二次元裏@ふたば

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298838 B25/08/20(水)21:59:24No.1345226687そうだねx8 23:13頃消えます
「お姉ちゃんこっちこっちー!はーやーく−!晩御飯カレーだよ!いそがなきゃ!」「待ってよ!もう!また転んで泣いても知らないからね!」

パパのお墓に生えまくった雑草を黙々とやっつけてた手を止める。
仲の良い姉妹がはしゃぐ声がする。うちの近所に住んでた子達だ。
墓地の外を目に向けると、幼い背中が二つ、元気に急坂を駆け上がっていくのが見えた。

「お姉ちゃん!おうちまで競争しよっ!わたしが勝ったらお姉ちゃんのことお嫁さんにしてあげる!」「なにそれ?私が勝ったらどうなるの?」
「わたしがお姉ちゃんのお嫁さんになるっ!るんっ♪」「どっちも同じじゃん!?姉妹じゃ結婚できないんだよ!?」

できるよ。姉妹でも結婚できる。愛があればね。

「お姉ちゃん大大大好きなんだもん!お姉ちゃんの赤ちゃん産むもん!」「も〜〜〜!だから無理だって!」

お姉ちゃん大好き。懐かしい。私も言ってたな。お姉ちゃんの赤ちゃん産むもんも………言ってた気がする。
いつの間にか言わなくなった。気が付いたんだ。あの女は私のことなんて最初から───
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/08/20(水)21:59:56No.1345226877+
『お姉ちゃん!だーいすき!』『………うん』
昔から、私とお姉ちゃんの間には見えない線が引かれていた。

『お姉ちゃん!一緒に遊ぼ!』『………うん』
一緒に遊んでも、心から笑っている姉を見たことがなかった。

『お姉ちゃん!私、東京でアイドルになりたい!なる!』『………うん、初華はかわいいから、きっとなれるよ』
ありふれた女の子の憧れだったか、笑わない姉の為だったか、
どうだったか忘れたけど人を笑顔にする職への夢を口にした────全くと言っていいくらい響いていなかった。

『お姉ちゃん!すんごいでっかいカブトムシ捕まえた!見て見て!』『………う、うん……か、かわいそうだから逃がしてあげよ?ね?こっちに近づけないでね?……ひっ!?裏側見せるのやめてよお!!!!!』
かっこいい虫を私が捕まえてくると、そこそこ反応があった────不思議とさらに距離は遠くなった気がした。

『お姉ちゃん?こんな遅くにどこ行くの?お外まっ暗だよ?私も……』『………危ないから初華は寝てて……星、見に行くだけだから』
初音はこちら側に来ないし、私はあちら側には行けなかった。
225/08/20(水)22:00:19No.1345227043+
何を話しても私の方に目を向けない。そんな初音だったけど───唯一、私の話に興味を示したものがあった。

『さきちゃんはね!なーんでも知ってて!なんでもできて!東京のこといっぱい話してくれるの!初音も一緒に行こうよ!』
『っ………い、行かないよ……初華も行っちゃダメだよ』
『………えー?なんで?変なのっ!でも、もう遊ぶ約束しちゃったもーん!』

少しだけ、少しだけだけど!初音がこちら側を見た気がした!
あの時はなぜかはわからなかったんだけど、これだと思った。
さきちゃんの話題を出すと、いつもと違う反応が返ってきた。

『今日はさきちゃんが虫捕り誘ってくれたんだー!カブトムシ捕れたんだよ!こないだのよりでっかいやつ!あとでっかい変なクモも出てね!私噛まれちゃった!それでさきちゃんと一緒にギャーって────』『っ…………さき、ちゃん』

さきちゃんと私が何をして遊んだか、何を話したかをまるで記憶を共有するように、事細かにたくさん話をした。
さきちゃんが来ていたその夏の夜は、初音は星を見に夜に家から逃げ出さなかった。
さきちゃんを通してなら初音は私と!目を見てお話してくれる!あのお姉ちゃんが!
325/08/20(水)22:00:52No.1345227291+
何もかもが間違いだったと、さきちゃんが東京に帰った日、熱を出した日を境に徐々に気付いた。
この女は私のことを家族として見ていないのだと。

そしてあの日から初音の目には、私とは別だけど、血を分けた姪の姿しか映っていないと悟った。
─────また、初音と私は目が合わなくなった。

最初から初音の目に私の姿は、視界の端にいる黒塗りのナニカとしか認識してなかったんだろう。
こちら側をロクに見もせずにあっち側の線の向こうで、ずっと手の届かない星だけ見上げている。

そんなやつに何か言いたくなったとき、間に引かれた線を越えていかないと何も伝わらないから、

『嘘!!!!!嘘ばっか!!!!!』

つい、その引かれた国境線を越えてしまった。
つい、終わらせてしまった。
425/08/20(水)22:01:14No.1345227441+
全部終わった。

『純田まなです!』『三角初華です』
『『ふたり合わせてsumimiです!』』

「……えっ?」

私の家族、私の名前、私の顔、私の尊厳、そして────私の『夢は撃ち抜かれた』

結局、大事なものを全部なくしちゃった。
自分で自分の首を絞めた愚かな彼女の話。

──────
───
525/08/20(水)22:01:27No.1345227528+
「うちのお墓の雑草、処分してもらっちゃって……ありがとうございます」
お墓を管理しているお寺の住職さん夫婦に、抜いた雑草がパンパンに入ったビニール袋を渡す。

「ええ、ええ、軍手も履かんとひとりでえらかったやろ?気ぃ付かんでごめんねえ。はいこれお線香とマッチ、お父ちゃんのお墓に香煙あげたってな。えーっと……初音ちゃん?」
「ちょっとアンタ何言いよん?この子は初華ちゃんやがな!女の子の名前間違っちゃんとかシバキ倒すどハゲてめえボケが」「す、すんまへん……初華ちゃんも」

「………いえ、大丈夫です。それじゃあお願いします」
ペコリ、と頭を下げ、精一杯の愛想笑いを浮かべて立ち去る。そして背中にはまた、いつもの───

ヒソ……ヒソ…… ヒソ……ヒソ……
「初華ちゃんってわからんかったんよ……にっぎゃかな子やったのに……今は昔のあんだいげな初音ちゃんとまっつくついで」
「あの子かわいそいになあ……まだお父ちゃんに甘えたい盛りやのに……お姉ちゃんの仕打ちも噂なっとるし……もうじょんならんわあのおかんはなんしよんの」

私もすっかりカワイソウな子が板についちゃった。
見てよ初音………おそろいだね。
625/08/20(水)22:02:05No.1345227776そうだねx1
空が赤くなり始めた。
夕焼けを目で追うと、山の向こう側に燦々だった太陽の切れ端。最後に私の瞼の中に残光を投げつけて隠れた。

気がついたらもうこんな時間なんだ。そろそろ夜が来ちゃうね。海鳥達も「くわくわ」と鳴いて巣に帰ってる。

「いい加減、初音と間違えられないよう髪型もかえちゃおっか?メッシュとか入れちゃったり。ふふふっ、反骨の赤メッシュ………パパはどう思う?私に似合うと思う?イキリすぎ?じゃあアフロとか?さすがにやりすぎかな」

何の言葉も発しない墓石に向かって他愛のない話をえんえんと。
そして、さっき貰ったお寺の巴紋が書かれたマッチの箱を開け、お線香に火をつけ香炉にまとめて差し立てる。
最後に花立てに水をつぐと、紫色のスミレの花をそっと供えた。

上の娘はきっと来ないから、代わりにその瞳の色と同じ色の花、その謙虚で一途な雰囲気を持った花をパパに。
原因は私が作ってしまった。パパの悲しい死は何も関係がない。私たち家族がバラバラに壊れてしまったのは。

「……初音は私のことも、パパのことも忘れたがってると思う。でもね、元気にやってるよ。島にいた頃と違って、息苦しくなさそうに」
725/08/20(水)22:02:43No.1345228057+
初音はここには来ない。今年も、これからも、おそらく一生。

「ねえ知ってる?初音ったら東京で大人気なんだぁ……モブレズの子達にキャーキャー言われてて……それで初音ったら可笑しいのがね、私のあまり似てないモノマネしてるんだよ?」
それなら初音のこといっぱい教えてあげなきゃ。

「私あんなにクールキャラ?な感じじゃないんだけど……それがみんなたまらないらしくてさ。アレってただの素の初音のコミュ障が漏れ出してるだけなのにね」
きっとパパも気になってるだろうからね。

「それで見た目だけはよく似てるからね、本土で初音に間違えられたりして襲われちゃうんだ私。今はだいぶマシだけど……これはどうでもいいか」
今は私のことより初音のことを。

「それとね、初音はね、さきちゃんともバンドしてるんだよ?ほら夏休みに島に遊びに来た子。初音が一番大好きな、あの子」
私が夢を語った、あの子。

「………初音は本当に叶えたかった夢を叶えたんだよね。きっと、パパなら祝福してくれるよね?」
825/08/20(水)22:03:16No.1345228293+
「……………」
言葉に対して返ってくる音は何も。
ただ海風と揺れる木々の音だけが、ここにはあるだけだった。


「私の夢だったモノは………」


言いかけて、やめた。
こんなこと、パパには聞かせなくていいことなんだから。

「ま、まあ、そんな感じ………あっ、そうだ!私ね、色々あってまなちゃんって子とふたりで暮らしてるんだよ!その子、すっごくかわいくて!かっこいいの!初音と一緒にsumimiでアイドルをやって………アイドルを………やって………」


『────パパ!ママ!お姉ちゃん!私、東京でアイドルに絶対なる!家族みんなでライブ見に来てね!ぜったいだよ!』
925/08/20(水)22:03:31No.1345228407+
「家族みんなで…………」
そんなもの、最初からなかったんだよ。そんなもの、初音にとってはただの地獄でしかなかった。

それでもなんとか形を繋ぎとめてくれていた人は、いなくなった。
そして、家族には自分のことしか考えてない人しかいなくなった。

「私が……私がこわした……パパごめん……ごめんなさい……初音も…………ママは……どうでもいいや……」

初音も悲しんでたはずなのにね。もう、ここに呼んであげられなくてごめんねパパ。親不孝な娘でごめんなさい。
罪悪感で胸がいっぱいで苦しい。息が詰まるって、こういうこと?
初音も星ばかり見て、さきちゃんっていう神様に縋らなきゃ息ができなかったんだ!じゃあ私は?今の私はどうすればいいの?私は───

「ここには私しかいない……ひとりぼっちなのに………」

初音も、パパも、もう戻ってこない。ここには誰もいない、誰もいないのに────
1025/08/20(水)22:03:48No.1345228535+
 

「ウイちゃん」

 
1125/08/20(水)22:04:43No.1345228931そうだねx5
全6話になる予定です
次は全7話って言ってると思います
ウイちゃんをメンヘラにしすぎました反省してます

おやsumimi〜〜
1225/08/20(水)22:09:45No.1345231050+
>#4〜〜〜〜!!
はもう勢いだけすぎるだろ
1325/08/20(水)22:12:40No.1345232185+
>────私の『夢は撃ち抜かれた』
BanG Dream……
1425/08/20(水)22:12:54No.1345232253そうだねx1
>おやsumimi〜〜
流行らない
1525/08/20(水)22:16:58No.1345233922+
>No.1345227776
Afterglow!
1625/08/20(水)22:23:08No.1345236512+
>るんっ♪
英才教育済みだったか…
1725/08/20(水)22:35:02No.1345241204+
正直めちゃめちゃ好きなのでありがたい…
1825/08/20(水)22:38:18No.1345242527+
怪文書ごときでこの作家性…「」ーコはここにいちゃダメだよ…
1925/08/20(水)22:47:11No.1345246448+
>できるよ。姉妹でも結婚できる。愛があればね。
るるるんっ♪
2025/08/20(水)22:53:02No.1345249117そうだねx1
>ママは……どうでもいいや……
まなちゃん次は母子和解編も頑張ってくれ
2125/08/20(水)23:07:32No.1345254671+
怪文書で泣きたくないよう……


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