・01 「それくらいじゃ死なねぇ!やっちまえ!」 シュウの指示を受けたストライクドラモンは雄叫びと共にタンクローリーをニセドリモゲモンに向かって蹴り飛ばした。 大きく吹き飛んだタンクローリーはニセドリモゲモンに激突すると爆発を起こし、無人の駐車場と毛むくじゃらの巨体を吹き飛ばした。 大きな揺れと共に地面に打ち付けられて気絶するニセドリモゲを見てストライクドラモンはガッツポーズを決めながら叫んだ。 「どうよオレの大・活・躍!」 「今日もお疲れさん。帰りにピザまんでも買って帰るか」 「オレ今日はあんまんの気分だゼ!」 シャドウボクシングに興じるストライクドラモンに近づくと声をかけながらシュウはゴーグルを装着する。 すぐにスイッチを押して歪みを探そうとするとソレは都合よく目の前にあった。 ストライクドラモンは腕をぶんぶん振ると目を回したままのニセドリモゲモンを持ち上げて歪みの中に思い切り投げ飛ばした。 歪みとは簡易的なデジタルゲートであり、当然その先はデジモンの故郷・デジタルワールドだ。 緑の大地で眠るニセドリモゲモンを歪み越しに見ていたシュウはにっと笑うとゴーグルを外した。 目が覚めれば自分の故郷に戻っている事に気づくだろう。 ニセドリモゲモンも誰かを傷つけたけて暴れていた訳ではなく、見知らぬ場所に怯えていただけなのだ。 そう考えながらストライクドラモンに笑いかけたシュウは駐車場だった所に背を向けてその場を去ろうしたが、何者かが現れた。 ニセドリモゲモンは人がいない所に誘導した筈だが…いや、よくある事かと一応声をかけた。 「ここは危ないよ。早く帰りな」 「おじさんこそ深夜に何やってるワケ?」 金髪の少女はすまし顔で返事をするが、シュウの横にいるストライクドラモンを見ると「紫色…成熟期…」と小声で呟いた。 その言葉の直後、ズンっと音を立てて緑と青の混ざった3m程のデジモンが姿を現わした。 「討伐依頼があったのはオマエか。まさかテイマーまでいるなんてな」 嫌な予感のするシュウに向かって少女は舐めていた飴の棒を指差し変わりに使うとティッシュにくるんでポケットに突っ込んだ。 気の抜けたような電子音が鳴るとシュウの手首に巻かれたデジヴァイス01が目の前にいる存在の照合結果を表示した。 【ディノビーモン:完全体】 ・02 格上が現れた事に少し焦りつつもシュウは彼女へ聞き返す。 「…討伐依頼?」 「そ、討伐(デリート)。私はデジモンバウンティハンターってコト」 ストライクドラモンはシュウの方を見るとシュウはストライクドラモンを横目に見つめ返した。 ディノビーモンはブブッと羽音を立てながらストライクドラモンを睨みつける。 「D336」 少女の指令と思わしき言葉にギチッという翅脈の摩擦音で返事をしたディノビーモンは弾丸の如く飛び出すとストライクドラモンに拳を叩きつけた。 ストライクドラモンはそのパンチを真正面から受けた事で大きく後退するも壁にぶつかる寸前で耐えきってみせた。 ディノビーモンは翅脈の摩擦音を響かせながら素早く飛び退くと少女の隣に戻り、自らを盾にすべく腕を伸ばした。 「…ちょっと痛いのか」 少女はディノビーモンの手が僅かに腫れている事に気付くと意外そうな声で声をかけた。 「武器を持ってなくてその見た目…きっとディノビーモンは格闘戦主体のデジモンだ。手甲にあるスパイクで受けてやれば勢いの分だけちょっとはダメージがあるって事さ」 シュウが右腕のデジヴァイス01を見せるとそこには【メタルプレートを前方に向けてガード】と入力されており、ストライクドラモンはその言葉通りの構えを取っていた。 「ふーん、おじさんやるじゃん。名乗れよ」 少女は首を軽く上げてシュウに名乗ることを促した。 「そういうのは聞いた方からするんだぞ」 「うわおじさんっぽい…まぁいいや、私はカノン」 「俺はシュウ…祭後終」 「OK、1日くらいは覚えててやるよ」 カノンが人差し指を空に向けるとディノビーモンがブっと翅を震わせて飛び上がり、空中でUターンするとストライクドラモンに向かい衝撃波を放った。 ストライクドラモンはその素早い衝撃波をマトモに受けるがダメージが無い。 「どうした!こんな…ぐっ!?」 しかし、ストライクドラモンは悶えながら 動きを鈍らせると口から苦しそうな呻き声を上げる。 シュウは咄嗟にデジヴァイス01の画面を確認するとそこには【麻痺】の表示があった。 ディノビーモンはすかさずストライクドラモンに追突するとそのまま組み付き高空へ飛翔してゆく。 カノンがそのまま指を鳴らすとディノビーモンはストライクドラモンを地面に投げつける。 シュウの目の前にドボッという鈍い激突音が響き、その衝撃にシュウ自身も吹き飛ばされてしまった。 「苛つく翅音(イリタントバズ)…決まった相手の動きをちょっと止める技」 空中からディノビーモンが戻ってくるとカノンは手をひらひらさせながら背を向ける。 「…ん?ソレはどういう事?」 カノンのデジヴァイスicに【まだだ】とだけ表示されていた。 「こういう…コトさ」 「オレ達はまだ倒れてねぇぞ…!」 擦り傷まみれのシュウと麻痺のストライクドラモンはそのまま立ち上がって見せた。 カノンはディノビーモンにチラリと視線を送り、「I289…いや、I288」と合図を出した。 ディノビーモンがストライクドラモンに迫ると再び衝撃波が放たれる。 「─とは言ったもののどうするかね」 「シュウなら大丈夫だゼ!」 その言葉にシュウがワンテンポ遅れて返事をしようとした時、先程と同様にストライクドラモンは麻痺と同時にディノビーモンに組み付かれてしまった。 麻痺の効果を受けたストライクドラモンは苦しそうな声を上げつつ上空へと運ばれて行く。 「二度目はヤバいぞ…考えろ、考えろマクガイバー…」 シュウは右手に巻かれたデジヴァイス01を強く握りながらブツブツと思考を巡らせる。 だが、自らのパートナーであるストライクドラモンの苦しそうな表情を見ればそんな余裕は無いに等しい。 シュウは焦りながら二匹のステータスを確認すべく連続で画面を切り替えるが、純粋なパワー・スピードの性能差に気づかされてしまう。 【ディノビーモン:完全体】 【ストライクドラモン:成熟期】 【ディノビーモン:完全体】 【ストライクドラモン:成熟期】 【完全体】 【成熟期】 【完全体】 【成熟期】 (…!) ディノビーモンがストライクドラモンを掴んだまま空中で静止…落下の準備に入ったタイミングでシュウはハッとした顔を浮かべる。 直ぐにデジヴァイス01に指示を入力すると上空のストライクドラモンへと赤外線でそれをアップリンク─送信した。 「へへっ…やっぱりシュウなら大丈夫だ」 ディノビーモンは先程よりも勢いをつけて地面に叩きつけるために落下を開始した。 その力強い両腕と麻痺による拘束は脱出は不可能だと思えた。 だが、その確信が故にディノビーモンは体制を崩してしまう。 しかしそれが自らの腕が突然空を掴んだのだから無理もない。 「なにがっ─!?」 「デジモンは退化・進化でそのステータスを回復させる!」 ストライクドラモンはユキアグモンに退化して拘束を逃れていたのだ。 ユキアグモンは逆にディノビーモンの頭に組み付くとキャメルクラッチのように目を塞ぎながら首を引っ張る。 ダメージは無いがその小賢しさにムッとした彼は頭の上に乗るチビを取り除こうとする。 僅かに安定性を欠きながらも地面スレスレで角度を変更するディノビーモン。 突き抜ける突風が二人のテイマーの髪を揺らす。 「くそっ、普通はこのまま激突するのがお決まりだろ!?」 「あいつはボクのディノビーモンだぞ!そのまま振り払うんだよ!」 過ぎ去るディノビーモンの後ろ姿、月光を反射して煌めく甲殻にカノンは見惚れ、改めて勝利を確信した。 ディノビーモンが体を捻ると地面に擦れた翅はコンクリートを切断して火花を散らし、車修理工場に突入するとその巨体で何台も車をぶち抜いた。 ユキアグモンはその衝撃に耐えられず手を離してしまい、情けない声と共に地面を転がると目を回した。 「はぁ…はぁ…2日は覚えておいてあげようかな!おじさん!」 舌打ちするシュウを前に渾身のドヤ顔を放つカノンだったが、突然太鼓の音が煩く鳴り響いた。 ・03 「見つけましたぞ総裁!!!」 近くにあった家の壁をブチ破って全身オレンジタイツの不思議迷惑集団・オアシス団が現れた。 「我々の開発したユキアグレーダーは完璧だ!!」 「お迎えに参りました!!」 「いやっほう!」 「すっっげーーー!!」 ドンドコパフパフと深夜に煩く音を響かせながら奇妙な踊りと共にユキアグレーダーとやらの成功を喜んでいた彼等にシュウは心底嫌そうな顔をする。 「ねぇ、おじさんってあんなのと友達なワケ?」 「それだけはやめてくれ…」 「祭後終…究極の聖戦を始めようか…」 「エクストリーム・ジハー…」 「それはダメだって!」 恐らく今回の作戦の責任者であろう人物がそう告げるとオアシス団の背後にデジタルゲートが開き、大量のサンドヤンマモンが現れた。 ユキアグモンは未だに目を回したままだが、ディノビーモンは既に戦闘体制を整え翅を震わせていた。 「んじゃアレはやっていいんだよね」 素早く空に舞ったディノビーモンはサンドヤンマモンに対峙する。 サンドヤンマモンはギチギチという声で威嚇するがディノビーモンは微動だにしない。 ディノビーモンはサンドヤンマモンの一体に追突すると墜落させ、追撃に走る。 それを防ぐように別の個体が回り込んでいたが、ディノビーモンはお構い無しにサンドヤンマモンの胴体を捉え、そのまま引き千切ると勢いのままに地面に叩き付けた。 「ええい!負けるなサンドヤンマモン!総帥を捉えるのだ!!」 オアシス団の指示に従いサンドヤンマモンは横一列に並び必殺の砂嵐を放とうとする。 だが、その横一列に並んだサンドヤンマモンはディノビーモンの放つ全力の凪ぎ払いでまとめて切断されてしまった。 砂嵐が掻き消されたのを確認したディノビーモンは更に複数体のサンドヤンマモンに突っ込むと壁や床にぶつけてゆく。 砂と共に弾け飛んでゆく群れを見て呆気に取られる団員を前に責任者が呟く。 「アレを出せ」 「あ、アレでございますかっ!」 部下と思われる一人が慌ててタイツの中からクロスローダーを取り出すと責任者はウェットティッシュで念入りに拭いてからボタンを押す。 クロスローダーから放たれた光が一匹のサンドヤンマモンを捕獲するのを確認した責任者は叫ぶ。 「ようし!サンドヤンマモン、ダークリザモン─あ、デジクロスぅ!!」 責任者はクロスローダーを天高く掲げる。 すると、それに呼応するかのようにギターを掻き鳴らすような音が響く。 内部のダークリザモンもサンドヤンマモンが混ざり合い、一筋の光となって現実世界へ放出された。 【ギガドラモン:完全体】 デジヴァイス01からその電子音が鳴るのと同時に光を破って現れたのは暗黒竜ギガドラモンだった。 ギガドラモンが地面スレスレに寄るとその風圧で地面が振動し、オアシス団の何人かは尻餅をつく。 紫の皮膚に無理矢理機械を張り付けた少々グロテスクなデザインはかなり威圧的な存在感を放っており、ディノビーモンはすぐにカノンの前へ着地した。 「問題なし。おじさんは帰りな」 「ほっとけるか!第一、大人が子供置いて逃げれるワケないだろ!」 (もー!そういう所がおじさんっぽい!) ユキアグモンを抱えて苦い顔をするシュウを横目で見たカノンがムッとした後に「N957」と告げる。 その言葉と同時にディノビーモンは足に力を込め、ギチっという音より早く緑色の光となった。 光が通った後に何匹ものサンドヤンマモンが引き裂かれ、破裂していく。 ギガドラモンは接近するディノビーモンに鉄爪を振り下ろして攻撃を行うが砂埃を起こすだけで何の感触も無い。 敵を見失い辺りを睨むギガドラモンの背後に飛び上がっていたディノビーモンはその背中に蹴りを入れる。 それは見事に命中したものの吹き飛ばすとまではいかず、ギガドラモンは隙を見せたディノビーモンを尻尾で弾く。 空中で体制を整えたディノビーモンは工場の壁に着地すると叩きつけられるのを回避した。 その時、ディノビーモンの視界には二人のテイマーに牙を向ける傷ついたサンドヤンマモンが映った。 シュウは偶然落ちていた鉄パイプをサンドヤンマモンに向かって振るった。 傷ついてもなおサンドヤンマモンは成熟期、人間の攻撃などものともせずにギチギチっと唸り声を上げた。 「おじさん無茶すんな!」 「こう見えて俺は…まぁずっと帰宅部だった!」 「バカ!」 カノンの心配を他所にシュウは鉄パイプでサンドヤンマモンを攻撃するが、それは簡単に受け止められてしまう。 アレは自分が仕留め損なったモノだとディノビーモンはすぐ二人の元へ向かおうとするが、周囲に集まったサンドヤンマモンの群れがディノビーモンを狙って砂嵐の渦を放った。 足を縺れさせたディノビーモンに向かいギガドラモンが突進する。 巨体の体当たりを受けたディノビーモンは吹っ飛ぶが、その勢いを利用して加速するとそのままシュウと対峙するサンドヤンマモンの顔面を蹴り崩した。 「私を傷つけたら殺すってさ」 「任せろ!」 「よく安請け合いできるなこいつ…」 救援に一安心する二人を背にディノビーモンは再びギガドラモンと激突する。 「…なんだか勝てそうじゃないですか我々」 「センパイ流石です!!すっげーーー!!」 「あのパツキンの小娘〜、我々をバカにした目で見てるからあっちの緑のだけは倒したいなぁ」 「えっ青色だろ〜あれ〜」 「いや黒でしょ」 オアシス団はすっかり勝ったつもりでサンドヤンマモンを発生させるデジタルゲートを閉じて談笑に耽っていた。 ・04 「んあ…」 「おじさん!ユキアグ起きた!」 「悪いけどもう一度進化頼むぞ!」 ユキアグモンがカノンに揺らされてようやく起きるとそこには血だらけのシュウがサンドヤンマモンを相手に立ち回っていた。 「ユキアグモン進化─ストライクドラモンッ!」 飛び起きたユキアグモンは進化を行いながらサンドヤンマモンに拳を叩きつけて吹き飛ばすとシュウ達を救い出す。 「ご覧の通りだ。ディノビーモンを助けに行くぞ!」 「よし任せろ!」 ストライクドラモンはディノビーモンの救援に向かおうとするが、それをサンドヤンマモンが妨害しようと前に出る。 ストライクドラモンは尻尾を振るってサンドヤンマモンを怯ませると追撃を試みたが別方向からの砂嵐に飲み込まれてしまう。 残ったサンドヤンマモンの群れがストライクドラモンを包囲していた。 「ストライクドラモン!」 【ブルーフレイム】 シュウの声に合わせてストライクドラモンは爪から衝撃波と共に青い炎を放ってサンドヤンマモンを焼き払うが、すぐさま別の個体が新しい砂嵐を作りだして動きを鈍らせる。 ギガドラモンは足の自由が奪われたストライクドラモンに目をつけて攻撃に走るが、ディノビーモンは尻尾を掴んでそれを阻止する。 ギガドラモンが振りほどこうと暴れる中、ストライクドラモンを包んだ砂嵐が炎の竜巻に変わると逆にサンドヤンマモンを炎に悶えさせた。 苦しみながら様々な所に激突しては火を広げてゆき、それが他のサンドヤンマモンにも燃え移る。 オアシス団は消火器を片手に走り回っていたがついには消防署に電話を始めた。 「もしもし!?消防さんですかぁ!?」 「ストライクファングで全身を燃やして砂嵐を利用させてもらったのさ。あとはディノビーモンを助けるだけ…あいて!」 「おじさんさぁ、したり顔で作戦話す癖どうにかしたほうがいいぞ?」 思わずガッツポーズを取るシュウだったが全身の傷が傷んで引っくり返ってしまう。 カノンはそんなシュウの腕を掴んで起こすと先に走り出す。 ギルティクローが地面に突き刺さるとエネルギーの波動が放たれてディノビーモンとストライクドラモンにダメージを与える。 ギガドラモンは吹き飛ばされたストライクドラモンに先回りすると尻尾で地面に叩きつける。 「ギガドラモン!将軍はまだ体力が万全では無い、さっさとダウンを取ってしまうのだ!」 オアシス団責任者が勝ち誇った声で指示を出すとギガドラモンは機械の両腕から必殺のミサイル─ジェノサイドギアを放った。 「えっあれデリートされちゃうんじゃない?」 オアシス団がザワつく中、ギガドラモンが雄叫びと共に容赦なく大量にバラ撒いたソレはストライクドラモンに向かい接近する。 ストライクドラモンはなんとか回避を繰り返してゆくが先程のダメージもあり早々に限界を迎えてしまう。 最後のミサイルが彼に迫った時、ディノビーモンが素早くストライクドラモンを抱えるとその場から離脱した。 回避されたミサイルはテイマーである筈のオアシス団達の足元に命中して彼等を吹き飛ばしてしまう。 「あ〜れ〜!」 「むむむ!過剰な進化エネルギーで暴走してしまったか…アレは我々に手はつけられん!」 「アンタら何言ってんだよ!責任取れ!」 「この生意気パツキン女め!いやだよ〜ん!」 「おいアレに構うな!今はギガドラモンだ!」 暴走で力を増したギガドラモンのパワーに完全に押されてしまっている現状、言い争いをしている暇は無いと制する。 ストライクドラモンはディノビーモンに礼を言うと痛む身体を無理に動かしてシュウの横に着地する。 「シュウ。俺が前に出る」 「だな」 「バカおじさん!パートナーを殺す気なの!?」 「さっきまで俺にそうしようとしてた子が随分と優しいね」 「む。それは貴方達が討伐の対象だって…」 「俺達はニセドリモゲモンをデジタルワールドに帰すためにここにいたんだ」 「紫色…成熟期……」 「あとはオレが自分の実力を試したくなっちゃったんだ。へへ、悪いな!」 「いやお前らさっきはそんな事一言も」 シュウとストライクドラモンは互いの顔を見るとカノンは「あいこんたくと…」と溜め息をついた。 全ては勘違いと力試しだったのだ。 「…私達にもやらせろ。ここで黙ってるワケにはいかないっしょ」 そう言いながらカノンが見せたデジヴァイスicには【これで借りは無しだ】という文字が表示されていており、ストライクドラモンがソレを凝視すると笑いながら「オレの方が借りばっかだぜ!気にすんな!」と親指を立てた。 「っていうかギガドラモンの野郎なんか動き止まってねぇか?」 「あぁ。俺の見立てだとあの攻撃は相当な負荷がかかってる。だから再起動後のアイツは処理落ちを避けての格闘戦闘に走るだろう」 シュウが指差したミサイル発射口は火花を散らしており、ギガドラモンそのものもフリーズしていた。 「なのでディノビーモンがイリタントバズで動きを鈍らせてからお前が格闘戦を挑む」 「さっきの攻撃を見るかぎり、ユキアグくんは熱された鉄爪を正面から受けるのは得意そうだって事か」 「そういうことなら任せな!いや今はユキアグじゃねーけどな!」 ストライクドラモンは腰に手を当てて自慢気にしたと思ったらノリツッコミをしている。 「元より手伝ってもらう予定だったから超助かるよ」 「私が手伝ってやるんだ。負けは無い」 暫くの作戦会議を終えると二人と二匹は足並みを揃えてギガドラモンの前に立つ。 そのギガドラモンもピー、ガッという再起動音と共に目を光らせた。 それを合図にディノビーモンはストライクドラモンを抱えて高速で飛翔し、シュウとカノンは横へ飛び退いて物陰に隠れた。 「─おじさん!」 「わかった!」 オアシス団も近くの物陰に隠れて作戦を見守る。 ディノビーモンが高速飛行の勢いそのままストライクドラモンを射出するとギガドラモンに回転をかけた飛び蹴りをぶつける。 勢いのまま転がり落ちるストライクドラモンはすぐに体制を整えるものの、激昂したギガドラモンの爪はギリギリ回避しきれずに肩の鎧を吹き飛ばされる。 肩の鎧はシュウが身を隠した壁に激突して壁を崩す。 目に砂が入り顔をしかめるシュウのデジヴァイス01から電子音が鳴る。 【麻痺】 「既にイリタントバズはかけてある!」 カノンの声を聞いたストライクドラモンは体制を整えると無防備になった顎へ渾身のアッパーを食らわせる。 よろけながら態勢を立て直したギガドラモンは両腕の鉄爪ギガハンドにエネルギーを込めてギルティクローを放った。 「今だッ!ストライクファング!」 「だりゃああああっ!」 ストライクドラモンは全力の必殺技で無理矢理完全体の技を受け止めて見せた。 鋼鉄と鋼鉄のぶつかり合う音が深夜に響くと遅れて熱波が辺りへと拡散した。 元来のレベル差によるステータスへ暴走したパワーが上乗せされてストライクドラモンに凄まじい圧をかける。 そのパワーはコンクリートにクレーターを生み、ストライクドラモンは思わず吐血するが、その鍔迫り合いは呆気なく終了する。 ディノビーモン必殺の一撃・ヘルマスカレードにより、ギガドラモンの両腕が切断されていたからだ。 スパークを加速させて爆発するギガハンドは吹き飛んでオアシス団達に激突した。 「さすが私のディノビーモンだ…!」 しかしカノンは相棒の活躍に拳をグッと握るばかりでその事には全く気がつかない。 カノンはオアシス団が使ったクロスローダーを拾っており、先程交わした言葉もソレを見つけた合図だったのだ。 オアシス団の押していたボタンを覚えていた彼女は逆算してそれらしき入力を行う。 「えと、コレだ!クロスオープン!」 クロスローダーから光が放たれるとギガドラモンは元のサンドヤンマモンとダークリザモンへと姿を戻した。 シュウはゴーグルを起動して歪みを認識すると、目を回した二匹をストライクドラモンへ先程ニセドリモゲモンを帰した歪みに投げつけるように指示を出した。 ついに戦闘が終了し、シュウはストライクドラモンとハイタッチを交わした。 「いやいや。おつかれさん」 ストライクドラモンは笑うと、シュウも笑顔で返した。 その後カノンとディノビーモンが遅れて集まると、彼女達にもお礼の言葉を交わす。 オアシス団はいつの間にか姿を消していた。 ・05 あれから一時間程が経過し、戦場から離れた雑居ビルの屋上で二人と二匹は後処理に終われる警察と消防を眺めながら会話していた。 「今日は頑張ったなぁマジで。ほれディノビーモンもピザまん食え」 ユキアグモンは一心不乱にあんまんを何個も頬張っている。 「アイツらが落としたクロスローダー、私が拾って使わないままギガドラモンをデリートしたらどうしたんだ」 「しないだろ。だって…」 シュウの顔にクロスローダーが命中する。 ぐえっと情けない声を出しつつシュウはなんとかキャッチするも、ムッとしたカノンに背中をバシッと叩かれた。 「ふん、じゃあな。シュウ」 ディノビーモンの背に乗って朝日と共に去る彼女を見送りながらシュウは失踪した妹の事を思い出すのだった。