制服はビシッと着こなすのが彼女のやり方だ。  だが、かわいい服も着たい。だって当然だろう、女の子なら。  だからこそ、ここでバイトをしようと言われた時は困惑すると同時に少し心がときめいた。  メイド服なんて…それも採寸までしてくれるオーダーメイド品の物なんて、そうそう着れるものじゃない。  しかし、 「わー、告瑠ちゃん似合ってるよー!」  気付くべきだった。  なんたってこの店のメイド服をしっかり着ている相手とさっきまでデュエルしていたのだから。  相手の公開情報をきっかり暗記しておくのと同じぐらい大事な事だ。 「ちょっーーと、これ、は……!」  多い。  多いのだ。  肌の露出が。  姿鏡を見るだけで、いや外気に触れている肌の感触だけで、顔がまるで炎属性炎族のように火照る。  今の告瑠なら、篝火の効果で容易にサーチできるだろう。  いや、サーチして欲しくないのが彼女の本心なんだが。 「ま、雅音さん、や、やっぱりその…」 「あら、丈が合ってなかったかしら? 確か上から百二十…」 「わー! わー! い、言わないで良いです! サイズは合ってますから! でも、これ…!」 「うふふ、隠せてないって?」 「……はい……」  自慢ではない、決して自慢ではないが、告瑠のプロポーションは抜群だ。  攻守でいえば3500/3000ぐらいはある。  腰も程よくくびれていて、腹に行く分の栄養が胸と尻に寄っているのではないかと告瑠本人も思っているほどだ。  その超エース級の『攻撃力』の上半分が、さも当然のように露出している。  先端部分がはみ出ていないのが驚く程の露出度で、これは… 「破廉恥ではないでしょうか…?!」  と、思わず得意のハの字眉で抗議してしまう程、目のやり場に困る。困ってしまう。  抗議のために身振りをすると、攻撃力がブルンと揺れる。告瑠は気付いていないが、スカートがしゃなり揺れて『守備力』もちょっとハミ出る。  デッカーパイントはいかがわしい店ではない、それは告瑠自身がよく知っている。  だが、この格好で客の前に出ろと言われると話は別だ。  しかし、店主である雅音はしっとりとした笑みを浮かべて、 「大丈夫よ、変な事は私が絶対にさせないから」  と言うばかりだ。 「そうだよーっ、オーナーは強いんだから!」  とそれに賛同する遊璃も、その『攻撃力』を健康的にぷるんと揺らしながら跳ねるんだからもう大変だ。なんならよく見れば雅音の格好も結構きわどい。なんだその長い谷間は…。  相手の布陣が強い。さながら既に妨害札に囲まれている状況だ。 「で、でもっ…」 「告瑠ちゃん、無理にとは言わないわ…でも」  それでも食い下がろうとする告瑠の手を、そっと雅音が取る。 「貴女にはまだ秘められた才能があると思うの。それを一度でもいいから、試してみない?」 「秘められた、才能…?」 「そう、人の中にある力、デュエルを通して湧き出る力を、もっと引き出せる、そんな力が……ね?」 「う、うーん…」  そう言われて納得するかしないかで言えば、しないのだが…。  だが告瑠も人並み以上に賢いとはいえ、まだ10代半ばの女子だ。  何か雅音の言葉に秘められた不思議な魅力に、どこか抗えない気持ちが湧いてきて…。 「わ、分かりました…わざわざ作ってもらった物ですし…とりあえず、一日、働いて、みます…」 「やったー! よろしくね、告瑠ちゃん!」  こくん、と微妙に納得いかないままに、頷いてしまうのだった。  遊璃が喜びのままにぴょんと跳ねて、再び『攻撃力』が揺れる。  嗚呼、メタビートにも、捲り札はちゃんと積もう…。  見下げると見える自分の巨大な『攻撃力』をなんとなく持ち上げて、そう思った告瑠であった…。