ワカモ勝利IF 


「まさか本当に手を出していなかったとはな…正直驚いたぞ」
「です!から!あれほど申し上げたじゃないですか!!私はお慕いし狂いこそすれど手は出してないと!」
そんな会話をする着物姿のワカモと彼女の監視役とユウへの連絡役として抜擢されたカンナがいるのは矯正局の廊下
「しょうがないだろうお前はさんざんやらかした上に加害者を庇うのは性的被害者によくあることだしな…実際にあの二人も庇われたしな」
捜査の結果明らかになった未成年淫行で一度捕まったユウカとカヨコだがユウが庇ったものの流石に無罪とは行かずユウカは彼女がいないとミレニアムが色んな意味で崩壊するので本来大金ではあるが彼女にとっては端金クラスの罰金とミレニアム技術による監視、カヨコは一周回って冷たくなったアルにより懲戒停職と短い拘禁刑となっていた

しかしそもそもなぜ捜査が行われたかと言うと
「だいたいお前がいきなり自首してきて来たのがだな…いや自首や情報提供にはありがたいがお前からのメッセージを見たあの子が駆け込んできた時は慌てつつどこまでいったんだと思ったぞ?…あの子は立派だがまだ11の子どもでもあるということをだな…」
「それに関しては反省してます…ですがヴァルキューレですか?今から自首しに行きます災厄の狐です…とかいった所で襲撃予告としか思わないでしょう?」
「それはそうだがなら先生経由で連絡を…いやあの二人なら…」
そこまでいいかけてカンナはため息をしながら頭をかく
「そういうことです…あの時怒られたみたいに絶対言い負けてきっと…少なくとも今は私はここにはいません…だからきっとこれで良かったんですよ」
彼が自分を選んでくれた事を知ったワカモは喜んでいたが次第に驚きや戸惑いが追いついて彼のした選択の意味と影響を考え先生とユウにそれぞれ手書きとモモトークの2つでメッセージを残し自首という選択を取った
彼と自分の関係そして彼自身の立場も大きく変わるであろうというこれからに自分が今のままでは傍にあるだけで彼や先生の足かせになり必要ない迷惑や不安をかけることになる
ならばいっそ自分を更生させたという手柄にしてしまえばいい
…と思っていたのだが直後に駆け込んで来たユウには怒られ先生もいつのまにか二人が想い合っていたことに戸惑いが冷めないままでも大人で保護者の立場として彼女の行動にそれなりの理解は示し納得もし場も収めてくれたが急な行動は慎むように叱られてしまった
正座で説教される涙目の彼女の姿にあれが凶悪犯の姿か…?となった連邦生徒会やヴァルキューレの担当生徒内でちょっとした話題にもなったりしたが別の話である
本来ならば長期拘束となるはずのワカモであったがエデン条約での騒動や海での兄弟への貢献とそれも利用した二人からの嘆願や先生を狙ったカイザーへの敵対心で彼女が行なっていたハッキングで得たカイザーのヴァルキューレ上層部やカヤとの癒着や他企業への不正行為や脅迫行為の決定的証拠での司法取引さらに刑期中の戦闘協力等などで他の7囚人の捕縛こそ出来ていないものの半分以下の拘束となっていた
なおユウの女装のファンであった一部生徒からの嫉妬や「あの可愛い子をオスにしたんだろ災厄が」という冤罪の恨みで強く罰を与えるべきという意見もあったがこうして肉体関係もないことが証明されそれらも一蹴されることとなった
「ところでいつもの服もそろそろ返していただきたいのですが」
ワカモはいつもの衣装ではなく例の動画の調査も込みということやいつもの服は目立つということで着物や支給されたスーツで行動していた
「あぁ…まぁ…そのうちな…ところでそろそろ来る時間じゃないのか?」
彼に惚れたりしてないとはいえワカモの服を着たユウに一時とはいえ心を乱されたカンナとしてはあまり思い出したくない様子で返答をごまかし話題を切り替える
「あぁそういえばそうですね…しかしほぼ毎日来なくても…過保護なのはやはり兄弟ということなのでしょうか」
ほぼ毎日自分に会いに来るユウには感謝しているし嬉しいが自分に少なくない時間を割かせることへの負い目もある
「それもあるだろうがここにくれば確実に会えるというのが大きいのだろう…おまえはフラフラしてたからな…さておしゃべりもこの辺にしとくか」
「まぁそれは……いつも早めに来られますからね」
苦笑いを返しながら彼との会話を楽しみする感情にも後押しされ早足になる
だが今日の会話はいつものような復興状況の話や他愛もない雑談ではなく

「しばらく百鬼夜行に行かれる…?…その…やはり私の件ででしょうか」
「うーん…その話もするんだろうけどお祭りの話もあるかもしれないよ」
ユウは他の生徒から小耳に挟んだ百鬼夜行で20年ぶりに行われるらしいという祭のことを説明する
「20年ぶり…そこまで古いとなると…たしか……いえ推測より現地で聞いたほうがいいでしょう」
毎日来なくてもと言ったものの急にしばらく会えないであろうとなるとやはり寂しさが出てきてしまう
本当は心配だしついていきたいが百鬼夜行にも自分の話は間違いなくいっている以上自分が姿を表すわけにはいかない
そう思いながらも気丈に振る舞おうとするが耳は正直でへにょりと垂れている
そんなワカモの頭に届くように手を自分の頭より高く伸ばして何も言わずに撫で撫でするユウ
「…本当はお供できればいいのですが」
心配はしていないといえば嘘になる
でもそれ以上に強くなった彼はあのときのように自分が助けなくとも帰ってくるという信頼がある
ただここで寂しいと言うのは年上の立場とか以上に彼を困らせてしまうように思えて気持ちを言い換える
「僕もしばらく会えないのは寂しいよ?」
あぁやっぱりこの子には勝てない
内心を完全に見透かされたワカモはぎゅうっと強く抱きしめた上に尻尾を彼の足に巻き付ける
「はい…どうかお気をつけていってらっしゃいませ」
「うん行ってきます」
そんな何年か先の将来で何度も交わすであろうやり取りをする二人だった

そうして一時の別れをしたのだったがもちろん連絡は取り合い
最初はそろそろでしょうかとそわそわするワカモであったが何日かして連絡がほぼ決まった時間になると分かると端末の前で正座する姿が見られたりもした
色んな話をした
自分の処遇や百花繚乱やお祭りなどの真面目な話だけでなくもう一度女装させようと企む集団が無事に撃退されたとか自分と彼がどういう触れ合いをしたのか尋ねられた楽しい話も
たまにはつい話しすぎて先生に二人まとめて注意されたりもした
そんな風に時は過ぎていき自分が駆けつける可能性が在るために伏せられていた花鳥風月の暗躍と騒動もまだ不穏ではあるもののひとまず無事に解決したことを知らされた次の日にはユウは帰ってきた
先生はその功績をワカモとユウのための交渉に利用し彼女の停学は休学扱いにしつつ百鬼夜行からシャーレへの出向という立場に
解散が保留になったとはいえ人員不足の百花繚乱への非正規の部員でその能力を活かすという相談もあったが彼女らが今度こそ自分たちだけでしっかりと活動したいという意思とお互い離れたくないユウとワカモで両者の都合が一致し外部の相談員といざというときの介入と協力という話に落ち付いた

周囲の嫉妬やまだまともな生徒の奇異な物を見る視線こそあるものの以前暴れていたときと比べれば軽いものでシャーレでの書類業務やホワイトハッカーとして保全業務にもすぐ対応し対立を覚悟していたリンともユウへのスタンスの違いもあり厳しく見られることこそあれど特に問題はなく受け入れられていた
そんなシャーレでの生活ある日
「はい本人は不在中ですが確かにお預かりいたします、お疲れ様です」
ユウの不在中に彼宛の荷物を受け取るワカモ
その荷物はダンボールで届いたが簡素ではあるが飾り紐が張りつけられており百鬼夜行からのものであろうということが分かる
それが何故か妙に気になったもののワカモは開けることはせず彼の机に置いて戻ってきたユウもちゃんと気づいたのだがどうもそれを見て様子がおかしい
まるでものすごく大事な物が届いたかのようにじっと見つめてからそれを抱えてきて自分の方に歩いてくる
「念の為に聞くけどこの中のは見てないよね」
「…?はい見ておりませんが」
そう聞く様子もどこか真剣味を帯びていて内心ドキリとする反面状況が把握できずにちょっと困惑しながらワカモは答える
「よかった、ちょっとまた出かけてくるね!」
「えっあはい…なんなんでしょう?」
箱を抱えたまま駆け出すユウにちょっと寂しさを覚えながらもワカモは見送り再び仕事に戻るのだった

そして次の休日、先生に呼び出しを受けたワカモは早めに行き個室で待機していた
場所が場所だけに悪いことではないだろうが忙しい先生が時間を割いていることに内心ほんの少しの不安と緊張を覚えながら待つ時間は長く感じてしまう
そんな彼女の耳が足音が一ついや小さな物がもう一つ捉えて
「ごめんね待たせちゃった?」
そうして先生と現れたユウの姿にワカモは息を呑む
艶のある黒の袴の上に赤の着物をそして少しずれつつも合わせるかのように下から上に黒から赤へグラデーションし袖の部分に白が差し込まれ少し文様がついた羽織
そして羽織に少し隠れているものの袴の腰部分につけられたあの時プレゼントした仮面
自分のいつも着ていた服や着物と比べると派手さや装飾も仮面以外は少ないもののいいやだからこそ彼に似合っていると思えてしまうほど輝いて見えてしまう
「は、はひ…いいえ大丈夫です…」
ワカモは惚けている自分に見えないようでふとももをつねり気合をいれて返事をするがそれも長続きせず
料理が運ばれ食べながら会話する時には後で味を思い出せないほどに料理よりもユウに魅入ってしまう
しっかりしなければと内省する気持ちはあっても感情と胸の高鳴りはそれを容易く上書きして彼女は改めて気付かされる

あぁここまでどうしようもないほどに自分は恋をしているのだと

そんな気持ちに包まれた時間は待っていたときより長いのに遥かに短く過ぎ去って食後のデザートも終わった頃にユウは先生に向かって何かを確認するように頷くと一つの桐箱を取り出して差し出してくる
それは丁寧に朱紐で結ばれていて先日届いた荷物を思い出させる
「えっと……私が開けてよろしいのですか?」
先日のことは聞かないもののそう尋ねるワカモに対し緊張しているのかコクコクとだけ頷くユウ
ようやく落ち着いてきた胸の鼓動が再び高まりながらワカモは開ける
その中身は彼女のつけている仮面に似ているもののより目元は穏やかにそして細くなり白の部分が多くなり朱は減り代わりに金が差し込まれていて両側に飾り紐とその先端に鈴がつけられている
「!これは…」
そう尋ねようとしたワカモを制するようにユウは口を開く
「えっとまだ指輪は高くて買えないけど…その代わりっていうか…でもいつもはつけないで僕とだけいるときにたまにその仮面つけてほしいな」
そんなプロポーズとほんのり芽生えた独占欲の発露にワカモはいつも使っている方の仮面を持ちながら身を乗り出し顔を近づけ

「…これが私の答えです」

そういいながら彼女がユウに何をしたのかは仮面の裏側に隠された


FIN