二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1756205527146.png-(191862 B)
191862 B25/08/26(火)19:52:07No.1347154852そうだねx2 21:10頃消えます
ネパール、カトマンドゥ――
猥雑な市場のざわめきを後にして、すでに五日。
ヒマラヤ山地の中腹、一面の雪と氷のさなか、斜面にごみのようにへばりついたテント。
アドマイヤグルーヴははそこにいた。
北アルプスでの3か月の高度順応を経て、ついにこの“世界の屋根”へと至ったのである。
ヒラマヤでも観光客向けのアンナプルナ・サーキットを外れ、現地の人間も近づかないような岩壁に足を踏み入れた。
現役時代はバランスの良い身体能力で鳴らした彼女のこと、大量の糧食と登山装備を持ってここまで上がるのはそれほど苦ではなかった。
テントの中。座り込む彼女の手には、一枚の破り取られた雑誌記事がある。
そこに映るのは、トレセン学園時代の宿敵――スティルインラブ。隣には、背の高い男が立っていた。
「……必ず、見つけるから」
声はしんしんと雪に沁みていった。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/08/26(火)19:52:23No.1347154957+
.         ・・
「――あなたも山をやるのね」思い起こすのは日本で会ったアドマイヤベガの言葉だ。
場所は新橋の居酒屋だった。二人はそこでばったりと会い、トレセン学園時代の旧交を温めたのだ。
「エベレストなら私もやったことがあるわ。春季の南東稜ルートよ……」
グラスの氷に視線を落としながら、彼女は続ける。その眼差しの奥に、風雪と氷原の光景が揺れていた。
「聞いて」アドマイヤグルーヴは鞄から一部の雑誌を取り出した。登山家向けの月刊誌だ。
「このウマ娘に見覚えはある?」指さした先には写真家の特集記事があった。
ヒラマヤの奥地で日本人のウマ娘と、何人ともつかない幽鬼のような青白い肌の男の住む家に招かれた――という記事だ。
「知らないウマ娘よ」
「そう」アドマイヤグルーヴは雑誌を鞄へ戻さず、膝上に置いたまま、目を落とした。
記事によれば二人はこれから婚礼を挙げるところで、その写真を撮るよう頼まれたのだという。
「誰だかは知らないけど、きっと会えるわ」
アドマイヤグルーヴはその言葉に応えず、ただ黙って頷いた。
225/08/26(火)19:53:13No.1347155287+
翌朝からはブリザードが続いた。
ごう、ごうと、横殴りの風雪がテントを叩く。
テントを出て歩き出そうものなら、あっという間に方向を見失い、生きて山を下りることは叶わないであろう。
自然糧食は切り詰めることとなった。1日2合の米は半合へ。タブレットで栄養を補充する。
足りない分は湯を大量に飲んでしのいだ。水分は摂りすぎるということはない。

雪崩のおそれもあった。
狭い岩陰を選んでテントを設営したが、天から落ちてくるような雪崩に対しては役に立たない。
危険と常に隣りあわせだと思うと、夜は眠れなかった。
「エアグルーヴ先輩……ドゥラメンテさん……」
夜通し日本で待つ仲間たちに思いをはせた。気力を失わないためだ。
トレセン学園では彼女は多くの仲間を得た。だが、その中にスティルインラブはいなかった。
あの時。彼女を引き留めていれば――同じ後悔が幾度となく浮かんだ。
だからこそ、アドマイヤグルーヴはここにいる。
生と死の交錯するこの地に、彼女はスティルインラブの気配を感じていた。
325/08/26(火)19:54:13No.1347155637+
三日後、吹雪は止んだ。
前日までの悪天候が嘘のような晴天ぶり。しかりこういう時には、雪解けによる雪崩を警戒する。
もう少し安全なところに、移動しなければならない。
アドマイヤグルーヴはテントをしまって歩き出した。すると――
「アルヴ……さん?」
2時間も歩かないうちに、その花畑は姿を現した。
そこにいたのは、色取り取りの花でいっぱいの籠を腕に下げたウマ娘。
「アルヴさん……どうしてここに……?」
「貴方っ……!どうして……!」
探し求めたスティルインラブを前にして、アドマイヤグルーヴは何も言えなかった。
戸惑うスティルインラブの腕を掴み……その場に膝をついて、アドマイヤグルーヴは泣いた。
ただ、泣いた。
425/08/26(火)19:55:07No.1347155960+
スティルの住む山小屋のエントランスはレストランに改装されていた。
「辺鄙なところですけど……これでけっこうたくさんの人が来るんですよ。山から来る人は滅多にいませんけど……」
笑顔でアドマイヤグルーヴを案内するスティル。
「そう……貴方けっこう悠々自適な暮らしをしてたのね」
アドマイヤグルーヴは落ち着きを取り戻しつつあった。
聞けばネパールにトレーナーともども移住した後は、もっぱらスティルの希望を叶えるために様々なことをしているのだという。
レストラン経営もその一環だった。
「スティルさん! スープの仕込み終わりましたよ!」
厨房から出てきたウマ娘を見てアドマイヤグルーヴは目を見張った。
「ラインクラフト……さん!?昏睡状態のはずじゃ」
「えーっ!? アドマイヤグルーヴさん!」
そこには確かに現役中に突如昏睡状態に陥り、いまだに目覚めないはずのラインクラフトがいた。
なんでも彼女はこの地で特殊な治療を受けている最中なのだという。
「懐かしいなあトレセン学園……決まりがあって今はまだ戻れませんけど……いずれきっと帰りますからね!」
「そうだったの……お大事にね」
525/08/26(火)19:56:30No.1347156493+
アドマイヤグルーヴはスティルインラブの方へ向き直った。
「それで、貴方は……? 帰るつもりはあるの?」
「そうですね……時が……許せば。私とあの人もいずれ……」
「そう……」アドマイヤグルーヴはふっと笑った。この山に来て初めて見せた笑みだった。「よかったわ」
アドマイヤグルーヴは、あたたかな食事をとった。
ネパールの香辛料がしみ込んだカレーと、スティルインラブの手製のケーキだった。
「……おいしい」
舌の上に広がる滋味に、彼女の頬がゆるむ。
「府中に店を出せば、きっと行列ができるわ」
アドマイヤグルーヴがそう言うと、スティルインラブはふふ、と笑った。

午後になるとアドマイヤグルーヴは小屋を発つことに決めた。
「もう少し、ゆっくりしていかれても……」
「ええ。でも麓に協力者を待たせてるの。貴方が元気なのが分かって安心したわ」
625/08/26(火)19:57:12No.1347156772+
アドマイヤグルーヴはなだらかな丘を下りてゆく。
振り返ると、青空の下に炊事の煙がたなびいている。
小屋の前でスティルインラブとラインクラフトに並び、サングラスの男がこちらに手を振っているのが見えた。


その晩は平野でのテント泊となった。
雪は止み、星々は澄み、夜は静けさに満ちていた。
下山までの道行きは残り半日分といったところだ。事故の危険も今は遠く去った。
アドマイヤグルーヴは無線を起動した。
「連絡……遅かったわね。何かあった?」
3000m地点でベースキャンプを設営するアドマイヤベガが応答した。
アドマイヤグルーヴは、夜空を仰ぎながらつぶやく。
「私、みんなに会えたよ」
風が、やさしく吹いた。
それは、彼女の中の長き旅が、静かに、ひとつの終わりを告げた瞬間であった。
725/08/26(火)19:57:54No.1347157039そうだねx4
おわり

スティルさんの育成よかったね
825/08/26(火)19:58:33No.1347157266そうだねx5
なら結局…ノーマルエンドと言うことか…
925/08/26(火)20:00:09No.1347157858+
あー分かる
スティルとクラフト様の組み合わせ見たいよね…クラフト様の教育にとても悪そうだけど
1025/08/26(火)20:00:33No.1347158022そうだねx1
山になった女
1125/08/26(火)20:01:18No.1347158322+
天と地の狭間か
1225/08/26(火)20:01:55No.1347158515そうだねx4
>自然糧食は切り詰めることとなった。1日2合の米は半合へ。
めっちゃ食ってる!
1325/08/26(火)20:03:08No.1347158994+
山、か…
1425/08/26(火)20:03:11No.1347159012+
そうか
ゆくのか
1525/08/26(火)20:04:35No.1347159565そうだねx8
>なら結局…ノーマルエンドと言うことか…
…なんだと
1625/08/26(火)20:06:09No.1347160172そうだねx4
スティルさんの育成が夢枕獏っぽいのはなんかわかる
1725/08/26(火)20:07:37No.1347160805そうだねx4
アヤベさんはなんなの?
1825/08/26(火)20:09:29No.1347161507+
>アヤベさんはなんなの?
羽生
1925/08/26(火)20:09:49No.1347161666そうだねx7
>>自然糧食は切り詰めることとなった。1日2合の米は半合へ。
>めっちゃ食ってる!
ウマ娘だぞ
2025/08/26(火)20:09:59No.1347161737+
良いお話だ…いつかまたって言えるのは救いだよね
2125/08/26(火)20:10:24No.1347161915+
途中までアルヴまで山になったのかと思ったけど無事生還してて良かった…
2225/08/26(火)20:11:03No.1347162189+
>>>自然糧食は切り詰めることとなった。1日2合の米は半合へ。
>>めっちゃ食ってる!
>ウマ娘だぞ
雪山登山だしな
2325/08/26(火)20:12:31No.1347162785そうだねx2
めっちゃ持ってきてめっちゃ食う
ウマ娘ならそれができる
2425/08/26(火)20:14:22No.1347163562+
煉獄か何かか
2525/08/26(火)20:14:42No.1347163699+
>そうか
>ゆくのか
やるなら
やらねば
2625/08/26(火)20:15:58No.1347164222+
たちあがったら
ゆくものだからな
2725/08/26(火)20:19:00No.1347165435+
山から来る人が少ないってのは…ってなったけどすごく救いがあっていいお話だった
ありがとう…
2825/08/26(火)20:19:59No.1347165843そうだねx4
>山から来る人が少ないってのは…ってなったけどすごく救いがあっていいお話だった
大抵はみんな山経由せずクラフト様ルートで来るとか…
2925/08/26(火)20:20:59No.1347166242そうだねx3
>めっちゃ持ってきてめっちゃ食う
>ウマ娘ならそれができる
単純な食糧より水の方が問題まであるな
嵩張らず高カロリー摂取する手段はいっぱいあるが水は非圧縮性流体だから容積がどうしてもある
そして代謝が激しいほど大量の水分を持っていかれる筈
3025/08/26(火)20:21:03No.1347166271+
各地を転々としてるってのはそもそも位置が安定してるわけではないってことなのかな…
3125/08/26(火)20:21:20No.1347166398+
本来は生者が立ち寄る場ではない…でもシンプルにアルヴさんがやらんでも良い苦労してたでも良いんだ…良いんだよ…
3225/08/26(火)20:25:24No.1347168068そうだねx2
本来は会えなかったであろう友人とまた会えた
会えただけじゃなく未来の話もすることができた
こういうのでいいんだよ…
3325/08/26(火)20:26:04No.1347168314+
アヤベさんが完全に神々の山嶺のキャラなのに目をつむれば穏やかないい話だ…
3425/08/26(火)20:28:20No.1347169167+
なんか救われた気がする
3525/08/26(火)20:29:19No.1347169555そうだねx8
最終話 未踏峰
3625/08/26(火)20:31:02No.1347170160+
しれっと結婚式挙げとる!
3725/08/26(火)20:32:26No.1347170655+
>しれっと結婚式挙げとる!
ネパールでは山の上で結婚式は普通にあるのがまた
3825/08/26(火)20:35:35No.1347171917+
山をやるとか大分夢枕獏だこれ
3925/08/26(火)20:39:22No.1347173366+
ウマ娘と神々の山嶺のパロ初めて見た
4025/08/26(火)20:41:27No.1347174153+
こういうのもっとくれ
4125/08/26(火)20:42:55No.1347174674+
>こういうのもっとくれ
ウマ娘の登山ものでいいのか
4225/08/26(火)20:45:28No.1347175631+
そこ導き手はカフェじゃないんだ…
4325/08/26(火)20:46:57No.1347176218そうだねx2
>そこ導き手はカフェじゃないんだ…
アヤベさんもトレッキングして妹と交信するから…
4425/08/26(火)20:49:46No.1347177254+
山で特殊な治療って言うからいつミスターストレンジが出てくるものかと…
4525/08/26(火)20:53:12No.1347178501+
>辺鄙なところですけど……これでけっこうたくさんの人が来るんですよ
グラスちゃんとか見かけませんでしたか…?
4625/08/26(火)20:55:18No.1347179257+
>>こういうのもっとくれ
>ウマ娘の登山ものでいいのか
いいよ
4725/08/26(火)20:55:56No.1347179496+
>>辺鄙なところですけど……これでけっこうたくさんの人が来るんですよ
>ネイチャさんとか見かけませんでしたか…?
4825/08/26(火)20:56:04No.1347179551+
いいハッピーエンドだ
感動的だ
4925/08/26(火)20:57:32No.1347180099+
(デジたんは言われるまでもなく原作とかも関係なく来店している)
5025/08/26(火)20:57:45No.1347180187+
>>ネイチャさんとか見かけませんでしたか…?
このお手製バウムクーヘン美味しいな…每日結婚式すればいいのに…
5125/08/26(火)20:58:31No.1347180449+
>(デジたんは言われるまでもなく原作とかも関係なく来店している)
(デジたん経由でお知らせされるスティルレストラン週報)
5225/08/26(火)20:58:44No.1347180515そうだねx2
>場所は新橋の居酒屋だった。二人はそこでばったりと会い、トレセン学園時代の旧交を温めたのだ。
この二人が居酒屋通ってるの若干ギャグ
5325/08/26(火)20:59:12No.1347180679+
新橋に行ったんだな
5425/08/26(火)20:59:31No.1347180801+
スティル
スティルよお
5525/08/26(火)21:00:29No.1347181140+
ラインクラフト〜!
お前はスティルインラブの血を受け吸血ウマ娘となるのだ〜!
5625/08/26(火)21:00:55No.1347181324+
あの…これあの世とこの世の境ですよね?
5725/08/26(火)21:01:38No.1347181607そうだねx3
>ウマ娘と神々の山嶺のパロ初めて見た
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5825/08/26(火)21:02:18No.1347181866そうだねx2
>あの…これあの世とこの世の境ですよね?
メシ食っても大丈夫なんだからそれなりに今世側ではあるだろう
5925/08/26(火)21:02:47No.1347182066+
>あの…これあの世とこの世の境ですよね?
はー?一向に逢いたかったあの人達と逢える辺鄙なとこにあるレストランですが?
6025/08/26(火)21:02:58No.1347182137+
>あの…これあの世とこの世の境ですよね?
むしろ境だからこそ死んではいないって感じがしますね
6125/08/26(火)21:03:17No.1347182272+
きしよう
きしよう
6225/08/26(火)21:04:08No.1347182602そうだねx2
>>場所は新橋の居酒屋だった。二人はそこでばったりと会い、トレセン学園時代の旧交を温めたのだ。
>この二人が居酒屋通ってるの若干ギャグ
ねえこれやっぱり神々の山嶺パロよね?
6325/08/26(火)21:04:50No.1347182867+
特殊な治療…低酸素トレーニングか…
6425/08/26(火)21:05:12No.1347182997+
トップロードちゃん!このケーキ美味しいよ!
カレーもすごくすごく美味しいです!
紅茶の種類が少ないのは残念だねぇ
果物も多くないからパフェも無いのがなー いやこのヨーグルトアイスめっちゃ美味いけどな
6525/08/26(火)21:05:34No.1347183159+
騎手ガイジが湧かなくて平和だな
6625/08/26(火)21:05:54No.1347183273+
>>あの…これあの世とこの世の境ですよね?
>はー?一向に逢いたかったあの人達と逢える辺鄙なとこにあるレストランですが?
ごぞんじなかったのですか?
6725/08/26(火)21:06:02No.1347183330+
>騎手ガイジが湧かなくて平和だな
男性トレーナー前提スレに湧いて荒らしてくる百合癌と騎手ガイジは全員自殺してほしい
6825/08/26(火)21:06:50No.1347183623+
こういう救いのあるお話が欲しい
ほんとに救いがある…


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