デジタルワールドに理想郷を築こうとする者同士、一時は共同戦線を張るかに思えた甘美来美と源浩一郎。 しかし会議を兼ねた茶会はお互いの真意を知った事でけして相容れぬ存在であると決裂に終わった。 源の支配するインピオアイランド、その中心に建つ城の庭で同じパペット型完全体をパートナーとする者達の戦いが始まる。 「あんな破滅的なケーキが流通してたまるかこのフードテロリストが!少年少女の育成に害悪すぎる奴は消し去ってくれるわ!!」 「スイーツの真髄も解さぬ上に異常性癖の犯罪者がほざくな!!お前のような毒々しい存在こそ消えろ!!」 「大変だなあんた」 「いえいえそちらこそ」 興奮し相手の全てを否定してやるとばかりに罵り合うテイマー達。 対して甘美のパートナーウェディンモン、源のパートナーワルもんざえモンは先刻の茶会と変わらぬ調子で言葉を交わす。 2体の間に漂うのは諦めのオーラと目の前の同類に抱く生暖かい感情、一種の連帯感か。 一瞬で深く通じ合った2体だが戦いの構えは崩れない。 通じ合ったが故にこの相手は何があろうとテイマーに寄り添い戦い続けるのだと理解してしまっている。 そんな状況で先に動いたのは源だった、ここは彼の城であり少年少女を閉じ込める為の監獄。 デジモンの抵抗や侵入を防ぎ、テイマーと分断する為の数多の仕掛けが張り巡らされている。 取り出した端末を操作した次の瞬間、甘美の真上の天井が開き彼女を捕らえようと巨大な鉄檻が落ちる。 「ウェディンモン!ヌガー!」 「スイーツシフト!」 天井が開いた音に気付き顔を上げ、落ちてくる物を認識した甘美はパートナーに迎撃の指示を飛ばす。 舞を思わせる優美さで振るわれた扇子から放たれた乳白色の波動が檻に達した時。 既にワルもんざえモンの突進が始まっていた。 避ける止める砕く、落下物に対しどんな対処をするにしろデジモンはテイマーをかばう動きを取らざるを得ない。 そこに生じる隙を突く為に走るワルもんざえモンの眼前、ウェディンモンが止めた筈の檻が広がった。 「!?」 それは対象を菓子に変えるスイーツシフトにより形そのままにソフトキャンディに変えられた檻。 巨大な飴檻は捕らえる筈の相手に操られるがまま、突撃してくる味方の方へ向かい進路を塞ぐ。 避ければその分敵への到達が遅れ更なる反撃を許し、砕いて進めば柔らかく粘る重い飴がまとわりつき邪魔をする。 動きを選ばせる側と選ばされる側、戦いの主導権が一瞬で入れ替わったかに見えた次の瞬間。 一気に姿勢を低くし四足の形を取ったワルもんざえモンは加速し、飛来する檻と地面の間の空間を駆け抜けた。 「くぐった!?」 「パペットだろうとクマはクマ、四つ足が得意なんだよ!さぁケーキらしく食われてしまえ!」 甘美達の想定を完全に越えた手段と速度で一気に自分の間合いへと持ち込んだワルもんざえモンの左腕が振るわれる。 完全体の膂力と主武装のベアクローが合わさった一撃が炸裂し衝撃だけで周囲の床が罅割れていく。 その中心、決定打になる筈の爪の一撃を同じく爪で受け止めたウェディンモンが微笑んでいた。 「流石に…痺れるわね」 「いや折れろよ」 「…っ!戻れ!仕切り直すぞ!」 必殺を期した一撃を受け止めた負担は軽くなく、微笑みながらも汗を流す目の前の相手に悪態を付いてワルもんざえモンはパートナーの指示に従い飛び退く。 それから一瞬遅れ、ウェディンモンの扇子の先から飛び出した生クリームがワルもんざえモンのいた場所にその背丈と変わらぬ真っ白な山を作り上げる。 「ほ…ほほほほほ!甘いわ今朝の練乳トーストより甘い!スイーツに生きスイーツに死すならばそれを取り分ける手はナイフも同然!この道理もわからず見た目で侮ったか!!」 「ああ全くだよ同じパペット型でそれが常套手段だってのに…!だがもう油断はなしだ…2回は受け止められると思うなよ」 攻防の果てに有効打を与えたのは男の方、しかし城の罠も意表を突いた速攻も切り抜け仕切り直しに持ち込んだ女はここぞとばかりに哄笑する。 揺さぶりをかける為の虚勢なのは見え透いている。 それでも攻撃性に欠ける姿形からその格闘能力を見誤り、攻め切れなかった事実に源は歯噛みしつつ気合を入れ直す。 見た目や言動に油断した相手の隙を突く事の多いパペット型同士。 手の内を晒しあい脅威を正しく認識し合った今、本当の戦いが始まる。 長く続くかに思われたそれは社会人であり明日出勤する甘美の都合により夕暮れ前に終わりを迎えた。