「なんだ…また来たのか。もうここに用はないはずだぞ。」 乱立するディスプレイを見つめていた老人は、来訪者の顔を見るや否や眉間に皺を寄せながら吐き捨てる。 「まぁまぁ、そう邪険になさらずとも。 先の一件ではご老体にもお世話になりましたので、ちょっとしたお礼をば。」 そう言うと、ナタスモンはデジライザーの銃口を、乱立した機器の一つに向ける。 > ギガンティック爆乳旅館危機一髪!シリーズ_全巻コンプリート版 転送中 ...< ディスプレイの画面に現れた文字列を見た途端、老人は血相を変えて鏡見の方を見る。 「むっ!貴様、これは…!」 「左様、サークル:女騎士缶詰工場の伝説をデジタイズしたものでござる。 ご老体程の方であれば物理化解凍の一つや二つ、楽勝でござろう?」 それは好超鈕が自身をデジタル化する以前、方々を巡り探し求めながらも ついぞ手に入れることが叶わなかったという同人シリーズ作品、その全巻フルセット。 「…さてはシコルスキーの入れ知恵だな?まったく口も態度も軽い奴め。」 悪態を付きつつも、その顔は隠しようもないほどにほころんでいた。 「ンフフ、先の月の騒動でご老体の人工衛星を使わせていただいたそのお礼、拙者からの感謝の気持ちでござる。 貴殿のご厚意がなければ月面への侵入も不可能でしたからなぁ。」 「ふぅん、ソレってプレミア付いてるやつなんでしょ? 10年ほど前にどこかのネットオークションでシリーズの1冊が40万くらいで落札されて それ以来一度も顔を見せなかった伝説中の伝説を、よく確保できたね?」 眠気の抜けきらない目をこすりながら、部屋の奥からモルフォモンが現れる。 「拙者、色々なところに目を通しておりますからな。」 ナタスモンは胸を張るように言い張る。 「"ココ"と私たちのことだけじゃなくてシコルスキー博士のことも知ってたみたいだしねぇ。 でもあんまり変なところ覗いてると藪蛇になるから、気を付けなよ?」 口に手を添え大きな欠伸をしながら、好超鈕の足元にある機器を弄り始める。 「…まぁ感謝の言葉くらいはくれてやる。よくぞ見つけたな。 あの無茶振りの対価としては十分だが…これっきりにするんだ。ワシらは目立つことを避けねばならぬ立場故な。」 「分かっているでござるよ。拙者も、ご老体の"目的"については詮索するつもりはありませぬ。」 「フンッ!そいつは結構。用は済んだんだろう?……さっさと行くがいい。」 ぶっきらぼうな言葉はそのままだが、彼の声色にはマイナスの感情が抜けきっていた。 やるべきこと、伝えるべきこと、すべてを果たしたナタスモンは部屋の出口へと向かう。 ふと、好超鈕の頭に疑問がよぎる。かの"伝説"の金銭的価値は、いまどのくらいなのか。 無意識のうちに、彼の口から一つの問いが吐き出される。 「ぁあ、待て。一つ聞きたいのだが、"これ"は一体いくらしたんだ?」 「……………新車のアルファードくらいでござる。」