二次元裏@ふたば

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25072 B25/02/16(日)20:10:27No.1283880014そうだねx1 21:10頃消えます
「──これが、天界におわすイリアス様の発案された箱舟計画です」

中空に浮いたまま、異形の天使は天軍の長に語り続けた。
目の前の偉大な女性を説得できる僅かな可能性に縋りながら、淡々と言葉を紡ぐ。

「お察しの通り、箱舟世界に全ての者を迎える事は出来ません。
 しかし他の方法は既にあまねく検討され、どれも実現不可能であるか、許され得ないものであるとの結論が出ております。
 特に邪神の提唱する合一計画などは全く唾棄すべき──」

女性は美しい肢体に緑の帯を纏っていた。
服と言えるほどの面積も無いのに、その布が偉大な魔力によって高貴な身体を守っているのだという事が一目でわかる。
明らかにイリアス様の御手によって生み出された帯。
彼女が纏っていたのは古の戦装束だ。
この世界における天軍の長が、この世界におけるイリアス様のために、この世界における邪神の軍勢と戦った時に纏っていたという、天の衣。
──しかしその戦支度が、自分たちの戦列に加わるためのものとはグノーシスには思われなかった。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/02/16(日)20:11:13No.1283880362+
「どうか今一度ご再考し、我々にご助力ください。
 この世界のイリアス様がどのような状態であるのかは我々にも把握できておりません。
 しかしイリアス様であるならば、決して反対なさらないだろうと天界のイリアス様は仰っています。
 その偉大なる力でもって我らを、天界のイリアス様をお助け下さい、ミカエラ様、どうか──」

語りながら、グノーシスは体に備わったセンサーで尊敬している軍団長の力を測り続けている。
己にとって有利な観測データを受け取りながらも、認めたくなかった。
目の前の天使はその大いなる力を隠している訳ではない。
既にその力は大半が失われ、まともに戦える状態に無いのだ。
七大天使どころではない、例え熾天使である己と戦ったとしても、恐らく。
225/02/16(日)20:11:49No.1283880681+
「もう結構よ、グノーシス。
 賢いあなたならわかっているのでしょう?」

今、グノーシスとミカエラが対峙している事をエデンは知らない。
エンリカなる地にミカエラが暮らしているという事を知って以来、エデンがその地に近付かずに済ませていた事をグノーシスは知っていた。
ミカエラを恐れての事ではない、むしろミカエラの平穏な暮らしを守るための気遣いだ。
しかしはや、こちらが避けていてもミカエラは自分達を追い、敵として現れてしまうだろう事をグノーシスは知っていたのだ。

「私の考えは変わらない、と──」

いつの間にか、ミカエラの手には光り輝く宝剣があった。
誰もが恐れる天軍の剣。
325/02/16(日)20:11:59No.1283880778+
「なぜ──」

ああ。やはりこうなってしまった。
巨大な聖素同士の対立が空間を歪め、空をも陰らせる。

「なぜ、イリアス様の意に沿わないのだ。
 我々の計画を妨げるなど、正気とは思えない……」

本来、この交渉の役はエデンであってもできる事だった。
むしろ妹であるエデンが行った方が成功する確率は──あるいは決裂するとしても穏便な形で着地できる確率は、少しは上がったのだろう。
しかしエデンだったとしても、ミカエラを説得できたとはやはりグノーシスには思えなかった。
結局はきっと同じ形になってしまったはずだ。
それならば、この役を為すのは己である方がよい。
425/02/16(日)20:12:12No.1283880912+
「あなたといえど、その言葉は聞き捨てならない。
 イリアス様に剣を向けるというのなら──」

エデンを疑っているわけではなかった。
エデンの忠誠心は誰よりも強い。
イリアス様のためなら、きっと姉が相手であってもその槍を突き立てることができるのだろう。
まして彼女の手には七大天使をも滅ぼす聖槍がある。己と比べても不覚を取る可能性はずっと低い。

「そして、今のあなたでは私に勝てないだろう。
 ここで無駄死にする気なのか……?」

だからこれはただ、グノーシスの私情だった。
僚友であるエデンに姉を殺させたくなかっただけなのだ。
尊敬するミカエラの最期を妹の手によるものにしたくなかっただけなのだ。
525/02/16(日)20:13:08No.1283881369+
書き込みをした人によって削除されました
625/02/16(日)20:14:05No.1283881836+
輝く剣を手に、ミカエラは地を蹴り、空へと舞い上がった。
何も問題は無い。
やはりその姿に自分の知る力は──熾天使たる己を脅かす威力は無かった。
グノーシスは次々と放たれた光刃を魔導障壁で防ぎ、大空へと飛翔しながら闇の力で弾幕を張る。
グノーシスを追うミカエラは弾幕に怯む事無く巨大な光球を投げつけた。
聖なる光は闇の弾幕をかき消し、なおもグノーシスに迫る。
何も問題は無い。
その輝きと同じ力をグノーシスも持っていた。
異形の身体が発光し、ミカエラのそれと同じ…否、それ以上に巨大な光球を放つ。
冷血と恐れられる自分なら何も問題は無い。
自分なら少しも心を動かさず、平然と僚友の姉を、尊敬する軍団長を殺める事ができるのだ。
この先もエデンに万全の状態で指揮を執ってもらうために、これは自分が果たすべき役割だった。

「……嫌な仕事だ」
725/02/16(日)20:14:16No.1283881913+
聖なる力がぶつかり合い、天が震えた。
825/02/16(日)20:14:36No.1283882072+


グノーシスの予想に反し、戦いは膠着していた。
観測した数値とはかけ離れたミカエラの戦闘能力──否、戦闘技術はグノーシスの計算を上回る動きとなって現れ、その攻撃から巧みに逃れさせ、同時にグノーシスの身体に想定になかったダメージを蓄積させていた。
ミカエラの動きは素早く、鋭く、その技の冴えはどこまでも素晴らしい。
──しかし、その攻撃のどれもが儚く、弱かった。
展開される障壁の隙を突いて撃ち込まれる攻撃は大妖魔であっても致命傷を免れない威力だが、アポトーシスに由来する不死性と無尽蔵の体力を持つグノーシスにとってこの程度のダメージは損傷のうちにも入らない。
にもかかわらずミカエラは徐々にその動きを鈍らせ、回避できていたはずの攻撃を受け始めていた。
マキナによる射撃、時魔法による束縛、闇の力による破壊、聖なる力による浄化。
それらは衰えた身体を更に傷つけ、死へと追い詰めていく。
925/02/16(日)20:14:55No.1283882246+
だというのに。
血を流し、息を荒げながら、それでもミカエラは戦うのをやめようとしない。
降り注ぐ弾丸の雨にミカエラは雲海に逃れようとする──が、既にその動きは分析済みだった。
雲海を目の前にして、先んじて放たれていた闇の力がミカエラの翼を穿ち、羽を散らす。

「ぐ……うッ……!」

耳を閉ざしたくなるような苦痛の呻き。
しかしこれでもう、今までのような動きは出来まい。
そしてやはり、この仕事を為すのがエデンでなくてよかった──
1025/02/16(日)20:15:13No.1283882418+
──そう思った瞬間だった。
そのまま雲海に身を潜めると思われたミカエラの身体が反転する。
追い詰められながらもミカエラはグノーシスを観察していたのだ。
聖魔の力を併せ持つ事、データに基づいた戦いをする事、自分を討つのに迷いがある事……。
反応する間も与えずグノーシスにミカエラは肉薄していた。その手には、眩い光を放つ神の剣。

「──受けよ!!天軍を束ねし聖なる剣!!!」
1125/02/16(日)20:15:36No.1283882642+
しまった。
六祖をも一撃で滅する、天の軍団長渾身の一撃。
その閃光の前にグノーシスは己の死を覚悟する。
しかし次の瞬間、その心は死をも上回る哀しみに覆われていた。
弾け飛んだ機械の腕と翼が雲海の中に消えていく。
1225/02/16(日)20:15:51No.1283882782+
「っ…」

偉大な天使の顔に隠し切れない絶望が浮かんでいた。
天界最強の一撃は異形の天使の展開していた障壁を当然のように打ち砕き、その身を裂き、しかし格下である熾天使を滅する事すらできなかったのだ。
消耗と動揺で動きを止めた身体に、マキナの弾丸が直撃した。
至高の天使は鮮血をまき散らしながら聖山の頂へと堕ちていく。
砕け散った天軍の剣が、雲海の中に消えて行った。
1325/02/16(日)20:17:30No.1283883725そうだねx1
>全然出力が上がらない己の身体に絶望しながら追い詰められていくミカエラさんと己にすら敵わないほど弱体化したミカエラ様に絶望しながら命を削り取っていくグノーシスの誰も幸せにならない戦い見たいよね…
って思ってたので書きました!
この敗北でミカエラさん心まで折れたのいいよね…
1425/02/16(日)20:19:09No.1283884582+
もんぱら怪文書初めて見た
1525/02/16(日)20:21:43No.1283885800+
初登場時は自分に負けたミカエラさんを蔑む悪役ムーブしてたけど内心ではミカエラさん手に掛けるの滅茶苦茶嫌がってたのいいよね…
1625/02/16(日)20:23:09No.1283886467そうだねx1
ミカエラさんはくえ時空でも天軍の剣自体は撃ってたのでグノーシスに相手にも撃った上で衰えのせいで全然通用しないまま死んでてほしいなと思います!
1725/02/16(日)20:24:30No.1283887153+
グノーシスがやるしかないのいいよね…
バカのシオンにやらせる手もあるだろうけどバカだからうっかりやられたりするし…
1825/02/16(日)20:24:59No.1283887403+
>この敗北でミカエラさん心まで折れたのいいよね…
ミカエラさんといいグランベリアといいアリスといい心折れて曇ってる描写良いよね…
1925/02/16(日)20:27:19No.1283888562+
エデンにやらせるわけにはいかないもんなあ…
2025/02/16(日)20:29:15No.1283889518そうだねx1
>>この敗北でミカエラさん心まで折れたのいいよね…
>ミカエラさんといいグランベリアといいアリスといい心折れて曇ってる描写良いよね…
尊厳を破壊し尽くされた末にグランベリアの名前すら捨ててヘラヘラ笑いながら奴隷やってるベリーちゃん惨め過ぎていい…
その後ちっぽけな人間の弱くとも誇り高い生き様を見て復活するところも良い…
2125/02/16(日)20:30:13No.1283890029+
書き込みをした人によって削除されました
2225/02/16(日)20:31:38No.1283890811+
>尊厳を破壊し尽くされた末にグランベリアの名前すら捨ててヘラヘラ笑いながら奴隷やってるベリーちゃん惨め過ぎていい…
…俺はみんなが思ってるほど立派な戦士じゃない
グランベリアと戦って負けたって言うのも本当は嘘さ
あの時俺はグランベリアの強さに恐れをなして戦いもせずに逃げ出したんだ
きっとグランベリアは俺の背中しか見てないよ
俺は皆に尊敬されるような戦士じゃないんだ…
2325/02/16(日)20:32:51No.1283891481+
>エデンにやらせるわけにはいかないもんなあ…
エデンさんがボロボロ泣きながら衰え果てた姉をロンギンヌスで消滅させる展開はおつら過ぎる…
2425/02/16(日)20:33:39No.1283891873+
あの誇り高いミカエラさんがエデンに腑抜けと罵られてルシフィナに見下げ果てたものって罵られるのいいよね…
2525/02/16(日)20:36:08No.1283893144+
特異点世界のミカエラさん一人で突っ込んで行って死んじゃったけど
もうちょっとタイミング良ければ小イリアス様と合流して生存ルートとかもあったかもしれない
でもまあそういう世界線は結局ダメなんだろうな
2625/02/16(日)20:51:57No.1283901085+
グノーシスが弱いわけじゃないんだけどグノーシスに負ける特異点ミカエラさんは衰弱著しすぎる…


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