ある休日の夕方。“たれたすがた”マグロのシャリタツを連れた男が、年季の入った集合住宅アパートメントの一室へ帰宅した。

体長50cm未満かつ体重10kg未満の小型ポケモン1体のみ同居可の家賃の安い集合住宅アパートメントの浴室は、シャリタツが泳ぎ回れる程の広さはないので、こうして週に一度オージャの湖へ水浴びに連れて行っている。
タマゴの頃から人の元で育ったマグロにとっては生まれ故郷とは言えないが、広い湖で思う存分泳ぎ、日頃の運動不足をすっかり解消して腹を空かせていた。


「あー、ハラ減ったな！　さっさとメシにするか…　ん？」

男はマグロの様子に違和感を覚えて立ち止まった。注意して見ると、マグロもどことなく腹を庇うような動きをしている

「…おい。なんかお前のハラ、今朝よか膨らんでね？」
「スシッ！　サッキ、ソトノイケオストコービシタ♡　オレノオナカ、タマイル！　マタカワイーオスシウマレル！」

栄養状態の不安定な野生個体との交尾は、タマゴができてから産まれるまでに時間を要することがある。
マグロは、男(ヌシ)も稚魚(オスシ)の誕生を共に喜んでくれると思い、嬉々として報告した。

「はあ？　またかよ？！　何してくれてんのお前！」

男はマグロの予想に反してうんざりした顔で言うと、舌打ちをしてマグロを逆さに掴み上げ、固く丸めたティッシュペーパーで産卵孔に栓をして、ダクトテープでグルグル巻きにして完全に塞いだ。

「スシィッ？！　イヤッ！　ヌシナニスル？　オレタマウメナイ！！　コレトッテ！！」
「クッソサイアク！　コレだからシャリタツは。ちょっと目を離した隙に何度も何度もポコポコポコポコ孕みやがって！」

男は過去にマグロが産んだ数個のタマゴのうちの1つ、マグロが睡眠中にシャリタツ用のベッドから転げ落としてしまったものに気付かず蹴飛ばして割ってしまい、新調したばかりのカーペットがタマゴの中身で汚れてしまったのだ。その時はマグロに酷く泣かれたが、泣きたいのはこっちの方だった。


「またその辺でポロポロタマゴ産まれると迷惑なんだよ。“ダイジナタマ”ならオスシが産まれるまでお前の腹ん中で温めてやれよ！」

孵化個体の野生投棄は禁じられているので、その時のタマゴと稚魚も、泣いて引き止めるマグロを宥めながら散々苦労して引き取り手を探した。それなのにシャリタツの小さな脳味噌の記憶には残っていないらしい。シャリタツは本当に賢いのだろうか。

「あーあ、まーた稚魚の貰い手探さなきゃじゃん。クソダルッ！」

男はマグロ用の食器へ雑にフードを注ぐと、スマホロトムを片手に部屋を出て乱暴に扉を閉めた。


「……タマ。オレノタマ、イーコイーコ。ゲンキナオスシニナル。」

部屋に1匹残されたマグロは、苛立った男ヌシの態度に覚えた不安を拭い捨てるように、本来なら産まれているはずの腹の中のタマゴに優しい声で語りかけた。


シャリタツの低い体温ではタマゴが孵化するまでに日数がかかる。無事に稚魚オスシが孵化するまでは、文字通り肌身離さずタマゴを抱えたまま過ごさなければならない。

――1週間くらいならこのままでもやり過ごせそうだ。オスシが元気に産まれてくるまでの少しの辛抱。きっと大丈夫。

マグロは根拠もなくそう自分に言い聞かせ、膨らんだ腹をヒレでそっと撫でながら、初めての“妊婦”体験に、産卵とは違った温かな気持ちになった。
マグロの胎内に残されたオスの精子が新たに受精するまでは。

「オッ、オッ、オッ…？　ハラ、クルシイ…ッ…」

突然、腹部の圧迫感が強くなりキリキリと痛み出し、マグロは今まで以上に呼吸がし辛くなる。
タマゴを孕んだままのマグロの白い腹。タマゴ形の膨らみの隣に小さな膨らみが現れた。それは徐々に大きくなって、みるみるうちに先にできたタマゴと同じ大きさになり、マグロの腹の膨らみは2つになってしまった。

「オ、オレノタマ…、フエタ…！　フタツ…！！」

どうしてタマゴは1つだけと思っていたのだろう。本来なら喜ばしいはずの新たなタマゴの存在に、マグロはただただ困惑した。

――タマゴ1つだけならきっと耐えられた。2つでこんなに苦しいのなら、もし3つ目ができたら死んでしまうのではないか。
――前回の産卵では6つのタマゴを産んだ。あの時は足りないくらいでもっと欲しいと思っていたのに、今回はたった2つだけを望むことになるなんて。
――どうか、これ以上タマゴができませんように。

しかしマグロの願いとは裏腹に、また少し時間を置いて、3つ目のタマゴがマグロの胎内に発生した。


「オﾞッ、オﾞッ…　クﾞッ、クﾞルﾞシﾞ、イﾞ……　ハラ、サケル……　オレ、シ、ス……？」

いっそ裂けてしまった方が楽だったかもしれない。

息も絶え絶えなマグロは痛みで気が遠くなりそうになりながら、耐え難い苦しみを男ヌシに訴えた。しかし既に母子共に安全に産卵できる状態ではなかったため、このまま安静にして稚魚の孵化を待つことになった。

――うっわヤベー。思ったより大変なことになったぞ。これポケセンに連れてったら怒られんじゃね？
――でもこれだけ痛い思いすりゃあ学習能力ないシャリタツでも、二度と稚魚なんて欲しがらないだろ。避妊手術代浮いたな。ラッキー！

マグロは食欲などなかったが、既にできているタマゴに影響はなくとも飲まず食わずでは体が持たない上に、こみ上げる胃液で喉が爛れそうになる。

横向きに寝そべったまま起き上がれないマグロは、男ヌシが砕いて水にふやかしてペースト状になったフードをヒレで掬って口に運ぶ。
やっとの思いで飲み込んだが、3つのタマゴで圧迫された胃がそれを受け付けず、嘔吐えずいて口の中に逆流してしまった。

吐き出してシーツを汚したら、また男ヌシの機嫌を損ねてしまう。
マグロは胃液で酸っぱくなったフードを必死で飲み下した。

「カワイイオスシ……　ハヤクウマレテ……」

マグロは腹の中に向かって力無く呟いた。

タマゴの重みで仰向けの姿勢が苦しいマグロは、ずっと同じ横向きの体勢でいたために、体の下に敷いていた右ヒレのつけ根が痺れてきた。

痺れもそうだが、横になったままでは床擦れもできてしまう。マグロは両ヒレで大きな腹を抱えると大きな深呼吸をして、背ビレを徐々に床に付けて仰向けになった。
姿勢を変えるために力を入れすぎると腹圧で痛みが強くなる。痛みを呼吸で逃がしながら、重い腹をゆっくりと左に倒してようやく姿勢を変えることができた。


マグロの腹の中で、遅れてできた3つ目のタマゴは、まだ殻が充分な厚みに育っていなかった。

そもそもポケモンの体は、タマゴを産まずに保持したままいられるようにはできていない。それが1つならまだしも複数だ。
これ以上伸びることのできない狭い胎の中で、先にできた2つのタマゴに圧迫されて変形していた3つ目のタマゴは形を留めることができずに、マグロの寝返りの僅かな衝撃で砕けてしまった。

腹部の圧迫感が軽くなると共に腹の中で感じた「グジャァ…」という不吉な音に、ぐったりとしていたマグロは息を止めて目を見開いた。


「タマッ？　オレノタマッ？！　イﾞヤﾞアﾞアﾞァァッッ！！　オスシッ、オスシィッ！！　ダメェッ！！　シナナイデエェ！！　ギャアﾞアﾞッッ！！！　イﾞタﾞイﾞィッッ？！！！」

我が子オスシの身を案じたマグロが腹を押さえると、割れたタマゴの破片が胎内に刺さり、鋭い痛みがマグロを襲う。

2つに減ってしまった膨らみを見て、涙目で青ざめたマグロはどうか夢であって欲しいと願うが、胎内に刺さる破片のズキズキとした痛みが、紛れもない現実であることを告げていた。


ただ、これが普通に産み落とされたタマゴだったら。
ドラゴンタイプ以外の他のタイプのタマゴだったら。

殻が割れて中身が外気に触れた時点で生存の見込みはなかっただろう。

しかし、シャリタツの未成熟な稚魚は、ドラゴンタイプの屈強な生命力と胎内の安定した環境下で命を繋ぎ止め、先にできた2つのタマゴの隙間でひっそりと育っていった。

シャリタツの卵管内の体液には酸素が溶け込んでいたので、2つのタマゴと1匹の稚魚は、母胎の負担など知らずにスクスクと成長を続けた。


「ンン…？　ナンカ、ハラノナカ、ヘン…」

割れたタマゴから出てきた未成熟な稚魚が、マグロの胎の中で動いているのだ。胎生で言うところの胎動である。
人間の母親ならば我が子の存在を感じて愛おしさを覚えるのだが、卵生のシャリタツには初めての感覚で、ただただ不愉快なものだった。

「ナカデナニカウゴイテル？！　イヤッ！　キモチワルイ！」

せっかく助かったオスシを“キモチワルイ”呼ばわりするとは、母性も消し飛ぶほど追い詰められているようだ。

タマゴが崩れて圧迫感が軽くなった分、マグロは少しだけ食べる余裕が戻り、僅かに体力を回復させた。

マグロがタマゴを孕んでから1週間になる頃。
2つのタマゴがようやく孵化を迎え、マグロの胎の中の稚魚たちが、ここから出せと言わんばかりにグネグネと動いている。

「お、あとの2匹も孵化したか。よし、今から栓抜くぞ。タマゴより小さい稚魚だから産むの楽勝だろ。」
男は汚れたり濡れたりしても良いようにマグロを浴室に運ぶと、ダクトテープを剥がしてマグロの産卵孔をこじ開けた。
産卵孔を固く塞いでいた栓が抜かれると、マグロの悲鳴と同時に微細なタマゴの殻と血が混じって赤くなった卵管内の体液が勢い良く吹き出した。

「アﾞッアﾞッアﾞアﾞアﾞアﾞァァァアﾞアﾞァアﾞッッッ！！！！」

ブシャアアアァァァッッ！！！！

「うわっ、汚きったね！！」

赤透明な体液の噴射が止んでマグロの腹が少しへこむと、胎の中で動くものが産卵孔まで下ってきて、3匹のマグロの稚魚がズルリ、ズルリ、ズルリと這い出でた。

「ｷｭｰ…　ｵﾚ､ｼｭｼｰ」「ｼｬﾘ､ｼｬﾘ…」「ｽﾒｼｰ…」

タマゴから産まれる個体より勢いがないが、無理もない。
本来なら殻から出たら日の目を見るはずが、実際は狭く暗く生温かい場所で、呼吸も碌にできなかったのだ。
その上、マグロ特有のマゼンタ色で判りづらかったが、体表をよく見るとタマゴの殻で傷ついて、あちこちウロコが剥げている。

3匹の稚魚たちは傷だらけで少し弱々しいが、稚魚らしくピチピチと跳ねながら、初めて見る明るい外の世界に目を輝かせていた。
マグロも殻が残る胎の痛みを堪えながら、1匹も欠けることなく産まれた3匹の愛しい我が子オスシとの対面を果たして、目に涙を浮かべて安堵の表情をしていた。


「ｼｬｼｬ-!　ｼｬｼｬ-!」「ｼｬｼｬｺｯﾁﾐﾃ-!」「ｷｭｰ､ｾｰﾉ…」

「｢｢ｵﾚｼｭｼｰ!!!｣｣」

親から何も教わらなくともシャリタツならば本能で擬態をするはずの稚魚(オスシ)。しかし3匹の稚魚オスシたちは“のびたすがた”の姿勢で喉袋を膨らますことなく、床にペタンとうつ伏せになったままだった。

不審に思った男は、稚魚を1匹摘まみ上げた。
「ｷｭｰ?!　ｲﾔｰ!　ﾊﾅｼﾃｪ!!　ｼｬｼｬ-!　ﾀｼｭｹﾃｪｰ!!　ｼｬｼｬ-!!」
イヤイヤハナセと暴れ、母を呼ぶ小さな稚魚の小さな喉袋。

その紙のように薄い喉袋は、マグロの胎内でタマゴの殻に傷つけられ、産まれる前から既に破けてしまっていたのだ。
事の重大さを理解していない稚魚は、それでも「ｵﾚｼｭｼｰ!」と寿司を名乗った自己主張を続けている。
「アアァァッッ！！　シャリッ！！　オスシノシャリ……！！　オレノオスシノカワイイシャリガァァ……！！！」
「あーあ、こんな出来損ないじゃ引き取り手無えじゃん！」
男は摘まんだ稚魚を浴室のタイル貼りの床にベシャッと叩きつけた。稚魚は「ｷﾞｭﾋﾟｨ!!」と小さく鳴くと、ピクピクと二度三度痙攣して、すぐに動かなくなった。

「イﾞヤﾞアﾞアﾞァァアﾞァッッ！！！　オﾞスﾞシﾞィィッッ！！！」

マグロは倒れた稚魚オスシに駆け寄って、動かなくなった稚魚オスシを震えるヒレで抱き上げた。男は残り2匹の稚魚を掴むと、それに気付いたマグロが足に纏わり付くのを振り払い、2匹の稚魚も同じように床に叩きつけた。

「ダメエェェッ！！！　ヤメテエェェッッ！！！　オスシシンジャウウゥゥッッ！！！　オレノオスシイジメナイデエェェッッ！！！　オﾞスﾞシﾞカﾞエﾞシﾞテﾞエﾞェェッッ！！　イﾞヤﾞアﾞアﾞァッッ！！　オﾞスﾞシﾞィッ！！　オﾞスﾞシﾞイﾞィイﾞィッッッ！！！」

「ｷｭｰ?!　ｲﾔｰ!!　ﾊﾅｼﾃｪｰｰ!!　ｷﾞﾋﾟｨｯ!!」

「ｲﾔｰ!!　ｼｬｼｬ-!!　ﾀｼｭｹﾃｪｰ!!　ｷﾞｬﾋﾟｨｯ!!」


男に振り払われて仰向けに倒れたマグロの顔の横に、ベシャッ、ベシャッと稚魚オスシが落ちてきた。ほんの少し前までキラキラと輝いていた我が子オスシの目は開かれたまま、光を失って何も映さなかった。

「アﾞ、アﾞァ…　オスシイィィ……！！！　ナンデェ…！！　ヌﾞシﾞッ、ナﾞンﾞデエﾞェ…ッッ！！！」

「そもそもお前が勝手に孕んで来るのが悪いんだろ！　野良のオスと個体値ゴミなお前のガキなんて、どうせ他所にやったって他のポケモンのエサになるだけなんだから、今死んだって同じだろうが！」

男はマグロの白い腹部を踏み付けた。排出しきれなかったタマゴの殻が胎内に容赦なく突き刺さる。

「ギャアﾞアﾞアﾞアﾞァァァアﾞァァッッッ！！！　イﾞタﾞイﾞイﾞィィッッ！！！　イﾞタﾞイﾞイﾞイﾞイﾞィィィッッッ！！！」

「これだけ痛い目に遭えば二度と孕もうなんてしねえだろうがな。シャリタツは淫乱だから念のためやっておくか。」

男はマグロに“とくせいパッチ”を貼り付けて“よびみず”に変えた後、注入器に“ベトベターのどくそ”を溶かした水を詰めて、マグロの秘部の奥深くに注入した。

「スシィッ？！　イﾞヤﾞッ！！　ナニコレキモチワルイ！！　ヌﾞイﾞテﾞエﾞェ！！　イﾞヤﾞアﾞアﾞァ……！！」

「手術無しでできるメスポケモンの避妊法、ってネットで読んだヤツ。毒がピンポイントで機能破壊してくれるってよ。手術でこれ以上痛い思いすることなくて良かったな！」

男がマグロから注入器を抜くと、マグロの秘部から黒く濁った水がゴポリと溢れ出た。

「すぐに“どくけし”使えば体にダメージは無いってさ。毒が微量なら生殖機能は1ヵ月で戻るらしいけど、濃いめにしたからしばらくはタマゴできねえな。」


男は、痛みと哀しみで感情がグチャグチャになって泣きじゃくるマグロをそっと抱き上げて、今まで乱暴した人間とは思えない優しい声で宥め始めた。

「よーしよーし、心配すんな。胎ん中の殻は知り合いに頼んで取ってもらうし、元気になったら今までどおりオージャの湖には連れてくぞ。そこでたっぷり泳いでその辺のオスと気が済むまで交尾しろよ。止めたって無駄だろうしな。」

マグロは、男ヌシに涙を優しく拭われてながら、男ヌシの穏やかな声の中に恐ろしさを感じ、されるがままで何もできなかった。

「どうせ前のオスの顔なんて覚えてねんだろ。あっちだってそうだよ。お互いにその場の性欲解消し合ってるだけ。そんな相手のタマゴなんてウンコみてーなもんだろ。大事に思うことなんてねえよ。」

おわり

おれの種族値
dice6d150=3 2 142 140 135 123 (545)

死ね

朝から爆破失敗してる

おれの種族値
dice6d150=136 64 62 134 56 148 (600)

おれの種族値
dice6d150=124 14 84 100 58 29 (409)

おれの種族値
dice6d150=59 144 122 21 17 72 (435)

>朝から爆破失敗してる
まるでスレ虫の人生みたい