「よし、一先ずはこんなもんか」 作業を終えて一息ついたリンドウの前には、作業台の上に五本の杖が並べられている。 アリーナで催された夏祭り、そこに彼も屋台を出していたのだが、その閉店間際に依頼された品の試作品が出来たところだ。 『ブシアグモンからガイオウモンまで使うことができる可変サイズの杖……杖術の杖だ。  なるべく木に近い、軽くてしなやかのがお望みだそうだ。急いでないから、最高の逸品を所望するよ。』 依頼主の言葉を噛み砕き、リンドウは何を求められているのか考え、資料を読み漁った。 木そのものではない、かと言って鉄の塊でもない。そして彼が辿り着いたのは【柳生杖】と呼ばれる仕込み杖であった。 「ヤギュウ?牛?」 「牛じゃなくて人間、そういう名前の凄腕の戦士がいたのさ。その人は竹と鉄でこれを作ったらしいけどね」 不思議そうに首を傾げるカメリアに、リンドウは軽く笑いながら答える。 彼の言葉によれば、割った竹の中に薄く長い鉄板を芯として三枚仕込み、竹を元通りに接着してその上から糸を巻き付け、塗料で固めて補強したものだという。 それにリンドウは独自のアプローチを試みた。 樫の木から削り出した杖、これ自体は杖術の分野で一般的に用いられている。だが、これでだけはデジモンの武器たりえない。 そこで彼は、ブラウンデジゾイドを芯に用いた。 正式名称を「Brown - Chrondigizoit Hybrid Organism (ブラウンクロンデジゾイト・ハイブリッド・オーガニズム)合金」という。 硬度としなやかさを両立したその合金を、彼はグロットモンが持つ技術で生産し、樫の木材と組み合わせることで杖に仕立て上げたのだ。 木材と合金の割合を変えたそれをいくつも試作し、最終的に残った候補は五本であった。 「気に入ってもらえるのあるかしら…」 「一発で気に入ってもらえるとは思ってないさ、だから何本も試作したんだ。細かい部分は後から詰めていくよ」 自信に満ちた様子で答え、リンドウは試作品達を布で包みながら今日の作業は終わりだと告げる。 「流石に疲れた…渡すのは明日以降にしよう、もう夕方だしな」 「そう言うと思ってお風呂沸かしてあるからゆっくりして、夕飯はハンバーグよ」 「お、ハンバーグは久しぶりだなぁ、さっそく入ってくるよ」 そう言って彼は腹の虫を鳴かせながら作業場を後にした。 ハンバーグか…聞いているだけで腹が減ってきた。つい腹が鳴ってしまう。 それを聞いたカメリアが笑みを向けてくる。 「大丈夫、あなたの分もちゃんと用意してあるわよ」 申し遅れた、私はスプシモン――あらゆる事象を記録する者である。 私が腹を鳴らした部分の記録はカットしておこう。 <終>