女の子の部屋は良い匂いがするらしい。 師匠はたまに笑いを取るつもりでラインを下振れした発言をすることがある。と当時のシュヴァルツは軽蔑の目を向けた。 大方、漫画か何かのミームだろう。実体験だったとしてもそれはそういった用途の店の香料だったのではないか。 今時漫画でもそんな表現は見たことがない……彼の読むレパートリーが若干偏っていることは否定できないが、ともあれ人間の匂いは匂い、それ以上でも以下でもない。 「……あの」 「あっ!じゃじゃじゃじゃあ私お茶淹れて来るね……!」 「あっはい」 実際のところは? 緊張して何もわからない。 時はクリスマスイブ。何度かの失敗を経てシュヴァルツがクリスマスプレゼントを葵に渡したのがつい先程。葵の家に両親のケーキを届ける用事も完遂し、 後はリアルワールドのBVの拠点でクリスマスを祝う?とお開きムードになっていたのだが。 『あの、もう遅いし入ってく……?』 との一言。なるほど確かに今夜は寒い、身体を冷やすのは良くないし丁度真後ろの家は暖房完備だろう。 しかし、仮にも異性を自分の家……既に部屋に招くことを、葵はこの時点で全く警戒していなかった。そしてシュヴァルツも。 一室に明かりが付いて、一般的な女子中学生らしい、少し机回りのパソコンが背伸びしていて本棚回りに趣味性の強い漫画とアニメのBDが詰め込まれた部屋に招かれ、二人同時に勘付いた。 これは所謂、踏み込み過ぎた状況なのではないか、と。 「お待たせ、お砂糖好きに使っていいよ」 「あ、ありがとう」 とりあえず一杯戴いたら帰ろう。高度な戦術判断を下したシュヴァルツは葵から紅茶の片方を受け取る。普段はコーヒーの香りが鼻に馴染んでいるが、紅茶のそれもけして嫌いではない。 角砂糖を二つ投入し、スプーンでかき混ぜる。同じく葵も砂糖を一つ入れた。 寒空の中を移動していた身に、内側からの熱気が芯から温まる。はぁ、と一息ついて。気分を落ち着けたシュヴァルツは改めて部屋を見渡してみた。 「ごめんなさい、あんまり片付いてなくて……」 「アスタモンの執務室よりはマシだよ、あそこ図書館みたいに滅茶苦茶古いデータが山積みになってるし。これ何の話?」 「あ、それは『天上の刻』、昔のファンタジーで―――」 事前に招くのであれば、せめて最低限の整理整頓はするべきだった。と葵は恥じいる。学業とBVの任務、デジタルワールドの人助けに奔走する中で、帰ってきた自室の整理も満足に行えていなかった。 しかしデリカシーがないのかあるのか、シュヴァルツは脇目も振らず本棚にあった見知らぬノベルに興味を示したようだ。聞かれたら答えねば無作法というもの、葵は早速その作品の解説に頭が切り替わってしまう。 「どうだった?」 「ここで悪友出してくるのはダメでしょ……めっちゃ泣く……ぐすっ」 「じゃあ最終巻行ってみよっか!」 「待ってごめん……いったん落ち着かせて……ずずーっ」 お茶を一杯と言ったが、これで三杯目である。兄妹愛を軸に天界を巻き込む戦いを描いたファンタジー大作にあっさりハマり、意義のありすぎる仲間の退場に感情を抑えられなくなっていた。 「くすん……本当に色々持ってるんだね葵。ボクも何かこっちで買おうかな」 「そういえば、前発表されてたゲーム、アレはやるの?」 「そうだね、システムがすごく変わるって―――葵はどうするの?」 「私は……もう少しデジタルワールドにいるから、後にしておこうかな」 話が新作に移ったあたりで、葵の空気の流れが僅かに停滞したのをシュヴァルツは感じ取った。 「デジタルワールド?―――年末年始は休んだ方がいいってボスも言ってたよ。ただでさえ何かあったら緊急出動だし」 「でも、困ってる人がいるのはいつも変わらないでしょう?」 ……なんとなく、そんな感じはしていた。学業に、BVの任務に、それから、人助け。 まだ強敵を相手取って斬った張ったできるほどではないが、デジタルワールドを廻っては細やかな困難にある人やデジモンに手助けして回っている。あまり自室に戻らないほどに。 今のところメディカルチェックに異常はない。プレイリモンとアルカディモンが付き添っての行動でもあるし、百合からのメンタルケアも継続している。別に無理はしていない、していないのだが。 「…………」 「んっ、……?」 半ば無意識、だったと思う。シュヴァルツが葵の肩を抱いて、身体をぎゅっと寄せたのは。 「シュヴァルツ……?」 「偉いね、葵は……でも、あまり無理はしないで」 間違ってるかもしれない。でも、そう言いたくて仕方なかった。ボスなら人間のコンディションの観点から諭したかもしれない、アスタモンなら何かしら煙に巻いて自分で仕事を片付けるだろうか。 他の知り合いは……むしろ彼らの方が自分を犠牲にして行動したり、関係ある人全部に手を伸ばそうとしてしまうから反面教師にしかならないか。ただシュヴァルツには、他に口にできる言葉は無かった。 その代わり、角がなくなって丸みを帯びた彼女の頭をゆっくりと掌で撫でた。 「……ごめんなさい、ありがとう」 深く屈んで、自分より小さな胸板に頭を預ける形になった葵がそっと目を細める。そのまま微睡むようにふぅ、と息をついた。 このまま寝かしつけから戻ってもいい。そうシュヴァルツは考えかけていたが。 「―――?、……!?」 深く屈み、押し出され、押し付けられたものがあった。ふわりと雲が触れるような柔らかな感触が胸をくすぐる。 その視線をゆっくりと下に降ろすと、コートを脱いで残ったシャツの、自室の中で解いた一つ目と二つ目のボタン。その隙間から、淡く白いふくらみに消えていく銀の鎖があった。 さっきあげたペンダントが吸い込まれてる。その状況を知覚するために、シュヴァルツの眼は反射的に葵の胸の谷間を深く観察してしまっていた。 「ごっごめんやっぱりもう帰るね!アスタモンから仕事渡されてたの忘れてた!!」 まずい。やはり仮にも異性が長居する場ではない。永らく使うことのなかったある種の本能に警告され、シュヴァルツは慌てて腰かけていたベッドから立ち上がろうとする。 しかし、中腰のあたりで動きは止まった。いや、止められた。 「行っちゃうの……?」 「…………」 違う、これはもう少し漫画やゲームの話をしていたいとか、そう言った理由の言葉だ。久々に部屋に誰かを招いた体験が終わるのを惜しむ、だけの言葉だ。 ちょっと考えればすぐにわかる。なのに。 もう一度ベッドに腰かけて、葵の上体を抱き上げる。そして、 「――――――」 唇を塞いだ。 もう何も、考えられない。 ぼふり、と音を立ててシーツが波打ち、ベッドのバネが軋む。その上に仰向けに転がった葵の銀髪が広がり、その上にシュヴァルツの紅潮した顔が見下ろしてくる。 そこから―――そこで、手が止まる。状況としては、既に最悪の下限を突き抜けているが、それを正常に判断できる状態にはない。 でも、引き返すなら今しかない。感情が溢れて涙を噴き溢しそうになりながら、シュヴァルツは渇いた喉を動かそうとして、 「……いい、よ」 「ぇ」 しどろもどろに出た声に、葵の側から出た声に、素っ頓狂な音が出た。 「私、あんまり知らないけれど……その……」 口の前で両の手の指をもじもじと絡ませて、耳まで顔を紅く染めながら視線を逸らす。幾度となく泳いだ眼がこちらを見つめ直して、 「……お願い、します」 そこで、踏みとどまることができなかった。 「……ふぅ、ん、あ……」 くぐもった少女の声が、暖房より少し温かくなった部屋の空気を揺らす。 シャツのボタンが全て解かれて左右に開き、年齢不相応に大きな双丘を支えていたブラジャーもホックを外されて半ば払いのけられていた。 細く長い褐色の指先がその柔肉に触れ、沈み、捏ね繰り回すように形を変えていく。その度に葵の声が大きくなり、言葉尻に水気を伴うようになった。 当然ながら、二人にそういった経験は欠片ほどもない。葵が好む創作物では概ね隠されるべき行為であったし、両親の配慮もあって背伸びしすぎた物語に触れる機会は一度もなかった。 シュヴァルツも似たようなもの。社会復帰支援プログラムの中で保健体育的な内容を教わったぐらいである。ただ、デジタルワールド帰還者の社会常識を養うという意味で性犯罪を含めた教育が行き届いているのは幸いであった。 後は、師匠などから口酸っぱく教えられた、女性を丁重に扱うという意識。それを頼りに慎重に、丁寧に、動かした指が葵の肌を滑り、互いに体温を分かち合おうと身を重ね合わせる。 けれども、その動きは次第に激しさを増していく。緩急をつけて捏ねられた胸の頂点、薄いピンク色のそれが赤みを増して膨らみだした頃に、愛撫の流れは変化していった。 「ひゃっ……ダメ……!」 「痛かった?」 「はぁ……うぅん、だいじょうぶ……」 そこに触れ、思いがけないほど張り詰める硬さに驚くと共に、びくりと葵の反応が強まった。彼女がその部位において人一倍刺激に弱いということを知る由もなかったが、 もっと良くなってほしいと、それ以上に身体の内に高まる熱に浮かされながら、シュヴァルツの攻勢が弱点へと集中していった。押して倒し、指の腹で擦り、軽く摘まむ。 「ふぐっ、んぅ〜〜〜っ」 思わず叫びそうになって、ぎゅっと閉じた唇の端から涎が垂れた。ぞわぞわと背筋を這いまわる電気に身を震わせ、しきりに内腿を擦り合わせている。 荒く呼吸を繰り返しながら、どうにか声を抑えられるものを探そうとした葵は、仰向けに寝転ぶ自分の身体がシュヴァルツの膝に背を預ける形になって、彼の顔が頭上にあるのを見つけた。 「ふぶっ……ちゅるっんむぅ……」 水音を伴って、唇を合わせる。先程までの重ね合わせるものと全く違い、開いた両者の口から唾液が流れ、熱い舌を這わせ合う。その柔らかさを貪りながら、低下する酸素が脳を蕩けさせた。 意識が揺蕩いかけて、油断があった。口吸いを続けながらも相手の視線はその下にあったことに。 「ん……!?、!??」 ぐちゅり、と耳の奥で何かが弾けた気がした。驚いて舌を噛まなかったのは辛うじてのことだった。 先程から軽い身悶えを繰り返していた葵の両脚、その間にシュヴァルツの指が伸びてきた。本来なら最後の守りである黒いショーツは、既に濡れそぼって濃い色に変色し、その守りを果たす役目を失っていた。 クロッチの内側は火傷するのではないかと感じさせるほどの熱気に包まれていた。ごく薄く目立たない銀髪の恥毛と、未通を示すぴっちりと閉じられた秘裂、そしてとめどなく溢れる蜜が内部を熱く蒸らしている。 女性の内でも最もデリケートな部位、葵の女そのものに優しく指を乗せる。少し動かして、止める。動かし、止める。 乱暴にしたい、ぐちゃぐちゃに食い荒らし、たい。シュヴァルツの内にある獣性じみた本能が語りかけてくるのを無視して、ガラス細工を扱うように。 しかしその動きのたびに。 「うっ、おふっ、あっあっあっ……!!」 もう声を抑える余裕など一糸もない。防御を全て剥がされた葵の脳は快楽の刺激、秘所に侵入を許された羞恥と、それが彼であったことへの感情がないまぜになって、とうにぐちゃぐちゃに崩れてしまっている。 その証左に、充血して膨らんだ花弁と共に、真珠のように丸い核が屹立し始め、更なる刺激を貪欲に待ち構えていた。 あぁ、欲しいんだ。その実感は半ば確信のようで、褐色の指は止めをそこに狙いを定めた。 「は……あっ!だめっくるっあっあっ……!!んぅ―――っ!!」 ピンク色の宝石への刺激を最後に、ぎゅうっと下腹部の内が収縮して、ぐつぐつと煮えたぎっていた熱が一気に爆発した。それは脊髄を駆け抜けて脳髄から噴火したようで、葵の喉を一際大きな嬌声で鳴らした。 断続的に腹筋に力が籠り、両脚はピンと真っ直ぐ伸びきって浮き上がった足の指先まで丸める。秘所からは尿道を通って熱い液体が間欠泉のように噴き出してショーツを濡らし、もう抑えきれなくなった分はシーツまで汚していった。 「ふっ、ふっ、はぇ……」 両腕は辛うじての抵抗とばかりに葵の顔を覆い隠そうとしていたが、その隙間からは真っ赤に染まった表情がだらしなく緩んでいるのが見て取れた。 人前での初めての絶頂で、しかも粗相(何を噴いたのかの知識がない彼女はそう認識した)まで見せてしまい、羞恥心は理性を粉々に打ち砕いた。身体がドロドロに融けるような甘い感覚に支配されて、思考が溺れていく。 その視界の端で、何かが動くのが見えた。そう認識した矢先。 「ごめん」 「もう、我慢できそうにない……!」 当然、それを見るのも葵は初めてだった。デフォルメされた漫画の表現でも直視し難いようなそれ。シュヴァルツの、男が外気に晒され、そこに避妊具を被せていた。 それは創作の中のように手加減して書かれてなどいない、葵より一回り体格の小さいシュヴァルツの肉体にあって、十二分に育った剛直には太い血管が浮き、幼さの残る彼の佇まいに比すればグロテスクなほど不釣り合いなものだった。 それが晒され、自分に向けられていることの意味を、葵は既に理解できるようになっていた。 「……いいよ、来て……」 身に着けるもので、最後まで残っていた布を取り払い、ベッドの外に捨てる。文字通り一糸も纏わない姿のまま、本来秘するべき場所を彼に向けて、指を使って拡げてみせた。 恥ずかしいとか、間違ってるとか、もうどうでもよくなって、 ―――今は、あなただけが、欲しい。 入ってくる。焼けた鉄の棒のように、太くて、固くて、熱くて…… 「っぐ……!お……!!」 「はぁ、ん……!」 ぶつりと何かを押し切って、その全てを受け入れた。 「はい、った……?葵……!?」 シュヴァルツがその表情を伺い、声を荒げる。葵の頬に、一筋の涙が流れているのに気が付いた。 「だいじょうぶ、思ったより痛くない、と思う……それより」 「うれしい、ちゃんと入って、一つになって……」 そのまま、彼女はにこりと笑みを浮かべた。快楽の波の中とはまた違う、男女として一つに繋がったことへの充足感。それが葵の胸の内をじわりと暖めていた。 「じゃあ、動く……よ……!」 「うん、我慢しないで……っ!あっ!」 その瞬間が、堪えきれる限界だった。これまで葵に対して悦びを与えようと尽くし続けていたシュヴァルツの行為が、自分が快楽を得るためのそれへと変わる。 これまでより激しく、荒く。柔らかな胸を押し掴み、弱い乳頭と淫核を責め立て、滲み出す汗と匂いまで舐め貪る。 けれども、その激しい刺激さえも葵は悦びの声を上げて、千切り取りそうなほどにシュヴァルツを受け入れている肉を締め付けていった。 その剛直が幾度も奥底を叩き、その衝撃に脳を揺さぶられる。身体ごと抱え上げらえながら、堪えきれずに熱い淫水を漏らす。 「あっっぐっ……もう、出る……!」 「いいよ、来て、早く!一緒に……ぃ!!」 最後を示す合図に、二人は互いの指を絡ませて、爪を突き立てるほどに握りしめた。 「っくぅぅっ!あぁあぁぁぁ…………!」 昇りつめて、共に爆発する。白く煮えたぎった白濁は避妊具に受け止められて、それでも膨らんだそれが身体の奥底を叩く感触を最後に、葵の意識は深く閉じていった。 「葵。その、ボク……」 「いいの、それより……」 「帰ってくる前に、後片付けしなくちゃ……」 「―――あ」 それから大慌てで散乱した部屋の片付けと匂いのデリートに奔走し、二人はほうほうの体でBVの拠点へと脱出を図った。