ドルフロ2の二次創作のまとめ 四枚目 前提と独自の設定 これは二次創作。本編とは混同しないこと。 この世界は治安が悪いため、敵対する個人・組織が簡単に出現する。 グリフィンの指揮官は複数人居て、人形も分散して割り当てられていた。 ヴェプリーはエルモ号に乗るまでに様々な職種を経験している。 この話は本編とは関係無い曖昧な時系列で進行している。 設定の齟齬については諦める。 なんらかのパロディが含まれている場合がある。 登場人物 エルモ号の連中 エルモ号の男指揮官……エルモ号で最も指揮が得意。 エルモ号の女指揮官……エルモ号で二番目に指揮が得意。美容に気を使い、我が強い。 ヴェプリー……戦術人形。強い。暇な時にネットで新曲を配信している。出来る範囲でアイドルらしくありたいと思っている。指揮官が結構好き。理想と現実の差に苦しむ。 元グリフィンの連中 ツインテの指揮官……車の趣味が他の指揮官達と合わない。そこそこの生活をパートナーと送れればいいタイプだが、現実は常に厳しい。 ツインテ……M14を持っている戦術人形。場数を踏んでいる為、下手な人形より強い。真面目。 クロの指揮官……メンヘラ男。指揮より直接戦闘が得意だが、あまり意味がない。 クロ……戦術人形。場数を踏んでいる為、下手な人形より強い。配信が趣味。誓約している指揮官には優しいタイプ。 元グリフィンの女指揮官……元グリフィンの指揮官達と組んでいたが、レーティングの問題でヴェプリーの一連の話に出ることはない。 新興PMCのCEOの女……元グリフィン上級職員。既婚者。かなり変な性格。グリフィンをクビになって以来、賞金ハンターとして活動していた。エルモ号の連中と微妙に協力している。 01 イエローエリア、低汚染区域。荒れ果てた舗装の合間、まばらに草の生えた地面。 「昔、広告ブロックも入れてなかった頃……俺は夢見てた」クロの指揮官が呟いた。「終末とかぁ?」クロ。 「検索したら黙示録なら■■で、とか通販の広告が出てた。そりゃ欲しいけどさ、電池なら■■、当てはめだ」 「発注したらお急ぎで終末をお届けいたしまーす☆……ククッ」クロ。「ヴェプリーの声真似しないで」 終末は近い、と埃の積もったシャッターに落書き。「見ろよ」とツインテの指揮官が指差す。 電話ボックス。 「これ、リミナルスペースって奴じゃない?」クロが騒ぐ。「じゃない?ねえねえ?」 クロの指揮官が近寄っていく。 皆、止めなかった。異様な雰囲気が場に満ちていて……そのまま、透過素材で出来たドアを開ける。受話器を取る。 数秒して、皆で目を見合わせた。彼は受話器を投げ捨てた。プラスチックが砕ける。よく見ると、コードが切れてる。 「ちょっと何?皆押し黙ってたから私まで黙っちゃったじゃん。アンタ空気冷やす天才でしょ?はぁ~?」 「期待なんてするもんじゃねえ」と彼が呟いた。 それっきり、歩き去る。 「いないな」ツインテの指揮官が言う。「いませんね」とツインテ。ヴェプリーはドローンを飛ばす。「いないよ☆」 「クロ」「ヒッヒッ、すみませぇん……」手刀。「あっつぁ!おい!人の女が殴られてんぞ!助けろよ!」「うるせえ」 老人と老犬の写真を見た。探してるのは犬の方だ。コーラップスストームの際の集団避難、トイレ休憩がこの街。 (バスから降りて、目を離したらいなくなってて……お願いです。探してください)と言うわけ。 幸い、そんなに日数は経過してない。 郊外には花畑があった。 「いいじゃん」クロが何度かシャッターを切った。「これ、大丈夫な奴か?」とツインテの指揮官がセンサーを向けた。 「大丈夫っぽいですね」とツインテ。「てかさー、これ結構取れ高あるんじゃない?通信良かったら配信出来てたのに」 ヴェプリーは口笛を吹く。依頼人に指示された音程をそっくりまねた。花の間から老犬が出てきた。 「おいでー」クロ。「うあー!」噛まれた。「行こうぜ」ツインテの指揮官が呟く。 ヴェプリーは犬を抱き上げたけど、結局歩きたそうだったし、そのままついてきてくれたから、そうした。 02 イエローエリアの村落。 一列に人間達が並んでいた。 「生き残りたきゃな、あそこまで走るんだ」ヴァリャーグが低く笑い、村人の前でわざとらしくAKに装填する。 「弾に当たんねえで走り切ったら見逃してやるよ!」笑い声。 その時、近くに一台の車が停まり、わざとらしくエンジンを空吹かしした。 大排気量のV8エンジン音…… 一列にヴァリャーグ達が並んでいた。 「俺達の車の定員は少ないんだ。よく走った奴から撃たないでやる」賞金ハンターが笑い、AR-15に装填した。 「走らない奴から頭をブチ抜いてやる」低い笑い声。 その時、近くに一台のEVが停まり、わざとらしくクラクションを鳴らした。 ステンレスのボディが太陽光を反射して、賞金ハンターとヴァリャーグの一部が悲鳴と共に一時的に失明した。 「いいか、我々はBRIEFの者だ。貴様らは賞金ハンターとヴァリャーグを一列に並べて、動く的にした疑いがある」 ヴェプリー達は一列に並んでます。ええと、どこから説明したらいいのかな。 そう、ヴェプリー達は悪徳賞金ハンターを狩って欲しいと言う依頼を受けていた。 イエローエリアを襲うヴァリャーグがいるんだけど、そいつらはそれを奇襲する。 それだけなら指揮官達がいつもやってる事なんだけど、その後が最悪。 生き残りと村人を混ぜ込んだ後、『何か』をして、ヴァリャーグにおっかぶせて始末する。そういう奴らだった。 一人生き残った村人がスマホを持っていて、私達に依頼を出した。そしてやった。それで終わるはずなんだけど。 「ここ無法地帯じゃん?こいつらのせいで何人も死んでるし、ちょっとくらいいいんじゃね?」クロが呟いた。 視線を交わしあう。 「いいか!我々は別に普通にしょっぴいてお前らを逮捕したり出来るが、溜飲が下がらないぞ!」MDRに装填した。 その時、近くに一台の高級な日本製SUVが停まり、わざとらしくエンジンを空吹かしした。 BRIEFの車です。 「ヴェプリー達を助けて欲しいな☆」電話に出たのは女の指揮官。 「あんたらバカ連中、全員連帯責任!ちゃんと絞られてきなさい!」 そういう事で、ヴェプリーは今牢屋で日誌を書いています。 03 街。 いろいろな手続きが終わった。「あっ!」ツインテの指揮官が叫んだ。駐車場を見る。 「景観が良くなってますね」とコルフェン。確かに。「俺達の車が盗まれたんだろ!」 「あなたのです!あたしを含めないで!」ツインテ。仕方なく、ヴェプリー達は徒歩で帰った。 翌日。 「ヴェプリー、部屋に匿ってくれ」うちの男の指揮官がやってきて、物陰に隠れた。 「ヴェプリー、お前の指揮官いるか?」ツインテの指揮官達とコルフェン。 指差す。「おい!」健診から逃げ出したらしいです。動物病院から逃げる犬みたいに。 結果?ズタボロ。連勤と不眠とクソみたいな食生活が原因です。コルフェンは怒ってます。 総合的な健康管理が必要だ。後、クロの指揮官がこの際訓練と健康管理を同時に済ませようと言いました。 「嫌だ!」指揮官とメイリン達は叫び、無理矢理にスポーツウェアに着替えさせられる。クロのガラケーに手を被せた。 「ねえ!流石に写さないよ!」「で、何するつもりなの?ヴェプリー気になっちゃう☆」 「俺達と研修内容にやたら差異があることに気が付いたんだ。同じ目に遭わせてやりたい」 なんてクソ野郎なんでしょう。 なんとなく自分の好きな指揮官だけが酷い目に遭うのはムカつくので、連帯で全員が同じ訓練を受けることに。 その様子を動画で記録しようとクロが言い出した。 「もう無理!もう無理……!」VRゲーム用のスーツとゴーグルを着た皆が走っているのが外部映像では見えるはずだ。 ヴェプリーは?しんどい。終わりが見えないマラソンをしている。何せ試験目標が不透明だ。合間に射撃が挟まれる。 全方向トレッドミルとスーツは汗でびしょびしょだ。 合間には水とツインテの指揮官がたまに食べている水色の消しゴムのような何かが差し出される。 男の指揮官が一人だけ嫌がったので、仕方なくヴェプリーとコルフェンが食べさせてあげた。泣いて喜んでいる。 「ううう」クロが撮影したそれをカフェ・ズッケロにDMで送った。既読が付き、笑顔の絵文字だけが返ってきた。 『許しません』追伸。「今全員が味わってるんだぞ!?送信!!」『あなたがたはおばかさんなんですか?』 はい。 一週間が経った。指揮官の健康診断の結果が良くなっていた。心は折れていた。皆……折れていた。 04 「助けてくれ!」ツインテの指揮官達が天井の角に張り付き、うちの指揮官二人がそれぞれ銃剣を向ける。 「降りてこいカス野郎!」「やめなって!」ヴェプリーが止める。「止めるな!」「むぎゃっ!」な、殴られた…… 「人間は紙皿に乗った消しゴムと水で生きる生き物じゃない!」「バカ!ロクサッティスト!マザーコンピュータ!」 「MREばっか食ってるお前が言うか!」「何だと!」「私はちゃんと自然食品を食べてる!」 コルフェン主導の健康改善週間によその指揮官達の横槍が入って一週間、指揮官達はこのとおりキレてます。 ヴェプリーはめんどくさくなって立ち去りました。 翌日。クロの所。 「クロいるー?」「カット!」黒基調のスポーツウェアを着たクロがダンスしている。撮影中らしかった。 「あ、ヴェプリー間が悪かった?ごめんね☆」「いや、ヘマしたから大丈夫だ」クロの指揮官。怪我人みたいな格好。 「で、何?」「こないだ全員でクソマラソンやってたでしょ?で、フィットネスビデオ撮ってみようかなって」クロ。 「音楽以外は感覚を掴めてきたんだが、曲がどうにもな……」 ヴェプリーの出番が来たみたい。 「運動したくない」男の指揮官。「何?体育の成績が悪かったりしたの?」クロ。「おっ、いい目してるじゃん」 「クロ、あんたそういう口聞きまくったらぶん殴るからね」女の指揮官。「ヒッヒッ」手刀。 スパンデックスの混じったタイツを着た奴ら。ピカピカのランニングシューズ。 「さあ、リズムに乗って☆」私物のスピーカーの電源をON!「これってシンセウェーヴ?いつの時代よ?」カット。 「やあ皆!楽しく運動できてるかい?」彼は映像加工の施されたピカピカの歯を光らせる。 リズムに乗って彼女は脚を蹴り上げる。垂直に。鋭く。 数日後。 「ヴェプリー、今の動きはよくないわ」クロ。「やっぱ撮影と作曲に徹した方が上手く回るんじゃない?」彼女。 「背景が気に入らない」男の指揮官。「ここにアイツの車……いや、盗まれてたな」「うるさいぞ」ツインテの指揮官。 賞金ハンターの依頼があんまり入って来ないせいで皆動画制作にドハマりしていた。 「なぁ……私達何やってるんだ?これでいいのかな」指揮官。「コルフェンは別に文句ありませんよ?健康ですから」 「違う、違うんだよ……私達は、スポーツマン……?」 05 街。 猛スピードで走るトゥクトゥクに轢かれかけ、ヴェプリーは舌打ちした。 「何というか、私は人間らしい飯大欠乏症に陥ってしまったんだ」と男の指揮官。リバウンドする人は皆こう言う。 屋台。よくわからん煮物をお婆さんが作っていて、スパイスで鍋の中は真っ赤になっている。肉……かな? 「いいかいヴェプリー、人はこう……栄養学とかそういったものを投げ捨てる時があってもいいんだよ」 あ、このスープけっこうイケるね。 翌日。 「あの人お腹壊しちゃったんですか?」ツインテに事情を話した。 ニュースを見せる。「水源が汚染されてたの」「崩壊液?」「それ以外の何かよ、ヴェプリーの胃も驚いちゃった」 「あらら」「と言うわけで、あなたかクロの指揮官のどっちか貸して」「クロのは脚トレのやり過ぎで身体壊してます」 誰かがくしゃみをした。女の指揮官がいる。「私パス。風邪ひいた」「あなた達、自己管理って単語無いんですか?」 「頭ん中に警察署立てて何になるっての?管理なんてのはロクサット連盟様のやる事で十分足りてんのよ……」 「ヴェプリーの作った人誰か知ってる?」「知らないわよ、寝るわ……」 エルモ号にフォークリフトやら何やらで貨物の積み込みを行い、補給を済ませる。 この車はバカみたいにデカいから、トレーラーの列はいらない……くぐもった鳴き声がした。 「このコンテナの中身何?」「クローン培養の牛」作業員の男。「マジ?」「冗談だよ」 「ねえ、でも最終生命のロゴが入ってるけど……」「気にすんなよ……お前って文字通りカウガールだな」「はあ……」 メイリンは二日酔いでダウンしてた。 うろおぼえのカントリー風ギターを弾きながら自動運転をセット。後は敵がやってこないか祈るだけ。 敵ねえ。一台のIFVが護衛についてくれてるし、多分……「ヴァリャーグだ」ツインテの指揮官が呟いた。 少しくらい休ませてよ。ヴェプリー疲れてるんだけど。 「ドローンが来たら撃ち落としてくれ」と一言、彼はずっと対物ライフルを一発一発当てている。 スキートのVRアプリがあったから、今度やってみようかなと考えてると、RPGの弾を括ったドローンが飛んでくる。 こいつはかなりおっかないから全力で落とす。 ……終わった。疲れた。 後日、皆に報酬ついでに渡された肉が振舞われた。 06 朝のエルモ号。ツインテの指揮官達が入ってきた。 「いいニュースと悪いニュースが……」「ヴェプリー本題が聞きたいな☆」「盗まれた車が見つかった」 「あの変な車?」「で、ヴァリャーグと地元マフィアのヤサにあるんだよ」「うんうん、それで?」「で……」 「自分でなんとかしてくれ」うちの指揮官。インフルエンザのせいで皆ダウンしてる。 「人形何人か借りるぞ」「OK……」 ネメシスを一旦降ろして、狙撃位置につかせた。そのまま歩く。 「ねえ、ヴェプリーわかんないんだけど、何でそんなにあの車に執着してるの?」「あたしもわかりません」 「この十年間、俺は会社に履歴書を出して、それからクビになっても必死に頑張り続けたんだ」彼は話す。 「銃と最高のパートナー、後は少しの物と娯楽が俺に必要なもの……デカい家や大量の金はいらない」 「ん……」「世の中の人間が努力したからって勝手に世界が良くなるわけじゃない」プレスチェックする。 「せめて自分の身の回りだけでも最良の状態に保ちたい……だから、盗まれた物を取り戻さないと」 「なるほどね」ヴェプリーはわかった。なので、彼を手伝うことにしました。 「私の車は?」黒いスーツの男が呟いた。「へへえ、この通り」ヴァリャーグが揉み手し、カバーを剥いだ。 「このタコ!私はデロリアンを持ってこいと言ったはずだ!」男はガスマスクを剥ぎ取った後、平手打ちする。 「てめ……!?同じステンレスだろうが!多少形が違うくらいなんだってんだ!?ああ!?」二度打った。「ぐあ!」 「しかもBRIEFの駐車場から賞金ハンターの車を盗むとか何考えてるんだ!」三度。四度。五度。六度。 「それ以上はいけねえ!死んじまう!」ヴァリャーグが言った。「何だと!?」振り向くと、胴に穴。ガラスが割れる。 五度の銃声が遅れて来る。「伏せろ!」ドアが蹴破られる。男は遮蔽物に飛び込む。 数十人のマフィアとヴァリャーグの混成部隊が同様の行動を取り、遅れた数人が撃たれた。閃光弾が放り込まれる。 外骨格を着た男と戦術人形が突入し、目がくらんだ数人を撃つ。応射が来ると共に伏せ、移動射撃を継続した。 ヴェプリーはここでケーブルを引っこ抜き、ハック済みの監視カメラから抜けた。 屋上から飛び降りると、車がガレージから出てきた。 「もー!ヴェプリーカメラ見てただけじゃん!」 07 都市の外縁部。 ソーラーパネルとケーブルで埋め尽くされたビル。「この辺りの人はピクルスみたいなもんだよ」とクロが呟いた。 「んん……」「知ってる?現実に価値を感じない人は大昔からいたの。天国に辿り着く方法を求めてる人々……」 彼女の指揮官は無言だ。部屋から出てきた時からしかめっ面をしていて、いつもみたいに暗いことすら言わない。 「来ましたか」人形だ。彼女は今回の依頼人。「これを見てください」ボディバッグがロビーに並んでいた。 「……撮影しないの?」ヴェプリーは聞いた。「今、するべきじゃないタイミングだよ」クロ。 ヴェプリー的には全然言いそうにないセリフ。何か思う所があるらしい。 「ヴァリャーグが警備システムを弄り、生命維持装置とVRシステムを全部盗んでいきました。中身は御覧の通り」 「警備員は」ジッパーを開ける。人形の残骸。「ヴェプリー達はどうすればいい?」「見つけ出して、狩ってください」 タダでやっても良かったけど、聞いた。「報酬は?」「この程度」 「割に合わないなら抜けてもいいぞ?」クロの指揮官が口を開く。 「待って、コルフェン呼ぶから……ヴェプリーだよ☆」 荒野。 「この世界ってつくづく割に合わないな。向こう数十年の土地代と電気代を支払って引きこもろうったってアレだ……」 彼は呟いた。うちの指揮官はこういう時、『現実を捨てて死ぬまでVRに引きこもって何になる?』と反論するはずだ。 でも彼、相当参ってるし、指揮官達もそれがわかってるみたい。 「そうかもしれないな。ならヴァリャーグ達にも、割に合わない世界だって事を私達でわからせようじゃないか?」 「私達全員でそうしてやろうじゃないの」女の指揮官。「……ああ」ヴェプリーは彼らのこういう所が好きです。 車二台、ツインテ達は先行して囮になり、ヴェプリー達は背後から仕掛ける。 武装二脚重機が一台、据え付けた重機関銃で車を蜂の巣にしようと薙ぎ払ってた所。 ヴェプリーは窓から上半身を出した。 「さぁ、ショータイムだよ☆」無反動砲をブチ込む。これが挨拶だった。 ここのヴァリャーグのリーダーがコックピットから這い出た時、クロの指揮官がそこにいた。 「天国に行く方法、お前は知らないか?」彼。「頭に鉛玉をブチ込むのさ」ガスマスク越しのくぐもった笑い声。 彼もしばらく笑う。 銃声。 08 グリーンエリアへようこそ。 CEOの女に頼まれてどこぞの市議を護衛する仕事をヴェプリー達がやってる真っ最中、男が突進してきた。 長年人形として働いてると、刺されても動揺しなくなる。人とは違って刺さる場所次第で無傷ということもわかる。 過労による事故で、労働者がフォークリフトでヴェプリーを刺した時、待ってと呟いたあの昼を思い出す。 あの時は危なかった。待てよ?あの時はバックアップがされてなかったから……かなり危ない? 「大丈夫?震えてるけど。配線やられた?」クロ。「んん、別件……建設現場で働いた事ある?」「ちょっとはね」 制圧した男の服に違和感。「議員を車に!」噴水に向かって男を投げると、爆発。釘とベアリングが刺さり…… 「あ……脊椎やられたわ」「無線で応急処置できないか試して、出来たら自力で車に戻って」「了解」 無線で切れた部分を遠隔操作する曲芸を試みたが、その為にジャミングに気付いた。「ごめん、電波妨害で無理」 「死んだふりしてな」激しい戦闘が続く。 これが平均的な戦術人形の一日。つまり、運が悪いとほぼ即死で、何も出来なくなる。 今日は少し運がいい。 必死こいてクロとツインテ、後キャロリック達が護衛した議員は仕事が終わって三日後に狙撃されて死んだ。 「ま、そういうこともあるよね」とクロ。ヴェプリーはどう思ったか?……依頼の最中じゃなくて良かった☆ これが親しい人だったらともかく、左から来た仕事を右に流すような状態だから、そういう感じ方になる。 指揮官達と車に乗っている最中、無反動砲を持った男が道路の真正面に立った時、そういう感じ方にはならなかった。 叫びながらハンドルを切り、砲弾を避け、ハンドルを戻す。「あああ!やめろ!」ツインテの指揮官が叫んだ。 ……無理!車を優先する事なんて出来ない! 撥ねる。窓ガラスに蜘蛛の巣状のヒビと血の跡。「やめろっつっただろ!」彼は泣く。「修理代は私が払うよ……」 「俺は言ったのに!」ツインテを運転席に残して車を降り、死体を確かめた。地元マフィアだ。 ツインテの叫び声。振り向くと彼女が車から飛び降り……車が爆発した。 エルモ号依頼用アカウントにDMが届いた。 『このクソ賞金ハンターども!我々のファミリーに逆らった報いだ!』 彼は泣いていた。 命があるだけいいなんて、言えなかった。 09 イエローエリア近傍の街。 随分古い木とコンクリートの入り混じった市街地の中、バーのドアを押し開け、ベルが鳴る。 カウンターにはありふれた防護服とマントの二人組。後はバーテン。 「ああ、ようやく来てくれましたね!」よく出来た作り笑いと汗。そういう空気だ。ヴェプリーは咳払いする。 クロ達に進路を譲り、ドアを閉める。彼女らは消音拳銃を抜き、マントの二人組に向かって速射。 この時、二人組は今まさにヴェプリー達を撃つと言った体勢で、そのままの勢いで一回転し、床に倒れ込む。 ヴァリャーグだ。 「わざとでしょうか?」ツインテが呟き、リロードし、バーテンに照準を向け直す。 「待って……ええと、彼ら、通話を聞いていたみたいなんです……どうしましょう」作っていない苦笑い。 「あんたね、テキストで依頼する文化に慣れてないから街全体が危険に曝されてるってわからない?」クロ。 グリーンエリア並みに安全なこの場所は、物流倉庫と清潔な水源と屋内農地と輸送に非常に都合のいい道路がある。 ヴァリャーグが狙わないわけがない場所だ。街の住民はそれに耐えかね、賞金ハンターに依頼した。 さて…… 「私の化粧品はどこ?」縛り上げたヴァリャーグを、仮面の女が尋問していた。 「知らねえな。まともな薬でもねえ液体の入った瓶なら割っちまったよ」笑い声。ハイヒールが突き刺さった。 「ぐああ!」「あなたね、人が生きる上で美というものがどれだけの比重を持ったものかわかる?」「知らねえよ!」 「じゃあなんだ?その仮面の下はその化粧品とやらの虚飾が失われたババアのツラか?」「そんな所かもね」蹴る。 ツインテの指揮官が止めた。「そこはやめろ」「やめないわ」「アジトの場所は吐くからやめてくれ」 夜。 怒れる女とひどく消極的で青ざめた顔の男達がヴァリャーグの前哨地帯に忍び込んだ。 ヴェプリーは消音銃を構える前に、彼らを見た。「大丈夫?」「んなわけないだろ」うちの指揮官。 「ごめん、ヴェプリー本当に文脈がわからないの」「メンタルコアを蹴り潰される同族でも想像してくれ」「なる……」 進み、歩哨を撃つ。意外とうるさい音がする。 ここのヴァリャーグのボスは、収奪品で飾られた豪著な部屋の革張りのソファーに座っていた。 彼女の全力の蹴りが突き刺さった。 金は誰かの苦痛から出来ている。 10 寂れた街の食堂に立ち寄ったある時。 「アンタ、戦術人形だよね?」地元のおばちゃんが話しかけてきた。 「まあ……」ヴェプリーの自認はまだアイドルです。つまり、完全に戦術人形であることを認めたくない気分。 「あのデカい車の賞金ハンターの下っ端なんだろ?アタシ達を助けておくれよ」 「まあ……」「まあって何だい」「今仕事中なんだよね。だから上に回さないと」「なら回しなさいな」 エルモ号。 『ヴァリャーグにあなたの娘が拉致されたから、取り戻してほしいと』警備会社のCEOの女。「そう!」おばちゃん。 『経費で通してもいいわよ』「ヴェプリー」うちの指揮官が言う。「いいならやるけど、何で?」 『私達の会社、今まさにそのヴァリャーグや地元マフィアとバチバチにやりあってる最中なのよね』 「何で?」『まあ……』「はっきりしないねえ……」『本来ここへの進出予定はなかったんだけど、色々ね』「はあ」 『昔の同僚に借りを返したり、連盟や投資家の要請に答えたり……色々あるから、ね。言えるのはこれだけ……』 「なんでもいいから、娘を助けておくれ!」 まあ、これが今回のヴェプリーの仕事です。 その倉庫には数人の人形がいたんだけど、混乱が極まって一部はフリーズしてる。 話が通じる子にセンサー共有をしてもらい、内側から偵察をしてもらうことに。で、ターゲットを発見したけど…… 「うう、信じてたのに……結婚詐欺師でしかもヴァリャーグだったなんて~」そういうことらしいです。 視界を人形から戻すと、ツインテとその指揮官がサイドカーに積んだ重火器の調整を終えた所。 「索敵の仕込みは終わったから、全部丸見え。人形と無人機に偵察させて、こっちで壁抜きしつつお前とクロが突入な」 「了解☆」人形の目にはドアを開けたヴァリャーグが映る。機関砲に取り付けたタブレットに推定位置を送った。 バァン。なんてね。一発で壁ごと抜かれ、即死だ。うちの指揮官に民生人形への指示を交代し、突入する。 「一体どうなってやがる!向こうは壁を透視してるのか!?」してます☆ 一人が漏らしながら武器を捨てた。そいつに手錠をかけて、仕事を続ける。 食堂。 『鮮やかな手際だったじゃない?』無線越しに彼女が言う。 「ほら、入って」娘さんの肩を叩いて、ドアを開ける。 「お母さん!」「無事だったのかい!」 11 うちの指揮官は困惑して立ち尽くし、女の指揮官は手鏡を無言で見る。 クロの指揮官はパイプ椅子に座ってうずくまり、ツインテの指揮官は天井を見つめている。 クロは端末を折り畳んだまま引きつった笑み。ツインテは物憂げな表情。 CEOの女は歯切れの悪そうな表情でいて、ヴァリャーグの捕虜は泣いていた。 「一体何があったって言うの?」ヴェプリーもうあなた達のリズムについていけません。 「私の人生は迷走してるんだ!」「美を追求してても老いからは逃げられないの!」 「VRに逃げてもヴァリャーグやELIDとかに殺される!」「世界……皆が俺を酷い目に遭わせてくる!」 「私このまま相棒の世話で一生を終える気がしてきた!」「あたし今から普通の人生送る方法わかんないです!」 「何の為に金稼いでるかわからなくなってしまったの」「誇り高き新ソ連軍人だったのに野盗になってしまった」 ちょ……待って! 「一斉に言わないでよ!ヴェプリーにはリズムってものがあるの!」皆黙る。 「……順番に、話して。いい?ヴェプリーが聞いてあげる」 ……皆、人生の道筋が完全に迷走しているらしい。 ヴェプリーは…… 「姉ちゃんすげえ疲れてる感じだけど大丈夫?」少年が話しかけてきた。 「え」今座ってるコンクリートで出来たベンチを見つめていて、反応が遅れた。 「ううん、ヴェプリー……」考える。まあ、認めるしかない。「疲れてるよ。お姉ちゃんは凄い疲れてるの」 「何で?賞金ハンターだから?ヤバい戦闘でもあったの?」「いいえ、チームの皆の話を聞いてあげたの」 「ふーん」「必要だからね」「姉ちゃんの話、俺が聞こうか?」「え」「チームの皆は聞いてくれてんの?」 「暇がある時だけね」「なら聞かせてよ、俺今暇だから」 「……それでね、ヴェプリー、最初は警備員とアイドルの二足のわらじって奴で、グループは解散……」 「今はネットで曲とか出してて、今でもアイドルだって思いたいけど、もう身も心も賞金ハンターなの」 「俺は闇ブローカーだよ」少年が言う。「今は雑用役だけど、心は今も大商人ってわけ」 「ふふ……」笑った。「この缶コーヒー。有料だけど割引してやるよ。疲れてるんだろ」 小銭を押し付ける。 「え?割引……」「大商人ならちゃんと損得計算しなよ。心は受け取ってあげるから」 さあ、仕事に戻ろう。 12 エルモ号。 『要するに』CEOの女が口を開く。『この辺の土地が生み出す利益の奪い合いがここの争いの源泉なのよ』 このイエローエリアにしては比較的安全な街では、ヴァリャーグ・地元マフィアなどが揉め事を起こしていた。 「利益って言うと?」『ここは少し浄化すればグリーンエリアの衛星都市に早変わりして、交易路で膨大な利益が出る』 「それで?」『マフィア連中は後ろ暗くて汚いタイプの議員とグルになって政敵を暗殺してる』咳払い。 『それでヴァリャーグはマフィアの追加戦力をやって利益を山分けしてもらおうとしてるのよ』 溜息。「それで大勢死んだの?」『まあ……』 捕虜をつついた。「誇り高き元新ソ連軍人、思う所あるなら奴らの情報を吐いて」 結論から言うと彼は吐いた。良心の呵責もあり、まともな賞金ハンターに捕まったのもあり、いいタイミングだそうで。 「ムカつくなぁ」「ムカつくよ」ツインテとクロ達とぐだぐだ言い始めた。 「俺の車も壊されてるし」「市民も死んでるしよォ」指揮官達。 『アサルトアーティラリーに乗った事ある人、手を上げなさい』CEOの女。 ツインテが手を上げた。 え、本当? 邸宅近く。 クロ達は空挺戦車に乗っていた。装甲車よりも小さな奴で、ともかく最新の火器管制系を取り付けてる奴だ。 『弊社からの貸与品だから壊さないでね』「は?戦争の道具は壊してなんぼでしょうが」とクロ。 『上手くやったらクソプロトコルがなんとかなった後で弊社で雇ってあげるから』「録音した」クロの指揮官。 銀色のメカが地平線からゆっくりと姿を現した。「一体どこからあんなの拾ってくるのかな……」 人工筋肉と装甲の入り混じった銀色の機甲が、突撃銃じみた形の機関砲を構え、邸宅を横凪ぎに撃った。 『向こうもメカを出してきたぞ。機甲は陽動役に徹してヴェプリー達は突入しろ』うちの指揮官。 ヴァリャーグが持ってる武装二脚重機と正規品の黒いメカが合計四機、焦ったような動きで邸宅から出てきた。 ネメシスは狙撃位置についてるから、少なくともセンサーをやってくれるだろう。 銃弾と砲弾が双方から飛び交う中、こっそりと忍び込む。塀を飛び越えて内側に。 「おい!人形が入ってきてるぞ!」胴体にAPスラグを二発。コルフェンが頭に一発。 「パーティーの時間だよ~☆」小声で呟く。「黙って!」コルフェン。 自分が何のために戦っているのかわからないが、多分、観客の皆を守る為だ。 自分の為。理想の為。金の為。パートナーの為。死に場所の為。世界の良い部分を配信する為。それぞれの戦う理由。 彼の理由を聞けてなかった事に気がついた。後で聞けばいい。今はこの仕事を終わらせよう。 駆動音と床の軋みを聞き、一度引いて閃光弾を投げ込んだ。それが撃ち落とされる。ミニガンの音だ。 「賞金ハンター共、なめやがって……」カメラを遮蔽物から出すと、金色の装飾の施された外骨格を着た男が一人。 「うちの連中は趣味の悪い車一台壊したからって中身は見逃すわ、一体どうなってる?下手な仕事しやがって」 「あの汚職野郎もヴァリャーグ共もあてにならん……これだから何もかも自分でやらなきゃならん」 防弾盾を構えたコルフェンの背後に下がると、壁を透視し速射を当ててきた。盾が無きゃ即死だ。 「監視カメラ」呟く。コルフェンが付近のカメラを撃ち抜く。 手榴弾と閃光弾を二人で同時に投げ込み、それから制圧射撃で動きを止めた。 爆発と同時に前に出る。銃口を逸らし、盾で強引に押さえつけた後、ヘルメットに向けて何度も連射した。 邸宅の大掃除から数日。 このエリアのある建物の駐車場にヴェプリーはいて、クロの配信を受信して様子を窺っている。 CEOの女の娘の役をわざわざ小型素体を使ってまで演じる彼女には恐れ入る。少し見習うべきかもしれない。 『約束の報酬を渡してもらいたいわね。苦労してこの辺りの脅威を掃除して、政敵の汚職の証拠も手に入れたのだから』 『うむ……それについては感謝しているがね、報酬は渡さない事にした』『どういうこと?』おっと。 『君達は存在しなかった』ボディガードが銃を構える。『そして君。君も存在しない。皆勝手に死んでいった事にする』 かなりまずい。彼女が窓から落とされてかけてる。「結局こうなるの!?」あ、落ちた。 『よっしゃ、上手くいったよ。アイツら全員の支持率が急落してる。衛星都市が出来てもこいつらは豚箱入りだろうね』 クロの視界の中、重武装のSWATが突入して全員を逮捕した。この件は片付いた。 エルモ号。 包帯塗れの女が中指を立てていて、コルフェンが食事を食べさせていた。 「指揮官、聞き忘れてたんだけど、あなたが戦う理由を聞きたいな」 「戦う理由かい?それはね……」