「レントゲン、CT、MRI、できる検査全部やってみたけど、君の体は健康そのもの。傷ひとつないし、とても君が言ったようなことが起きたとは信じられない…ってのが俺の意見かな。」 スウォームハグルモンとの戦いから数日。 俺は北条先生の病院に来ていた。 「やっぱり…そうですか。」 実際、俺の体に大きな傷跡は残っていない。 メルヴァモンにつけられたキスマークの方が目立つぐらいだ。 「しかし、心臓まで達するような深い傷が10分足らずで治るなんてね…これもデジモンと混ざった結果、なのかな。」 あの戦いの時、俺は胸を奴に突き刺され、確かに死んだ。 痛みが遠のいて行き、冷たさが這い寄ってくる、抗いがたい意識の消失。 あれは死としか言いようのないものだった。 「そんなものすらも治るなんて、なんか医者として自信なくなってくるよ。とりあえず、お大事にね。」 「はい、ありがとうございます。」 そうして俺は診察室を出た。 「人間をオトすなら自分から攻めないとダメだぞ〜」 「やっぱりそうなんでしょうか…」 「そうだぞ!ツカサだって─────あ、ツカサ!どうだった?」 外で待っていたメルヴァモンが、北条先生のパートナーのテティスモン”テチス”と何やら盛り上がっていた。 「なんともないってさ。」 「そっか…よかったぁ…」 「…なんの話してたんだ?」 そう聞いてみたところ、テチスが顔を赤くしながら慌てた様子で俺たちの元に走ってきた。 「だっ、だだだダメですよ言ったら!」 「わかってるって〜」 正直、漏れ聞こえて来た内容だけで想像はつくが。 「ま、恋バナみたいなとこ」 …予想通り。 ━━━━━━━━━ 「お大事に〜」 手続きが済んで、二人は帰路についた。 「…なぁ、アタシ達つけられてるぞ。」 デジモンの気配を察知したメルヴァモンが、司の耳元でそう囁く。 彼自身も、一定の距離を保ってつけて来ているデジモンの存在は感じていた。 「敵かな?」 「味方なら、まずこうやって跡をつけてこないだろうな。」 彼はそう言いながら、ポケットの中のクロスローダーに手を伸ばす。 「どうするツカサ?こっちから仕掛けるか?」 「そうだな、先手を取った方がいい。合図したら攻撃してくれ。」 彼は気配に注意を向けながら、人気の少ない場所に向かう。 目指していたのはビルの隙間の空き地。 繋がる道が少ない分自分たちの逃げ道も少ないが、逆に言えば跡をつける者たちが攻めてくる場所も固定される。そう考えてのことだった。 「メルヴァモン今だ!」 「はぁぁぁっっ!!!」 司の合図で、彼女は気配に向かって剣を投げる。 それは空を切り、ビルの壁に突き刺さった。 「チッ…避けられたか」 彼が控えさせている他のデジモン達を出すべきか考えたその時、剣が突き刺さっていたあたりから、デジヴァイスVによる隔離フィールドが広がり始める。 「アンタ達、本当に戦いが下手ね!」 彼らに背後からそう声をかけたのは、二人が感じていた気配その人だった。 「誰だ!」 声の方を振り返ると、そこにいたのは四つ足のデジモンと人間。 (あれは確か…サングルゥモンだったか。) 司はすぐにデジモンの種類を見抜いたが、一方で人間の方には全く見覚えがなかった。 「スウォームハグルモンとの戦いの跡見たわよ、あれだけ被害出して!」 おおよそ知っているのは自分たちとデジモンイレイザーの軍勢程度であろう金竜将軍との戦いの話をしてくる相手に対し、彼は警戒心を強める。 「今だってそう、私がデジヴァイスVでこの空間展開しなかったらビルにメルヴァモンの剣突き刺さってたところでしょ!」 「だったら言わせてもらうが、お前らが俺たちを尾行なんてしなければこんなことにはなってないぞ?」 「─────ッ!!アンタ本当に周りのこと考えないで戦ってるのね!」 「そりゃそうだろ!戦いの時なんて死なないようにするで精一杯なんだよ!お前こそロクに戦ったことねえんだな!だからそうやって────「ちょ…ちょっと落ち着いていただけますか?」 ヒートアップし始め口論になりかける二人に、サングルゥモンが口を挟む。 「なにサングルゥモン!」 「マスター…最初にこちらの目的を説明しないと…このままだとケンカを売ってるだけですよ…」 「そっか…ごめんサングルゥモン…まず落ち着かないとだよね…」 二人は司たちに聞こえないよう、こそこそと話す。 「なぁツカサ…あいつらなんなんだ…?」 「さぁ…まぁ、刺客とかでは…なさそうか…?」 側からその様子を見た彼らは、ひとまず相手が悪人ではなさそうだと考えた。 「………えーっとまず…私は甦咲理音。………私たちは、アンタ達に戦い方を教えに来たの。」 「はぁ?アタシ達に?おいおい勘弁してくれよ…アタシは究極体だし、ツカサだってまぁまぁ戦場を経験してる。今更何を教えてくれるって言うんだ?」 司もそれは同意見だった。理音が自分よりも戦闘に精通しているなど、到底信じられるはずもない。 「お言葉ですが、マスターと私は15年近くパートナーとして戦っています。戦闘経験は十分かと。」 サングルゥモンのその言葉を聞き、二人は驚愕した。 目の前の彼女は司と年が離れているようには見えない。サングルゥモンの言葉を信じるなら、相当小さな頃から戦っていることになる。 「そう言うこと。アンタたちの戦いは下手すぎるの。車を吹き飛ばすし…ビルは爆破するし…標識は引っこ抜くし…一体何考えてるのよ」 「どれも必要だったことだ。お前があの状況にいたとして、死なずに奴に勝てたか?」 最も、彼女が言うような破壊行為は概ねサンドリモンの独断のせいと言う面は少なくないのだが、それが戦闘に役立ったことは事実。そのため、彼は特にそれを否定するようなこともしなかった。 「アンタ…反省もしてないのね…!」 「アタシ達はスウォームハグルモンに勝った。それで十分だろ?」 「…………わかった、私たちの戦い方見せてあげる!一対一で勝負よ!それで私たちが勝ったら、ちゃんと反省してもらうからね!」 彼女は袖をまくり、手首のデジヴァイスを見せる。 「結局こうなるのですか…。まぁ、マスターがやると言うのなら、私も本気を出します!」 サングルゥモンも戦闘体制になり、四肢に力を込める。 「一対一ってことは…アタシしか戦っちゃダメなのか?」 「当たり前でしょ…まさかアンタデジモンに殴りかかってるの?」 メルヴァモンのつぶやきを聞いた理音が、司を訝しげな様子で見た。 「いつも殴りかかってるけど…」 「え?」 「え?」 しばし沈黙が流れる。 「どうしようサングルゥモン…私の常識通じないかも…」 「怯んではいけませんマスター…!頑張って!」 理音たちは顔を突き合わせ、小声で話していた。 司はそんな二人の様子を見ながら… (俺たち帰って良いかな…) そんなふうに思っていた。 ───────── 「と…とりあえず勝負よ勝負!サングルゥモン!」 「わかりました!サングルゥモン超進化!」 サングルゥモンはメルヴァモンに向かって走りながら、青白い光を放つ。 「ガルムモン!」 白き狼の姿に姿を変えた彼女は、勢いのままにメルヴァモンに飛びかかった。 「くぅぅっ!」 オリンピア改で噛みつきを受け止めた彼女は、反撃とばかりにガルムモンを蹴り飛ばす。 「っっ!流石に究極体、この程度はすぐに対応できるようですね。」 「当たり前だ。アタシのこと舐めてもらっちゃ困るぜっ!」 大剣を構え、メルヴァモンは斬りかかる。 「残念ですが!この程度ならっ!避けられますよっ!」 持ち前の素早い身のこなしでそれを避けるガルムモン。 「ガルムモン!ソーラレーザーで攻めて!」 デジヴァイスVから伝わる主の声に従い、ガルムモンは光のエネルギーを吸い込み始める。 「メルヴァモン、奴の口にぶち込んでやれ!」 「任せろ!ラブポイズン!」 彼女は、左腕のメデュリアから毒霧を吹きかける。 「うっ…!ゲホっ…!」 エネルギーと共にそれを吸い込んでしまったガルムモンは怯み、チャージしていたエネルギーも霧散してしまった。 「ガルムモン!大丈夫だよね!」 「もちろん…!この程度…進化で振り切れます!」 彼女がそう言うと、理音はデジヴァイスVに手を触れる。 すると、彼女は四足獣から二足の戦士に姿を変えた。 「ガルムモン究極進化!ベオウルフモン!」 奇妙な形の大剣”トリニテート”を構え、彼女は相手を見据えた。 「お前も大剣使いってわけか。面白くなってきたッ!」 そう言って再び斬りかかってきたメルヴァモンの剣をトリニテートの刃の隙間で受け止め、ベオウルフモンはロラント2を構える。 「リヒトアングリフ!」 理音がそう叫んだのを合図に彼女はミサイルを発射する。 メルヴァモンはギリギリで飛び退きそれを避けたが、ミサイルは彼女を追いかける。 「だったらこうだ!ナイトストーカー!」 彼女はメデュリアでそのミサイルたちをまとめて飲み込み、ベオウルフモンに向かって吐き出し撃ち返した。 「まずい!」 ベオウルフモンは咄嗟に剣でミサイルを切り刻む。 「くぅっ…!」 しかし、彼女はバラしたそれの爆発に巻き込まれ、少しダメージを受けてしまったようだ。 「どうしてあいつに避けさせなかった?ベオウルフモンのスピードなら簡単だろ?」 「アンタね…あそこで避けたら後ろのビルに被害が出てたでしょ。」 司の疑問に、理音はさもそれが当然であるかのように答える。 「なるほどな…まぁ、それが敗因にならなきゃ良いけどな。俺のメルヴァモンはその隙を見逃さない。」 彼の言う通り、メルヴァモンはその隙を突き、オリンピア改を突き立てようとするところであった。 「バカにしないでくれる?…まぁ見てなさい。」 彼女は自信ありげに答えた。 「いない!?」 メルヴァモンは驚愕した。確かに間合いに入っていたはずの相手が消え失せている。 それどころか、周囲にベオウルフモンの気配もない。 一体どこに…?その思考を断ち切るように、何かが彼女に向かって飛んできていた。 「うわっなんだ!ぺっ…これ…インクか!?」 ベオウルフモンはサイズの小さいヤーモンにまで急速に退化し攻撃を避け、ペイントスプラッシュでメルヴァモンを撹乱したのだ。 「こういう戦法もあると言うことです!ヤーモン究極進化!ベオウルフモン!」 メルヴァモンの足元で彼女は急速に進化し、二刃の剣の一撃を加える。 「くっっ…!確かにアタシにはできない戦い方だな…」 「退化!サングルゥモン!」 彼女はまたしても一度退化し、ブラックマインドによってメルヴァモンの影に溶け込み、不意打ちを狙おうとした。 「影に隠れたか…そう言う奴への対応は!むしろ得意なんだよ!」 しかし、サングルゥモンの気配を捉えていた彼女はそれをものともせずに影に攻撃を加え、相手をそこから叩き出した。 「隠れられるだけで攻撃が当たるってんなら、ネオデスモンと戦うよりよっぽど楽だな。」 「なるほど…この手は通用しない…というわけですか。ならば!サングルゥモン超進化!」 彼女の目元を覆っていた翼が展開してはるかに大きいサイズへと変化していき、体にあった赤い模様が広がると共に全身が巨大化していく。 「ドルグレモン!」 獣と竜が混じり合ったかのような姿に変わった彼女は、翼を広げて空へと羽ばたいていく。 「あいつ、2つの進化を持ってるのか!」 「空中戦か…いけるなラプタースパロウモン!」 「もちろんであります!」 「デジクロス!」 掲げられたクロスローダーから光と共にラプタースパロウモンが飛び出し、メルヴァモンと合体する。 「ラプターメルヴァモン!」 彼女もまた金色の翼を広げ、飛び上がった。 「飛べるのが自分だけだと思ったか?」 「確かに驚きましたが…私とマスターは経験してきた戦場の数が違います!はぁぁっ!!」 その巨体をもって突撃する彼女を、ラプターメルヴァモンは軽く受け止める。 「なっ────!?」 「てぇぇぇぇい!!」 彼女はドルグレモンの頭を掴んだまま背部ユニットのエンジンを噴かし、スイングで回転をかけて地面に投げ飛ばした。 「ぐぅぅぅっ…!」 「ドルグレモン!」 墜落したドルグレモンの元に駆け寄る理音。 相応の質量の物が落ちただけあり、辺りはクレーターが如く建物が崩れていた。 「この程度…っ!マスター!究極進化を!」 「…わかった、いくよ!」 長年を共にした二人に多くの言葉はいらない。 まだまだドルグレモンはやれる。理音がそう感じるには、この程度の短いやりとりで十分だったのだ。 彼女は再びデジヴァイスVに触れた。 2対あった翼が合体して一つの大きな翼になり、前足は腕へと変化し、全身が鎧に覆われる。 「ドルゴラモン!」 ドルゴラモンは再び飛び上がり、ラプターメルヴァモン目掛け突撃した。 「当たったらやばそうだな…メルヴァモン!」 「言われなくても!」 彼女は推力を上げ、一気にその場を離脱する。 「まだまだいける…!これが速さ!」 景色は瞬く間に過ぎていき、彼女は風になったような感覚を覚えた。 超高速の快楽を彼女が感じる一方、ドルゴラモンはラプターメルヴァモンに迫っていた。 「私から逃げられるとでも!思っているのですか!」 「思ってないさ!最初から逃げるなんてな!」 彼女はエンジンを逆噴射させると共に風の抵抗を強く受けるよう姿勢を変え、急速にブレーキをかける。 「何っ!?」 そしてオリンピア改を構え、自らを通り過ぎていくドルゴラモンを斬りつけた。 「ぐぅっ…!ですがこの距離なら!」 斬撃を物ともせず、加速しながら全身にエネルギーを込めるドルゴラモン。 「突進か…ならアタシも!」 オリンピア改を構え、その翼で全身を包むラプターメルヴァモン。 「ブレイブメタル!」 「ハートブレイクチャージ!」 二人の全霊が籠った突撃技がぶつかり合い、周囲に衝撃波が広がる。 「ぐぁぁぁっっ!!」 「うぁぁぁっっ!!」 互いに吹き飛ばされた二人は、どちらも仲良く墜落していった。 ───────── 「平気か?」 司に抱き抱えられながらそう声をかけられ、メルヴァモンは目を覚ました。 「落ちてきたところをなんとか受け止めた。」 「そうか…ありがとうツカサ…。力負けか…ちょっととはいえ気を失うなんてな…」 「まだあの姿には慣れてないんだろう。仕方ない。」 そう会話を交わす二人の居場所を嗅ぎつけ、理音たちがやってくる。 「お姫様抱っこ…なかなか見せつけるな……じゃなかった。こっちの勝ちってことでいい?」 「いいや、アタシはまだやれるぜ!」 降りて立ち上がった彼女は剣を構え、高らかにそう宣言した。 多少のダメージなどは彼女が止まる理由にはならないのだ。 「マスター、やりますね?」 サングルゥモンもメルヴァモンと同じく多少のダメージを負っていたが、こちらもまだまだ戦えると自負していた。 「はぁ…わかった、だったらやるわよ!」 「サングルゥモン、超進化!」 今度は黒い光が彼女から発せられる。 ふさふさとしていた体が黒い外殻で覆われ、訳のわからない形状だった四肢の鉤爪はシンプルな3本ずつの形に変化した。 「ケルベロモン!」 両肩に顔のようなアーマーが取り付けられた、まるで三ツ首であるかのような姿。 「ヘルファイアー!」 ケルベロモンはそう叫び、口から火炎を吹き出す。 「うぉっ…!炎か、だったらアタシにも考えがあるぜ。なぁツカサ!」 剣を盾にして身を守りながら、彼女はパートナーに呼びかけた。 「ああ、いくぞメルヴァモン!」 クロスローダーを掲げた司の体から炎が吹き上がり、それが一つになって勇気のデジメンタルへと変容していく。 「ちょっ…なにこれ…!アンタ本当に人間!?」 「デジクロス!」 その光景に驚愕…と言うよりも困惑する理音をよそに、彼はデジメンタルをメルヴァモンに融合させる。 「アーマーアップ!フレアメルヴァモン!」 赤き炎の姿となった彼女はケルベロモンの炎を吸収しながら剣に纏わせ、身を翻しながらの斬り上げをブチかました。 「これでも喰らえ!」 それによって宙にふわりと浮かされたケルベロモンに、彼女は全身から放つ炎で追撃する。 「こっちの勝ちってことでいいか、理音?」 彼は先ほどの理音の発言を茶化すような声色でそう言った。 「さぁ?どうかしらね。…あと呼び捨てはやめて。私年上なんだけど。先輩とかなんとかあるでしょ!」 ケルベロモンは爆炎に飲み込まれ、勝負は決した…かに見えた。 「究極進化、プルートモン!」 炎の中から姿を表したのはプルートモン。ケルベロモンがさらに進化した姿だった。 ───────── 「まさか究極体を3つも持ってるとはな…!」 「私とマスターの戦いの成果ですとも…!」 フレアメルヴァモンは目の前の光景に驚きこそしたが、動揺はしていなかった。 「まぁ、幾つ進化できようと、勝つのはアタシ達だ。クレイジーゴーラウンドEX!」 彼女はオリンピア改を構えながら回転を始め、炎の竜巻を生み出す。 「ならば私は…ハガードクラスター!」 対するプルートモンは黒き闇を解き放ち、辺りの物ごと炎を飲み込み始めた。 「どこまで吸収できるか見物だな!バーニングゥゥ…ラァァァヴッ!!!」 フレアメルヴァモンは攻めの手を緩めず火球を乱射しまくる。 弾かれた火球は辺りを燃やし、俄かに火の手が上がり始めた。 「まだまだぁっ!」 トドメの一閃を、プルートモンが噛みついて受け止める。 「ケイオスライツ!」 どちらも一歩も退かぬぶつかり合いで、周囲への被害は広がり続けていく。 「ちょっ!ちょっとストップ!二人ともストーップ!」 それを見た理音は、慌てた様子で二人を止めに入った。 「負けるのが怖くなったのか?」 「違うこのバカ!周り見て!」 煽りを入れる司に、彼女は呆れながらそう促す。 「この程度の被害、デジモンが戦った跡ならみんなこうなるだろ。」 「だからそれじゃダメなんだって─────「それに、お前のプルートモンだって被害を出してる。」 「うぅっ…それは……そうなんだけど…」 痛いところを突かれ、彼女はしどろもどろになる。 「マスターは悪くありません…私が熱くなり過ぎたせいで…」 プルートモンからサングルゥモンに戻った彼女は、理音を庇うように二人の間に割って入った。 「…そもそもマスターが周囲の被害を気にするようになったのは、私のせいなのです」 「ちょっ…サングルゥモン!それは言っちゃ────」 口を抑えようとする理音を振り切り、彼女は話を続けた。 「3ヶ月ほど前、私とマスターはとある離島にあるデジモンイレイザーの拠点を攻撃したのですが…最終的にその島丸ごと吹き飛ばしてしまったのです…」 「おいおい…アタシ達よりよっぽどハデだな…」 メルヴァモンは呆れた様子で呟く。 「幸いデジモンイレイザーの軍勢以外に被害が出ることはなかったのですが、それ以来私とマスターは周囲への被害をできるだけ出さないようにして戦うことを心がけるようにしたのです。」 理音はそう話すサングルゥモンの後ろに隠れるようにしながら、司たちの様子を伺っていた。 「そして、あなた達が戦った跡を私たちは見ました。あんな戦い方を続けていれば、きっと私たちのような失敗をしてしまうことになる。そう思って、今日私たちはお二人の所に赴いたのです。」 「だったら最初からそう言えよ…てっきり俺は最初、お前らが俺たちの命を狙ってるのかと…」 「ごめんなさい…マスターはあまりそういうことが得意でなくて…」 「い…言わないで…」 蚊の鳴くような声でそう言いながら、理音はサングルゥモンの体を揺する。 「で…でもアンタ達だって悪いのよ!あんな乱暴な戦い方させるなんて!さっきまでの戦いはそれほどでもなかったけど…」 彼女は照れ隠しのように声量を上げ、そう話した。 『さっきからいつ言おうか迷っていたんだけれど、あそこでビルを爆破したのは私の独断だよ?』 そんな理音にクロスローダーから話しかけたのはサンドリモン。 「えっ…独断?…でも、パートナーの手綱はちゃんと握らないと!」 『いや、司のパートナーはメルヴァモンだけさ。私は彼らのペットだよ。』 「えっ、ペット…?どういうこと…?」 「本当にお前に喋らせると面倒なことになる…えっとな─────」 サンドリモンの独特な発言においていかれ気味になる理音。 司はそんな彼女に、彼女がどういう経緯で自分のクロスローダーに入ることになったかを説明した。 「………つまり、アンタは自分を殺そうとしてきたデジモンをそれに入れてるってこと?」 「まぁ…そうだな。」 「アイツ、強さは本物だからな〜。アタシも倒すのに苦労したよ〜」 平然としている司とメルヴァモンを見て理音はクラクラとするような感覚を覚え、パートナーに抱きつく。 「……どうしようサングルゥモン…本当に私の常識通用しないかも…」 「そうですね…マスター…」 今度ばかりは、サングルゥモンもそう返すしかないのだった。 「えー…とりあえず、マスターがお二人に言いたかったのは、周囲の被害も考えて戦った方が良いというのと…後は…」 「後は?」 「できれば、マスターとお友達になっていただければと…」 「ちょっとサングルゥモン!?」 彼女の発言を聞いた理音は、慌てた様子でそれを否定し始める。 「ちっ…ちちっ違うよ!?今のはサングルゥモンが勝手に!」 「マスターの知り合いのテイマーは皆年上の方ばかりで…年下のテイマーのお友達はいないのですよ。」 「あー…だから先輩って呼べと…」 それを聞いて、司は先ほどの理音の発言に納得が行った。 「うーん…ツカサに人間の女の知り合いが増えるのは…なんか嫌だな…」 「ああ、そのことなら心配要りませんよメルヴァモン。」 「…どういうことだ?」 「私、マスターと付き合ってますから。」 「あー…なるほどな!そういうことならアタシも歓迎だ。よろしくなサングルゥモン!」 「どこで仲良くなってんのアンタら…」 妙な共通点で打ち解けるパートナーデジモンたちを見て、理音は思わずそうこぼす。 「…まぁ、こっちとしてもテイマーの知り合いが増えるのはありがたい。よろしく、理音先輩。」 「……!わ…わかったわ後輩!色々と教えてあげなくちゃね!」 「…それに、一度戦った相手の方が打ち解けやすい気もするし。」 「アンタ私たちのことそのサンドリモンと同じ目で見てるの…?」 こうして、デジモンを”愛する”者たちの間に、奇妙な協力関係が築かれることになった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ サングルゥモンの進化セリフメモ 成熟期まで→進化 完全体→超進化 究極体→究極進化 成長段階を飛ばすかに関わらずワープ進化の口上は使用せず、進化後の成長段階によってセリフが変わる 退化の場合は一律で退化に統一