夕暮れ時、学び舎を後にした学生達の姿がまばらにある通学路。 そんな中、ひとりの少女とひとりの少女が多分に漏れず連れ添って帰路を共にしていた。 「ダンボールやアルミホイルでプラネタリウムを作るってスゴイね、その人達」 「私、その時とっても驚いちゃって……」 「でもなんかいいな、そういう誕生日プレゼント。思いやりがしっかり伝わってくるような感じがして さ」 「うん。心が満たされるあったかいプレゼントだったし、去年の誕生日はホント嬉しかったなぁ」 「そっか……」 少年は感慨深そうに語る少女の話に耳を傾けつつ、反対側の手を自らのポケットに突っ込む。 (落ち着け、自然に、自然に……!) 緊張で乾いていく口を唾液でどうにか湿らせながら、大切にしまいこんでいたそれを目の前の少 女へと手渡した。 「あの、さ……環さん、これ」 「?」 「プラネタリウムのチケットなんだけど……環さんにプレゼントするよ」 「え、私に?」 「うん。環さん星空を眺めるのが好きって言ってたしさ、喜んでくれるかなって」 「あ、ありがとう……!」 「そ、それで!もう一個お願いがあるんだけど……お、俺も一緒にプラネタリウムについて行って もいいでしょうか!?」 「えっ?」 「い、いや!実はこのチケット2枚あってさ。俺の父さんが知り合いから貰ったやつなんだ。でも、 うちの父さん仕事が忙しいからなかなか纏まった休みが取れなくて……代わりに俺がチケットを 使っていいって言われたんだ」 「そうなんだ……あの、ほかのお友達は誘わなかったの?」 「……友達はこういうの興味ないらしくて。それでどうしようか悩んでたところに環さんの話を思い 出したんだ」 「あ、だから私にチケットを……」 「う、うん……あ、も、もしかして迷惑だった?」 「う、ううん!違うよ!嬉しいのは本当だよ?でも……私も一緒でいいのかなって」 「え?それってどういう……?」 「その、私あんまり楽しい会話が出来る方じゃないから……一緒にいてつまんないって思われな いか不安で……」 「…………」 「ご、ごめんね!急にこんな事言われても困るよね……」 「……楽しいよ」 「えっ?」 「俺、環さんと話してると楽しいよ」 「……「」、くん?」 「妹さんとか一緒に住んでる人達の話してる時の環さん本当に嬉しそうな顔しててさ、その顔を見 てるだけでこっちも楽しい気分になる」 「ほ、本当にそんな顔してるの私……?」 「うん。めっちゃ嬉しそうな顔してるよ」 「な、なんかスゴい恥ずかしい……」 「別に恥ずかしがらなくても……」 「うぅ……」 「と、とにかくさ!俺は環さんと一緒にいるだけで楽しいし、つまんないなんて思うこと絶対ないか ら!」 「…………ありがとう」 「別にお礼なんかいいよ。それより……その、プラネタリウムの件なんだけど────」 「あっ……そ、そうだったね!「」くんさえ良かったらその、よろしくお願いします」 「こ、コチラコソヨロシクオネガイシマス……」 「…………」 「……ぷっ」 「……ふふっ」 「あはははははっ」 「……都合が良さそうな日にちが見つかったら連絡するね」 「わかった、待ってる。じゃあ俺、帰り道こっちだから……」 「うん、気を付けてね。また学校で」 「ああ、またね!」 (私が星を見るのが好きって、ちゃんと覚えててくれてたんだ……) 以前、いろはは少年へと自身が星が好きな理由を語った。 自分の事を助けてくれて、とても大切に想ってくれたひとを思い出すからと言う理由を。 彼はそれを茶化す事なく真剣に聞いてくれた。 いろはがまるで慈しむように語るので、少年が少しだけ複雑な表情を見せた事に彼女が気付く事 はなかったが……。 (「」くんといると気持ちがあったかくなる……ういとも違う、やちよさんや鶴乃ちゃん達とも違うあた たかさを感じる。うまく言えないけど、少し、胸が速くなってるのも感じて─────) 「…………なんなんだろ、これ?」 少女のキモチに、甘く切ないものが萌芽しようとしていた────。