口開けて食え

>口開けて食え
くっちゃくっちゃ

前の座席を蹴らないで！

明らかに映画に集中してない顔

どんなに脚が長くても前の席は蹴らない

土曜の昼下がり。
公開初日の映画を観に、シネコンへやってきた俺は、
ポップコーンとドリンクを片手にスクリーン5へ向かっていた。

コーラはLサイズ。
ポップコーンは当然キャラメル。
チケットも予約済み、席もど真ん中のいい位置。
準備は完璧だった。
劇場に入り、照明が落ち、予告編が始まる。

座席に身を沈めて、ふう、とひと息。

ぽふっ。

何かが、俺の左肘にぶつかった。
視線を向けると、

DOROがいた。

もちもち。
ピンクの髪が映画のスクリーンの光にふわっと照らされて、
紫の瞳は前方を見つめたまま――

当然のように、俺の隣の席に座っていた。

チケットは買ったのだろうか。
知るすべは無い。
だが、もちもちの前足がゆっくりと動き――

すっ……

ポップコーンの箱に侵入。

ぱくり。

DOROは一切の迷いなく、
キャラメルのついたポップコーンをひとつ、口に運んでいた。

咀嚼。無言。堂々。

その様子はまるで、最初から自分のものだと言わんばかりの態度。

俺がコーラを飲んでる間にも、
DOROは5粒、いや、6粒くらいはさらっていった。

暗がりの中、もちもちがポップコーンに向かって手を伸ばすたびに、
微妙にリズムが崩れる。

だがDOROは一切気にせず、ただスクリーンを見続けていた。

やがて本編が始まり、俺は諦めて少し箱をDORO側に寄せた。

そうすると今度は――

ぽふっ

俺の肘掛けに、DOROがもたれてきた。
軽く、けれど確実に“くつろぎ態勢”に入っていた。

映画の内容はよく覚えていない。
ただ、上映終了後に空になったポップコーンの箱と、
満足げ（に見える）DOROの姿が印象に残った。

出口に向かう途中、DOROはふと立ち止まり、
映画のフライヤーを一枚持っていった。

きっと次も、来る気だ。

ちゃんとチケット買って入ってるんだろうなこいつ…

映画好きなのか…

飲み物は買わなかったんだな…

無心にポップコーン食べてるのかわいい