「柱の前だぞ!」 炭治郎が目を覚ますと、9人の見知らぬ顔に取り囲まれていた。 好奇心に満ちた目でこちらをのぞき込んでくる少女。 電鋸を担ぎ獰猛な笑顔で見降ろしてくる小柄な少女。 工具を手に持った瞳の色や顔立ちが見るからに日本人ではない男性。 困り顔でおどおどしている長身痩躯の中性的な女性。 周囲の人物の様子を見、呆れたように額を抑えている女性。同じ雷の呼吸の一門の出身なのか、善逸と揃いの柄の羽織を身に纏っていた。 更には、どこからどう見ても人間ではない者まで混じっている。 鋼の装甲を纏ったまるで熊と見紛うほどに巨大な機械。 屋敷より大きいどういう訳か陸上に上がっている大鯨。 狐耳と尻尾を生やした小さい女児。一見すると伊之助の様に動物の毛皮を身に着けた人間に見えるが、匂いは混じり気無しの獣のそれである。 そして、なぜか異様に臭い犬。 「ゲホッ!ゴホッ!」 「くさいですわ!くさいですわ!」 「おいバカ犬!テメェくせえんだから風上に立つんじゃねえ!」 「ウブ〜…」 猛批判を受けた犬は尻尾を丸めてしょんぼりと風下の方に移動していった。 「ここは鬼殺隊の本部ですわ、貴方は今から裁判を受けるのですよ炭治郎様」 「けどな日柱、自分達は鬼殺隊だ。どうあれ鬼は斬らなければならないのにこいつは鬼を庇ってるんだ。裁判なんて必要なのか?」 「あら!そうでしたの?てっきりこの方がわたくしと同じ呼吸を使ってるかもしれないからお呼ばれされたのかと思ってましたわ」 「たったそれだけの事で柱全員呼び出す訳ないだろう…」 3間ほどの巨大な機械から男の声がして処刑を主張する。そんな鋼鉄の威容を前に日柱と呼ばれた少女は臆することなく平然と会話をしている。 「こやつ鬼の娘っこに取り憑かれておるのか?哀れな人の子よのう……」 「つーか鬼連れて来てんの!?マジかよ〜?すっげえワルの敵が連れてる奴じゃ〜ん!」 狐耳の女児がそう呟き、横に居る小柄な少女も続いて口を開いた。 「人間は好かぬが鬼はもっと好かぬ。人の子が妖の類に身をやつしただけでも無礼千万なのにあまつさえ人を喰らう鬼となってなお生き永らえとるとは…速やかに黄泉比良坂に送ってやるのが神の慈悲じゃろうて」 「そうか?アタシは鬼は好きだぜェ〜…ぶっ殺しても誰も文句言わねえもんなーッ!!!!」 小柄な少女の持つ電鋸の甲高い駆動音が耳を刺す。 (…禰豆子!禰豆子どこだ…!善逸、伊之助、村田さん…!) 物騒な音と匂いに禰豆子や仲間の身の危険を感じた炭治郎は辺りを見回すが誰もおらず箱も無かった。 「相変わらず持ち主に似て煩い武器じゃ…その上鉄と油臭くてかなわん」 「あン…?やる気かテメェ!.ここでブッ殺してもいいんだぜェ〜!?」 「こやーっ!上等じゃ神罰食らわせてやるのじゃーっ!」 「2人とも武器を収めろ!隊士同士の喧嘩は御法度だぞ!」 揉める少女たちの後ろから善逸と同じ柄の羽織の女性が現れ、これを諫めた。 「なンだとこのクソババア!」 「誰がババアだしばくぞ!お前ら2人揃って岩柱なんだから仲良くとまではいかなくてもせめて争うな!」 「だいたい何だよォ〜2人で1つの岩柱って! コイツとワンセットだとアタシまで異常者扱いされんだけどォ!!!」 「儂こそ何やらやかましい馬鹿な小童と一緒にされるのは嫌じゃ」 「アタシはバカじゃねえ!こちとら毎日クソ坊主に寝る前に絵本読んでもらってんだぜ!」 「そういう所が馬鹿と言っとるんじゃバーカバーカ!」 「んだとォ!?」 「だーかーらー喧嘩するなって言われてるだろ!」 なおも喧嘩を続行する女児たちに頭を抱える苦労性っぽい女性の横から巨大機械の腕がぬっと伸びてきて2人の首根っこをつまんで高く持ち上げた。 ぶら下げられた岩柱2人は宙づりになってじたばたしている。 「離せ〜ッ蝶屋敷の手先の悪のロボめェ〜!捕まったら妹にされンぞ〜!」 「嫌じゃ〜っ!人の子の妹になぞされとうない〜!」 「風評被害だ!お前らみたいな奴らが妹にされるかよ!…………多分」 「歯切れが悪いのじゃ〜!?」 「コワ〜…」 「話を戻すけどさ…明らかに隊律違反してるんだし、問答に意味も無いだろう。鬼と一緒に切った方がいい」 「まあ聞けよボロ柱のアニキ…御屋形の旦那もこいつらの存在を知ってるから、こうしてオレ達柱に連絡が来たんだろ?」 「だったら御屋形の旦那が来る前に勝手に処分しちまったら…果たして御屋形の旦那はどう思う…?ド凹みして暗黒面に落ちてしまうんじゃないか?」 「うーん…暗黒面はともかく一理あるような……あと俺はボロ柱じゃなくてロボ柱だっつの」 納得しきれない様子の巨大機械に対し、芝居がかった口調の外国人の男はケラケラと朗らかに笑いかける。 「それよりボロ柱のアニキ!壱模剣のコックピット内にあるデカいモニター貸してくれよ!コイツでスマブラすればオレの人生が5割増し…あーいや多いな2割増し位には楽しくなりそうだ!」 「あっアタシも!アタシもやりてェ!」 「誰が貸すか!だいたいコックピットの一部なんだから分解して外さなきゃ使えねえよ!」 「じゃあバラせばいいんだなァ!?」 「奇遇だなぁ、オレも片っ端からこのロボをモンキーレンチで解体して組み直してやりたいと週に3,4日くらいは思ってたんだぜ!」 「お前らが言うとシャレにならないんだよ…おいチェンソーのスターターを引くのはやめてくれマジで、マジで!」 『ぼくはこの子のお話を聞いてみたいウブ〜、この子にもきっと鬼さんを守ろうとする事情があるウブ』 電鋸の少女も併せて騒ぎ始めた3人に割り込むように、先ほどの喋る臭い犬がこちらに近寄ってきた。 『ケガしてるのに知らない所に1人で不安だったウブね?大丈夫ウブ、きっとご主人もみんなも話せば分かってくれるウブ〜』 周りの柱が犬の異臭に鼻を押さえたりやや後ずさったりする中、臭い犬は労わるように炭治郎の頬を舐める。 確かにものすごく臭いのだがそれが気にならないほどの心根の優しい、日向のような匂いがして不思議と気にならない。 「あいつはいい犬なんだが、臭くなければな…」 「おぬしよくその犬の臭いが平気じゃの…儂もう鼻が取れそうなんじゃが」 「いえあのそれより……ゲホッ!ガホゲホッ!」 負傷のせいか上手く喋れず炭治郎は咳き込んでしまう。 「きっと喉が渇いてらしてるんですのね、鋼柱様!お願いしますわ!」 (相分かった…) そう少女に声を掛けられた鯨が潮を吹いた。庭先は一面磯臭くなったが加湿されたお陰か少し声が出やすくなった。 炭治郎は自分たちの事情を伝えるべく口を開く。 「聞いてください!!俺は――――」 〜〜〜 〜〜 〜 「つまりその女の子は鬼にされたけど何らかのミラクルによって人間を襲わない…いわば天然物記念物って訳かい?」 「はい…!今のところそういう認識になりますね!」 「ま!そんな方もいらっしゃいますのね!」 「妹は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!だから…」 「だからって鬼を鬼殺隊に招き入れるなんて…」 「鬼が鬼殺隊なんてやってもいいのかァ!?」 「世界は広いですわ、嵐柱様のように目が青い者もいれば鋼柱様のように喋るワンちゃんや鯨さんもいらっしゃいます。なら鬼を飼う人がいても当然ではないでしょうか!」 「いやこいつらと鬼とを一緒にするのは違…違……どうなんだろうな…私はもう自信がなくなってきた…胃が痛い…」 「あ、あのぉ〜…」 炭治郎の話を聞いた柱達が侃侃諤諤と話し始める中、庭の隅っこに居た長身痩躯の中性的な女性が初めて口を開いた。視線が一斉にそちらに向く。 「わ、私は処刑反対しますぅ……ひぃん!見ないでくださぁい……えっとぉ…人を食べない鬼……興味深くって……なんでかっていうとですねえ……」 彼女がおずおずと言葉を紡ごうとしたその時。 「背負うの背負うの楽しいな〜♪」 空々しい程に軽やかな足取りで、男とも女ともつかない白皙の剣士が禰豆子の入った箱を背負いこの場に現れた。 その剣士からはむせ返るような甘ったるい花のような匂いと――血の匂いがした。 「鬼を連れてたタンジロークンとやらは彼のことかい?」 「花柱様!?その箱どうなさいましたの!?」 「この箱?さっき拾ったんだけど、なんか彼の大事な箱らしいね」 花柱と呼ばれた剣士は中身を甚振るかの様に背負っている箱をガタガタと揺すって見せる。 「嘘をつけ、大方後ろの困っている隠たちから強奪して来たんだろう。勝手な行動はやめろ」 「でもね鳴柱サンに日柱サン、この箱には鬼が入っているんだよ」 「ま!狭くありませんの?」 「いや待てなぜそのような感想が出る?」 「あ、あのすみましぇん…わわわ私一応その鬼の件について話そうとしてた途中でぇ〜……」 「今はワタシが話しているんだけれど?」 「うへえええええええん!!!すみませんすみませんすみません殺さないでくださいいい堪忍しとくれやすぅぅぅ!!!!」 びくつきながらも話に割り込もうとする長身痩躯の女性だったが、花柱に睨まれ秒速で庭の松の木の影に隠れてしまった。 「話は聞いたよ?鬼になった妹を箱に入れてるなんてねぇ〜?タンジロークンすごいね〜?」 「なんて!なんて涙ぐましい話だろう!ただ1人生き残ったきょうだいが鬼になっても信じ抜き救おうとするなんて!ワタシは感動したよ!」 横たえられている炭治郎の顔を覗き込んで明るい口調で声をかけてくる花柱。 その貼り付けられたような笑みや言葉とは裏腹に楽し気な匂いは一切しなかった。 「まあいいや、とりあえず斬ろう」 突如笑顔のままシームレスに刀をするりと抜き、禰豆子の入った箱へと刀を突き立てようとする。 先ほどの言動とはかけ離れた余りにも予測不可能な行動に、炭治郎は動けず成す術もなく成行きを見るしかなく… 「花柱様ったらいけませんわ!人様の大切な箱に傷をつけるだなんて!」 だが木箱に刺さるはずだった刀は、日柱の少女の抜いた黒刀によって阻まれた。 信じられないことにこの少女の動きは父から教わり伝えられたヒノカミ神楽とまったく同一の動きだった。 「2人ともいい加減にしろ!もうすぐお館様がいらっしゃるんだぞ!」 先ほど鳴柱と呼ばれていた女性が叱りつけ場を仕切り直す。 「あと花柱、音柱をむやみやたらと脅すのはよせ。あいつは心が弱くてすぐぴーきゃー言うからな」 「びえええええええええええええええん!鳴柱ざあああああん!!怖゙がっ゙だよう!!!!」 「ええい言ってる傍から恥を晒すな縋りつくな鼻水をつけてくるな!!頼むからお前はもうちょっとしっかりしてくれ音柱!!」 音柱と呼ばれた長身痩躯の女性が隠れていた木の陰から這いつくばりながら近づいてきて鳴柱の腰に抱きついた。大人げなく泣き喚くせいで羽織りに鼻水がついている。 「ひぃん!酷いこと言わないでよおぉぉ!女同士でしょ!?柱同士でしょ!?行き遅れ同士でしょおおおおおおおお゛!?!?」 「行き遅れ言うな!!!」 「ほんげええええええええええええええ!!!!!!」 縋りついてくる音柱を引きはがし大きな息をついた後、哀しい目で炭治郎に向いて話しかけてきた。 「……すまないな炭治郎…本来なら尊敬され皆の手本になるはずの柱達がこんな有様で……問題児揃いのうちの弟妹弟子がマシに見えてくる……はぁ……」 「あ……いえ……」 彼女が再びため息をつくと同時に疲労の匂いが更に濃く立ち昇る。恐らくこの場で一番常識的であろう彼女に炭治郎は心底同情した。 「お館様のお成りです!」 「よく来たね。私の可愛い剣士たち」 現れた鬼殺隊当主産屋敷耀哉に対し、あれほどまでに好き勝手にしていた柱達が皆一斉に跪いた。大鯨ですら大きな図体で出来る限り頭を垂れ、臭い犬も伏せをしている。 更に驚いた事に巨大な鋼鉄の機械の前方部が開き、中から赤い襟巻きをした青年が飛び降りて着地と同時に膝をついた。喋る機械ではなく中に人が入っていた様だ。 「ご挨拶は大事でしてよ!」 そちらに気を取られていると日柱によって無理やり頭を下げられることになってしまった。 「お館様におかれましてもご壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます…。畏れながら柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか」 ここで挨拶を始めたのは何とあの大鯨だった。 知性も理性もあるかどうかいまいち不明だったぼんやりした海洋生物がまるで武家の出かと思うくらいに恭しく丁寧な挨拶を述べている。 「そうだね、驚かせてすまなかった。炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そして皆にも認めて欲しいと思っている」 「お館様がそういうんならまあいいか!よろしくなァ!」 「う〜むむむむむむむ……儂はちょっと悩み中じゃぁ……(うぅ……こういう時おやぶんならなんて言うんじゃろ……)」 「俺は反対です!いくら妹とはいえ、鬼を連れているなんて!」 「わたくしそれより箱の中が気になりますわ!あんな小さい箱の中に入るなんて狭くて大変そうですわ!」 「た、炭治郎さんを裁くのは反対ですぅ……ひぃんこっち見ないで下さいってばぁ……」 「ワタシは2人の処罰を願います。あぁ、炭治郎クンを斬首する時は是非ワタシに斬らせてくださいね」 『ぼくはご主人のいう事をきくウブ〜』 「彼らは今この瞬間にも産声を上げている私たちの才覚を凌ぐ者やもしれません…若き芽を摘むにはいささか早いかと…」 「オレはどっちでもいいさいいさ!」 「まったく、皆ちゃんと考えて話しているのか?…私は賛成です。妹の話をした際、この少年からは嘘をついた心音はしなかったからな。…ただ、あくまで私自身の感覚で判断したに過ぎないので、もっと確たる証拠があればいいのですが…」 柱達が思い思いに己の意見を述べていく。賛成派が4人、反対派が2人、中立派が3人、箱派が1人。 割とありがたい状況のはずだがこれまでの様子を思えば正直ありとあらゆる意味で安心できなかった。 そして御館様の傍らの童子が一通の手紙を読み上げる。差出人は元柱である鱗滝左近次からのものであった。 『炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうか御許しください、 〜中略〜 もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は竈門炭治郎及び――鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します』 道を示してくれた恩人2人が自分と妹の為に命を懸けてくれている事実に、炭治郎の胸に熱いものがこみ上げてきて、目尻からは涙が溢れた。 「……一つ聞きたい事がある」 そう重々しく口を開いたのは外国人の男だ。 「ああ、悲しい…とてもとても悲しい話をしよう…オレはさっき御屋形の旦那宛ての手紙にあった名前に無茶苦茶聞き覚えがあるんだが思い出せないんだ…まるで鼻に米粒が入ったのにくしゃみが出そうで出ない時の様な、座りの悪いもどかしい気持ちだ…」 「この手紙をくれた左近次は君がフィッシュ竹中と呼んでいる君の育手だし、文末に連名した義勇は君が小野イナフと呼んでいる君の兄弟子だよ」 「えっ、貴方俺の兄弟子だったんですか!?」 「そうかお前がアンジェロだったんだな!そういえばフィッシュ竹中の師匠から聞いた覚えがあるし、なんならアンジェロの選別突破祝いの宴会で直接会った記憶があるぜ!よろしくなぁ!」 「あ……はい……?」 明るく笑いながらバシバシと炭治郎の背中を叩く。 (この人…禰豆子のことも認めてくれているようだし悪い人でもなさそうだけど…何も考えてない匂いがする…) ついでに言うと彼の言った宴会の話もまったく身に覚えがない。選別から帰った日の事と言えば狭霧山に戻って鱗滝さんと禰豆子に出迎えられた翌朝に山の裏にて全裸で目覚めた事以外炭治郎の記憶になかった。 「っし、フー…ならオレも覚悟決めねえとなあ…」 「フィッシュ竹中の師匠と!小野イナフが命を賭けるってんなら!宇宙に比べればちっぽけなオレにでも出来ることとして…!」 外国人の男が首をゴキゴキ鳴らした後立ち上がり御館様に向けてビシッと指をさす。 「オレと鳴柱のアネキの命も賭けるぜ!!!!」 「何を言っているんだお前ーー!?」 「お前っ!お前ーーっ!!これは一体どういう事だ!」 苦労性の女性が外国人の男に思いっきり食って掛かる。そりゃそうだ。 「悲しい、悲しい例え話をしよう…仮にアネキの弟分のクズが鬼になって人を襲ったって事になったらアネキは悲しむし何かしら責任を取るだろう?」 「そりゃ確かにそんな事になったら腹は切るが……あと人の弟弟子を酷い渾名で呼ぶのは辞めろと何度言えば分かるんだ」 「という訳でフィッシュ竹中の師匠と!小野イナフが命を賭けるってんなら!オレと鳴柱のアネキの命も賭けてやるぜ!!御屋形の旦那ァ!」 「だからどういう訳でそうなる!?!?」 「わかった、後で2人の名前を加えておこう」 「サンキューな御屋形の旦那ァ!」 「何故です!?!?!?」 恩人である冨岡義勇と鱗滝左近寺が自分と妹の為に命を懸けてくれている。 ついでに今まで会ったことも無い見知らぬ兄弟子も軽いノリで命を懸け、挙句の果てに何の関係もない柱の命まで巻き込み事故の様な形で懸けられてしまった。 感動よりも困惑が勝った為か、炭治郎の瞳から流れていた涙はいつの間にか引っ込んでいた。 「あ…あの…なんかすみません…」 「いや…謝らなくていいこれに関しては炭治郎は悪くないからな…」 かっくりと肩と頭を落とす鳴柱。これほど疲れ切った匂いを発している人間を炭治郎は見た事が無かった。 「……ですがタンジロークン達が切腹すると言っても何の保証にもなりはしませんよね?命が勿体ない事になりません?」 「花柱の言う通りです!人を喰い殺せば取り返しがつかない!殺された人は戻らない!」 「確かにそうだね。人を襲わないという保証が出来ない、証明が出来ない。ただ、人を襲うという事もまた、証明も出来ない」 「禰豆子が二年以上も人を喰わずにいるという事実があり禰豆子のために4人の者の命が賭けられている」 「いえですから私は……」 「これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない」 「お館様話聞いてます?」 「それに……炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」 「マジでェ!?」 「あの不届き者め、まだ神罰をすり抜けておるのか!」 『生きて帰れるなんてすごいウブ〜』 「すごいですわすごいですわ!」 「私の切腹の件は…」 「年齢は?出身は?結婚とかしてる?」 「それは真実なのか!早く言え!吐け!外見は!?特徴は!?いいから知っていることを全部教えろ!おい、どうした!」 「え、ちょ……!?」 一部の発言をスルーしつつ炭治郎が鬼舞辻無惨と遭遇したことを御館様が明かすと柱達は騒然となる。 特にあの音柱が人が変わったかの如く炭治郎に掴みかかる勢いで迫ってきた。 炭治郎を質問攻めする柱達を御館様が制した後、炭治郎に向けて追手を放った事や鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思っていること、初めて鬼舞辻が見せた尻尾を離したくない旨を話した。 「――分かってくれるかな?」 「分かりません御館様。人間なら生かしておいてもいいです生かす価値があります、ですが人を殺す鬼は許せません」 「鳴柱サンも言ってましたしね、『確たる証拠があれば』と。――――ならば証明しましょう。御館様、失礼仕りますね」 その言葉と同時に花柱は箱を持ってぬるりと屋敷に上がり込む。 花柱は躊躇なく自らの腕を斬り血を禰豆子の箱に垂らした。 「放せ!放せ!」 「ええい堪え性のない奴め!」 なんとか禰豆子の元へ駆けつけようと体に力を込めたものの、狐の娘に抑えられ動けなかった。 血管が破裂しそうな程に足掻くも、小柄な体からは信じられないほどの万力の筋力で押さえつけられ身動きが取れない。 「のじゃあ!?!?何するんじゃ嵐柱!?」 「悲しい、悲しい話をしよう…オレの人生には敬意を示すべきアニキやアネキは何人か居るが…オレ自身がアニキになった事は一度もなかった…新しくできた弟分のアンジェロが困っている時にどうすればいいのか理解が出来なかった…」 「だからオレの心のベスト・オブ・アニキであるサイコロステーキのアニキなら何て言うかと考えた…考えて考えて…そしてきっと高らかにこう言うと思い至った…」 「『こんな弟弟子なら俺でも助けるぜ!』ってな!!」 「しっぽを掴み上げるのはやめるのじゃああああ!!」 どうやら、兄弟子である外国人の男が狐の娘を引きはがして助けてくれたらしい。 「行ってこいアンジェグヘッ!!」「ありがとうございまグハッ!!」 「箱が開きますの!?中身が気になりますわ!!」 解放された炭治郎は禰豆子の元へ駆け寄ろうとするも、後ろから凄い勢いで追突してきた日柱に兄弟子もろとも跳ね飛ばされたせいで叶わなかった。 「だぁぁぁ!?何しやがるこのクソアマ!人が弟弟子の前でカッコつけてる時に!」 「箱の中どうなっていますの!?」 「日柱!!!お前いい加減箱から離れろ!!!真面目にお館様や炭治郎の話を聞いてたのか!?」 後ろから来た鳴柱も止めに入るが、好奇心に駆られた日柱の少女は箱に夢中で梃子でも動こうとしない。お陰で2人の胸部に挟み込まれた炭治郎はまた身動きが取れなくなった。 「なんだなんだ!?最強の大会でも開いてんのか!?ならアタシも参戦すんぜェ〜ッ!鬼殺隊最強の称号はアタシのモンだァ〜〜!!」 「ええいロボの呼吸 緊急機構 機装纏鎧!こんな所でチェーンソーを振り回すのはやめろー!」 (ならば私も助太刀しよう…) 「その巨体だとこっちが押しつぶされるから!タンマ!タンマ!!」 更に電鋸を構えた少女がこちらに突撃してきて、慌てた襟巻の青年が機械鎧を全身に纏い羽交い絞めにする。大鯨も助力を申し出たが流石に断られた 「音柱お前もとっとと止めに来い!お前も年長者ならちゃんと年長者らしいことをしろ!!」 「うええええやだぁぁぁぁすみっこにいさせてえええええ!!!!」 鳴柱が長身の音柱の首根っこを掴んでこちらに引きずってくる。連れてきたところで役に立たなさそうだが。 『ケンカはやめるウブ〜』 トドメとばかりにそこに例によって臭い犬がやってきたものだから面々は更に阿鼻叫喚の様相となった。 「グハッ!くっせーっ!!」 「おいポチ太ァ!テメー自分の臭さ分かってやってんだろ!」 『ぼくそんな名前じゃないウブ〜』 「くさいのじゃああああ!」 「おえーですわ!おえーですわ!」 「ね、禰豆子〜〜!!頼む耐えてくれ〜〜!!」 座敷の奥では花柱が自らの腕を切り箱に血を滴らせており、縁側では炭治郎と鯨以外の残りの柱達が団子状態で犬の異臭に悶絶し揉みくちゃになっている。 端的に言って地獄絵図だった。 「う゛え゛え゛え゛え゛臭゛い゛よ゛お゛お゛お゛」 一同の中でもとりわけ酷く泣き喚いて頭を振り乱しじたばたする音柱。 勢い余ってその懐からビー玉程の大きさの黒い玉薬の様な物体がころりと転がり落ちる。 「おい、何か落としたぞ」 「なんじゃそれ、びぃ玉か?」 そう周りから問われ何故か無い胸を張りながらドヤ顔で答える。 「えへへ〜い!聞いて驚けぃ!これはねえ、お館様から頼まれてた火が無くても衝撃で発破する試作品の速効性超小型爆薬……ばくや…………あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁっっ!?!?!?」 「「「「「「「「「は!?!?!」」」」」」」」 時すでに遅し。 座敷の奥で箱がごとりと開いた正にその瞬間、縁側に光が充ち、凄まじい爆風が吹き荒れ―――― 1.お兄ちゃんは私が守る☆(むりんっ dice1d1= あなたは連休どころか盆休みから1ヶ月近くの間休みの日を怪文書作成で溶かしたムキムキねずこです。 閃光と旋風が収まった後お兄ちゃんが顔を上げると、爆発の炎と日光に焼かれながらサイドチェストのポーズを決めるあなたが立っていました。 あなたの強靭なナイスバルクの防壁により音柱ボンバーの威力は抑えられました。 奥座敷に居た御館様親子と花柱は無傷であり、縁側こそ半壊して一部瓦礫の山と化していますがそこに居たお兄ちゃんや他の柱も多少の傷はあれど命に別状はありません。 燃え残りの火は大鯨がムキムキ日輪潮吹きで消火してくれたようです。庭が一面磯臭くなりましたがこれでもう火事になる心配はありません。 UVカット効果のあるポージングオイルでも防ぎきれない日光がジュゥゥゥとあなたの身体を焼きますが、あなたのその強靭な肉体が生み出す再生力は日光に焼かれるそばから身体を再生させているので割と大丈夫です。 「皆を守ってくれたんだね。ありがとう、ムキムキねずこ。戻っておいで」 そう御館様に声を掛けられあなたは部屋の奥にポージングをしながら戻っていきます。 ついでに血まみれの花柱の腕にナイスチョモランマな腕を器用に動かして傷の手当てとテーピングをしてやりました。 「これでムキムキねずこが人を襲わない事、人を守る為に戦える事の証明が出来たね。私たちの事が活きのいいタンパク質にしか見えてなかったら今頃筋肉の栄養にされていたところだからね」 「あっハイ」 毒気を抜かれた花柱も素直に返事をしました。 1.お兄ちゃんが私を守る☆ dice1d1= 「炭治郎の話はこれで終わり、下がっていいよ。そろそろ柱合会議を始…」 「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙!」 普段ならフォースの如く一発で効果のある御館様の1/fゆらぎボイスであるが、突然上がった汚い泣き声にかき消される。 「うえええええ゛え゛え゛え゛!!あっ炭治郎さん!ここに居たはずの鳴柱さんがモロに生き埋めになっちゃったんですぅぅぅ〜〜!!! 音柱が顔から出るものすべてを垂れ流しながら縁側だった瓦礫の山を掘っていた。 「死んじゃってたらどぼじよお゛お゛お゛お゛!!!!」 「いや…その人多分生きてると思いますよ…」 「ほんとぉ??ほんとにほんと??」 「あ、はい……なんというかその人の埋まってる辺りから……怒りの匂いがどんどん強くなってると言いますか……」 「莫っ迦もぉぉぉんん!!!」 「ぐんうえええええええ!?」 瓦礫をぶっ飛ばし、怒髪天を貫いた鳴柱が自力脱出してきた。 音柱の首を掴んでガクガク揺さぶっている。 「ごへんなざあああああああい私の不幸に巻き込んじゃってえええええ゛!!!」 「今回の貴様がやらかしたのは不幸でもなんでもない過失だ!うっかりだ!危険物管理不行き届きによる怠慢だ!!」 「今日という今日はもう許さんぞ音柱ぁ!!!」 「ひゃーぼららっほい!?」 激昂アッパーされた音柱が奇声を上げながらもんどりうってぶっ倒れた。 そして柱合会議が始まらないせいで野放図と化した柱達をキッと睨みつける。 「大体他の奴らも他の奴らだ!!人の苦労も知らずに好き放題しやがって!!」 「どいつもこいつもだこの野郎!!!!!」 羅刹と化した鳴柱は、どさくさに紛れて鯉口を鳴らしながら炭治郎の背後に迫る花柱をしばき、屋敷に上がり込み箱に頭を突っ込んで入れませんわ入れませんわと藻掻いている日柱をしばいた。 更に壱模剣コックピット内の大型ディスプレイを狙い日輪モンキーレンチと日輪チェーンソーでバラそうとしていた嵐柱と岩柱をしばいた。 「炭治郎、それでもまだ禰豆子を快く思わない者もいるだろう」 あまりの惨状に呆然としている炭治郎に御館様は1/fゆらぎボイスで声を掛ける。 「証明しなければならない。これから炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦える事、役に立つ事。十二鬼月を倒しておいで。そうしたらみんなに認められる。炭治郎の言葉の重みが変わって来る」 「俺は…俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!俺と禰豆子が必ず!悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!……それはそうと後ろの皆を止めなくて大丈夫なんですか?」 炭治郎はちらりと後ろの大騒動の様子を見やる。激昂した大猩々のごとく暴れまわる鳴柱にしばかれ柱達はことごとくバッタバッタと倒れ伏している。 「大丈夫だよ。柱が集まるとよくある事だから」 (ええ〜〜……) 結局炭治郎も含めこの場に居た柱も全員蝶屋敷に搬送された。 ちなみに鳴柱のみこの時の爆発による怪我だけでなく精神性の胃潰瘍という診断も下ったらしい。 「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ん゙!!!!!もう柱合会議なんて懲り懲りだよおおおおおおおおお!!!!!」 ロボ柱 ロボ 岩柱 チェンソー&こゃーん ?柱(犬の字が3つで読みは"ひょう"文字化けの為再現不可) 臭い犬 嵐柱 モンキーレンチ 鳴柱 姉弟子 日柱 夢柱 花柱 花サイコ 音柱 「」んかちゃん 鋼柱 鯨壱 ねずこ ムキムキねずこ 読んで下さりありがとうございました!