「お邪魔…します」
「風邪ひいちゃうからウチのお風呂使っていいよって言ったのに～」
「ぁ…ご…ごめ」
「いいけどさ。部屋、暖かくしてあるから待ってて。私もシャワーしてくるから」
「なんか…いい香りするね」
「ミネストローネ作ったんだ～。そよりんに簡単に作れるレシピ教わったから！あとで食べよ？」
「うん…！」

そよちゃん。
愛音ちゃんと、バンドの事以外でもよくお話してる。
たまに遊びに行ったりもしてるみたいだけど。
ふたりの仲の良さは、別に気にならなかった。
─以前は。

愛音ちゃんが作ったごはんをふたりで食べてから、部屋で学校の課題を片付けた。
愛音ちゃんが苦手な三角関数。私は天文部の活動で少し勉強したことがあったから、教えてあげた。
その後は、お茶を飲みながらお話しして。
始めはテーブルに向かい合わせで座っていたけど、いつの間にかベッドで肩を寄せ合っていた。
部屋着に眼鏡の、髪を後ろでまとめた愛音ちゃん。
いつもと少し違う、ゆったりした雰囲気で。
ふんわり暖かな、お日様みたいないい匂い。

すこし前、愛音ちゃんと初めてキスをした。
天文部の部室で、その後も何度か。
いつもぎりぎりで、そこまで。
今夜はきっと…その先まで。
愛音ちゃんの部屋の天窓から、中秋の名月が覗いていた。

愛音ちゃんが眼鏡を外して、部屋の灯りを落とす。
天窓から差す月明かりが、ふたりを優しく照らした。
絡ませた指の1本1本で、愛音ちゃんを感じ取る。
「あのちゃん」って名前を呼ぶと、「ともりん」ってこだまみたいに返ってきて。
見つめて、見つめ返されて…目を閉じて。
触れ合うような口づけの音さえ響く、静かな部屋。ふたりだけの夜。

ベッドに敷かれたタオル。何のためのものだろうか。
みだりがわしい想像が膨らみ、"この先"を強く意識してしまう。
キスはどんどん熱を帯びて、互いを求め合うものに変わってゆく。
喘ぐ呼吸が、舌遣いが、初めてした時みたいに同調していった。

愛音ちゃんの手が私の胸をやさしく撫でる。ぴくん、と身体が反応した。
今日の愛音ちゃんは、いつもより大胆で、積極的。
私の部屋着はあっという間に剥かれて、下着姿が月明かりの下に曝される。
愛音ちゃんが「綺麗だね」って褒めてくれた。

─ 私は今まで、自分の身体が好きじゃなかった。
面倒で不便な、"女の子"の身体。
女の子らしく。女の子なんだから。そんな言葉をかけられた事も、一度や二度ではなかったから。
無意識下で「私」は「僕」になりたかったのかもしれない。
"女の子"を全力で楽しもうとする愛音ちゃん。
私の身体を綺麗と言って、求めてくれる愛音ちゃん。
愛音ちゃんのおかげで、私は自分の性を肯定できるようになった。

愛音ちゃん。好き。貴女のぜんぶが欲しい。
身体も心も、笑顔も、怒りも悲しみも………嫉妬も。
もっと私を求めて。色々な表情を見せて。
そう…あの時。
祥ちゃんを追いかけて、祥ちゃんの家で「またバンドやろう」って私が言った時のような。

「ぁ…あの…ちゃん…」
「なに？」

こんなこと、いけないのに。

「その…まだ言ってないことが…あって」

傷つけてしまうかもしれないのに。

「キスは…愛音ちゃんが…初めてじゃなくて」

でも、本当の事。言わない方が、不誠実かもしれないから。
そう自分に言い訳して、こんなやり方で愛音ちゃんを焚きつけようとして。

「祥ちゃんと…中学生のとき…したよ」

最低な、"女"。

愛音ちゃんの表情が抜け落ちるのと、満月が雲に隠れるのはほとんど同時だった。

愛音ちゃんの中でどんな考えが巡って、どう整理をつけたのかはわからない。
ただ独り言みたいに、

「そう…そうだよね。祥子ちゃんと…CRYCHIC…楽しかったんだもんね」
「ともりんにだってそういうこと…あるよね。子供じゃないもんね」

と震える声で呟いて、強く強く抱きしめてくる。
肌を通して伝わる、浅くて速い呼吸。鼓動。
感じる。焦り、不安…そして。

「ここから先は…初めて、だから」

私はこの先を言うことができなかった。

月が翳って暗くなった部屋。
愛音ちゃんの表情は見えず、常夜灯だけが微かにふたりを映す。
ベッドに転がされた私はただ一方的に、燃え盛る彼女の焔火に妬かれるだけ。
言葉は無かった。
加減のないキスの痕が、火傷のように全身に刻まれてゆく。
まるで私の記憶のどこかを上書きしようとするかのような、激しい愛撫。その唇で、指先で、舌先で。攻められる度に身体の芯から押し寄せる、快楽の波。
何度も果てて、出したことのないような声で叫んで。求めて。
心地よい熱。愛おしい。もっと…もっと。
私を灼き尽くして。
......
...

「ごめんね、ともりん。ごめん...痛かったよね？あの…本当に、ひどいこと、して…」
「大丈夫…私も、ベッド…汚しちゃって…ごめんね」

やっと落ち着いた愛音ちゃんに、たくさん謝られた。
悪いのは…求めたのは私、なのに。
たくさん痕のついた身体。一緒にお風呂に入った。愛音ちゃんが優しく流してくれたけど…本当は、そのままがよかった。
ベッドの中で、「嫌いにならないで」って不安そうに手を握ってくる愛音ちゃんに、私は優しくキスをして、抱きしめた。

「大丈夫。あのちゃん。大好きだから」

その日以来、部室での愛音ちゃんがひっつき虫みたいになってしまった。
片時も離れず、手を繋いでいないと落ち着かないみたいで。
キスや抱擁の頻度も倍になった。
やっぱりやりすぎた、と思う。
だけど…今、幸せ。

Fine.
ーーーーーーーーーー

祥ちゃんとのキス。
私が祥ちゃんの家に泊まった時。寝る前にされた、触れる程度の…軽いもの。あまりに自然な動作で、私はただただびっくりして。
向こうに「その気」はなくて、挨拶みたいなものだったらしい。
間に入って話を聞いてくれたそよちゃんが教えてくれた。
そのあと睦ちゃんに謝られたのは、よく分からなかったけれど。
頃合いを見て、愛音ちゃんにも話そうかな。

次回
［8］「Happiness cats！」

ともりんが悪い女すぎて健康に良い

悪女…

燈視点はOthelloで終わりかと思ってた…
がっつりエロいの来てありがてえ

次回はらなたきがゴールインするんか！？

らなたき探してもあんまりないから助かる

>愛音ちゃんの表情が抜け落ちるのと、満月が雲に隠れるのはほとんど同時だった。
ここ愛音ちゃんの頭の中物凄い事になってそう

この「」のらなたきは癖を感じるけど描写が異常に丁寧だから好き
ドラムやってるのか作曲やってるのか

何したんだ睦…

ともりんが悪くなるのいいね…

ともあので陰も陽もできるというわけか

>だけど…今、幸せ。
…なら良いか！
なあ祥子！…祥子？

あーあ…燈ちゃんのせいだよ

祥ちゃんを踏み台みたいにするのやめてください…！って口に出そうになったけど祥は自分で自分も引っ掛けた女との人間関係もボロボロにしまくって自分で踏み台になりに行ってるようなのは擁護できない女だった
最早泣くことしかできない

女になって人間に近づいていくともりん好き

なんで詩で僕なのかってのは考えたことなかったな

そよりんも壊れてともりんも狂わせて
愛音ちゃんが悪いんだよ

>なんで詩で僕なのかってのは考えたことなかったな
石集めたり虫捕ったりっていう趣味が男の子に生まれてたらそこまでどうこう言われなかったろうからなあ…
生まれ持った身体を無意識で嫌ってたのかもしれん

これはあのとも？

ともりんが誘い受けは珍しい

ともりん誘い受けのあのともって言うのかな

この時のあのちゃんの表情はともりんだけのものなんだよな
羨ましい

>次回
>［8］「Happiness cats！」
3のHeaviness catsからのタイトルの流れがいいね…

でもこのあのちゃんそよりん抱いてなかったっけ

>>次回
>>［8］「Happiness cats！」
>3のHeaviness catsからのタイトルの流れがいいね…
らなたきの結婚式から始まってもおかしくないくらいタイトルのテンションが高い
この「」のらなたきは信用しているのでただ楽しみに待つとする

プロって事はガチで文章で金稼いでるのか…

上書きし合ってる

友達ならキスするのは当然…とか言ったのか睦

>プロって事はガチで文章で金稼いでるのか…
たぶん1人が騒いでるだけだし本人何も言ってないからどうかな

重愛音ちゃんを引き出す燈ちゃん

この「」を渋に誘導できて本当に良かった
このレベルのものをここに投げ捨てて終わりにしようとしていたスレ「」を

>これはあのとも？
😠ともあの…！

明るく優しい火を暗い炎に焚きつける

愛音ちゃんが独占欲出してるのが一番好き

愛音はそよりんとセフレになってる時点でともりんのこととやかく言えないので…
なんなら愛音ちゃんの女性経験かなり多いみたいだし…

軽くてふらふらしてる女を重く固着させたともりん

そよデンとはキスせずに燈とのキスしてからってくらいに思い入れあったからなあのちゃん
燈のファーストキスもらえたなんて思っていたあのちゃんはお笑い草だぜ

>愛音はそよりんとセフレになってる時点でともりんのこととやかく言えないので…
>なんなら愛音ちゃんの女性経験かなり多いみたいだし…
本気で好きになった相手とやっとキスして浮かれてたら初めてじゃないよなんて言われたらもうね…
なので身体の初めてはしっかり刻み付ける

これ過去作はどこで見れるんです？

>これ過去作はどこで見れるんです？
メ欄にURL書いてあんだろうがハゲ！！

>これ過去作はどこで見れるんです？
美獣R

非クライシックの愛音にとってもクライシックの因縁の存在は深みが増す

>これ過去作はどこで見れるんです？
申し訳ございません不親切でした
こちらです
https://www.pixiv.net/users/114071208/novels

>非クライシックの愛音にとってもクライシックの因縁の存在は深みが増す
燈が祥子誘った時の愛音ちゃんのえっ…？いいよね

>https://www.pixiv.net/users/114071208/novels
前見た初華のコーヒーのやつこの「」だったのかよ…温度差で頭おかしくなりそう

祥子はその気はないっていうけどほんとかー？
ほんとにその気はなかったのかー？

ひっつき虫愛音ちゃんかわいい

裏にむつさきストーリーがありそうな過去

>裏にむつさきストーリーがありそうな過去
この「」8話の後に書いてたむつさき焼却したらしいぞ