吟子の部屋。テーブルの上にはマグカップが二つ。一つにはブラックコーヒー、もう一つにはカフェオレが入っている。吟子と姫芽はマグカップと同じように並んで座って、他愛もない会話を楽しんでいた。 「――でね~、その時アタシ…………吟子ちゃん? どうかした?」  実は吟子には先程から、姫芽のおかしな行動が気にかかっていた。それが無意識のうちに顔に出ていたのか、姫芽が気がついて会話を中断した。 「姫芽、さっきから砂糖入れすぎじゃない……?」  姫芽は会話の合間に、カフェオレを口に含んでは、不思議そうに首を傾げて、砂糖を入れて、再度カフェオレを口に含んで、首を傾げて、砂糖を入れて……といった調子で、いつの間にかスティックシュガーの袋を十個ほど空にしていた。いくら甘いものが好きな姫芽とはいえ、流石に度を越している。 「なんか全然甘くなくて……というか、味がしないんだよね~」 「そんなに入れて甘くないわけないでしょ。一口ちょうだい」  吟子は眉をひそめて、姫芽のマグカップを手に取る。 「間接キスだ~」 「もう何回も直接キスしてるでしょ……。……あまっ!?」  いつものようにからかってくる姫芽を軽くあしらって、マグカップに口をつける。たった一口で、そのカフェオレが異常に甘いのが判った。 「え~、そう~? ……ん~、やっぱり味しないや」  姫芽は吟子の手からマグカップを取ると、再度カフェオレを口に含んで、そして首を傾げた。 「他に体の不調とかはない? もしかしたら病気かもしれないし……」  姫芽の態度がふざけているようには見えなくて、吟子は少し心配になってきた。その心配がすっかり伝わってしまったらしく、姫芽は吟子を元気づけるように明るい笑顔をしてみせた。 「だいじょぶだいじょぶ~、体は健康そのものだよ~」 「そう? ならいいんだけど……治らないようだったら、病院に行くのも考えようね」  一旦安心した吟子は、自分のマグカップを手に取って、残っていたブラックコーヒーを一気に喉に流し込んだ。コーヒーの風味がいっぱいに広がって、なんだかとてもほっとした。 「うん。心配してくれてありがとね~、吟子ちゃん」 「恋人の体だもん、心配するよ」  姫芽は嬉しくて堪らないといった表情になって、勢いよく吟子に抱き着いてきた。吟子は大袈裟だなあと呆れつつも、姫芽の体をしっかりと抱き返した。 「ね~、吟子ちゃ~ん、キスしようよ~。アタシ今すっごいキスしたい気分~」  姫芽は密着していた体を少し離して、吟子の顔をじっと見つめてきた。微熱を帯びた瞳には、今は吟子しか映っていない。期待に満ちた顔の姫芽を前にして、吟子が断るはずもない。 「うん、いいよ」  吟子の返事を聞くや否や、姫芽は顔をぱあっと明るくして、再度吟子に抱き着いた。姫芽の顔がゆっくりと近づいてきて、吟子の視界が姫芽で満たされて、そして唇に柔らかい感触がした。 「んぅ……」  唇を重ねてすぐに、姫芽の舌が吟子の唇をこじ開けようとしてきた。普段は舌を使わない唇だけのキスの時間もたっぷり取ってくれる姫芽にしては珍しい、と吟子は思ったが、舌を使うキスが嫌なわけではないので、求められるがままに姫芽の舌を迎え入れた。 「んっ、姫芽……?」  吟子が開けた僅かな唇の隙間に、姫芽の舌が強引にねじ込まれた。常に吟子を気遣ってくれる姫芽らしくない、荒っぽいキスに困惑する暇も与えられず、姫芽の舌が吟子の口腔内をかき回す。 「ん、あむ……ふぅ……ん、ぅ……」  吟子の口腔内を、隅々まで念入りに舐めるような執拗な舌遣い。いつもと雰囲気の違う姫芽に、吟子は少し怖くなって後ずさろうとする。しかし、いつの間にか腰をがっしり抱き締められていて動けない。 「ひ、め……ちょっと、まっ……」  吟子の制止が届いていないのか、姫芽が止まる気配は全くない。吟子は怖いと感じるのと同時に、得も言われぬ快感を覚えていた。姫芽の舌が動いて口腔内をかき回すたび、脳まで一緒にかき回されているような、そんな未知の快感だった。 「ふっ、う……ん、れろ……んむ……」  姫芽の舌の動きが激しくなるのに合わせて、吟子の興奮も高まっていく。頭の中は次第にぼんやりとしていって、気持ちいい以外の言葉は浮かんでこなくなっていった。 「んっ、んうぅ……!」  そして、吟子は絶頂した。キスだけで、敏感な部分を触られてもいないのに。吟子が絶頂に達したのと同時に、姫芽の腕の力が緩んで、ようやく吟子は解放された。 「……ぷはぁ。…………はっ! ぎ、吟子ちゃん、ごめん! アタシ自分のこと止められなくなっちゃってた!」  部屋の床に体重を預けて、肩で息をしながら目線だけを姫芽へと向ける。姫芽は申し訳なさそうな表情を顔いっぱいに浮かべていた。 「はぁ……はぁ……悪気がないんだったら……いい、よ……ふぅ……」  姫芽が優しく吟子の体を起こしてくれる。先程までとは全然違う、吟子のよく知るいつもの姫芽だ。 「…………甘かったなぁ」 「え?」  姫芽が俯き加減で呟いた言葉が上手く聞き取れなくて、反射的に聞き返す。 「さっきのキス、甘かったなぁ、って」 「キスが、甘い? どういうこと? あんなに砂糖を入れたカフェオレも甘くないって言ってたのに」 「なんでだろ、わかんない……」 「私が飲んでたのは砂糖入れてなかったから甘いはずもないし……」  吟子が考え込んでいると、姫芽が遠慮がちに吟子の袖を引いた。 「……ね、吟子ちゃん。もっかいキスしていい……? アタシまたしたくなっちゃった……。あっ、もちろん、もう疲れたとかなら全然断ってくれていいんだけど!」  姫芽は「断っていい」と口では言いながらも、その目は「したくて堪らない」と語っていた。やっと息が整ってきた吟子は、少し考えた後、首を縦に振った。 「いいけど、さっきみたいなのはしないでね。……ちょっと、怖かったから」 「うん、気を付けるよ~」  姫芽は嬉しそうに笑うと、ベッドに腰を下ろして、吟子に向かって手招きしてきた。どうやら、今度はベッドの上でしたいらしい。吟子は姫芽の隣に並んで腰を下ろし、姫芽をまっすぐ見つめた。しかし、姫芽はニコニコと笑っているだけで、何かをする様子がない。 「……姫芽? キスしないの?」  吟子が堪らず口を開くと、姫芽は恥ずかしそうに頬をかいた。 「それが~……アタシからしたら、また暴走しそうな気がしてて~……今度は吟子ちゃんからしてくれる?」  いつもキスは姫芽からすることが多いが、最近では吟子からすることもある。今更気後れすることもない。ゆっくり姫芽に顔を近づけて、そっと唇を重ねた。 「ん……」  唇で感じる、姫芽の唇の柔らかさ。幸せで、心がぽかぽかするのに、どうしても先程のキスを思い出してしまう。気持ちよかった、もっとしてほしい、物足りない……脳の奥の方に、そんな思いが湧き上がってくる。その時、突然姫芽の顔が吟子から離れた。 「……吟子ちゃ~ん、舌……入れてもいいかな~……?」  先程のことで負い目を感じているのだろう、控えめな調子の声色。しかし、その目はすっかり興奮に染まりきっていた。一瞬、吟子の頭を悪い予感が過る。 「……うん、いいよ」  それでも、吟子は首を縦に振った。 「吟子ちゃ~ん!」  満面に笑みを浮かべた姫芽が抱き着いてくる。その勢いのまま、吟子はベッドに押し倒された。吟子に覆い被さって、じいっと見つめてくる姫芽の視線は、まるで捕食者のよう。そんな視線を向けられて、被捕食者となった吟子は、その状況にどうしようもなく興奮してしまっていた。 「来て、姫芽……」  吟子が両腕を伸ばし、姫芽を抱き寄せて、吟子の唇と姫芽の唇とが再度重なった。 「ん……吟子、ちゃん……」  先程と違って、姫芽は遠慮がちに舌を突き出してくる。口を開けてそれを受け入れ、舌と舌とを絡めた瞬間、吟子は脳に電流が走ったような衝撃を受けた。 「んぅ……ふ、うっ……!」  姫芽の舌が吟子の舌を撫でるたびに、頭から体へ、手足の先まで快楽の電流が流れる。吟子の前には姫芽の体、後ろにはベッドがあって、逃げ場はどこにもない。吟子は絶えず与えられる快感に全身を震わせながら、されるがままに姫芽に貪られ続けた。 「吟子ちゃ、んっ……きもちいい~?」  姫芽は先程のように我を忘れた様子ではなく、吟子を気遣いながらキスをしてくれている。それなのに、吟子は先程のように、いや、先程以上に快楽を感じていた。姫芽の舌が吟子の口腔内で動くたび、吟子の脳内を占める姫芽の割合が大きくなっていく。 「ひ、めっ……私、またっ……!」  びくん、と一際大きく体を震わせて、吟子は再度絶頂に達した。 「……ふい~、吟子ちゃんが気持ちよくなってくれたみたいで何よりだよ~。…………ん、やっぱり甘い~」  姫芽はニコニコと笑って唇を舐めると、更に頬を緩めた。 「っはぁ、はぁ……姫芽、キス上手くなった……? キスだけでイくのなんて初めて……」  まるで、自分の知らない姫芽がいるような気分だった。吟子にとってそれはあまり嬉しくない。吟子の心がにわかに陰る。 「特別なことは何もしてないんだけどな~。でも、吟子ちゃんが気持ちよさそうにしてるのが見られてハッピーだ~」  しかし、姫芽が向けてくるのはいつも通りの笑顔。それを見て、吟子の心はすぐさま晴れやかになった。 「ふふっ……なんなん、もう……」  姫芽と二人、笑顔で見つめ合うだけで、吟子の心を温かいものが満たしていく。少しして、姫芽が不意に口を開いた。 「……ね、吟子ちゃん。続き……する?」  続き。キスの続き。それはつまり、セックス。姫芽とは何度も肌を重ねているのに、今日はいつもと何かが違った。姫芽と肌を重ねることを想像しただけで、心臓が飛び出しそうなほどに高鳴って、体の奥が熱くなった。姫芽と愛し合うのはいつだって嬉しいけれど、今日は体の全細胞がそれを期待しているような、今までに感じたことがないほどの興奮に満ちていた。 「うん……する。というか、したい……」  寝転がったままだった体を起こして、姫芽と向かい合う形でベッドの横に立つ。それから部屋着を取り払って下着姿になると、部屋の空気が興奮に火照った体を撫でた。それでも興奮は冷めるどころか、むしろ熱を増した。 「吟子ちゃ~ん、ちょっと見すぎじゃない~?」 「姫芽だって、ずっと私の方ばっかり見てるでしょ」  今、吟子の頭の中をすっかり満たしているのは、目の前にある姫芽の下着姿。ライブ前後の着替えや大浴場の脱衣所で見慣れているはずなのに、これから肌を重ねると解っているからか、まるで初めて見たように気分が昂ってしまう。 「おぉ~……」  吟子がブラジャーを外すと、それまで締め付けられていた胸が解放される。吟子の胸をまじまじと見ていた姫芽からは感嘆の声が漏れた。 「なんなん……姫芽も見てないで早く脱いでよ」  吟子がショーツを下ろすと、クロッチにはじんわりと染みがついていて、そこから細い糸が秘部まで伸びていた。吟子が二度も絶頂した事実を突き付けられているようで、頬が少し熱くなる。  ショーツも完全に脱いでしまうと、吟子は産まれたままの姿になった。高揚感と解放感のせいか、服を着ていなくても、寒いどころか暑いほどに思える。脱いだ服はいつも通り綺麗に畳んで、ベッドの脇に置いておいた。そして顔を上げれば、吟子と同じように一糸まとわぬ姿の姫芽がそこにいた。 「吟子ちゃん、きれー……」  棒立ちのまま、ぼうっと吟子の体を見つめる姫芽。その透き通るように白い肌、すらっと伸びた細い手足、くびれから腰にかけての曲線美、品の良い両胸の膨らみと、その先端で膨らんだ淡い桜色。一目見た瞬間、吟子は胸が痛いほどに高鳴るのを感じた。今すぐ姫芽に触れたい、姫芽に抱かれたい……と、体の奥の方から強い衝動が湧き上がる。 「…………姫芽も、綺麗だよ」  脳を突き上げるような激しい情欲を理性で抑えて、ようやく月並みの言葉を絞り出した。 「えっち、しよっか」  ベッドの真ん中辺りに座った姫芽が、笑顔でおいでおいでと手招きをする。姫芽と向かい合うような形で、吟子もベッドに腰を下ろした。先程とは違う、素肌に直接触れるシーツの感触。舞い上がった吟子には、それすら心地良く思えた。 「来て、姫芽……」  吟子が姫芽に向かって両腕を伸ばすと、姫芽は吟子の望み通りに抱き締めてくれた。遮るものは一切なく、姫芽の柔らかさと温かさを全身に感じる。吟子は愛しいその感触をぎゅっと抱き返した。 「それじゃあ触るね、吟子ちゃん」  姫芽はまず、優しく唇を重ねてくれた。唇が一瞬触れるだけの軽いキス。それから、両手を吟子の胸に伸ばした。 「んっ……」  姫芽の指先が触れただけで、姫芽に触られることを期待していた吟子からは甘い声が漏れた。 「吟子ちゃん、痛くない~?」  優しく、ゆっくりと吟子の胸を揉む姫芽。 「ん……気持ちいい、よ……」  ほんの僅かな刺激なのに、気を抜くと大きな声が出てしまいそうで、吟子は堪えるのに必死だった。 「じゃあ、もっと敏感なとこも触っちゃうね~」  そう言うと、姫芽の右手の指が吟子の左胸の先端に触れた。 「ひゃあっ!?」  吟子は甲高い声を上げて、びくりと体を震わせた。姫芽はそれに驚いた表情をして、吟子の胸から両手を離した。 「ごめん吟子ちゃん、痛かった? 一旦止める?」 「いや、痛くはなくて……その、気持ちよくて、びっくりしただけ……やめないで大丈夫だから」  姫芽の手が離れると、吟子はすぐに物足りなさを感じた。やめないでほしい、もっと触ってほしい……と、口を突いて出たがっている欲望を胸の奥に隠す。 「よかった~。……それにしても吟子ちゃん、なんか今日はいつもより感じやすくなってない~?」  思えば、一回目のキスをした時から吟子の体は変だった。姫芽に少し触れられただけで感じてしまうし、姫芽に触れられるたびにもっと欲しいと思ってしまう。それは、吟子自身も知らない吟子だった。 「今日の私たち、なんだか変だね」  我を忘れて吟子を求めてしまう姫芽と、そんな姫芽を受け入れてしまう吟子。二人とも変なのに、不思議と上手く噛み合っているような感じもする。 「だね~。でも、吟子ちゃんと一緒にいっぱい気持ちよくなれるなら嬉しいよ~」 「……私も、姫芽といっぱい気持ちよくなりたい。今度は止めなくて大丈夫だから、姫芽のしたいようにして……?」  姫芽にぐいと顔を寄せて、今度は吟子から唇を重ねた。姫芽の唇の感触をたっぷり堪能してから顔を離すと、姫芽はすっかりその気になっていた。 「おっけ~。じゃあ、こっちおいで~」  姫芽が笑顔で手招きをする。吟子は誘われるがまま、姫芽の胸に背中を預けた。姫芽が吟子を後ろから抱くような体勢。姫芽がいつもしたがる、姫芽のお気に入りの体勢だった。 「ふぅ……」  心を落ち着かせようと、小さく息を吐く。その時、吟子の腋の下を通って、姫芽の手が吟子の胸に触れた。姫芽の掌が吟子の胸をそっと包み込む。 「いっぱい気持ちよくなろうね~、吟子ちゃ~ん」  姫芽が吟子の耳元で囁いた。それだけで吟子はぞくぞくとした快感を覚えてしまう。しかし、姫芽の指が動き出して、吟子の意識はすぐに耳から胸へと移った。 「んっ……」  吟子の乳輪をなぞるようにして、姫芽の両手の人差し指が同時に弧を描く。姫芽の指先が一周するたびに、もどかしい刺激が吟子を襲った。 「く~る、く~る、く~る……どお~、吟子ちゃん、気持ちいい~? ……って、訊くまでもないか~」  姫芽は吟子の耳元で囁きながら、ただひたすらに同じ動作を繰り返す。敏感な先端には触れず、その周りを指先でなぞるだけ。気持ちいいのに絶頂には至れなくて、吟子は声を抑えるのも忘れて悶えた。 「ふっ、うぅ……ひめぇ……それ、だめ……ん、ふぅ……」  そんな吟子の様子に、姫芽はすっかり機嫌を良くしたようだった。 「もうちょっと我慢しようね~、そしたらもっと気持ちいいからさ~。ほら、く~る、く~る、く~る……」  姫芽の声を聴くたびに、姫芽の指が動くたびに、吟子は体を小さく震わせた。 「……ひ、め……お願い、イかせて……んっ……姫芽の指で、イきたい……」  吟子はついに我慢の限界を迎えて、姫芽にイかせてほしいと懇願した。姫芽が嬉しそうに笑う。 「ふふっ、よく言えました~。それじゃあ吟子ちゃんのお望み通りに~」  姫芽が思い切り吟子の乳首をつまむ。その瞬間、吟子の目の前に火花が散った。 「んううぅ~~~っ!!!」  強い衝撃が体中を駆け回って、それを外に逃がそうと吟子は体を仰け反らせる。全身を二、三度大きく震わせて、吟子はぐったりと脱力した。 「吟子ちゃん、すっごいイきっぷりだったね~」  姫芽の左手が吟子の腰を抱いて、右手が吟子の頭を撫でてくれる。その感触が心地良くて、吟子はしばらく姫芽に寄り掛かっていた。 「……姫芽。まだ、終わりじゃないよね。……次は、もっと気持ちよくして」  ずっと吟子の頭を撫でていた姫芽の右手を掴んで、吟子の下腹部へと誘導する。それがどういう意味なのか、姫芽にはすぐ伝わった。 「うんうん、もちろんだよ~」  まず、姫芽の中指の先が吟子の秘部の表面に触れた。期待と興奮に濡れたそこを優しくなぞられるだけで、吟子の口からはとろけた声が溢れた。 「ひゃんっ……」  姫芽の指がゆっくりと上に動いて、三度の絶頂ですっかり勃起した吟子の陰核に触れる。 「吟子ちゃんのクリ、もうこんなに硬くなっちゃってる~」 「言わ、ないで……んっ、うぅ……」 「いっぱい弄ってあげるね~」  姫芽の親指と中指が吟子の陰核をつまんで、ゆっくりと上下に動き始めた。姫芽の指先は吟子の愛液でべったりと濡れていて、動くたびにぬるぬると絡みつくような感覚がした。 「んぅ……はぁ、はぁ……」  姫芽の指の動きに合わせて、吟子は荒い息を吐き出す。 「吟子ちゃん、気持ちよさそ~。ん……イきたくなったら、いつでもイっていいからね~」  姫芽は指を動かしながら、吟子の耳たぶや頬にキスをする。それも、わざと音を立てて。陰核を弄られながら、耳にも刺激を与えられて、吟子は興奮でどうにかなってしまいそうだった。 「ふっ、う……ひめぇ……んぅ、私、もうっ……」 「いいよ~……イっちゃえ、吟子ちゃん」 「~~~っ! イ、くっ……!」  結局、吟子はすぐに四度目の絶頂に達した。 「かわいいよ~、吟子ちゃ~ん」  姫芽の腕の中で快感の余韻に浸る吟子の頭頂部に、姫芽の口づけが落とされる。それだけで、絶頂の疲労感すら忘れるほどに、吟子の胸は高鳴った。何度も絶頂したのに、もうすでにまた姫芽に抱かれたくなっている。吟子は軽く息を整えてから、背後の姫芽の方へくるりと向き直った。 「……今度は、向かい合ってしたい」  姫芽の笑顔をまっすぐ見つめていると、吟子はその瞳に吸い込まれるような感覚に陥った。無意識のうちに顔が近づいて、気づけば唇を重ねていた。 「んっ……吟子、ちゃ……あむ……」  吟子が伸ばした舌は、姫芽の唇の隙間とするりと抜けて、いとも簡単に姫芽の口腔内へと侵入した。 「ちゅ、んむ……」  念入りに舌と舌とを絡ませて、お互いの唾液を混ぜ合わせる。ぐちょぐちょに混ざった二人分の唾液を嚥下すると、それは媚薬のように吟子の体を熱くさせた。 「ん……あま……もっと……」  キスで気分が高まったのか、姫芽の勢いが激しくなる。その勢いに押されるようにして、吟子の体が少し傾く。 「ひ、めっ……」  背中に滑らかなシーツの感触がして気づく。いつの間にか、吟子は姫芽に押し倒されていた。一心不乱に求めてくる姫芽が、今は怖くない。むしろ嬉しくて、愛しさを覚えるほどだった。 「ぷは……ね、吟子ちゃん……指、挿入れていい?」  姫芽が口を開くために唇を離した一瞬がもどかしい。吟子は言葉で返事をする代わりに、両手で姫芽を抱き寄せて、再度唇を重ねた。 「はぁ、ん、あむ……んんっ……」  夢中になって姫芽の唇をついばむ吟子の秘部に、姫芽の右手の中指が優しく触れる。期待に愛液を溢れさせていた吟子の秘部は、姫芽の指をすんなりと受け入れた。 「あはっ、吟子ちゃんのナカとろとろ~」 「んっ……そういうこと、わざわざ言わなくていいから……」  もうすでに何度も姫芽の目の前で情けない姿を晒しているのに、感じていることを改めて指摘されるとやはり小恥ずかしい。照れ隠しに、姫芽をぎゅっと抱き締めた。 「吟子ちゃ~ん、動きづらいよ~」  姫芽は楽しそうにからからと笑いながら、指先だけを動かして器用に吟子を攻め立てる。吟子の膣は姫芽の指を放すまいとするように締め付け、吟子の脳に姫芽の指の形を生々しく意識させた。 「はっ……はぁ、あ……」 「ん~、もうだいぶほぐれてるし、指二本挿入れちゃおっか~」  突然、姫芽の指の感触が吟子の中からなくなる。そして次の瞬間、さっきよりも太い感触が吟子を貫いた。 「え、ちょっと――んうぅ!?」  姫芽の指が、ずるりと吟子の中へと入り込む。体を内側から押し広げられるような感覚。 「吟子ちゃん、二本でも楽々入っちゃうね~」 「いきなり……おくっ、までぇ……! んんっ……!」  姫芽が指を動かすこともなく、吟子はすぐに絶頂に達した。余韻の中で、姫芽の指が引き抜かれる感覚すらも、吟子には快感だった。 「アタシの手、吟子ちゃんのでびしょびしょだ~」  姫芽が吟子の顔の前で手を振る。姫芽の右手は、掌から手首まで吟子の体液でぐっしょりと濡れていた。 「うっ……汚してごめん……」 「全然汚くないよ~。アタシが吟子ちゃんを気持ちよくできたってことだから、むしろ嬉しいくらい~」  曇りのない笑顔を向けてくる姫芽は、吟子に沈む暇を与えない。吟子は小さく笑って、何か拭くものを取ろうと体を起こした。 「ふふぅ、なんなん……。ちょっと待ってて、今ティッシュ出すから……」 「…………あむ」  姫芽は突然、自分の中指と薬指――先程まで吟子の中に入っていて、吟子の体液に塗れた指――を口に含んで、アイスキャンディーでも舐めるように味わいだした。 「はっ、えっ!? 何しとらん!?」 「ん~、あまぁ~い……」  姫芽は自分の指をしゃぶり尽くすと、目を細めて恍惚とした。かわいらしい幸せそうな表情を前にして、吟子の頭は混乱するばかり。 「はぁ!? 甘いって、そんなわけないでしょ!?」 「え~、すっごく甘くておいしいよ~?」  姫芽はそう言うと、手についた吟子の体液を残さず舐め取るように、手首から掌に舌を這わせた。その艶めいた舌の動きが、吟子の劣情を刺激して仕方がない。 「そんなのだめだよ姫芽……」  そう口にしながら、吟子は考える。何がだめなんだろう。吟子の目の前にいる姫芽は嬉しそうで、そんな姫芽を見ていると吟子もなんだか嬉しくて、二人とも幸せな気持ちになっている。疲労のせいか、興奮のせいか、頭が上手く働かない。一般常識だとか羞恥心だとかいったものは、いつの間にか吟子から抜け落ちていた。  幸せそうな姫芽がもっと見たい、姫芽にもっと吟子を味わってほしい。もはや、吟子の頭の中にはそれ以外に何もなかった。 「ねぇ吟子ちゃん、アタシまだ吟子ちゃんとえっちしたいな~」  姫芽の顔がぐいと近づく。熱っぽく見つめてくる瞳から目を逸らせない。吟子は、頭の中が茹っているような気分だった。 「……ん」  震える吟子の唇からこぼれたのは、イエスともノーともとれない曖昧な返事。姫芽はそれを聞くと、愉快そうに口角を上げて、唇を重ねてきた。 「んっ……好きだよ、吟子ちゃん……あむ……大好き……」  唇が重なり、唇が離れ、姫芽の愛の言葉が鼓膜を揺らし、再度唇が重なる。それが三、四度繰り返された後、今度は吟子が口を開いた。 「……私も、姫芽のこと……んぅ、大好きやよ……」  姫芽に愛を囁かれるたび、姫芽に愛を囁くたび、胸の奥から熱いものが湧き出して、頭のてっぺんから指の先まで、体を全部満たしていく。 「吟子ちゃん……んっ、ちゅ……」  不意に姫芽の唇が吟子の唇から離れる。姫芽の頭頂部が見えて、それから吟子の鎖骨の辺りに柔らかい感触がした。そして次は胸元に同じ感触。少しずつ位置を下げながら、姫芽は繰り返し吟子の肌に唇を押し当てる。吟子のお腹を通って、両脚の太ももに口づけたところで、姫芽はキスを止めて顔を上げた。吟子の脚と脚との間で、上目遣いに吟子をじっと見つめる姫芽。 「姫芽……? やめちゃうの……?」  吟子はすぐに耐えられなくなって姫芽に問いかけた。無意識のうちに続きを求めていたのか、吟子自身が驚くほどに甘えた声が出た。 「……吟子ちゃん、ちょっとかわいすぎるよ~」  姫芽は上機嫌な声色で言うと、吟子の陰核に口づけた。そしてそのまま、一気に吟子の陰核を吸い上げる。敏感な部位に突然強い刺激を与えられて、吟子の頭の中が一瞬真っ白になった。 「んんぅ……っ!!!」  吟子は両手でシーツを固く握り締めて、幾度目かの絶頂に達した。吟子の全身から力が抜けて、座っていることもままならず、背中からシーツに抱き留められた。 「あはっ、イってる吟子ちゃんもかわいい~」  姫芽は楽しそうに、今度は吟子の秘部を舐め始めた。姫芽の舌の感触が、絶頂の直後で敏感になっている吟子の秘部を撫でる。 「ひ、めっ……イったばかり、だからぁ……!」  止まることも緩むこともなく続けられる姫芽の舌遣いに、吟子の脳内が快楽で塗り潰されていく。吟子の全身から汗が噴き出して、秘部からは汗以外の体液も溢れ出して、シーツにいくつもの染みを作った。 「ん……れろ……好きなだけ……んっ、イっていいからね~」  吟子の愛液と姫芽の唾液が混ざり合って、ぐちゅぐちゅと官能的な音を立てる。姫芽の舌が動くたびに奏でられる淫靡な調べは、吟子の興奮を何倍にも何十倍にも増幅させた。 「ひめぇ……私、またっ……んんっ……!!」  吟子は快感のあまりシーツから腰を浮かせ、体を弓なりの形にして絶頂に達した。びくんびくんと全身を震わせてから、再度シーツに倒れ込む。 「んふふ~、吟子ちゃん、またイっちゃったね~」  姫芽はべたべたに濡れた唇を舐めて、上機嫌そうに顔を綻ばせた。無邪気な子供めいた笑顔なのに、その瞳からは妖艶さが感じられる。見ているだけで胸がどきどきして、体の奥がむずむずするような、そんな妖しい魅力。体が勝手に熱くなって、姫芽を求めてしまう。 「はぁ……はぁ……さすがに、もう疲れたかも……」  しかし、幾度も絶頂に達した吟子の体力は既に限界だった。 「そう~? ……吟子ちゃんがいっぱい気持ちよくなってくれて、アタシも嬉しいな~」  一瞬、姫芽が「物足りない」とでも言いたげな顔をしたような気がした。しかし、姫芽はすぐに満面の笑みになったので、それは吟子の思い違いだったかもしれない。 「そろそろ寝よっか。……シーツは明日の朝一番に洗濯しないと」  ぐしょぐしょのシーツを見ながら、吟子は自分のはしたなさに頭を抱えた。 「あはは、だね~。……あっ、そうだ。寝る前に最後に一つだけ」 「どうしたの、姫芽」  姫芽の顔が吟子の首元に近づいてくる。 「ちょっと首に失礼して~……――んっ」 「……っ」  吟子の首元に姫芽の唇が触れたかと思うと、次の瞬間にはちくりとした痛みが走った。姫芽はすぐに吟子の首から離れて、満足げな笑みを浮かべる。 「これでよし。アタシの吟子ちゃんなんだぞ~、って痕つけておいたからね~」 「私が、姫芽の……」  かすかに痛みを感じる部分を撫でながら、口の中で姫芽の言葉を小さく繰り返してみた。するとなんだか、無性に心がときめいてしまう。 「じゃ、寝よっか~。吟子ちゃんといっぱいえっちできて、アタシお腹いっぱいだ~」  姫芽は笑顔のまま、吟子をぎゅっと抱き締めた。姫芽の柔らかさも、温かさも、遮られることなく全て直接伝わってくる。汗ばんだ素肌同士が密着して、そのまま一つに溶けていくような気分にすらなった。 「お腹いっぱい、って……ふふっ……なんなん、もう……」  姫芽のおかしな言葉選びに、吟子は堪らず笑ってしまった。姫芽に抱き締められていると、吟子の心は安心感で満たされる。瞼を閉じれば、疲れと安心のせいか、吟子の意識は急激に薄れていった。  翌朝。吟子の部屋。 「ふあ、あ……」 「わ~、吟子ちゃん、おっきなあくび~」  口元を手で覆って大きなあくびをした後、吟子は慌てて辺りを見回した。当然、部屋の中にいるのは吟子と姫芽だけで、吟子の大あくびの目撃者も姫芽以外にいない。姫芽と二人きりでいると、吟子はどうも気が緩んでしまうらしい。 「遅く寝て早く起きたから、まだちょっと眠い……。姫芽は平気そう……というか、むしろ元気?」  昨晩の吟子は、姫芽と肌を重ねた後そのまま寝落ちした。そして今朝は、染みだらけのシーツを起きてすぐに洗濯する必要があった。早く起きたおかげか、ランドリーを使う生徒は他におらず、吟子と姫芽の情事の証拠を誰にも見られることがなかったのは幸運だった。 「アタシは夜更かしして早起きするの慣れてるからね~。昨日の夜は吟子ちゃんといっぱい愛し合えて、アタシ今絶好調~」  満面の笑みを浮かべてピースサインをしてみせる姫芽の前で、吟子は堪らず目を伏せる。 「うぅ……昨日の私、ものすごく変だった……あんな姿見せるなんて……」  昨晩のことは、今でも思い出すだけで吟子の体を熱くさせる。ああやって激しく何度も姫芽を求めたのは、吟子にとって初めての経験だった。眠りについた後も姫芽と肌を重ねる夢を見てしまうほどに、昨晩の吟子は姫芽に夢中になっていた。 「あはは~、全然変じゃなかったよ~? 昨日の吟子ちゃん、さいっこーにかわいかったな~」 「言わんといて……」 「恥ずかしがることないのに~」  姫芽はにやにやと笑って抱き着いてくる。吟子だってそれに悪い気はしないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。 「……そうだ。姫芽は朝ご飯どうするの?」  いつまでもこの話題を続けるわけにはいかない、と吟子は朝食の話題を振った。 「特に予定はないけど、吟子ちゃんと一緒に食べたいな~」 「クロワッサンでよければ。……確か、姫芽のいちごミルクもストックがあったはず」  吟子の部屋には、姫芽の好物のいちごミルクがストックしてある。吟子が飲むことはないので、完全に姫芽だけのため。そして同じように、姫芽の部屋には吟子のコーヒーが保管してある。お互いの部屋で一緒に過ごす時間が増えるうちに、いつの間にかそうなっていた。 「それならご馳走になっちゃおっかな~」 「全部市販品だけどね」  程なくして、クロワッサンが二つと、ブラックコーヒーの缶、そしていちごミルクのパックが机の上に並ぶ。吟子と姫芽は並んで腰を下ろして、同時に手を合わせた。 「いただきま~す」 「いただきます」  しばらくして、吟子がクロワッサンの半分ほどを胃の中に収めた頃。吟子が食べているのと同じサイズのクロワッサンを既に食べ終えた姫芽が、吟子の方をじっと見つめてきているのに気が付いた。 「……吟子ちゃん、おいしそうだな~」  姫芽が呟いたその言葉に、吟子は思わずむせ込んでしまった。 「げほっ、げほっ……いや、いきなり何言うとらん姫芽!?」  少なくとも、ここがラウンジやカフェテリアでなくて良かった。姫芽の爆弾発言は吟子以外の誰にも聞かれていない。 「いや~、なんかさっきから、吟子ちゃんがすっごくおいしそうに見えてさ~」 「なんなん!? …………あ……もしかして姫芽、また昨日みたいになってる?」  少し考えて、吟子は昨晩の姫芽の様子を思い出した。砂糖を大量に入れたカフェオレを「味がしない」と言って、吟子の唾液や愛液を「甘くておいしい」と言っていた姫芽を。 「うん、実は~。味がしないどころか、お腹に溜まってる感じもないんだよね~。アタシ今お腹ペコペコ~」  眉を下げてお腹をさする姫芽を見ていると、吟子も段々心配になってくる。吟子は腕を組んで、何か手立てはないか考え始めた。 「うーん、どうしたらいいんだろう……やっぱり病院?」 「ん~、そうだなぁ……あっ、そうだ。昨日だと、吟子ちゃんとえっちした後はお腹いっぱいになってたかも」 「……ちょっと姫芽。私は真面目に心配してるんだけど」 「アタシだって真面目に困ってるってば~。実際、寝る前はすっごい満たされてて、幸せな気持ちだったんだよ~」  姫芽の顔はふざけているようには見えない。到底信じられないが、どうやら本気で言っているらしい。 「…………えっと、つまり……私とするのが食事代わりになってた、ってこと……?」  吟子の頭に浮かんだ突拍子もない考えが、口を突いてこぼれ出た。それを聞いた姫芽の顔がにわかに明るくなる。 「それだ~! それだよ吟子ちゃ~ん!」 「いやいや、そんなのありえないでしょ」  そうに違いない、といった感じで目を輝かせる姫芽に、吟子は思わず苦笑した。 「まぁまぁ、とりあえず試してみようよ~」 「試すって、どうやっ――んむっ!?」  訝しむ吟子の唇に、姫芽の唇が有無を言わせず重ねられた。突然のことで驚いた吟子の一瞬の隙に、姫芽の舌がぬるりと入り込む。 「吟子、ちゃ……んぅ……」  姫芽の舌が吟子の口腔内をかき混ぜて、僅かに残っていたコーヒーの風味が一瞬で姫芽に染められる。クロワッサンの味も、コーヒーの味も、吟子にはもう思い出せなかった。 「ひ、め……」  抵抗しなきゃ、と頭のどこかでは思っているのに、体が思うように動かない。姫芽を突き放そうと動かした両腕は、吟子の意思とは裏腹に姫芽の体を抱き寄せた。一気に体が近づいたせいで、吟子の太ももの上に姫芽が座るような体勢になる。 「んっ、あむ……」  体が勝手にしたことでも、吟子のハグは姫芽の気分を昂らせたらしい。姫芽の息遣いが荒くなって、舌の動きが激しくなっていく。 「んむ、う、うぅ……」  吟子の口腔内を執拗に貪る姫芽は、吟子がきつく抱き締めているせいで一瞬も離れることはない。吟子と姫芽の唇が、胸が、お腹が、ぴったりと接着されたように重なっていた。 「吟子ちゃん……吟子ちゃんっ……」  姫芽に名前を呼ばれるたび、吟子の体は奥から熱を増していく。いつしか頭の先までぼうっと熱くなって、その熱が弾けるように、吟子は絶頂に達した。 「んんっ……!」  吟子の下腹部から温かい感覚がじんわりと広がる。ふらっと力が抜けて、思わず姫芽の体に寄り掛かった。 「……ふぅ。……あっ、ごめん吟子ちゃん、いきなりでびっくりさせちゃったよね……吟子ちゃんとキスしたい、って思ったら抑えきれなくて~……」  姫芽は急に落ち込んだ声色になって、吟子の背中をあやすように撫で始めた。確かに姫芽の行動は突然で驚いたが、吟子も拒めずに求めてしまったのであまり強く言えない。 「ん……いいよ、別に。……それより、どうだった? その……私との、キス」  姫芽の掌の感触が、吟子をすっと落ち着かせる。キスの感想を訊くのはなんだか照れ臭くて、表情を見られないように、姫芽の肩に顔を埋めたまま訊いた。 「甘くておいしくて、もう最高だったよ~! 吟子ちゃん大好き~!」 「……それって、姫芽がいつもお菓子に言ってるのと同じ『大好き』?」  吟子は姫芽の肩から顔を上げて、わざとらしく不満げな表情をして言った。 「あっ、いや、確かに吟子ちゃんはおいしいんだけど、そうじゃなくて~! 吟子ちゃんのことはちゃんと恋人として大好きだよ~!」  姫芽はがばっと立ち上がって、大袈裟な身振り手振りをしながら慌てだした。その姿に吟子は堪らず笑ってしまう。 「ふふっ……知ってるよ。じゃあ、今日も一日頑張ろうね。早く支度しないと朝練に遅れちゃうよ」  吟子はくるりと体の向きを変えて、テーブルの上のクロワッサンに向き直った。 「……うん、そうだね~。アタシは自分の部屋に戻って着替えてくるよ~」  吟子の頬に姫芽の唇の感触。それから姫芽の足音が遠ざかって、ドアが開いて閉まる音がした。  昼休み。教室。 「ふぅ……お昼、今日はどうしようかな……」  授業で使った教科書類を片付けて、昼食をどうするか考えていた時、吟子の手首が急に握られた。 「吟子ちゃん、ちょっと来て」  見ると、それは姫芽だった。いつもの笑顔はなく、どこか焦っているような表情。 「姫芽? 大丈夫?」 「いいから、お願い」  姫芽は会話を続けようとせず、ただ荒っぽく吟子の手を引っ張る。その様子が心配になったので、吟子はとりあえずついていくことにした。 「こっち、カフェテリアとは反対方向だけど……」  カフェテリアに向かう生徒たちの合間を縫うように、姫芽はずんずん進む。吟子は姫芽に先導されるまま、賑やかな話し声に背を向けて、人気のない静かな方へと向かっていった。 「……ここならいいかな」  そうして辿り着いたのは、あまり使われていないらしい、全体的にうっすらと埃を被った資料室。伝統の匂いを感じさせる資料の山に、吟子は思わず興奮してしまう。しかしすぐに姫芽の様子が変だったことを思い出して、姫芽の方へと向き直った。 「それで、どうしたの?」  次の瞬間、吟子は姫芽によって壁際に追い詰められていた。背中に冷たくて硬い感触がして、視界の隅に埃が舞った。 「ごめん吟子ちゃん、アタシもう我慢できないや」  驚きに見開いた吟子の両目に映るのは、迫ってくる姫芽の顔。熱に浮かされたように、吟子を強く求める姫芽の顔だった。 「えっ――」  吟子の唇に姫芽の唇が重ねられる。 「あむ……吟子ちゃんっ……吟子、ちゃんっ……」  姫芽は吟子に体を押し付けながら、鳥が嘴でついばむように、吟子の上唇と下唇とを交互に甘噛みした。 「ん、ぅ……」  優しい、しかしもどかしい刺激に、吟子の体がじんわりと熱を持つ。もっと強い刺激を求めて、吟子は思わず舌を突き出した。 「んっ、む……んちゅ……」  突き出された吟子の舌を、姫芽の唇が捉えて優しく挟み込む。それから姫芽が口をすぼめて吟子の舌を吸うと、舌先から脳天まで、吟子の頭に快感が稲妻のように走った。 「ふ……う、ひめっ……」  自然と唾液が分泌されて、吟子の口腔内がいっぱいになる。姫芽は今度は唇と唇とをぴったりくっつけて、吟子の唾液をジュースでも飲むように吸い始めた。 「んっ……んっ……」  姫芽はごくごくと喉を鳴らして、溢れるほどの吟子の唾液を嚥下していく。自分の一部が姫芽の体に入っていって、姫芽に混ざっていると思うと、吟子はどうしようもなく興奮してしまった。 「ひ、め……わたひっ……」  姫芽の舌が、吟子の唾液を一滴残らず舐め取るように、口腔内を隅々まで撫でる。絶えず与えられる刺激と興奮とで、吟子の気分は次第に昂って、そして絶頂に達した。 「…………ん、ぷはぁ。……あっ、その……えっとね、吟子ちゃん……」  唇を離した姫芽が、眉を八の字に曲げて吟子を見つめる。口を開いてはすぐに閉じて、何と言えばいいのか判らない様子だった。 「私は大丈夫だよ。姫芽はお腹が空いてただけなんだよね」  姫芽を安心させるために、吟子はにっこり笑ってみせる。壁に押し付けられた背中も痛くはないし、姫芽が落ち込んだ顔をしていることの方が、吟子にとっては嬉しくなかった。 「でも、あんな強引に……」 「いいから。……それより、満足はできた? 午後の授業も頑張れそう?」  吟子が訊くと、姫芽は俯き加減になって、おずおずと口を開いた。 「……まだ足んない、かも」 「じゃあ、もう一回キスしよっか」 「その……キスもいいんだけど、口でしたいな~、って……」  姫芽の手が、制服の上から吟子の下腹部をそっと撫でる。口でしたい、というと……それはつまり、吟子の秘部を舐めたい、ということで。 「いや、ここ学校の中だよ!? ……キスはしちゃったけど、さすがにそれは……!」  吟子は慌てて首を横に振った。吟子と姫芽は今まさにキス――しかも深いやつ――をして、吟子はさらに絶頂までしてしまった訳だが、学校でそれ以上のことをするのはさすがにだめだ。バレたら怒られるどころか、退学もあり得る。 「でも、キスよりえっちの方がお腹に溜まるし……今朝もキス一回しかできなかったから、ずっとお腹空いてて~……」  姫芽は吟子の制服をぎゅっと握って、縋るような視線を向けてきた。吟子より僅かに低い身長と猫背気味の姿勢が相まって、若干上目遣いの姫芽。吟子は姫芽の上目遣いにどうしても弱い。 「だめ、だって……」  ふと、吟子も姫芽も黙ってしまう。すると辺りはしんと静まり返る。遠くの方でかすかに声が聞こえるくらいで、どうやら吟子と姫芽以外には近くに誰もいないらしい。 「……なるべく早く済ませるからさ、お願い~……」  姫芽の瞳に見つめられると、吟子の鼓動は勝手に早鐘を打つ。姫芽に求められるがままに応えたいという感情と、学校で淫らな行為をするなんてだめだという理性とがせめぎ合う。 「……………………わかった。一回だけだからね」  しばらく悩んだ末、吟子は感情を優先した。 「吟子ちゃ~ん! だぁいすき~!」  満面の笑みになった姫芽が抱き着いてくる。その柔らかさと温かさをどうしても意識してしまって、鼓動がさらに速くなる。こうも密着していると、心臓の音が姫芽にも聞こえてしまいそうだ。 「姫芽……早くしないと、誰か来ちゃうかもしれないから……」  一度は拒否した手前、高鳴っている鼓動を知られるのはなんだか気恥ずかしくて、吟子はそっと姫芽の体を引き離した。 「ごめんごめん、嬉しくてつい~」  姫芽はからからと笑って一歩下がる。吟子は大きく息を吐いてから、制服のスカートの下に手を入れて、ショーツを脱いだ。 「……脱いだよ、姫芽」  いつも着ている制服の下にショーツを穿いていないというのは、どうもむずむずする。学校で下着を脱いでいる状況に、吟子の心臓は期待と興奮以外の理由でもどきどきしていた。 「あっ、スカートも上げてくれないとやりづらいかも~」 「…………わかった」  姫芽しか見ていなくても、自分からスカートの裾を持ち上げて秘部を露出するのは当然恥ずかしい。姫芽には全裸だって何度も見せているというのに、特殊な状況のせいか、吟子の頬は燃えるように熱くなっていた。 「綺麗だよ~、吟子ちゃ~ん」  いつもは嬉しくて仕方ない姫芽の褒め言葉も、今は恥ずかしさを倍増させるだけだった。 「いいから、さっさと済ませて」  腰を少しだけ前に突き出して、早くするよう姫芽に催促する。その行動も吟子には恥ずかしくて堪らなかったが、今は一刻も早く姫芽を満足させてしまいたかった。 「は~い」  姫芽が屈んで、吟子の両脚の間に顔を埋める。姫芽の顔が持ち上げたスカートの下に隠れて見えなくなった。 「……いつでも、いいよ」  吟子からは秘部が見えないせいで、いつ刺激が与えられるのかも判らない。かすかに当たる姫芽の息が、吟子の緊張を極限まで高めた。 「それじゃあ、いただきま~す」  吟子の秘部を、温かくて柔らかいものがぬるりと撫でる。その感触はまず外側から、そして中心のより敏感な部分へとゆっくり近づいていった。 「んっ、う、ふぅ……ふぅ……」  吟子の両手はスカートを持ち上げるために塞がっていて、口元を押さえることができない。吟子は奥歯を噛み締めて、必死に声を押し殺した。 「ん、むぅ……れろ……」  姫芽は夢中になって舌を動かしている。姫芽の舌先が吟子の陰核を撫でると、吟子は腰をびくりと震わせる。 「ひ、めっ……んん……そこ、だめぇ……」  あまりの快感に、吟子の腰が無意識のうちに引けてしまう。姫芽は吟子の腰を両腕でがっしり抱き込んで、吟子が逃げられないようにした。 「吟子ちゃん、クリ弄られるの好きだよね~。……こういうのはどうかな~。……ふーっ」  突然、吟子の陰核に息が吹きかけられた。予想外の刺激を与えられて、吟子の目の前に火花が散る。 「んんんぅ……っ!」  吟子は両膝をがくがくと揺らしながら絶頂に達した。両足を踏ん張って、力が抜けて倒れ込みそうになるのをなんとか抑える。 「あははっ、吟子ちゃん気持ちよさそ~。もっといっぱいしてあげるからね~」  姫芽は上機嫌に笑って、優しく吟子の陰核に口づけた。 「……はぁ、姫芽、ちょっと待っ――」  吟子が言い終わらないうちに、何かが吟子の膣内に侵入した。それは吟子もよく知っている感触、つい先程口腔内でたっぷり味わった、姫芽の舌の感触だった。 「んぅ……ん、むぅ……」  姫芽の舌が絶頂で敏感になった吟子の膣内を這い回り、ぐちょぐちょと淫靡な水音を立てながら、吟子を内側からかき混ぜた。学校でいけないことをしている興奮と、鼓膜を揺らすはしたない音と、秘部に繰り返し与えられる刺激とで、吟子の頭がごちゃ混ぜになる。 「はぁ、あ……んんっ……」  姫芽の舌が動くたびに、吟子の脳を丸ごと揺らすような快感の波が訪れる。舌が一瞬引き抜かれ、波が引いたかと思えば、次の瞬間には舌が再度挿入され、吟子を激しい快感の波が襲う。 「吟子、ちゃ……んぅ……いつでも、イっていいからね~……」  姫芽が言葉を発するために口を動かすのさえ、吟子にとっては快楽を与える愛撫だった。 「ひめっ……んっ、ひめぇ……」  姫芽の名前を呼びながらも、その後に言葉は続かなかった。吟子の脳は絶えず与えられる快感でいっぱいで、まともな思考をできる状態になかった。 「んむ、んっ……んぅ……」  吟子の秘部から溢れ出る愛液を、姫芽は一滴残さず飲み干そうとする。姫芽が愛液を吸うために口を動かせば、その刺激は吟子には快感になった。 「だめ……イっ、くぅ……!!」  スカートの裾をぎゅっと握り締めながら、吟子は絶頂に達した。びくんびくんと全身が震えて、立っているのもままならない。 「……っと、お疲れ様~、吟子ちゃん」  脚の力が抜けて膝をついた吟子を、姫芽が優しく抱き留めた。 「はぁ、はぁ……」  姫芽が咄嗟に敷いてくれたハンカチの上に腰を下ろして、吟子はゆっくり呼吸を整える。姫芽に抱き締められていると、快感の余韻がじんわりと全身を満たして、体の芯からぽかぽかと温かくなった。 「すっごくおいしかったよ~」  姫芽はにこにこと満足げに笑いながら、口元についた吟子の体液を舐め取った。姫芽の幸せそうな表情に、思わず吟子の頬も緩む。吟子はハンカチを取り出して、赤ちゃんみたいに口元をべたべたにした姫芽に手渡した。 「そう……それならよかった。今度こそ満足できた?」 「うん、お腹いっぱい~。おかげで午後の授業も放課後の練習も頑張れるよ~」  口元を拭って、一点の曇りもない笑顔を浮かべる姫芽。姫芽を満たすことができたんだと思うと、吟子の胸が喜びでいっぱいになった。 「そっか。……次からは、物足りなかったらちゃんと言ってね。私もなるべく応えられるように頑張るから」  その時、吟子の胃がぐうと間の抜けた音を出した。恥ずかしさに頬がぼうっと熱くなる。 「あっ、そういえば吟子ちゃんのお昼はまだだったね~。吟子ちゃん、歩けそう?」 「ん……もうちょっと休んでいたいかな」 「じゃあアタシが購買でなんか適当に買ってくるね~」 「うん、お願い」  ひらひらと手を振りながら資料室を後にする姫芽を見送り、吟子は壁に背を預けて大きく息を吐いた。 「はぁ……とんでもないこと、しちゃったなぁ……」  学校でこんなことをしてしまうなんて。している最中は気が回らなかったが、いざ冷静になって考えてみると、さすがに危険すぎた。今回は幸運なことに誰にも見つからなかったとしても、今後姫芽の“食事”は部屋で済ませた方がいいかもしれない。 「……そうだ、下着を穿かないと」  吟子は床に落ちたままになっていたショーツを手に取って、それを穿くために立ち上がった。すると、太ももの内側をぬるりとした温かい感触が撫でる。吟子はそれが溢れ出た愛液だと直感した。吟子のハンカチは姫芽に渡したままだし、どうしたものかと考えている間にも愛液は脚を伝って流れ落ちていく。 「ごめん姫芽、すぐ洗うから……!」  吟子は目に入った姫芽のハンカチを拾い上げて、脚と秘部を丹念に拭き取った。 「……これでよし」  改めてショーツを穿くと、ようやく吟子も落ち着いてきた。吟子の愛液でべったりと濡れた姫芽のハンカチを洗うためにトイレへ向かう頃には、呼吸もだいぶ落ち着いて、頬の熱もすっかり引いていた。