・01 デジタルゲートを潜り現れたのは失踪した妹・ミヨの手がかりを探している青年・祭後終とその相棒であるユキアグモンだ。 「こいつはすげぇな…」 一人と一匹はデジタルワールドの自然を肌で感じながら歩き、小高い山の頂上に到達した。 ミヨの手がかりが掴めればそれで良いと考えていたが、リアルワールドでは中々見る事のできない広大な自然に感動を隠せずにいた。 はじめて訪れたデジタルワールドに興奮していたシュウはようやく自分の服装がいつの間にか変化している事に気がついた。 左には革製の籠手、首には短めのマント…マントの留め具はミヨにお揃いで買わされた黒星のアクセサリーがそのまま拡大されたようなデザインだった。 「なんかかっけーヤツつけてる!オレも欲しい!」 彼が困惑していると、隣にいた相棒・ユキアグモンもこの変化した服装を気にしていた。 最近の騒がしい生活はなんだか夢を見ているような気分だったが、こんなに明るい夢は見たことがないな…とシュウは自嘲気味に笑う。 その時、シュウは見下ろす自然の中にオモチャ箱を引っくり返した後のようにも見える異質な場所に気づいた。 「アレははじまりの街だゼ!オレがいた所とは違うけどな!」 「あんな所がいくつもあるのか…?」 「デジタマになったヤツはみーんなあそこに流れつくんだとさ」 「ということはデジモンがいっぱい集まってるワケか…行ってみようぜ」 シュウはミヨの手がかりを掴むため、はじまりの町へ向かって山を下り始めた。 「おいユキアグモン、道ができてるぜ」 「道がどうしたんだよ」 「整備されてるって事は街が近いんだ。飯にありつけるかもしれねぇぞ」 「おおお〜!」 しばらく歩いた一人と一匹が街までの道にたどり着き、気分を僅かに高揚させていると慌てながら走る一人の少女が現れた。 彼女は目の前で転ぶと頭にかけたサングラスを地面に落としてしまう。 「─おい大丈夫かキミ!」 シュウがサングラスを拾おうとすると少女は慌ててそれを制した。 「だ、だめ!危ないです!」 少女の後ろから鼻息を荒くした二匹のフーガモンが現れる。 「テメェ〜!俺様達の邪魔する気か〜!?」 「このニンゲンはオイラ達の晩飯になるんだよ〜ッ!」 シュウは二匹のフーガモンから少女を守るように一歩前へ出る。 「ユキアグモン、ご挨拶だぜ」 「おうよ!」 「ユキアグモン…?」 少女はユキアグモンという言葉に小さく反応するが、その声はフーガモン達の大きな笑い声にかき消される。 「ギャハハハハ!見ろよこいつ!ニセアグモンじゃぇか!」 「しかも変なベルトまで巻いてニセモノのニセモノじゃん!」 フーガモン達はユキアグモンを馬鹿にするように笑うと近づけてくる顔に拳を打ち込んだ。 「─ごっ!?こ、こいつ!」 鼻から血を吹き出すフーガモンを見た途端、もう一体のフーガモンがその棍棒をユキアグモンに叩きつけた。 バチンという音が鳴り、軽く吹き飛ばされたユキアグモンが地面に顔からぶつかると少女は悲鳴を上げる。 「痛ぇ〜!やるな!」 だがユキアグモンはよろめきながらもすぐに立ち上がりフーガモン達に相対した。 「ゲーッ!普通に起きやがった!」 その様子を見たシュウは少女を立ち上がらせ、二匹のフーガモンから距離を離す。 「あ…ありがとうございます」 声をかけられたシュウは一瞬だけ少女の方を振り返って微笑むが、すぐに向き直った。 「─やれ!ユキアグモン!」 「おうッ!!」 ユキアグモンはデジヴァイス01から放たれた赤外線を受けると飛び上がり、フーガモンに頭突きを食らわせる。 その一撃は重く、フーガモンは思わず後ずさった。 背後から振られた棍棒を受け止めると、そのまま思い切り背負い投げをしてもう一体のフーガモンに向かって振り抜く。 二匹のフーガモンは互いに頭をぶつけると、甲高い声と共に動かなくなった。 ユキアグモンは手をパンパンと叩き、得意げな顔でピースサインをしてみせる。 「どうよ!」 「よくやったユキアグモン、お前のおかげだ」 「へっへっへ…もっと褒めてくれてもいいんだゼ!」 シュウはそんな相棒の頭を乱暴に撫でると少女に向き直り、膝を突いて話しかけた。 「俺は祭後終。キミは?」 少女は一瞬戸惑ったが、すぐに名乗った。 「私は、あの、志木萌音です。あの、 ありがとうござういましゅ…」 彼女はお礼を言いかけると舌を噛み、そのまま俯いてしまった。 「子供を守るのは大人の勤めさ。それより、この近くにはじまりの街って所があるらしいんだけど」 「あっはい、あります…あります…私はそこから来てて…」 必死に話す萌音を見て、シュウは微笑みながら言う。 「無理しなくていいよ。落ち着くまで待とうか」 「あ…はい…ありがとう、ござういます」 萌音は照れくさそうに頬を掻くと、一呼吸おいて話し始めた。 「私、はじまりの街に住んでるんです。気がついたらデジタルワールドに来てて…」 「そうだったんだね。もしよかったら俺達も行っていいかな?」 「…はい!みんなも喜んでくれると思います!」 ・02 シュウとユキアグモンは萌音に連れられ、はじまりの街にやってきた。 街に入ると早速小さな幼年期デジモン達が話しかけて来る。 「モネー!」 「オカエリー!」 「ア!シラナイヒトー!」 「シュウさん、はじまりの町へようこそ」 萌音の一言に釣られて幼年期デジモン達も「ヨーコソー!」と騒ぎだす。 「はじめまして、俺は祭後終。こっちは相棒の─」 「ユキアグモン!」 一人と一匹の言葉に幼年期デジモン達は目を丸くして騒ぎ出す。 「ユキアグモン!ユキアグモンジャナイユキアグモンダ!」 「キョウダイナノ!?」 彼等のよくわからない言葉に答えられずにいるシュウとユキアグモンの前に萌音が前に出ると、幼年期デジモン達に落ち着くように言う。 「騒がしいな…どうしたんだよ」 幼年期デジモン達を掻き分けて一匹のでデジモンが現れると、シュウとユキアグモンはその姿に驚いた。 「あっ、ユキアグモンさん!」 それはもう一匹のユキアグモンだった。 「うお〜!オレだ〜!シュウ!」 「…これ面倒臭いな?」 「俺以外のユキアグモン初めて見た…」 二匹のユキアグモンはお互いに物珍しそうな顔で見合っている。 「…お?おお〜!?こいつ、オレじゃねぇ〜っ!?鏡だと思ってたぞ!!」 「当たり前だろ」 「こいつここまでバカだったのか…!」 シュウはへなへなと溶けるようにその場に崩れた。 「それにお前はなんか腕に巻いてるだろ…いや、なんか変な端子もあるな?なんだそれ…」 「どっちもいつの間にかだゼ!」 二匹のユキアグモンが騒いでいると、シュウが間に割って入る。 「まぁ視覚的に判断できるだけまだマシって事だな…」 「あ、改めてはじまりの街にようこそ」 萌音がそう言うと幼年期デジモン達も一斉に同じ言葉を繰り返した。 「アソボー!」 「よしちょっと待ってくれ。この子知らないか?俺の妹なんだけど…あれ?俺のスマホがねぇな」 シュウはスマートフォンを取り出そうとするが、どこにもない。 「マントを確かめてみるとよいですよ」 様々な幼年期デジモンを連れながら一人の少女が現れる。 その腕にはデジタマが抱えられており、まるで彼女が人肌で大切に暖めているかのようだった。 「えっと、キミは」 「私はこの街で教会を開いている者です。お気軽にアンコちゃんとお呼びくだされば」 アンコがデジタマを撫でるとうっすらと笑みを浮かべる。 シュウは名乗りながらマントの内側を適当に触っているとシュウの紫色のスマートフォンが手の上にポンと落ちてきた。 「おお。なんだこりゃ」 「すごいです…!」 「マントの裏側にある僅かな空間を圧縮して格納しているんです。ですが、重量はそのまま貴方にのしかかりますのでご注意ください」 「なるほどね。誰がくれたか知らないけど便利なモノだしありがたく使わせてもらうか」 「話の腰を折ってしまい申し訳ありません」 「いや、ありがとな。それでこれが俺の妹…ミヨなんだ」 シュウはスマートフォンにミヨの写真を映して二人や周囲の幼年期デジモン達に見せた。 「ああっ…このひと…!」 「あらあら」 萌音とアンコはミヨの顔写真を見ると何かを思い出したように口を開いた時、爆発音が響くと積まれたブロックのような建物に大きな穴が開いた。 建物からは幼年期デジモン達が飛び出し、逃げ惑う。 「萌音ちゃん、アンコちゃんさん!この子達をどこか安全な所に…!」 シュウはマントをなびかせながらそう叫ぶと、ユキアグモンに赤外線で指示をアップリンクする。 「爆発をスキャンしたら敵が大体どこにいたかは理解した。行くぞユキアグモン!」 「はじまりの街はデジタマの流れ着く場所、デジタマはこの世界で最も尊い存在なのです…シュウさま、お願いいたします」 アンコは手を組めない代わりに目を瞑り、深々と頭を下げた。 その神妙な面持ちにシュウは彼女がなんだか只者ではないように感じた。 「デジタマに手は出させないさ。任せてれ!」 シュウはアンコ・萌音と別れ、先に走り出したユキアグモンを追いかける。 町外れの丘にたどり着くと、窪みから巨大な砲身を持つ戦車のようなデジモン・タンクモンと二匹のフーガモンが姿を現した。 「お前らかよ…懲りねぇな」 「うるせぇーっ!今度はセンセイもいるんだ!デリートしてやらぁっ!」 「甘辛く煮てやるぜぇぇ!」 フーガモンは棍棒を振り回し、突進してくる。 ユキアグモンはフーガモンの攻撃を避けながら隙を見て膝に素早く拳を叩きつける。 「お゙ん゙っ゙!?」と短い悲鳴を上げたフーガモンは膝を抱えながらけんけんのように跳び退いた。 「またやりやがったな!」 激昂したもう一匹のフーガモンが棍棒をユキアグモンに向かって振りかかり、シュウのデジヴァイス01から電子音が鳴る。 【ヘビースイング】 ユキアグモンは足の爪が地面にめり込むほどに力をこめると棍棒を受け止め、逆に押し返す。 「ユキアグモン!」 シュウからアップリンクを受けたユキアグモンは体勢を立て直したフーガモンの股下を潜り、背後から迫った機銃の盾にする。 「あいててて!センセイ勘弁してくださいよォ!」 ユキアグモンはそのまま怯んだフーガモンのパンツを掴んで一気に破いてしまう。 「いやーーっ!?!?」 絶叫しながら前屈みになったフーガモンを踏みつけて一気に跳躍したユキアグモンにギューンという音と共に放たれた光が当てられる。 「ユキアグモン進化─」 【ストライクドラモン:成熟期】 「ストライクドラモンッ!」 【ドラモンクロー】 シュウのデジヴァイス01に連続して電子音が鳴り、タンクモンの頭上を取った状態で進化したストライクドラモンが足の爪に炎の力を込めた。 タンクモンの頭に叩き込まれた鋭い踵落としはバゴッという鉄のへこむ音が響かせた。 「おつかれさま」 ストライクドラモンは既にユキアグモンに戻っており、気絶したタンクモンから飛び降りる。 「へっへっへ〜ま、こんなモンだゼ!」 ユキアグモンは得意げな顔でそう言いながらシュウとハイタッチする。 「強い…あいつ…」 一人と一匹の楽しげな姿を街のユキアグモンが後ろから見つめていた。 ・03 【はんせいしました】という木の板を首からおろしたフーガモン、新品のパンツに変えたフーガモン、頭がへこんだタンクモンの三匹が様々な建材を積んだ台車を運んでいた。 「あの〜言われたヤツ持ってきましたけど…」 「あらあら。フーガモンさんたちお疲れ様です」 三匹はアンコの提案で責任を取って壊したはじまりの街を修理して回っているという。 「たしかに倒してしまう事は簡単です。しかし、そうしないことで何かが良い方向に傾くことがあるかもしれません」 「アンコちゃんさんに感謝しろよお前ら」 割れた窓枠を取り外すシュウにそう言われた三匹はへへへ…と笑いながらアンコに胡麻すりしだす。 「シュウさまもありがとうございます。もう半月はこの街にいてくださっていますね」 「ミヨのことは放っておけないけど街には世話になったからな」 アンコがシュウの汗を吹きながら感謝を述べ、数日前に行った彼女とのやり取りを思い出す。 「ミヨさま…という方は傷だらけのロップモンの手当てを頼むため、わずかにこの街に滞在しておりました。そして、ロップモンの傷が治ると街から出たのです」 「…そうか。それでミヨはどっちの方向に行ったんだ」 シュウの言葉にアンコはかわいらしい装飾の門を指を指した。 「あちらです…あの遥か先にはかつてこの大陸で暴れまわったという七大魔王の一柱・バルバモンが作り上げた軍団・D-ブリガードの要塞がありました」 シュウは地平線ギリギリに黒い棒のようなものをうっすらと見た。 ユキアグモンはD-ブリガードという言葉にうろたえている様子だった。 「D-ブリガードはバルバモンの撃破と共にその力を失い、更に暴走した新兵器による同士討ちが決定打となって壊滅しました…ですが、そこにいくつかの組織を加えて再編成した者がいます」 アンコは神妙な顔でデジモンイレイザーという単語を小さく、怯えるように呟いた。 「そいつがミヨを狙っている…なぜ…?」 「それはわかりません。しかし、とても嫌な予感はします」 「ヤクザ共はFE社と繋がりがあり、FE社はD-ブリガードと関係があり、D-ブリガードはデジモンイレイザーに…ややこしいが全部はデジモンイレイザーに繋がってるワケか」 シュウは眉間を親指で押しながらこれまでの敵を思い出していた。 「シュウさん!」 萌音が慌てた様子で現れ、シュウはハッと現実に帰った。 肩で息をする彼女の背中をさすりながらシュウは膝を突いて話しかける。 「どうした?」 「ユキアグモンさんとコロモンが喧嘩を始めちゃって…」 「あいつらが…ってどっちだ?」 「あっあっ。あの、街の方のです」 シュウは立ち上がるととりあえず行くだけ行ってみるかと呟いた。 シュウが騒ぎの現場に来ると回りで幼年期デジモンや全身銀色タイツの農家さんが困った顔をしていた。 「足りない〜!」 「ちょっと増やしてやっただろ!何回言ったらわかるんだよ!」 コロモンはけちんぼ!と騒ぎながら頭に皿を乗せたまま激しく跳ねるが、そのせいで皿に盛られた食事をひっくり返してしまった。 「あっ!」 街のユキアグモンはシュウと目が合うと、急いで走り去ってしまった。 「あ、おい…ったく。コロモンもケンカするなよな」 シュウはコロモンにそう注意するだけすると新しい皿を取り出す。 「もっと〜」 「ほとんど倍だな。ホントに食べれるのか?」 「ツノモンとね〜食べるの〜」 「そういえばツノモンを見ないな」 シュウが皿のごはんをモリモリにするとコロモンはそれを見て嬉しそうにしながら答える。 「熱でてる〜」 「なるほど…ま、言い方が悪かったな」 後から追い付いた萌音が現れると、シュウはユキアグモンとすれ違いになった事を告げる。 最近の彼は気が立っており、みんなとも遊ばないで山の方に行くから心配していたと話した。 「…たぶん、今もそうなんだと思います」 「萌音ちゃん、アイツの所に行ってツノモンに会うように言ってきてくれ。俺も用事ができた」 シュウはアンコから受け取った解熱用のディスクをツノモンに当てると、みるみる内に調子が良くなった。 「よかった〜」 コロモンとツノモンははしゃぎながら二匹でごはんをバクバク食べ始める。 その様子を見て安堵の表情を浮かべたシュウだったが、山の方から爆発音が響いた。 「シュウ!」 ドシドシと足音が聞こえ、家の中を覗き込みながらシュウのユキアグモンが現れる。 「あぁ、行くぞ!」 シュウはデジヴァイス01の位置を調整しながら家を出ていく。 ・04 暫く走ったシュウとユキアグモンが山中に到着すると、傷ついた街のユキアグモンと萌音が木の下でいるのを見つける。 シュウが彼らに声をかけようとした瞬間、背後から聞こえたフーガモンの悲鳴に振り向いた。 胸に多数の切り傷を負った血だらけのフーガモンが今まさに倒れたタイミングであり、その状況は深刻だった。 さらにタンクモンは腕をもぎ取られ、もう一匹のフーガモンも角をへし折られており、間違いなく危機的な状況であった。 フーガモンから爪を引き抜いたトループモンを見たシュウは僅かに嫌な予感がして少し真顔になるが、その予感はすぐに的中してしまう。 「お、は、よ」 ニヤニヤしながらジャケットを羽織る筋骨隆々なボサボサ頭の男がシュウにそう告げるが、二人の間には静かに風が吹く。 彼はリアルワールドにいる頃からシュウを付け狙う男で、常に闘争を求めていると自称していた。 「田中…!」 シュウは目の前にいる因縁の男を睨みつけながらそう言ったが、彼はシュウが何を言ってるのかよくわからなかった。 「お前だよお前。優しい俺が田中太郎って名前にしてやったんだから郵便受けに書いとけよ!」 シュウが鈴木を指差しながらそう言うと、鈴木はケラケラと笑い出す。 「はー──────、つまんね」 鈴木はだらんとしながらトループモンに指先で突っ込む事を指示すると、シュウのユキアグモンも少し遅れて走り出した。 しかし、トループモンは突っ込むと見せかけてタンクモンの方へ急に向き変える。 だが事前のアップリンクで指示を受けていたユキアグモンもタンクモンへ突っ込んでおり、トループモンの顔面にドロップキックを打ち込んだ。 タンクモンへのトドメが刺せず、無言で弾き飛ばされたトループモンはゆっくりと立ち上がる。 「おー。読んでたか」 「田中の性格が悪いのは覚えたからな」 田中はニヤニヤしながら足元のフーガモンの傷口に靴の爪先を突っ込むとその悲鳴を聞いて悦に浸った。 「祭後クンってさ、いつも”コッチ”を見てないんだよ。半目気味で、ちょっと虚ろで、ぼーーっとしてらぁ」 「いや…シュウは元々こんな顔だゼ」 「だから釘付けにさせてぇんだよ!」 田中の叫びに反応したトループモンがその爪を光らせてユキアグモンに接近する。 ユキアグモンはトループモンの爪を受け止めるが、即座に繰り出された蹴りを腹に打ち込まれてしまう。 その場にうずくまるユキアグモンに何度もストンピングを打ち込んでから顎を蹴り、吹き飛ばした。 「ユキアグモン…!」 叫ぶシュウに無関心なトループモンはそのままフーガモンに近づくと首を締め上げる。 「あ…がっ…!」 フーガモンはもがくが、トループモンの腕力は強く、その首はミシミシと悲鳴を上げた。 「やめろ!」 トループモンに殴りかかるシュウだがそれは全く効かず、逆に拳を打ち込まれる。 地面を数度跳ねたシュウは頭から血を流すが、田中は心底どうでもよさそうに頭をかきむしる。 「ニ、ニンゲン…オマエ…」 「あー、そういうのいいんで。早く進化させちゃってよ」 「シュウ…!」 ユキアグモンに答えたシュウはギューンという音と共にデジヴァイス01から光を放った。 光を受けたユキアグモンの進化が始まり、その肉体は青白い卵のような光に包まれていく。 「ユキアグモン進化─」 伸びた四肢から青白いベルトがほどけ、赤い布となって再構築される。 頭や尻尾などの全身に青白い炎を封じた鋼鉄が装着される。 胸にタトゥーのように赤いマークが刻まれ、光の卵が砕ける。 細くも筋肉質な体型の戦闘竜・ストライクドラモンが現れた。 【ストライクドラモン:成熟期】 「ストライクドラモン!」 「そうそう。それそれ」 田中は不気味に笑いながら顎でトループモンに指示を送ると、フーガモンの首から手が離される。 ストライクドラモンは力強叫ぶと、爪から衝撃波と共に青い炎・ブルーフレイムを放った。 トループモンはブルーフレイムを押し返そうとするが、上手く行かずに爆発をゼロ距離から食らってしまう。 ストライクドラモンのはニヤりと笑うが、煙から現れたトループモンは火花を立てながらも立ち上がる。 「様子がおかしい…気を付けろ!」 トループモンはその火花を強くしながら全速力で距離を詰めていく。 ストライクドラモンは再度ブルーフレイムを放つが爆発の中から体の一部を引き裂かれたトループモンが飛び出し、お構いなしで速度を上げていく。 【ハラショーアタック】 シュウのデジヴァイス01から電子音が鳴ると同時にストライクドラへ組み付いたトループモンが大爆発した。 爆風が巻き起こり吹き飛ばされる気絶したフーガモン、地面へ押し付けられるシュウ、顔を押さえて爆笑する田中。 飛んできた小石が足に当たり、萌音と街のユキアグモンは目を覚ますとそこには傷だらけのフーガモンが倒れていた。 「な、なんだよこれ…!?」 「あっ…フーガモンさん!」 萌音がフーガモンに駆け寄ると、ユキアグモンもそれに続いて駆け寄った。 「お、オイラは平気だ…だけどニンゲン達が…!」 「萌音…」 萌音が顔を見上げるとそこにいたのは黒焦げのストライクドラモンと地面に突っ伏したシュウだった。 街のユキアグモンは静かに拳を握り締めていた。 田中の影から新たに三匹もトループモンが現れるとシュウは僅かに引き笑いをする。 その反応に喜んだ田中は饒舌になり、一人でペラペラとトループモンの能力・増殖と自爆について語りだす。 「今日はサービスで四匹だ…祭後クンはこの意味、わかるよね?」 「…萌音ちゃんは逃げろ」 シュウが砂を掴みながら絞り出した言葉に萌音は首を横に振り、街のフーガモンも立ち上がろうとするが力が入らない様子だった。 「なんなんですか貴方は…なんでこんな事するんですか…!?」 「アハッ!それ聞く?祭後クンにはね〜最高の死に方ってヤツをプレゼントしたい訳よ!」 「貴方は…そんな…」 萌音の言葉に田中は少し考える素振りを見せるがやがて嘲笑するような笑みを浮かべる。 「俺はさ、祭後クンの事がだーいすきなの!」 「…え?」 「だからさぁ!俺の事だけ見ててよ。俺の事だけ考えててよ。他のヤツなんてどうでもいいだろ?なぁ誰を殺せば見てくれる!?どれだけ殺せばマジの顔をしてくる!?」 田中はそう言うとトループモンに攻撃の指示を飛ばす。 ストライクドラモンはボロボロになりながらも立ち上がると爪からブルーフレイムを放つが、トループモンは紫色に光った爪を振り回してそれを打ち消した。 力を使い果たしたストライクドラモンは再び膝を突いて倒れてしまう。 「やめろ〜!」 木々の間から飛び出したコロモンがトループモンに体当たりをしかけるが、容易く弾き返されてしまう。 「コロモン!くそぉっ!」 「あぁっ…ユキアグモンさん!」 それを見た街のユキアグモンは反射的に飛び出してトループモンに拳を振るうが、それは避けられてしまう。 少し遅れてトループモンへ向かった萌音との間に割り込んだ田中は彼女の首を絞めると、そのまま持ち上げる。 「あぁ〜、お前駄目だな。ちょっと迷っただろ?」 「うっ!あふ…がっ!」 口から唾を吐きながらジタバタとする萌音だが、大人の男…それも鍛え上げられた田中を手を振りほどくことはとてもできそうにない。 三匹のトループモンはユキアグモンを囲んでパスをするように何度も何度も蹴り着けて萌音の元へ行けないように妨害を繰り返す。 「もねをはなせ〜っ!」 再び飛びかかるコロモンを足で押さえつけた田中はひひっと上擦った笑い声をあげる。 「コロモンよぉ…お前は特に駄目だわ。見てたぜ?タダメシばっか食ってなんの役にも立たねぇ糞饅頭のマヌケ面をさぁ〜ッ!」 田中はコロモンをボールのように蹴飛ばすとその上に萌音を投げ捨てる。 コロモンの上から転げ落ちた萌音は首にアザを作りながらゴホゴホと何度も咳き込み、わずかに消化しかけたであろうモノを吐き出してしまった。 「げほ…ちが…」 「ぼ、ぼくは…」 「お前はいらないんだってよ!ユキアグモンも、そこの偽善者のガキも言ってたぜ!はっはっは!」 コロモンを指差しながらゲラゲラ笑う田中を見た萌音は顔に涙が浮かべながら懐から取り出したクロスローダーを光らせるが、何も起こらない。 「なんで…なんで…!?」 「ごめんね…もね…ぼくがいらないから…」 「そーーだよ!お前はいらないんだよ!」 【ヤミのこぶし】 トループモンの一匹が街のユキアグモンに黒い力を込めたパンチを打ち込むと、叫び声と共に萌音の前に落下する。 すっかりボロボロにされた身体は立ち上がる力もなく、地面に崩れ落ちた。 「ユキアグモンさんっ…!」 「お前達はゴミ同士互いに足を引っ張ってばっかなんだよ。だけど俺は違う。俺の思考は全てのトループモンに伝達され…要するにナカヨシなんだわ」 「はっ…ははは…」 乾いた笑いを上げながら、シュウはゆっくりとボロボロの体を奮い立たせる。 「お?ボコり過ぎておかしくなっちまったか〜?」 「おかしいのはお前だぜ。田中」 シュウはこめかみをトントンと叩いてしたり顔をかますと、田中と呼ばれた男は僅かに苛ついた顔でシュウを睨み付ける。 目の前にあるのは田中の嫌いな少し眠た気な顔だった。 「萌音ちゃんは誰かのために泣ける。キミは俺なんかよりも誠実で優しいよ」 萌音はクロスローダーを強く握りなおすと泣いたまま、振るえたまま、ゆっくりと立ち上がる。 「ユキアグモンは真面目だ。誰かのために強くなろうと隠れて特訓してたんだろ?」 木の下に置かれたダンベルを見たシュウが微笑むと、街のユキアグモンは恥ずかしそうに顔を逸らす。 「コロモンは誰かのために優しくなれる。ツノモン、熱が治ってよかったな」 一人と一匹はツノモンの笑顔を思い出し、コロモンに親指を立てる。 「みんなができることをやってる…みんな違ってていいんだ!一々変なオッサンからご丁寧な道案内をしてもらう必要なんかねぇんだよ!」 シュウのタンカにストライクドラモンは呻き声をあげる。 「おい…オレにはなんもナシかよ…」 「この程度でくたばる気か?」 シュウはストライクドラモンの手を強く握ると、互いにニヤつきながら体を持ち上げた。 「それに、一人で仲良しこよしはできねぇぜ」 シュウの言葉にハッとしたユキアグモンはコロモンに近寄ると頭を下げる。 「ごめんなコロモン…ツノモンのためだったんだな。俺は一人で街を守らないとって焦って…」 「ううん。ぼくもことばがたりなかったよ」 「なんだそれ。オトナぶりやがって」 街のユキアグモンとコロモンが互いに笑い合うと萌音は再び、いやより強くクロスローダーを光らせた。 「ユキアグモンさん、コロモン…お願いしますっ!」 「へへ。そこはお願いしますじゃなくて、行くぞ!だろ!」 「そーだねー」 ユキアグモンは立ち上がると萌音とコロモンの横に並んだ。 クロスローダーが展開し、空間を生み出す。 「─ユキアグモンさん!!」 「おうよ!!」 ユキアグモンが構えると足元を強い光が照らす。 「─コロモン!!」 「まかせて〜!」 コロモンが構えると足元を強い光が照らす。 「「「ドット・デジクロス!!」」」 一人と二匹が同時に叫ぶとコロモンとユキアグモンは二筋の光となった。 ぶつかり、高まった光は複数の四角い塊に変化していくとそれが組み立てられて一つとなる。 ・05 【ドットブイドラモン:成熟期】 「なっ、なんだありゃ…!?」 「まぁそういうのもアリじゃないか?」 閃光を破裂させると液晶画面に映るキャラクターのようなドット状のブイドラモンがその姿を現した。 その奇妙な姿には流石の田中も一瞬その動きを怯ませる。 「君達は一人じゃない…行くぞ!」 「この状況から全滅させたらさァ!いいカオしてくれそうだよなァ!」 三匹のトループモンが一斉に破裂した光の欠片を横切り、ストライクドラモンとドットブイドラモンに向かって一子乱れぬ突撃を始める。 「うおおおおおーーーッ!」 「はああーーッ!」 ストライクドラモンとドットブイドラモンも雄叫びを上げながらほぼ同時に駆け出すとトループモン達と追突する。 ズドンという音が聞こえる程の強い衝撃で五匹全てのデジモンは互いに弾き飛んでしまうが、ストライクドラモンだけは歯を剥き出しにして楽しそうな笑みを浮かべた。 ストライクドラモンは足の爪を地面にめり込ませて踏ん張ると五匹の中で一番早く攻撃に移った。 【とうしのこぶし】 エネルギーを込めたパンチを二体のトループモンが腕を組んでそれを受け止め、飛び上がった残り一体のトループモンが上空から反撃に出る。 【スピンアタック】 だが、ストライクドラモンの股下を潜り抜けたドットブイドラモンが素早い回転をかけながらトループモンに激突する。 その衝撃で反転したドットブイドラモンは更に二体のトループモンにも連続で攻撃をしかける。 【メテオフォール1】 ストライクドラモンは仰け反ったトループモンに向かって即座に炎を発射。 連続で技による攻撃を受けたトループモンは内側から爆発四散した。 「トループモンの内部にはガスが詰まっている。つまり穴を開けてしまえば内側から一気に燃やせるんだ」 「ま、まずは一匹です…!」 ストライクドラモンは飛び上がると鋭い爪をトループモンに振り下ろすが、回避されてしまう。 もう一匹のトループモンが素早い動きでフォローに入るとストライクドラモンに飛び蹴りを放つ。 「うおッ!」 「ストライクドラモン!」 【エアカッター】 ドットブイドラモンは真空状の刃を発射し、追撃に走ろうとしたトループモンの腕を切断する。 【ドラモンクロー】 ストライクドラモンはすぐガスの溢れる切断面に炎を纏った爪を突っ込んで二匹目のトループモンを爆発させた。 「こいつでラストだゼ…!」 ストライクドラモンとドットブイドラモンが最後のトループモンを取り囲む中、田中が「おい」と声をかけるとトループモンは周囲に残ったガスを大きく吸い込んだ。 体内に通常の三倍近いガスを蓄えたゴム質のボディは全身を鍛えあげた筋肉のように膨れさせ、5メートル程の大きさに変化した。 「名付けるならメガトループモンといった所か。さぁてどうする?」 メガトループモンは太い脚でドットブイドラモンを思い切り蹴りつける。 ストライクドラモンは咄嗟に飛び出すと落下してきたドットブイドラモンを受け止め、そのまま転がると焦りながら叫ぶ。 「おいおい、どうすンだシュウ!」 「…勝ち筋はある」 シュウの強気な発言に田中は鼻で笑うと「じゃ〜見せてもらおうじゃねぇか!その勝ち筋とやらをよッ!」と叫ぶ。 メガトループモンは指先からガスを放出しながら拳を地面に打ち付けると爆発を前方に発射してきた。 なんとか攻撃を避けた二匹が後ろを向くと、数本の木が根本から吹き飛ばされている光景が広がっていた。 息を飲む萌音を前に田中は先程シュウにされたようにこめかみをトントンと指で叩いては勝ち誇ったように騒ぐ。 「さっき祭後クンが見せてくれたヤツ、もうソレは覚えたぜ〜!?」 舌打ちしながら放たれたシュウのアップリンクに答え、ストライクドラモンとドットブイドラモンは格闘戦を挑むがメガトループモンの大きな腕に接近は拒まれてしまう。 タンクモンのボディに叩きつけられた二匹は息も絶え絶えになっている。 【デスマーチ】 シュウのデジヴァイス01に届く警告音よりもメガトループモンは早くマスクの内側から黒いモヤを放出し、地面にぶちまけると辺りを暗闇に包んだ。 咳き込んで動きを止めてしまうストライクドラモン達がようやく視界を確保する頃、メガトループモンはその姿を消していた。 「ど、どこに行っちゃったの…?」 萌音が辺りをキョロキョロと見渡しているとストライクドラモンは上を見上げて叫ぶ。 上空に飛び上がっていたメガトループモンかはストライクドラモンとドットブイドラモンに襲いかかろうとしていた。 田中の上ずった絶叫に合わせ、メガトループモンは両腕から高濃度のガスを地上に向かって放った。 「この距離にゃストライクドラモンの炎は届かねぇだろ!くたばっちまいなァ!!」 だが、シュウは自信に溢れた渾身のしたり顔と共にデジヴァイス01から電子音を鳴らした。 【イビルハリケーン】 突如として二匹のフーガモンが立ち上がると力強い速度の回転で風を巻き起こし、ガスをメガトループモンの方へ逆流させた。 メガトループモンが自らのガスをその全身に浴びた直後、ゼロ距離から爆発を受けて体に大きな穴を開けた。 「へっへ…ざまぁみやがれよ…!」 シュウのデジヴァイス01には続いてタンクモンの必殺技・ハイパーキャノンの発動が表示されていた。 二匹のフーガモンは喜びながら彼に駆け寄り、称賛の言葉を浴びせる。 「シュウ、早く!」 「いいからやっちまえ!!」 シュウが萌音を抱えながらそう叫ぶと、ドットブイドラモンは蓄積した口に大きなエネルギーを矢型の熱線として上空に放つ。 「ブイブレスアローーッ!」 メガトループモンの大きく開いた穴にブイブレスアローが流しこまれるとほぼ同時にシュウはストライクドラモン達の元へ転がり込んだ。 ・06 「コロモン、ツノモンと仲良くな。フーガモン達は街の用心棒頼んだぜ」 「オイラ最近はユキアグモンとトレーニングしてるぜ〜!」 シュウの声に街のデジモンや銀色タイツの男、その横の宇宙人みたいなヤツが明るく答える。 「それにしてもなんだかこえーな。デジタルワールドだとキズも勝手に治っちまうのか…」 シュウは傷一つ無い服やマントを見てほえーと気の抜けた声を上げる。 アンコはシュウの服を旅に適した自己再生機能つきの簡易的な鎧としてデータが構成されていると説明した。 「少なくともデジタルワールドにいる時は髪が伸びたり体臭が過度にすることもないですよ」 「はは…それはありがたいね。地図のデータといいアンコちゃんさんには世話になりっぱなしだ」 「良いのですよ。困った時はお互い様…それに、貴方はデジタルワールドの平和を守ってくださるお方」 「いや…それはどうだろうね」 アンコから向けられる期待の眼差しにシュウは内心怯みながら目を逸らす。 「俺、お前みたいに強くなる…この街を守ってみせる」 「いや〜オマエもう十分強いと思うゼ!」 シュウのユキアグモンが振り向くと、そこには数日前にメガトループモンが引き起こした大爆発で形が変化した山が朝日を受けていた。 爆発の中心部ではストライクドラモンの変異種防壁(イリーガルプロテクト)で守られた所以外は吹き飛び、崖のようになっていた。 「そろそろ行くぞ。ユキアグモン…ってお前なんかベルトに挟まってるぞ」 シュウはユキアグモンのベルトから折られた紙を引き抜いて開くとそこには「今回も素晴らしい闘争だった。また会おう」と書かれていた。 「何が書いてあったんです?」 萌音の問いにシュウは「ウンコの落書きだよ」とゴミ箱に投げ捨てる。 その言葉に少し嫌そうな顔をするが、すぐに気分を切り替えた萌音はシュウの手をぎゅっと握る。 「たぶんまた会えるさ」 「ぜっっっったいですよ!」 街の住民達に見送られながらシュウはD-ブリガードの旧拠点へと歩きだしたのであった。 おわり 暗い地下の部屋で一人の女性が田中を相手に話していた。 「ご苦労様でした。傭兵さん」 「俺も楽しかった…今回は大満足かもな」 田中はトループモンだったデジタマの横に空の酒瓶を置いた。 ふと横を見ると、そこにはシュウの着ていたものと似たような服やマントが畳まれていた。 「俺を爆発から無傷で助けてみせたり、そんな服(シロモノ)を作ってみたり…」 田中から言外にお前はただ者ではないな?と指摘された彼女は「私は大した力も無いただの女ですよ」とうっすら微笑んだ。 「そーいうのを自称するが女が一番怖いんだよ。現に祭後クンはデジタルワールドに来てからずっとアンタの手のひらの上だ」 「ブラックセラフィモンは私に会わせてくれると約束してくださりましたの」 田中の言葉に被せるように彼女は一方的に話を始める。 その目は大きく開かれ、裂けたように大きな笑みは不気味さしか感じられなかった。 「悪の顕現…新なる楽園の想像主…そのために私はデジモンイレイザーの影となりますわ」 部屋を薄暗く照らすモニターには鎖で繋がれたシュウの妹・ミヨが映されており、彼女はその画面を愛おしそうに撫でた。 「それまで私は新しいオモチャに壊れたオモチャをぶつけてどちらが残るか…そういうお遊びで暇潰しですわ」 モニターのカメラが切り替わると、そこには冷たい鉄板の上で一人俯いているフードの少年がいた。