DOROーン

江の島で行われる「天女と龍神」のスペシャルドローンショーのニュースを見たとき、
俺は素直に「面白そうだな」と思った。
だが、隣で記事を覗き込んでいたDOROは何故かプルプル震え出す。

顔はすでにシャア専用ザクを越え、真紅のライデン専用ザク。
その赤さは酷暑やビールのせいじゃない。

「お前……まさか」

どうやらDOROは、このイベントを“自分のショー”と勘違いしていたらしい。
世の人々がDOROを讃える日だと信じていたのだ。
ハハハ、DOROらしい勘違いだな……と笑おうとしたが、DOROは本気で憤慨していた。
怒りに任せて、オレンジとブランデーの紅茶割りをぐびぐびとドカ飲みする姿に、
なんだか少し可哀想になってきた。

――後日。

俺は決意した。DOROのために、俺がドローンショーをやるしかない。
風呂上がりで毛並みを整えたDOROの前に立ちはだかる。

俺の全身には、四肢にプロペラを備えた巨大ドローン装備。
そして身体中には、ゲーミングPC顔負けの777万色に明滅するLED。
おどろおどろしいまでに光り輝き、もはや夜空に浮かぶモビルアーマー。

「DORO、見ててくれよ！」

ドロシーを称えるショーはありませんの？

俺は夜空に飛び上がった。
インメルマンターン、プガチョフ・コブラ。
空中で体をねじり、光の尾を描きながら妖精のような幻影を映し出す。
――DOROのためだけの、俺の渾身のドローンショー。
「ウオオオ！俺がガンダムだ！」
だが、機体と肉体は悲鳴を上げた。
「ぐあっ……！？　腰が……！」
バランスを崩し、空中分解。
境川にドボンと墜落し、まだ生きていた回路がショートしてバチバチと火花を散らす。
俺は感電しながら、もがき苦しんだ。

すごい体張ってるな…

道頓堀でやったやつでも良かったんじゃ…

部屋にいたDOROは――無表情で俺を一瞥したあと、
「ふーん」といった態度で背を向け、テレビのリモコンを押した。
画面には録画していた笑点。

DOROにとって、江の島の幻想的なドローンショーも、俺の命懸けのパフォーマンスも、特に何もないらしい。

藤沢の熱帯夜は、終わらない。

俺は幸い軽い腰痛ですんだ。
きっとDOROも満足してくれただろう

>ドロシーを称えるショーはありませんの？
ﾆｬｰﾝ

藤沢の俺はこないだのコピルアクといい命かけすぎじゃない？

これDORO怪文書スレかよ！

>これDORO怪文書スレかよ！
藤沢市情報じゃないの
苫小牧速報の仲間だろ

>苫小牧速報の仲間だろ
苫小牧速報はキャラが関係あるけどDOROと藤沢市はなにか関係あるのか…？

町田とか小田急線沿いに生息してるらしい

なんで藤沢なんだよ

湘南の方は近海に毒DOROクラゲが出る
町田は比較的平和

>No.1344197715
(陸地を歩いて海に帰る毒DOROクラゲ)

なんで湘南ニュースの顔になってんだDORO

>>苫小牧速報の仲間だろ
>苫小牧速報はキャラが関係あるけどDOROと藤沢市はなにか関係あるのか…？
ﾆｬｰﾝ

>怒りに任せて、オレンジとブランデーの紅茶割りをぐびぐびとドカ飲みする姿に、
ところでこのブランデーを買ったのってさ…

軽い腰痛で済んでよかった

>軽い腰痛で済んでよかった
ちょっと待って

自分を讃える日を期待してたとかこのDOROちょっと可愛げがある

藤沢市はアウターリム

病院から戻った俺は、玄関を開けた瞬間にふわりと漂ってくるアルコールの香りに立ち止まった。
……妙だ。これはブランデーの匂い。しかも、紅茶と合わせた時の甘やかで重たい香気。

居間を覗くと、テーブルの上にティーカップ。
紫の瞳をしたDOROが、例の無表情のままちびちびと紅茶を――いや、紅茶割りを飲んでいる。
その隣には、確かに俺の戸棚に隠しておいたはずのナポレオン・ブランデーの瓶が半分ほど減った状態で鎮座していた。

「……おい。なんで俺の酒が減ってるんだ？」

問いかけてもDOROは無言。紫の瞳を細めることもなく、ただ口元を半開きにしてゴクリと音を立てる。
カップの中からは、湯気に乗って揮発したブランデーの香りが立ち上り、俺の鼻を突いた。

「まさか……紅茶割りって……お前、俺のブランデー使ったのか……？」

DOROは「ﾆｬｰﾝ」と小さく鳴いて、もう一口。
ふてぶてしいその姿を前に、俺はしばし立ち尽くすしかなかった。

失った酒の量と、病み上がりの身に刺さるブランデーの香気が、なんともやりきれなさを増幅させる。
俺は額に手を当てながら、DOROの脱力した姿に心底呆れた。

――DOROよ。お前に「人の酒を勝手に呑む」という概念はあるのか？
それとも、俺が病院に行っている間のブランデーは、もうお前の所有物になったとでもいうのか。

カップを空けたDOROは、ため息混じりに次の一杯を注ぎ足した。
俺はただ、その横顔を見ながら小さく呻いた。
「……頼む、せめて次は安いウイスキーにしてくれ……」
俺も負けまいとドボドボとブランデー9紅茶1の飲み物を作り、飲んだ