大寒を過ぎ、季節は冬至を迎えましたわ。 朝がとても遅くなり、同時に陽が落ちる時間がとてもはやいですわ。 城州の夕暮れは5時前にはとっぷりと暮れてますの。 季節のうつろいは早いものですわ。くるみさんと暮らし始めて…もう何回季節が巡ったか数えられないですわ。 くるみさんはわたくしのそばにいますわ。 それが、わたくしができる唯一の救い。償いなのだから。 あの時、くるみさんの心を救えなかった私に架された十字架であり、わたくしという存在を認めてくれる光でもありますわ。 そんなくるみさんとの生活を、より善きものにしていく。それがわたくしの生きがいですわ 少し堅苦しい文言になってしまいましたわ。 今日はそんなわたくしたちの、なんて事のない冬至の一日。 「かぼちゃってこんなに甘いものなのですね」 「そうだよぉ〜まぁアンコも入ってるからかぼちゃだけの甘さじゃないけど」  冬至を一日過ぎてしまった12月22日の深夜。華鳥家にはわたくし達の黄色い声だけが木霊する。  くるみさんとわたくしはいつもの華鳥家の居間でも地下室でもなく、わたくしの部屋にいますの。 全館空調で整えられた華鳥邸は冬でもまったく寒くありませんわ。 けど風情っていうものを楽しみたくなる時があるじゃないですか、四季折々の国に生まれたからには冬の風情を楽しみたいですよねくるみさん? 数日前、倉庫を漁っていたらコタツが出てきましたわ。ちょっと埃を被っていたのでコタツ布団はお洗濯致しましたわ。 「コタツってはじめて見た」 くるみさんもそうおっしゃってましたわ。 城州の冬は結構厳しいのですわ。この間、ついに初冠雪を迎えてビビりましたわ! …雪を見ると東さんの事を思い出してしまいますわ。泣きながら人波の中をかき分け、壁伝いに歩くその姿を、わたくし達は窓からみつめる事しかできませんでしたわ。  心が揺れ動いてしまったくるみさんと泣き腫らす美嘉さん、そしてどうしたら善いのかわからないわたくし。あの空気はもう二度と感じたくはありませんわ ―――現役アイドル東ゆうさんは今時々華鳥邸にあそびにきてくれますわ。その度に身構えてしまうのはわたくしだけではないでしょう。 こたつの上には当然みかん!師走を迎えた暮れのみかんはとてもおいしいですわ! それと、今日。くるみさんと一緒につくったかぼちゃと小豆のぜんざい。が二膳並んでいますわ。  わたくしはかぼちゃを切る係、くるみさんとお料理を作る頃にはわたくし、まだ料理は致した事なかったですので。くるみさんは包丁を任せる事は一切ありませんでしたわ。 けど、月日が経ち、くるみさんと料理を作っていく内に、私も「猫の手」くらいは覚えるようになりましたわ。…でもカボチャさんは固くて大変でしたわ 「指、切らないでねみなみぃ」というくるみさんの心配をよそにじわじわと力を入れて。カボチャを真っ二つに割りましたわ! 「やりましたわ!わたくしにも出来ましたわ!」とはしゃぐ自分に対してくるみさんは 「じゃあ、皮と種を取り除いてね」と淡々に指示をだしていましたわ。 もうちょっと感動を共有致したかったですわ!くるみさんのイジワル!  くるみさんはオーブンで御餅を焼きながらおしるこの素になる小豆をコトコト煮ていますわ。 御餅は贅沢は代物ではありませんわ、佐藤の切り餅。一人2つ食べるから4枚焼いてます カボチャを一口大の切っていたらトースターの中でおもちがプクゥーっと膨れるのがみえましたわ。 …冷静に考えるとお正月以外で御餅を食べるのは珍しい事ですわね 「みなみぃ、カボチャできた?」「できましたわよ」 ちょっと外の皮が固くて、緑色の薄皮が残るカボチャを見て、くるみさんは「まぁ次第点」だねといって、小豆と一緒にカボチャを煮始めましたわ。  茶色がかった黒い鍋に明るい赤茶色が混じっていい香りがしてきましたわ。 「くるみさん?もう食べれるのではなくて?」「かぼちゃに火が通ってないよ。もうちょと待って」 とくるみさん。  コトコト煮詰まるのを待つこの時間、嫌いではありませんわ。 そして、くるみさんが菜箸でカボチャを指す、柔らかく。スッと箸がささる。 「ちょうどいい感じだね、出来上がり」 といいつつくるみさんは塩を二つまみほど鍋に咥えましたわ 「くるみさん!?甘いものに塩ですの!?」 「みなみぃはさぁ…スイカ食べる時に塩まぶすの知らない人?」 「たしかにまぶしますわね」 「ちょっと塩味があると甘さが引き立つんだよ、さっ、おこたで食べようみなみぃ」 ミトンを履いてそっとお鍋を持ち上げるくるみさん わたくしは焼けた持ちを2つの御膳によそう。 そして―――わたくしの部屋までの足取りはとても軽い。 電熱線が煌々と光るコタツはとても暖かく。足を入れただけでポカポカするのがわかりますわ。 「みなみぃ…どれ位食べる?」 「まぁほどほどに、御餅は二個食べますわ!」 「御餅足りなかったらまた焼けばいいからね、おしるこたくさんつくり過ぎちゃったから好きなだけ食べていいよ」 「まぁくるみさん!わたくしを太らせる気?」 わたくしは、ちょっと明ら顔で答える 「季節の節目くらい、ダイエットの神様は見逃してくれるよ…くるみはなんでもおいしそうに食べてくれるみなみぃの事が好きなの…」 くるみさんの告白に、ちょっとドキっと致しましたわ。たしかにくるみさんが振る舞う料理を食べているわたくしの姿を、くるみさんは、にまぁっと眺めている事が多いですわ。 「くるみも御餅二個食べちゃおっと、これだけたべたら夕飯いらないね」 「そうですわね」 焼けて膨らんだお餅が鎮座するお椀に、くるみさんがおたまで並々とおしるこをよそう。 小豆の黒の中に冴えるカボチャの赤茶色のアクセントがまたいい! くるみさんも自分の分をよそい、二人で「「いただきます」」 「いただきます」この挨拶をくるみさんとしている時、わたくしは至福の一時を感じますわ くるみさんと一緒にご飯を食べて、くるみさんと一緒に暮らして。くるみさんと一緒にお風呂にはいって、同じベッドで寝る。 きっとこれ以上の贅沢はこの世に存在致しませんわ。 「今お抹茶いれますのでお待ちになって」 わたくしは戸棚からお抹茶を取り出す。普段はダージリンティなんて飲んでいるのですが、和の物には和のお茶が似合うのですわね。 耳かきのような細い匙にお抹茶を湯呑みに数杯入れ、熱湯を注ぐ、少しかき混ぜればお抹茶の完成。 7分ほど食べたおしるこであまったるくなった口に、抹茶をズゾゾと注ぎ込む 独特の苦みが甘さを中和して、口の中は複雑…だけどとても素敵な味わいになりますわ。 これってきっとマリアージュに違いありませんわ。 くるみさんも湯呑みに口をつける。猫舌のくるみさんは丹念にフーフーしてからやっと飲み始める 「どうして甘いものと苦いものって合うんだろうねぇ」 プハァーっと一息ついたくるみさんがそう呟く。 「本当ですわね、この組み合わせを考えた昔の人にノーベルおしるこ賞をあげたいですわ」 「大げさだなぁみなみぃは」 こんなとるに足らない会話がとても愛おしい。そんな冬至の夜を二人、過ごす。 わたくしは結果、御餅を3つたいらげ、くるみさんはなんと5個も平らげてしまった。 「食べますわねぇくるみさん」 「みんな甘いもの好きだからね。食べちゃうよね。それに」 「それに?」 「御餅なんて年に一回しか食べないよねみなみぃ」 言われてみればそうである、強いていうならお正月のお雑煮なんかが浮かんだが、華鳥家は年末年始はわたくし以外誰もおらず、一人でハウスキーパーさんが用意してくれたおせちとご飯で過ごしていたのを思い出しますわ。 「そうですわね…今年は雑煮にもチャレンジ致したいですわね」 そう口走るとみなみさんが食い入るようにこう放った 「みなみぃは関東の人?関西の人?四国?東北?」 「わたくしは生まれも育ちも城州ですわ?」 「よかったぁー雑煮って地域によってバラバラだから…すまし汁がベースだけど赤味噌や白味噌ベースの所もあるし、オモチにアンコをいれたりする所もあるみたいだよ」 …雑煮にアンコ?しょっぱい雑煮にアンコなんて入れたら甘いとしょっぱいで不思議な味がいたすような気がしますわ 「わたくしは普通のお雑煮でいいですわ」 そういうと、くるみさんは胸を撫で下ろした 「よかったぁ…お正月になったら作ろうね、鶏肉と小松菜とあと柚子なんか飾るといい感じだよ」 「くるみさんにお任せ致しますわ」 「みなみは食べる係だもんね」 「くるみさん?それは嫌味という奴では?」 わたくしはちょっと不機嫌そうな顔をしている。自分でもわかる。 「そういう事じゃないよ。くるみはみなみぃがおいしく食べてくれる姿が好きなの」 くるみさんの言葉にはどこか重たい物があるように感じた 華鳥邸で暮らすようになってから。くるみさんは率先して料理を致しておりますの きっと、それが、今、心が揺れ動いて壊れてしまったくるみさんにできる唯一の社会活動 そう思えば、『くるみさんは頑張っている』そう思えて仕方がないですわ。 対するわたくしは、くるみさんの手料理を食べる。くるみさんの料理を手伝う。それがわたくしとくるみさんの結ぶ絆である事は確信している。 ―――時節はもう午前5時を過ぎていた。城州の朝はとても暗い。明けの明星すら曇り空で見えない。月がまだ燦々と輝いている。 「そろそろ寝ようかみなみぃ」 そうですわね、お日様が出ると寝付きがわるいですからね」 そう話しながら、二人。台所で洗い物をしている。 ―――ふと何か記憶の欠片を思い出したような気がいたしましたわ、そう!明日は12月23日!イブの前夜 「くるみさん…いま甘いものをお腹いっぱい食べましたけど、まだ甘いもの…?いけます」 「うん、くるみも東ちゃんもみんな甘いものは好きだよ…続くとちょっと重いけど」 「クリスマスケーキ、明日届くのですわ!」 「明日届くんだ…」 くるみさんがびっくりしている 「少し早いですけど…明日のうちにケーキ。食べてしまいません?」 私の邪な提案にくるみさんはたじろいでいた 「でもクリスマスにケーキがないのはさみしいよみなみぃ…24日まで待とう?」 くるみさんは提案した、あたりまえですわね。クリスマスケーキはイブの日12/24に食べるのが我が国の習わし――― 「クリスマスはチキンやらビザやらが届きますわ、きっとケーキにまで手が回らないと思いますわ…だから前夜祭。クリスマス・イブのイブを二人で行う…素敵だと思わない?」 わたくしの経験則で語らせていただきますわ!チキン食べて胃もたれしている中でケーキ食べるのってちょっともったいない気が致しますわ! 「そうだね…みなみぃ…明日食べちゃおうか!」 くるみさんの明るい返事が帰ってきた 「フライングクリスマス。きっと楽しいですわよ」 「クリスマス当日にはBABAハウスにみんなで集まってクリスマス会もするもんね」 くるみさんの言う通り25日はBABAハウスさんでささやかながらクリスマスパーティーが行われる 家庭で忙しい美嘉さんや、アイドル活動で多忙を極める東さんまでいらしてくれるビッグイベントですの …東さんから聞く話だとBABAハウスでのボランティアはクリスマスのアリバイ作りにすごい便利と話してましたわ 不届きもののアイドルはクリスマスは異性行為をして過ごす方が多い中、東さんだけ身の潔癖を照明できるのがこのクリスマスパーティなのである。 「楽しみだね…クリスマスパーティー」 「ええ、けどくるみさんと二人だけのクリスマスもとても楽しみだわ…くるみさんは?」 「とっても楽しみ、ずっと一緒に過ごそうね。たとえサンタさんがいなくてもくるみはみなみと一緒に過ごせるだけすごく幸せ!」 その言葉を聞いた途端、わたくしはくるみさんを抱きしめていた 「みなみぃ…みなみぃ…ずっと一緒にいて」 「ええもちろんよ…わたくしとくるみさんはずっと一緒…」 「うれしいみなみ…みなみぃ好き♪」 「わたくしもですわ…」 自室で二人、重なり合うように抱きしめ合う。こたつの中には私とくるみさんの香りが充満して淫靡な香りが形成されている。 ―――その夜。くるみさんと抱き合ってこたつの中で眠った。ちょっと風邪気味になったのはまた別の話である。 少し早いクリスマスが待ち遠しくて仕方がない。二人だけに許された。わたくし達なりの生誕祭の祝い方。  この愛の形をきっと、主は赦してくれるだろう。 時は過ぎ、生誕祭前日を迎えた。 その日はお互い学校をおサボりして(そもそも通っていない言う話は野暮ですわ) 夕餉の席で二人、ささやかなケーキを1ホールを二人で分けて食べた。 クリスマスの飾り付けを忘れてしまいましたが。くるみさんとこうして過ごしているだけで倖せに感じた。 「サンタさん、来るといいね」 くるみさんはつぶやく、その鼻には生クリームが付いていた。くるみさんはネームプレートのチョコレートもちゃんと食べる派、イチゴは最初に食べる派 「そうですわね、靴下を用意するの忘れてしまいましたね。けど、来てくれるとうれしいですわね」 わたくしはくるみさんの鼻についた生クリームを掬って、パクリ。わたくしはイチゴは最後に食べる派、そしてチョコプレートはもったいなくてたべられない派ですわ。 ―――聖なる味がした、そんな気がいたしますわ。 「わたくしは何もいらないですわ」 「どうして?」 「くるみさんとこうして二人、いつまでも二人で過ごせる日々があれば、他に何もいらない。くるみさんがいれば、くるみさんのすべてが手にはいればそれでいいの、それさえあればわたくし何も、いらない」 「みなみぃ」 「あら?わたくしって欲張りかしら?」 「そんなことない、うれしい…みなみが私を必要としてくれて…それだけでくるみうれしいの」 「みなみぃ」「くるみさん」 そのまま二人、力強く抱き合い。口づけを交わした。 生クリームとスポンジ、そしてイチゴの香りの中にくるみさんを感じて、とても甘い口づけだった。