瓶を傾けて勢い良くミルクを流し込むとややクセのある生臭さが 口いっぱいに広がりました。─美味しい! 質の良いミルクを作るために酪農家の方は大変な苦労を重ねるそうです。 何気ない食事に潜む多くの努力が偲ばれて厳粛な気持ちになりました。 それに比べれば私達の頑張りなんてちっぽけなものです。 暴れるのを2人で抑え込んで16Gのニードルで耳の軟骨を穿った日の事。 親愛の証として耳標ピアスを付けた日の事。 …色々な思い出が蘇ります。 私たちが信頼関係を築くまで大変でしたね。 ナチュラルな状態で過ごしてもらうために全ての衣類を廃棄して 裸に近い状態で過ごしてもらうようにした日には流石に半狂乱になって 一晩中取っ組み合いをしましたっけ。 もちろんただ自然に任せたわけではありません。 様々なデータと引き換えに密に作成してもらった薬剤の数々を与え 夜には全身をマッサージし朝には検温を欠かさず 日に何回もシートと砂を取り換え換気を行う。 このミルクはいわば私達の愛情と科学の結晶です。 ミルクというものは実に色んな利用法があります。 そのまま飲んで良しジャムにして良しお砂糖と煮詰めて練乳にしても面白いですね。 ああ。期待に胸をいっぱいにしていたらもう瓶が空になってしまいました。 ─乳というものは血が変換されて出来るものです。これを直飲みできるのはなんて幸せなことでしょう。 真っ赤になって両胸を抑えているミルクの主を前に私は生産者の特権を行使することにしました。