごいお転婆だったんだよね！それで浜の方で遊んだときにさきちゃんったらプロレス技はお嬢様の嗜みですわァ！！って海に私のことバックドロップで───」

危ない危ない……また負のループに入るとこだった。
ヤな感情を悟られないよう早口で誤魔化す……誤魔化せたかな？誤魔化せたよね？

………あれ？なんか握られた手から怒気を感じる？なんで噴水の方まで近づいて───

「………それっ！」「あっ！！ちょっとまなちゃん？！な、なんで水かけるのーー！？」

「ふふふっ！ウイちゃんには教えてあげなーーいっ！！」「も〜〜〜お返しっ！！」「きゃ〜〜〜っ！！」

広い夜空の下、ふたりしかいない場所。
町のぽつぽつとした明りと月の光だけが照らすお庭で。

服が濡れるなんてお構いなしに、噴水のお水を手で掬って掛け合う。

「とう！こっちもお返しだよ〜〜ウイちゃん！」
「も〜〜！まなちゃんも私もびしょ濡れだよどうすんのこれ〜〜！？」
「嘘もつくし！誤魔化すし！それにさきちゃんさきちゃんってまなのこと煽ったウイちゃんがわるいよ〜！」
「なんで！？アハハっ！負けないよ！」

楽しい、楽しい、楽しい！
なんだかあの頃───何も知らないでこの島ではしゃぎ回れてた頃に戻ったみたい！
あれ？さっきまで何に悩んでたんだっけ？楽しすぎて頭まっしろになっちゃってる！悲しかったの嘘みたい！

「ありがとうまなちゃん……大好き」「ウイちゃんなんか言った〜〜！？」「なんでもないよっ！えいっ！」

いつまでもこの時間が続けばいいのに、そんなことを思い描いてると………


プォーーーーーーーー…………


港の方から汽笛の音。
げっ。しまった。

「忘れてた！まずいよまなちゃん！フェリー出ちゃう！あれ最終便だよ！？」
「は、走るよウイちゃ〜〜〜ん！」

─────
───

「いや〜〜なんとか四国まで戻ってこれたね〜〜」
「走ってもう汗だくだし、水かけあってベタベタだし……も〜〜シャワー浴びたーい！」

フェリーを降りて、ＪＲ高松駅前。
まなとウイちゃんはふたりとも息も絶え絶えって感じで並んで歩いてた。

「でもこれから深夜バスだよウイちゃん……もう新幹線も飛行機もないしシャワーは東京着いてからだよ〜」
「ええっ！？ダメダメ！アイドルが深夜バスなんて使っちゃダメだよ！興奮したモブレズは薄暗い密室で遭遇するのが一番怖いんだよ！？物量で押されたら私だけじゃまなちゃん守護れないよ！」

さすがウイちゃん。伊達にモブレズさん達に日常生活困らされてないね……まなが一生守護らなきゃ……。

「でも泊まったらお仕事間に合わないし……ソロのお仕事のだけど日程ずらせないから覚悟して乗るしかないよ〜〜」
「大丈夫！私に任せて！香川から東京に出るときはアレが使えるし……珍しく空いてて、さっきスマホでお部屋取っといたから行こっ！」
「お、お部屋！？まな、どこに連れ込まれちゃうの〜〜〜！？」
そうして、ウイちゃんに元気よく手を引かれて駅の中に駆け込んだ。

────
──
『ハッピー寝台特急サンライズ瀬戸号をご利用くださいましてありがとうございます』
『この列車はハッピー寝台特急サンライズ瀬戸号、東京行きです。停まります駅は、坂出、ティオティオ島───』

乗車した列車の中は、暖色の明りで満ちていてどこか落ち着く雰囲気。

これが寝台特急ってやつなんだ〜〜初めて乗っちゃった！すごい映えそう！
でもまなとウイちゃんの関係があっちのういちゃんにバレちゃうからSNSにあげるとかできないのが残念！

「このお部屋かな？ツインはすっごい競争率って聞いてたんだけど……キャンセル出ててラッキーだったね」
「ウ、ウイちゃん！ふかふかのベッドが二つもあるよ！よかった〜〜！実は深夜バス乗って、明日の撮影で寝不足顔パンパンのまなの写真撮られちゃうかもって思って絶望してたの！」

「シャワーもあるよ！……わっ！見て見て！ＪＲが鶴巻家に買われてから設備がすごいグレードアップしたんだって！お湯無限に出てアメニティもすごくなって……ランドリーも！？女の子の利用も安心だって！もうホテルだね！」
「やった〜〜！ハッピ〜〜！ラッキ〜〜！スマイル〜〜！イエ〜〜イ！！」

寝込んでたんで間空きました
次で終わります

おやsumimi〜〜

はつさき水かけっこをういまなで踏襲するの……いいね……

リアルタイムでこのシリーズ遭遇できてよかった

>広い
>町の
>「とう！こっち
>「嘘もつくし！誤魔化すし！それにさきちゃんさきちゃんってまなのこと煽ったウイちゃんがわるいよ
>あれ？さっきまで何に悩んでたんだっけ？楽しすぎて頭まっしろに
モニカ！

このシリーズでういまなにハマったよありがとう

>このシリーズでういまなにハマったよありがとう
書いて！

初音のほうがういちゃん表記で
クンニ奴隷のほうをウイちゃん表記にしてるの
なにげに好き

サンライズ瀬戸は続編で真ウイちゃん出てきたとき使われそうなギミックだね…

>はつさき水かけっこをういまなで踏襲するの……いいね……
大河ドラマのような対比表現好き

>はつさき水かけっこをういまなで踏襲するの……いいね……
バプテスマって百合ですよね…
家族になったんです…

感涙しました！

さきちゃんのバックドロップが正調タイプか抱え式なのか捻り式なのか低空式なのか後藤達俊式なのか旋回式なのか気になっちゃう
デンジャラス・バックドロップ？あの技はやめろー！！

>クンニ奴隷
いやまあそうなんだけどあまりにもあんまりな呼び方過ぎる…

ムジカアニメ本編でそよさきでプロレス地味たムーブしてきた時はびびったね…

お嬢様ならクラシカルなルー・テーズのバックドロップですわー！

弦巻家がJR買ってる……