「おっ、ロジーさんおひとりでお出かけですか?珍しいですね~」 「ああ、今日はエスカがルシルに誘われてお茶会へ行ったからな」 一人で歩いてたロジーは露店を営む少女カトラに声を掛けられた。 普段はエスカと一緒に回る買い物コースだが、一人で出かける時も気づくと二人でいる時と同じコースを回っている。それくらいエスカと共に過ごすことが日常になっている。 「ではでは、エスカさんにサプライズでプレゼントを用意してみてはいかがでしょうか~」 「ほら、この錬金術のレシピ?の本なんていかがですか?」 「また、いつもみたいにガラクタじゃないだろうな?」 胡散臭い説明は気持ち半分に聞き流し、カトラから貴重な一品を受け取り、商品の確認をする。 それは攻撃アイテムのレシピや活用方法について記した本だった。しかも、入門的なものではなく、遺跡を守護する目的で配置された強力なスラグとも渡り合えるような強力な力を秘めたアイテムのレシピだった。 釜を混ぜて行う古式錬金術の指南書はただでさえ貴重なうえ、中央では特に攻撃アイテムは古式錬金術で作られることが少なく、実用レベルの指南書となるとほとんど存在しないといってもいい。ここまで緻密なレシピを書ける人間はそう多くないはずだ。 奥付の著者を確認してみるとキースとだけ書かれていた。 キースグリフ・ヘーゼルダイン── 現在、中央から指名手配されている古式錬金術士の名前が浮かぶ。遺跡荒らしにより指名手配されているその人は古式錬金術を自在に操る錬金術士と聞いたことがあるのでこの本の著者である可能性が高い。 「どこで仕入れてきたんだ?この本」 「秘密の仕入れ先で中央出身?のナイスミドルから譲っていただいた貴重な一品ですよ~」 「煙草を切らしていたので煙草と交換してくれって言われて、譲っていただきました」 「もし黄昏の真実を知ろうとしている錬金術士がいたら渡してみろってなんかわけわかんないこと言ってました」 「どうです? ロジーさん。 黄昏の真実が載ってる?本、特別に10000コールでお譲りしますよ!」 正直、かなり欲しい。エスカへのサプライズに相応しいかはさておき、未踏遺跡に挑戦しようとしている開発支部にとってもきっと役に立つようなレシピが記載されているに違いない一冊だ。 しかし、10000コールは出せない。この前、エスカにせがまれておそろいの食器をそろえたばかりで余裕はない。 「5000に負けてくれないか?」 「5000ですかー...そうですねー...じゃあ、今日一日、私に付き合ってくれたら5000にしますよ~」 「一日付き合うだけでいいのか? じゃあ付き合うぞ、ほら5000コールだ」 「じゃあ、商談成立ですね~♪」 「はい、5000コールちょうどっと。はい、お品物です~。じゃあちゃちゃっとお店たたむんでちょっと待っててください~」 ...いまさらだが、付き合うって何させられるのだろうか?カトラのことだから売れる品物(ガラクタ)の獲得に付き合わされて荷物持ちとかだろうか?まあ、コルセイト支部の給料を日割りで計算しても5000コールには届かないので、一日付き合いプラス5000コールで10000コールの品物が手に入れられたのだから、よしとしよう。 ──なんかよくわからないガラクタが5000コールで売れて、しかもロジーさんとデートの約束まで取り付けられるとは、普段の自分の商いが清く正しいから巡ってきた幸運だろう。 露店の商品を手っ取り早く畳み、愛用のキャリーケースに詰め込む。 「では、さっそく今話題のクレープ屋さんへ行きましょう!」 「おっと、その前に普段とはお互いの呼び方を変えましょう。客商売はお客さんとプライベートで行動するときには呼び方を変えないと一流じゃないんですよ」 「普段、探索に付いてくる時はそんなことしてないだろ」 「1対1と1対複数はまた別の話なんですよ」 「エスカさんはアウィンさんのこと、『お兄ちゃん』って呼んでますよね?実際の兄妹じゃないのに。それにならって私はロジーさんのこと、『お兄ちゃん』って呼びます♪」 「エスカはアウィンと親戚だからそう呼んでるんだろ」 「まあまあ」 「ロジーさんは私のこと...そうですねえ、『姫』って呼んでください。今、イケてる男性は仲のいい女性のこと、『姫』って呼ぶって金に汚いレイファーさんが言ってました」 「あんまりレイファーの言うこと真に受けないほうがいいぞ」 「ということで、まずは新しくできたクレープ屋さんに行きましょう!お兄ちゃん♪」 「はいはい、分かりましたよ、姫」 この楽しい一日はあっという間に過ぎて行った。ロジーさんとクレープを食べたり、雑貨屋でアクセサリーを見たり、普段しない話をしたり... 「最後にお兄ちゃんと高台で夕陽が見たいです」 「姫も意外とロマンチックなところあったんだな」 「やだなあ、女の子は誰でもロマンチシストですよ」 「はいはい」 「よし、着いたっと。今日は一段と夕陽が綺麗だな」 「お兄ちゃん、私の身長だとちょっと見えないからちょっと私のこと持ちあげてください~」 「肩車でいいか?」 「もう、分かってないな~こういうときはお姫様抱っこですよ~♪」 「...これで今日の5000コール分は最後だからな姫」 「分かりましたよ、お兄ちゃん」 ロジーさんにお姫様抱っこされてみる夕陽は普段見てる夕陽よりなんだか綺麗な気がした。 最初はふざけて呼んでいたお兄ちゃんもこれが最後かと思うとなんだかちょっとだけさみしい。 お兄ちゃんの身体の体温を感じつつ美しい夕陽の眩しさを心に焼き付けていると、遠くから聞き覚えのある甘ったるい声が聞こえてくる。 「ロジーさぁぁぁぁぁん~~!!!!」というその声は次第に近づいてきて... 「ロジーさん!!!!なんで!!カトラ!!ちゃんを!!おっ、お姫様だっこしていい感じになってるんですか!!!!!」 「エ、エスカ!? ちょっと説明させてくれ!これは品物の代金の代わりに姫に一日付き合ってただけで...!!」 「姫!? カトラちゃんのこと姫って呼んでるんですか!?」 「待てエスカ!!一から説明するから!!」 「じゃあ今日一日付き合ってくれてありがとうございました、ロジーさん♪」 「また、ぜひカトラのお店をご利用ください~」 「それでは~♪」 「ちょっとっ、カトラ!お前からも説明を...!!!」 「ロジーさんの浮気者~!!!!うわ~~ん!!!!!!」