ドルフロ2の二次創作のまとめ 前提と独自の設定 これは二次創作。本編とは混同しないこと。 この世界は治安が悪い。 SAC2045コラボの話が過去に起こっている。2Z64エリアに接続し、失踪した者の一部はビッグブラザーのシンパとなった。エルモ号の指揮官達はビッグブラザーを殺り、サーバーを破壊した為、恨まれている。 エルモ号の指揮官は男女で合計二人いる。 グリフィン指揮官とその上官の数が増えている。本編のプロトコルのような物の巻き添えを受けたり、G&K自体の受け皿の小ささによって割を食っている者もいる。一部は賞金ハンターとなった。 全ての人形がグリフィン時代のエルモ号の指揮官の指揮下にある訳ではなく、複数人居るグリフィン指揮官やその上官に分散して割り当てられていた。 ヴェプリーは闇ブローカーに売られるまでの過程で介護、清掃、店員などの様々な職種を経験している。 この話は本編とは関係無い曖昧な時系列で進行している。 登場人物 エルモ号の男指揮官……指揮が得意。よく拉致される。 エルモ号の女指揮官……指揮が得意。よく拉致される。 ヴェプリー……戦術人形。強い。新曲をネットで配信したい。出来る範囲でアイドルらしくありたいと思っている。 コルフェン……戦術人形。指揮官達にある程度心を開いているが、時々辛辣。 1 「それで、新曲を作ったんだけど~☆」って言おうとしたんだけどね。やめちゃった。 ヴェプリーはメモリを抱えて指令室に入ったんだけど…… 「ビッグブラザーの件のツケを払え……」「フゴゴ」指揮官達は口に銃を詰め込まれてるみたい。 フランスパンを食べてるMVを前見た事があるけど、ちょっとそれに近いかも?食べ物じゃないのにね。 コルフェンが目を向けてる。銃を抜いた。瞬きでモールス信号を送り、左から行けって指示。 ウィンクと共にOKのハンドサインを返した。 左から行って……待機。それから指令室のドアが閉じる。無線操作で、こう、ね。 マナーの悪い観客達が指揮官の口から銃を抜き、向こうのドアの側に向ける。 「誰だ?」 バァン。なんてね。とにかく胴体を狙った。動物の鉛中毒に配慮されたエコで環境に優しい弾薬だけど。 人体には優しくないみたい。 「クソ!」「まだ動いてるよ」コルフェンの声。倒れた所で更に片手で銃を撃とうとしたけど、ブーツで手を踏んだ。 もう一人が片手をポケットに突っ込もうとしたから、腕を蹴る。無線機が地面を滑る。今流行りの自爆ベストだ…… 指揮官が咳き込む。 彼らを縛って営巣に放り込んだ。 「新曲がどうしたんですか?」コルフェンが歯科検査キットを口に突っ込んでる。男の指揮官の方は歯が一本折れてた。 「ネットで公開できないか考えてるの」「へえ」生返事。「すればいいんじゃないですか?」しま~す。 「ここで生配信をするのは難しいわね。帯域幅がキツイから。安定しないのもあるけど……」と女の指揮官。 「街に寄るまでにいくつか録り溜めして、適時アップすればいいんじゃないですか?」とコルフェン。 「機材がちょっと中古でボロだから、新しいのを買いに行きたいの……」「あー……」「仕方ない」と男の指揮官。 「ビッグブラザーって誰ですか?」「それ、ヴェプリーも気になる」「昔戦った相手だ。手ごわい男だった」 「処置しますよ、喋るのおしまいです……」 痛そう。 「米酒……」酒瓶を抱えたメイリンがうろついてる。「ね、エルモ号のネット通信機材について話し合いたいんだけど」 「フフ……米酒……」額を抑える。壁に寄りかかって眠ってしまった。幸い部屋は近いから、瓶を引っぺがして運んであげた。 街まで何キロもあるから、その間防音室で練習しよう。 2 「偉大な男はすぐに死ぬんだわ」このバーの女店主が呟いた。 ヴェプリーは機材代を稼ぎたい。メイリンは米酒の飲み過ぎで動かない。指揮官二人組は他の用事でいっぱいいっぱい。 (自由行動!)二人の声がリフレイン。ヴェプリー、何したいの?と聞かれたら……そうだね。ちょっとばかり金を稼ごう。 「偉大な男って?」まずは情報収集から始めましょう。指揮官達の元の会社のドクトリン。「ロクサットさ」店主。 「あの男は素晴らしい考えを持ってた。違うかい?」「ヴェプリーよくわからないかな☆」「ハン……」 「まぁ、ハーモニカに合わせたボーカル役として雇ったんだ、そういう話は出来ないってわかってるべきだったね……」 「聞くだけなら出来るよ!」「あまりダメな男もすぐ死ぬんだよ」「ふーん?」「うちの夫はダメでも良くもない」 「つまり?」「中庸さ。ほどよいところに位置してるのが一番うまくいくんだよ。偏りすぎちゃいけない……」 「飲めるかい?人形ちゃん」サーバーを指差す。「メイリンは米酒を飲み過ぎるとアホになるって」「ふーん」 「あんたの所も酒でダメになってるのかい?」 ドアが蹴破られる。 お客さんだ。 「金は出してくれるんだろうね」「あんたらが出すんだよ」ワオ。指揮官が西部物の映画を見せてくれたんだけど。 この状況ってそれにそっくり?「ハァイ」手を振る。「いいね、お嬢ちゃん。もう片方の手も出すんだ」 ヴェプリーはポケットに手を突っ込んでいたんだけど、その中にはちょっとしたものが入っていて…… 「おいおい」手榴弾でした☆「ピンは?」二人目のお客さん。「ごめーん、無くしちゃった」 嘘。実際はジャケットから出すと勝手に抜けるように細工してたの。それから立つ。「待て待て待て!」「動くなって!」 「でもお客さんたち、お金を出してほしいんでしょ?放さないとお金渡せないよ?ヴェプリーそんなに器用じゃないし」 歩み寄る。こういう時は笑顔が大切だって男の指揮官が言ってた。「撃てって!」「ええ?」「店が壊れる!」 更に寄る。「話せばわかる」「ぶっ壊れてたらどうすんだ!?」 「セルフチェック完了☆100%正常だよ!」嘘。完全スキャンって時間がかかるから。 「やべえ」「逃げろ!」お客さんは背を向ける。 「……針金持ってないですか?」「何とまぁ」店主は溜息を吐く。 3 ある仕事が一段落したけど、まだ機材購入費用には達しない。 だからヴェプリーはヴァリャーグ狩りをする事に。コルフェンは……彼女、めちゃくちゃヴァリャーグが嫌いみたい。 きっとこの長く続くライブのどこかの時点でよくない事が起こったのかも。よくない事……うーん。 この店。西部風の木のドアがあるの……足が見えるし、しかも、キイキイ音を立てながら揺れ動く。 セットみたいじゃない?違う? 「コルフェン~そういうのどうでもいいから早く仕事を受けたいな~」OK。 「コルフェン、ライブの舞台をキレイにしたいんだよね?ヴェプリーもそれでお金稼いで、早く機材買いたいの☆」 「チッ」「ん~?」観客メモを更新。コルフェンちゃんはこういう対応を好まない。 カウンターに男女二人組が座っていた。 「あなた、見た事ある顔ね。ロクサット連盟のアイドル人形じゃない」女。恐らくテレビか何かでライブを見たのかな? 「ヴェプリーの事知ってるの?嬉しい♪」「私はあなたのような存在を常に恐れているの……」「おい!」男。 何て答えよう? 「すまない、彼女は……アレなんだ」「アレとは失礼ね」 ドローンを飛ばして偵察し、電動バイクで移動。目的地に着き、匍匐しながら双眼鏡と画面を覗く。 有線ドローンを見ると時々気球を連想する。かつての巡ったライブ会場の受付のインテリア。 「昔の戦争、あれに爆弾を括ってたんだって」コルフェン。「ゴリアテみたいな?」 横にロールして、女の賞金ハンターの所に。「さっきの話の続きしない?」「ん?ああ、ごめんなさいね……」 「人形嫌いなの?」「まさか。人間嫌いよ」「でもさっきヴェプリーの事を怖がってるって?」 画面にはボディカムの映像が転送され、簀巻きにされた人質が映る。縄を切ってる。 「あなたみたいなのが上手くいったら、あなた達を使って人間を操れるかもしれないでしょ?怖くない?」 「アハハ、ヴェプリーうまくいかなかったから、今は失業者だよ☆」「奇遇ね。私達も失業者で賞金ハンターなの」 「うふふ」「アハハ」「何やってるんですか」画面に動き。男がヴァリャーグの車を奪った。 「砲撃を指示した座標に」「まだキーを動かしてるのに?」「いいから」「ええ?」 ヴァリャーグの基地が爆炎に包まれ、数台の車が中から飛び出す…… 「援護しつつ撤退よ」 4 「ったくよォ」男の賞金ハンターが呟く。 ヴェプリーとコルフェンはヴァリャーグと生骸狩りでお金を稼ぐ事にした……で、数日経つ。 その時に最初に組んだのがこの男女の二人組。他のハンターのチームも試してみたけど……うん。しっくりこない。 「もう少ししたら、ここを離れることになるわ」と賞金ハンターの女。 ヴァリャーグも生骸も狩りの圧力がかかれば移動しなければならなくなる。 「いいチームだったのにね」「本当ね」「でも……」コルフェン。「何か人形慣れしすぎじゃないですか?」 「世の中には聞かない方がいい事もあるわ」 解散した。 この街は賞金ハンターに対して何かと優遇してるけど……戦闘映像ログを要求してくる事がある。 市長の趣味らしい。提出後にネット上に公開するかどうかは提出者に選択権がある。指揮官達は公開してないけど…… 公開すると色々貰えなくもないみたいで、彼女らはそれを目当てに公開していたみたい。 ベンチに座りながら映像を見る。ヴェプリーは顔出しOKだったけど、コルフェンちゃんの映像にはモザイクがかかってる。 「あの人たち、元グリフィンだったのかなぁ」「さぁ……」 自販機に誰かが近寄る。女の子だ。エナドリを選ぶ。それから隣に女の子が座った。どこか焦燥感のある雰囲気。 「ハァイ」ヴェプリーは手を振る。「ハァイ……」この人、明るく振舞ってるけど感情値がロウな雰囲気だ。 「誰?」コルフェンちゃん。「誰でもいいでしょ?」ストローを小さなバッグから取り出し、缶に差し込んだ。 「さっきグリフィンって言ってなかった?」「言ってたよ☆」コルフェンが肩を軽く叩く。何? (知らない人ですよ)と囁く。「あ……ごめんね、警戒させちゃった?私、人を探してるんだけどさ」女の子。 「グリフィン上がりの人なんだ」……エルモ号のみんなと撮った写真を見せる。 「またあてが外れちゃったか……」戦闘映像が思い浮かぶ。見せてみると、彼女は…… 「その人とどこで会ったの!?」「そういえばもうすぐ行くって言ってましたよね?」「急ごう!」 彼女を引っ張り、駐車場に移動した。目当ての車はまだ残っていて……彼は鍵を開けてた所だった。 彼女は呆然としていたけど、ヴェプリーが引っ張っていった。 「ねえ、私だよ」 「もうヴェプリー達、邪魔にしかならないね」「帰ろうか」 5 男の指揮官とヘレナが話してる。 「昔の同僚がこう言っていたよ。人生はこんなはずじゃなかったの連続だってね……」「うー、むずかしいはなし!」 「私はこう言ってやったんだ」ドヤ顔。「こんなはずじゃなくとも、歩んでいくのが大切なんだ!」拳を握る。 「わかんない!ヴェプリーあそんで!」「ハイハイ」脇をこうして、持ち上げる。「わ~!」 それから寝かせた。 「子供は遊んでりゃいいんですよ」とコルフェン。「そうそう!」「人生がどうとか、子供に話したってしょうがない」 「やれやれ……」「聞いてあげよっか?」コーヒーカップを渡した。「それもいいかもしれないね」 「あ、私パス……コイツの話、長いですよ」コーヒーカップを取られる。「それヴェプリーの!」「今から私のです」 「ったくもー……あ、話してもいいよ」 「時々何が正解だったのか全くわからなくなる時があってね……もっとやりようがあったんじゃないか」 「そう思う時があるんだ」「へー」「意外かな?」「何年も生きてればそういう事もあるかもね☆」 彼はコーヒーを飲む。「砂糖の量が少ないな」「好みに合わなかった?」「もう一本欲しいね」 「絶対多いって」「ペルシカのコーヒーよりは少ないさ」「ペルシカって?」「ああ……話を戻そう」 「トロッコ問題を知っているかな?」「あ、アレね。ヴェプリーはその時になったら考えるよ」「OK……」 「もっとうまくやれたかもしれない。あるいはその時、別の選択肢を選ぶ事が出来れば……とね」 「そんな事言ってもしょうがないじゃん?その時その時でやれる事も感じ方も違うんだし、ね☆違う?」 「そうかもしれないがね……」「後出しジャンケンして後悔しても何にもならないよ?……今を見よう!」 飲み干す。「フー」より良い回答が出来たかな。と考えるけど、観客の意見、表面の状況を観測し…… それをフィードバックしてサイクルを回す事しか出来ないだろう。結局どの仕事でもそうだ。 観察して、判断して、決定して、実行して……繰り返す。繰り返し続ける……リソースを使い果たすまで。 「人生は無益なループだと思うか?と聞かれたんだ。君はどう思う?」 「ヴェプリーは別に、どっちにしてもライブを続けるだけだよ」「そうか」 「コーヒーをもう一杯貰えるかな?ただ砂糖を少し増やしてほしい」 観客メモを更新中。 6 今、イモ洗い状態のバイト先のバーで会った戦術人形の女の子と話してるの。 「ヴェプリーが闇ブローカーに売られるまで職場を転々としてきた話ってもうしたかな?」 「何でもいいよ、あたしの酒のツマミになるならね!」彼女、人を待ってるみたい。 地元の反ロクサットゲリラの攻撃で他のバーが爆破されちゃったから、この店にはちょっと人が多い。 歌?歌えないかな。だって、ねえ?この店、ちょっと狭すぎるし、踊ろうとしても、あそこの金属のポールって…… 「ねえ、話は?」 OK……ウォッホン、喉が大変。バーテン!チェイサーある? そこは小さな老人ホーム。グリーンともイエローとも言えない境目の辺りにあった場所で…… 歌を歌ったりは出来る場所だった。たまにおじいさんやおばあさんが曲をリクエストしてきたりもしたんだ。 でもほとんどヴェプリーにはよくわからない、聞いた事もない古い曲だった。 100年以上前の曲も混じってたと思う。その当時は流行ってたって言うのかな? でも楽しかった……結局、予算不足と入る人がいなくなった関係でそこはやめる事になっちゃったんだけどね。 いい場所だったよ。 あの時はもう、ライブが終わった後の、観客すらいない閑散とした舞台と同じくらい静かだった。 その時そこにいたのは、スカンジナビアから来たおばあさんと、軍上がりのおじいさん、警備のバイト君だった。 おばあさんはグリーンエリアで暮らす事になったらしいけど、おじいさんの方は身寄りが無かった。バイト君?さあ。 おじいさんはELIDじゃない末期的な病気にかかってて……ある意味この時代では寿命と変わらないけど。 「死ぬ前に海を見に行きたい」彼はそう言った……職員の人は取り合ってくれなかった。けど、車だけ貸してくれた。 有線でネットからボロ車のマニュアルをダウンロードして、スタンドで燃料をいっぱい。少しの弁当も。 運転しながら、ヴェプリーはたまに歌ったりした。彼のリクエストで……雨の中を歩いたりするって歌詞。 インスト版のディスク、職員が何故か買ってたの。凄い偶然じゃない? それから枯れたひまわりの畑を抜け、荒地を抜け、廃ビル群を抜けた。その頃には夜になっていた。 そこには崖があった。ヴェプリーは車椅子を使って彼をいい感じの場所に移動させた。 そこで夜明けの海を見る事が出来たの。 7 バーの店内から人が徐々にいなくなって、閑散としていく。 「もうすぐラストオーダーですよ」とバーテン。「ヴェプリーが変わってあげよっか?お子さんいるんでしょ?」 「そんな事をしてもバイト代は引き上げませんよ」「ちぇ~」「お気遣いには感謝しますがね」 バーで会った戦術人形の女の子は……チェイサーを見つめてる。 擦り切れたコートには銃弾の穴を塞いだ跡があって、目を細めると、使い古しのぬいぐるみのような雰囲気すらあった。 「あたし、人を待ってたんです」 「誰を?」「昔の上司。戦闘以外完全にダメ人間で、あたしがいないと本当に暮らせないような人で……」 彼女は顔を上げて、瓶の並んだ棚を見る。ヴェプリーは端末を見せた。 「エルモにもグリフィン上がりが男女二人いるけど、関係ある?」「違う人ですね……」 溜息。 「やっぱりもう一杯飲みます」 物憂げな眼でグラスを見つめている。 時々身体を動かすと、ライフルのスリングが動き、その下のコートの擦り切れた生地が露わになる。 「色々あったんですけど、やっと会えるんです」 「でも……ワクワクしてるって感じじゃないね?」 焦燥感。センサーにはそう出てるんだけど…… それを聞くと、彼女は黙り込む。グラスから視線が更に下に向き、カウンターのわざとらしいつくりの木目に移動する。 「怖いんです」 「怖いって……何が?」 「もうどうなるかわからないんです。受け入れられるかどうかも。そもそも、覚えていないんじゃないかって」 「ひょっとしたら全部忘れてて、会えないかも」「この時代、ヴァリャーグだっているんだしさ。そんな……」 「普通に会いに行けるって事も無いでしょ?今日来なかったとしても、さ?」「はい」「会いたいんでしょ?」 「ここに来るってわかってるんでしょ?何でか知らないけど」「三店方式の通信で予定を組んだんです……」 「ええと……あなたにとっての大事な観客だよね?」「観客って?」困惑。「……必要な人なんでしょ」 「あたしからすればですけどね。彼がどう思ってるかなんてわからない。ひょっとしたら……どうでもいいかも」 「あなたと長年戦って来たの?」「はい……」「それでどうでもいい人なんていないでしょ」 だからドアが開いた。 「ヴェプリー、今日は上がります」舞台を邪魔しないでおこう。 8 この場所はトラックとバンだらけ。商用車と賞金ハンターの車でいっぱいだ…… 「これを運んでくれないか」と職員。「中身は?」女の指揮官。「ワクチンだよ」ヴェプリー。 「QRコードに全部書いてるよ」「人間は読めないでしょ」「だから今言ったのに」「うるさいわね」 「おい、お前ら喧嘩してる暇あったらさっさと運べよ。人命がかかってるんだぞ?」職員。少し黙って、歩き出す。 「ねえ、これってヴェプリーのせい?」「ハイハイ、私が悪かったですね……」 いい性格してるな。この女…… イエローエリアで病気が流行ると、何故かグリーンエリアでも病気が流行る。理由はわからない。 伝染病の種類はまだ調べてない。ともかく、ヴェプリー達はワクチンを運ばなきゃいけないの……けど。 最短経路は正体不明の狙撃手による無差別狙撃の真っ最中。真ん中の経路は大量の生骸。最長経路は論外。 協議の結果最短経路を通る事にしました。狙撃手は推定一人だとされていて、戦術人形なら対処できるとの事。 ヴェプリーは戦術人形なので、こういう時真っ先に鉄火場に投入されるのです。 イェーイ。 全然嬉しくないけどね。 目的地の数十キロ先からエルモ号を降りて、迷彩服に服を着替え、灯火を全部落とした電動バイクでゆっくり行く。 ミラーから布を剥がし、自分の顔を見た。首まで迷彩メイク。これ、アイドルに見える?見えないよね。溜息出ちゃう。 丘の辺りでバイクから降り、ネットを被せて草木で覆った。それから這う。丘の低い部分、隙間の辺りから覗く。 霧の奥に場違いな一軒家があった。 賞金ハンターのチームがそこに近寄っていく。どこかからの狙撃によって全滅する様子が見えた。 静かに這って行った。這い続けて、何十分も経った。草木をかき分け匍匐する内に、銃口の先に人影が見えた。 しゃがんでいる男だ。銃を持っている。ただ、片足は酷く結晶化していて、靴じゃなく古タイヤのサンダルを括ってる。 目が合った。銃口がこちらを向く。引き金を引いた。 一軒家のテーブルには手記があった。家族をヴァリャーグに殺されて以来、近寄る者を無差別に撃っていたわけ…… 庭先にはありもので作った墓があった。ヴェプリーはそこの真横に男を埋葬した。 それから彼の銃から弾を抜き、墓標代わりに突き刺した。 9 それが姿を現したのは結構前だ。 イエローエリアの村落の片隅。衛星都市の人混みの中。フリーマーケットの棚の隙間。 コートを着た男が何も言わず、じっとこちらを見ている。 痺れを切らし、近寄ろうとすると必ず姿を消す。 ヴェプリーのファンかな?いや。このところDMボックスに溜まった部位を送り付ける人間か人形の雰囲気は感じない。 部位?あー……アレよ。詳細は省く。そういうのならもっと興奮した雰囲気が出るし、内蔵センサーにもそれが映る。 いやにフラットな空気だった。そこにいるのが当然、そうするのが当然と言う空気。 メイリンは飲酒中。グローザはボーッとしてる日。キャロリックは気のせいでしょと呟き、ネメシスは……ネメシスだ。 コルフェンはスキャンを勧めてきて、ヴェプリーはウイルスも何も入ってない健全な状態だと言う事がわかった。 「なんか普通っぽい顔ですね」コルフェン。 「ねー。でも見て。これ統計情報と映像記録ね」最近覚えたTIPS。根回しの為に書類や資料を作ると便利です。 コルフェンは真顔になった。 「ほぼ毎日じゃないですか」 「オエッ」「こんな時に……」メイリンをベッドに運んで回復体位を取らせて毛布を掛ける。 「指揮官に相談しますか?」「十分にデータが取れたからね」「バカ、十分に取れる前に相談するんですよ」 ヴェプリーは非アイドル活動の際のメモを更新した。こういう時はすぐに相談する。 「何なんですか、あの人」「情報が不足しているから回答できないよ☆」BRIEFのデータベース検索の結果を添付。 あ、ヘレナじゃない。すっかり怯え切ってる。 「どうかしたの?」「しらないひと!」「他の賞金ハンターや指揮官の昔の友達?」「ちがう!」ヤバいな。 「しょくどう!いた!」「ハイハイ、食堂ね……」……今は昼、指揮官達、昼飯の時間で…… 「コルフェン、ヘレナお願い」「ん」 セーフティ降ろして、レッドドット電源入れた、弾チャンバーに入ってる、道順合ってる、足りないのは速さだけ…… 食堂には指揮官二人、知り合いの賞金ハンター三人、戦術人形二人。 あの男が一人。 男は銃を懐から抜いた。ヴェプリーは引き金を引いた。 持っていたのは二連銃一丁だけ。身分証は無い。 誰も男の事を知らなかった。 10 30秒間自分は頑張ってるって言い続ければ普遍的な人生についての歌詞が出来上がるが、今作るのはカバーじゃない。 何の話って?ええ、曲を作ってるの。ヴェプリーアイドルだからね。アイドルだよね? 自己認識はそうだけど、やってる事と言えばもう傭兵まがいの賞金ハンターなんだよね。 という事で基本に立ち返ってみましょう。 食堂。この近辺で活動する元グリフィンの賞金ハンターがここに入りびたり始めたのだが…… 「ブレインストーミングやればいいんじゃね?」「前の職場でやってたね」とツインテと横のハンターが呟いた。 そのまま二人で去っていった。 「メタルがいいでしょう」エルモをタクシー代わりにするスオミ。「人類を侮蔑する歌詞が聴きたいわ」と女ハンター。 「インターネットやめたい」配信人形。「もう無理って感じの歌詞の曲が共感される」と配信人形の横のハンター。 「奴らは地球に蔓延る癌細胞よ」酔っぱらった女はショットグラスを叩きつける。 「感動しちゃった。昔の映画のAIみたいな事言ってる女がいる……」配信人形。 「人間なのが悲しいわ」 一通りメモした後、丸で囲んでボツと横に書いた。 ドアを開ける。 「お姉さんの方知らない?」「お姉さん?ハハ」男の指揮官は笑った後、急いで周囲を見回した。 「大丈夫、ヴェプリー言わないから☆」「頼む」「実は歌詞について聞こうとしてたんだよね」「私じゃダメかい」 「アテになる度合いは向こうの方が上だったから」「信用無いな……」「指揮の方はどっちも信用してるよ☆」 男の指揮官はしばらく考え込んで、数秒経ってから口を開いた。 「ヴェプリー。船頭多くして船山に上ると言うように、誰かの意見を優先しすぎて、基本方針をずらしちゃいけないよ」 「自分が本当に演奏したい曲を書きなさい」彼は微笑む。 「あの、ヴェプリーはそもそもそれを絞り込む為に意見を集めてるんだよね」彼は額を抑えた。 「コルフェン!何とかしてくれ」 「エモい歌詞とそれっぽいコード進行を並べりゃ誰だって感動しますよ」 「あの賞金ハンターどもに何を吹き込まれた?」「何ですか?私の意見なんですけど?」 指揮官も、戦術人形も、どこかの時点で最後に頼りになるのは自分の腕だけだと確信を得る。 きっとこの問題は、ヴェプリーの力だけで解決しなければいけないんだろう。 11 エルモ号の廊下を歩く時、清掃の仕事をしてた時にうっかりモップを折った時の事を思い出す。 トルク制御の完全なミスなんだけど……あれは恥ずかしかった。それが原因でクビになっちゃったし。 まぁ、悔やんでいても仕方ない。今生きてて、現在の仕事に活かせてるならそれでいい。 「実は私達、この都市に潜伏してるテロリストを追っているの」とエルモに入り浸る元グリフィンの女ハンター。 「へぇ、言っちゃっていいんですか?」「ビッグブラザーのシンパに追われてる以上、無関係じゃないからよ」 ドアを開ける。 椅子に縛られた男は今朝エルモ号に多連装ロケット砲を撃ち込もうとしていた不届き者。 ヴェプリー達が派遣労働から帰ってくるタイミングで、ちょうど彼の背後にいなかったら指揮官は死んでいた。 「ビッグブラザーって、何なの……」ヴェプリーは呟く。もう何日も前からコイツ絡みで面倒事が起きてる。 ヴェプリーはただアイドルをやれていればいいだけなのに、どうしてこの世界にはノイズが多いのか…… 「救世主さ」男が答えた。 蹴った。 「ヴェプリー、一週間くらい前からお姉さんの指揮官を見てないの。知らない?」 麻袋を取られ、光を浴びる。 「またか」拉致されるの、これで何回目?私はゲームのお姫様かよ。 「喋れるみてえだな」目の前の男。「何の目的でこんな事を?」 「ビッグブラザーを殺った責任を取ってもらう」「引き金を引く責任は常に取ってるよ……」 「彼だけがこの世界を救えたのに」涙声の長話が何分も続いた。 助かる方法を考えつつ、思い出す。ビッグブラザーは人類を仮想世界に沈めようとした男だ。 ドイツの2Z64エリアに接続した人間、それから人形が失踪したあの時の事を思い出す。 「なあ、エルモ号の指揮官。ここであんたに責任を取らせるのは副目標でしかねえんだ」 「主目標は何さ」「2Z64エリアを作り直す」「作り直すって何を?何も残っちゃいない」 「遺志は残ったさ。10年も経てばナノマシンだって使える。やりようならいくらでも……」 私は笑う。「10年前に死んだ奴にしか作れなかった場所が、凡百の武装勢力に作れるとでも?笑えるね」 額に銃口。目を閉じる。爆発音。数度の銃声。 目を開ける。彼女がいた。 「ヴェプリーのパフォーマンスはいかがでしたか☆」 「5段階評価で5って所ね」 12 数時間前からエルモ号にはシーリングが施してあり、目張りという目張りを酒抜きのメイリンが執拗にこなしてある。 エルモ号は都市から数キロ先に離して駐車し、指揮官達は待機。ヴェプリー達は無線機を積んだバイクで都市に向かう。 どうもこうも、致死性のウイルスか化学兵器のせいで住人が死んでるせいだ。犯人は例のテロ組織だ…… 数分前まで生きていた筈の人間の痕跡が街中にあった。もうSWATバンのエンジン音とサイレンしか聞こえない。 街頭ディスプレイの一部がバグっているせいか、数年前に活動していた天使系アイドルの映像が流れている。 アイドル活動のリサーチで知ったが、ロ連は手を出すべきじゃないものに手を出した。冒涜的だって炎上してた子だ。 無線機の電源は入っているから、指揮所に直接接続できる。捕虜との会話が聞こえてきた。 『だから、我々はこんな事は計画していないんだ!』殴打する音。『何を計画してたって?』女指揮官。 『タンパク質組成組替ナノマシンを利用して人類に通信機能を持たせ、複製2Z64エリアに接続させる予定だった!』 『組成組替?完全に分解されてるじゃない!』 この街で一番高い所を知ってる?市庁舎だ。このピラミッド状構造物は市長のポケットマネーで建造されたものだ。 捕虜曰く、あの高所は散布するのに都合がいいらしい。正門のイージスを片手撃ちで排除。アクセスポイントを探す。 ヴェプリーは市庁舎のネットに接続、カメラログを確認した。組織の構成員がイージスに背中から撃たれている。 最新ハイライトから巻き戻すと、アイドル衣装とシスター意匠を組み合わせた服の少女が警備員を撃つ姿。 突然入った通信リクエストを許可した。 『ロ連のアイドル人形、お仲間と会えるとは思いませんでした』『同感だけど、こんな形だとはね』ヴェプリーは呟く。 『もう何人も死んでるけど、今からでもやめる気はない?』『やめる理由が見当たりませんね』移動開始。 『なぜ?』『わたしのベースコードは天使であれとアイドルであれ。この二種類です』一呼吸して、彼女は言う。 『わたしは天使らしく、審判を下す事にしました』pingと三角測量で位置を特定。最上階。 エレベーターにインテリアを投げつける。トラップが作動し辺りが吹き飛ぶ。階段に向かう。 『人類に救いはふさわしくありません』 そう言われればそうかもしれない。ただだからと言ってこんな風に死んでいいわけないでしょ。 ピザといかがわしいものが大好きなヴェプリーの指揮官も罪深いが、かと言ってそんな……ダメでしょ。 それに大勢の無関係の市民まで巻き込んでる。罪とか裁くとか、そんなのは裁判所か死後会う神がやる事だ。 あなたじゃない。 小隊単位のイージスを各個撃破し、奥深くへと突き進む。階段を駆け上がる。 マガジンが残り二つだ。ドアを蹴破る。オフィスチェアに座った彼女が出迎え、立ち上がり、そして拳を鳴らす。 何か気の利いた言葉をかけてやるべきかと思った。どの言葉も彼女にもヴェプリーにもふさわしくない事に気付いた。 ……数分間撃ち合う……反撃の合間に散布装置に手榴弾を差し込み破壊……主目標を達成……彼女は窓を突き破る…… ……彼女を逃すわけにはいかない……滑走する……撃ち合う……ジャケットの下に着込んだケブラーが破れる…… ……残弾数1……左腕が破損……胴体に銃口を押し付ける……引き金を引く……吹き飛ばされる……彼女は落下する…… ……重力は彼女を完全に破壊した。 数日後。 エルモ号にいた賞金ハンター達は仕事に区切りがつき、金を置いて出て行った。指揮官達はそれで笑ってる。 新聞記事やいくつかの公式の報告書を読んだが、あそこにいたアイドル人形のことなど書いていなかった。 ヴェプリーには彼女を観測したログが残っているし、それらにハッキングやバグの痕跡は無い。 テロ組織が化学兵器の誤作動によって全滅し、残りの残党は順当に掃除された。公式発表はそうなる。 ロ連の汚点はあそこにいなかったという事にしたかったんだろう。 何となく、彼女の行動の理由を理解できた気がした。 破損した左腕と衣装を修理して、エルモ号のネット機材と私物の音響機器などを新調し、防音室で収録を始めた。 ヴェプリーは彼女らと同じ事をする気にはなれない。ただ彼女が忘れ去られ、存在しない人形として扱われるのも嫌だ。 わからない程度に断片化された歌詞はどうにでも解釈する事が出来る。それとメモしていたビートを組み合わせる。 ネットに放流し、いくつかのダウンロードを確認する。 これはヴェプリーの自己満足でしかない。 でも、これで彼女はただ死んだだけじゃなくなった。