「戦術データリンクを応用した相互認識補助システム……ねぇ。」
岐阜県各務原市にある某国策重工業会社、その応接室。
そこで各種システム開発に携わっている海津真弓は、一人の女性と相対していた。
「公安D課からの正規の依頼、と考えていただいて結構です。」
やや背の高い、スーツ姿の女性の視線は前髪に隠れ全くわからない。
「会社じゃなくて俺に直接依頼するって時点で怪しいんだよね。」
真弓は表情を変えないままに言う。
「それはこちらの仕様書をお読みいただければご理解いただけるかと。」
差し出されたホチキス止めの簡素な冊子を真弓は読み進める。
「……なるほど、ステルス状態のユニットを味方だけは視認できるシステムか。」
「現在あなたが参加しているテイマー向けSNS、その技術を応用すれば相当な小型化が可能かと。」
「どこでそれを……いや、花呉仁美にはすべてお見通し、か。」真弓は嘆息して冊子を返す。
「試験運用は私の『派遣先』で行います。」その言葉に珍しく真弓の表情が変わった。
「いや待て、オアシス団には他国の工作員やイレイザー軍の手先もいるだろ！そんなことして大丈夫なのか！？」

「元より公安D課はイレイザー軍に関しては感知しないスタンスですので。」
冷ややかな、わずかに嘲笑を含んだ声。
「……そうだったな。でも他国の工作員はどうなんだ？」
「さあ？」
「さあ、ってそんな無責任な！」
「少なくともオアシス団に派遣されている方々については感知いたしません。」
きっぱりと女性は言い放つ。
「公安の目標はリアルワールドに存在する団体。デジタルワールドの要注意団体のことは、『海賊版』の皆様におまかせしますわ。」

「ふうん……新しいセキュリティ、ねえ……。」オアシス団員MKT-820号こと煉獄マガネは渡されたバッジをくるくると回したりして眺めている。
「はい、私の勤め先の取引先に、そういうのを扱っている会社があって……安く仕入れることが出来ました。」
そう言ってオアシス団員MK-1103号は少し自慢げな様子を見せる。
そういえば彼女の勤め先はオアシス団のスポンサーのうちの一社で、大手総合商社だと聞いていた。
「調達の費用はスポンサーからの提供物資の一環として予算に計上されるそうです。」
ここデジタルワールドには脅威が多い。拠点の安全確保は重要なことだ。

「ただ設置だけはこちらでやってほしいと……そこまでは出せないと。」
全額スポンサー負担だと何やら裏がありそうで怖いが、そうでないなら大丈夫か？
そもそも彼女を寄越してきた会社には今まで何年もの間お世話になってきたのだ。
今になって何かの陰謀を企んでいることもないだろうとマガネは判断した。
だが念には念を入れて、盗聴器などが仕掛けられていないかは調べておくか。
「わかった。まずは審議に諮る。」

「と、いうことで議長からの依頼で調べた結果はどうでしたか？」
「どうもこうもあるか！」
オアシス団員Dr.B-2号、ジェスター・アバロンの研究室。
オアシス団員MK-1103号は、マガネの前とはまるで別人のような冷ややかで無感情な声色だった。
「これはFE社の記憶操作技術、しかも一世代前の旧式技術しか入っておらんではないか！」
「さすがですね。すぐにお分かりになりましたか。」
この程度の技術ではイレイザー軍の役には立たない。もっと高度な技術をすでに保有しているのだから。
「まあ連中ではあの技術を通信インターフェースにしようなどとは考えんがな。」

真意が誤解なく伝わるインターフェースなそ、イレイザー軍やFE社五行にとっては使えない代物である。
捨て駒や洗脳で騙してる操り人形が本当のことに気づいてしまってはいけないのだ。
「あとは位置発信システム……これは手動で切れる。それ以外にはせいぜい体温発電ぐらいか？」
極力まで余計な機能を廃しており、非常に小型ながら『目的』には合致した見事な出来だ。
しかし目新しい超技術の類は全く無い。体温発電もボタン電池程度の発電量なのでそのままでは他用途への転用は難しい。
わざわざ研究発展させる意味は……ノーだ。オキグルモン一体の生み出すエネルギーには遠く及ぶまい。
こんなものを新技術として持ち帰ったら、逆にデジモンイレイザー様の不興を買いかねない。
ネオデスジェネラルの連中からもいい物笑いの種だ。
「それで、議長への報告はどのようにされます？」
「ええい、問題なしと言っておけ！」そう言うと彼は差し出された報告書にサインをする。
「こんな事に私の時間を費やさせるな！」
不機嫌そうなジェスターに対し、MK-1103号は口だけで微笑む。
「ありがとうございます。博士にユキアグモンの叡智と加護があらんことを。」

「団員の位置の把握……？」
オアシス団員DEX-333号こと榊山サザンカは訝しげな視線をMK-1103号に向けた。
「次世代の登山用発信機の応用品、だそうです。」それには無反応で彼女は説明を続ける。
「野良デジモンに襲われたり事故に遭ったり選ばれし子供たちにボコられたり……そういった団員の捜索が迅速にできます。」
「うちの連中はそう簡単にボコられるタマじゃないけど……万が一ってことはあるわね。」
つまらなさそうな表情のサザンカ。
「本部棟への出入りもこの新バッジを入場証にして部外者の侵入を防ぎます。」
「なるほど……社員証で出入りを管理するみたいなものね。」
「あと、発信機能は任意で切れますので……」
そこでMK-1103号は口をサザンカの耳元に寄せ、声のトーンを一段階低くする。
「あまり『知られたくない』活動を行う時は、切っておかれるのがよろしいかと。」
「……ああ、そういう想定ですか。」サザンカはわずかに唇を歪める。
「いいでしょう、ただうちの連中は集まりが悪いのでそちらで配ってください。」
「それはお任せを……ありがとうございます。」
MK-1103号の差し出した稟議書にサザンカはハンコを押した。

「意味記憶型インターフェース……これ大丈夫なの？」
オアシス団員T-626号、リサ・ルドギーは椅子に座って仕様書を読んでいた。
「すでに『開発者』と『忍者』が実戦で何度も使用しています。それにNJ-786号……」
「ああ、あの子の帽子もそうだったの？なるほどそれで……」得心がいった、という顔をするリサ。
「元々はFE社で開発された記憶操作用の入出力技術だったそうです。」説明を続けるMK-1103号。
「同系統のインターフェースに対応できるデジモンは存在が確認されていません。いつかは対応されるでしょうが……。」
「しばらくの間はデジモンにハッキングされる心配もない、ということね？」リサの言葉に黙って頷き、説明を続行する。
「しかしこれは技術・材料・理論・設計のレベルでダウングレードが施してあります。」
その言葉にリサの片眉が跳ね上がる。
「よって『あそこに特定の誰かがいる』という情報だけが意識に現れる、という挙動しかしません――いえ、できません。」
「警戒、されてるわね？」嘆息混じりにリサが言うと、
「そもそも最初の『要求仕様書』を持ってきたのはNJ-786号です。」MK-1103号はそう言った。

「彼が私のところに来て『先生に、あなたのところに持って行って相談しろって言われたッス』……こんな感じでした。」
唐突にNJ-786号と同じ声が聞こえてきた。どうやら声帯模写もできるらしい。
「あの子……どう見ても本人が悪巧みするタイプじゃないのよね。」
「私も同意見です。なのでその『背後』には十分気をつけるべきかと。」
その言葉にリサはMK-1103号をまっすぐに見た。
「それは公安D課としての忠告？」
「いいえ、私個人からの注意喚起です。」前髪の奥の瞳が光を受けて輝いたように見えた。
「いいわ、何がしたいのかある程度の察しはついてるわ。」
そう言うとリサはすでにサザンカの判が押された稟議書にサインをした。

「そう言うわけで、新しい団員バッジにお姉さんを認識できるようにする機能が追加されたッス。」
数日後、オアシス団本部。オアシス団員NJ-786号はSL-691号こと向市静之にバッジを手渡した。
他の幹部から賛同の返答を受け、煉獄マガネも認めざるを得なかった。
早速、新しいバッジとそれに対応するスマートロックが運び込まれた。
まずは本部棟のロックをこれに交換し、他の施設も順次取り替えられるという話だ。

「これを着けてる限り、近くの団員には『SL-691号の向市静之さんがそこにいる』っていう情報が意識に送り込まれるッス。」
バッジの裏面には団員ナンバーと氏名が刻印されている。
「その人は『お姉さんがそこにいる』って認識するッス。具体的な位置も意識されるから見つけやすくなるッス。」
静之がバッジを装着すると、自分の意識に『NJ-786号がすぐ目の前にいる』という認識が意識上に浮かび上がってきた。
「システムの性格上、必ず見えるようになる訳じゃないッス。」そう言う彼の声は申し訳無さそうだ。
「普通の人でお姉さんを認識できる確率はだいたい90％ぐらいッスかね。」
「90％……。」1割は気づかれないというのを高いと見るべきか低いと見るべきか。
「ああ、その近くにいるタイミングでお姉さんが相手に呼びかければ99％の確率で認識されるッスよ。」
NJ-786号はそう言いながらあるデータをマクラモンのタブレットに転送する。
「……これは先生からッス。俺のこの帽子のテクノロジーのうち、渡しても大丈夫なデータ、らしいッス。」
「え……！」静之は意外そうな声をあげる。
「まずは添付のメッセージを読んでほしい、だそうッス。」

新オアシス団員バッジについて
オアシス団の各施設にスマートロックが導入されます。
この新しいバッジはそのロックを解除するスマートキーになっています。
団施設に出入りするときはこのバッジを必ず持ち歩いてください。
救出した、あるいは納入業者など外部の人やデジモンが入る際は受付で申請してゲスト用バッジを借りてください。
退出時に必ず返却してください。持ち出しは厳禁です。
またこのバッジには相互位置認識システムが導入されています。
近くにいる団員の名前と番号と位置が頭に浮かんできます。
この機能はスイッチを切ると察知することも察知されることもなくなります。
オフの状態でも団施設への入場は可能で、施設のログにも記録されます。
紛失した場合は速やかに連絡してください。即座に対応します。
他者に譲渡・売却した場合は最悪『del』により処罰されます。ご留意ください。
現在、このバッジを提示で様々な施設や店舗で割引を受けられるよう交渉中です。
その他連絡事項があれば追ってお知らせします。
（オアシス団事務課より）

貼る分は以上です
間違いとか解釈違いとかあったら
ごめんなさぁぁぁあい！！！

田舎の変人集団が比較的真っ当な設備更新をしている…

紛失した場合は即座に対応すると言っているが具体的にどんな対応をするのかは言及していない点
譲渡や売却に対しては厳罰を仄めかしているけど貸与には言及していない点
これらについてご留意いただけますと幸いです

ありがとうございましたぁ…
私がみんなから見えるようになればこの技術そのものにはそこまで興味はありません…すでに存在する技術というなら猶更ですぅ…
時間旅行もぉ…まぁ生きていればいずれ迎えることですので、わざわざ自分から赴くこともないですぅ…
これで心置きなくNJ-７８６号さんに協力できますので、遠慮なく使ってくださいぃ…
以上、SL-691号でしたぁ…

榊山公式より
「あ、そうそう、ウチのDel部隊員に渡す時は発信機機能の存在及び切れる事は言わないでおいてくれ。マックスさんや晶ちゃんや盛るフォモン辺りは自力で勘付きそうだけどな」

>ありがとうございましたぁ…
>私がみんなから見えるようになればこの技術そのものにはそこまで興味はありません…すでに存在する技術というなら猶更ですぅ…
>時間旅行もぉ…まぁ生きていればいずれ迎えることですので、わざわざ自分から赴くこともないですぅ…
>これで心置きなくNJ-７８６号さんに協力できますので、遠慮なく使ってくださいぃ…
>以上、SL-691号でしたぁ…
MK-1103号からの伝言をお伝えします
「お役に立てたようで何よりです。これであの趣味さえ控えていただければ……。少ないとは言え未成年のいる場所では自重していただきたいですわね。」
どうやら彼女は露出徘徊について「自分の仕事」に悪影響が出ると警戒しているようです

>榊山公式より
>「あ、そうそう、ウチのDel部隊員に渡す時は発信機機能の存在及び切れる事は言わないでおいてくれ。マックスさんや晶ちゃんや盛るフォモン辺りは自力で勘付きそうだけどな」
MK-1103号からのコメントです
「承知いたしました、ではそのように。」
あと彼女はサザンカさんのお店にオアシス団員割引の商談も持ち込みたいようです

>MK-1103号からの伝言をお伝えします
>「お役に立てたようで何よりです。これであの趣味さえ控えていただければ……。少ないとは言え未成年のいる場所では自重していただきたいですわね。」
>どうやら彼女は露出徘徊について「自分の仕事」に悪影響が出ると警戒しているようです
それとこれとは話が別ですぅ…みんなが見てくれるようになったとはいえ本気で隠れればこれを使っても見つかりませんしぃ…
人の趣味に口を出すものじゃありませんよ？特に私たちはオアシス団なんですし？

> あと彼女はサザンカさんのお店にオアシス団員割引の商談も持ち込みたいようです
榊山公式より
「申し訳ないがリアルに侵食するのはNG」

>それとこれとは話が別ですぅ…みんなが見てくれるようになったとはいえ本気で隠れればこれを使っても見つかりませんしぃ…
>人の趣味に口を出すものじゃありませんよ？特に私たちはオアシス団なんですし？
彼女としてはちょっと釘を差しておきたい程度なんだと思います
そもそも週の半分はハヌモンの町の小学校に行ってて本部には不在ですしね
本気で止めきれるとは考えていないようです

>榊山公式より
>「申し訳ないがリアルに侵食するのはNG」
MK-1103号からの返答です。
「承知しました。ではいずれプライベートで姉妹を連れて呑みに行きますわ。」

田羽公式よりウチの子が多分コレをクリスマスに真宵ちゃんと夕立ちゃんとめざめちゃんにプレゼントしちゃったんだけど大丈夫でしょうか？
とりあえずDel部隊下っ端をぶちのめして榊山さんに頭下げて口利き頼んだか言いくるめて予備かなんかを貰ったかリスト改竄したかでどれがいいでしょうか？

Dr.B-2をありがとうございます！
ちゃんと研究職っぽいことしてる！イレイザー関係者として最新技術にもよく触れ合うドクターにとってこんな事は造作もない…！これぞユキアグモンの賜物

>田羽公式よりウチの子が多分コレをクリスマスに真宵ちゃんと夕立ちゃんとめざめちゃんにプレゼントしちゃったんだけど大丈夫でしょうか？
>とりあえずDel部隊下っ端をぶちのめして榊山さんに頭下げて口利き頼んだか言いくるめて予備かなんかを貰ったかリスト改竄したかでどれがいいでしょうか？
導入されたのはごく最近なのでそれ以前に配布されたものなら大丈夫だと思います
裏面に名前が刻印されてなくて中身も入っていないノベルティ用もあると思います

オアシス団にノベルティなんてあるんだ…

>オアシス団にノベルティなんてあるんだ…
RM-4110号さんという先駆者がいますからね…

雑に配布されてるからなあの全身タイツと旧バッヂ…

全身タイツは危険人物の証

>そもそも週の半分はハヌモンの町の小学校に行ってて本部には不在ですしね

> 導入されたのはごく最近なのでそれ以前に配布されたものなら大丈夫だと思います
>裏面に名前が刻印されてなくて中身も入っていないノベルティ用もあると思います
田羽公式よりご回答ありがとうございます
「真宵ちゃん達に変に迷惑かける事にならなくて良かったっす……」

>1740922477202.png
補足するとその時は「国立デジモン学園の校長が派遣した教師テイマー・ひとみ先生」としてジャージ姿でパロットモンに乗って飛んでいきます
オアシス団のオの字も出しませんプロなので

>>オアシス団にノベルティなんてあるんだ…
>RM-4110号さんという先駆者がいますからね…
あれ団員にも売ってるのかな…
そもそもユキアグモン教なのにシードラモンのノベルティが使われてるのも大丈夫なのかな…