空からは色んな物が落ちてくる。 雨、雪、雹、雷、変わったところでは隕石、オタマジャクシ、UFOまで色々。 …その日俺達の前に落ちてきたのは、デジモンだった。 ───────── 「ツカサ!あぶないっ!」 「おい急になにす───── 突然メルヴァモンに突き飛ばされ、文句の一つでも言ってやろうかと思った次の瞬間、さっきまで俺が立っていた場所に何かが落ちてきた。 「あぶないところだったな?」 「……助かった。」 手を貸してもらって立ち上がる。一体何が落ちてきたって言うんだ? 「鳥?いや、飛行機…?」 傷やへこみに焼けこげたような跡でボロボロだが、かろうじて飛行する何かだったことはわかる。 「これ…デジモンだ!」 彼女のその声に反応したのか、そのデジモンはわずかに動き出した。 「スウォームが…スウォームハグルモンが…くる…にげ…ろ…!」 「なんだソイツ?お前はソイツにやられたのか!?」 「落ち着けメルヴァモン。まずは回復させよう。」 俺はクロスローダーを取り出し、そのデジモンを収めた。 「ラプタースパロウモン…こいつは完全体級か…」 格納と同時に解析され、データが表示される。 通常の個体は成熟期だが、この金色に輝いている個体は完全体相当の力を持っているようだ。 それだけの力があるデジモンをここまで叩きのめすとなると…相手は究極体か…それ以上か。 『ここは…一体どこでありますか…?』 『ここはクロスローダーの中さ。』 待機させていたサンドリモンが彼の質問に答えている。…こいつに任せて大丈夫か…? 『クロスローダー…と言うことは僕もあなたも人間に捕まってしまったのでありますか!?』 『捕まった、と言うのは人聞きの悪い事を言うね。私は私が望んでここにいるのさ。彼らのペットとしてね。』 『ぺ…ペット…?』 大丈夫じゃなかったな… 「そこまでだサンドリモン。お前に答えさせると話がややこしくなる。」 『外から声が!?』 「落ち着いてくれラプタースパロウモン。俺は司。吉村司だ。こっちがパートナーのメルヴァモン。」 「アタシたちがお前の事を助けたんだ。お前はボロボロになってリアルワールドに落ちてきてた。一体何があったんだ?」 『そうか…僕はあいつにやられて人間の世界に…。そうだ!スウォームハグルモン!あいつはこっちに来ているのでありますか!?』 ラプタースパロウモンは慌てた様子でそう言う。スウォームハグルモン…さっきも彼はそう言っていた。一体何者なんだ…? 「いや、こっちではまだ騒ぎは起こってない。そのスウォームハグルモンって奴のことも俺たちは知らない。良ければ教えてくれないか?」 『……あいつは…兵器であります。デジモン、人間、あらゆる生命を殺すために生まれた群体兵器であります。』 彼はそう、呟くように話し始めた。 ━━━━━━━━━ 僕はデジタルワールドで仲間たちと共に日々空を駆け暮らしていたのであります。 それがある日突然…スウォームハグルモンが現れ全てを壊していったのであります。 「標的、周囲のデジモン全て。⌘:kill 起動。」 数えきれないほど多くのデジモンが、まるで一つのデジモンであるかのように動き、僕らを飲み込み…そして、皆をデリートしたのであります。 メタリックドラモンやエグザモンですら…逃れることは… ━━━━━━━━━ 「なっ…エグザモンってロイヤルナイツクラスのデジモンだぞ!?そんなレベルのデジモンでもやられたって言うのか!?」 メルヴァモンは困惑した様子でラプタースパロウモンに問いかける。 『スウォームハグルモンはいくら倒そうともすぐに次が出てくるのであります。一切消耗することがなく、最期にはこちらが物量で押し切られてしまうのであります…』 『君、よくここまで逃げてこられたねぇ。司に拾われて幸運だったと思った方がいいよ。』 『そうでありますな…でも、リアルワールドも安全ではないのであります。』 「どう言うことだ?」 『僕がリアルワールドへのゲートを見つけたのは、スウォームハグルモンの拠点なのであります。アイツは間違いなく、近いうちにリアルワールドへの侵攻を考えているのであります!』 「なるほど。メルヴァモン、勝算…あると思うか?」 「ラプターの言ってることが本当なら…アタシたちでも勝つのは難しいと思う。」 「だよなぁ…」 伊舞旗みたいなテイマーの知り合いを呼んできたところで、物量では勝てないだろう。かと言って、逃げてどうなるって話でもない。 『…僕に一つ案があるのであります!』 考え込んでいると、ラプタースパロウモンが声を上げた。 『アイツの拠点に突っ込んで行った時、アイツの弱点が書いてある資料を見つけたのであります!アイツには、攻撃を担当するレギオンと別に、全ての個体を制御しているコアになる個体がいるらしいのであります!だからソイツを倒せば…!』 「すんなりコアを見つけられればいいんだけどな…」 「そんな簡単に行くと思うか、ツカサ?」 「行かないと俺たち死ぬかもな…」 「ま、まぁ…そんなすぐ来るって決まったわけでもないし!ハカセたちと対策を練れば…」 普通に考えれば、彼女が言うように対策を練り、大人数で立ち向かうべきなのだろう。 だが、そんな余裕はなかった。 「メルヴァモン…これ…見ろ」 クロスローダーに表示された大規模デジタルゲート警報。 それはつまり、スウォームハグルモンがやってくると言うことだ。 今、すぐに。 ───────── 空が一瞬にして暗くなった。 曇ったのか?そう思って見上げてみると、そこにあったのは雲ではなかった。 「ワレワレは金竜将軍、スウォームハグルモン。恐怖しろ、人間よ。」 空一面を奴らが覆い尽くしていたのだ。 「マジかよ…」 「あれが…スウォームハグルモン…!?」 「究極体デジモンを確認。最優先ターゲットに指定。」 あらゆるところから奴の声が聞こえる。全員が同じことを喋ってるのか…? 「アタシたちのこと、気づいたらしいな。」 「売られた喧嘩は買うしかない。サンドリモン、お前も出てこい。リロード!」 『僕も戦わせて欲しいであります!』 「ただでさえ死にかけだったんだ。まだ休んどけ。メルヴァモン、最初から本気で行くぞ。」 デジメンタルを呼びだし、メルヴァモンに融合させる。 「アーマーアップ!フレアメルヴァモン!」 覚悟を決めるしかない。俺はミネルヴァモンのデジメモリを使い、召喚した剣と盾を握りしめた。 「標的、究極体デジモンを伴うテイマー。⌘:kill スタンバイ。」 奴がそう言うと、全ての個体の目が同時に俺たちを見る。 「実行。」 その瞬間、空を覆っていた大群が一気に俺たちの元に向かってきた。 なるほど…飲み込まれるってのはこう言うことか…! 小型の個体が周囲を舞って視界を奪いながらビームを放ち、大型の個体がそれに紛れながら接近戦を仕掛けてくる。 「てりゃっ!…いくら斬っても確かにキリがないッ!」 「困ったねっ!これじゃ私の眷属も数が足りないよ!」 二人の声が聞こえてはくるが、姿は全く見えない。完全に視界を持っていかれてしまっている。 俺も盾でビームを防ぎながら近寄ってくる奴らを叩き斬っているが、終わりが見えない。 「サンドリモン!お前ビームキャノン使えるだろ!それで一網打尽にできないか!?」 「撃ってもいいけれど、この状況だと君たちや人間を巻き込んでしまうかもしれないよ?それでもいいなら─────「良い訳あるか!」 メルヴァモンがツッコむように答えを遮る。 となるとどうするべきか…そう考えながら戦っていると、武器が消え始めた。 デジメモリの時間切れだ。この中で丸腰は不味い…! 「…あれを使うか!」 俺は咄嗟に近くにあった標識を引っこ抜き振り回す。 リーチがあって案外悪くない。そこそこの量を巻き込める。 巻き込む…そうだ! 「メルヴァモン!竜巻で奴らを巻き込めないか!?」 「やってみるっ!マッドネスメリーゴーランドDX!」 彼女の回転斬りに奴らは次々吸い込まれ、少し視界が開ける。 「はあっ…!ダメだこれでもキリがない…!」 「今のまま奴の腹の中で戦い続けても勝ち目がなさそうだ!一旦下がるぞ二人とも!」 メルヴァモンが作った隙間を通り、スウォームを抜け出す。 「おい…なんだよあれ!」 奴が通ってきたであろうあたりのビルが、食い荒らされたかのように削れている。 「まさか…ああやって資材を食って増えてるのか!?」 「キリがないわけだ…」 そう言っている間にも、俺たちを追いかけスウォームハグルモンはこちらに近づいてきている。 「ひとまず奴らを足止めしなきゃいけないね。そうだ、私に一つ考えがあるよ。アレは確か、可燃性の液体で動いているんだよね?」 サンドリモンが停めてある車を指差す。 「そうだけど…?」 「だったらこういう時は役立つんじゃないかな!?」 そう言って彼女は車を持ち上げ、迫りくるスウォームハグルモンに投げつけた。 「メルヴァモン!アレを狙ってくれ!」 「わかった!」 フレアメルヴァモンが放った炎が直撃し、車は大爆発した。 「ほら、効果的でしょ?」 確かにその爆発は効いたようで、奴らの勢いは幾分か削がれたようだ。 「……あの車の持ち主が車両保険に入ってる事を祈るか。」 「でもこれだけじゃダメみたいだね…だったらこうしよう。ノーブルファミリアーツ!」 サンドリモンの指示で眷属たちが一斉にスウォームハグルモン…ではなく、先ほどの削れたビルに向かっていく。 「おい!何考えてんだよ!?」 ビルは見事に爆破され、奴らの直上に倒壊した。 「これだけやればアイツらも多少は動きを止めるだろ?」 サンドリモンは事もなげにそう言う。 実際、スウォームハグルモンは下敷きにされたせいか、動きを止めている。 「……まぁこれも作戦か。今のうちにコアを壊す!行くぞ!!」 まだ砂塵が舞う瓦礫の中に、俺たちは飛び込んで行った。 ───────── 「ファイナルストライクロール!」 「マリッジストライク!」 瓦礫の中にコアが埋もれたせいか、奴らの動きは少し鈍っていた。 埋もれているはずのコアを探しながら、二人はまだ動いているスウォームハグルモンを蹴散らしている。 「どこだ…どこにいるんだ…!」 俺も手当たり次第に見つけた奴らを切り裂き倒しているが、どれも違う。 そんな中、俺は他のスウォームハグルモンと違う、オレンジ色の個体がいるのを見つけた。 クロスローダーに少し似てる…コイツか! 「メルヴァモン!いたぞ!」 そう言って奴を突き刺さそうとした瞬間、胸に鋭い痛みが走った。 俺の胸に…レギオンが深々と突き刺さっている。 「ワレワレを甘く見たな。」 まさか…このためにわざと動きを…! クソ…誘い込まれたってことか…! 「かはっ…」 思考が定まらない。俺は口から血を吐いたらしい。 「ツカサァァァッーーー!?!!!」 メルヴァモンの悲鳴が聞こえる。 俺は咄嗟に胸のレギオンを引き抜き、コアに投げつけた。 しかし、奴の周りには既にスウォームが出来上がりつつあり、効き目はなかったらしい。 「ク…ソ……!」 ダメだ。体に力が入らなくなってきた。 俺はそのまま倒れてしまったが、メルヴァモンとサンドリモンに受け止められた。 「ツカサ!傷が深い…こう言う時どうすれば…!」 「俺はいい…!アイツを…倒すんだ…!」 スウォームハグルモンは再び規模を大きくし始めている。ここでトドメを刺しておくべきだ。 それに…この傷だと…多分…俺は… 「ラプタースパロウモン…調子はどうだ…?」 『僕は大丈夫でありますが…』 「だったらメルヴァモンに力を貸してやってくれ…頼むぞ…!…デジクロス!」 俺は最期の力を振り絞り、クロスローダーを掲げた。 光と共にメルヴァモンにラプタースパロウモンが融合していく。 金色の翼が背中に備わり、彼女に新たな力が備わる。 「「ラプターメルヴァモン!!」」 俺が出せる全ての力を注ぎ込んだ。 もう出来ることはない。 「あとは…頼ん────── ━━━━━━━━━ 私の背に備わった翼は不思議なほど軽く、今にも空を駆けたくなる。 「さぁ、行きましょうメルヴァモン殿。スウォームハグルモンを倒すのでありますよ!」 「…その前に言うことがある。サンドリモン!」 私はサンドリモンの首筋に剣を当てる。 「ツカサを守ってやってくれ。何かあったら…お前をまた殺す。」 「…任せてくれ。」 コイツのこと自体はあんまり信頼できないが、殺し合ったからその強さは信用出来る。 「待っててくれツカサ。すぐ戻ってくるからな。」 私は彼の耳元にそう囁き、飛び立った。 既にスウォームハグルモンはターゲットを切り替えたのか、既に私たちから遠く離れた場所にいる。 「逃すか!!」 もっと。もっと速く。 フライトユニットの出力を上げ続け、私はアイツの中に突っ込む。 「愚かな。ワレワレに自ら突っ込んでくるとは。後でも追うつもりであるか?」 「ふざけんな!お前を殺すためにはお前の中に殴り込みをかけるしかない!だからアタシはこうして突撃したんだ!」 私は手当たり次第に奴を斬り裂きながら機関砲を乱射する。 「実に愚かである。テイマーを守れぬデジモンらしい。テイマーとデジモンのペアと戦う場合、脆弱な人間から削除するのは定石である。その程度の「黙れぇぇぇーーーッッ!!!」 いくら斬ろうと、いくら撃とうと、コアは見えない。 自分でも頭に血が昇ってるのがわかる。このままじゃラプターが言ってたみたいに物量で擦り潰されるだけだ。 どうしたらいいんだ…ツカサ…アタシどうしたら…! 「ワレワレはもっと多くの人間を殺さねばならない。それがデジモンイレイザー様の命令であるのだから。貴様のようなデジモンに構っている暇はない。」 「…だったらアタシも殺さなきゃならないな!」 「何?」 「アタシにはツカサのデータが混ざってる!人間みたいなもんだ!」 「対象をリスキャン・・・なるほど、確かに人間と混じっている。ならば貴様も命令の対象。⌘:Kill スタンバイ。」 奴らの標的が、一気に私に定まる。 好都合だ。 私は一気に出力を上げ、高く天へと舞い上がる。 「怖気付いたか。だがワレワレから逃げることなど出来ぬ。実行。」 スウォームハグルモンは私を再び飲み込もうと追い縋ってくるが、この翼の性能には遠く及ばない。 「追いつけないみたいだな!」 私を殺そうと、スウォームがどんどん引き伸ばされていく。 奴の群れの密度は下がってる。 今だ! 「ハートブレイクチャージ!」 急速に反転し、スウォームハグルモンの中心に突っ込む。 コアがいるのは群れの中心。奴が防御のためにレギオンを戻す前に決める! 「ハァァァァーーーッッ!!!!」 「なっ!?防御が間に合わ────── オリンピア改で、何体かのレギオンごとコアの右半分を貫く。 「ギ‥ァ…ァァァ,エア・コマ,こまんど、⌘:rm -rf /* 実行──── バグったようなザラザラした声で奴がそう言うと、周囲にいたレギオンが一斉に爆発し始めた。 「コイツ!自爆する気か!?」 私は慌てて剣を振り抜き、コアを吹っ飛ばす。 レギオンの爆発に巻き込まれればもう跡形も残らないだろう。 …早くツカサの元に戻らなきゃ。私は再び飛び立った。 ───────── 私はツカサの元に飛んで戻り、デジクロスを解いた。 「ツカサ…」 彼は目を閉じたまま、動かない。 「起きてくれよ…!」 私は彼の胸に触れた。 「え…?」 …おかしい。服が破れ血がついているだけで、あんなに深かった傷がない。 まさか…塞がった? 「────メルヴァモン?」 「……!?ツカサ!」 「俺…普通に生きてるのか?」 「よかった…!」 たまらず私は彼に抱きついた。 「マジか…俺完全に死んだつもりだったんだけど…そうだ、スウォームハグルモンはどうなった?」 「倒した!」 「そうか…メルヴァモンならやれると思ってた。」 そう言いながら、彼は私の頭を撫でる。 「………ツカサ…愛してる…!」 「…俺も愛してるよ、メルヴァモン。」 ━━━━━━━━━ 「サンドリモン殿、お二人は何をされているのでありますか?」 「おや、ラプタースパロウモンくんはキスを見たことがないのかな?」 「…なるほど、つまりお二人はそう言う関係なのでありますな。」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ credit 229 吉村司 D382 片角のメルヴァモン D559 ラプターメルヴァモン D549 スウォームハグルモン サンドリモン ラプタースパロウモン ━━━━━━━━━ 「なんだこれ…顔っぽいのがついた…デカい歯車…?」 ”それ”を見つけたのは、学校帰りの小学生。 「他のところにも似たようなの落ちてる…マジでなんなんだ?」 彼は知らない。 「…持ち帰ってみるか。」 その残骸が人を殺すため差し向けられたデジモンであったことを。 ━━━━━━━━━ 戦いが終わり、デジモンの痕跡の隠蔽が始まった頃。 そこに現れたのは、1人の少女とサングルゥモンであった。 「ちょっと…神月教授が目をかけてるって言うからどういう戦い方なのかと思ったら…どれだけ被害だしてるのよ!」 「スウォームハグルモンは最期に自爆したようなので、大半はそれによるものかと思います、マスター。」 「この引っこ抜かれた標識とか、多分それとは無関係よね…」 「マスター、このビルの残骸からはサンドリモンの火薬の匂いがします。」 「ってことはわざと倒したのね…どういう戦い方したのよ…」 彼女の名は甦咲理音。 「ですが、相手が相手なだけにこれぐらい隠蔽は簡単なのかもしれません、マスター。」 「ガス管の劣化による大規模爆発事故…だっけ。確かに目撃者は軒並みスウォームハグルモンの犠牲になってるし、後始末は楽かもね。……私がもっと早く来れてれば…!」 彼女もまた司と似た者ではあるのだが、両者の出会いは決して芳しくないものになるだろう。