・01 ナガト機関長 「はいこれ!私からの個人的なお礼よ」 デジタルワールドのニジウラ大陸を冒険する青年・シュウは偶然協力する事となった少女…のような姿をした電子妖精らしいナガトからある物を手渡された。 それはタグのようなアクセサリーで、中央に埋められた青色の石がキラキラと薄く光っていた。 「…なんだこれ」 「ふふん。綺麗な石よ!」 「そんな子供みたいな」 「は〜?私はお姉さんですが〜!?」 トレイルモンがじょんからじょんからと揺れる中、シュウは興味無さそうに石を触るのを見てナガトは不満そうにを膨らませる。 その様子を見て(これのどこがお姉さんなんだよ…)と心の中でツッコミを入れる。 「じゃあコレについて説明していい?」 「一応頼むよ」 そう答えるとナガトは鼻高々に語り始める。 どうやらこのキラキラした石はデジルフを捜索する中で立ち寄った遺跡で見つけたらしい。 不思議な光り方をする石に憑かれた彼女はそれを持ち帰るとわざわざウルカヌスモン達に頼んでそれらしきアクセサリーにしてもらったという。 「それはすごーい。一体何ができるんだろー」 「私にもわからないわ!」 「こいつ…」 シュウが適当に褒めるとナガトは気分を良くして凄まじく得意気な顔をする。 「まぁいいや。ありがたく受け取っておくぜ」 「そ。私からのお守りよ」 機嫌が良さそうなナガトは石をシュウの首にかけると、少し赤い顔でソレをじっと見つめていた。 「…で到着したのがこの遺跡なんだが」 シュウはデジビートルから降りると、周囲を見渡した。 これまでに破壊したイレイザーベースは洞窟のような場所だったため、ナガト達が語る目立たない静かなこの遺跡は怪しいと踏んでいた。 しかし実際には屋台が立ち並び、熱気と食べ物の香りが漂う賑やかな雰囲気を充満させていた。 シュウはデジビートルをディスクに収納すると、ユキアグモンと共に賑わう遺跡の雰囲気に圧倒されながらも人混みを潜って進んだ。 「コイツはさっさと片付けないとヤバいかもな」 シュウは最早観光地と化している辺りを見回しながら周囲を観察する。 普通ではない人の多さをしているココで戦闘を行えば無関係な人を巻き込んでしまう恐れがある。 「ユキアグモン。みんなを巻き込まないように速攻でケリをつけるぜ」 「よ〜し、オレに任せろ!」 シュウに指示されたユキアグモンは返事をすると、その大きな鼻をピクピク動かして匂いを嗅ぎ始めた。 するとすぐに何かを見つけた!と言わんばかりに飛び跳ねると遺跡の方に走り出していった。 「おい、待て!」 シュウはユキアグモンを追いかけ、遺跡に入り込むとそこは埋蔵金に釣られて集まった人々やデジモンがごった返していた。 「嫌な感じの臭いが幾つもあるゼ…だけど多すぎてどれがどれどかはわからねぇぞ」 ユキアグモンには残留データを鼻で感知する特技があるが、あまりにもデジモンの数が多い場所では判別が付かない状況となってしまう。 「仕方ねぇ…足で探すか」 シュウが途方に暮れているとユキアグモンは手をポンと叩き何かを思い付く。 「なー、一発ブン殴って違ったらごめんなさいすればいいんじゃないか?」 「お前珍しくいいコト言うな…それで行くか」 ユキアグモンの提案にシュウは感心し、頷くとデジヴァイス01から進化の光を送る。 ギューンという音と共にユキアグモンはストライクドラモンへと姿を変えると意気込みながらガッツポーズを取った。 「よーし!やーってやるゼ!」 ・02 桜島燈夜 遺跡を進む一人と一匹は前方に怪しい人影を見つけると素早く物陰に隠れた。 その正体はビクビクしながら物陰にかくれている髪の長い女性で、こんな所にいるには怪しさ満点のスーツ姿だった。 「おいストライクドラモン。あそこにいる子ってなんだか挙動不審じゃないか?」 「カワイイ顔して怪しそうだゼ…こりゃ先手必勝だぞ、シュウ!」 ストライクドラモンは拳を鳴らすと不意打ちで女性のパートナーと思われるティラノモンに襲いかかった。 「邪魔するゼ〜っ!」 女性とティラノモンは驚き、騒ぎつつ頭を抱えながらも攻撃を避ける。 しかしストライクドラモンのスピードには敵わず、あっという間に懐に潜り込まれてしまう。 「ぎょひ!いきなりなに!?」 「怪しさ花丸満点のお前を懲らしめに来た」 シュウは手を大きく開きながら後ろから逃げ道を塞ぐ。 「なんなのこのオッサン!?」 ストライクドラモンの拳がティラノモンを捉え、そのままシュウの真横に叩きつけると小さな亀裂を生んだ。 「うおっい!?」 シュウはなんとか避けることができたが、ストライクドラモンはわりぃわりぃと笑うばかりで頭も下げない。 女性は物音に驚いて坑道の奥に消える人影を見るとゲッという顔をしながら頭をグシャッとかきむしる。 「あーもう!今日は厄日よ!やるわよティラノモン!」 「うん!燈夜!」 「ほーん、燈夜ちゃんね。なんか人を狙ってたな?」 シュウは眉間を親指で叩き、したり顔と共にそう告げると指を鳴らした。 「てぃ、ティラノモン!どうして私の名前言っちゃうのよ!?」 「あわ〜!そうだったね!」 「ストライクドラモン、頼んだぞ!」 シュウの声に答えて飛び出したストライクドラモン、慌てて壁から抜け出したティラノモン…二匹のドラゴンデジモンが互いに駆け寄ると同時に拳が振るわれた。 ティラノモンの拳は頬を切り裂くように掠め、ストライクドラモンの拳は顔面を正面から叩きつけられた。 そのままストライクドラモンの拳は全力で振り抜かれるとティラノモンを大きく仰け反らせる。 「うがっ…この!」 ティラノモンは咄嗟に頭突きで反撃するがストライクドラモンは冷静に手で受け止め、即座に肘を鳩尾に打ち込んだ。 「何をしてるの!ティラノモン!」 胴体ごと強くぶつかられた衝撃に膝をつくティラノモンを見た燈夜は焦りながら声を荒らげている。 ティラノモンはフラフラしながら起き上がると、それを待っていたストライクドラモンは小さく飛んでティラノモンの側頭部にソバットを叩き込んだ。 再びティラノモンが地面に倒れこむと、その衝撃に燈夜は地面に尻餅をついてしまう。 その時、周囲からぞろぞろとゴーレモンの群れが姿を現した。 「おっ!いいね…弱いものイジメみたいで嫌だったんだ!」 ゴーレモンの姿を見たストライクドラモンはグッと腕を握るとゴーレモン相手に突っ込む。 「よっ、弱いものイジメぇ゙!?」 パートナーであるティラノモンの呆気ない敗北にストライクドラモンの言葉が重なって燈夜は髪を強く掻きながら奇声一歩手前の叫びを上げる。 ストライクドラモンは複数のゴーレモンを次々と砕いていくが、一方のティラノモンは腹を抱えたまま苦しそうに咳き込んでいる。 「舐めやがって…舐めやがって…舐めやがって…!」 ブツブツと呟く燈夜のデジヴァイスVが鈍く光り、それに共鳴したティラノモンは瞳に強い戦意を宿す。 同時に絶叫を上げながら走り出すとストライクドラモンの顔面に炎と共に拳を叩きつけた。 不意を撃たれたストライクドラモンは凄まじい速度で吹き飛ばされていき、それを見送りながら燈夜が立ち上がった。 そのまま燈夜がティラノモンに駆け寄るとテンションのままに「えいえいおー」と勝鬨を上げ続ける。 ようやくコンビが落ち着く頃にはシュウとストライクドラモンは姿を消しており、燈夜はキョロキョロと辺りを見回しながら困り果てていた。 「お、オッサン…オッサン?」 ・03 オブシディアナ・アルケア/メタルサタモン その頃、シュウは吹き飛ばされたストライクドラモンを探して遺跡内をうろちょろとしていた。 「お〜い。ストライクドラモ〜ン…くそ、どこに行ったんだよアイツは」 シュウがいくら探してもストライクドラモンの姿は見当たらない。 そんな時、ワイワイと騒ぎながらトンテンカンと何かを叩く音がシュウの耳に入る。 おそらくツルハシの音であろうソレが気になったシュウはそちらの方に向かうと、そこにはどこかで見た人影がツルハシを振るっていた。 「んひーっ!こ、これ大変…いや、我が本気を出すまでも無い…こんなチンケな遺跡だ。壊してしまっては…はぁ」 それは以前シュウが共に戦った厨二病少女、自称オブシディアナ・アルケアだった。 「…葵ちゃん何やってんだ?」 シュウは彼女のながったらしい名前は特に覚えてておらず、彼女もシュウの存在に気付かないままツルハシを奇声の叫びと共に振り下ろす。 「ふんっ!おおぉぁ!あ゙っ!?」 バキィィインッ!と音を立てて叩いた場所がひび割れると、ツルハシも変な方向に曲がってしまった。 「何度でも掴み取るまで、もがいて見つけ出せばいい!」 横から現れた鉄のガイコツとしか言えない奇抜な格好の男が葵に新しいツルハシを手渡すと親指を立てた。 「あ、ありがとうございますメタルサタ…いや!よくやったぞ我が眷属よ」 「新たなる冒険の扉。君が叩くなら答えは訪れるハズさ!」 葵は素に戻りかけるがなんとかオブシディアナ・アルケアの顔をすると彼から渡された新しいツルハシを構えては高笑いをした。 「えらい格好だが葵ちゃんのコスプレ仲間か…邪魔しちゃ悪いな」 ストライクドラモンを探しにこっそりその場を離れようとした時、遠く…恐らく外から爆発のような音が聞こえた。 「しまった外か…ストライクドラモンがもう戦っているな!?」 ・04 桐梁譲子/千本桜冥梨栖 少し時間は戻ってストライクドラモン。 彼は吹き飛ばされるとそのまま遺跡遺跡の外まで飛んでいき、何かにぶつかった。 そこではラブリーデビモンがどうとかギュウキモンがどうといった叫び声や爆発音が交差しているが、疲れていたストライクドラモンはそのまま眠りに入ってしまった。 「おいストライクドラモン、大丈夫か」 ストライクドラモンは大きな欠伸をした後、シュウに親指を立てながら「大丈夫だゼ!」と返事をした。 「寝てただけか…退化はしていないあたりダメージも少ないように感じるな」 シュウはデジヴァイス01の画面を確認しながらストライクドラモンに返事を返す。 「あらあら。お二人ともお久しぶりですわ」 一人と一匹が立ち上がりながら振り反るとそこにいたのは以前、デジモンイレイザーの情報を教えてくれた謎のお嬢様・千本桜 冥梨栖だった。 「…ん、君はいつかのオジョーサマちゃんか。ケガはないかい?ここら辺で爆発があったみたいなんだが」 「おっ!ケンカか!?ケンカならオレ達に任せな!」 「えぇ、私はこの通り大丈夫ですわ。そこのストライクドラモンさんに助けられましたから」 どうやら吹き飛ばされて来たストライクドラモンが彼女を襲おうとしたデジモンイレイザーの配下に激突してそのまま倒してしまったらしい。 シュウはなんだか怪しいようにも思えたがストライクドラモンは「オレはついに気絶したままでも敵をブッ飛ばすようになっちまったか…」とニヤニヤしている。 楽しそうに小躍りしている彼を邪魔するのもあまりよくないと思い、シュウはとりあえずそういう事にしておく。 「ですが私の友人が…イレイザー配下の水龍将軍なる者に命を狙われていますの。彼の身にもしもの事があったら、私…」 「なんかまた知らない敵が増えたな!シュウ!」 「あぁ、でも関係ないさ。オジョーサマちゃん、君も君の友達も俺が守るぜ。待っててくれよな」 シュウは泣き出してしまった冥梨栖の肩にポンと手を置くと右手の親指をグッと立てた。 「オレ達が、だろ!」 「そうそう。それね」 ストライクドラモンがシュウにそう言うとシュウは振り返ってハイタッチし、笑いあっている。 すっかり泣き止んでいた冥梨栖はシュウに触られた肩を撫でながら彼らを後ろから見つめていると「イレイザー…将軍だと?」と誰かが屋台の影から現れる。 「オマエはさっきの…」 「あらあら。もう屋台巡りは終わりましたの?」 それは燈夜より以前にシュウとストライクドラモンから襲撃を受けるものの、生身でそれを退けた少女だった。 「私は桐梁譲子。その言葉を聞いてはソレどころではいられないのでな」 彼女は水色の髪を風で揺らしながらクレープの包みをゴミ箱へ投げ捨てる。 「さっきは悪かったね。君もデジモンイレイザーに用がある口だったのか」 「ふっ。互いにアレを追う身としてあの程度些細な事…むしろ君が目的を共にする者だった事に感謝するさ。なにより、いま一番重要なのはネオデスジェネラルと決着を付ける事だ」 譲子は拳を握ると「さぁいくぞ少年達!」と勝手に遺跡の入り口へ向かい、ストライクドラモンは小走りでそれを追いかけていった。 「何だかわかんねーけど付き合うゼ!」 「じゃ、行ってくるよ」 シュウは冥梨栖にそう言うと手を振られながら遺跡に再度突入した。 ・05 東睦月/無量塔リョウスケ 「そんでどこにイレイザーベースがあるんだ?」 「…イレイザーベース?」 しばらく譲子について歩いたシュウは彼女にそう尋ねるが、譲子は首をかしげながらさらに先へと歩いていく。 シュウはコレまずいのでは…?と思いつつも苦笑いのまま言葉を続ける。 「あ、あの…桐梁譲子さん。その、この遺跡にはイレイザーベースがあるとかないとか言われているんですけど」 「ははは。さっきから何の話をしているんだ少年」 彼女は事も無げにそう告げると、シュウは「え…?」と思わず間抜けな声を漏らした。 少し沈黙の後、譲子は「まぁいいか!」と手を打つとまた先へと進んでいく。 「ひょっとしてコイツなーんも知らないンじゃねぇのか?」 「いやほら、実力は確かにあるし…」 ストライクドラモンが若干呆れ気味にシュウに耳打ちしてくるのでシュウはフォローに回るが、「あっちのユズちゃんは元気してっかな〜」ともう違うことを話している。 そしてその直後、通路の奥から騒がしい二つの声が聞こえてくる。 「お前も来てたのか無量塔!?狭い通路内では戦うなよ。生き埋めなんてごめんだからな!」 「東睦月…こんな所で埋蔵金の幻想を追っているのかね。ご苦労な事だ…」 その正体はガタイの良い少年とやけにふてぶてしい子供であり、シュウは子供の後ろ姿を睨んでいた。 「あいつ、デジモンイレイザーのアジトにあった資料で見た男だ…たぶん」 「つまりそういうワケか!」 シュウがデジヴァイス01の画面に無量塔と呼ばれた子供にそっくりな写真が表示された。 彼はデジモンイレイザーの心を持たない尖兵・ギズモンの開発者とされており、なぜか若返っているらしい。 「心配せずともラグナモンは君用に調整した訳じゃな…」 「そこの兄ちゃん、オレ達も助太刀するぜぇ!」 ドッタンバッタンとやかましい足音と共に男二人の間にストライクドラモンが割り込むとシャドーボクシングを繰り広げる。 シュウは少し遅れてストライクドラモンの横に着くが、肝心の二人はなんだか困っている様子だった。 「ケンカなら俺達も仲間に入れて…あれ?やらないの?」 「えーーーっと。折角助太刀に来てくれたみたいだけどそうなんだ」 「なんか悪いな…えっと…」 睦月が気まずそうに懐から栄養食品を取り出してストライクドラモンに手渡そうとした時、ズンズンと歩いてきた無量塔が二人の間に割り込むとシュウに手を伸ばした。 「助力感謝しよう戦友よ。共にデジモンイレイザーという巨悪に正義の鉄拳を喰らわせよう」 「なんだ見た目より熱い男じゃないか。ま、よろしくよ」 差し出された手を見たシュウはフンスと鼻息を立てるとその手を強く握り返した。 (祭後終…デジモンイレイザーを調べる過程で見た記憶がある。少しちょっかい出してみよう) (ギズモンに関わったのが本当に彼なら見える範囲に留まってもらうのは悪い選択肢ではない…) 小さく笑って手をほどくと互いに自己紹介を始める二人だが、その目は何かを探るように細められている。 (なんか二人とも仲良くしようって割にはちょっと怖い顔してないか…?) 二人の様子に睦月は少し気まずそうな顔をしているが、自分の自己紹介がまだな事に気付くと口を開こうとする。 「あの、俺は」 「じゃあ二人には仲直りの握手してもらうか!」 睦月が名乗ろうとした時、シュウは二人の手を引っ張ると強引に握らせる。 「ふふふ。いや、悪かったねぇ〜」 「こりゃどうも…って祭後の兄さん!コイツ実は…うっ!」 にこやかに握手をしてしまった睦月がハッとして無量塔の本性について語ろうとした時、彼は無言で睦月の足を踏みつけた。 「我が友シュウよ。無礼を許して欲しい…こいつは少しばかり口が悪くてな」 「いや全然気にしてないけど」 「オレ、ストライクドラモン」 「私はチッチモンだ」 「俺はですね」 「少年たち!!急に飛び出してどうしたのだ!!」 再び睦月が名乗ろうとすると譲子が駆け寄って大声でシュウに話しかける。 「譲子ちゃん悪いね。ちょっと話が長引いてね」 「むむ…私を除け者にする気か?」 むすっとした譲子がシュウやチッチモンと話しだすと、睦月は溜め息をつきながら「いつまで握ってんだ気持ち悪いぞ」と無量塔の手を振りほどいた。 無量塔はニヤつきながらやれやれと肩をすくめた。 譲子との話しに決着が付くとシュウは睦月に話しかけてくる。 「そういえば君の名前を聞いてなかったな」 「はい!俺は」 「東睦月だ」 「お前が言うんかい…!」 ・06 虚空蔵優華子 「仲良くしようじゃないか…ふふ…」 「お前がなんかしない限りはそうしてやるよ」 なんだかんだあって共に遺跡を進むことになった四人と二匹は互いの簡単な身の上話やデジモンイレイザーについての情報交換が行われていた。 じわりじわりと人やデジモンがその数を減らしており、彼等は遺跡の最奥が近いことをなんとなく察していた。 「ほーん。ネオデスジェネラルね」 「なんだか敵が多くないですか祭後さん」 「改めてFE社とデジモンイレイザーに繋がりがあることがわかったぜ」 シュウは懐から社員証を取り出すとストライクドラモンはそれが先程戦った燈夜のモノであることに気付く。 「ソレ、さっきの子だな」 「転んだ時に荷物をぶちまけてたから逃げる時にパクってきちゃったぜ。今頃慌ててるんだろうなぁ」 「随分と気楽そうにしているがまだ君達は奴等の強さを知らない。警戒したまえ」 「リョウスケはなんか知らねーのか?」 「私はしがない一般人だからねぇ。特に面白い話は持ち合わせていないのだよ」 ストライクドラモンの問いに首を振る無量塔は「でも」と話を続ける。 「イレイザーの配下には、彼をリスペクトした者が多くいるとウワサに聞いたことがある」 無量塔の胡散臭さに睦月は頭を抱えていたが、重く響く足音に体をハッと向けるとそこにはゴグマモンがその巨体をゆらりゆらりと揺らしていた。 「リョウスケの言った通りだ!あの時ブッ飛ばしたヤツか、その仲間が復讐しに来やがったゼ!」 「なるほど!覚悟!」 「おい嘘だろ!?」 睦月は裏返った声で叫ぶ。自分はここに来なかった方がいいのではないかとすら思えてくるが、既にそんなことを言っていられる状況ではない。 暫くの格闘戦の後にシュウは鏡界のイレイザーベースでの経験を既にデジヴァイス01に記録しており、それをストライクドラモンへとアップリンクした。 ストライクドラモンはゴグマモンの大振りなパンチをスライディングで回避しながら潜り込み、そのまま飛び上がると回転をかけながら突き出した蹴りを鎧の無いゴグマモンの首に突き刺した。 ゴグマモンは苦悶の声を漏らしてよろめきながらもストライクドラモンを掴もうとする。 しかし、ゴグマモンが掴んでいたのはなんと無量塔であった。 「お?」 「!!?」 シュウが思わずひっくり返ると、岩の後ろから突如飛び出した少女が転倒したシュウの眼前を飛び越えて睦月に頭突きをブチかました。 「ぐえっ?!??」 「わたくし急いでますの」 「く、黒…じゃなくて睦月くん!」 そのまま少女は空中で素早く睦月に組み付くと、無量塔を抱えたゴグマモンと共に凄まじい衝撃を放ちながら地面に追突した。 睦月はここに来た事を後悔していた。 ・07 デジモンイレイザー 「ネオデスジェネラル水龍将軍・ホムコールモン只今」 所々から様々電子機器の光が照らす無限とも思えるほどに広い空間で膝を突いたデジモンは自らをそう名乗った。 「おつかれ様。忙しいのにわざわざ悪いね」 「いえ─イレイザー様には前任の失態を放免していただきました。その分を私が取り戻したく馳せ参じました」 何も無い空間に座る少女…デジモンイレイザーの労いにホムコールモンはハキハキと答えた。 「アレの始末は追々にするとして今日は君にやってほしい事ができたんだ」 「はっ!して私に一体何を…」 「埋蔵金の発掘かな」 「承知しました…えっあの今なんと?」 ・08 水龍将軍・ホムコールモン 「お。起きたな睦月くん」 シュウは駄菓子の酢昆布を食べながら睦月が起き上がるのを待っていた。 彼が辺りを見回すと既に少女とゴグマモン…それどころか無量塔と譲子の姿もそこにはなかった。 「リョウスケくんはなんか急用ができたらしい。譲子ちゃんはなんかいつの間にかいなくなってたぞ!ははは!」 「嘘だろ…まとまりが無さすぎる…」 急拵えのパーティーとはいえ、あまりにも適当な集団に睦月はげんなりと顔を引き攣らせた。 二人と二匹が最奥と思われる行き止まりにたどり着くと、そこではデジモン達が各々に岩を砕いて発掘作業を行っていた。 その中央で指揮を取っている5m程のデジモンは「第2班、遅れているぞ」と指示を飛ばす。 それはデジモンイレイザーから埋蔵金の発掘を命じられたホムコールモンであった。 「ホムコールモン様。第3班、指定箇所の発掘を終了しました。ですが目ぼしいモノは特になにも…」 「わかった。しかしイレイザー様は一体なにを…」 ホムコールモンは部下のモジャモンが敬礼と共に行った進捗を確認しながら呟いた。 「いや─今は不届き者の始末としよう」 ホムコールモンは振り向きながら手から青白いエネルギーを放つと岩壁を砕いた。 「んおおっ!?見つかってたぞシュウ!」 岩の後ろにいたのは見張りのゲコモンを気絶させていたストライクドラモンとシュウだった。 ストライクドラモンが驚く中、シュウは冷静にそのエネルギーの性質を分析していた。 (圧縮された水分…つまりコイツがオジョーサマちゃんや譲子ちゃんの言っていたヤツか?) 「お前がネオデスジェネラル…って事でいいのか?」 「本来は貴様の様な痴れ者に話す言葉など持ち合わせていないが…この私の前に立つ気概を評価し、水龍将軍・ホムコールモンであると名乗らせてもらおう」 ホムコールモンは手を上げてから前方に振るうと大量の部下をシュウとストライクドラモンに差し向けた。 「おうおうおう!上等だゼ!」 ストライクドラモンは吼えると走り出し、次々と目の前にいる水龍軍団の成長期デジモンを撃破しながらホムコールモンに迫る。 「3班迎撃、2班は発掘続行。4班は2班の補助だ。1班をこちらに向かわせろ」 ホムコールモンは指を鳴らして大気中の水分を玉座の様な形で凍結させるとそこに座り、足を組む。 「そこで待ってな!オレ達が叩き潰しに行ってやる!」 【ブルーフレイム】 ストライクドラモンは爪から衝撃波と共に青い炎を放って水龍軍団を吹き飛ばす。 背後から奇襲を仕掛けようとした複数のモジャモンを叩き伏せるが、ストライクドラモンの目の前には水龍軍団の中でも一際大きなデジモン・トノサマゲコモンが立ち塞がった。 「3番隊トノサマゲコモン!この俺様が捻り潰してやるゲコ!」 「おう!かかってこいデカブツ!」 ストライクドラモンはダッキングのような動きでトノサマゲコモンに肉薄し、爪を突き出す。 しかし、その一撃は分厚い腹に防がれてしまった。 「うわ、なんだこれ!」 ストライクドラモンは拳を引っ込めて素早く上段蹴りを放つがそれも腹の肉に防がれてしまう。 「残念だったゲコね!そんなヘナチョコキックじゃ俺様には効かんゲコ〜!」 トノサマゲコモンが余裕そうに言った次の瞬間、ストライクドラモンのストレートが顔面にめり込んだ。 強烈な一撃を喰らったトノサマゲコモンは顔を押さえながら悶えはじめ、その隙を突いたストライクドラモンは尻尾を掴むと大きく振り回して岩壁に投げつけた。 トノサマゲコモンは派手に岩を砕くと埋もれたまま絶命し、デジタマへと戻った。 「お前達、少々たるんでいるのではないか?」 ホムコールモンが手すりにヒビをいれると、戦闘中の水龍軍団は震え上がった。 「ひっ。も、申し訳ありません!」 「いや、よい…この者達は私が相手をしよう。お前達は引き続き発掘を続けるのだ」 「はっ!ホムコールモン様!」 水龍軍団が散り散りになるのを確認したホムコールモンはゆっくりと玉座から立ち上がった。 「ようやくやる気かよ!」 ストライクドラモンは拳をバシバシと叩いてからガッツポーズを取る。 「オジョーサマちゃんの友達を狙うのはやめときな。痛い目見るぜ」 「誰だそれは…いや、なんとなく察しがついた。貴様、ヤツと関係があるのか」 「さあ?答えてやる義理はないな」 「ふん…だが貴様の事は思い出した。イレイザータワーを襲撃し、おめおめと逃げ帰った雑魚ではないか」 「ンだとぉ!?」 「ストライクドラモン」 ストライクドラモンを制止するシュウをホムコールモンは鼻で笑うと、掌を振るって辺り一帯の地面を凍結させた。 「今度も尻尾を巻いて逃げるがいい…」 凍った床に足を滑らせたシュウはアップリンクの赤外線をホムコールモンに当ててしまう。 「しまっ…!」 「間抜けが…【素早い連続攻撃で隙を与えぬまま撃破】とは舐められたモノだな!」 ストライクドラモンはホムコールモンの巨体に飛びかかると顔面に目掛けて連続蹴りを繰り出すが、ホムコールモンは首を軽く動かすだけでその攻撃を全てかわした。 「ンにゃろう!避けるな!」 「ふん、なら望み通りにしてやる」 【とうしのこぶし】 シュウのデジヴァイス01から技発動の警告音が鳴り、強いエネルギーを纏ったパンチがホムコールモンの顔面を捉える。 「今の一撃は中々効いた─だが成熟期にしてはだがな!」 しかし、ホムコールモンは全く堪えておらず、ストライクドラモンの胴に拳を叩き込む。 ストライクドラモンは空中に放り投げられるが、空中で体勢を立て直して壁を蹴りつけると加速をつけながら再び拳を打ち込もうとする。 「この程度の小細工、たとえ作戦を知らずとも─他愛も無い!」 しかし、ホムコールモンは突っ込んでくるストライクドラモンを地面に叩き落としてしまう。 ストライクドラモンは苦痛の声を上げるが、ホムコールモンは追撃の手を緩めなかった。 「その程度でイレイザー様と戦おうなどと片腹痛い!」 ホムコールモンは手を叩くといくつもの氷柱を頭上から発生させてストライクドラモンを押し潰した。 「ぐああッ!!」 「傲るな。雑魚め」 「ふふ…お前、雑魚相手に舐めて目的を忘れてたんじゃないか?」 ホムコールモンはシュウの不適な笑いに顔をしかめるが、ハッと背後を向く。 【ホーリークロス】 刹那、音も無く迫っていたブテンモンがホムコールモンの頭を十字に切り裂いた。 ホムコールモンは顔にダメージを負った影響で怯み、その直後に蒼炎を纏ったストライクドラモンが全力の体当たりをブチかます。 【ストライクファング】 その体当たりは一度きりではなく、衝突の反動で反転・加速を繰り返すとホムコールモンの全身を突き刺すように旋回する。 更に、ストライクドラモンに合わせるようにブテンモンが挟撃を繰り返して全身に傷を作っていく。 (中々の加速…これを利用して脱出していたか!) 氷柱によって押し潰されたと思っていたストライクドラモンの予想外の抵抗にホムコールモンは舌打ちし、手をかざす。 「なっ…ぐぼっ!?」 体を包む蒼炎が消え、戸惑った顔面に強烈なストレートが撃ち込まれるとストライクドラモンはユキアグモンに退化しながら壁に叩きつけられた。 「…!?」 ポケットから光が溢れるとシュウは思わずその原因となった物体を取り出す。 それはナガトから貰った石であったが、今優先されることはユキアグモンだとシュウは走り出した。 「ぐお…っ」 「ブテンモン!」 続いて背後から迫ったブテンモンの大剣を受け止めると捻り、投げ捨ててから素早い肘撃ちで仰け反らせる。 影に隠れていた睦月が思わず飛び出すと心配して彼の名を叫ぶ。 「睦月…私は平気だ。それよりも作戦は上手く行ったようだな」 発掘に当たっていた水龍軍団はブテンモンによって全滅させられていた。 ホムコールモンの強い力ではこの遺跡を崩壊させてしまうため、作業を続ける事はできない。 「…よくも!」 「ホムコールモン、お前一瞬マジになったろ」 シュウの言葉にホムコールモンはピクっと体を反応させる。 「お前の能力、物体の凍結じゃなくて温度の操作だろ?他の氷雪系デジモンのように氷柱を生やして確実に突き殺せばいい所、ソレをせずに押し潰そうとしてきたから怪しいと思ったんだ」 「…それだけではないだろう」 「ストライクファングへの対応でソレは確信になった。速度が無くならないまま炎だけが消えたからな」 「見事だ。見下していた相手に能力を使うほど本気になってしまったという事に他ならない」 やれやれ…と言いながらホムコールモンは漲る闘志をスッと抑えてみせる。 「オレ達は最初っから睦月とブテンモンのための時間稼ぎだゼ!」 「私と睦月なら二分もあれば十分だ」 「お前に間違ってアップリンクする所からもう俺の作戦だったのさ」 「実力は認めよう…だが私の、いや我々の勝利だ」 その時ユキアグモンの叩きつけられた岩壁に亀裂が入ると赤色の光が溢れる。 熱風に吹き飛ばされたユキアグモンが気絶すると、光と共に地を割きながら黒い鎧で全身を包んだデジモンが現れた。 ・09 火竜将軍・テラケルモン 「テラケルモン殿…やはりそなたであったか。力の一端を我が肌で感じていた」 「久しきかな。長き刻限を此処で過ごし、デジモンイレイザー様の力になれぬ事を憂いて幾星霜。如何やらネオデスジェネラルの顔触れにも変化があったようだ。」 「人間よ、私の本気を受けても死ななかったのはテラケルモン殿の持つ力のおかげだ。感謝しながら殺されるがよい」 ホムコールモンは彼の復活が嬉しいのか、僅かに上ずった声でそう告げた。 一方、シュウと睦月はその顔に焦りを隠せない。 「祭後さん…もしかしてコイツもネオデスジェネラルってヤツなんじゃ」 「ここにイレイザーベースは無い…いや、あってもどうにか逃げねぇとな」 「恐らくヤツは本調子ではない…が、我々が本気でかかっても状況は覆ると思えん」 シュウは親指を額から離すと、悔しそうにその大剣を握るブテンモンに話しかける。 「俺が奴等を挑発する。ブテンモン、ユキアグモンを頼めるか」 「む、無理だろ!」 「…わかった。お前の事は忘れないだろう」 「嘘だろ!?ブテンモン何言って…うおっ!」 ブテンモンは頷くとユキアグモンを抱え、睦月は無理矢理持ち上げると全力で道を引き返す。 「我々の目的は貴方だったようだ…デジモンイレイザー様は全てを理解しておられた上で私に挽回の機会を与えてくださったという事か…」 「ホムコールモン、そなたは残存勢力をなるべく多く纏め上げつつこの遺跡から引き返すのだ」 「了解した。あの実験体といるメタルサタモンも心配だ」 ホムコールモンはテラケルモンに軽く会釈をすると青い突風に吹かれて姿を消す。 シュウはそこらの石を拾うと大きく深呼吸をしてからテラケルモンに投げるものの、届かない。 「ちょっと早い気がするけどし仕方ねぇな…」 「捨て奸と呼ぶには心許無し─だが、我の前に一人で立つ事は評価に値する」 テラケルモンが振り向くと拳を握り、地面にかざす。 彼の足元に現れたダークネスローダーが空間に黒い渦を産み出し、そこから六つの板が重なるように取り付けられた腕のような何かが現れる。 「人間、貴様を一人の戦士として我が刀で葬ると決めた」 「たとえ俺の肉体は滅んでも…ユキアグモンがお前たちネオデスジェネラルを倒すぜ」 シュウの脳裏には今まで出会ってきたテイマー達の顔が浮かんでいた。 ナガトから貰った石が再びその輝きを膨らませる。 「ソイツはオレサマがいいただきだァーーっ!」 天井を突き破った一つの影がテラケルモンの顔面に拳を叩き込むと遅れて衝撃波が遺跡を突き抜け、シュウを吹き飛ばす。 フラつきながらも起き上がったシュウの前にいたのは数メートルの巨大なデジモンであり、それは彼の知り合いであった。 「師匠…!?」 「んんん?久しぶりじゃねェかシュウ。ユキアグモンはどうしたンだよ」 「どうしてこんな所に…い、いやそれより」 「強い力を感じたらブッ込むのが番長の宿命、お宝の臭いがしたらブッ込むのオレサマの運命よぉ!」 帽子の唾を親指で持ち上げてシュウへニッと笑いかけたのは究極体デジモン・バンチョーアンキロモンであった。 (お宝ってもしかして…) シュウはポケットの中の石を触るが、せがまれると面倒なので知らないフリをすることにした。 ネジ曲がった首を元の角度に戻したテラケルモンはダークネスローダーを空間へ収納する。 「貴様も久しいな。仲間はどうした」 「バンチョーっつうのは集まりが悪くってなァ。ダチがてめーによろしく言ってたぜ?」 バンチョーアンキロモンはテラケルモンに向かって中指をピッと立ててから準備運動を始める。 「ま、ここでオマエ達に会えた偶然に感謝だ」 「どちらにせよ此処は電子と現実の境界…あまり長く存在されると不都合な事もあるのだ。」 二匹のデジモンから放出されるの強く張り詰めた気迫が地を揺らす。 「身は極黒の常闇、血は兆炎の焔、我は新たなる厄災となり終末の夕暮れを地に注ぐ者なり…我が名は火竜テラケルモン─推して参る!」 「来るぞ!オマエはデータ収集に徹しろッ!」 「ああ!!」 テラケルモンとバンチョーアンキロモン、二匹のデジモンが拳を交えた。 「そんなモンかよ?」 バンチョーアンキロモンはそのままテラケルモンの拳を押し返すと、体勢を崩したテラケルモンの背中に向かってハンマーのように拳を降り下ろす。 「そんなワケねェだろッ!」 しかしテラケルモンの体は突如として黒い渦の中に消え、バンチョーアンキロモンの背後にその姿を現した。 バンチョーアンキロモンの脇に腕が通され、そのまま抱えるようにして持ち上げられる。 「やべっ!?」 テラケルモンはそのまま素早く後方にブリッジし、バンチョーアンキロモンを顔面から岩肌に叩きつけた。 フロントスープレックスによる強烈な衝撃は周囲に伝わり、地面から亀裂が発生する。 すぐさま追撃に振り向くテラケルモンだったが、バンチョーアンキロモンはその巨体を回転させて尻尾で反撃する。 テラケルモンは素早く腕をクロスしてその一撃を防ぐが、バンチョーアンキロモンはその回転を更に加速させていく。 【阿羅三弾】 シュウのデジヴァイス01から電子音が鳴り、その技の発動を宣言した。 「違う!コイツぁ楼輪紅阿羅三弾(ろーりんぐあらみたま)じゃあッ!」 バンチョーアンキロモンの指輪が強く光ると、太古の聖なるエネルギーが回転によって全方位に放たれた。 テラケルモンはワープを連続して放つが、狭所において行われる回転攻撃は彼の移動先にも先を読むように光が放たれている。 バンチョーアンキロモンの加勢で一見優勢に見えるこの状況にシュウは焦りを感じ、眉間を親指で叩く癖を見せている。 (攻撃があまり効いていない…?) 回転攻撃によって遺跡に刻まれていく亀裂はバンチョーアンキロモンが攻撃を躊躇うようなデジモンでは無いという証左だ。 シュウはデジヴァイス01で解析途中のテラケルモンについての数値や、本人やホムコールモンの言動を思い出す。 「人間よ、私の本気を受けても死ななかったのはテラケルモン殿の持つ力のおかげだ。感謝しながら殺されるがよい」…先程のホムコールモンの言葉にその答えの一端を見た。 「防御力じゃない、ヤツは何かでこちらを弱体化させているんだッ!」 「んだとぉ…まぁオレサマのパンチで怯まねぇとかありえねーから…なッ!」 バンチョーアンキロモンは回転を止めて立ち上がると今度は体重をかけたドロップキックを打ち込んだ。 テラケルモンは大きく仰け反って壁に叩きつけられるが、その黒い鎧にはヒビ一つ入る様子は無い。 しかし天井が崩れるとテラケルモンを押し潰し、その姿を見えなくしてしまった。 「っしゃオラァ!今のでダチの分ってコトにしといてやらぁ!おいシュウ、ズラかんぞ!」 バンチョーアンキロモンは雄叫びを上げてガッツポーズを取ると光線をハチャメチャに撃って更に岩を追加した。 マントの内側からディスクとその再生機を取り出したシュウはデジビールを実体化させ、すぐに乗り込んだ。 バンチョーアンキロモンはそれを後ろから押しながら遺跡を全力で引き返し出す。 シュウはその速度に目を回すデジビールの天板を開けると上半身を乗り出し、バンチョーアンキロモンに帰り道の指示を行う。 「オメーいつからなんの為にこっちに来てんだよ!」 「師匠が突然消えてから半月くらいで妹がデジモンイレイザーに捕まってるって噂を見つけたんだ!」 「んだよ。大体一緒じゃねーか!オレサマはこのニジウラ大陸でバンチョー連合を作ってなァ、あのデジモンイレイザーどもをブッ飛ばそうとしてんのよォ!」 「それは不可能だ」 シュウが後ろを振り向くと、そこにはテラケルモンが追い付いていた。 「な、何ィ!?」 バンチョーアンキロモンが驚きのあまり急停止するとその隙にテラケルモンが彼らの眼前にワープする。 「貴様達はここで消す」 テラケルモンは掌に強いエネルギーの球体を産み出すと、それを握りつぶしながら強く拳を握る。 「炎龍握(えんりゅうあく)─!」 バンチョーアンキロモンは咄嗟に背中の甲羅を向けて防御体制を取り、シュウを守ろうとした。 しかしそれは突如現れた紫の光がテラケルモンにぶつかるとその動きを押さえつけた。 「見つけた…見つけたぞネオデスジェネラル!!」 「アルファモン─成る程やはりここは境界に近い…!」 「少年、君は脱出だ!我等ロイヤルナイツは一人でも多くの者を守る!」 テラケルモンにアルファモンと呼ばれたデジモンが叫ぶと、彼の背後から遅れてブテンモンが現れる。 その背中には睦月とユキアグモンも乗っていた。 「シュウ〜!」 「ブテンモン、睦月君─それにユキアグモンまで…!」 「やっぱり無理だ!なんかアンタはいい人そうだしな!」 「こうなった睦月は止められんぞ。大人しく帰るんだ」 「あっ、師匠じゃん!なんでいるの!」 「ソイツは後だ!とっとと行くぜ!」 アルファモンはふっ…と笑うと力強く叫んでテラケルモンと共に遺跡の奥へと消えていった。 ようやく遺跡から抜け出し、バンチョーアンキロモンとブテンモンはその速度を落としていく。 シュウがデジビートルの上で後ろを振り返った時、突如として大きなブラックホールが現れると遺跡をごっそりと切り取って消失した。 ・10 シエ 「全く酷い目にあったぜ…」 「屋台で色々食っとけばよかったな〜腹減りすぎて腹痛いゼ…」 脱出したシュウ達は遺跡が崩れる事を伝えると出店は驚く速度で撤退していった。 その内の一人だった冥梨栖も友達は無事だったようで、シュウに感謝すると再開を約束しつつ彼女を見送った。 「おいシエ〜なんかみんな帰ってるぞ〜起きろよ〜」 コエモンに揺らされながらもすやすやと寝る白い犬を見つけたシュウはデジヴァイス01をかざす。 「あのイヌモンにデジヴァイスが反応しないぞ?新種か?」 「おう。あれ犬だぞ」 朝焼けと共に遺跡前がすっかり静けさを取り戻すと、また動かなくなったデジビートルに寄りかかりながら改めて自己紹介と作戦会議を行う。 「祭後さんはイレイザーベースを探して回るのか?」 「あぁ。ま、遺跡やら洞窟だのばっか探しても意味ねぇってコトはわかったよ」 ユキアグモンはバンチョーアンキロモンの頭に乗りながら「師匠はどうすンだ〜?」と質問する。 「オレサマは意地でもバンチョー連合を結成すっからよォ!見てな!」 「タグを集めてイレイザーベースの防壁を解除する準備を整えたら連絡する。死なないでくれよ」 「おう!ぜってぇ駆けつけっからヨロシク!じゃあ睦月、チッチモン!さっさと行こうぜ〜!」 「あっはい…えっ?」 ぎゃーっぎゃ!と妙な笑い方をするバンチョーアンキロモンの横でいつの間にか同行が決まっていた睦月達は、ピシッとその動きを固める 「あの、なんで俺も」 「いやぁ〜!はっはっはっは!道に迷ってしまったよ!諸君!全員無事で何より!はっはっは!」 睦月が口を開こうとすると、どこからか大声で笑うボロボロの譲子が現れた。 マイペースに笑い続ける彼女のおかげでバンチョーアンキロモンと話す暇も無いまま睦月は引きずられて姿を消していった。 おわり