ロッカールームで制服、と言っても簡単なツナギだがそれを手に取る。
　室内ではあるのだが、今から入る場所は緑生い茂り、人工的なのだが建物内だってことを忘れるくらいの湖もある。ツナギを着用しないとあっという間に水浸しか泥まみれだろう。
　キャップを被り、ロッカールームを出た後事務所に行って念のためのシフト確認……今日は養殖場の点検、間違いないなと簡単な書類にサインしてその大きな扉に手をかけた。

　扉を開けたら、風が吹き抜けて緑を揺らす自然そのもののような景色。風も太陽の光も全て機械で管理された作られし場所。季節も関係のない偽物だとわかっていても風が心地よかった。

「スシ！」

　扉からすぐ出てきて飛び出してきたのはシャリタツ。
　オレンジの縞模様が入ったからだをしたそいつを……その種族をここで育てている。ここで産まれ育っているこいつは完全に人馴れしていて、俺にキュゥキュゥ鳴きながら、足の間に入り込み頬擦りしている。

　ここはシャリタツの養殖場。限りなく自然に近い環境のここは立派な施設内だ。野生よりも小さく、脆く、食べやすく産まれている。
　こんな大ががりな設備で育てているのはそれに見合う価値があるから。

「仕事だから、おまえは遊んできな？」

　足元のシャリタツを傷がつかないよう優しく剥がして、別のところへ行くように促した。引き剥がされたシャリタツは「スシー！」と元気よく鳴きながら茂みに入り姿を消し去った。

　今のオレンジの横縞模様のシャリタツはのびたすがたの色違いだが、どういうワケかシャリタツの色違いはそんなに珍しくない。確率でいえば10匹に1匹くらいのまあまあな数がいる。養殖用に遺伝子組み換えしていく中での変化だろうか？なんなら"よびみず"のほうが珍しいくらいだ。でもそういう世界なんだろう。
　しかし色違いであることは変わりないので通常種よりは多少値段は上がる。そんなシャリタツに傷がつかなくてホッとする。あいつも立派な商品だからだ。

「スシイ」
「シャリー！シャリシャリ」
「オスシー」

　次々と愛らしいシャリタツ達が湖から上がってきたり、他の茂みから姿を現し、あっという間に足元に集まってきた。ぴょんぴょん跳ね回ったり、仲間同士で戯れていたり、俺に対して手を伸ばしてきたりと今日も元気そうだ。

「まだごはんの時間じゃないぞ」
「ゴハンー」「ヤダー」「シースー」

　おねだりの内容は大体メシの催促だ。腕時計を確認して「もう少しだから」と声をかけてその場を離れる。
　そう言えばメシ目当てのシャリタツ達はあまり追ってはこない。養殖場の餌やりの時間はしっかり決められているし決まった量を与える。日々ここで過ごすシャリタツ達はそれをわかっているからだ。ダメなものはダメなのだ。
　でも遊んで欲しそうなシャリタツはそのまま後をついてきたりはするが大体途中で飽きて、他の仲間と遊びに行ったり姿を消したり、そんなところだ。

　この養殖場は大体……学校の体育館が２つ繋がったくらいの大きさだろうか。俺の働く養殖場は従業員も少ないし、そこまで大きくない。建物内では自然に近い環境で養殖している。決まった時間の餌と毎日の体重管理など細かい決まりはあれどシャリタツ達をのびのび育てている。シャリタツの数は1000前後だろうか。まあ大手には及ばないが、ある程度管理がしやすい数なのでは、とそれなりに仕事に慣れた今は思う。

　植物の中を掻き分けるように注意深く足元を見つつ歩く。
　そうするとーーーーあった。シャリタツのたまごだ。

　母体は母体で確保されているのだが、沢山のシャリタツを放し飼いしているようなものなので、こういうことがよくある。
　大抵母親がつきっきりでたまごをあたためて側を離れなかったりするが、子供に興味のない個体なのかたまごを産むのがどういうことかわかってない頭が幼い個体なのかわからないが、そこらに落ちていることがある。それを回収するのが仕事のひとつでもある。
　鞄からたまごのパックを取り出して拾ったそれを入れる。シャリタツはたまごも美味しい。親のわからないこれはミックスたまごとして出荷されるのだ。

　しばらく歩き回っていると中腰になって草毟りをしているおばさま……パートさんを見かけた。
　パートさんはこの養殖場の清掃やちょっとした植物の管理などをやってもらっている方だ。
「お疲れ様です」と声をかけたら「お疲れ様です」とゆっくり立ち上がり腰をさすりながらこちらへ振り返った。

「大丈夫ですか？」
「大丈夫ですよう。ここ虫刺されの心配がないから家の庭仕事より大したことないわあ」

　穏やかにそう笑うパートさんにはいつもほっこりさせてもらってる。確かにここは完全に管理されているので俺たち作業員とシャリタツしかいない。太陽じゃないから日焼けもしないしむしよけスプレーも不要なのだ。
　それに足元には5匹ほどシャリタツ達がいた。シャリタツたちはこの自然豊かな養殖場内だったらどこにでも自由に行けるのだがこのパートさんにはいつも誰かしらシャリタツが寄っていく。引き寄せやすいってことだろう。

「そろそろ出荷の時間ですよね。私この子たちをそちらへ連れて行きますねえ」
「いつもありがとうございます」
「いいえ～。こちらこそ美味しい思いをさせていただいてますからねえ。お疲れ様でした」

　お疲れ様です、と声をかけたら「行くわよお」とパートさんが歩き出したら「スシイ！」と鳴きながらそれに着いていく。
　ここのシャリタツ達は人間に慣れているので言うことを訊いてくれるがあのパートさんには特に訊いてくれる。これから出荷の荷造りに連れて行かれるんだがここを出たかどうなるかシャリタツにはわかりっこない。
　そして、仕事終わりにパートさんはシャリタツを2、3匹いつも貰って帰ってるので今日もそうなるんだろう。前にパートさんに連れて行かれたシャリタツは嬉しそうだったがどんな晩御飯だったんだろう。前にパートさんはムニエルが好きだと言っていたが今日は何を作るのかな？

　♪～♪～
　養殖場に聴き慣れた音楽が流れるとシャリタツ達がざわつきはじめる。

「ゴハン！ゴハン！」
「スシー！スメシー！」

　そう鳴きながら俺の元へシャリタツたちがやってくる。これは食事の時間を知らせるメロディーなのだ。一番の楽しみと言っても過言じゃないのかこの音楽が流れるとシャリタツ達は遊んでいても近くの作業員のところへ餌を貰いにやってくる。飛び跳ねたり、待ちきれないのかこちらにヒレを伸ばしたりと催促しにゾロゾロ姿を表すのだ。

「ほら」

　ざっと50くらいはいるのでまるで鳥ポケモンに餌をやるように固形の粒状のそれをばら撒く。
「スシー！」「コレコレ！」喜びながらそれを拾いがっつきはじめた。
　さくさく、ぽりぽりと音を立てながらシャリタツ達は美味しそうに尻尾を振りながら餌を食べている。

稚魚タツも虐待してほしい

　シャリタツ専用の独自のブレンドの餌であり、味もシャリタツ好みに調合されていてよく食べてくれる。そしてこれにはちょっとした効力がある。それは知力を下げること。
　シャリタツは本来はとても頭の良いポケモンでドラゴンタイプ随一と呼ばれるほどだ。だがここのシャリタツは何のために養殖されているかと言ったら食用に他ならない。能力は最低限にされ技も"はねる"だけにされている。本来の賢さも必要ないのだ。悪賢いとされている性格は野放しにすると何をするかわからない。この悪事によりペット用シャリタツを逃がす人も多い。
　その知力を抑制することにより、頭の緩い人を疑わないシャリタツが育っていくのを担っている。そのおかげでここのシャリタツは言うことに逆らうことも知らずに扱いやすい。
　まあ人間に管理され育成されてそのおかげで不安や飢えには無縁でいるんだから、信頼されて当然とも言えるだろう。

　そんな俺ですら何が入っているかわからない固形のそれを、美味しそうに食べ続けるシャリタツ達を眺めた。

「スシィー！スシー！」

　たまごを拾いつつ養殖場を歩き回っている最中、おーいと言ってるかのように俺の姿を見つけてぶんぶんヒレを振っている。

「んーどうしたー？」

　なんだか必死そうなそいつのところへ視線を向けるとシャリタツは草むらの中へ入って行った。そこを掻き分けると、今俺を呼んだシャリタツがヒレを指しているのは、シャリタツの集まりだった。
　集団は俺に気づいたら、さっと道を開け始める。………真ん中にいたのは倒れて蹲るシャリタツの姿だった。スシスシ鳴きながら涙を流している。

　その中のシャリタツが「スシ」と言いながら頭上の木を差した。木から落ちた、そう言いたいんだろう。
　すぐにピンときたのは遊びの延長でこういう傷が着くのは残念ながらよくあることだ。いくら外敵がいないと言っても、高いところから落ちたり、石に躓いたり等好奇心がそうさせるのか。こちらとしてはちょっと頭の痛い問題ではある。

「イタイ……イタイ……」

　涙を流しているシャリタツを見るに大きな傷ができているし、動けないところを見ると骨も折れているんだろう。シャリタツの骨は柔らかいからな。

　周りのシャリタツ達は俺と怪我タツを交互に見つつ不安そうにキューキュー泣いている。助けてやって、とまるで言っているようだ。

　俺は腕時計で時間を見て、ちょうど良さそうなのでその倒れているシャリタツを抱き上げる。

「俺が連れてくから」

　そう言ったら周りのシャリタツ達は安心したかのように「スシイ」と鳴いて、表情を明るくなっていた。
　シャリタツ達に見送られてその場を後にする。怪我タツは俺の腕の中でじっとしているので安心して身を委ねてくれるようだった。

　俺は養殖場を出て、タイムカードを切った。

「お疲れ様」
「おつかれっすー」
　俺が来たのは休憩室だ。先にいたのは俺の同僚のひとりだ。休憩室は4人がけのテーブルが2つとちょっとしたキッチンがある。作業員はいつもここで休憩室を取るのだ。
「メシは？」
「これ」
　同僚に聞かれたので先程のシャリタツを差し出す。大きな傷と動けない体どう見てもボロボロのそいつを見て「これはダメだな」と同僚が呟いた。

「頼めるか？」と聞いたら「いいぞ」とそのシャリタツを受け取ってくれて、それを確かめるように強く掴んだ。
「イタイ！？　ナンデ！？」
「やっぱり完全にダメだな。とっくに折れてる」
　そう、どう見てもダメなのだ。俺達がシャリタツを育てるのは"商品"だから。もう傷ものになってしまったこいつはもうどこにも出荷できず『破棄』で『処分』扱い。俺の休憩中の飯になる。

　しかし俺は料理ができない。普段なら刺身のようにそのまま食べるのだが、傷だらけ過ぎるとそのままは怖い。同僚はしばしば俺の代わりに料理を作ってくれるので今回もお願いしたのだ。

　怪我をしたシャリタツは自分の痛みを取り除いてくれることを期待してたのだろうか、真逆の流れに困惑しているようだ。

　シャリタツは病院のベットとは真逆のように固いフライパンの上で寝かされる。
「ナニ！？　ナニ……！？」初めてのフライパンの寝心地はさすがに悪いらしく未知への恐怖に震える瞳をしているのが椅子に座ってる俺からの位置でも見えた。

コンロの火が付く。ちちちちちとコンロの着火音はまるでカウントダウンのよう。
　「ヤァッ」と聞こえた微かな悲鳴は切られたキャベツやピーマンなどの野菜で埋もれてしまった。
　「アヅイ…アヅイイイイイ……」 そんな声がしたが怪我をして体力のない個体だからかすぐ聞こえなくなった。

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>冒頭からだがだが言い過ぎて読み味が良くない
これ作者女だから作者に言って

今だ！管理権を奪え！

うんこ混ぜてミキサーにかけた後元気の塊で復活させるやつ好き

>これ作者女だから作者に言って
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冒頭からだがだが言い過ぎて読み味が良くない

>>投稿する前に一回自分で読み上げてみるのおすすめ
>>冒頭からだがだが言い過ぎて読み味が良くない
>これ作者女だから作者に言って
またどっかからパクってスレ立てたの？

>なんで急にタブンネから乗り換えたのか気になってくるだろ
そいつと他人設定らしいよ