BootlegVaccine(BV)という組織がある。 ロイヤルナイツの一人、ドゥフトモンをトップに据えたこの組織の目的はデジタルワールドの治安維持だ。 それはロイヤルナイツと何が違うのか、という点だが。 最大の特徴はBVの主な構成メンバー達は、形はどうあれかつてデジタルワールドとこちらの世界双方に混乱をもたらした人間とデジモンだと言うことだ。 超法規的な権限を持ってかつての『罪人』をデジタルワールドの治安維持に駆り出す。 これがBVの主たる概要だろう。 少なくとも、私の認識では。 「はい、コーヒーをどうぞ」 「うん、ありがとう」 私は今、そのBVが保有する施設の一室にて、いわば「取り調べ」を受けている。 彼らはこの国における警察機関ではないので、正確には私は勾留も取り調べもされていないのだが、まぁ形式はどうでもいいだろう。 「それで、一体どこまで話したかな」 「…貴女が、オグドモンの最後の封印を解くところまで」 今私と話をしているのは高円寺 峰子、なんでもあのドゥフトモンがこちらの世界で活動するために身体を貸しているらしい。 私はもらったコーヒーに口をつけようとして 「…ねぇ」 「なぁに?」 「…ミルクとシロップ、貰えないかな」 「え?あぁ!ごめんなさい!てっきりブラックでも飲めるものかと!」 別にそんなことはないのだが 「なんというかこう…飲めそうな雰囲気があるの、白衣とか羽織ってるし!」 「別に飲めないよ…」 私は受け取ったミルクとシロップをコーヒーに入れてかき混ぜる。 それを一口飲んでから、ゆっくりと口を開いた 「…あれは、ベルフェモンの力を開放したときだった」 結論から言おう 私達は敗北した。 ─ 「…これで7つ、全て点灯した」 私は手に持ったデジヴァイスにある、7つのランプ…七大魔王の紋章を模したそれを見つめる。 『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『強欲』『暴食』『淫蕩』、そして弱いが確かに発光している『怠惰』。 『怠惰』、ベルフェモンの封印解除は結局最後となってしまった。 今まで紋章どころかベルフェモンすら眠ったまま一度も目を覚ましたことはなかったが、ついにその時が来たようだ。 他はともかく怠惰なんて一体どうしたら私が開放できるのか、その答えは意外な形で得られた。 鍵はイグドラシルだ、デジタルワールド中で調査を進めていくうち、イグドラシルはデジタルワールドにおける単なる信仰の対象たる神ではなく、デジタルワールドそのものを管理するシステムであることが解かった。 その時、ある考えが頭をよぎった。 …管理システムであるイグドラシルの権限を奪えば、デジタルワールドに存在する全てのデータに自由自在にアクセスできるようになるのでは? 何より、イグドラシルへの攻撃という目的はオグドモンと合致している。 などと考えていたら、デジヴァイスが強く発光している事に気がついた。 そうしてデジヴァイスを取り出して、今に至る。 腹立たしいが、どうやら情報の閲覧権限を持つものから権限を奪ってしまえばいいという思考が『怠惰』である、と認定されたらしい。 ─遂に、この時がやって来た。 コキュートスの奥底に封じられたオグドモンの声が、デジヴァイスを通じ発せられる。 「そう…だね、長かったような、短かったような」 ─短い、少なくとも私の想定していたより遥かに。 「そうなの?」 ─あぁ、お陰でロイヤルナイツ共の不意を突くには十分すぎるほどの時間がある。 「ならこのまま真っすぐ『至聖所』に向かうの?」 ─そうだ。 至聖所とは何か、それは私が今立っているWWW大陸からはるか洋上にある小さな島。 そこにはデジタルワールド唯一の、イグドラシルへのアクセスポイントがあるとオグドモンは言う。 連中はそのアクセスポイントを『至聖所』と呼んでいた、と。 はるか昔、太古のデジタルワールドでオグドモンはそこを目指し…そしてロイヤルナイツに敗北した。 ─以前はわざわざコキュートスからダークエリアを通過したせいで連中に完全な防御を固める時間を与えた、だが… ─今は違う、『門』はお前が持っている、であればダークエリアの経由など不要、私はデジタルワールドへと直接出ることができる。 「それで、直進して最短経路で至聖所まで行く…かな」 ─あぁそうだ、デジヴァイスを構えろ小娘、今なら『門』そのものを呼び出せる。 「こう?」 言われた通り、デジヴァイスを前方へと突き出す。 瞬間、デジヴァイスから強い光が発せられた…と思ったら暫くすると光は収まった。 「消えちゃったけど、これでどうなる…」 次に強い揺れが地面から発せられる 「地震?」 ─違う、『門』を呼び出したのだから、出てくるために地面が割れているだけだ。 揺れが激しくなるとともに地面にひびが走り、広い範囲に地割れが広がっていく。 ─これがコキュートスの奥底とを繋ぐ直通通路だ。 やがてその巨大な地割れから、ゆっくりと『門』がせり上がってくる。 「…随分大きいね」 都心の高層ビル程もある高さの、巨大な『門』、そこにはデジヴァイスと同じく、七大魔王の紋章が刻まれている。 これが『大罪の門』か。 ─今から扉を開く、そうしたら七大魔王達全員を呼び出せ。 「うん」 ゆっくりと、軋む音を立て門の扉が開いてゆく。 その扉の中は紫色の霧のようなもので覆われていて、向こう側の景色は見えない。 残念だがここからコキュートスを見ることは出来ないらしい。 「さて、と」 「ルーチェモン、リヴァイアモン、デーモン、バルバモン、ベルゼブモン、リリスモン…ベルフェモン!」 私は七大魔王達全員をこの場に呼び出す。 しかし、ベルフェモンだけは未だに眠り続けたままだ、まずは彼を起こさなければ。 「ベルフェモン…怠惰進化(スロウスエボリューション)!」 瞬間、ベルフェモンが胸に抱く目覚まし時計が鳴り響き、眠り続けていたベルフェモンの眼がカッ、と見開く。 そうして身体を縛っていた鎖が砕け散り、その体躯が肥大化してゆく。 ─ベルフェモン:レイジモード ウイルス種 究極体 七大魔王 「ウrrrr…」 真の姿を取り戻したベルフェモンが、低い唸りを上げる。 「ベルフェモン、綴は変わりない?」 ベルフェモンはそのまま小さく頷く。 「そう…良かった」 あの日以来、綴の身が狙われたことはない、が、用心しておくに越したことはないだろう。 チョコモンだっていつか進化する時が来たら綴を守ってくれるはずだ。 ─来い。 オグドモンの声に応じ、七大魔王達が「本来の姿」である剣へと姿を変える。 それらは私が呼び出して使うものよりも遥かに巨大だ、きっとこれが本来の大きさなのだろう。 そして7本の剣全てが門の向こうへと消えていく。 向こうの景色は伺い知れないが、あの剣達がオグドモンを縛り付ける鎖を破壊している頃だ。 ─あぁ…ようやっと自由に動き回れる。 どうやら無事に封印から解き放たれたらしい、では門の向こうから彼を呼び出すとしようか。 デジタルワールド全ての罪を内包し、同時に全ての罪を贖罪する力を持った彼を呼び出すとしたら、一体どんな言葉が相応しいだろうか。 ……うん、これでいこう。 「オグドモン…大罪顕現(カルマライズ)!」 言い終わると同時に門の向こうから巨大な脚がゆっくりと現れる。 それはオグドモンの7本の脚の1本だ、脚1本だけでも門の全高の7割程もある、なるほどこれは確かに超巨大デジモンだ。 そのままズシン、と地響きを立てながらオグドモンが門の向こうから歩いて出てくる。 やがてその全容が明らかとなった。 ─オグドモン ウイルス種 超究極体 化身型 七本の脚とそれぞれに突き刺さった七大魔王の剣、脚の下部に開いた七つの目、そして頭部の口の中に第八の眼を持つ、まさに「異形」と呼ぶに相応しい体躯の超魔王。 『オグドモン』は今ここに顕現した。 「小娘、今の場面に相応しい言葉は何だ」 オグドモンの声、これまでデジヴァイスの奥底から響いてくるような声だったそれは今、目の前にいる彼の口から発せられている。 ……どっちの? 赤い胴体の下部から吊り下げられるように付いた下半身の巨大な口だろうか、それとも頭部の口だろうか。 オグドモンがあまりにも巨大で、どちらから声がするのか判別できない。 …というのは後にして、まずは彼の問いに応えよう。 「娑婆の空気が美味い、とか?」 「ククク…」 私の答えに満足したのか、愉快そうに笑う。 そういえば、私も彼の封印を解いたら聞いてみたいことがあったんだった。 「ねぇオグドモン」 「何だ」 「それで結局、どうして君はイグドラシルを攻撃しようとしてるの?」 今からそのイグドラシルへ攻撃を仕掛けようというのだから、当然の疑問だ。 「…お前は私の封印を解いた時にそれを聞くなどと言っていたが、私はその問いに答えるなどという契約をした覚えはない」 「そうだね、確かにそんな契約はしていない、だから…」 私はオグドモンの第八の眼を見つめて言う。 「君が自分の意志で答えて欲しい」 「……」 短い沈黙の後に、彼はゆっくりと語りだした。 「いいだろう」 「小娘、私の居たコキュートスには何がある?」 「コキュートスに…?」 デリートされたデータが流れ着く先、デジタルワールドの死後の世界とでも呼ぶべきダークエリア…の更に下、デジタルワールドの最下層コキュートス。 そこに何があるのかと問われれば……何があるんだろうか? 答えに困っていると、彼はそのまま言葉を続けた。 「コキュートスはダークエリアすら追われ落ち延びた連中の吹き溜まり、そんな連中の営みから生み出される物など高が知れている」 「破壊、略奪、暴力、凌辱…要は『罪』だ、それ以外は流れ着いた大量のクズデータが精々、それがコキュートスの全てだ」 「故に、デジタルワールド全ての罪の化身である私が産まれた」 「そう…なんだ」 オグドモンは天を扇ぐように首を上に傾ける。 「小娘、ではコキュートスの外には何がある?」 コキュートスがデジタルワールド全ての罪を集めた世界であるなら、その外とは何か。 「…罪以外の全て、かな」 「そうだ、平和、愛、命、創造…決してコキュートスには無いもので溢れている」 「コキュートスに居ては絶対に手に入らないもので溢れた世界がある、ならばそれに焦がれ欲するのは当然だろう」 「故に…私はイグドラシルへ攻勢を仕掛けた、『全て』を手にするために」 「…なるほどね」 ─リヴァイアモンはオグドモンに最も近い ルーチェモンの言葉の意味がようやく理解できた。 彼、オグドモンの根源は『嫉妬』だ、自らが持たないものに焦がれ、追い求め、心の底から欲しいと望む。 だからこそリヴァイアモンの力を開放した時、彼も最も顕著に反応したのだろう。 「君の根源は『嫉妬』なんだね」 「ああそうだ、それこそ私の原初の感情だ」 オグドモンは頭を再び私に向ける。 「…これが答えだ、満足か」 「うん、ありがとう、やっぱりイグドラシルの掌握は私達の目的と合致してるね」 「……」 「オグドモン?」 突如オグドモンがその脚の一本を私に向け、そのまま私の身体をむんず、と掴み上げる。 「ぐっ…」 締め上げるように掴まれ、身動きが取れない 「…」 「オグド…モン?何…いきなり」 締め上げられる痛みに耐えながら声を上げる、が 「…」 彼は答えず、私を掴んだまま自身の胴の上まで持ち上げていく。 そうして辿り着いたのは彼の頭部、第八の眼が光る大きく開いた口だ まさか…このまま私を食べでもするのだろうか 「……クク」 締め上げられる力が一層強まる、そろそろ痛みも限界だ。 「ぐっ…」 「ククククッ…」 愉快そうな声を上げながら、ゆっくりと私を口の前に近づけていく。 そのまま彼の口の中へ放り込まれようとした寸前で。 「クハハハハハハハハハハッ!!!」 ついに笑いを堪えるのに限界が来た、という風な声を上げて腕の動きが止まる。 「あぁ、全く愉快だ、まさかお前このまま私に食われるとでも思ったか?」 オグドモンは私を自分の胴体の上、首の横辺りに降ろす。 「まぁ、いきなりだったから…」 笑い声がようやく収まり、彼は語りだした。 「今のお前の顔は本当に滑稽だったぞ、苦痛と驚愕に歪んだ顔はな」 「全く…本当に食べられるかと一瞬思ったよ…」 それとどうやら彼の声はこちらの上の口から発せられていたらしい、ここまで近づいてようやく分かった。 「あぁ、確かに始めはお前を取り込み、選ばれし子供達の力を手にする気で居た」 「七大罪の力と選ばれし子供達の力、その2つを合わせてロイヤルナイツに対抗するつもりだった?」 オグドモンは首を小さく傾ける、恐らくは頷いているんだろう。 「その通りだ、ただ封印から解き放たれただけでは以前の二の舞を踏むだけ、そのために更なる力が必要だった…」 「が、考えが変わった」 「どうして?」 「お前と共に否が応でもデジタルワールドの各地を巡る事になった、そこにはかつての選ばれし子供達の戦いの痕跡が刻まれていた、そうだな」 「うん」 アポカリモン、ヴェリアルヴァンデモン、ディアボロモン…かつてデジタルワールドを危機に陥れた者たちと選ばれし子供達の戦い、その歴史が各所に点在していた。 確かに私達はそれらの記録を見て回ったが… 「連中は戦いの中デジモンと力を合わせることでより強大な力を発揮し、幾度もデジタルワールドを危機から救い出してきた」 「今此処には私と、選ばれし子供…紋章の力を持つお前が居る、ならば」 オグドモンは第八の眼で私を真っすぐ見据える。 「お前と私が協力すれば、より強大な力を発揮することができる、私が一人で戦うよりも遥かに大きな力を」 「ロイヤルナイツ共に打ち勝つにはそれが必要だ」 「だから、私を取り込むのは止めにした?」 「そうだ」 そこまで信頼されている、というのは伝わるが… 「その…もうちょっと普通に頼めなかったの?一緒に戦って欲しいって」 「クククッ…」 笑って誤魔化されてしまった。 「話は終わりだ、そろそろ往くぞ小娘、いいや…」 「マコト」 「うん」 改めて、オグドモンの上から周囲の景色を見渡してみる。 「中々の眺めだね」 正しく高層ビルの上層からの眺めと言ったところで、ここからなら遥か向こうの山々まで見渡すことができる。 まぁ、目的地はその真反対の海の上なのだが。 「振り落とされるなよ」 そう告げて、オグドモンは地響きを鳴らしながら歩みを始めた。 目指すははるか洋上、『巡礼』を始めるとしようか。 ─ 空に光る黄金の軌跡、それが此方に向けて飛来してくる。 あれは間違いなくロイヤルナイツが一人、「マグナモン」だ。 「ドゥフトモン、遅くなりました」 私の側に降り立つ彼は、その腕に一人のニンゲンを抱えている。 彼のパートナー「VT・F」…通称フロイトと呼ばれる男だ。 「来たか、マグナモン」 「他の皆は?」 「お前達が一番乗りだ、が、ジエスモンがもう直に来るだろう」 荒れ果てた大地がどこまでも広がる不毛の地、「至聖所」のあるこの孤島に招集をかけようやく一組がやって来た。 非常招集だと言っているのに誰も彼も渋る中、ある一言を添えた途端に顔色を変えた者たちが居る。 ─オグドモンがコキュートスから解き放たれた。 反応を示したのはマグナモン、アルファモン、クレニアムモン、ジエスモン そして我々と袂を分かったエグザモン。 この5人だ。 ガンクゥモンは後進に道を譲るとだけ告げて早々に連絡を絶ち、デュークモンは別件で市井の為に戦っている。 そして長らく空席が続くオメガモンには心当たりがある。 ……本来なら非常招集なのだから無理矢理にでも全員揃わねば可怪しいのだ、しかし他ならぬ主、イグドラシル自身がそれを望まぬのなら仕方がない。 結局、来ると返した5人、そこにオメガモンと私を含め7人…やはり峰子に「彼ら」を招集させておいて正解だったようだ。 「それでドゥフトモン、あの話は本当だろうな」 マグナモンの腕から降りたフロイトが私に問う。 「あぁ、事実だ、アリーナに記録のないデジモンを奴は従えている」 招集をかけた際に真っ先に返答があったのがマグナモンだ、しかし即座にこの男が割り込んできて渋りだした。 その理由はこうだ ─オグドモンか、アイツはすでに攻略済みだ。 ─どうやってだと?お前たちの過去の戦いから再現されたデータとアリーナで戦える、まさか知らなかったのか? ─まぁいい、オグドモンの脅威は悪意を持つ相手の攻撃を無力化する贖罪の力だ…が。 ─それさえ突破すれば本体のステータスは他の超究極体デジモンと同じ、それ以上でも以下でもない。 ─わざわざ俺達が出向かなくてもお前達だけで十分対処可能だ。 そう一方的に捲し立て回線を切ろうとするこの男を引き止めるために持ち出したのが、オグドモンが率いる2体のデジモンだ。 「名は『ジズモン』及び『ベヒーモン』、どちらも超究極体クラスの戦闘力を持つ強力なデジモンだ」 「そんな奴らの記録が何故どこにも無い?」 「…この2体はただのデジモンではない、コキュートス守護のためにイグドラシルの手でデザインされた唯一のデジモン達だ」 「故にジズモンとベヒーモンはこの個体しか存在せず、その記録はイグドラシルしか保持していない」 「それがどうしてオグドモンの手下になっている」 ふむ、それは当然の疑問だろう。 「……リヴァイアモンだ」 ─ 「リヴァイアモンだ」 荒れた海を往くオグドモンの上、戦力に当てがあると語る彼の口から出た2体のデジモン 『ジズモン』、『ベヒーモン』、彼らはイグドラシルによって作られ、コキュートスを守護する使命を負っていた…らしい。 それが何故オグドモンの支配下にあるのか、と尋ねたところで今の答えがあった。 「イグドラシルに作られ、コキュートスを守る使命を負わされていたのは元はリヴァイアモンを合わせた3体だ」 リヴァイアサン、ジズ、ベヒーモス…確かに全てヨブ記に記された3種の幻獣だ。 ならばそれが元になったであろうデジモンたちが3体で1つの集まりであるというのは自然だ。 「あれ、じゃあリヴァイアモンって元は七大魔王じゃあ無かったの?」 「そうだ、と言うよりは」 「後に七大魔王と呼ばれることになった者達、その最初の1体がリヴァイアモンだ」 「へぇ…」 デジタルワールドに刻まれているオグドモンの歴史はどうしても彼がデジタルワールドへ出てきてからのもので、それ以前のコキュートスでの出来事はやはりこうして彼自身から聞く以外はない。 「ジズモン、ベヒーモンと共に使命を全うするためコキュートスで眠りについていたリヴァイアモン、しかし此奴だけが自ら究極体への退化を選ぶことにより使命の楔から逃れ、魔王として動き出した」 「そこに堕天しコキュートスへと降りてきたルーチェモン、デーモンが流れ着き、リリスモンも続いて落ち延びてきた」 「ベルゼブモン、バルバモン、ベルフェモンは?」 「奴らは元よりコキュートスの生まれだ」 「そうして集まった7体がそれぞれデジタルワールドに存在する罪を冠し、その化身である私は生まれた」  「後は容易い、使命から逃れたとは言えリヴァイアモンは他の2体と強く繋がっている、ならばリヴァイアモンを通じ此奴らを乗っ取るなど訳もない」 「ということは…」 ジズモンとベヒーモンはオグドモンの支配下にある、ならば当然 「あぁ、今であれば『門』から自在に呼び出せる」 「ロイヤルナイツと接敵次第2人を呼び出す、でいいのかな」 「そうだ」 …うぅん、本当にただ呼び出すだけでいいんだろうか。 ロイヤルナイツ達の不意をつく、という目的ならもう少し何か仕込めるのでは 「…いや、ちょっと待って」 「何だ」 「ちょっとした作戦があるんだ、2人を呼び出すタイミングは私に任せてほしいんだけど」 「良いだろう、私と同じようにデジヴァイスから呼び出せる、好きにしろ」 「うん、分かった」 そうして私は「仕込み」を済ませ、再び歩み始めた。 そこから暫くして。 「そろそろ島が見えてくる頃合いだ」 「……あれかな」 前方の彼方に見え始めた小さな島、あれが目的地の至聖所があると言う島だろう。 そして空から飛来し、島へと集っていく多数の影 私達を迎え撃つために集まった者達だ。 ─ 続々と皆が集う中、一組だけ反対方向から来る者達が居る。 『ジエスモン』だ、他の皆と違い、彼らだけは常にイグドラシルの側に…否、少女の形を取るイグドラシルの端末『HAL』の側に在り、「彼女」を守護している。 距離としては彼らが最も近い筈だが… 「随分と遅かったな」 「それは…」 「すまん、ハルの方が準備に時間がかかった」 ジエスモンの代わりに、その肩に乗るパートナーのニンゲン「神裂 八千代」がそう答える。 「準備?」 「それは私から説明します、ドゥフトモン」 彼の後ろから一人の少女が歩み出る、彼女こそがイグドラシルの端末が一つ『HAL』だ。 「主よ」 「構いません、頭を上げなさい」 跪こうとする私を制し、主は続ける。 「入口に防壁を構築していました、遅れたのはそれが理由です」 見れば、灰色の霧の様なものが至聖所を囲うように展開している。 灰色の霧、か。 「察しているかもしれませんが、この防壁は粒子化(パーティクル)ワームを流用して組み上げたものです」 「この防壁がある限り、オグドモンは私達を無視して強行突破は出来ません」 彼女はそのまま胸の前で手を組み、目を閉じる。 「私にはこれが限界です、あとは…皆のために祈るのみ」 「いいえ、主よ、感謝致します」 入口の防御はこれで万全、であればそちらに戦力を割く必要は無い。 集まった戦力はロイヤルナイツが私、クレニアムモン、マグナモン、アルファモン、ジエスモン。 そして我が私兵たるBV(BootlegVaccine)からリーダーのめもり、アカネ、結愛、シュヴァルツ。 影太郎と、たまたま近くに居たらしく彼に強引に連れてこられた鉄塚クロウ。 残すはロイヤルナイツの一人、エグザモンがまだ来ていない。 「あと一人、か」 「噂をすればなんとやら、来たぞ」 クレニアムモンが彼方の空を指差す。 この距離からでもはっきりと視認できるあの巨体、見間違えようがない。 エグザモンだ。 エグザモンほど巨体となればその羽ばたきは暴風を生み出し、ただ地に降り立つだけでも周囲には風が渦巻き吹き荒れる。 吹き付ける風に対し、ニンゲンの少女達は小さな悲鳴を上げて服の裾を押さえつけ… 「きゃっ」 ……なぜ主まで一緒になっているのだろう。 「久しいな、エグザモン」 「…ドゥフトモン」 降り立つ巨竜と視線が交わる、その瞳に若干の敵意が含まれているのは気の所為ではない筈だ。 「よく来てくれた」 「勘違いするなよ、オレはイグドラシルを守りに来たんじゃない、ただ…」 エグザモンが、この場に集う者達を一瞥する。 「デジタルワールドを守りに来た、それだけだ」 これは 「…成る程な」 ニンゲン達との交流で学んだことは多い、峰子であれば今の場面ではこう言うだろう。 「知っているぞ、それはツンデレという物だな」 「ツン…はぁ!?」 思いも寄らない言葉が出た、といった反応だ 「お前の口からそんな言葉が飛び出すとは思いもしなかったぜ…で」 エグザモンは視線を主へと移す。 「お前の隣の女の子は誰だ?」 ヒナミと同じくらいでっかい…などと小声で呟き、背に乗るパートナーから怒るよ?などと返されている。 そうか、彼は主のこの姿を見たことは無かったか 「何を言っている、我らが主だろう」 「…は?」 再び彼の表情が面食らった様へ変わる。 「この姿で会うのは初めてですね、エグザモン」 「私は『イグドラシル_HAL』、私の持つ無数の端末の一つです、気軽にハルと呼んでくださいね」 「…まさか本当に彼女はイグドラシルなのか?」 「そうだ」 私を初めとした他のロイヤルナイツ達が一斉に頷く。 「…暫く見ない間に変わったんだな、お前も、イグドラシルも」 その眼と声に、初めにあった微かな敵意はもう無かった。 「私だけではない、ここに居る者、居ない者、皆同じくニンゲンと関わることで変わった」 「そして」 皆一斉に、遂にその姿を表した超魔王の方を向く。 「それは奴も同じだ」 奴の身体の上に、一人の少女が居る。 オグドモンのパートナー、「七津真」だ。 ─ 島の沿岸部に集う者達、彼らがロイヤルナイツか。 「彼らがロイヤルナイツ?」 「そうだ、と言いたいが、知らぬ顔が多い」 「ふぅん…」 そう言われ改めて彼らを見渡してみると確かに「聖騎士型」とは違う者達が居る。 というか見知った顔が見える。 黒いギギモンとクルモンを連れた彼女は確か、「安里 結愛」だ。 ロイヤルナイツの関係者だったとは驚きだ。 オグドモンは足を止め、ロイヤルナイツの一人「ドゥフトモン」に目を向ける。 …口の中に目があるのだから、実際には頭ごと向けているのだが。 「久しいな、ドゥフトモン」 呼びかけられたロイヤルナイツの一人、獅子のような鎧を纏う聖騎士「ドゥフトモン」が答える。 「あぁ、全くだ、ニンゲンの時間間隔で言うなら数千、いや数万年以来か」 「アポカリモンによって歪められた時が存在する以上、そのような数字は無意味だ」 「如何にも」 まるで旧来の友人のように、2人は会話を続ける。 「大分面子が様変わりしたが、オメガモンは何処だ」 「彼は代替わりが激しくてな、今は空席だ」 「ほう…それで、そこの小僧は」 オグドモンは手足を剣とした白き竜騎士を見る。 「彼はジエスモン、ガンクゥモンの後継者だ」 「代替わり、か、貴様らも随分と変わったようだな」 「貴様もな、よもやニンゲンのパートナーと共にいるとは」 「あぁ、貴様たちを討ち滅ぼす為にな」 両者の間を流れる空気が、一瞬で張り詰める。 ドゥフトモンは組んだ腕を解き、腰へ提げた剣の柄へ手をかける。 「聞くまでもないがあえて問おう、目的は何だ」 「決まっている」 私はデジヴァイスを構える、こちらも臨戦態勢だ。 「退け、私達はイグドラシルへと行く」 「『達』、か」 ドゥフトモンは私を一瞥した後に剣を抜き、剣先をオグドモンへ向ける 「ならぬ、此処は至聖所、我が主の御わす神聖なる地だ、許可のない者を誰一人として通す訳には行かん」 「オグドモン」 ドゥフトモンの後ろから一人の少女が歩み出る。 「誰だ、この小娘は」 「私はイグドラシルの端末の一つ、HALです」 その名前を聞きオグドモンは笑う、いや嗤う。 「…クククッ、まさか、イグドラシルがニンゲンの真似事を初めたとはな」 「真似事なんかじゃない」 ロイヤルナイツの一人、ジエスと共に立つ男から声が上がる 「ハルの心は真似事やシステムによるエミュレーションなんかじゃない、本物だ」 「八千代…」 彼はHALと名乗るイグドラシルの端末の、その手を握る。 「オグドモン、以前も問いましたが、何故イグドラシルを攻撃しようとするのですか」 ドゥフトモンとの会話でも挙がったが、両者の間にある『前』を指し示す言葉には、言葉以上の時間の流れを含んでいる。 人間の想像を遥かに超えた時を。 「貴様などどうでも良い、目的は貴様の先にあるカーネルだ」 「……やはり、貴方の目的はデジタルワールドのシステムそのものですか」 「そうだ」 少女は彼の手を強く握り返し、答える 「であれば答えは同じです、ここは通せません、コキュートスへと帰りなさい」 「あの世界こそ貴方の産まれた地、貴方の王国です」 「…成る程な」 その答えを聞き、オグドモンの脚に突き刺さる七大魔王の剣が禍々しいオーラを纏っていく つまりは攻撃の体制に入った。 「なら、力付くで押し通るまでだ」 「ドゥフトモン!」 「どうした、アカネ」 ドゥフトモンの後ろに展開したロイヤルナイツとは異なる出で立ちの者達、その中の一人の赤い髪の少女が声を上げる。 「サイバードラモンが上空に巨大なデータを検知しました!上に何か居ます!」 「何!?」 どうやら『仕込み』に気がついたらしい だったら偽装はもう不要だろう 「ジズモン、ステルスを解除して」 私はデジヴァイスからジズモンへと呼びかける。 オグドモンの配下ジズモンには、光の屈折を自在に操る力がある。 その力を利用して視覚情報を欺瞞、私達のはるか上空に待機させていた。 そのステルスが解除され、空にその全容が浮かび上がる ─ジズモン ウイルス種 超究極体 魔獣型/聖獣型 水晶のような身体は光を反射し、美しい輝きを放つ。 光を操る蒼き巨鳥、それがジズモンだ。 そしてジズモンの脚に掴まれるように…つまりは懸架されたもう一体のデジモンが居る。 ─ベヒーモン ウイルス種 超究極体 魔獣型/サイボーグ型 牡鹿のように荒々しく前方に突き出た2本と、顎の下に装着されたアーマーから伸びる機械の角、3本の角を頭部に持ち、そしてケーブルで出来た鬣を持つ四脚のサイボーグ型デジモン。 これが翠の巨獣、ベヒーモンだ。 ジズモンを超える巨体を持つベヒーモンは今、ジズモンに吊り下げられる形で宙にいる 何のためか、決まっている。 高高度からの重量物の落下、極めてシンプルな攻撃のためだ。 「総員、防御姿勢!」 ドゥフトモンが指示を出すが、もう遅い。 「「ベヒーモン」」 私達は声を合わせ、上空の2人に攻撃指示を出す。 「「踏み潰せ」」 ジズモンから投下されたベヒーモンが彼らに向けて落下してくる。 脚部のブースターを使って落下軌道を修正しているので、外しはしない。 『ペース』 純然たる質量攻撃が大地と海に叩きつけられ、轟音と衝撃が地をめくり、波を荒立たせる。 開戦の号砲としては丁度いいだろう。 ─ 舞い上がった土煙で周囲が覆われ、彼らの姿は見えない。 果たして不意打ちは成功しただろうか。 「ねぇオグドモン」 「何だ」 「こういう場面に相応しい言葉は何だと思う?」 「知らん」 古今東西、姿が見えなくなった敵に対して使う言葉は決まっている 「やったか」 『プラズマシュート!』 『ペンドラゴンズグローリー!』 黄金の光球と紫の光条が周囲を覆う土煙を切り裂き吹き飛ばす。 その2つの行き先は当然こちらだが… 「ベヒーモン」 ベヒーモンの頭部を覆うクロンデジゾイド製の装甲が輝きを放ち、障壁が展開される。 光球と光条はそれに飲み込まれ打ち消されていった。 土煙の中から姿を表した者達、ジエスモン、ライジルドモン、マグナモン、クレニアムモン、そしてエグザモン。 防御を得意とするデジモン達が矢面に立ち、その後ろに彼らのパートナーや他のデジモンたちを護っている。 …どうやら大したダメージにはならなかったらしい。 「…鉄塚クロウ」 「あ?何だよ」 「僕だけ微妙にライジルドモンの防御範囲から外れているのは気の所為か?」 「あー…気の所為だよ気の所為」 「お前な…」 「大体お前等無傷じゃねーかよ!」 白金のデュランダモンと共に居る男が、黒赤のライジルドモンのパートナーと言い争う…というよりはじゃれ合っているように見える、仲間割れには期待しないほうが良さそうだ。 「マグナモン」 「イエス、マスター」 ロイヤルナイツの一人、黄金の聖騎士マグナモンが飛び出し、ベヒーモン…を無視し、そのまま飛び立ち上空のジズモンへと向かってくる。 「ジズモンは俺達が貰う、予定通りオグドモンはお前たちでやれ」 「貴様話を聞いていたのか、ジズモンはあらゆる光学兵器を屈折させ跳ね返してくる、お前たちでは」 「相性が悪い、だろ?、カードスラッシュ!」 マグナモンのパートナー、青い髪の男は手にしたデジヴァイス、ディーアークと呼ばれる機種のそれにカードを読み取らせていく。 「高速プラグインD、防御プラグインC、まずはこんなところか」 プラグインと呼ばれるカードの力を得て、飛翔するマグナモンの速度がぐん、と跳ね上がる。 「何故ジズモンを選んだ?」 「分が悪い相手の方が戦っていて面白い、それ以外に理由はない」 男がドゥフトモンにそう返すと、ドゥフトモンは呆れた目をして首を静かに横に振った。 「ジズモン、迎撃して」 『ルークス』 ジズモンの翼が煌めき、マグナモンに向けて無数のレーザーが放たれる。 対するマグナモンはそれを一切避けずに真っすぐ突っ込んでくる。 当然真正面からレーザーが着弾する、が全てその黄金の装甲に弾かれていく。 そして弾かれたレーザーをジズモンが更にその身で屈折させ…を際限なく繰り返し、最後にはあらぬ方向へと飛んでいった。 「なるほど、確かに埒が明かないな」 面白い。などと男は呟いている 「私達も行こう!エグザモン!」 「あぁ!」 強靭な防御力を誇る翼カレドヴールフで守りを固めていた巨竜が翼を広げ、ジズモン目掛けて飛翔する。 「アンブロシウス、弱体化(デバフ)弾ロード!」 エグザモンの背に乗る少女がデジヴァイスを操作する。 エグザモンは実体化(ロード)された特殊弾を受け取り、手にした銃槍アンブロシウスにそれを装填する。 「『アンブロシウス!』発射(ファイア)!」 エグザモンはアンブロシウスをジズモンに構え、引き金を引く 対するジズモンはレーザーの照射をマグナモンへ集中させているため、反応が遅れている。 成る程、攻撃をマグナモンで引き付けて、ジズモンが反射できない実弾による攻撃を通す連携攻撃と言ったところか。 だが、連携できるのは彼らだけではない。 「ベヒーモン、ジズモンの援護と攻撃を」 『コルヌ』 ベヒーモンの3本の角から光が迸り、それぞれから光条が放たれる。 2本はロイヤルナイツ達に、1本は上空で戦うジズモン達に向けて。 上空に向けて放ったレーザーをベヒーモンは横薙ぎに払い、エグザモンの銃弾を迎撃する。 「ぬぅ…厄介な連携を!」 「どうする、ドゥフトモン、こう出鱈目に攻撃をばら撒かれては身動きが取れん」 ジエスモンの「アト」「ルネ」「ポル」、三体の作るフィールドに守られたロイヤルナイツ達が話し合っている。 作戦会議中と言ったところか。 ─ 「どうする、ドゥフトモン、こう出鱈目に攻撃をばら撒かれては身動きが取れん」 クレニアムモンが問う 「先ずは連中を分断しなければ話にならん、ベヒーモンのシールドがあっては遠距離攻撃も通用しない」 対ジズモンの人選は今のままで良いだろう、残すはベヒーモンとオグドモン本体、そしてこの場に残るニンゲン達の防衛だ。 「上はこのまま2人に任せ、ジズモンを引き離す」 「ベヒーモンはクロウ、アカネ、ライジルドモンとサイバードラモンでお前達が攻撃を引きつけろ、そしてオグドモンには接近戦が出来る者達をあてる」 「おう」 「はい!」 「アルファモン、シュヴァルツ、結愛、影太郎、お前たちがオグドモンを攻撃しろ」 彼らは静かに頷き 「…真ちゃん」 結愛だけが、オグドモンのパートナーの名を呟いた。 「ジエスモン、クレニアムモン、お前たちはこの場に残るニンゲン達の護衛だ」 クレニアムモン、彼女は魔楯アヴァロンを掲げて応じる。 「守りは私とジエスモンに任せろ、皆には傷一つ付けさせん」 「ニア様ー!」 クレニアムモンの言葉を聞いてジエスモンは頷き、彼女のパートナーである海砂緒は黄色い声を上げる。 ぶんぶん、と腕を振るたびにその腕に巻かれたデジヴァイスからクレニアムモンに向けエネルギーが流れているように見えるのは気の所為だろうか。 「アスタモン」 私はBVの一人、シュヴァルツのパートナーであるアスタモンに呼びかける。 「へぇ、何でしょうダンナぁ」 私の感が鈍っていないのなら、やはり彼は 「頼んだぞ、……オメガモン」 「……サァて、何のことやら」 一瞬、驚愕に目を見開いたように見えたのは恐らく気の所為ではない。 「よし、各員、配置に付け!」 私の号令とともに皆が一斉に飛び出していく。 と、残った者の一人から声がかかる。 「…うちは?」 「……お前は残って私と作戦を考えろ」 四季 めもり、制御不能の彼女の出番は今ではない。 ─ 「よし、各員、配置に付け!」 ドゥフトモンの号令とともに彼らが一斉に飛び出してくる。 2組はベヒーモンへ、4組が真っすぐこちらにだ。 更にデジモンと共に飛び立すものとそうでない者に別れ、残った者達はクレニアムモンとジエスモンに守られている。 「オグドモン、私達も始めようか」 「あぁ、向こうから突っ込んでくると言うなら好都合だ」 ─悪意を持つ者の、自身への攻撃を無力化する オグドモンのこの力はコキュートスでは役立っても、デジタルワールドの秩序を守るロイヤルナイツ達相手では全く機能しない。 彼らが攻撃を仕掛けてくるなら迎撃が必要だ。 オグドモンの胴体から吊り下げられるように伸びた下半身、そこにある巨大な口が大きく開く。 『カテドラール!』 雷鳴の如き咆哮、その衝撃を彼らに向けて放った。 「フンッ」 黒金の聖騎士、アルファモンが指で宙にデジ文字を書く。 そのデジ文字達は魔法陣として大きく展開し、オグドモンの攻撃を防ぐ。 『ヘルファイア!』 アルファモンの防御の後ろからアスタモンがマシンガン「オーロサルモン」を斉射する。 意思を持つ弾丸は複雑怪奇な軌道を描きオグドモンに… ではない、この軌道、私を直接狙っている。 『オグドアド』 私は虚空から剣を引き抜き、銃弾を防ぐ。 「やっぱりそう簡単には終わらせてくれませんネェ…」 アスタモンはそう言うと残念そうに銃のマガジンを交換し始めた。 「何だ、あの剣は」 「貴様こそ王竜剣は何処へ行った、アルファモン」 見れば確かにアルファモンがその手に持つ剣は、聖剣グレイダルファーでも王竜剣でもない紫色の剣だ。 「『紫電の霊剣』、これは私がニンゲンと力を合わせることで手にした新たなる力だ」 「そうか、この剣は『オグドアド』…私がニンゲンと力を合わせることで手にした新たなる力だ」 オグドモンは皮肉を込めて同じ言葉を返す。 『オグドアド』、それがこの剣の柄にデジ文字で刻まれた銘だ。 オグドモンの脚に突き刺さった剣は、七大魔王それぞれを模した形状をしている。 この状態ではオグドモンは全力を発揮できるが、私が剣として振るうことは出来ない。 そこでオグドモンが新たに生み出したのが、オグドモン自身を模したこの剣だ。 刀身自体はシンプルな直剣だが、柄からオグドモンの脚を模したアームが螺旋を描いて刀身に絡みつき、槍のようなフォルムを取っている。 『カテドラール!』 「咆哮が来るぞ!備えろ!」 かかった。 オグドモンの下の口から放たれる咆哮に警戒していた彼ら。 そこにオグドモンは頭部から紫色の光条を放つ。 「何!?」 「チッ!切り裂け!デュランダモン!」 『ツヴァングレンツェ!』 アルファモンの守りの後ろから飛び出たデュランダモンが、両手の剣で光条を切り裂く。 …あの青いオーラを纏った剣は光すら切り裂くらしい。 「…あんな攻撃は知らない、カテドラールはオグドモンが口から吐き出す破壊の衝撃だ」 「奏でる、と言って欲しいものだな」 『グラドゥス!』 オグドモンはそのまま脚を高く上げ、彼らに向かって振り下ろす。 「皆、散れ!」 アルファモンの後ろに固まっていた彼らは散開し、振り下ろされる脚を避ける。 「言ったはずだぞ、ニンゲンと力を合わせることで新たな力を手にしたと」 海面に叩きつけられた脚は高波を生み出し、孤島の沿岸部を波が襲う。 が、先頭に立つドゥフトモンは微動だせずオグドモンを睨みつけている。 「アスタモン、出し惜しみしてる余裕はなさそうだよ」 「仕方無いですネェ…一丁やってやりましょうか、相棒」 「アスタモン、進化!」 スーツに身を包んだダークエリアの貴公子が黒き光を放ち変貌していく。 その光が「騎士」を形どったと同時に、振り下ろされたオグドモンの脚が彼に直撃する。 「…やったか」 オグドモンは静かにそう呟いた。 …間違いなく、そんなことは欠片も思っていない。 『キャノン・オブ・カテドラル!』 オグドモンの脚に衝撃が走り、振り下ろした脚が跳ね飛ばされる。 が、オグドモンの脚は7本もある、その程度ではバランスを崩したりはしない。 至近距離で放った自らの攻撃で出来た煙。 その煙が晴れた時、黒き聖騎士がそこに在った。 「我が名は終焉の黒騎士、オメガモンズワルト、全ての悲劇に終わりを告げる銃、全ての悪意に終わりを齎す剣!」 オメガモンズワルト、そう名乗る黒騎士はオグドモンに左手の剣を向ける 「オグドモン、デジタルワールド全ての罪を束ねた貴様に、我が裁きを下す!」 「クククッ…」 「クハハハハハハハハハ!!!!」 オグドモンはその言葉を聞き、大きく笑い声を上げる 「全ての罪を贖罪する力を持つ私を!「裁く」か!笑わせる!」 『カテドラール!!』 オグドモンは咆哮と光条を両方同時にオメガモンズワルトへと放つ。 「オメガモンズワルト!使え!」 白金のデュランダモンがそう叫び、空中に無数の氷の刃が展開される。 『キャノン・オブ・カテドラル』 オメガモンズワルトは右手の砲を構え、放つ 放たれた冷凍光線が細かく分裂し、デュランダモンの放った氷の刃へと着弾する。 そうして空中に無数の氷柱を作り出し、カテドラールの光条を屈折させ拡散させていく。 光の屈折と拡散、どうやら向こうはジズモンと同じことをしたようだ。 もう一方、咆哮の衝撃でそれらは全て砕け散っていったが、同じ攻撃をしても同じ対処をされるだけだろう。 「私も!」 「駄目だ、結愛くん」 デュランダモンのパートナーと、グラウモンが言葉をかわしている。 黒きグラウモン、それが結愛と呼ばれているということは、あれがデジモンと融合するマトリクスエボリューションというものか 「君のマトリクスエボリューションには時間制限がある、今はまだレベルを抑えてくれ」 「でも!」 「君の出番はオグドモンに乗り込んだ後だろう、彼女と話をするんじゃなかったのか」 「別に、話ならこの場で聞くけれど?」 彼らの会話が漏れ聞こえてきたので、彼女、安里結愛へと向けて言葉をかける。 「私はそんなことは知らん、『グラドゥス!』」 が、オグドモンはそれを無視し攻撃を続ける。 「それよりマコト、ベヒーモンの準備はどうだ」 私はデジヴァイスから展開したインターフェイスを覗き込む。 確認するのはベヒーモンのステータスだ。 「……うん、もう撃てるよ」 「そうか、では」 オグドモンは、対する者達全てを一瞥する。 「このまま膠着を続けていても意味はない、一気に叩き潰す」 「オグドモン、貴様何をする気だ」 アルファモンがそう問う。 「貴様らと同じだ、2体のデジモンの技をかけ合わせ、強力な技を生み出す」 「何を…」 ─総員!防御しろ! 「ドゥフトモン?」 どうやら向こうも察知したらしく、ドゥフトモンから通信が入ったようだ。 ─上から来る! 「ベヒーモン」 私はデジヴァイスからベヒーモンへ合図する。 「撃て」 『レフレクシオ』 空に煌めきが走る。 瞬間、上空から無数のレーザーが死の雨となって降り注いだ。 ─ ─ドゥフトモン! 「クロウか、どうした」 ベヒーモンへ向かったクロウから通信が入る。 ─コイツ、ベヒーモンの様子がおかしい!いきなり何もしてこなくなりやがった! 「…何?」 ─今までレーザーで反撃してきたのに、今はこっちが攻撃しても何とも言わねぇ! ライジルドモンが言葉を引き継ぎ続ける。 「ドゥフトモン!サイバードラモンがベヒーモン頭部に大出力のエネルギーの流れを察知!」 ─おい…コイツ…でかいのをぶちかます気だぞ! ここからでも視認出来るほど巨体なエネルギーの塊が、ベヒーモンの頭部から発せられている。 一体何処を狙っている、何処に守りを固めるべきだ? ─……ヤバイ。 ─……ヤベェ。 「なんだ、クロウ、ライジルドモン、はっきりと言え!」 ─コイツ、ジズモンを狙ってる! 「っ」 ベヒーモンが何処に照準を合わせているか、だと? 「全て」だ、この場にいる者達全員を射程に収めている。 「総員!防御しろ!」 緊急回線を開き、全員に警告する。 「上から来る!」 ベヒーモンが最大出力と思しきレーザーを、上空のジズモンに向けて放つ それを「受け取った」ジズモンは、自身の力でそれを屈折、反射させ… 周囲一体全てに拡散させた。 ジズモンを反射鏡とした超広域の拡散レーザー。 雨のように降り注ぐそれに、逃げ場は何処にもない。 ─ 「ぐっ…」 アルファモンが魔法陣の障壁を最大まで展開し、その中に他の皆を入れて降り注ぐレーザーを防いでいる。 「傘みたいだね」 「笑えない…」 「冗談だなっ!」 デュランダモンとパートナーの男が言う。 彼らは先程のオメガモンズワルトとの連携の氷柱形成を繰り返し、少しでもレーザーの着弾を防いでいる。 「見て!」 黒きグラウモンがオグドモンを指差す 「オグドモンの居る部分だけ、レーザーが降ってない!」 どうやら気がついたらしい。 「私がちゃんと制御してるからね」 『レフレクシオ』、これがベヒーモンとジズモンの連携攻撃だ。 ベヒーモンが最大までチャージしたレーザーをジズモンに向けて放ち、ジズモンは自身の力でそれを屈折させ超広範囲にレーザーの雨を降らせる。 しかし無差別ではない、ちゃんと私達の上は避けてるし、ベヒーモンも自身の障壁で防げるとは言え当たる数は最小限にしてある。 当然そのエリアはレーザーが降り注ぐ密度が低いが、そこに留まることを許すほど甘くはない。 ベヒーモンはその巨体の陰に隠れようとするライジルドモンと赤いサイバードラモンを、尻尾のブレードと備え付けられた機銃で振り払う。 ジズモンはマグナモンとエグザモンより高度を高く保つように動き、拡散レーザーの一部を彼らに向けることで最接近を防いでいる。 そして私達は 『カテドラール!』 オグドモンに接近しようとする彼らを咆哮で吹き飛ばす。 守りを上方向に固めている彼らにそれを防ぐ術はなく、破壊の衝撃波が側面から叩きつけられる。 「きゃあっ!?」 「いかん、結愛くん!」 衝撃に耐えきれずに、黒きグラウモンはアルファモンの防御範囲から投げ出される。 黒きグラウモン、安里 結愛に向け死の雨が降り注ぐ、それを阻むものはもう何もなく。 「先ずは一人」 「取った」 私達がそう宣言した瞬間に。 『クロノ・ステイシス』 誰かの言葉が聞こえたと同時、彼女の姿が一瞬にしてその場から消えた。 ─ 「ちぃっ…」 地面に着弾したレーザーが岩肌を削り取り、飛び跳ねた細かな破片が私の頬を裂く。 ジエスモンとクレニアムモンの防御があるとは言え、守りが薄い部分は存在するのだ。 「連中がこのような連携攻撃を見せてくるとはな…」 魔楯を高く掲げたクレニアムモンがそう呟く。 「あぁ、おかげで防戦一方にまで押し戻された」 今の状況、はっきり言って非常に不利だ。 全員の手が防御に回され、攻め手が足りていない、このままではじわじわと此方がすり減っていくのみ。 私は救援を要請するため、インターフェイスを呼び出す。 と同時 ─きゃあっ!? ─いかん、結愛くん! 「どうした!」 通信回線から悲鳴が聞こえてくる。 ─結愛くんが弾き出された!不味い! 「何っ!」 いかん、この状態では彼女を守るものは何も無い。 そんな中に生身で放り出されては彼女達3人の命が危ない 最悪の事態が頭をよぎった瞬間に 『クロノ・ステイシス』 この場の誰のものでもない声が響いた。 その言葉の後、何の前触れもなく我々の前に姿を表した者がいる。 金属の骨格を持ち、翼を広げたその姿。 「き、貴様は!」 ネオデスジェネラル、土竜将軍「メタルサタモン」であった。 ─ドゥフトモン!結愛くんの姿が消えた! 「彼女は無事だ、我々の前に居る」 ─何…? 「……」 我々の前に突如として姿を見せたスカルサタモン その腕には黒きグラウモンが抱かれている。 「貴様、何故ここに居る」 「…」 スカルサタモンは私の問いには答えず、抱えたグラウモンを地面に降ろす。 「うぅん…」 「立ちなさい、すぐ立ち上がらなければチャンスは逃げていく」 「あ、ありがとうございます…?」 グラウモンは困惑を残したままその場に立ち上がる。 そのまま振り返り、その場を立ち去ろうとするスカルサタモンに問う 「待て、何故彼女を助けた?」 「…『クロノ・ステイシス』」 「待て!」 スカルサタモンは私の言葉を無視し、現れた時と同様に一瞬にして消え去った。 ─ 『クロノ・ステイシス』 「おや、戻りましたか、メタルサタモン」 黒きグラウモンが降り注ぐ光条に晒されそうになった瞬間に、彼は飛び出していた。 彼の力である『クロノ・ステイスイス』で時間をごく僅かに停止し、その刹那の時間で黒きグラウモンを救出しロイヤルナイツ達の元に送る。 見事な手際だと感心せざる得ない。 …それが敵でなければ。 「それで、どうしてあの黒いグラウモンを助けたのです?」 彼は瞳を閉じ、語り始める 「確かに、ロイヤルナイツ共は敵である、その「波」に飲まれることは容易いだろう、だが」 「誰かの悲鳴のような声なき叫び、それを放っておくことは出来なかった…それだけである、ファーヴニモン」 「……まぁいいでしょう、この状況下で無為に駒を失うことはありません」 デジモンイレイザー様の命で我々ネオデスジェネラルが揃った、それほどの事態の前でそんな些事、重要ではない。 「で?あの新顔の日竜サマはまだ来ねぇのかよ」 ウォーティラノモンがそう問う。 「えぇ、よりによってこの過大なトラフィックの中、あの巨体のまま自身を転送しようとしているのです、来ませんよ…『アレ』は」 私の意思はデジモンイレイザー様の意思である、なとど騙り威張り散らすあのズィードクズルーモン。 場に現れたときのインパクトが重要だ、などと言い超究極体である自身をそのままこの場に転送しようとしたのだ。 ただでさえオグドモン、ジズモン、ベヒーモンの超究極体が顕現し、果てはロイヤルナイツ共まで集ったこの地に更に超究極体など転送したら、過大な負荷で大規模な通信遅延が起こることくらい想像できなかったのだろうか。 「愚かな」 話を聞いていたのか、テラケルモンがそう呟く 「ハッ、そりゃあいいぜ、うるさいのが来る前に俺達だけでやっちまおう」 ウォーティラノモンがそれを鼻で笑う。 「うむ、我も賛成だ」 そう答えたのはドラグーンヤンマモン、テラケルモンはそれに合わせ静かに頷いた。 残る3人はどうだろうか。 「…私も異論はない」 「元より私は土竜代理、集まって高まる皆の意思に従うのみ」 オキグルモン、メタルサタモンからも同意が得られた。 後は一人 「…」 「オブシディアナ・アルケア、君は?」 「…えっ?」 オキグルモンに問われ、驚いたような表情を見せる。 「えっあっ私…じゃない!」 彼女は息を整えるように一度目を閉じ、きりっ、と見開いた 「余も賛成である」 あの人ちょっと苦手だし…と小声で続く。 「所で」 「ニョイハゴロモンは何処に」 テラケルモンが問う 「あぁ…彼女も来ませんよ、「ロイヤルナイツの一人を抑えている」そう一方的に告げて連絡を絶ちました」 「不可思議な」 「えぇ全く、デジモンイレイザー様からの直接の命だというのに」 私はテラケルモンとの会話を切り上げて、遠方のオグドモンへと向き直る。 そろそろ初めましょう。 「さて、皆の意見も揃った所で」 私は『フロッティ』を構え、皆に告げる。 「派手に乗り込みましょうか」 私に合わせるように、皆一様に得物を構える。 『ヌークリアブレード』 『クトネシリカ』 『偽牙虞玲刀』 『ドラモンチョッパー』 『サークル・ナーリア』 『フロッティ』 「『デジコードロード!』勇気の鋼竜!(メタルグレイモン)!」 「ぶちかませ!」 ウォーティラノモンの言葉で、皆一斉に『オグドモンへ』攻撃を放った。 ─ 「ぐっ…流石に…保たん!」 消えた黒きグラウモンは気がかりだが、今は目の前のアルファモン、オメガモンズワルト、デュランダモンに集中しよう。 彼らの防御の要はアルファモン、まずは彼を落とそう。 後の2人は時間の問題だろう。 「オグドモン」 「狙いは分かっている」 オグドモンはそう言うと、口を大きく開き咆哮と光条の溜めを取る。 「不味い!」 彼らの表情が万事休すか、と言った顔に変わる 「落ちろ、アルファモン!『カテド…」 『テラーズイグザーション!』 『氷雨』 『炎竜握』 『ライトニングオーケストラ!』 『サークル・ナーリア』 『ニーベルング』 『ギガデストロイヤー!』 オグドモンの致命打が放たれようとした瞬間、遠方より七色の攻撃が飛来した。 それらの大半はオグドモンに着弾する前にかき消されていったが、一つだけすり抜けるようにオグドモンの頭部に被弾するものがある。 ギガデストロイヤー、メタルグレイモンの生体ミサイルだ。 横から殴るように着弾したミサイルを受け、オグドモンは鬱陶しそうにカテドラールの溜めを中断する。 「何者だ」 オグドモンの視線の先、そこにはロイヤルナイツ達とは別の方角に集う者達が居た。 「貴様らは!」 どうやらアルファモンは彼らを知っているらしい。 「何者か、ですか、そう問われるのは久しいですね」 黒き竜戦士が答える。 「大抵のものは私達の姿を見た途端に逃げだすか、彼らロイヤルナイツの様に切りかかってくるか、なのですが」 「私達の名を知らないとは今まで一体何処に居たのでしょう…おっと、君は確かコキュートスの奥底に引き籠もっていたのでしたね?」 黒き竜戦士は、声に嘲笑を込めて言う。 「…何だと」 彼はオグドモンの神経を逆なでするだけし、それを無視して言葉を続けた。 「問われたのなら答えましょう」 彼らは各々が持つ得物を高く掲げ、名乗りを上げていく。 「■竜将軍、ウォーティラノモン」 「火竜将軍、テラケルモン」 「水竜将軍、オキグルモン」 「木竜将軍、ドラグーンヤンマモン」 「金竜将軍、ファーヴニモン」 「土竜将軍代理、メタルサタモン」 「黒曜将軍、オブシディアナ・アルケア」 「我らネオデスジェネラル、七曜将軍…デジモンイレイザー様の忠実なる僕です」 「…プレイリモンも居るよ!」 ─ ─我らネオデスジェネラル、七曜将軍…デジモンイレイザー様の忠実なる僕です 「やはり他の将軍たちも来ていたか!」 メタルサタモンのみがこの場に来ているとは考えにくかったが、まさかネオデスジェネラルが7人も揃うとは。 「貴様ら!何故この場に現れた!」 ─おや、その声はドゥフトモン、いきなり通信に割り込んでくるとはお行儀が悪いですね。 「前置きはいい、答えろ!」 ─あぁ全くだ!何しに来やがった!ファーヴニモン! ─おやおやおや、竜帝までお見えとは、君はロイヤルナイツとは袂を分かったはずでは? ─ロイヤルナイツなんか関係ない!俺達はデジタルワールドを、この世界を守りに来ただけだ! ─そうですか、なら今は引っ込んで居てください、この場で私を事を交えても何の意味もないことくらい分かるでしょう? ─あぁ!? ─エグザモン、落ち着いて、ムカつくけどアイツの言うとおりだよ。 「…そろそろ良いか?」 乗り込んできたエグザモンに話の流れを取られたが、本題に戻るべきだ。 ─ええ、どうぞ。 「今一度問おう、何をしに表れた」 ─デジモンイレイザー様の命により、オグドモンを討ちに来ました。 「デジモンイレイザーが?何故だ」 ─さぁ?デジモンイレイザー様のお考えは私程度では計りかねます。 本人たちも知らぬのであれば、これ以上の追求は無意味だろう、納得はいかないが。 「つまり貴様達は今この場に限っては味方、という認識でよいのか」 ─はい、構いません、まぁ積極的に君達を助けるつもりはありませんが、背中から撃たない約束だけはしましょう。 「…敵とは言え感謝しよう、正直、手数が足りていなかった所だ」 ─礼は不要です、私達も君達も目の前に敵が居て、それぞれが勝手に敵と戦うだけです、仲間などではありませんし、私も竜帝と力を合わせるなど御免ですので。 ─さて、私達はベヒーモンを取ります、まずはアレを始末しないと始まりません。 「そうか、そちらは頼んだぞ」 ─はい、それでは。 通信を切り上げる前に、ふとした疑問を投げてみる。 「所で」 ─はい? 「七曜将軍、と名乗っていたが…七曜としては欠けが見えるのは気の所為か?」 特にウォーティラノモン、彼奴の名乗りにはノイズが走り、一体何竜なのか聞き取ることが出来なかった。 ─……それは君達ロイヤルナイツも同じでしょう。 「…如何にも」 ─ 「…デジモンイレイザー、か」 まさかこの局面でデジモンイレイザーが仕掛けてくるとは。 綴の一件以降音沙汰がなかったが、最悪のタイミングで姿を表してくれた。 彼らの狙いはベヒーモンのようで、流石にこのまま無抵抗でレフレクシオの照射を続けるという訳には行かない。 仕方ないが、彼らの対処に回そう。 「ベヒーモン、照射を中断してあの連中の対処を」 ベヒーモンはレーザーの照射を中止し、ネオデスジェネラル達にその巨体を向け始めた。 流石にベヒーモンほどの巨体となると、ただ身体の向きを変えるだけでも時間がかかる。 その間は障壁と尻尾に付けられた機銃くらいしか攻撃手段がない、間違いなく今が最大の隙だ。 私達も手早く目の前の彼らを片付けよう。 「ようやく、止んだか…」 彼らの防御を引き受けていたアルファモン。 しかし防御の為に展開した魔法陣は穴だらけで、彼自身も全身にダメージを負っている。 「戻れ、アルファモン、ここは僕達とオメガモンズワルトで引き受ける」 「しかし」 「行け!」 「…感謝する!」 白金のデュランダモンと黒きオメガモンに送られるように、アルファモンが離脱しようとする。 「逃さないよ」 『カテドラール!』 当たり前だが、黙って見送るつもりはない。 「させるか!『ツヴァングレンツェ!』」 アルファモンを狙って放ったカテドラールの光条を、再びデュランダモンの青白い刃が裂く。 「ぐっ…!」 光条の後から到達する咆哮は、オメガモンズワルトがその身で受け止めた。 だが 『グラドゥス!』 「なっ」 本来であれば、カテドラールの発射のためオグドモンはその7本の脚で踏ん張っている、しかし前の脚2本程度なら、実は浮かせていても問題なく撃てるのだ。 当然前の脚だけではその場から動くことは出来ない、が。 レフレクシオの回避のためオグドモンに接近しようとしていた彼ら、皮肉にもそれはグラドゥスの射程圏内に自らを収めていた。 光条、咆哮、打撃。 3重の攻撃が彼らを襲う。 オグドモンの巨大な脚、その2本がデュランダモンとオメガモンズワルトに着弾しようとした時 『ロケットメッサーァァァァ!!!!』 「どぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」 ベヒーモンの居る方角から飛来した『腕』と、そこから飛び降りた男。 2つの衝撃を受け、オグドモンのグラドゥスが横から弾かれる。 「ぐぬっ…」 前の脚2つを浮かせた状態で、かつその脚に衝撃を受けて流石のオグドモンも一瞬動きが固まる。 当然、カテドラールの照射も中断された。 ……いや待て。 あの飛来してきた腕、ロケットメッサーのほうは良い、アレはライジルドモンの必殺技だろう。 しかし問題はその腕から飛び降りた男のほうだ。 …どう見ても、あの男が素手でオグドモンの脚を殴り飛ばしたように見えた。 まさか、あれが噂に聞くデジソウルを纏う拳撃というものだろうか。 男は空中でライジルドモンの腕に回収され、ライジルドモンの本体に合流する。 「よう、影太郎、思ったよりピンチみてーだな」 「鉄塚クロウ…!お前、ベヒーモンは!」 「あぁ、アイツなら…」 鉄塚クロウと呼ばれた男は、突き立てた親指を背中越しに後ろに指す。 「ネオデスジェネラルの奴らに押し付けてきた!」 「なっ…」 「ドゥフトモンもそれでいいってよ」 「サイバードラモンは?」 「ダメージ受けて今休んでるぜ」 「無駄話は終わりだ!『カテドラール!』」 彼らの会話に差し込むように、オグドモンが攻撃を再開する。 狙いは勿論手負いのアルファモンだ、いまので距離を稼がれたとは言えまだ十分射程内にいる。 「させねーよ!」 ライジルドモンが車線上に割って入り、カテドラールの光条、続く咆哮の両方を受け止める。 流石は『盾』のLegend-Arms、厄介な防御力だ。 その力で今までベヒーモンの放つレーザーの囮を担っていたのだから当然かも知れない。 「逃げるやつの背中狙うとはひでぇお子様だな!」 ─私は別に逃げてなどいない…! 「…離脱した本人に突っ込まれているけれど」 「だー!良いんだよ細かいことは、どっちにしろ背中を狙うなんてセコイ真似許すかよ!」 流石にこの防御力が戦闘に加わられると少々不利だ、少し揺さぶってみよう。 「それより、本当にベヒーモンはいいの?守りの要だった貴方達が居なくなったら、今度こそベヒーモンを阻むものは居なくなるけど」 「あー、ネオデスジェネラルの連中だったら平気じゃねぇ?というか…」 男はニヤリ、と口角を上げる。 「そろそろ決着付くんじゃねーの?」 「何を…」 その時、ベヒーモンのいる方角から激しい光と、後に轟音が鳴り響く。 「くっ…」 目を開けていられないほどの強烈な光が収まった時。 「そんな」 「…馬鹿な」 そこには、身体の端の方から徐々に消える…つまりは、デリートされゆくベヒーモンの姿があった。 ─ 「さて」 任せろ、とドゥフトモンに宣言したは良いものの。 「よっしゃ!突撃だ」 「止めたほうが良いですよ、ウォーティラノモン」 私は飛び出そうとするウォーティラノモンを呼び止める。 「なんでだよ!」 「君は見ていなかったのですか?オグドモンに我々の攻撃は掻き消されていたでしょう」 「あ!?そうだっけ!?…そうだったわ!」 「『悪意ある者の自身への攻撃を無力化する』…オグドモンの持つ力が私達に適応されているのです、どうやらこの場所は影響範囲外のようですが、これ以上ベヒーモンに接近するのは危険でしょう」 「つまり、我々はこの場所からベヒーモンを討つ必要がある、と」 ドラグーンヤンマモンがそう言う。 「えぇ、その通りです、誰か案のある者は居ますか?」 皆の間にしばしの沈黙が流れる。 その後に、オキグルモンがゆっくりと語りだした。 「…私に案がある」 オキグルモンはテラケルモンへ向き、言葉を続ける。 「力を貸して欲しい、テラケルモン」 「承知」 即答ですか。 「では、皆で詳しく聞きましょうか」 「…作戦はこうだ」 ─ オキグルモンによる作戦に皆が同意し、準備を始めた所 「あの…」 黒曜将軍がおずおずといった様子で近づいてくる。 「なんです?オブシディアナ・アルケア」 「この作戦、わた…余の出番は?」 「君は…オグドモンに直接向かえ」 オキグルモンがそう答える。 「え…っ!?いいの…じゃなく、良いのか?」 オキグルモンは頷き続ける 「あの時、君の攻撃だけはオグドモンに無力化されなかった、理由はわからないが」 「確かに…ギガデストロイヤーだけは当たってた」 「恐らく、私達の中でオグドモンに攻撃を与えられるのは君しか居ない、だから行くんだ」 彼女は他のネオデスジェネラル達を見回す。 静かに頷く者 「おう、派手にやって来な!」 「追い風は仲間のYell、目指す場所に滑り込め!」 言葉を返す者と様々だが、皆彼女を送り出すつもりだ。 「皆…!分かった!余に任せておけ!」 「『デジコードロード!』友情の人狼(ワーガルルモン)!」 デジコードロードにより彼女の背中に翼、ワーガルルモンのサジタリウスが出現する。 プレイリモンはその背中に飛び乗り、準備万端と言ったところだろう。 「待っていろ!贖罪の超魔王!余がその首貰い受ける!」 そう宣言し、彼女は飛び立った。 「…黒曜将軍のさぁ、あのツノが完璧に上がったらさァ」 「ウォーティラノモン?」 ウォーティラノモンが、誰に聞かせるでもなくつぶやき始める。 「究極体もロード出来るわけだよな、そうなったら」 「メタルガルルモンになってもらいてぇなぁ…そしたら俺様とジョグレスするんだ」 …最後まで聞いて損しました 「最低ですね」 「最低だな」 「なんで!?」 「そなた達、いい加減始めよう」 テラケルモンの言葉で、皆準備に戻った。 さて、と 「では、準備はいいですか?皆」 全員静かに頷き、まずは先鋒のオキグルモンとテラケルモンが前に立つ。 「開始」 テラケルモンが私達の上空にワープし、その胸部の結晶体のエネルギーの開放を始める。 そのエネルギーが狙う先はベヒーモンではない。 「耐えろよ、オキグルモン」 「見くびるなよ」 『ガイアメテオ』 テラケルモンがその身に秘めた兆高温のエネルギー、それをオキグルモンに向けて放った。 『クトネシリカ!』 オキグルモンは叩きつけられる兆高温を、その手に持つクトネシリカで吸収してゆく。 「オォォォォォォォォォ!!!!」 オキグルモンは叫びを上げながらそれに耐え、クトネシリカにエネルギーが蓄積されてゆく。 やがて兆高温の熱量はすべて消え去り、剣に全ての力が集められた。 そうして 『氷焉世紀!』 オキグルモンは熱の吸収によって生じる温度の低下、その力を集めた氷の斬撃を放ち。 『蒼燭輪廻!』 返す刃で吸収した兆高温のエネルギーを集めた蒼き炎の斬撃を放った。 これでデジタルワールドの演算可能な限界点の零下、そして限界点の分子運動。 プラスの極点とマイナスの極点。 その2つの力を持つ斬撃がベヒーモンに向けて放たれることになった。 …ここまでが第一フェイズだ。 『ヌークリアァ!ブレードぉ!』 その斬撃に続くように放たれるウォーティラノモンの斬撃。 彼の剣はあらゆる物質を切り裂くことが出来る、勿論、ベヒーモンの装甲もだ。 「ドラグーンヤンマモン!今です!」 「どっせぇい!」 私自身のクロンデジゾイドを変化させて作り出した即席のブースターの加速、そして地上にて圧倒的な膂力を誇るドラグーンヤンマモンの力。 それにより「私自身」を打ち出す。 あとは…メタルサタモン、彼に掛かっている。 やがて先に放たれたオキグルモンの斬撃はベヒーモンの障壁に激突し、 激しい光を放った後に、ベヒーモンの障壁は砕け散った。 その後ろから追う様に届くウォーティラノモンの斬撃が、ベヒーモンの頭部を覆うクロンデジゾイドの装甲を切り裂き、頭部に亀裂を入れた。 「ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」 悲鳴とも雄叫びともつかない音を上げ、ベヒーモンが障壁の再展開を始めようとする。 しかし 『クロノ・ステイシス』 メタルサタモンの力によりほんの一瞬、ベヒーモンの動きが完全停止する。 「それで十分です、ハアッ!」 私はブースターで自身の軌道を修正し、ウォーティラノモンの作った装甲の亀裂へとまっすぐに飛び込む。 「取りました」 そうして私はクロンデジゾイドを自在に操る力を使い ベヒーモンを内部からグチャグチャに作り変えた。 その直後にクロノ・ステイシスの効果が切れ、ベヒーモンが動き… 出さない。 「────」 ベヒーモンは断末魔も上げられず、また苦痛に身を捩ることも出来ずに消滅していく。 「当然です、内部構造が破綻しているのですから、サイボーグ型デジモンが動けるはずがない」 ベヒーモンの消滅を見届けた私は、オグドモンの能力が及ぶ前に退散を始めた、その最中に 「ミッションコンプリート、とでも言いましょうか」 そう独りごち、皆の元へ戻った。 ─ ベヒーモンの居た方角から光の残滓が此方に集まってくる。 その光には見覚えがある、デリートされたデジモンがデジタマへと還る光だ。 その光は我が主、イグドラシルの少女HALの元へと集まり、デジタマの形を取り始めた。 「…お疲れ様でした、ベヒーモン」 彼女は形を成したデジタマを労るように撫でる。 「今は、ゆっくりと眠りなさい」 ─ベヒーモンとジズモンはイグドラシルが直接デザインした特別なデジモンである。 ならば、そのデジタマが還る場所も主の元、ということなのだろう。 「向こうの最大火力が消えたか、ならば」 クレニアムモンはジエスモンに向き、告げる 「行け、ジエスモン、八千代、ここの守りは私に任せろ」 「…いいのか?」 「構わん、行け!ジズモンに有効打を与えられるのは剣を持つ貴様達だ!」 「分かった!守りは頼んだ!」 そのまま飛び立とうとする彼らを主が呼び止める。 「八千代!」 「ジズモンを…開放してあげてください」 「……あぁ!」 主の祈りが力となってジエスモン、八千代を包みこんでいく。 「バースト!」 「チャージ!」 二人の身体は一つに合一し、白き剣たるジエスモンに赤が混ざっていく。 ─ジエスモンX抗体 究極体 データ種 聖騎士型 今度こそ彼らは、ジズモンへ向け飛び立った。 ─ 「戻ったか、ファーヴニモン」 「えぇ、……大丈夫ですか、オキグルモンは」 オキグルモンは膝をつき、全力で自身に蓄積された熱の排熱を行っている。 「…この程度、…問題、ない」 「とてもそうは見えませんが」 「我の極大の熱量を受け止めたのだ、無理もないだろう」 そう言うテラケルモンも、見れば身体の結晶体が放つ光が弱々しくなっている。 「そういう君も大分無理をして立っているように見えますが」 「…それはそなたもであろう」 おや、気が付かれましたか 「えぇ、実をいうと無茶な力の使い方をしたせいで、暫くの間クロンデジゾイドを操れません」 「動けるのは俺様とドラグーンヤンマモン、メタルサタモンだけか」 「我ら3人だけでジズモンを落としにかかるか?」 「いいえ、このままここで観戦と致しましょう」 私は手頃な地面に座り込む、行儀を気にかけるほど体力も残っていない。 「いずれにせよ、私達ではオグドモンにダメージを与えられませんから」 「それはデジモンイレイザー様とて承知のはずだ、…そう考えると、なぜ我々をオグドモンへ差し向けたのだろうな」 ドラグーンヤンマモンが問う。 「もしかすると…」 私はオグドモンの方へ視線をやる。  「始めから黒曜将軍、彼女だけをオグドモンへ送り込むつもりだったのかもしれませんね」 などと、デジモンイレイザー様の意図など計り知れないが。 「『アレ』の到着までしばし休憩としましょう、異論のある方は?」 皆一斉に首を横に振った。 ─ ─『ドラゴニックインパクト!』 ─「セイヤッ!」 通信回線から、残るジズモンと戦闘を繰り広げるエグザモンとマグナモンの声が聞こえてくる。 「して、めもり、解析はどうだ」 「うーん、もうちょい…ちょい…あ終わった」 BVリーダーの四季 めもり、戦闘の最中に彼女はあることに気がついた ─うん?ジズモンちゃんの光の屈折の仕方、なんかおかしくね? 「うん、やっぱりだ」 「一人で納得していないで、早く説明しろ」 「ジズモンちゃんの光の屈折、体内で一部だけ避けてる箇所があるね」 ─ 『ドラゴニックインパクト!』 竜帝の突撃を、ジズモンはひらりと躱して見せる 「あぁ、クソ!あのレーザーが止まったら止まったで厄介だな!」 ベヒーモンが倒れ、反射鏡の役目から解き放たれたジズモンは自身が本来持つ「鳥」としての機動力を発揮していた。 「セイヤッ!」 マグナモンは本来攻撃として放つプラズマを自身の後方に向けて発射、擬似的なブースターとして利用し、その爆発的な勢いをつけた打撃にてジズモンを攻撃する。 ジズモンへとヒットしたそれは確かにジズモンの表面に傷をつけるものの、決定打となる攻撃は未だに与えれれていない。 『ルークス』 「チッ!」 ジズモンは当然反撃として自身の翼からレーザーを放ってくる。 それを防ぐために彼らは防御姿勢を取り、その隙にジズモンは再び有利な上を取る…の繰り返しだ。 「マスター」 「どうした、マグナモン」 「…セブンズカードの使用を」 「却下だ」 「しかし、このままでは」 マグナモンとフロイトの言い争う声が回線から聞こえてくる。 「俺達が不利になった途端にあの力を使う気か?それでは何の意味もない、奴の弱点を見つけて、そこを突いて勝たなければな」 「それに」 「俺達は一人で戦っているわけではない…そこで聞いているんだろう、ドゥフトモン」 ちょうど私にお呼びがかかったようだ。 「…あぁ、聞いている、もうすぐそちらにジエスモンが到着する、それ次第作戦を伝える」 「だ、そうだ、マグナモン…耐えるぞ」 「イエス、マスター!」 マグナモンの声に活気が戻る。 反撃の兆しは、今確かに見えている。 ─ 『シュベルトフリューゲル!』 「来たか」 無数の剣が下方より飛来する。 それは回避しようと飛び回るジズモンを追尾し、ジズモン本体ではなくその煌めく羽に突き刺さり、その一部を切り落とした。 「遅くなった!」 ジエスモン、それもマグナモンと同じく「X抗体」の力を得た姿。 赤き剣の聖騎士、ジエスモンX抗体が遂に合流した。 ─よし、揃ったな、では作戦を説明する。 その内容を聞き終えた時。 「はぁ!?何だその無茶苦茶な作戦!お前本当にドゥフトモンか!?」 真っ先に反応を示したのはエグザモンだ。 「そうか?俺は面白いと思うが」 ─…立案者は私ではない、彼女、四季 めもりだ、文句なら彼女に言ってくれ。 ─はいはーい呼ばれて飛び出ました、めもりでーす、うちに何か用? 「用も何もねぇよ!なんだよこの作戦!」 ─あぁ、…こっちのほうが「映える」っしょ? 「なっ」 「エグザモン…こういう時はさ…」 「諦めたほうがいいよ…」 エグザモンのパートナーの少女が、光のない目でエグザモンを説得する。 「あぁぁぁぁぁ!分かったよ!その案に乗る!」 ─そうか、では全員の同意も得られたところで… ─かかれ。 エグザモン、マグナモン、ジエスモンがそれぞれ配置につく。 まずはフロイト、彼の出番だ 「カードスラッシュ!『ちょっとだけメタル化』」 デジモンにメタルの属性を付与し、光学兵器の反射を可能にするプラグイン。 これをフロイトは、マグナモン…ではなく、ジエスモンの従える「アト」「ルネ」「ポル」に付与する。 「行け!」 プラグインを付与された3体をジエスモンはジズモンの周囲に展開、それを見たジズモンは当然警戒するが、自身の周囲に展開するだけで何もしてこないのを見るとすぐさま注意を此方に戻した。 「マグナモン、撃て」 「イエス、マスター…『エクストリーム・ジハード!』」 マグナモンの全身から黄金の光条が放たれる、ジズモンは当然それを反射するが 「アト!ルネ!ポル!」 ジズモンの周囲に展開された3体が、反射されたレーザーをさらにジズモンへと跳ね返す。 跳ね返されたそれをジズモンはまた跳ね返し…を際限なく繰り返す。 先ほど同じ攻撃をした時は最後にはあらぬ方向へレーザーは飛び去っていったが、今度は3体の連携によりまるで「お手玉」の様にレーザーを跳ね返していく。 光に追いつかんとする速度での機動を可能にするのは、ジエスモンの持つ『アウスジェネリクス』だ。 そうしてジズモンの全身は、跳ね返されたレーザーによって黄金に染め上げられていく。 …一点を除いて。 「あそこか」 ─ジズモンが体内でレーザーを反射する時、一箇所だけ光が通過しない箇所がある。 ─その範囲は球形、つまり ─デジコアか ─然り。 水晶のような構造を持つジズモンの全身は、あらゆる光の屈折、反射、拡散を自在に操る。 しかし、その性質もデジコアにだけは適応されていないようだ。 当然デジコアを保護するためにデジコアの周囲に球形の構造体が作られ、その部分だけは一切光が通過しない。 そこでエクストリームジハードのレーザーを繰り返しジズモンに反射し、その全身を金色に染め上げた。 ─名付けてスプラ…塗りつぶし作戦!どう?映えっしょ? 発案者である四季めもりはそう語った。 「今だ、ジエスモン、エグザモン」 「オラァァァァァ!『アヴァロンズゲート!』」 「ハァァァァァァ…『鉄・拳・断・罪!』」 発見したデジコアの所在へと真っすぐ突っ込んでいく2人。 ジズモンはそれを迎撃…出来ない。 2人に向けてレーザーを撃とうにも、発射を検知した「アト」「ルネ」「ポル」により金色のレーザーを発射地点へ反射されられ、3体の反射レーザーの出力に塗りつぶされている。 もう少し距離があれば別地点からのレーザーも合わせて撃てるだろうが、ここまで最接近されていたらそれも不可能だ。 「砕けろぉぉぉぉぉぉ!!!」 まず着弾したのはジエスモンの拳だ、それによりジズモンの身体にヒビが入り、デジコアを守る構造体が明らかになる。 「ウォラァァアァ!全弾斉射ぁ!」 次にエグザモンのアンブロシウスが構造体の表面に突き刺さり、至近での発砲を繰り返す。 それにより構造体全体にヒビが入り…ついに、ジズモンのデジコアが露出した。 「「うぉぉぉぉ!!!全速で退避!!!」」 「よし、「アト」「ルネ」「ポル」…やれ」 彼らの退避を確認するより先にフロイトが3体へ指示を出す。 3体の反射するエクストリームジハードの光条が、露出したジズモンのデジコアを貫く。 「オォォォォォォォォォォォ!!!!!」 山の響きのような低い断末魔を上げ、ついに巨鳥は堕ちた。 ─ 「オォォォォォォォォォォォ!!!!!」 ジズモンの断末魔がここまで響いてくる。 「くっ…」 まさか、ベヒーモンに引き続きジズモンまでデリートされるとは ネオデスジェネラルの参戦が想像以上に響いている。 急がなければ、ジズモンを片付けたロイヤルナイツ達も合流してくるだろう。 そうなれば流石にこちらが不利だ。 と、その時、真っすぐ私の方へと突っ込んでくる一つの影がある。 「あれは…」 両肩のバーニアを全力で噴射し、こちらへ飛んでくる黒き竜 「黒い破壊竜」の名を持つブラックメガログラウモンだ 「メガログラウモン…!結愛くん!」 デュランダモンのパートナーがそう呼ぶということは、先程消えた黒きグラウモンはどうやら無事だったらしい。 あの軌道は直接私の方に向いている、つまりオグドモンの胴体の上に乗り込んでくるつもりだ。 当然そんな事を許すつもりはない。 『カテドラール!』 「だから!させねぇって!」 しかし、迎撃の行動はすべてライジルドモンに阻害される。 『グラドゥス!』 オグドモンがその脚でメガログラウモンを叩き落とそうとするが、向こうの機動力の方が上のようで、ヒラリとすり抜けてゆく。 そうして、メガログラウモンはオグドモンの胴体の上…私のすぐ側に降り立つ。 と、降り立った途端にブラックメガログラウモンの姿が、少女と2体のデジモンへと分離する。 安里 結愛、クルモン、黒いギギモン、どうやらマトリクスエボリューションを解除したらしい。 何のためだろうか…そう言えば、デュランダモンのパートナーが私と話をする。とか言っていた気がする。 「…真ちゃん」 「貴女は、安里 結愛だったかな、ロードナイト村で会った以来だっけ」 「真ちゃん…一体どうしてこんな事を?」 ふむ、そう来たか 「それは私も聞きたいかな、どうして私達を止めようとするの?」 「それは!」 私は彼女の言葉を遮り続ける 「私達の目的は別にデジタルワールドの支配でも破壊でも無いよ」 「え…?」 「まさか、私達がイグドラシルを掌握してデジタルワールドの支配者になるとでも?」 「貴女はともかく、オグドモンも違うと?」 「うん」 「オグドモンはデジタルワールド全ての罪の化身体…というところまでは知っているかな」 「えぇ、まぁ…一応?」 「オグドモンがイグドラシルと、その先にあるカーネルの制圧を目的としているのはね」 デジモンの、その原初の生存目的とは一体何か? 「進化のためだよ」 「進化…?」 どうやらピンと来ないらしい。 「うん、イグドラシルはデジタルワールドの管理システムであり、その先にはデジタルワールドの根幹部分を支えるカーネルがある」 「オグドモンはカーネルの支配権を得てカーネルと合一、つまりデジタルワールドそのものと合一して」 「自身を「デジタルワールド全ての罪の化身」から「デジタルワールド全ての化身」へと進化させようとしているんだ」 超究極体を超えた、さらなる進化。 システムの限界点の超越。 神への挑戦、とでも言おうか。 少なくともオグドモンは神に挑んでいる、そのつもりらしい。 「そうして進化したオグドモンは、デジタルワールド全ての化身として、デジタルワールドで生み出される全てのものを得て」 「私はその権限を持ってデジタルワールドに存在するあらゆるデータにアクセスし、自由に閲覧する」 「…それだけ、デジタルワールドは表向きには何も変わらずに、いつもの日常が続くよ」 「ただ、誰も気にもとめない世界の裏側が変わるだけ」 「さて、もう一度問おうか」 私は手にしたオグドアドを、彼女へ向ける。 「…なんで私達を止めるの?」 「…それ、は」 「詭弁に騙されれるな!」 『シュベルトフリューゲル!』 空から飛来したジエスモンの剣が、私と彼女をを分断するように突き刺さる。 …オグドモンは特に反応しない当たり、別に痛くはないらしい。 やがて彼女の隣に降り立ったジエスモンは、私に剣を突きつけ語りだす。 「お前の話には考慮されていない点がある!それはイグドラシル自身だ、イグドラシルがお前をカーネルへ通さない以上、お前たちはイグドラシルを破壊するだろう!」 「無論だ」 オグドモンが答える。 「そうしたらハルは!イグドラシルの端末たちはどうなる!お前たちは彼女達全員を殺すつもりか!」 「……それは」 痛い所を突かれてしまった。 確かに、イグドラシルを破壊する以上そこに接続された端末達は機能を失う。 彼はイグドラシルの端末の一つと恋仲のようだし、後で復元してしまえばいい、なんて話は通用しないだろう。 「真ちゃん!私の言葉を思い出して!」 安里 結愛、彼女の言葉? …思い返せば確かに、あのロードナイト村での邂逅、その別れ際に彼女に投げかけられた言葉があった。 ─貴女のしようとしていること、それが本当に正しいのかどうか、最後の瞬間にもう一度よく考えて。 ─私は…踏み出してしまったから。 あの時は意味を測りかねたが、どうやらこういうことらしい。 …私と対して変わらなそうな齢の彼女の口から出る言葉としては、あまりに実感が籠もりすぎている。 もしかすると彼女の裏には私が想像する以上の物語があるのかもしれない…が、今それを聞いている余裕はない。 ……私達の行動が本当に正しいのか、か。 この世界の裏側、デジタルワールドを支えるシステムの根幹部分がオグドモンに塗り替わるだけで、特に何か変わるものは無い、とそう思っていたが。 言われてみれば確かにイグドラシルという失われる物、いや、彼らの認識では「者」だろう。 それが確実に存在する。 …本当に、その犠牲を払っていいのだろうか 許す、許されない以前に、それは本当に私が求めるものだったろうか…? 破壊や殺戮なんて、私は別に求めていない筈だ。 「いい加減にしろ!」 「ぐっ…!?」 私の迷いを感じったのかどうか、定かではないが。 オグドモンが咆哮を自身の胴に、つまり私に向け放つ。 「敵の言葉に飲まれてどうする!いいか、戦いの場において『言葉』とは相手を揺さぶり、時にはそのまま挫くためにある!それはお前も理解しているはずだ!」 オグドモンの激昂は続く 「奴らと我々は決して相容れない!お互いに譲れぬものがあり衝突しているのだから!」 「それを敵の犠牲を考慮して拳を収めようなど言語道断だ!」 「前を見ろ!お前は今敵に剣を向けられているのだ!いい加減お前は、自身に向けられた敵意に対して牙を剥くことをしろ!」 「お前は!」 オグドモンは、そこで一度言葉を区切る 「私と共に来るのではなかったのか!マコト!!!」 「っ」 ああ、全くもってその通りだ。 私は、迷う必要など始めから無かった。 ─どうあがいても避けられない犠牲が存在する …だから、諦める? ここで矛を収め、彼らロイヤルナイツに捕縛されて。 その後はオグドモンはコキュートスに送り返される、それが精々で。 私は向こうの世界に帰り、パートナーデジモンが居ないと嘆きながら、行けもしないデジタルワールドに焦がれる。 そんな元通りの生活が返ってくる。 ……ふざけるんじゃない。 私のパートナー、オグドモン、デジタルワールドに秘められたあらゆるデータ、そこに生きるデジモンたち全て、綴。 それら何一つだって、諦めるつもりは毛頭ない。 それを目の前のロイヤルナイツ達、彼らが…いや、「奴ら」は阻む。 望むものがあって、それを阻む者達がいて、私はそれらを踏みにじって進むしか無い。 だったら。 「…ねぇ」 「なぁに、真ちゃん」 彼女の問いの答えを、私はまだ返していない 「私は、オグドモンと共に行くと、そう彼に約束をしたんだ」 「…」 「自分が信じたパートナーとの約束を守る、私はそれが「正しい」と、そう思うよ」 「そう…なんだ」 彼女は諦めたような、それとも決意を固めたような表情をして 「なら、私は貴女を止める」 「行こう、クルモン、ギギモン」 「…うん!」 クルモンは、彼女の決意に答えた顔をし、 「…結愛」 黒きギギモンは、彼女の決意に悲しむ顔をした。 「マトリクス!エボリューション!」 デジエンテレケイアたるクルモンの額の輝き、そして彼女が腕に巻いたデジヴァイスの輝き。 2つの輝きに飲まれ、彼女と黒きギギモンが融合していく。 ─カオスデュークモン 究極体 ウイルス種 暗黒騎士型 降り立ったのは「公爵」の名を冠する聖騎士、黒きデュークモン。 「…なんだ、結局貴女もロイヤルナイツみたいなものだったんだ」 「私は騎士なんて名乗れる者じゃないよ」 そう言って、彼女は私に右手に持つ魔槍「バルムンク」を向ける。 「真ちゃん、貴女はここで私達が止める、絶対に」 私はその言葉に対し、天を仰ぐ様に空を見上げて言葉を返す。 …この天は、今から私達が挑む頂上だ。 「私はさ、私の求めるもの全て、それらを何一つだって諦めるつもりは無いんだ」 「だって私は…『強欲』だから!」 私の言葉に合わさるように、オグドモンの脚の上に浮かび上がる七大魔王の紋章がより強く輝く。 おおよそ最高潮とも呼べる輝度、でもまだ足りない。 続々とこの場に集うロイヤルナイツ達の前ではまだ、一手が足りない。 「だから、さ」 「───」 私は、大きく息を吸い込む。 ─自身に向けられた敵意に対して牙を剥け オグドモンのその言葉が、私の中で響いている。 そうして剣をカオスデュークモンに向け、吸い込んだ息を声として吐き出す。 「其処を退けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」 体の底から絞り出した絶叫、それに応えるようにオグドモンの頭の上にもう一つの紋章が現れる。 私の持つ「知識の紋章」、それが冠の様にオグドモンの頭部を飾っていた。 ─オグドモン:クラウンモード 世代不明 属性不明 化身型 ─ 「あれは…」 遠方に見えるオグドモン、その輝きを放つ紋章が、たった今一つ増えた。 「なるほど、デジモンイレイザー様が警戒していたのはコレですか」 本来なら、オグドモンが復活した程度でデジモンイレイザー様が私達を動かす筈がない。 ロイヤルナイツの連中だけで対処するなど容易いはずだ、現に一度負けているのだから。 「あぁ?輪っかが一つ増えただけだろ?」 そう問うウォーティラノモンに、今だ膝をついたままのオキグルモンが答える 「あれは、超究極体を超えた更なる進化、その片鱗だ」 「そのような進化が本当に可能なのか?」 「無理でしょう、ただでさえ超究極体デジモンとは、定められたデジモンの進化の限界点を突破しているのですから」 「…本来であれば」 私は最後にそう付け加える。 「自分だけの願いはDream、分かち合える願いはForce、あの姿は2人が本気(ガチ)で力を合わせた結果だろう」 私はメタルサタモンの言葉に頷く。 「えぇ、どうやらオグドモンの七大罪の力に加え、選ばれし子供達の力を組み合わせることによって、定められたシステムの軛を越えようとしている様ですね」 「ならば、あの者達は」 テラケルモンの危惧は、おそらく当たっている。 「はい、このままでは本当にデジタルワールドのシステムを乗っ取りかねません」 ─ 『オーラーティオ』 『グランディオロクア』 上の句、下の句とでもいうように、私とオグドモンに分かれてその技の名を呼ぶ。 「何も起こらない?」 ジエスモンが周囲を警戒しつつ疑問を口にする。 ─警戒を解くな、本来であればオーラーティオ・グランディオロクアとはオグドモンが本能のまま暴れまわる予測不能の暴走状態。 ─今のそれは全くの未知数だ。 「だってよ、影太郎」 「あぁ、やるなら今この瞬間しかない!」 「ライジルドモン!」 ライジルドモンが、Legend-Armsとして本来の姿である盾の姿を取る 「デュランダモン!」 デュランダモンが、Legend-Armsとして本来の姿である剣の姿を取る 「「ジョグレス進化!」」 それに合わせるように、彼らのパートナーの全身から光が発せられる 「チャージ!」 デュランダモンのパートナーからは、金色の光 「デジソウル!」 ライジルドモンのパートナーからは、赤き光 「「デュアルバースト!」」 2人はお互いの拳を、殴り合うように突きつけた。 そうして2つのLegend-Armsと2色のデジソウル、4つの力が混ざり合い1つの騎士の姿を形成する。 ─ラグナロードモン:X-proud 超究極体 ウイルス種 特異型 終焉の名を冠する純白の騎士が、ここに降臨した。 「ハッ!そこの黒いオメガモンといい、終わりの名を名乗るのが貴様らの流行りなのか?」 「おうよ!お前の野望はここで終わりって訳だ!」 『イグニッションプロミネンス』 ラグナロードモンの盾から、超高温の炎が放たれる。 その炎の狙う先はオグドモンの脚、その1本だ。 流石に一度オグドモンを討っているだけあって、対処方はよく知っているらしい。 ─オグドモンの力の源は、その脚に突き刺さった剣だ、以前の戦いではそれらを全て破壊、ないし抜き取るすることで奴を封印した、だから… 「あぁ、ラグナロードモンで奴の脚を破壊する」 ─…私の話を聞け。 「させない」 『パンデモニウムロスト』 オグドモンの脚の剣、バルバモンを模した剣から炎が。 『フレイムインフェルノ』 私の持つ剣から、デーモンの炎が放たれる。 2つの炎はラグナロードモンの放つ炎とぶつかり合い、相殺する。 その炎が晴れると 『グレイソード!』 『シュベルトフリューゲル!』 オメガモンズワルト、ジエスモンXがオグドモンの脚へと突進してきていた。 どうやら今の炎は目眩ましだったらしい。 「甘い!」 『カウダ』 オグドモンは、リヴァイアモンの力を乗せた横薙ぎの打撃を 『ナザルネイル』 私はリリスモンの腐食の力を纏った斬撃を放ち、彼らを迎え撃つ。 『鉄拳断罪!』 ジエスモンは迫るオグドモンの脚に、必殺の拳を叩き込む。 ぶつかり合う2つの打撃で、周囲一体に衝撃が走る。 リヴァイアモンとオグドモン、双方のデータ質量を束ねた一撃を拳一つで止めるとは厄介だ。 オメガモンズワルト、黒き聖騎士は自身に迫る斬撃を左手の剣で切り払おうとする。 それでいい、触れるもの全てを腐らせるリリスモンの力を受けろ 「腐り落ちろ」 『ターミネーション』 ナザルネイルを切り払ったオメガモンズワルトのグレイソードが腐り落ち… 無い 「…どうして」 「言ったはずだ、我は終焉の騎士と、この剣は触れるもの全てに『終わり』を齎す」 「随分と御大層だけど、どうせ攻撃に乗った追加効果を無力化する、とかそんな話でしょ?」 などと返したはいいが、こちらも大分厄介だ。 あの剣で防がれると私達の攻撃全てはただの斬撃とただの脚の打撃に変えられる。 「はあっ!『バルムンク!』」 おっと、目の前の彼女を忘れていた 『カウダ』 今度は私がリヴァイアモンの力を剣に乗せ、カオスデュークモンの突きを切り払う。 「ぐっ…!?」 下からの切り払いを受けて、カオスデュークモンが一歩退く。 「やはりこの力は」 ─ ─やはりこの力は 影太郎の呟きを引き継ぐように私は続ける。 「あぁ、どうやら今の奴らは七大魔王達の力全てを同時に扱えるようだ」 「攻撃の予兆のようなものは見受けられませんでした、直前までどの七大魔王の力が発揮されるかはわかりません」 アカネがサイバードラモンの観測したデータを読み上げる。 ─使ってる必殺技の紋章が光るとか無いのかよ!? 「仮にそうだったとしても、あの光の輝度では違いがわからん」 ─お前達。 「フロイトか、…エグザモンはどうした」 ジズモンを討ち取った後にジエスモンだけ先行してこちらに来たが、マグナモンとエグザモンは今何処にいるのだ。 ─俺達は今エグザモンの背中に居る、ちょっとした仕込みをしてから…そうだな『落ちる』つもりだ。 何やら考えがあってのことらしい。 「よし、ラグナロードモン、ジエスモン、オメガモンズワルト、カオスデュークモン、もうすぐマグナモンとエグザモンが合流する…それまで耐えてくれ」 ─了解!    ─ …今、この場にいる敵戦力は4人 カオスデュークモン、ジエスモンX、ラグナロードモン、オメガモンズワルト。 そこに上方よりジズモンを討ち取ったエグザモン、マグナモンXが迫る。 一時前線からを離脱したアルファモンと、後方にて守りを固めているクレニアムモン、そして参謀と支援担当であろうドゥフトモン、サイバードラモン、スケイルモンの動きは読めない。 ベヒーモンの撃破以降動きのないネオデスジェネラル達も気がかりだ。 いずれにせよ合流を許せば許すほど私達が不利になる。 まずは目の前の4人の動きを封じて各個撃破だ。 「オグドモン」 「あぁ」 『ランプランツス』 七大魔王の剣、その全てからベルフェモンの身体に巻き付いた物と同じ鎖が出現する。 「俺達の動きを封じる気か『シュベルトフリューゲル!』」 『ディレクトスマッシャー!』 七方から迫る鎖を彼らは切断しようとする、が。 「なんだこりゃ!硬ってぇ!」 その刃は鎖に弾かれ、逆にその隙を突かれ鎖に絡め取られた。 「それはベルフェモンを縛り付けていた鎖だよ、…そう容易く切れると思わないほうがいい」 「皆!」 カオスデュークモンが上方にて動きを封じられた仲間の方に気を取られる。 「どこを見ているのかな」 そこを突いて私の剣から放たれた鎖でカオスデュークモンを縛り上げる。 「ぐあっ…」 これで4人の動き封じた、あとは 『『ナザルネイル』』 私とオグドモン双方が、鎖にリリスモンの持つ腐食の力を与える。 「があぁっ!?」 彼らを縛り上げる鎖から発せられる腐食の力が、徐々にその身体を腐らせ、溶かしていく。 「ちっ、鉄塚クロウ!」 「あぁ!ラグナロードモン!《プロテクトモード》!」 白金のラグナロードモンの色が、瞬時にして黒く染まる。 塗り替わった瞬間から明らかにラグナロードモンだけ腐食の速度が弱まっている、ほぼ停止してると言っていい。 『ターミネーション』 オメガモンズワルトはその剣の力で腐食の力を無効化する。 リリスモンの力による腐食を食い止めたのはこれで2人。 …それでも、ジエスモンXとカオスデュークモンだけは対抗手段を持っていない。 まずはこの2人から始末しよう。 『フレイムインフェルノ』 『パンデモニウムロスト』 普段であれば周囲に熱波として放つデーモンとバルバモンの炎を、今は球形に固めてそれぞれジエスモンとカオスデュークモンに狙いを付ける。 「クソッ!アト!ルネ!ポル!」 ジエスモンXは3体を使い鎖の切断を図るが、腐食の力を纏うそれに触れることで3体は全力を発揮できていない。 「させっか!行け!」 黒と赤に染まったラグナロードモンは、自身の持つ盾を分離させカオスデュークモンとジエスモンXに向けて飛ばす。 どうやらあの盾は本体とは分離して行動できるらしい、剣の方も同様と考えたほうがいいだろう。 「させないはこっちの台詞なんだけどね」 『カウダ』 オグドモンが彼らを縛り付けるのに使っている鎖は5本、残りの2本にリヴァイアモンの力を乗せる リヴァイアモンの力を付与された鎖がまさに「尾」のようにしなり、飛来する盾とぶつかり合ってその行く手を阻む。 「だあぁぁぁ!おいカオスデュークモン!ジエスモン!まだ平気か!?」 「この程度っ、なんてこと無いっ!」 「私もっ!こんなもんじゃ諦めない!」 カオスデュークモンとジエスモンは気丈にそう答える。 「そう」 「強がるのは結構、だがもう終わりだ」 私は剣をカオスデュークモンに突きつける、持ち方としては「銃」に近い構えで。 つまり、ベルゼブモンの持つベレンヘーナの力を発揮させる形になる。 2つの火球と散弾、まずはこれで確実にカオスデュークモンとジエスモンを始末する。 「『ベレン…」 トリガーをイメージしながら、剣の柄にかけた指を握り込む。 『ドラゴニック!!インパクトォ!!!!!』 その寸前で、天からの赤き閃光がオグドモンの脚の1本を切り落とした。 「なっ」 「ガァッ!?」 ここに来てオグドモンが初めて「痛み」を示す声を上げる。 切り落とされたのは、よりにもよって彼らを縛り付けるためのベルフェモンの剣が刺さった脚だ。 天から振ってきた赤き閃光、それはオグドモンの脚を切り飛ばした後にその勢いのまま海面に落ちる。 その衝突と荒波が周囲に広がり、折角作り上げた火球が吹き飛ばされてしまう。 それとほぼ同時に力を失ったベルフェモンの鎖、その戒めが解けていく。 ─間に合ったようだな。 「マグナモン!エグザモン!」 あの赤き閃光の正体は竜帝エグザモンのようだ。 「よぉ、お前らピンチみたいだな」 ─彼らはこの一撃のために限界光度まで上り詰めていたのだ、オグドモンの剣を確実に…おい、なぜ脚を切り飛ばしている。 そして、エグザモンの背から金色の聖騎士が姿を出す。 「ほう、どうやらベストタイミングのようだな、…前言撤回しよう、あのオグドモンなら間違いなく楽しめる」 「マスター」 「あぁ…カードスラッシュ!ホーリーセブンズ、スピードセブンズ、グランドセブンズ、ワイルドセブンズ、リバースセブンズ、ダークセブンズ、ミスティセブンズ!」 男は7枚のカードを順にディーアークへと読み取らせる。 「アイム、レディ」 その力を受けたマグナモンX抗体の全身が、鎧と同じ金色に輝いていく。 ─マグナモンX抗体:ゴールドデジゾイドセブンズモード アーマー体 ワクチン種 聖騎士型 「分かっていると思うが」 「イエス、マスター、ダークセブンズとミスティセブンズの力は使いません」 「それでいい、アレを使うとつまらん」 ここに来て一気にロイヤルナイツ2体が合流した、決着を急がなければこちらが不利になる一方だ。 「…オグドモン、やるしかないよ」 「ご丁寧にも一箇所に集ってくれたのだ、まとめて消し飛ばす…ルーチェモン!」 『デッド・オア・アライブ』 オグドモンがルーチェモンの力を使い、巨大な方陣を形成し始める。 この消滅の一撃を今まで使わなかったのは単純明快、あまりにも隙が大きすぎる。 が、この状況でそんな贅沢は言っていられない。 文字通り、一か八かこの攻撃に賭けるしか無い。 ─デッド・オア・アライブの発動を絶対に阻止しろ!奴の剣全てを破壊しろ! 彼らの通信回線からドゥフトモンの言葉が響く。 オグドモンが意識の全てを方陣の形成に集中している以上、彼の代わりに私が全ての攻撃を制御する必要がある。 …やってやる。 私達を阻むもの全て、ねじ伏せて進んでやる。 『ベレンヘーナ』 『パンデモニウムロスト』 バルバモンの炎を纏った散弾をジエスモンとマグナモンに。 『カウダ』 『フレイムインフェルノ』 デーモンの炎を纏った薙ぎ払いをラグナロードモンとオメガモンズワルトに。 『パラダイスロスト』 『ファントムペイン』 リリスモンの腐食を纏った打撃をエグザモンに。 そして 『ロストルム』 『カウダ』 私の目の前のカオスデュークモンには、剣にリヴァイアモンの力を重ねる。 ロストルムの力を付与された剣、オグドアドのアーム部分が開く。 そのフォルムは『顎』というよりは『鋏』に近いものとなるが、発揮される力はリヴァイアモンの巨顎と同等だ。 『デモンズディザスター!』 バルムンクの必殺の連撃とオグドアドが衝突する。 剣の重みはこちらの方が上だが、彼女の連撃は素早く、中々あの槍をロストルムで掴み取ることが出来ない。 「『ゴーゴン!』」 突如として槍の連撃を引っ込めた彼女が、左手に持った盾を投げつけてくる。 オグドアドのアームがそれを掴み、「噛み砕く」 …しまった、これは囮だ。 『バルムンク!』 斜め上から飛びかかるように突きを繰り出すカオスデュークモン、今の盾の投擲は囮だ、視界の制限と攻撃の制限。 目的はそれだ。 ゴーゴンを挟み取るために剣を振り抜いたこの姿勢では、彼女の突きを受け止められない。 …などと。 「舐めるんじゃない」 私は剣から手を放し 『パラダイスロスト』 ルーチェモンの力を込めた拳でアッパーを繰り出す。 拳は彼女の突きとぶつかり合い 「きゃあっ!」 打ち勝った私の拳が彼女を後方へと弾く。 私は追撃のために即座に剣を拾い直し 『デスルアー』 バルバモンの魔杖の力でカオスデュークモンを宙に縛り付ける。 『ダークネスクロウ』 『ナザルネイル』 ベルゼブモンとリリスモンの力を乗せた斬撃を、空に固定されたカオスデュークモンに放つ。 …いい加減、誰か一人くらい落ちないものか。 「しまっ…」 逃げ場のないカオスデュークモンに迫りくる二重の斬撃。 『ポジトロンブラスター!』 その斬撃は、突如として飛来した砲撃に相殺された。 ……あぁ全く、何なんだ次から次へと。 今度は一体誰が乱入して来たのか。 私は感じる鬱陶しさを一切隠さずに、闖入者へと振り返る。 「もういちいち聞くのも面倒だけど、誰?」 「貴女は!」 カオスデュークモンはその姿に見覚えがあるらしい。 「はーっはっはっは!よくぞ聞いた!我は八人目のネオデスジェネラル!黒曜将軍オブシディアナ・アルケア!」 あぁ、さっきのネオデスジェネラルの一人か。 「贖罪の超魔王よ!デジモンイレイザー様の命によりその首貰い受ける!」 …?そういえば、何故オグドモンの力の圏内にいるのに彼女の攻撃は無力されないのだろう、確か先ほどもギガデストロイヤーだけは打ち消せなかった。 「ねぇ」 「なぁに?…じゃない!何だ!オグドモンの少女よ!」 「ネオデスジェネラルとか名乗っているけど、オグドモンに攻撃を無効化されないということは、貴方の攻撃には『悪意がない』、ということになるんだけど」 「……えぇと、『アルナスショット!』」 彼女は誤魔化すように背中の羽根、サジタリウスよりレーザー攻撃を放つ。 その背中には一体のデジモン、プレイリモンがしがみついている。 プレイリモンの顔の前に展開したインターフェイス類から推察するに、もしかすると照準を担当しているのかもしれない。 私は放たれたレーザーを剣で防ぐ。 「ここは私一人でいいから!貴女はエグザモンの方に向かって!」 デスルアーの拘束から開放されたカオスデュークモンが、ネオデスジェネラルに向かって叫ぶ。 「え?い、いいの?」 「いいから!エグザモン…多分さっきの反動で動けてない!」 ─ 「…ヒナミ」 「うん、なんとなく分かってたけどさ」 ─エグザモン、お前達まさか 「さ、さっきの衝突の反動で動けねぇ」 超高高度からの一撃で見事オグドモンの脚の1本を切り飛ばしてみせたエグザモン。 …よもや捨て身に近い一撃だったとは! ─いかん!オグドモンの攻撃が来るぞ! 『パラダイスロスト』 『ファントムペイン』 海面上でアンブロシウスを片手に立て膝を付く形で硬直するエグザモン。 そこにリリスモンの腐食の力と、ルーチェモンの打撃力を纏ったオグドモンの2本の脚が迫る。 「『カレド…ぐっ」 エグザモンは翼を閉じて攻撃を防ごうとするが、それも出来ないほどに消耗していた。 「へへっ、大ピンチだぜ」 「だからカッコつけて登場するのはやめようって言ったじゃん!もうちょっと高度下げられたって!」 ─誰でもいい!援護に回れるものは! オグドモンの攻撃がエグザモンに降りかかる、その寸前で 「ここに居るさ!オォォォォォォォォォ!!!」 黒金の聖騎士、防御の魔法陣を最大展開したアルファモンが割り込んだ。 オグドモンの脚による殴打を防壁にて受け止める。 「アルファモンお前!その身体じゃ!」 しかしその全身は傷だらけだ、先の戦闘のダメージが全く癒えていない。 ただでさえ全体にひび割れが走る鎧が、みしり、と更に軋む音を立てていく。 「皆がオグドモンへ集結し!クレニアムモンはたった一人で全ての攻撃を防いでいる!そんな中私だけ休んでいられるものか!」 が、徐々にオグドモンの脚に押し込まれるようにして力負けしていく。 「ぐうッ…」 「アルファモン!」 ─アルファモン! 「頼む、ユズ、今だけでいい!私に」 その言葉は祈りか、誓いか 「私に力を貸してくれ!」 それに答えるように、アルファモンの全身に紫電が走る。 「オアァァァァァァァッ!!!」 雄叫びに合わせ、展開した魔法陣で脚を薙ぐように払う。 ─防御魔法陣によるシールドバッシュか! 『紫電の霊剣!』 そのまま稲妻を纏う剣で、跳ね除けた脚の1本を切り落とした。 ─パーフェクト! どこからか、そんな声が聞こえた気がした。 「アルファモン!もう1本の脚が来る!」 エグザモンの警告の通り、切り落としたルーチェモンの脚とは別に、もう1本のリリスモンの脚がアルファモンへ迫る。 しかし、アルファモンは宙に浮かんだまま動かない。 「ふっ、流石に…限界だ」 ─お前もか!アルファモン! その時、オグドモン胴体部よりひとつの影が飛来する。 人の身とデジモンの身が融合したニンゲン、黒曜将軍と名乗っていた少女だ。 「ハッハッハッハッ!待たせたな!ロイヤルナイツの諸く…うわぁ!大変だ!」 「『デジコードロード!』一等星の邪竜(レグルスモン)!」 メタルグレイモンの右手、ワーガルルモンの羽根、そしてレグルスモンの尾を生やした少女が、アルファモンに迫るオグドモンの脚へと接近する。 『アルタブレート!』 陽電子の剣の斬撃が接近する脚を跳ね上げ 『カウスラッガー!』 羽根より射出された刃が、脚の関節部に突き刺さる …『ゲニアス!』 尾から放たれた3本のレーザーが、カウスラッガーで作られた裂け目に着弾し 「名付けて…えーっと…『トリプレックスフォース!』」 そう叫びながらレグルスモンの尾を振るい、ゲニアスの刃にてオグドモンの脚を切り落とした。 ─ 『ベレンヘーナ』 『パンデモニウムロスト』 バルバモンの炎を纏う散弾が、赤きジエスモンXと金色に染まったマグナモンXに迫る。 「ふん、行け、「アト」「ルネ」「ポル」」 迫りくる弾丸の雨を、フロイトはその3体に防がせる。 「…なぁ」 「どうした、ジエスモン」 「なんでアンタがアト、ルネ、ポルに指示してるんだよ!というかお前らも当然のように言う事聞くな!」 見ると、本来ジエスモンXに付き従う3体が、今はマグナモンXの方に付いている。 「あぁ…コレか、さっきのジズモンとの戦闘で何故か懐かれてな」 「懐か…えぇ!?」 「ありがとうございます、アト、ルネ、ポル…君たちは本当にいい子ですね」 マグナモンXは、自身に寄って来る3体をまるで幼年期デジモンのように撫でている。 「元より、俺はこういう自律兵器の扱いには慣れている」 ─お前達、二撃目が来るぞ! 炎を纏った散弾が、今度はマグナモンXとジエスモンXに向け密集する形に集まる。 「ほう、拡散弾では防がせるのを見て圧縮させてきたか」 密集した散弾による巨大な火の玉が、周囲に次々と形成されていく。 「この大きさ…まるで隕石みたいだな」 「これだけの包囲を避けていくのはあまりも非効率的だ、なら」 「わかってる、中央突破だろ?」 「良くわかってるじゃないか…アト、ルネ、ポル!」 「だからぁ!」 『プラズマシュート!』 金色のマグナモンXが、アト、ルネ、ポルの3体をプラズマのエネルギーで包みこんでいく。 「あぁ!もういいや!アト、ルネ、ポル!バリア形成!」 マグナモンXの力を受けた3体により防御フィールドがマグナモンXとジエスモンXの周りに形成される。 フィールド形成そのものはクレニアムモンと共に防衛に回っていた時と同じだが、作られたフィールドの色はマグナモンXの金色に輝いている。 マグナモンXが身に纏う、絶対防御の色だ。 「突撃!」 金色のフィールドに覆われた2体が、炎の隕石を降らそうとしているオグドモンの2本の脚に向けて突き進んでいく。 その最中 「俺達は途中で…そうだな「降りる」」 「はぁ!?この隕石のど真ん中でか!?」 「あぁそうだ、少し試してみたい技がある」 「いやでも…」 ─ジエスモン、八千代…無駄だ、その男はこうなったら言うことを聞かん。 「…随分と物わかりが良くなりましたね、ドゥフトモン」 ─……その男より御せん女と共に居れば自然とこうなる…! 「そういうことだ、奴は任せたぞ、ジエスモン」 「あっ!おい!」 ジエスモンXの言葉を待たず、フロイトとマグナモンXは防御フィールドの中から飛び出ていった。 「…マジかよ」 ─ジエスモン、八千代、お前達はオグドモンの力の源である剣を… 「わかってる!アイツの脚をブッた斬る!!!」 2人はそのままオグドモンの脚へと突貫していく。 ─お前達も人の話を聞け。 どうして誰も彼もオグドモンの脚の方を狙うのだ。 そして場にたった2人で残ったマグナモンXとフロイトの元に、発射された「隕石」の群が迫りくる。 「マグナモン、始めろ」 「イエス、マスター」 マグナモンXが左手を突き出し、その腕に纏ったゴールデンデジゾイドのアーマーが変形していく。 左腕の側面から5つの噴出口が前方に飛び出す形だ。 「フゥ…」 マグナモンXは短く息を吸い込み。 「ハアッ!!!」 声を吐き出した瞬間、5つの噴出口から黄金のレーザーが吹き出し、5つ全てが結合し巨大なレーザーの刃を形作る。 『エクストリーム!ゲイザー!』 繰り出された横薙ぎの回転斬り、それを2回転振り切る頃には。 ─熱源消失、全て迎撃完了だ バルバモンとベルゼブモンの力を纏う隕石、それら全ては消滅していた。 「VCPL謹製のアレを再現してみたが…悪くない攻撃範囲だ、だが」 「チャージに時間がかかり過ぎだ、まだまだ改善の余地はあるぞ、マグナモン」 「イエス、マスター…戻り次第鍛錬を始めましょう」 「ああ」 ─ジエスモン、八千代、そちらは… 『究極戦刃聖覇剣!』 ジエスモンXがその胸に収まるデジコアから剣を引き抜き、真っすぐオグドモンの脚の関節部を狙う。 「オラァァァァァァ!!!!」 アウスジェネリクスによるデジタルワールドの法則を超えた速度。 そこから繰り出される不可視の剣閃。 白の赤の閃光が走った瞬間に、オグドモンの脚が2本切り落とされていた。 ─ 『カウダ』 『フレイムインフェルノ』 デーモンの炎とリヴァイアモンの質量を重ねたオグドモンの脚が、ラグナロードモンとオメガモンズワルトに迫る。 「ラグナロードモン!」 影太郎とクロウはラグナロードモンの盾にてそれを真っ向から受け止めるが 「ぐおぉぉ!重てぇ!?」 「リヴァイアモンとオグドモン2体分のデータ質量が重なっているのか!」 その重みにラグナロードモンが後ずさる。 「なんでジエスモンと八千代はコレをパンチで受け止めてんだよ!」 「彼らはロイヤルナイツだ、それくらいは可能なんだろう!」 ─あれはジエスモンの持つ『アウスジェネリクス』が可能とする芸当だ、ロイヤルナイツといえどもそう易々と真似できるものではない。 ─…少なくとも私は出来んぞ。 『ターミネーション』 ラグナロードモンが防いでいる間に、オメガモンズワルトがオグドモンの脚を斬りつける、が 「駄目だ、炎は打ち消せてもこの質量だけは打ち消せん!」 そして打ち消したデーモンの炎も、即座に『再点火』されていく。 「ぐっ…押し切られる!」 「仕方ない…!」 影太郎が、オメガモンズワルトの方へと顔を向ける。 「シュヴァルツ!オメガモンズワルト!…アレをやる!」 オメガモンズワルトとシュヴァルツは、その言葉に静かに頷いた。 「アレ!?アレってなんだよ!俺聞いてねーぞ!?」 「鉄塚クロウ!」 「頼む、説明してる余裕はない、…今だけでいい、僕を信じてくれ」 影太郎に真っすぐと目を見据えられ、クロウは 「…しゃーねぇーな!よくわかんねぇけど好きにしろ!」 「っ…感謝する!」 「で?一体何する気だよ」 「ラグナロードモンの盾と剣をオメガモンズワルトに貸す、その間はラグナロードモンの本体とお前で耐えてくれ」 「おう!……はぁ!?」 強気な顔で応じたクロウの顔が、一瞬にして驚愕に塗り替わる。 「受け取れ!オメガモンズワルト…いや!終焉の黒騎士!」 「待てよ!信じるっても限度があんぞ!?」 ラグナロードモンの本体から分離した盾と剣。 その2つが重なり合い、1つの剣へと姿を変える 「ラグナロードモン!」 ガルルキャノンを腕部に格納したオメガモンズワルトは、その剣を受け取り右手で構える。 『キャノン・オブ・カテドラル!』 そして受け取ったラグナロードモンに、ガルルキャノンの持つ氷結の力を付与する。 全てを焼き尽くすラグナロードモンの盾の炎と、全てを凍てつかせるガルルキャノンの氷。 デジコアすら消滅させるラグナロードモンの剣と、強制終了の力を持つグレイソード。 重なり合う『終焉』の力が、オメガモンズワルトへと集う。 「行け!シュヴァルツ!オグドモンに終焉を叩きつけろ!」 「行け!オメガモンズワルト!このままだと俺達が押しつぶされる!」 影太郎とクロウの言葉に押し出されるようにして、終焉の黒騎士が飛び出す。 『デュエルエッジ・エクスフロージョン!』 『ターミネーション!』 2つの終焉を冠する斬撃が、オグドモンの2本の脚を切り落とした。 ─ 『紫電の霊剣!』 またも最悪の展開だ、デッド・オア・アライブの形成を支えていた、ルーチェモンの力を持つ脚が切り落とされた。 「しまっ…」 霧散し消滅する巨大な方陣、逆転の一手が真っ先に潰された。 「はぁぁ!『バルムンク!』」 カオスデュークモンはその隙を見逃さず、突きを繰り出してくる。 私は当然それをオグドアドで受け止めるが。 「ぐっ…!?」 先程より、彼女の槍がずっと重たい。 …当然だ、オグドモンの力の源である大罪の力、それを受け取るための剣が切り離されているのだから。 彼女の槍が重さを増したのではない、私とオグドモンが弱くなったのだ。 『デモンズディザスター!』 バルムンクの連続の突きに、ついに私はそれを受け止めきれずに後ろに吹き飛ばされる。 ……その一瞬が、命取りだった。 対峙する彼女、カオスデュークモンの姿がほんの一瞬だけ、黒き鎧と羽根を纏った安里 結愛自身のものへと変わる 『クォ・ヴァティス』 錯覚とも思える短い時間 それが過ぎ去ったときには 「…そんな」 私の持つ剣、オグドアドは粉々に砕けて消えていた。 『トリプレックスフォース』 『究極戦刃聖覇剣』 『ターミネーション』 『デュエルエッジ・エクスフロージョン』 「なっ…」 四方八方から発せられる激しい光、それとほぼ同時にオグドモンの残り5本の脚全てが切り落とされる。 「ガァァァァァァァ!!??」 全ての脚を切り落とされ、オグドモンは急激に力を失っていく。 …力どころではない、胴体だけになった今オグドモンの胴を支えるものは何も無い。 オグドモンが傾き、海上への落下を始めていく。 勿論、その上に立つ私も彼と共に落下している、今はまだかろうじて彼の胴体の上に足が付いているだけだ。 「オォォォォォォォ!!!!」 オグドモンが最後の抵抗のために、上下両方の口を大きく開く 『カテドラール』の発射体制だ。 …私は? 剣を失った私に、最後にできる抵抗とは? …ある 彼、オグドモンの頭上には未だに知識の紋章を象った冠が浮かんでいる。 力の供給源ならまだここに一つ残っている。 私自身だ。 「っ!!オグドモンッ!!!!」 私は落下の最中、取り出したデジヴァイスを空へと掲げる。 デジヴァイスと彼の冠が対応するように光り輝き、カテドラールのチャージ速度が早まっていく。 それと同時に、切り離されたオグドモンの胴体の傾きがほぼ垂直になる。 支えるものなど何も無い私は、彼と同じように背中から海上へと落ちていく。 「真ちゃん!」 落下する私の腕を掴むものがある。 …カオスデュークモンだ。 「よかった…間に合った」 彼女に支えられながら、私はオグドモンに視線を移す。 …もう本当に、私に出来ることはない。 私の手には、この状況を覆せるものは何一つも残されていない。 私も、オグドモンも、この場で出せるすべてを出し切った。 『カテドラァァァァァル!!!!!!』 最早誰も居ない空に、カテドラールの光条と咆哮が放たれる。 それは天に向かって吐かれる唾のようで 私達の決定的な敗北を示していた。 ─ 「はい、これで誓約書の内容は以上です、あとは一番下に署名を」 「うん」 私は自身の拘束に同意する旨の書類にサインを書く 超法規的な権限を持っているとはいえ、警察機関ではない以上私の拘束、逮捕はあくまでも私の意思である、としなければならないからだ。 罪状は…神の冒涜、とでも言おうか。 冗談はさておき、彼女から伝えられた内容はこうだ ─貴方達はデジタルワールドの管理システム「イグドラシル」へサイバーアタックを仕掛けました、それはデジタルワールドでは最も重い罪…ですが。 ─現実世界に貴方を裁く方はありません、今回の件における現実世界の影響は巨大なデータ質量を持つオグドモン、ジズモン、ベヒーモンの移動によるネットワーク回線の多大なトラフィックです。 ─そしてデジタルワールドへの影響も軽微、至聖所の付近一帯は元から不毛の大地、そこに住むデジモンは一体も居ません。 ─以上の点を考慮し、貴方の身柄は私達BootlegVaccineで預かります。 …要するに、大した被害がないからこちらの世界の法では野放しだが、デジタルワールド側の秩序ではそれは許されないと言っている。 その妥協点が私のBVによる拘束なのだろう。 私は拘束され、オグドモンは… すべての脚を切り落とされ、胴体だけになったオグドモンはコキュートスの奥底へと送り返され、再び封印された。 今度の封印は前よりも深い、剣どころかそれが刺さるべき脚すら失ったのだから。 「…ねぇ」 「はい?」 あえて取り調べ室と呼ぶこの部屋を出る直前、彼女に尋ねてみる。 「あの場には絶対に譲れないものを持つ者達が集まり、彼らも私も皆パートナーであるデジモンとの絆を強く結んでいた」 単純な数の比較はできない、ジズモンとベヒーモンは究極体を超えた力を持つデジモンだから。 「なら…一体何が勝敗を分けたと思う?」 「それは…」 「善と悪、ではない筈だよね、あの場にはBVのメンバーやネオデスジェネラル達まで居たのだから」 彼らが善で、私達が悪。 流石にそんな単純な構図に納得する訳にはいかない。 「もし」 正直な所答えには期待していなかったが、彼女は口を開いた。 「もしも、理由があるとすれば」 「貴女とオグドモンは確かに強く結ばれたパートナーだったかもしれない。、けれど『仲間』は居なかった」 「…仲間?」 そう、と彼女は頷く。 「あの場に居た皆は、かつてはお互いに衝突し合って、それでも共にいる」 「人間とデジモン、貴方達は一人ではないけれど『一組』でしかなかった」 「…ジズモンとベヒーモンはオグドモンの支配下にあっただけだからね」 「貴方達は同じ目的を共有したパートナーだったけれど、それを分かち合う仲間は居なかった…もしも差があるとするなら、私はそこだと思う」 「……そう、ありがとう」 彼女の答えを聞き、私は部屋を後にする。 その手には、ドゥフトモンが考案したという手錠型のデジヴァイスが嵌められている。 ─ 私は牢屋と飛ぶにはあまりにも快適な部屋に通される。 近いのは…素泊まり用のビジネスホテルだろうか? 出入り口全てに鉄の柵があること以外は。 私はベッドに座り込み、思案する。 ─人間とデジモン、貴方達は一人ではないけれど『一組』でしかなかった ─貴方達は同じ目的を共有したパートナーだったけれど、それを分かち合う仲間は居なかった…もしも差があるとするなら、私はそこだと思う ふむ、一体どうしようか。 …ジズモンとベヒーモンにもパートナーである人間が居れば良かったのだろうか。 私と同じ目的、となると全てを識りたい、という欲望だろうか。 それを持った仲間を探す…? いずれにせよ、だ。 私はこの「牢屋」の中でのみ開放される両手を宙にかざす。 そこには、確かに「知識の紋章」が浮かんでいる。 あの時は、私にはもう何も残されていないと思ったが、まだ私の紋章は光り輝いている。 まだ私には残されている物がある、この紋章と、私自身が持つ欲望だ。 だったら諦める理由など欠片も無い。 オグドモンの開放、まずはそれを目指すとしよう。 …私は、パートナーであるオグドモン、デジタルワールドに未だに眠り続けるデータ達、そこに生きるデジモン達、綴 何一つだって諦めるつもりはない。 だって私は 誰よりも『強欲』だから。