※この怪文書は貞操逆転キヴォトスをメインにしたブルーアーカイブ3次創作であり独自解釈、妄想、オリジナル要素が含まれておりますご注意ください またできるだけログを読んだつもりですが意図しない矛盾や口調の乱れがある可能性もあります 舞台:晄輪大祭バトルロイヤル後の裏側 登場キャラ(セリフ多め):ワカモ(主役) カンナ ホシノ 関係キャラ(セリフ少なめもしくは0):セリナ サオリ ミネ ミカ ナギサ ユメ 8割近くまじめ?なお話 エロないよ 以上をご了承ください カンナ編 キヴォトス大運動会こと『晄輪大祭』 ミレニアムが今年の運営のもとアスレチックスタジアムで例年通り開催されたが今回は武器を置いて協力し合うという不文律を思い切りぶっちぎるバトルロイヤルが開催された 各校を代表する強者の夢の対決は一部で物議や混乱を招くもののそれより遥かに会場を大いに盛り上げ次の競技への期待を盛り上げていた 舞台裏にまで響くその熱狂の声も届かないよう防音処置のされた救護室の一つに3人の生徒がいた 「怪我はすでにほぼ回復していますが…まだ目は覚まさないと思いますよ…映像も見ましたが途中で倒れなかった分ダメージも大きいですよ」 いつもどおりのナース服を着たセリナがちらりとワカモの方を見た後記章をつけたジャケットを羽織った女性…尾刃カンナとその雰囲気に飲まれることなく答える 「ふむ、すまないがここは私に預けてくれないだろうか…治療も終わったしそちらも忙しいだろう」 人によっては睨むと勘違いしそうな目つきでワカモを少し見つめ少し考えた後彼女はそう切り出した 「わかりました…でも手荒な真似はしないでくださいね?」 そういって出ていったセリナをやはりまだ自分はそういう風に見えるのだろうか…と少し悩みつつも見送りワカモの方に向き直す そしてまた少し考え込んだ後溜め息を軽くついた後しゃべりだす 「狐が狸寝入りとかいう笑えない冗談を続けるなら手錠の一つもかけさせてもらうぞ」 その言葉にパチリと覚まし身を起こしながらん~と伸びをするワカモ 「ふぅ…逆になぜお捕まえにならないので?そのタイミングで逃げるつもりでいたのですが…公安局の方々が書類で大変なのはわかっていますが私の場合なら話はまた変わるでしょうに」 いつのまに仕込んでいたのか枕の下からスモークグレネードを取り出し懐にしまいこみながら尋ねる そんな様子にやはりかと警戒を強めながらカンナは答える 「公安局としてそうしたい面もあるのは確かだが……厄災の狐、おまえが思ってる以上におまえは面倒な状況になっていてな、エデン条約での騒動を覚えているか」 エデン条約その単語にワカモの目尻がちょっと上がり雰囲気も変わる 「…あまりいい思い出ではありませんわね…正直思い出させないでいただけます?」 その時は割り切っていたものの大事な大事な先生を傷つけられた怒りはそう消えるはずもなく 胸の底に他の出来事に流されるようにしまい込んでいた感情が封を切られるが押し留める 「気持ちはわか…まぁ聞け、その時に確保された襲撃犯たちの一人が取り調べで先生を始めとした恩人達の一人としてお前の名前が出てきてな、ちょっと騒ぎになったがまぁそれはいい」 「あの連中に名乗った覚えは…あぁ…でそれがどうしたと言うんです?」 駆けつけたアビドスのライバルが暴走しかけて忘れていたが彼女が会話で自分の名前を出していたことを思い出し困りながら尋ねる 「あの騒動に関与した…そしてアリウスの人間も助けられるまでお前と面識がなかったということはあの騒動に関わった学校特に関係の深いゲヘナもしくはトリニティになんらかの関係があるのではということでそれぞれ七囚人が潜伏してる恐れがあるということで調査と情報提供を頼んだ」 「それで…結局どうなったんです?」 まぁ…私はそのどちらでもないですがと思いながらワカモは尋ねる 「ゲヘナの万魔殿からはそんな奴知らんの即答まぁ後に風紀委員会からなんどか遭遇ありも来たが関係なし…問題はトリニティの方だ、あちらはだいぶ事後処理や内部の混乱収拾でゴタゴタしていた上にその後のキヴォトス全域での大災害のせいかしばらく回答がなかった…が少し前に脱走後におけるお前の活動の報告書があちらの権力者であるティーパーティーの印付きで送ってきた…まさかアビドスや先生…いやシャーレに協力していたとはな」 そこにはトリニティとは無関係であることを前提にしつつカイザーの暴挙への攻撃、連邦生徒会のクーデターの果てに起きた戦闘に関しての隠蔽されたはずの情報もあったこと、わざわざそこまで調べ上げたティーパーティーもワカモに感謝しているであろうということをどこか葛藤したような表情で説明する彼女 「なるほど…それをどう受け取ってるか知りませんが私の為そしてあの方の為に私のやりたいことをしたまでですわ」 本当にどうやって調べたのか…あの怪力ピンクはともかくあのほわほわした少女も本当はすごいのだろう そんな感想を思い浮かべながらワカモは答える 「やりたいこと…か…いやなんでもない」 かつて先生に言われたことを思い出しながらも湧いてくる感傷や嫉妬に似た感情よりも自分がここに来た理由を優先するべく彼女は話し始める 「矯正局が奉仕活動で特別措置を行うことがあるがお前の活動の影響…特に連邦生徒会の件が大きいということで議論の結果で他校はともかくヴァルキューレと矯正局は要観察で落ち着くことになった…私としては…いやどうでもいいだろう」 「…はぁ?…えぇあちらがわや貴女がどう思っていようが私にはさして変わりないので…まさかそれでも悪さするなよとわざわざ言いに来られたのですか?」 飲み込むの時間がかかる想定外の事実に呆れた様子で尋ねるがカンナはそれに答えずトランシーバーを持ち出し耳を傾け喋りだす 「…っと、私だがどうした?……あぁ…うん……そうかプロであるそちらからしても間違いないのだな…あぁ、協力に感謝する……ふぅ…それもあるがここからが本題だ」 トランシーバーをしまい椅子に座り込みじっとワカモの方に視線を向け直す 「…今の応えたように振る舞いましたがあなたからしゃべってますね、そんな演技をするほどということは…いまのは盗聴や盗撮の確認ですね」 「あぁミレニアムのその筋の生徒とワルキューレ両方で確認した…ここからはもっと踏み込んだ話になる…これはフブキとキリノから聞いた話だが矯正局の一部でおまえにアビドスに正式所属してもらうべきなのではという話が流れている」 誰が言い出したかわからない胡乱な話だがと付け加えながら呆れた様子を見せる 「ずいぶんお節介な方がいるんですね、そんなこと不可能でしょうに百鬼夜行がわざわざ転校許可を出すとは」 途中で遮ってカンナが喋りだす 「転校とは一言もいっていない仮に百鬼夜行が許可を出さなくても逆に『退学』措置を取ってもらい即座にアビドスに入学という流れを取ればアビドスに所属を移すことは一応出来る」 「屁理屈すぎません?」 「あぁ私もみたことのない特別中の特別だが…無論今回の議論ですら揉めたから正式な転校措置はもちろんこんな裏技じみた手法も今のところは無理だが…この話どう思う?」 じっとこちらを見つめながら話すカンナの表情にワカモは判断する これは自分がアビドスに正式所属したいかを聞いているわけではないだろうし貢献すれば罪が更に許されるぞと彼女が言いたいはずもない…となると 「いくらなんでも怪しすぎません?」 一蹴した後ワカモは続けて喋る 「お節介の頭お花畑でもなければ何か企んでるとしか思えないのですが」 「全くだ…だが狙いがわからなくてな本人かつ企む者としての視点での意見を聞いてみたい」 少し考えた後ワカモは私が編入するとなった場合影響があるのは主に矯正局、百鬼夜行、アビドスの3つですと口を開く 「まず普通に矯正局の人間が真面目に考えていた場合更生や犯罪抑止キャンペーン等の可能性があるかと、厄災の狐が善行を~と都合よくプロパガンダすると言った感じに…ですがこれはまずありませんわ」 想像しただけで忌々しいと言った口調で言い出すワカモ 「私は脱走者です、脱走した上で許されるとなれば脱走者が更に増える逆効果に…むしろそれが狙いかもしれませんがまぁ正式な矯正局の人間のすることではないでしょう…話を戻しますがまぁ本当に更生キャンペーンでしたらアリウスの方々を使ったほうがよほど効果があります」 「次に百鬼夜行ですがこれはもっとありません、今更私を下手に刺激してまで完全に無関係にする意味がわからないですし私の知るあそこがわざわざ外部に自分から干渉するようなことはあまりないですから…まぁあちらの今の内情は私も詳しくはないので情報不足な可能性もありますが」 そして最後に 「アビドスも一見なさそうに見えます、あそこの方々がもしそれを望むなら私に直接言ってるはずですしそもそも矯正局に関与する暇も力もないでしょう…ですが」 そこまで言い切るとピッと人差し指を上に立てる 「そうかネフティス、か…たしかアビドスの生徒にあそこの家のものがいたな」 その指の意図を即座に理解して答えるカンナ 「あの子が画策してるならもっと私に接触しているでしょうけどね…とはいえ仮にあの会社としても何が狙いなのかは正直絞れませんわ敵対会社であるカイザーに攻撃して結果助ける形になった私や先生を利用したいのかそれともアビドスにあの厄災の狐が所属!と自作自演ネガティブキャンペーンをしたいのか色々可能性がある上にどれも迂遠すぎます…まぁ相手は大企業なので長期視点で低コストならダメ元や様子見でしてこなくもないですが…個人的には何かあるとすれば矯正局への内部工作かアビドス関係者のどちらか…それにしても本当に実行するかと聞かれると怪しいですしなんなら別の動きへのカモフラージュや囮もあるかと」 「結局はまだ情報不足…ということか…だが参考にはなった」 「それはなにりよりで…あぁ…他にも可能性はありましたわ…例えば退学や転校措置を取った瞬間アビドス等でトラブルを起こし有耶無耶にして私を完全に退学しようとか…と長々お話しましたが正直いって転校云々に関しては心配ないものかと」 やれやれと首をふりながら彼女は溜め息をまじりに言う なぜだと聞こうとするカンナだが恐らくそのまま喋るだろうと思い沈黙する 「だってそもそもどこにも転校するつもりありませんもの、まぁあの方がどうしても~と仰られるのならまた変わりますが先生はそういう知恵がお得意なもののそれを強要されるような方ではありませんわ、生徒の危機なら別でしょうが」 一度先生へ甘える時のような声を出すもスッ・・・とトーンを落として答える 「あぁそうだな、あの人は…そういう人だ」 どことなく声色に喜色が交じるカンナに一瞬するどい目線をワカモが向けるがすぐに視線をそらす 「さて一段落したことですし喋り続けて喉が乾いたので飲み物いただきますね」 すっと立ち上がり備え付けの水道と簡易キッチンに向かうワカモ そこにはコーヒーが入った保温状態のケトルが置かれている 「これは私のだが飲んでも構わないぞ…ふぅ…」 芳しい香りと共にカップに注いだそれをそのままブラックで一口飲みながら一息つくカンナ この狂犬と呼ばれた女はこの場においては少しは信用できるがそれでも教えたコーヒーに薬等は入ってないのを飲んだカンナを見て確認したうえで手持ちの紙コップに砂糖とミルクを入れて飲みながらおなじく手持ちの甘味菓子を取り出しつまむワカモ 公安局の人間と犯罪者が共に一息つくなどという本来あり得ない状況でありながらも相反した飲み方をする二人 そんななごやかでありながら不思議な一時の沈黙を破ったのはカンナだった 「心配はないといったが…しかしアビドスの周囲がまたきな臭くなりつつあるという噂はやはり信憑性が増したと言わざるを得ないな…」 「またですか…困ったものです」 愛用のマグカップを揺らしながら言い出す彼女にあぁこっちが本題か…となりながらコーヒーを飲み干し適当に応えるワカモ カンナはそれに遅れてコーヒーを飲み終えマグカップを置くが何も続ける様子はないがその表情にはまだ迷いが見える 「…それでその話をわざわざ私にされて何をお望みで?まさか公安局長ともあろう方が直に犯罪者を利用…いえ直に助けを求めようとも?」 これでは埒が明かないと判断したのかワカモが深く切り込むように言い放つ 「それは…っ!」 ワカモに視線を向けるとそこにはいつの間にか仮面をつけた厄災の狐がいた 表情こそ見えないものの苛立ってるのは明確に感じ取れる 「勘違いされてませんか?先ほどもお答えしましたが全ては自分の為そしてあの方のためです」 プレッシャーを向けながら言い放つワカモに対して銃を向けようとする染み付いた習慣と反射をなんとか抑えながらカンナは聞き続ける 「たしかにアビドスの方々に情がないと言えば嘘になります、ですがそう安々と動くと思われるのははっきりいって不愉快ですし何より狸じみた真似をするなと言ったのはそちらでは?」 そう言い切るとワカモは仮面ごしでも感じる睨みをじっとカンナに効かせ続ける 「…まずはすまなかった」 詫びを入れるカンナに対しワカモは仮面越しに溜め息をつく 「なんだかんだと捕まえられない理由と建前を言っておられましたが結局あなたが私とこうしてお話される一番の動機は守りたいものが同…いえ重なってるからですね」 何人目かわからない先生のメス候補にうんざりしながらワカモは本質をつく そうして内心を言い当てられたカンナは顔を叩き深呼吸して調子を取り戻しながら語りだす 「んっ!…あぁそうだ…エデン条約の事例や前の騒動などを見るに何かがあるとすれば再び先生が狙われる可能性が非常に高いと言わざるを得ない、私達ヴァルキューレも警戒したいがそれにも限度というものがある…そこでだ狐坂ワカモ…実績のあるお前に先生を助ける力に改めてなってほしい」 しっかりとした目つきと力強い口調で言い切るカンナに対してワカモは素顔を再びさらす 「そんなこと言われるまでもありませんわ…それにしても大丈夫ですか?また言いますが公安局のお偉い様が七囚人の一人に援助を依頼するなど本来でしたら…」 頼まれようが頼まれまいが自分は先生のために動くとなればカンナのしている事はリスクを犯すだけの無駄ということである その心配は自分が納得するためだけに本音を吐かせることになったカンナそのものへの心配よりもその影響を考慮してのことなのだが… 「お前が貢献で扱いが見直されてるのに加えこれが救助依頼である以上矯正局の奉仕活動の一種に扱われる、つまり規律にも接触はしない…私の部下や同僚はもちろん先生にまた迷惑や心配を増やすことにはならないさ」 調子を取りもどしたのもあるのか不自然な心配をするワカモの思考に感づいたカンナがそう返す 「はぁ…ヴァルキューレの狂犬とは聞いていましたがとんだ忠犬でしたか」 「ッ!!…ゲホッゲホッ…まぁそれは厄災の狐もお互い様というものだろう」 なにか妙な反応を示すカンナにワカモは怪訝そうな表情を向けるが掘り返さないほうがいいという勘が働き笑って誤魔化しながらベッドの方へ戻っていく 「ふふ…よいしょっと…話も済んだようですし失礼いたしますわ、これも返さないといけませんしね」 そういいながら去ろうとするワカモの背中にはホシノの盾があった 彼女がホシノを先に退避させ最後に使用したことで彼女の所持品でないにも関わらず一緒に運び込まれてしまったのだろう 「あぁそういえば…最後のお話はアビドス…いえこの盾の持ち主にお話しても?もちろん入手筋やらある程度色々とごまかした上でになりますが」 カンナに盾を見せつけるように背中をむけたままワカモは尋ねる 「そうだな…そうした方がいいかもしれない、だがくれぐれも気をつけてほしい…」 「えぇどこで聞かれているかわかりませんものね……しかし思ったより重いですわねこの盾、わかるつもりもありませんが正義とやらはきっとこれよりも重いのでしょう…意のままに振るうにも難儀なことお察しいたしますわ」 そう言い切るととワカモはでは…と扉を開き去っていく 「正義…かまさかあの厄災の狐から聞くとはお互い変わっている、ということか」 どこか自虐気味な様子で一人残されたカンナは言う 正義の体現者であるべき自分は仮にも汚職に手を貸し逆に凶悪な犯罪者であった彼女は悪…少なくとも自分がそう思うものを撃っている その矛盾はもちろん結果的なものであり二人とも始めからそうしようとしたわけではない だが明確に違うものもある自分は流されてしまった面もあるが彼女は先生への愛ゆえとはいえしっかりと自分の意思で動いた 憧れた土台はいつしかぬかるみに変わり足にまとわりついて動きを鈍らせるどころか自分の立ち位置さえ迷い出す そんな今となっては自由奔放に振る舞いながら先生を助け、共に正義に近いなにかをなした彼女に嫉妬と羨望を覚える自分がいる とはいえ緊急時における多少の規律違反ならおそらく出来るだろうが自分は彼女のようにはなれないだろう 気性はもちろん自分には支えてくれる同僚や部下なにより守るべき多くの市民がいてそれを無碍にして自分とその周りという少数の為に生きることはできない 今度は正義と恋心の板挟みになってしまった自分ではあるが少なくとも今は不思議な満足感がカンナの心にはあった 「しかし…先生のようにはいかないな…余計なお世話だとわかっていたがむしろ気遣いされるようではな」 カンナはワカモに一つだけ言い損ねたことがあった それは犯罪を行わない限り彼女もまた守るべきキヴォトスの住民に含まれるということだ ホシノ編 夢を見た 先生が彼女らと出会う夢を 先生が彼女らの為に奮闘する夢を 自分が彼女らと戦う夢を 自分が先生の為に戦う夢を 亡くなるユメを見た 「ここがホルスいる部屋ですね」 カンナとの話のあとホシノと連絡を取り居場所を確認したワカモだったがホシノはまだ休んでいるということでまた別の救護室の一つにいるとのことであった このD.Uはおろかキヴォトス中から集まるとても広い会場に救護室や休憩室が複数あるというのはそうおかしなことではない 周囲に誰もいないのを確認してから入る…今は身を隠すような立場ではないらしいが先ほどの話もあるし変な勘違いは避けたいからである 「やっほ~ワカモちゃん悪いねわざわざ来てもらって」 ベッドから身を起こした状態で手をひらひらとふりながら答えるホシノ その様子から見るに体調はもう大丈夫なようだ 「てっきりもう観戦に戻っているものと思っていましたがそんなに疲れましたか?」 「うへ…それがねぇ…ここにいた青髪の人が完治していないのに動くのは許しませんってすごいプレッシャーだしてさ…見てよそこの床その人がいいながら持ってる盾でドンッ!てしたらそうなったの」 そういいながらとホシノは床の一部を指し示す 恐るべきことにそこには衝撃で床が凹みヒビも入っているではないか 「そちらも大変だったみたいですね…あぁ盾と言えばこれお返ししますわ」 トリニティはゴリラの育成所やトレーニングジムでもあるのだろうか…内心引きながらワカモは背中の盾をホシノのベッドの側に置く 「あっ私の盾!よかった~なくてちょっと心配してたんだよ…そっか最後に使ったワカモちゃんの方に行ってるよね…アヤネちゃんに盾見つかったよっと…ごめんね色々面倒かけちゃって」 既に戦闘の動画は見ていたらしく納得するホシノ どうやら先ほどまで様子を見に来ていた奥寺がさがしにいったらしくすれ違いになったようだ 「まったく…本当になれないマネはするものではありませんわ」 いつもどおりの文句やマウントをいいかけるがポフンとソファーに座り込み足を組むワカモ 「…ワカモちゃんの方こそ大丈夫?いつもならこう…色々言ってくるのにさ」 そんな彼女の様子に戸惑いながら声をかけるホシノ 「ご心配どうも…残念ですが結局同じ相手に負けたのに文句を言えるほどの傲慢ではありませんので」 表情をわずかに歪めながらワカモは答える 「そっか…あの子本当に強かったよねぇ~でもさワカモちゃんがその気ならあれに勝つのは無理でも逃げたりでまだ長く負けないで漁夫の利とかチャンスを狙うのは出来た…って嬉しいこと言ってくれたと思ったらお金かけてたシロコちゃんは後で叱るとして…もし仇討ちだったらおじさん嬉しいけど違うよね?」 守銭奴と化した後輩になげくポーズをとり少しおどけた様子を見せながらホシノは疑問をぶつけてくる あの化け物のようなピンク髪の少女も最終的には消耗し倒れたのを聞かされチャンスがあったことよりも無敵ではなかったことに安堵しながらワカモは答える 「私とあの勝負をした貴女なら分かると思いますが…乙女の意地ですよ」 「うへ…ってことはやっぱりさっきの子みたいにあの子もワカモちゃんの知り合いでライバルってことかぁ~」 真夏での決闘そして試合に勝って勝負に負けたような結末を思い出し苦い顔を見せるホルス 「ちょっとお待ちをさっきの子…とは?」 頭の中にハンバーグをペチペチコネコネする少女が浮かびながらも尋ねるワカモ 「うんワカモちゃんが来る少し前にねトリニティの偉い人が挨拶に来てくれたんだよ、ナギサさんって言ったかな…競技とはいえコンビネーションならまだしもソロプレイで一つの学校を圧倒するのはアピールとして逆にちょっとやり過ぎとかで…なんか色々大変みたいだね」 私アビドスでよかったなぁ…と一人うんうんしていたホシノだが何かを思い出したかのように冷蔵庫を指差す 「あぁそれでお詫びってことでロールケーキを置いていってくれたからあとでみんなで食べよっか、あとこれワカモちゃんへのメッセージだって」 そういいながらホシノは銀のシールで止められた白い封筒を取り出しワカモへと渡す 恐らく公安局に自分の情報を調べ上げ渡した相手からの手紙である 流石に出来すぎたタイミングだと理解しながらも緊張しつつ封を切る そこには上質な紙のメモ用紙が一枚入っていた 『   狐坂ワカモ様へ    忙しい身で直接挨拶できないこと簡潔に伝えることをまず詫びさせていただきます       ミカさんがやりすぎて本当にすいません、お怪我が軽いことをお祈りします    ロールケーキは私のお気に入りのものを送らせていただきます、お口に合えばよろしいのですが                                     桐藤ナギサ                                       追伸 またそちらがよろしければ今度料理を教えて下さい…チャーハンだけならうまくいくのですが       どうかご一考よろしくお願いします                                                   』 あまりに気が抜けた最後の内容に鳩が豆鉄砲を食らったような顔になってしまう 「……はー…あの人はなんなんでしょうね…」 一体どこまでわかっていてどこまでが演技なのかいやそれとも素なのだろうか 自分らしくもない大きな溜め息に気づき小さく呟く 「…どうかしたのワカモちゃん?」 そんな様子のワカモに声をかけるホシノ だがそれはなぜかどこか真剣味を帯びている 「なんでもありませんわ…ただお詫びと依頼を少々頂いただけです」 「そっか…ねぇ今から変なこと言ってもいいかな」 「…なんでしょうか」 ホシノの様子に気づいたワカモも少し真剣な表情をする 「ワカモちゃん…トリニティに行っちゃったりしないよね?」 「はぁ?何を言い出すと思ったら…なんでそんな馬鹿げたことを考えたんですか」 先ほどの転校話を思い出しながらも呆れて説明を求めるワカモ 「ごめんね、ワカモちゃんってちゃんとしてればお姫様とかお嬢様だなぁ…って思ってたらなんかまさにお嬢様やお姫様なトリニティの偉い人達と仲良しみたいでびっくりしちゃってほんとそれだけなん…あいたぁ!!」 色々とふさけたことを言い出すホシノに思い切りデコピンをかますワカモ 「ちゃんとしてればは余計ですわ!まったく…私がどうこうするのを心配する暇があるなら先生への心配や気遣いをしてくださいます?色々とめんどくさそうなお嬢様集団なんてこちらから願い下げですわ、そもそも私はどこかに腰を据…いえ先生と一緒にいる時間が増えるシャーレなら…❤」 今回暴れたたことを除いても間違いなく悪目立ちして調べが入るのは想像がつく 何より権力構造上ミカの下になるのが気に食わない そもそも自分はどこかに所属するつもりも そんな調子でいいきろうとするが途中でどこかわざとらしく甘めの声でふざけだす 「いたた…そっかならよかっ…うへぇワカモちゃんそれは反則だと思うなぁ……まぁいいやそろそろ午後の競技始まるから…一緒にみ……あ…あーーーっ!!!」 安心から微妙な表情になりツッコミを入れるホシノだが連絡を受けていた競技時間に気づき備え付けの観戦用の端末のスイッチをいれる そして映った光景に絶叫と共にベッドから完全に立ち上がり身を乗り出す 「うるさいですね…何事ですか」 「ユッユメ先輩が障害物競走に!シロコちゃん何させてるの!」 呆れるワカモに対し端末の画面を指さすホシノ そこにはあのほわほわした顔をちょっとキリッとさせながらバトンを待つユメの姿があった 「確かに足は遅そうですしアンカーとしては不安ですがリードもありますし……は?……え?」 無事バトンを受け取り駆け出すユメの痴態に宇宙猫ならぬ宇宙狐と化すワカモ 足が遅いのはもちろんなにもないのに転ぶわ平均台からは落ち、ハードルは蹴倒し、フラフープは回しすぎておっぱいにあたって落とす お尻で風船割りはデカケツで唯一一発成功するものの次の網くぐりでは豊満な肉体がまるでボンレスハムである 「もう見てられない!!ごめんちょっと行ってくるね!」 キヴォトスの恥いやそれを超える危機を感じ扉を壊す勢いで部屋を飛び出すホシノ 「あっちょっと!…はぁ…」 ホシノの助けを求めるユメの声が画面から流れたところで端末を消すワカモ 落ち着いて部屋を見渡すと慌ててなのか重さとなるせいなのか届けたのに置いてけぼりにされた盾が目に入り手元に持ってくる 「ひどい持ち主ですねぇ…よしよし………やっぱり今度は何も感じませんね…」 盾をぺたぺたと何度か触ったりなでたり展開させてみるワカモ 先ほどのミカとの戦いの中で感じた不思議な力はまるで気配を感じさせる様子はない 使い切りなのかそれとも負けたから見放されたのかそれとも別のなにかか 「まぁ使うつもりもないですしあんなのをまた見せられても迷惑ですからね」 気絶していた間にみた夢とあの時の力はきっと無関係ではない そこまで考えてもユメの神秘の影響だとは彼女は気づかないままなのだろう それでもあれがただの夢などではないことは強く感じ取っていた 「昔の私でしたらきっと信じていなかったんでしょうけどね…別の世界など」 自分たちと大なり小なり異なる世界の存在 アビドスの生徒たちによく似ている敵だった少女達の存在を見たワカモはその存在を否定することはできなかった そして何より変わらず先生に惚れているのはもちろんアビドスと多少なりの縁もあった平行世界のことを好ましく思ってしまっている自分がいた 「もしそうならこの世界の…少なくとも私とあの子達はとてもうまく行ってるのでしょう…結果的には」 そこにいるはずのない自分がいるのはともかくあの世界では死んだはずのユメがいきているのはきっととても大きな幸福なのだろう なんか変なのもいるのが浮かんできたのを頭を痛めながら彼女はそう思う だが恐らくいい影響だけではないのだろう…わずかに垣間見た記憶の中でも見なかった存在やより強大な敵を自分はしっている もし次になにかあった時自分はどれだけ先生の力になれるのだろうか 仮に弱くても見捨てるような方ではないのはわかっているが再び敗北を喫した以上無視をすることは出来ない 「守り…ですか」 手元の盾を再び見つめながらポツリと呟く 攻撃と撹乱と逃走をメインにして守りを意識したことは薄くそれでピンチになりかけたことや逆に援護防御で助けられたこともある 今日の敗因はそれではないだろうが考え直すにはいい機会かもしれない 「癪ですが餅は餅屋に任せるのが一番ですがちょっとはお勉強しませんとね…それはそれとして情報収拾も…」 手持ちの端末を起動させるワカモだがすぐにその手を止める 自分が垣間見たようなものを持ち主のホルスや先生もみたのだろうか…おそらくホルスはユメへはともかく自分への様子からしてみていない、先生は…と考えふと彼とサオリの会話を思い出すワカモ 当時こそ理解できなかったが今ならわかるあれは異なる世界の記憶を持った者同士の会話だ しかしそうなるとあの女は先生のことをしったうえで…いや自分と同じように突然だが自分より深く見たのだろう、そうでなければ説明がつかない だが先生は…またと言っていたあれは実際に体感しているか強い記憶を持っていなければ出ないセリフである 先生は自分や他の生徒とは異なり明確に別の世界の記憶を持っている…その情報があればこの先も― 「やめておきましょう…触れられたくない部分というのは誰にでもあるでしょうから…」 思考を振り切るように首を振ってから端末を閉じるワカモ 彼の記憶もまた自分と同じようにこの世界とは異なる可能性が非常に高い もし同じなら彼の知恵ならもっとうまくやっているという信頼もあるが何より傷つける可能性を避けたかった 「はぁ…今日は思い出したくないことばかり出てきますね…」 エデン条約のこと、アビドスの生徒によく似た存在に負けたこと、そして■■■れたこと ホシノにとってのユメが生きているこの世界のように■■■が自分を■■■なかった世界ももしかしたらあるのかもしれない もしそうなら自分はきっと百鬼夜行に― 「いえ…それで今がどうにかなるというお話でもないですね…それに今では感謝していますから」 そんな世界…いいやどんな世界でも自分は先生と出会い恋をしていたのだろう それでも先生はもちろんライバル達との今のような関係もなかったにちがいないとそう強く思う ならばあの悲しみも今の彼女の世界を作り上げる一つなのである その是非や良し悪しを他人が語ることは出来ぬが少なくとも今の彼女自身は先生と自分の為に必要だったと割り切っていた 「さてそろそろ行きましょうか…例の話も出来ていませんし…万が一抜け駆けでもされていてはたまりませんから」 そうして彼女はホシノに置いていかれた盾を再び背負い歩き出す その歩みには今という一つの奇跡を守りそして楽しもうという意思が宿っていた