計画はいよいよ最終段階に移行したようだ。 アリスが…私の半身がグリムの不在に気付き…そしてこの世のものとは思えない(実際この世のモノではないのだが…)わめき声を上げてから、数時間後。ぐ らり、と不思議の国が揺れるのを知覚する。 少しずつ、クイーンランドにもほころびが出始めている。 どうやら彼は…この世界の基幹、グランギニョールと遂に接触したらしい。 はぁっと一つ息を吐き、そして私に与えられた役割を頭の中で反芻する。 彼に舞台装置を倒してもらい、この不思議の国を完全に崩壊させ、混乱に乗じて彼を外界へと送り出す。 激怒する這い寄る者からそのまま逃げおおせられるのならば万々歳だが、自身のことは良く知っている。 アリスがキャロルを諦めるなんて不可能で…そこで、私の出番がやって来る。 『私達』に埋もれた中から彼を救い出し、アリスとして別れを告げる それが私に与えられた最後の…そして最大の役割だった。 「…っダメダメ!しつこい女は嫌われちゃうぞ〜っ☆」 別れを告げる自分を想像してしまい、感傷的になりかけた頭をブンブンと振る。 長い…長い年月を掛けた計画だ。必ず成し遂げなければ。 来る別れに向け、私は強く意思を固めた。 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ ………おかしい。時間がかかりすぎている。 突如として始まった不思議の国の崩壊は、また突如として中途半端に止まってしまった。 未だ戦闘は継続中なのかとも思ったが、外なる者のソウルを大量に吸収し…メイちゃん曰く「死灰復燃が5分で踏破されたわ!」と嘆くくらいの圧倒的な魂の強さを持つグリムが、舞台装置にこうも時間をかけるとは思えなかった。 (まさか…アリスに捕捉された?) 最悪のシナリオが脳裏によぎり、慌てて自分の半身へと意識を向ける。……耳に灼け付くほどの憎悪の叫びを上げていた。どうやら彼を捕まえたわけではなさそうだ。 (ウィンターベルでなにかあったの?グリムは…) 焦りで視界が狭まる。宙ぶらりんな現状が、私をひどく不安にさせた。 カツン。 「…ひっ!?」 唐突に響いた硬質な音に思わず飛び上がる。 どこか別次元から投げ込まれたのだろうか、映写機にセットして使う、8ミリフィルムが現出していた。 (ノーデかメイちゃんからのメッセージ…?直接伝えに来ないということは手が離せない状況?グリムは今……) 混乱する脳みそをなんとか抑えつけ、フィルムを拾ってシアターに駆け出す。彼の安否を、とにかく知りたかった。 5. 4. 3. 2. 1 「……プリ…ケット様?観て…いらっしゃるでしょうか?あんっ♡」 「……えっ」 想像を絶する光景に魂がフリーズする。スクリーンに映しだされたのは、幾本もの触手に弄ばれているノーデの姿だった 黒くてらてらと光る触手が何十本も彼女に纏わり付き、身体を持ち上げ、その両足に絡みついて大開脚させ…そして、その膣穴と尻穴にそれぞれ一本ずつ極太の触手をねじ込んでいた 「んっ♡はぁっ♡あぁ…わた、わたくしは…んぎっ♡」 不規則に突き上げる触手と連動して甘い声を漏らしながら、ノーデは続ける 「この…っ♡このお方を゛お゛お゛っ゛♡♡創造主として崇めっ♡奉りっ♡♡この血肉の一滴っ♡魂の一欠片も♡♡お捧げしま…あ゛あ゛あ゛っ゛♡♡」 普段見せる怜悧な表情など欠片もなく。一突きされる毎にイキ散らかし、獣のような声を上げる白の女王に私は思考を失う。 あまりにも衝撃的な事物を認識すると、逆に冷静になってくる。 それにしても、ノーデを犯しているこの触手は何なのだろう。支配者の雰囲気は感じるが、彼女がここまで心酔、というより隷属するとは。 そもそもが、彼女が身体を許した相手などたった一人で… 待て。 まさか。 「わたしの、ですっ♡」 喜悦に歪むノーデの声に別の色が交じる。人間の感情に当てはめるならば…優越感だ 「この方のおちんぽ♡御胤♡性欲♡子供♡愛情っ♡♡♡すべて…わたしの、お゛お゛ぉ゛っ゛♡♡わたしだけのっ♡♡ですぅっ♡♡」 恍惚としていた表情を下品に歪め、ノーデはカメラに…スクリーンの前の私に向かってダブルピースを決めた 勝利に酔い痴れるように。勝ち誇るように。 「そうでしょう? ……グリム様♡」 ぐちゃり、と音が響いた。 自分の内側から出た音だった。 偶像のガワを侵食し、黒ずんだ魂が外へ流れ出る。 憎悪が脳内を満たし…そして、この身が分かたれてから初めて…『アリス』と『プリケット』になってから初めて、這い寄る者と同調した。 共鳴した魂に引っ張られるようにして、身体もまた再統合を始める。 ずっと奪われていた少女のガワを被ることが、それに相応しいことが『私達』によって認められたのだ 裏切り者め。 その男は私のモノだ。 と、黒い魂が憎悪を叫び そして私はアリスになった