「ホキ・ヤツレの人生は悲惨であったのだろう。 学に恵まれたわけでもなく、体格が良かったわけでもなく、当然ながら家が裕福だったということもない。 ハイスクールまで友人と呼べるような存在に出会えたことは無い。教師からの物覚えが良かったわけでもない。かといってムラハチめいた扱いをされていたかというと…それは否定であり肯定にもなる。 要約してしまえば、ホキはいてもいなくても誰一人気にするような学生ではなかったのだ。 ホキも不満は人並みにはあったはずだが、それを飲み込んだ。それが奥ゆかしい事なのか、今以上の扱いに落ちぶれることを恐れたのか…今となっては定かではない。 それでもどうにかニルヴァーナ・トーフ社系列の工場に就職することは出来た。これは彼の人生にとって数少ない幸福であり、最大の不幸であった。 手に職をつけた事で社会人となることが出来た。これは幸運だ。職にもつけずストリートに堕ちる者もいるのがネオサイタマだからだ。 とうに両親は亡く、伴侶もいない。バイオペット等も飼えるような余裕は金銭的にも、単純な時間的にも無かった故に、彼は独りだった。カンオケめいた部屋をカイシャからは貰っていたが果たしてどれだけそこに帰ることが出来ただろうか。 ホキには何も無かった。それでも、ホキはトーフ工場で懸命に働いていた。 上司からは褒められる事もあれば理不尽な怒りを買うこともあった。それは工員だけでなくサラリマンなら有り触れた日常だ。 しかし、褒められる時、怒鳴られる時、どちらもホキは一人ではなかった。 複数人のチームの中の労働者の一人として声をかけられていた。 名指しで何かを命ぜられたことも、褒められた事も、詰られた事もない。 トーフ工場を動かす歯車の一つ。 そこに個は無ければ色も存在しない。 工場内で大量に生産されている、完全なキューブ状に成形され、白く着色された後に出荷されていくトーフそのもの。 それでもホキは働いた。 或いは、もはや労働している事でしか、自分という存在を自覚する事が出来なくなっていたのかもしれない。 そうして懸命に働いていたホキは、清掃中に足を滑らせトーフ液タンクへ落ちた。 マニュアル状では清掃中は稼働を止めた上でタンクに蓋を付ける手筈となっていたがそんな物を守っていた事はホキが就職してから一度もない。 トーフ液タンク内は煮え滾った劇薬で満たされている。白いマグマめいたトーフ液に落下したホキの喉は悲鳴を上げる前に焼け爛れた。 この労災に気付いた者は誰一人いない。いたとしても業務を止めることは無かっただろうが、この時は、本当に誰も、誰一人、全く、ホキに気付かなかった。 いや、そもそも、ホキ・ヤツレという男を知る人間は最早、工場内に、ネオサイタマ内に、誰一人いなかったのだ。 ホキ・ヤツレの人生は悲惨だった。 こうしてホキ・ヤツレはトーフ液に溶け…… 俺になったってワケだよ、兄弟!」 ホワイトウォッシュ/Whitewash ホワイトウォッシュは全身が白く漂白されたニンジャである。肌は勿論、体毛も、目の色彩も全てが白い。美容サイバネを施したとしてもすぐに白く「漂白」されてしまう。 これはディセンションの際にトーフ工場の事故にあったせいだと嘯いているが、その事故の内容はその時その時で全く違う事を語っている。モータルとしての名前も同様に様々な名前を名乗る。 この真相は、何をしても治ることのない身体の「漂白」に耐えきれず狂気に逃げ込んだ事の他にもう一つ存在する。 彼のニューロンは常に「漂白」され続けているのである。 古い記憶は次々と消えていき真っ白い空白が残る。そこに狂気に満ちたホワイトウォッシュは適当な空想を並べ立てそれをその都度、己の過去として周囲に、そして自分に語り聞かせているのだ。 故にホワイトウォッシュは昨日と今日とで別人の人格になっている事も儘である。 「漂白」の原因が実際にトーフ工場で事故にあった際の後遺症なのか、それとも謎めいたニンジャソウルのせいなのか、その両方による不可思議な現象なのかはたまた別の何かなのか…それは誰にも分からない。 ホワイトウォッシュはただ、その時その時、都合の良い狂気に追い縋って凶行を働くだけである。 シナリオ導入のヒント ホワイトウォッシュはどの組織にも属していないニンジャであり、また邪悪な狂人である為、道中のちょっとしたやられ役として出すことが可能だ。 ホワイトウォッシュとユウジョウを結ぶ事は彼のニューロンの「漂白」のせいで不可能である。 しかし、彼の狂気とPLの行動指針が合致していれば言いくるめて一時的に手を組むことは可能かもしれない。 「漂白」のタイミングだが、1つのシナリオが終わるまでは持つ事だろう。 とは言え、彼は邪悪なニンジャである。ニューロンの「漂白」関係なく突然PLを裏切るような事もする。 その際は倒してしまって構わない。見逃したとしてもそれを恩に感じるようなニンジャではない。 元ネタ あからさまにバットマンのヴィラン、ジョーカーです。 公式のシナリオ【トーフ工場の暴動】を読んだ際にシナリオマップにトーフ液タンクという言葉を見かけまして、「これに落っこちたらジョーカーみたいだな」と思い立った事です。 ジョーカーといっても色んな人格のやつがコミック、映画、アニメ、ゲームと沢山いますが個人的に強く意識しているのはデビッド・エアー版スーサイド・スクワッドでジャレッド・レトが演じたジョーカーです。 裏社会の大物、正体不明の狂人…よりも人間の皮を被った獣、とでも言うような狂暴性を全開にした奴ですね。 別に悪のカリスマとかそんなんではないので雑に殺してもらって構いません。