「ねえ!そこのうさぎちゃん!」 「えっと…私…?」 出店にでもいこうかと思っていた私に声をかけてきたのは、ウサ耳のパーカーを着た、私より背の低い女の子だった。 顔は…どこかで見たことがあるような気もするけど、フードで半分ほど隠れていてよく見えなかった。 「あなた、錬金術師でしょ!」 「えっ…どうしてわかるの?」 「ガッチャ!やっぱりね〜私は大物錬金術師、人呼んで『スプリームアルケミスト』だもの!」 スプリーム…?そんなのいるんだ… 「私以外の錬金術師…初めて会った…」 「あれ、こっちの世界には錬金連合はないの?」 「錬金連合…なにそれ?」 「結構私の世界と違うのね〜…」 「…ちょっと待って、あなた異世界人なの?」 「そうよ!このギガントロコモンで世界間移動してきたの」 彼女が見せてくれたカードには、機関車のようなデジモンが描かれ─── 「ギガーント!」 「喋った!?」 「ふふ、いい反応!」 錬金連合っていうやつもこのデジモンも、気になることだらけ。もう少しゆっくり話を聞こう。 ということで、私たちは近くにあったハンバーガー屋さんに入った。 ───────── 「えっとつまり…そっちの世界には錬金連合っていうのがあって、そこが主導して悪の錬金術師と戦ってる…てこと?」 「簡単に言うとそうね〜…でも連合の偉い人たちは役立たずばっかりで…戦ってるのは私たちぐらいしかいないのよねー…」 彼女は少し愚痴るような口調で語った。 「で?あなたはどうやって錬金術を知ったの?」 「私は…お母さんが錬金術師だったらしくて…錬金術は会うための手がかりっていうか…」 「じゃあ…あなた錬金術は独学?」 「うん。お母さんの手記が一冊あるから…それを参考にしてる。」 「すごい!私なんてアカデミーで学んでようやく習得したのに!」 彼女は目を輝かせている。 「そんな…私まだまだ初心者だし…この前もイメージ上手くできなかったせいで肝心な時に使えなくってさ…」 あの時私がもっと上手く錬金術を使えれば、燈夜ちゃんとクリアアグモンくんに手間をかけさせずに済んだはずだ。 「うーん…もしかして、錬金具を持ってないからかしら?」 「錬金具?」 「そう!この指輪みたいに、錬金術を補佐してくれる道具」 彼女はそう言って自分の右手を見せる。そこには赤い宝石が装着された、金色の指輪があった。 「これは私の世界にいたワイズモンが作ってくれたんだ。あなたにも作ってあげる!手を出して」 「わ…わかった」 私が手を出すと、彼女はそれに手を重ねる。 「汝、全世界の栄光を得たりて、一切無名は散ずべし!」 それが唱えられると共に、店外の地面から銀色の液体が湧き上がり、宙を舞って私たちの手中に飛び込んだ。 「えっちょっ…何⁉︎」 「ふふ…これで完成!」 彼女が手を離すと、そこにはひし形に似た…正八面体っていうんだっけ? ともかく、そういう形をした結晶があった。 「これは…?」 「アマルガムよ。これの中心になってる水銀は錬成を助けてくれるから、これを使えばあなたももっと上手に錬金術を扱えるようになるはずだわ!」 確かに、その結晶からは波動のような何かを感じる気がした。 「二人とも買ってきたぜ〜」 シャウトモンが三人分のハンバーガーを買って戻ってきた。 「ありがと〜!一回食べてみたかったのよね〜パインツキミ!ガッチャな組み合わせだわ!」 彼が私の隣に座る。 「…なんだそれ?」 「アマルガム…だって。」 ───────── 「美味しかったわ〜奢ってもらって悪かったわね。」 「別にいいよ。これ作ってもらっちゃったし」 それに、なんだか彼女は他人って感じがしない。 『ギガ〜ント!』 「あれ、もう大丈夫なの?ギガントロコモン」 『ギガント!!』 彼女の胸の辺りから、一枚のカードが這い出てきた。…カードが喋ってるのはさっきも見たけど…これって動きもするんだ… 「そのカードも…やっぱり錬金術関係?」 「うーん…デジモンと錬金術、どっちにも関係ある。って感じかしらね。みてればわかるわ!」 彼女はオレンジと黒のデバイスを取り出し、そこにカードをセットした。 すると、結構ノリの良い音楽が流れ出した。 『リアライズ!ギガントロコモン!』 デバイスが操作によってデジモンの名前を読み上げると同時に、巨大な機関車のようなデジモンが現れた。 「うわー…おっきぃ…」 「さて…ギガントロコモンのエネルギーもチャージし終わったみたいだし、私の世界に帰るわね!」 「もう帰っちゃうの?錬金術の事とかまだ話したいし…もっとゆっくりしていけば良いのに」 「……私の世界はまだまだ大変なことがたくさんあって…一刻も早く帰らなきゃいけないの。茜によろしく言っておいてね!」 茜…もしかしてあの時の…名張茜?ここにいるの? 彼女は客車に乗り込んだ。 そのデジモンの進行方向にレールが現れ、少しづつ動き出す。 「貴女ならきっとお母さんに会えるわ。錬金術も絶対上手に使えるようになる。才能があるもの。幸せな未来をガッチャしてね。ほむら!」 そんな時、彼女は窓を開け、そう言った。そういえば…私は彼女に名乗っていない。それに…彼女の名前も聞いていない。 「なんで私の名前…ちょっと待って!私あなたの名前聞いてない!」 「私の名前は───────── 汽笛にかき消され、その先は聞こえなかった。 ギガントロコモンは空へと走り出し、ゲートを通ってどこかへ消えてしまった。 「行っちまったなぁ」 彼女は誰だったんだろう?どうして私の名前を知ってたの? 「うーん…まあ考えても仕方ないか。」 別世界の人間というのが本当なら、本来交わることはなかったはず。 それに、私には私の世界でやるべきことがある。 「なんか呑みにいこ、シャウトモン。」 「あー…俺はノンアルな」