・01 デジモンを悪用して世界制服を目論む悪人・デジモンイレイザーを追ってニウジラ大陸を旅する一人と一匹の前に傷だらけの幼年期デジモンの群れが現れる。 「ワニャモン、どうしたんだ?」 シュウは片膝を突いてワニャモン達に尋ねると幼年期デジモンは泣きじゃくりながらも事の顛末を話した。 アトラーカブテリモンの森に住む賢木夕立という巫女には、死者を蘇らせる能力があるという噂が広まっていたが、実際にはそのような力は持っていなかった。 それにもかかわらず力を求める者たちが噂を盲信して森を襲撃しだしたので夕立や彼女の友人の助けを借りてなんとか森を抜け出してきたと彼らは語った。 シュウ、コイツは…そうユキアグモンが告げるとシュウは「デジモンイレイザーだ」と小さく呟いた。 「どうする?ぶっ飛ばすか?」 「あぁ。何としてでもその子を助けなきゃな」 シュウは回復ディスク等による簡単な手当てを済ませるとユキアグモンと頷き合い、幼年期デジモン達に案内を頼んだ。 ユキアグモンの吐く氷で消火を進めながら森を進む中、ボロボロのデジモン達を見つけて思わず動きを止めてしまう。 彼等の体を抉っていた無数の銃弾を見たシュウとユキアグモンが嫌なモノを確信した時、近くの草が揺れた。 二人はワニャモン達を庇うように前に出ると、そこから現れたのは一匹のケンタルモンだった。 (成熟期、データ種、獣人型、体重30G、必殺技…ハンティングキャノン) シュウはケンタルモンのステータスを思い起こすと相棒に無言で横目を向ける。 それを見たユキアグモンも何も言わずにアサルトモンとの戦闘履歴をロードした。 「待て。私はお前達と争いに来た訳ではない」 ユキアグモンの目に僅かなデータの流動を見たケンタルモンは彼等の戦闘意思に勘づくと腕を上げて戦意が無い事を示す。 幼年期デジモン達がケンタルモンの足元にじゃれついている姿を見たシュウ達は警戒を緩めた。 「一人でも戦える者は多い方が良い。私はこの先で助手と避難所を作っているのだが、もし良ければ手を貸してくれないか」 ケンタルモンの提案を受け入れたシュウ達は彼に続き暫く歩いていたが、突然現れたサウンドバードモンの群れが幼年期デジモンを襲い始めた。 ケンタルモンは傷ついたボタモンを庇いつつ、様々な医療道具を持っている事から反撃に遅れが出てしまう。 シュウとユキアグモンは歩みを止めると「その子達を任せていいか?」と言うや否や振り向いてサウンドバードモンの群れに向かって走り出す。 ケンタルモンは任せてくれと静かに頷くと幼年期デジモン達を連れて二人とは別の道へ歩き出した。 色々な方向から何度も体当たりを仕掛けてくるサウンドバードモンを睨んでいたシュウはその統率がない動きに気付くとデジヴァイス01に作戦を入力してユキアグモンに送信した。 「OK!シュウ!」 根が洞窟のようになっている巨木までユキアグモンは走り出すと、釣られて追いかけてくるサウンドバードモンの一匹に噛みついた。 ユキアグモンの得意技・アイスカムカムに捕らわれたサウンドバードモンは歯先から冷気が注ぎ込まれて動きが止まってしまう。 その様を見た他のサウンドバードモンはキイキイと鳴くと各々が一目散に逃げ出していった。 「見たかオイ!敵の来る方向を一方向に限定するのが俺の作戦だったワケよ!」 「この手のヤツは一匹やられちまえばもう襲ってこねぇモンな〜!」 シュウがユキアグモンとハイタッチして辺りを見回すと、遠くにはデジモンイレイザーの背中が小さく見えていた。 やっぱりな…と呟いたシュウはゆっくりとその後ろ姿を追いかけ始めた。 「ヤツが…祭後終…!」 だが、シュウとユキアグモンは背後の自分達を睨む青年には全く気がついていなかった。 ・02 攻撃を仕掛けてくるブレイドクワガーモンの群れを追い払いながら暫く森を進んだシュウ達だったが、完全にデジモンイレイザーを見失っていた。 「やっちまった…いや、まずは巫女さんだな」 「えっなに〜?巫女探してンの?」 シュウは足を止めて呟いた言葉に対して、頭上から軽い口調の声が降ってきた。 驚いて顔を上げると木の上から布マスクで顔を隠した青年がこちらを見下ろしていた。 その青年は木から飛び降りると「よっ、ニーサン!」と手を上げた。 「見るからに怪しいヤツだぞシュウ」 「デジモンに関わってるヤツは変人ばっかだ。顔隠してる程度じゃもう驚かねぇよ」 青年は頬を指でなぞりながらそれはそうだと肯定する。 ウンコの話しかしない子供、骨、チャラそうな風貌の男、ロボに乗ってるヤツ、全身銀タイツの陰謀論者、ついでに全身オレンジタイツの集団…つい色々なテイマーを思い出していたシュウを現実に引き戻したのはユキアグモンからの体当たりだった。 突き飛ばされたシュウの頭上を銃弾が掠める。 「ぐっ…そもそも人ですらない犬もいたな…」 シュウはユキアグモンに頭を下げると敵の正体を探ろうと周囲を見回す。 「あらら〜どったのニーサン?」 シュウが嫌な表情を隠せないでいるとマスクの男は「実は俺が森を燃やした犯人だったりしてぇ〜」と軽薄な笑みと共に自分の頬を指でなぞると何処からか銃弾が放たれた。 ユキアグモンは男の言葉よりも早く冷気を上方に吐き出しており、空中で大きな壁に変化する。 ホワイトヘイルの応用で作られた即席の壁はシュウへ迫る銃弾をギリギリ防ぎ、マスクの男は落胆する。 「お前もしかしてデジモンイレイザーの手下か」 「デジモン…イレイザーぁぁぁ?」 シュウは起き上がると男に問いかけるが、彼はその言葉にとても嫌そうな反応をする。 「なにそのダッセェ名前」 「わかった。もう喋らなくていい」 「俺は〜〜〜…デジモンジャッジメンターさ!」 奇妙なポーズとぎこちないウィンクをキメながら一人騒いでいる青年を無視してシュウは鼻をヒクつかせるユキアグモンに「どうだ」と問いかける。 「ここはデジモンが集まりすぎててリアルワールドみたいにはいかねぇ。けどこのヤり方は知ってるゼ」 頬を触るジェスチャーによる合図、正確な射撃、見えない敵…デジモンジャッジメンターの戦法はD-ブリガードのやり方に酷似していた。 「あ〜あらあらあら!もしかして同郷のヒト?でもどこから攻撃されてるかわからなかったら…意味は無いよなーっ!」 デジモンジャッジメンターが腕をふると空から幾つもの手榴弾が降り注ぎ、回避の隙を与えぬ爆発が辺りを何度も包んだ。 爆発の煙が晴れるとそこには変異種防壁(イリーガルプロテクト)に身を包み無傷のユキアグモンとシュウがいた。 「3時だ」 ユキアグモンは指示通りリトルスノーを吐き出して火を消すと空間に歪みが発生する。 すぐにその歪みへ飛びかかるユキアグモンだったが、その歪みから大きな盾が飛び出すと弾き飛ばされてしまった。 しかし、痛がりながらもしてやったりという顔でいるユキアグモンの視線の先には歪みの正体・ハイコマンドラモンがこちらに銃を向けていた。 「グレネードがうるさく爆発してる時に作戦会議させてもらったぜ」 ハイコマンドラモンとユキアグモンの格闘戦をつまらなさそうにデジモンジャッジメンターが眺める中、シュウはしたり顔で説明を始めた。 ユキアグモンもとりあえずドヤ顔だ。 「【D-ブリガードのデジモンは表皮がテクスチャー加工されており景色に溶け込む事が可能ではあるが、下級兵士が持つのは質の悪いモノだけ】という情報がまず俺に伝えられた」 「だったら処理中に別のジョブを加えてテクスチャのロードをラグらせちまえばいいって思ったワケさ…煙の白、火災の赤、自然の緑ってね」 「あ、あとグレネードの弾道の履歴をデジヴァイス01でスキャンしておおよその位置も確かめたかな」 シュウはふてぶてしいニヤケ顔で指を鳴らすが、デジモンジャッジメンターは真逆の白け顔で欠伸をしていた。 「ニーサンってさ、よく話が長いって言われない?」 「お前は随分静かになったじゃないか」 「─そこまでです」 突如ハイコマンドラモンとユキアグモンの間に燃え盛る炎の渦が現れると二匹は慌てて戦闘を止める。 シュウとデジモンジャッジメンターは声のする方へ目を向けるとそこには猫背気味な学生服の少年が一人立っていた。 「はい。お二人ともご協力ありがとうございます」 炎の渦はソーラーモンによって巻き起こされていたモノであり、彼は回転を止めると少年の横へふわふわと飛来する。 「ここは一旦下がりましょう」 少年が横目でデジモンジャッジメンターにそう提案する。 「オレ達が逃がすと思ってんのか!」 「少なくとも貴方の相棒はそう思っているようですよ」 ユキアグモンは鼻息を荒くして意気込むがシュウは少年の言葉を肯定した。 「2対1でこっちは不利だ。先も急いでるし本当に引くつもりならありがたいね」 「ジャッジメンター、貴方も戦いを続けるなら苦戦は必至ですよ」 「…んま、それもそうか。次は覚悟しろよニーサン」 「では皆さん、ごきげんよう」 デジモンジャッジメンターが撤退の合図を送った後、ハイコマンドラモンは彼と少年を守るために後方へ銃口を向けて警戒しながら森の奥へと姿を消した。 「やれやれ」 シュウはため息をつきながら周囲を見渡すと、森のあちこちに弾薬が散乱していた。 ・03 その頃、森の中心に当たる場所では森の襲撃派と防衛派に別れた戦闘が繰り広げられていた。 相棒の声に反応したエアドラモンは鋭く唸る風の刃、グレイモンXWは口から灼熱の塊をギズモンに浴びせかけて爆発させる。 「なっ、なんなんだよコイツらは!」 グレイモンXWのパートナー、青石守は頭をゴリゴリと掻きながら状況に混乱していた。 「へへ〜わかんないねぇ。骨が折れちゃいそう」 「ゆきな。まずはみんなをたすけよう」 隣で眠そうな顔をしているのはエアドラモンのパートナー、厳城幸奈だ。 「ボクが教えてやろう」 二人の前に現れたの黒衣の少女こそシュウの追う宿敵・デジモンイレイザーだった。 「この森のありもしない噂をニジウラ大陸に広げたのはボクさ。傭兵デジモン達には色々な所で噂を吹聴してもらったよ」 「なんでそんなことを…!?」 守は拳を握り締めるとすぐにでも戦闘に入れるように構える。 「理由は幾つかあるよ」 デジモンイレイザーはクスっと笑うと指を立てながら一つ一つを説明し始めた。 「一つ、ボクの配下になりたいって奴等が本当に命を奪えるのか。二つ、人工デジモン・ギズモンの能力調整。三つ、あるモノの採集。四つ、次の実験の構想」 「そのあるモノってなにかな」 幸奈が嫌な予感を憶えながら尋ねる。 「ふふ…話をし過ぎたね。次の実験を始めようか」 デジモンイレイザーが指を鳴らすと森の中心で大きな爆発が起こる。 それは二人にとってまるで森の悲鳴かのようにも聞こえた。 「─グレイモン!?」 何かによって吹き飛ばされたグレイモンXWはゆったりと立ち上がると力強い咆哮を放った。 守はハッとグレイモンの視線の先を見ると木々の影から激しい息遣いのマッドレオモン:アームドモードが姿を現していた。 援護に向かうエアドラモンだったが、それを紫色の弾丸が阻む。 きひひ…と笑いなから姿を現したのは闇医者とも形容できるアプモンの一種・ドクモンだった。 「ボクはアトラーカブテリモンの所へ行く。十郎坂李華、ドクモンとギズモンをいくら使ってもいい。二人と二匹を殺してみてくれ」 「わかりました…デジモンイレイザー…」 デジモンイレイザーはそんな命令を下すと悠々と森の奥へと姿を消してしまう。 「あの、えへっ。人殺しとか冗談ですよね…」 守の言葉に道化師の様な出で立ちの少女─十郎坂李華は薄暗い眼で二人を睨むとマッドレオモンは重苦しい絶叫を響かせる。 グレイモンXWがマッドレオモンの放つ拳を避けながら反撃のチャンスを窺う中、幸奈はエアドラモンに攻撃を指示する。 エアドラモンがドクモンの放つエネルギー弾を撃墜しながら接近するとお返しとばかりに全力の体当たりをしかけた。 続けてグレイモンXWも大降りの攻撃を屈んで回避するとその立派な角を突き出す技・ホーンストライクを放つ。 だが李華はマッドレオモンに腕のチェーンソーで攻撃を防がせると周囲に滞在していたギズモン達に包囲射撃を指示した。 再び救援を試みるエアドラモンだが、その隙に向かってドクモンは両腕の巨大な注射器から必殺の水流光線・マッドネスシリンジを放つとエアドラモンを地面に押し付けた。 二人が相棒の危機に焦った時、巨大な黒い渦が戦場を真っ二つにした。 渦は周囲に大粒の氷を吐き出しながらギズモンの一体を撃ち貫く。 氷がグレイモンXWを包囲したギズモンに追突して射線をズラすと自身の無傷を認識したグレイモンXWは素早く体を回転させて尻尾をマッドレオモンにハンマーのように振り下ろす。 それと同時にエアドラモンの体から光が放たれると渦の中から機械の腕が飛び出し、紫色の液体が入った注射器を引き千切るとそのまま握り潰した。 悶えるドクモンの前には黒金の機械竜・ギガドラモンが現れていた。 「シュウ〜こっちこっち。間に合ったみたいだゼ!」 「ちょ、いや…お前元気だな」 バトルフィールドにユキアグモンとシュウが駆け付けるが、ここまで走り続けていたせいで息を荒らげるシュウを幸奈と守が不安げな様子で声をかける。 シュウは小声で大丈夫。大丈夫。と繰り返していたが後ろで戦うグレイモンXWを認識すると「あっ」と声を漏らす。 「妙なグレイモンを連れて色んなイザコザに首を突っ込む男…事件の裏にはやっぱりマモルのマモル・ブルーストーンって君の事か!?」 「…はいぃ?」 コイツは頼もしいぜ…と言いながらシュウがもたれ掛かっていた木から体を退けた時、背後から一人の女性・虎ノ門詩奈とワルシードラモンが現れた。 「ゲッ!アンタは祭後終!!」 「俺のワル・ダークストロームを勝手に合体攻撃にするたぁ〜お前も中々の”ワル”じゃねぇの?」 シュウは渦に合わせてリトルスノーを吐く事でギズモンにダメージが通る速度・大きさ・角度へ調整したと自慢気に語りだす。 「ん〜?ねーちゃんオッスだけどはじめましてだな?」 ユキアグモンの一言にもしかして俺も有名人か?と笑っていると大きな揺れが起きてシュウ達は態勢を崩す。 「巫女の力は誰にも渡さない…誰にも邪魔させない…」 マッドレオモンが凄まじい破壊衝動と共に振り下ろしたチェーンソーはグレイモンXWとギガドラモンを捉え、二匹を地面に叩き付けていた。 どうやら先程の揺れは二匹が起こしたものらしい。 追撃に出たドクモンへユキアグモンが飛びかかるとするどいツメで反撃に出る。 「ま、待ってください!こっちは数でもグレードでも完全に有利になりました!」 地面に両手をついたまま守は李華に向かい停戦を叫ぶ。 ユキアグモンの一撃を耐えたドクモンは注射器の連続突きをユキアグモンに放つが隻腕の状態では手数が足りず回避されてしまう。 起き上がったギガドラモンはマッドレオモンのチェーンソーを受け止めるとグレイモンXWとワルシードラモンが次々に周囲のギズモン達を打ち落として行く。 「さっきデジモンイレイザー…貴女のボスが言っていましたよ!巫女の噂は自分が流したウソだって!」 守の言葉にシュウと李華は表情を変えた。 この戦いに意味なんて…そう続け様とした声は狂ったような笑い声にかき消された。 「あーーーっはっはっは!ウソでもなんでも縋ってやるわよ!イレイザーといれば願いは叶う…だから私のために死んでしまえぇぇッ!」 李華がデジヴァイスを強く握るとマッドレオモンがそれに答えるように腕を振り上げる。 それはギガドラモンでも、グレイモンXWでもなくドクモンを掴み上げる。 なぜ…と苦しむドクモンの注射器を自らに突き刺したマッドレオモンはその傷をみるみると埋めていく。 しかしその回復には激痛が伴うようで、マッドレオモンは大地を揺るがすほどの絶叫を挙げると周囲にいるもの全てがその声に思わず動きを止めていた。 ドクモンを完全に握り潰してデリートしたマッドレオモンは全身の筋肉を膨張させると森の木々をすり抜けながらワルシードラモンに拳を叩きつける。 めり込んだ拳は黒く光ると獅子型のエネルギー波が現れ、そのままワルシードラモンを大きく吹き飛ばした。 「【獣王堕拳】…マッドレオモンの必殺技だがこの威力はどうなっている!?」 シュウはデジヴァイス01の戦闘履歴からその技の尋常ではないパワーアップを目の当たりにして驚愕の声を上げた。 ギガドラモンはマッドレオモンに対して一撃離脱のヒットアンドアウェイ戦法で膠着状態に持ち込む。 巨大なチェーンソーで薙ぎ払おうとするマッドレオモンに対し、ギガドラモンは翼を翻しソレを易々回避する。 「あの子が時間を稼いでくれている!何か攻略法を見つけるんだ!」 シュウはユキアグモン達にそう叫ぶが、素早い攻防に中々割り込むチャンスは生まれない。 イラつきを隠さないマッドレオモンは腕のチェーンソーを振り抜くと周囲の木々を空中へ打ち上げてから高速で切り裂きまくった。 「なんだ…いや、まずい!」 防御だ!というシュウの叫びとほぼ同時に鋭利なトゲとなった木の破片が雨のように降り注いでデジモン達を襲う。 ギガドラモンは腕部から放つ機関砲、グレイモンXWはメガフレイムを地面に放って拡散させ、ユキアグモンとワルシードラモンは同時に大気を凍結させた薄い膜で飛来するトゲを防御する。 その時、ギガドラモンの巨体が弾き飛ばされるとそのまま地面を滑った。 マッドレオモンの狙いは全方位攻撃でギガドラモンの動きを止める事だった。 唸り声と共にテイマー達を飛び越えたマッドレオモンはチェーンソーの腹をギガドラモンの顔面に叩きつける。 凄まじい衝撃が何度もギガドラモンを襲い、その度にマッドレオモンから溢れだした電撃の強さも増して行く。 その電撃が全身を包むと白い光となり爆裂。 情けない声と共に吹き飛ばされた守が視線を上げた先にあったものは白色の巨体であった。 【スカルマンモンX抗体:究極体】 それぞれの持つデジヴァイスが無機質な電子音を響かせる。 シュウの唖然とする声に「ここはまかせて」と優しい声で幸奈は囁いた。 「待て、君みたいな子を」 「べたたんは強いよ」 スカルマンモンXの振り下ろす腕をなんとか受け止めたギガドラモンは口から熱線・ギガヒートを放って反撃する。 「…それにね、シュウくんさっきデジモンイレイザーって言葉を聞いた時に顔が変だったんよ?たぶん、ここで足踏みしてられないんじゃない?」 そう話す少女から先程までの柔らかく優しい声の中に強さを感じたシュウは思わず言葉に詰まってしまう。 「私は厳城幸奈。にへ」 「…俺は祭後終─ありがとう」 「それでいいんだよ。必ず捕まえなね」 シュウは幸奈に頭を撫でられると自分は年上の威厳とは無縁だなと苦笑いした。 ・04 幸奈&ギガドラモンのコンビと別れた三人とその相棒は道すがら出会うテイマー達に次々とデジモンイレイザーの向かった道を聞いては段々と森の中心部に近づいて行く。 背後では金色の光が木々の間から溢れ、まるで召還されたかのように地面から昇るゴッドドラモンの姿があったが歩みを進めることに必死なシュウ達がそれに気がつく事は無かった。 シュウの足元に紫と金の二色で濁るエネルギー状の針が突き刺さり地面を抉った。 オーーーッホッホッホ!という甲高い叫び声が森に響くと後方宙返りと共に紫色の体色を持つデジモンが現れる。 「ごきげんよう祭後終。もう少し前にいてくれたらとても嬉しかったわ」 【セルケトモン:ハイブリッド体】 「ごめんよ。俺アンタの事は全く知らねぇんだ」 「んっふっふっ…はじめしてだもの」 セルケトモンはそう叫ぶと木を蹴ってユキアグモンに飛びかかるが、ワルシードラモンの尻尾が鋭く振るわれて地面に叩き付けられる。 「行きなさい二人とも。私ちょっと用事ができました」 「邪魔しないでちょうだい!コイツを生け捕りにすればオアシス団における私の地位は約束されたようなモノよ!」 セルケトモンが口に溜まった血を吐き捨てると再びエネルギー状の針を素早くかつ連続で撃ち出す。 ワルシードラモンは電気を纏わせた角を地面に打ち付けて針を打ち消しつつ足場を崩すが、セルケトモンは頭の触手を木に絡ませると崩落から逃れる。 突如グレイモンXWが唸りを上げてメガフレイムを放つとそこには紫色のメタルティラノモンが立っていた。 「ヌ…成熟期の癖に中々やるではないか。俺様はメタルエンパイア所属・メタルティラノモン!お相手をしよう!」 メタルティラノモンがメガフレイムを砕くと同時に背後から大量のブレイドクワガーモンが飛び出してセルケトモンごと包囲旋回を開始した。 守はグレイモンXWと頷き合うと詩奈に顔を向ける。 「お、俺もグレイモンと残ります…あ、えと…」 「ふふっ、虎ノ門詩奈です」 「祭後さん、俺と虎ノ門さんでブレイドクワガーモンをなんとかします!進化は温存して先に!」 守は震えながら叫ぶとグレイモンXWに顔を向けてなんとか笑って見せた。 シュウはそんな守に「任せた!」と力強く叫ぶとユキアグモンに声をかけて走り出した。 『試合で何かあったら俺がなんとかするからさ、俺の変わりに宿題やってくれよな〜!』 『なんとかってなんだよ。ははは』 シュウは笑顔でランドセルを放り投げてゲームの電源を入れる友人…だった者とそんな事を話していた。 逃げたい、逃げるわけにはいかない、そんなことはできない。 ワニャモン達は悲しんでいた。 ケンタルモンからは力を貸してくれと言われた。 幸奈とは約束をした。 詩奈は先に進めと言った。 守は震えながらも決心した。 それに、ユキアグモンは俺を信じている。 でもそれが全て辛かった。 俺はそんな立派な人間じゃないのに。 コイツにはもっと良い相棒がいるはずなのに。 僅かな吐き気に意識を囚われたその時、大きな爆発音と共にブレイドクワガーモンの群れは動きを止めていた。 「シュウ!いそげ!」 ユキアグモンの声で現実に引き戻されると一気に開いた隙間へ駆け込んだ。 ・05 森の最深部ではアトラーカブテリモンの元に一つの人影が近づいていた。 「ムシクサキのデジメモリを貰いに来てあげたよ」 「ならぬ…貴様からは邪悪な思考のロードが見えている」 この角の先端にμ端子を備える変異種アトラーカブテリモンこそ森の主にして守護者である。 彼の言葉と同時に、周囲を囲む森のデジモン達が傷ついたデジモンや少女達を守ろうと唸り声を強めていく。 影の正体であるデジモンイレイザーは肩を竦めると「戦闘データの収集としてはそちらの方がありがたいよ」とニヤついた笑みを浮かべる。 その横をアシュラモンとキャノンビーモンを中心としたデジモンイレイザー配下のデジモンたちが飛び出す。 「デジメモリをつまらぬ力を振るうためだけの存在と勘違いする愚か者め」 ギズモンの光線を回避してアシュラモンに組み付いたアトラーカブテリモンは強力なバックドロップボムをブチかます。 凄まじい衝撃が辺りを揺らすと同時に組み付きを解いたアトラーカブテリモンは角を腹に振り下ろして追撃に急ぐ。 やがてアトラーカブテリモンの角からは電光が溢れ、そのままアシュラモンを貫いた。 「アトラーカブテリモン完全体、ワクチン種、昆虫型、体重25G、必殺技はハイメガブラスター…それ以上でも、以下でもない」 そのままキャノンビーモンと無数のギズモン相手に大立回りを繰り広げるアトラーカブテリモンの勇姿に森の住民達が歓声を上げ、デジモンイレイザーが冷ややかな視線を送る。 その時、背後の湖から幾つものオタマジャクシのようにも見える水滴が一つの塊となって巨大なレアレアモンが姿を現した。 レアレアモンの発射した腕の口から濁った水流はアトラーカブテリモンの不意を撃つ形となった。 アトラーカブテリモンは振り返りながら光を放つが、発射が遅れた電撃は水流に押し返されてしまう。 レアレアモンはアトラーカブテリモンが怯んだ隙にその体に取り憑くと、アトラーカブテリモンを湖へ引き摺り込もうとする。 水流には毒が入っており、動きを鈍くしたアトラーカブテリモンは徐々に水際へ迫ってゆく。 頼れる主のピンチに夕立と呼ばれた少女は飛び出そうとするがテントモンや友人であろう少女達に押さえられる。 それでも前にでようとした時だった。 「大丈夫だ」 「ユキアグモン進化ァーーーッ!」 高速で飛び出す青い光がレアレアモンに力強く衝突すると光は炎となりながら剥がれ落ちて行く。 「ストライクッドラモンッ!!」 まるで卵から孵るように姿を現したのはユキアグモンの進化形態・ストライクドラモンだ。 ストライクドラモンは力を込めて腕を蹴り弾くとレアレアモンの大量の瞳がストライクドラモンの方を向いた。 振るわれる巨腕を回避してはちょこまかと蹴りを差し込んでいくとすっかりストライクドラモンに釘付けになっていた。 ついにレアレアモンの拳から放つ風圧がストライクドラモンを捉えた時、吹き飛ばされるストライクドラモンはニヤリと笑みを浮かべた。 「ライトニング…ウェーブ!!」 アトラーカブテリモンの全身から電撃の弾丸が放出されレアレアモンを引き剥がした。 「ここで俺が出てくるのも計算通りか?」 シュウは森の住民達が体を潜める巨木のウロから身を乗り出すとデジモンイレイザーとの間に立ち塞がり、自身を盾にするように姿を晒した。 「さぁね…だけどキミのその小細工程度で勝ち筋が見える相手では無いぞ」 レアレアモンはズルズルと音をたてながら首を吹き飛ばされたアシュラモンに纏わりつくとその姿形をトレースした。 「お前…まさかコレが目的で!」 「アシュラモンには感謝しててほしいよね!リサイクルへのご協力誠にありがとうございますってさ!いや、もう言えなかったかぁ…ハッハハハ!」 吐血するアトラーカブテリモンに向かい融合レアレアモンがゆっくりと歩みを進めた時、森の成長期デジモン達が現れて主を守るように融合レアレアモンを取り囲んだ。 しかし融合レアレアモンはアシュラモンのパワーを手に入れており、素早い拳の連打で彼等は次々とデリートされてしまう。 「ふふ…いいぞ。仮にアシュラレアモンとでも呼ぼうか」 「くそっ、胸糞悪いコトしやがって…!」 「その怒りのデータも取らせて貰うよ」 ストライクドラモンが怒りを露にすると突進して拳を振り上げるが、アシュラレアモンは腹筋に力を込めてそれを受け止める。 アシュラレアモンは涎を撒き散らしながら雄たけびを上げると両腕で叩き潰すようにストライクドラモンを捉える。 ダメージに苦しい顔をしたストライクドラモンは絶叫と共に体から青い光を放つと二つの拳を押し返した。 「ストライクファング発動により上昇する筋肉量等のステータスを利用したか…怒りの感情も合わさり攻撃のステータスは2倍に匹敵する…これは実質的なオーバーライトか…なるほど並以下の完全体では手が出せないワケだ…」 デジモンイレイザーがブツブツと早口でモバイルPCの画面を見つめている時、ストライクドラモンはそのままギズモンを踏み台に跳躍するとアシュラレアモンの顎に向かって膝を突き刺した。 仰け反ったアシュラレアモンの側頭部に間髪入れず回し蹴りを喰らわせるとその巨躯は一歩、二歩と後退りした。 「オレの怒りをスキャンできるモンならしてみやがれぇーッ!」 ストライクドラモンは着地して炎を消すと歯を剥き出しにデジモンイレイザーを睨んだ。 「やりましたな夕立はん!わてら勝てまっせ!」 相棒であるテントモンの声に期待を輝かせてシュウを見上げた夕立だったが、シュウの表情は想像と真逆の苦虫を噛み潰したようなモノで、その様子に釣られた夕立も不安そうな顔になる。 「ストライクファングを使うのが早すぎる…あれは奥の手だ…!」 「それって…もうアイツは助からないって事なのかい!?」 ストライクドラモンは再度アシュラレアモンに向き直ると拳を構える。 平常時から筋肉量とスピードを同時に跳ね上げるソレは本来必殺技という僅かな時間故に許されている行為である。 このままエネルギーを湯水のように消費するこの行為を続けるならばそれは寿命…デジコアすら削りきってしまうこともあると予測できた。 「ま、ソレをどうにかするのが俺の仕事って事さ」 シュウは苦笑いを浮かべながら額を親指で叩くと目の前で激闘を続けるストライクドラモンとアトラーカブテリモンを見守った。 アシュラレアモンの単調な攻撃は見切りやすいものであり、シュウのアップリンク無しでも回避が容易なのが幸いではあった。 しかしその一方でストライクドラモンのダメージが入っているようには思えない。 「ね、ねぇ…逆にアトラーカブテリモン様の攻撃は効きすぎてない?」 シュウの背後にいた麦わら帽子の少女がそう告げた。 背丈からして年齢は妹のミヨと同じくらいだろうか…シュウは思わず彼女を見つめてしまった。 少女は目を逸してはもう一度だけ「ごめんなさい…」と口にした。 アシュラレアモンの見せた隙に振るわれたアトラーカブテリモンの電撃は間違いなくヘドロの体を裂いていた。 「いや…ヤツは高熱に弱いんだ。アトラーカブテリモンの高電圧は当然にストライクドラモンが腕を押し返した時も全身が炎に包まれていた…再生能力を制御するデジコアとは違った部分があるとするならチャンスは少ないが…」 シュウは右手のデジヴァイス01を触りながら早口で推論を口にしていき、仮説を立てると不適に笑った。 少女に感謝を伝えようとした時、少女の胸を深紅の光が貫いていた。 「えっ、あっ?」 少女は胸の痛みよりも信じられないという顔で自分の胸元を見つめていた。 「つまらない事はやめてくれよ。これはボクと祭後終の一騎討ちなんだ」 溜め息混じりにデジモンイレイザーが腕を下ろすと少女の体が地面に音を立てて落ちる。 パートナーであろうジャガモンが駆け寄ると寄り添い、大声で泣いている。 遅れて駆け寄った夕立ともう一人の少女は呼ぶ悲痛な金切り声を上げる。 「めざめちゃん…どうしてぇ…!!」 凶器の正体はデジヴァイス01から放った光であり、デジモンイレイザーは簡単に少女を手をかけた。 シュウは怒りを堪えて冷静に状況を把握しようとする。 「お前…今何をした?」 「ギズモンの機能を流用した機能さ。彼はいいモノを作ってくれたね」 「そんな話をしてるんじゃない!」 「怒るなよ…うるさい観客を黙らせただけだろ?」 デジモンイレイザーは人差し指を立てて唇に触れさせるとシーっと空気を吐く。 アトラーカブテリモンは怒りの声と共にアシュラレアモンに電撃を放って動きを止めると力強く蹴り飛ばす。 「それより君はそのメザメチャンの方を全く向かないね。ボクを逃がさないつもりか…はたまた本当は善人ぶってるだけかな?」 「人間よ、ストライクドラモンに指示を出すのだ!」 「シュウ!何か作戦は…ぐあっ!」 シュウが言い返すよりも早くキャノンビーモンのミサイルがストライクドラモンに衝突する。 燃える森の中で地面に崩れ落ちたストライクドラモンは捨て駒として切り捨てられた過去を思い出していた。 彼の中でデリートされてゆくデジモン達は自分…麦わら帽子の少女はシュウに置き換わっており、思わず強く握り締めた拳から血が流れる。   「オレに…オレにもっと力さえあれば…!」  その願いに答えるかのように傷から噴出した青い焔は紫に染まるとストライクドラモンの体を包み、凄まじく膨張すると10m程はある黒く淀んだ卵となった。 卵にヒビが入ると赤子の悲鳴ともとれる甲高い絶叫と共に紫色の機竜が姿を現した。 【メタルグレイモンVi:完全体】 ・06 進化を認識したデジヴァイス達から軽い電子音が鳴り、かなりのテイマーがこの森にいた事にシュウたちは驚く。 回りのどよめきを意に介せずメタルグレイモンViは巨大な翼を広げてアシュラレアモンへ飛翔した。 アシュラレアモンは涎を泡立たせながら構えを取るが、メタルグレイモンViは鉄爪の腹を振り抜いて胴体を消し飛ばしてしまった。 シュウ達の前に木々を薙ぎ倒しながらアシュラモンの首無し死体が墜落し、土煙が巻き上がる。 アシュラレアモンは残った破片から再び自身を形成してレアレアモンに戻ると多数の口をメタルグレイモンViに向けて一気に毒ガスを噴射した。 メタルグレイモンViは翼を大きく羽ばたかせると毒ガスを吹き飛ばし、アシュラレアモンの胴に鉄爪を突き刺した。 「─やめろ!メタルグレイモン!」 初めて味わったであろう凄まじい激痛に全ての目を滅茶苦茶な方向にぐるんぐるんと回転させながら絶叫するレアレアモン。 メタルグレイモンViはシュウの声を無視して胴を引き裂きこじ開けると大きく息を吸い、灼熱の炎・オーヴァフレイムをその傷口から体内に直接放射した。 全身の口や目から炎が逆流しながらもレアレアモンは大きく体を揺らして必死に抵抗するが、オーヴァフレイムの勢いを更に強化したメタルグレイモンViはそのままレアレアモンを体内から蹂躙した。 ドン!という爆発音の後にべちゃべちゃとレアレアモンの破片が降り注ぐ。 ついに強敵であるレアレアモンの撃破に成功したが当のデジモンイレイザーは夢中でモバイルPCを見つめていた。 なんで余裕そうなんだ…夕立がそう当惑していると「祭後終、キミはわかっているんだろう?」と張り付いたような笑顔を見せた。 シュウは汗を垂らしながら目を左に右にと何度も逸らす。 その時、再び甲高い絶叫が辺りに轟くとメタルグレイモンViの胸のハッチが開き核弾頭に匹敵する必殺の生体ミサイル・ギガデストロイヤーが顔を覗かせた。 それは躊躇いなく森の外れにあるピラミッドへ発射され、終結したであろう戦いに僅な安堵を感じていた夕立の顔を再び歪ませた。 その場にいた全員の視界が真っ白に感光すると大きな爆風はその余波で爪楊枝のように木々を薙ぎ倒し、砂ぼこりのように幼年期デジモンや小さなテイマーを巻き上げた。 視界が元に戻る頃には森のシンボルであるピラミッドが消し飛び、大きなクレーターだけがそこにあった。 濁った深紅の瞳を持つ紫竜は爆音を轟かせると次の標的を森の主・アトラーカブテリモンと見定めていた。 弱るアトラーカブテリモンをやらせまいと森の住人達はデジモンイレイザーの配下だけでなくメタルグレイモンViへ攻撃を仕掛け、ギズモン達もそれを好機と同調する。 多くの戦闘履歴・作戦データをロードしたメタルグレイモンViは近場のギズモンに食らいつくと噛み砕いてプッと足元に迫るザッソーモン達へ命中させる。  二匹のドクグモンが連携してメタルグレイモンViを糸で拘束するとその隙にタンクモンが砲撃を開始する。 メタルグレイモンViは自身を拘束する糸ごと引っ張ると、飛来する砲弾に対してドクグモンをぶつけて攻撃を防いだ。 爆煙から飛び出して迫るグルルモンには鉄爪射出機能・トライデントアームで喉を貫いてからハンマーの要領で先程のタンクモンに叩きつけた。 その反動を利用して飛び上がったメタルグレイモンViはキャノンビーモンに頭上から飛び蹴りを放つ。 そのまま湖へ着水するともがくキャノンビーモンの頭を足で押さえつけ、動かなくなるまでそれを続けた。 「全部俺のせいだ…」 「いやいや…素晴らしい暗黒進化だよ。これなら世界を滅ぼせてしまうんじゃないか?」 シュウはデジモンイレイザーに何かを言い返す気力もなかった。 できもしない、なれもしない者が英雄を気取るとこうなる…今までと同じように逃げ続けていればよかったのだともう一人の自分が自分の心を刺す。 悲痛な叫び、飛び散るデータ、破裂する地面、枯れてゆく泉、青く燃える森、消える命…ただ事ではないと気づいた何人ものテイマーがバートナーを進化させる。 シュウが呆然と立ち尽くす中、蒼い稲妻が空を覆い始めていた。 「暴走したか…!」 メタルグレイモンViはアトラーカブテリモンの突撃を正面から受け止めると胸のハッチを開いてジガストームを零距離から浴びせる。 燃えるアトラーカブテリモンが火を消そうとしている隙をついて、メタルグレイモンViは鳩尾にメガトンパンチを打ち込み怯ませると鉄爪から繰り出すメタルスラッシュで角を切断してしまう。 切断された角がズンッと音を立てて地面に突き刺さるとメタルグレイモンViはアトラーカブテリモンにトドメを刺そうと大きく息を吸った。 瞬間、砂の弾丸がメタルグレイモンViの前進を妨げた。 不快そうに顔をしかめると周囲をうるさく飛び回るギズモンを握り潰してから投擲。 投げつけられたギズモンは遠方のバルチャモンの足元に命中すると爆発した。 土煙から飛び出したバルチャモンはテイマーと思わしき男性を連れて素早く飛び去って行く。 空が唸る音と同時に、メタルグレイモンViはトライデントアームを発射すると先程切断したアトラーカブテリモンの角に突き刺す。 その瞬間に凄まじい雷がメタルグレイモンViを貫く…しかし、アトラーカブテリモンの角は電気をよく通す性質を持っているため、それを即席アースにしたメタルグレイモンViは直撃を受け流していた。 だがその凄まじい電撃を完全には受け流すことができず、メタルグレイモンViは苦痛の声を上げながら体勢を崩してしまう。 一方、デジモンイレイザーは本能のみで行われるている筈の戦闘スタイルにその過去の経験が反映されていることへ深い感心を寄せていた。 デジヴァイス01の警告音が鳴るとシュウはすかさず画面を確認するが、その内容に言葉を失った。 【チンロンモン:究極体】 場を支配する蒼い稲妻の正体─ソレはデジタルワールドを守る必殺の電脳守護存在・チンロンモンであった。 四聖獣として神格化され、簡単に姿を現すものではないとされているデジモンがメタルグレイモンViを睨みつけている。 メタルグレイモンViはキャノンビーモンを水底から引き上げ、その武器コンテナを引き千切るとその残骸をチンロンモンに投げつけた。 チンロンモンは自動操作とも取れる程に隙の無い正確な電撃を放ち、他のデジモンイレイザー配下ごと撃退した。 メタルグレイモンViは武器コンテナにケーブルを突き刺してハッキングを行うとミサイルを一斉に放出。 多くのミサイルは先程と同様に撃ち落とされたが、一部は逃れるとチンロンモンを怯ませる程の大爆発を起こした。 この大爆発はギガデストロイヤーによるもので、本命の一発を命中させるための計画的な攻撃だった。 爆発の影響で地上に飛散した木や機械の破片がシュウたちに迫る中、突如現れた薄い光のバリアがそれらを防ぐ。 「この素晴らしい状況を見届けないままキミに死なれたら困るからね」 デジモンイレイザーがバリアを展開して周囲の人間を保護していた。 爆風を潜り抜けて現れたメタルグレイモンViはチンロンモンの喉に食らい付き、歯の隙間から火が噴き出しだす。 再びオーヴァフレイム発射の準備が始まるが、チンロンモンは体をよじってメタルグレイモンViを振り払う。 地面スレスレで飛行してなんとか地面に叩き付けられる事は回避するが、メタルグレイモンViが起こした大きな土煙の影から現れたスピノモンの鋭いキバがメタルグレイモンViの右腕に食い込む。 スピノモンはそのまま腕を噛み千切ろうと何度も頭を振るってはメタルグレイモンViを地面に叩きつけまくる。 「メタルグレイモン…モードチェンジ…!」 メタルグレイモンViから地獄の怨念のような声が発せられると右腕が発光、鋼鉄銃剣・アルタラウスに変換された。 咄嗟の反応で飛び退いたスピノモンは、口内が僅かに切られただけで済んだものの直後にアルタラウスから放たれた光でダメージを受けた。 空中回転で姿勢制御を行い着地したメタルグレイモンViはその銃口をアトラーカブテリモン向けて輝かせた。 だが、それは空中から飛来したエンシェントグレイモンがメタルグレイモンViを地面に叩きつけた事で中断された。 強く押し付けられたエンシェントグレイモンの爪はメタルグレイモンViの両腕を切断し、さらに身体を貫いて地面に固定した。 完全に動きを奪われ、追い詰められたメタルグレイモンViは錯乱した状態のまま叫ぶ。 「やめろっ!やめろおお!!みんなを殺すなああ!!!」 メタルグレイモンViの叫びをかき消すようにエンシェントグレイモンは更に大きな雄叫びを上げる。 「アイツの所に行かないと」 どうして、どうしてと泣き出す相棒を前に鎮静用のデータが入った回復フロッピーを強く握るとシュウは駆け出す。 夕立のシュウを静止する声は彼の右手に装着されたデジヴァイス01から放たれた警告音を掻き消してしまう。 警告音と共に画面へ表示されていた文字─【リベンジフレイム】。 それは戦闘で受けた苦痛・恐怖を倍化して周囲へ爆風として放出する技であり、敵が格上であるほどに威力を持つ奥の手である。 シュウがメタルグレイモンViに触れたと同時に空まで届くかのような爆光が走った。 ・07 メタルグレイモンViの放った紫焔の爆光・リベンジフレイムは格上である三大究極体デジモンをも吹き飛ばす勢いで広がり、ゆっくりと全ての破壊を始めていた。 「あっはっはっは!まるでアポカリプスだ!」 この異常事態としか言えないこの状況をデジモンイレイザーは心底嬉しそうに楽しんでいた。 そこへゴッドドラモンが現れ、両腕に聖なる光を纏わせてリベンジフレイムへ叩き込むとその炎を押さえつけようと試みはじめた。 エンシェントグレイモンとスピノモンも体制を建て直すとゴッドドラモンへ加勢する。 チンロンモンは先程、メタルグレイモンViが自身の電撃を防ぐ手段として使用したアトラーカブテリモンの角にムシクサキのデジメモリが存在している事に気付く。 チンロンモンは自らの体内に同化していた相棒へ意識を送ると目付きの悪い少年は力強く頷いた。 相棒の同意を得たチンロンモンは自らのデジコアから強大な進化の力を電撃として放った。 再度強力な電撃を当てられた事で活性化したムシクサキのデジメモリから凄まじい光が放たれると、今にも息を引き取りそうなめざめと俯くジャガモンを巻き込んだ。 ほろろろ…ほろろろ…。 鳥が行う独特な喉を鳴らす音が周囲に轟いた。 それはめざめとジャガモンとムシクサキのデジメモリがチンロンモンの力で融合進化を遂げたケレスモンの発したものだった。 チンロンモンと共にケレスモンはすぐさま究極体デジモンに加勢するとリベンジフレイムを押さえ、その爆発を完全に無効化した。 ケレスモンは自身の先端にあるヒトガタ存在によって撫でられると快感を感じて喉を鳴らし、再び空気を揺らした。 角の先にあるμ端子が光ると世界の記憶が木の実の形で取り出され、それは森に向けて落とされた。 砕けた木の実からは強い果汁の匂いと共に金と緑の光の粒が地面から大量に浮き上がり、失われた様々なものがロードさせてゆく。 戦いを終えたデジモン達も進化を解き、パートナーと共にこの奇跡に魅入られていた。 「真宵ちゃん…きれいだね」 「うん、めざめちゃん…すごい…」 「お待たせ致しました。我が主よ」 その背後で音も無く赤黒の天使・ブラックセラフィモンがデジモンイレイザーの横に現れていた。 あちらが件のモノですか…と呟くと念力のような力でアトラーカブテリモンの角を地面から引き抜いてデジモンイレイザーの元へ引き寄せた。 デジモンイレイザーはそれをデジヴァイス01でスキャンすると右手首のアクセサリーを弄りながら「やはりね…」と呟き、騒動の元凶にありながら誰にも気付かれぬまま姿を消した。 ・08 イレイザータワーのどこかにある真っ暗な空間でいくつものPCを見つめ、大量の文字列を確認したデジモンイレイザーは満足気な顔をしていた。 「ケレスモンのデジメモリはコピー体だ。四聖獣の力か、奇跡の力か、はたまた愛かな…ふふ」 「我が主、こちらが次の計画に使用される道具でございます。無事歪曲紋章への適合も成功しました」 影と同化したかのようなブラックセラフィモンの横にコツコツと音を立てて何者かが現れる。 それはシュウとユキアグモンがサウンドバードモンと戦う所を覗いていた細身の青年だった。 「コレは大場悼(オオバ イタム)といい、森で祭後終を試験的に襲わせています」 「へっ。アレなら俺の勝ちは定められたようなモンだぜ」 イタムと呼ばれた青年は肩を震わせながらククッ…と笑いを堪えるている。 そんな彼の元へどこからか何匹かのサウンドバードモンが飛来して一つに集まると、発光して共にネオデビモンへと超進化した。 青年の大きな態度をデジモンイレイザーは鼻で笑った。 「なるほど、スポンサー様は中々やる」 「我々にスポンサーなど必要ですかな…いえ、失礼」 「いいんだよ。ボクは優しいからね」 デジモンイレイザーはモニターから目を離さずに会話を続ける。 それは優しさというよりもただの無関心といった様子だった。 「ならば失礼ついでにもう一点。コピーとはいえデジメモリを放置してきて宜しかったのですか?」 「それも好きにさせてやるさ。ボク以外にもアレを集めたがっているのはいるみたいだからね」 「流石はお優しい我が主」 ブラックセラフィモンは恭しく頭を下げた。 ・09 シュウは叫びながらベッドから起き上がった。 凄まじい寝汗と強い動悸に心臓が張り裂けそうだった。 ユキアグモンの姿はなく、放り投げられた布団があるだけだった。 「うお〜。やっと起きたんねー」 明るい声は部屋の入り口からだった。 声の方を見ると頭にベタモンを乗せた小柄な少女、幸奈が立っていた。 「…すまない」 「開けるんね」 幸奈がカーテンを開くと窓の外には朝日に照らされた美しい木々が並んでおり、ベッドの横の椅子に腰掛けるとベタモンの頭をなでた。 「ここはケンタルモンや森のみんなが建てた野外病院なんだよ」 「君にはなんて言っていいか…」 「私はケガも無かったからみんなの看病をお手伝いしてるんよ」 「そうか…必要ない仕事を増やして悪い…」 「ううん。森はね、元通りになったんよ」 「本当に迷惑をかけた。起きたら地獄だったならどれくらい気が楽だったか」 まぁ、君みたいな子が地獄にいるなんてありえないよな…自嘲気味な笑みを浮かべるシュウに幸奈はむっとした表情を見せるとベタモンを机に置くとシュウに近づいた。 「くぉーら!さっきから謝りっぱなしなんだね!」 幸奈はシュウの頬を思い切りつねると真っ直ぐ睨み付けた。 「あの子達言ってたんね。シュウくんが頑張って助けようとしてくれたって!責任感じてたって!」 「頑張った…?結果が伴わない頑張りには意味も、価値も、その過程も存在しないさ」 幸奈が平手打ちをしようと右手を振り上げるが、その手は軽くシュウに掴まれた。 「ごめん。俺、嫌な大人だからこういう時殴られに行く度胸はないんだ」 「だーめーなーのーねー!」 幸奈が何度も平手を振り下ろすがシュウは軽く受け止めてしまう。 「もう、このっ」 幸奈はなんとかシュウの手を振り払い、後ろの椅子に倒れるように座り込んだ。 ズッと床を擦る音が鳴り、パートナーのベタモンは心配して幸奈の名前を呼んだ。 「ゆきな…」 「私は…私は知ってるから。シュウくんが認めなくても、その過程も、頑張りも」 シュウは目を逸らしてベッドから降りるとユキアグモンの分もあわせて布団を畳みはじめる。 「こういう時はありがとう、がんばったな…なんね」 項垂れたままの幸奈からその言葉を受けたシュウは何かを話そうとするものの、震えて上手く声が出せなかった。 そのまま急いでマントを羽織り病室から出る時「ケジメをつけにいく」という一言だけは言い淀む事無く外に吐き出すことができた。 残された幸奈にはなんだかシュウが死ぬために動き出したかのように感じられ、怖くなりベタモンの手を強く握った。 「知っているから…」 シュウが病院を歩いていると、窓越しにグレイモンXWと守が会話していた。 「やー、守くん。迷惑かけたな」 シュウは後ろから割り込むようにして笑顔で二人に話しかけると守は引っくり返ったような声をあげて驚いた。 「…え゙え゙っ!?祭後さんもう歩けるんですか!?」 「オバケじゃないぜ。ま、それはこれからかな」 それよりユキアグモンが何をしてるか知らないか?と尋ねるとグレイモンXWは森の方をチラリと見た。 「ありがとね。色々ありそうだけど頑張れよ」 シュウは手をひらひらさせながらその場を去り、残された守は「これから…?」と思わず口から疑問を漏らしていた。 「もう大丈夫なんです?」 病院を出たシュウは詩奈に見つかると彼女にシュウの頭からつま先までを凝視された。 「その…悪かったよ」 森の穏やかな風に撫でられながらシュウは詩奈に近づくと、その横には気まずそうにしている小柄な女性が目に入った。 「虎ノ門さん、この人は」 「同僚の南野清子さんです。色々とあって反省中です」 詩奈に頬をつつかれた清子は大変申し訳ございません…と片言気味に謝る。 「さっきからこうなんですよ」 詩奈は困ったモンですと冗談交じりに愚痴をこぼすが、シュウは「あっ、そうだ」と懐からクロスローダーを取り出して二人に投げつけた。 クロスローダーを慌ててキャッチした清子は疑問符を浮かべてシュウとクロスローダーを交互に見た。 「返しとくよ。同僚の人、ソレ無いと困るんじゃない?」 清子は自分を指差すがシュウは笑いながら違う違うと手を振り「オレンジタイツの人だよ」と告げる。 「返すつもり無かったんだけどさ、もう会わないと思うと可愛そうだなって。よろしくな」 二人は自分達がオアシス団だとバレていた事に慌てだす。 「兄ちゃんいつからわかってたんだ?黙ってるなんて中々”ワル”じゃねぇか」 「名前を呼ばれた時かな」 ワルシードラモンのかっかっかという明るい笑い声を思わず耳を塞いでいると足元に幼年期デジモン達が跳ねて来た。 「ワニャモン!ボタモン!」 シュウは足元でじゃれあう子達を優しい眼差しで見つめているとゆっくりとケンタルモンが目の前に歩いてきた。 「君が連れてきてくれた幼年期デジモンはみんな無事だったよ」 「俺が力不足なばかりに迷惑をかけて申し訳ない」 ケンタルモンはそんなシュウをジッと見つめ、口を開こうとした時「ンぜん゙ぜ〜〜い゙!」という絶叫に溜めた言葉は溜め息となって吐き出された。 「助手が呼んでいる。失礼するよ」 「あぁ。ユキアグモン、こっち来てただろ?」 彼なら森の入り口だろうなとケンタルモンが言うと、じゃあその前にある二番目に高い崖だなとシュウは微笑んだ。 「ほう。何故それがわかるんだ」 「アイツはそういうヤツさ。一番高い所は怖いけど、低いところもカッコ悪いと思ってるのさ」 「なるほど。君達は良いパートナーの様だ」 ケンタルモンはワニャモンとボタモンを背に乗せるとシュウの来た道へ歩き出し、シュウも森の出口へと歩き出した。 ・08 「よっ」 森を抜けた先にある崖で一人佇むユキアグモンはその言葉に振り返った。 「黄昏てるなんて似合わないぞ」 「オレ、もうみんなに会わせる顔がねぇよ」 「だから逃げたのか?」 シュウの言葉にユキアグモンはうっ…と顔を歪めて「シュウが死ぬかもしれないって思ったら黒いのが頭で広がって…体の制御ができなくなっちまったんだ…」と頭を振る。 「大丈夫だ。お前は悪くない」 「オレ、シュウに会えて良かったよ」 ユキアグモンは崖の先から見える海を見つめながら呟いた。 「俺もだ。だから─」 シュウがデジヴァイス01の留め具に手をかけた時、足元に大きな魔方陣が展開されると地面が競り上がった。 「これは…!」 やがて床が停止するとそこは大きな空中闘技場のような所であり、驚く二人を月明かりが照らしていた。 「待っていたぜ祭後終ゥ…やっぱり運命は俺様を見捨てなかったようだなァ」 ユキアグモンが鼻息を荒くして身構えると暗がりからイタムが現れ、満足げに笑みを浮かべていた。 彼が左手を掲げるとその手首に巻かれた黒いデジヴァイスが光り、サウンドバードモンがどこからか飛び出して来た。 「森のサウンドバードモンはヤツの仕業だったか…来るぞ!」 「ユキアグモン進化─!」 サウンドバードモン達が一つになるとネオデビモンに超進化し、同時に進化したストライクドラモンと激突した。 互いのパワーがぶつかると衝撃波が周囲に伝わり、二人のテイマーにもピリピリとした空気が伝わった。 暫く続いた二匹の力比べはストライクドラモンの頭突きで中断される。 怯んだネオデビモンに対してストライクドラモンは体を大きく捻ると力強く尻尾を叩き付けた。 ネオデビモンは無言で背中に打たれたストライクドラモンの尻尾を片手で掴むとゆらりと立ち上がり、大きく振り回してから地面に投げつけた。 ストライクドラモンはなすすべなく地面を転がると「うぐ…」と苦痛の声を漏らした。 「どんなゲームでも負け無しの俺様が唯一ガキの頃に負けたのがテメェだ!俺様は当然プロゲーマーになった…だが、テメェの名前もハンドルネームもそこには無かった!」 「誰だか知らないが面倒なヤツだ」 ネオデビモンとストライクドラモンの格闘戦を背景にして、シュウとイタムの二人が会話を交わしていた。 シュウがデジヴァイス01を操作しながらネオデビモンのステータスを確認している間、イタムはシュウの反応に不満を感じて声を更に大きくしていく。 「誰もテメェの事は知らなかった。だが、俺様だけはテメェに負けた事を忘れなかった!!」 「お前、身上話をしたくてここにいるのか?」 「なっ─?」 ストライクドラモンはブレイクダンスのような動きでネオデビモンに一撃を加え、そのままバック転で飛び退く。 しかし、ネオデビモンはストライクドラモンの着地と同時に腕を伸ばして掴むとそのまま電撃を発生させた。 ストライクドラモンは悲鳴をあげ、全身の皮膚から白い煙が昇る。 ネオデビモンは手を離すと膝をつくストライクドラモンの懐に潜り込んで強烈なアッパーを放つ。 空中に放り出されたストライクドラモンへ素早く接近したネオデビモンは空中でお手玉するように何度も体当たりを仕掛ける。 ストライクドラモンはなすがままに攻撃を受け続け、ついに沈黙してしまう。 「ここは月光のイレイザーベース!空中戦のできないテメェに勝ち目はねェ!」 悔しがるシュウを見てネオデビモンの勝利を確信したイタムはニヤつきながらデジヴァイス01を操作すると命令を下した。 「ようやくテメェを叩きのめせる…ネオデビモン!高空から踏み潰してデリートだッ!!」 放たれた赤外線を受信したネオデビモンはストライクドラモンの真上まで移動すると一気に急降下した。 イタムが高笑いと共に中指を突き出すと、シュウは咄嗟に目を叛ける。 だが次の瞬間に吹き飛んでいたのはネオデビモンの方であり、叛けたシュウの顔は笑いを堪えているだけであった。 ストライクドラモンはネオデビモンのストンプをギリギリまで引きつけると必殺のストライクファングによる高速移動で回避、即座に戻ることでネオデビモンに最高火力を叩き込んだ。 「…というワケだ。残念だったなオイ」 「流石だゼ!シュウ!」 ストライクドラモンが体を包む炎を解除するとシュウは顔を上げてふてぶてしいドヤ顔を放った。 「おいおいおい…お前もしかしてタグの管理デジモンを忘れてないか?」 イタムが下衆な笑いを浮かべた瞬間、ストライクドラモンから血が噴き出していた。 呻き声と共に地面へ転がり込むストライクドラモンを足蹴にしたのは月光のタグを持つ完全体デジモン・クレシェモンだった。 「ケケケーーッ!デジモンイレイザー様の命により貴様はここで消えてもらうさ!」 ストライクドラモンはくそっ!とクレシェモンの足を振り払って立ち上がるとパンチを放つが、ダメージを受けている身ではスピードが落ちており一撃も命中しない。 クレシェモンは傷口が広がり苦痛に顔を歪めるストライクドラモンをあざ笑うと周囲を高速で跳ね回りながら闇の弾丸を連続発射した。 ストライクドラモンが腕で頭を庇いながら反撃を試みるが、暗所でも目が効くクレシェモンは的確に防御の隙間に細い弾を命中させてじわじわとダメージを与えていく。 ネオデビモンも背後から腕を伸ばして追撃に走るが、ストライクドラモンはその反応速度を持ってサマーソルトを決行するとその攻撃はクレシェモンに命中してしまった。 「てめぇ!なにやってやがる!」 イタムの怒声に焦ったネオデビモンはストライクドラモンに詰め寄ると脇腹に強烈なブローを叩き込む。 ストライクドラモンが反撃に出ようとした時、クレシェモンの高笑いが戦場に響いた。 「ストライクドラモン、コイツを見るのさァ!」 クレシェモンはシュウを後ろ手に捻るとその武器を首に向かって突き付けていた。 ストライクドラモンは動きを止めざる終えなくなる。 「─っ!」 「動いたらどうなるか…わかるさねぇ?」 シュウを人質に取ったイタムはネオデビモンにストライクドラモンを嬲るように命令した。 ネオデビモンの拳がストライクドラモンの腹部を直撃し、続けて放たれた電撃エネルギーを纏った爪がストライクドラモンの体をズタズタにしていく。 苦痛の声と共に血を吐くストライクドラモンを見てイタムは下衆な高笑いを続ける。 「祭後終ゥ、テメェもクソみたいな作戦をアップリンクしてみろ…殺すぞ」 イタムはナイフを取り出し、シュウの太ももに突き刺すと絶叫と共に崩れ落ちる彼を見下ろしながら下品な高笑いを上げる。 ネオデビモンの痛ぶりにより全身血みどろとなったストライクドラモンはついに倒れてしまう。 「ストライクドラモン、俺の事はいい!」 シュウは俯いてストライクドラモンに戦うよう促すが、それは即座に拒絶される。 「嫌だ!そんなことできない…!」 「美しい友情だこった…朝飯が戻って来そうだぜ。テメェらがここで死ぬのは運命なんだよ!」 「元からこうするつもりだったんだ。お前は強くて、素直で…そんなお前に相応しいテイマーはどこかにいるハズだってな」 その言葉がありがたく、辛かった。 終わるためにここまで来た自分が、終わりたくなくなってきているような気がしていた。 だけど、それはストライクドラモンのためにはならない…あの頃の俺に今の俺は邪魔なんだ。 「オレはシュウといる…シュウといるからオレなんだ」 「そんなに一緒がいいならよォ…テメェだけ地獄に行きなァッ!」 クレシェモンはイタムからのアップリンクを受けると下品な笑い声を上げながらシュウをイレイザーベースの外へ投げ捨てた。 ストライクドラモンの怒りは瞬間的に燃え上がり、全力で床を蹴るとその加速はネオデビモンの反応速度を越える。 焦ったクレシェモンは前進を邪魔しようとするが、盾を構えるより早くストライクドラモン渾身の一撃が顔面に叩きつけられた。 「邪魔だーーーーッ!!」 吹き飛んだクレシェモンを無視してストライクドラモンは自らイレイザーベースの外、空中へ飛び出した。 ストライクドラモンはストライクファングで軌道を変更しながら落下していくシュウを追いかける。 「今ならお前一人で戻れる!まだ森には俺よりも強いテイマーがいるだろ!」 手首のデジヴァイスを外したシュウはそれをストライクドラモンに向かって突き出した。 「コレを託す。そいつとここに戻ってくるんだ…妹を、ミヨを頼んだぜ」 「シュウはオレのテイマーだ!絶対に死なせないッ!!」 シュウのデジヴァイス01とストライクドラモンが触れ合った時、彼らから強烈な光が発生した。 大きく広がる光は最終的に卵の形に収束すると上空へと飛び上がり、イタム達の目の前で破裂した。 その頃、なにかを感じて空を見つめていた森の人々やデジモン達は暗い空に巨大な光の蝶を見た。 ・09 【メタルグレイモンVi:完全体】 イタムのデジヴァイス01から電子音が鳴ると同時に光の卵の中からメタルグレイモンViとシュウが現れた。 悪魔の様な翼、深紅の髪、鋭い三対の角、機械化された半身…しかし、イタムとクレシェモンは彼等の姿に口を開いている。 「なんなのさ…っ!?」 それは間違いなくメタルグレイモンViでありながらその姿が従来のモノと違っていたからだった。 二人の持つデジヴァイス01に表示されたメタルグレイモンViの種族欄がサイボーグ型、古代竜型、サイボーグ型…と何度も変化を繰り返して不安定になっている。 「死ぬ事も許されないか…なら、もう少しだけつきあってやるよ」 シュウは額に親指を当て、そう呟くと苦笑いと共にゴーグルを装着した。 「シュウ、準備はいいか!」 「あぁブチかませ!根性でしがみついてやる! 」 メタルグレイモンViは一気に急降下すると空を風よりも早く走る。 激しくイラつくイタムはデジヴァイス01を破壊しかねない程に強く叩いててシュウとメタルグレイモンViの殺害を指示。 ネオデビモンは突進しながら必殺技・ギルティクロウを発動、同時にクレシェモンも闇の弾丸・ダークアーチェリーを発射して接近を援護した。 迫るメタルグレイモンViはダークアーチェリーを体当たりだけで打ち落とし、そのままネオデビモンのギルティクロウを鉄爪で受け止めると右手から放つメガトンパンチでネオデビモンの顔面を粉砕した。 ネオデビモンの落下に慌てるクレシェモンだが、その太股は既にトライデントアームが貫いていた。 ワイヤーを引き寄せて地面に墜落する勢いで着陸したメタルグレイモンViは既に胸のハッチに炎を溢れさせていた。 「い、いやっ…い゙やなのさ!」 暴れるクレシェモンを振り回して地面にめり込ませるとそのまま回避不能のジガストームを直撃させた。 「あ」という断末魔と共にクレシェモンは沈黙した。 「タグを置いて帰れよ」 メタルグレイモンViはトライデントアームを収納するとイタムを見下しながらそう告げる。 イタムがシュウに対して敵意を示しながら、右袖を引っ張り上げて黒いデジヴァイス01とタトゥーのようなものを見せる。 その瞬間、二つのデジヴァイス01が相互に反応するとイタムからは金色の禍々しいオーラが溢れだした。 「俺は優しいからもっと惨めな思いをする前に見逃してやるって言ってるんだけどな…」 「黙れ…俺様の勝利こそ運命(さだめ)だ!!」 イタムが拳と拳を打ちつけるとネオデビモンとクレシェモンは強制的に引き寄せられ、黒い卵のような繭へと変化した。 やがてバキバキと音を立てながら繭から姿を現したのは黒き鎧を纏ったデジモンだった。 【ネオヴァンデモン:究極体】 シュウのデジヴァイス01に文字が表示され、警戒の電子音が鳴る。 究極体の誕生に空間が歪みバチバチとした痺れが肌に伝わってくるが、シュウはこの状況でも相棒の勝利を確信してただ笑っていた。 シュウの懐に収まるあの石が再び温かく光るが、それよりも濃い闇の中にネオヴァンデモンは消える。 ネオヴァンデモンは不気味なほど静かにメタルグレイモンViの背後を取ると爪を振り下ろす。 メタルグレイモンViは機械化された足を真横に高速回転させるとその勢いを活かした振り向きざまの回し蹴りで爪をへし折った。 素早く着地した後、先程と同様に顔面へメガトンパンチをぶちこんだ。 ネオヴァンデモンは吹き飛びはしなかったものの、呻き声を上げながら大きく後ろへ突き飛ばされた。 「例外なんて…イレギュラーなんて認めない…俺様はどんなゲームでも常に勝ってきた…お前以外にはだ!」 「なんとなくわかったよ。お前、だからシュウに負けたんだゼ」 「黙れーーーーーーッ!!」 その絶叫に連動したかのようにネオヴァンデモンは暗闇のエネルギー波動・ギャディアックレイドを放つ。 メタルグレイモンViは即座に鉄爪を前方に構えて防御姿勢を取るとシュウと自分の頭部をガードした。 ギャディアックレイドが直撃し、その威力でメタルグレイモンViの体は後ろへ押し出されていく。 しかし、メタルグレイモンViが唸り声を上げながらじわじわと前進を開始する。 メタルグレイモンViは一歩、また一歩と踏み出す度にその歩幅を大きくしていき、やがてギャディアックレイドの根元までたどり着いた。 メタルグレイモンViはゼロ距離から吐き出したオーヴァフレイムで反撃してネオヴァンデモンを大きく吹き飛ばした。 空中で姿勢を立て直したネオヴァンデモンは両腕を伸ばして地面を掴むと自らを引き寄せて加速。 先程のお返しとばかりにメタルグレイモンViに向かって強力な蹴りを命中させ、体を大きく仰け反らせる。 シュウは振り落とされそうになりながらもなんとか堪えてメタルグレイモンViにしがみつく。 「そうだ!究極体が完全体程度に負けるハズがない!!」 イタムが絶叫すると彼の手にあるタトゥーが光り始め、その輝きはネオヴァンデモンを金色の光で包み込む。 ネオヴァンデモンは一瞬で全身のエネルギーが再チャージされ、その急激なエネルギー増幅に顔を歪めるがエネルギーはさらに増幅し続ける。 ついにネオヴァンデモンは苦しみながら強化ギャディアックレイドを放つも、メタルグレイモンViはそれに臆する事なくハッチを開いてそれを受け止める。 ハッチ内部に凄まじいエネルギーが満ち、それを増幅させていく。 「違う─グレードだけが強さの証明なんかじゃない!」 「リベンジフレェェイムッ!!」 メタルグレイモンViは飛び上がるとチャージしたエネルギーを紫色の爆風として前方に集中して放った。 その爆風はボゴっという音と共にネオヴァンデモンの体を容易く抹消するとそのまま闘技場を打ち砕いた。 「ありえない…!ありえないいいいッ!!?!」 シュウはネオヴァンデモンから放出されたタグをキャッチするとメタルグレイモンViと共に脱出するが、イタムはネオヴァンデモンの亡骸と闘技場の崩落に巻き込まれて落下していくのだった。 「やったなシュウ!」 「あぁ…今回は本当に世話になったな。相棒」 「オレさ〜、あの時アイツらともう少し戦ってたら勝ってたと思うゼ!」 シュウはなんの事だかわからず、返答に詰まってるとメタルグレイモンViは言葉を続けた。 「チンロンモンとかだよ〜へっへっ!」 「…そうか、そうだな。じゃ、まずはみんなにちゃんと謝りに行かないとな」 色々な究極体デジモンの名前を挙げながらリベンジだぜ!リベンジだぜ!と変な歌を歌ってはしゃぐメタルグレイモンViは森に進路を取った。 シュウはこれからがどうなるか分からないが、改めて素晴らしくも騒がしい彼に相応しい相棒を探さねばと思うのだった。 おわり