「うんとこしょ」 カーンカーン 「どっこいしょ」 カーンカーンカーン 「それでも宝はありまへん」 「いやアンタも掘ってくれよォタツミさん!?」 マリンパークエーギル地下 たのしいたのしいマリンアクティビティの次にテイマーを待ち受けていたのは…鉱夫のおしごとのじかんよー 「わぁい!とはならねえのよ」 「ほなボサっとしとらんでキリキリ働かんと埋蔵金も『まぼろしの真珠』も見つからんで少年!」 人呼んで埋蔵金イベントあるいはゴールドラッシュ しかし歴史は語るこういうのは一番儲かるのはお宝を見つけた一握りのラッキーマンではなく、ピッケルやジーンズ売りつけてる側だと…そんなことクロウが詳しいはずもなく、そこに宝があるからと飛び込んだ向こう見ず それを知ってか知らずか今も商魂頼もしいあんな人やこんな人が洞窟を所狭しと駆けずり回りピッケルと売りつけ飯を配達し 「ひゅーどろどろおばけですよ」 「ア゛ーーーーッ!?」 肝試しを強いてくるお嬢さんまでいた 暗所閉所にいると時間感覚方向感覚が胡乱になるがそんなことまでされるいわれはないぞとお化けが苦手な彼は未だに背筋に寒気を引きずりながら一心不乱に採掘道具を振りかざすのだ 普段ルドモン盾を戦闘中思う存分振るうためこの程度の力仕事お茶の子さいさいだという自負はあったが、さすがに空振りが続けば精神面から疲労がじわじわと魔手を伸ばしてくる 「だーっ何にもねえ!ホントにあるんすかそのまぼろしの真珠っての」 たまらず問いかける。そもそも今一番の目的……その情報を仕入れてクロウを誘ったのはそこであぐらをかきあくびをかましている糸目の青年だ 『ずっと昔からこの辺を知っているデジモンから聞いた噂でな、この地下からごっつゥー綺麗なピンク色のまぼろしの真珠が取れるらしいんや』 真珠とは海にあるのでは?とかそのくらいは不良時代勉強サボってたクロウでも疑問に思える範疇だったが、 『まさに本来ありえへん陸で獲れるからこそ、まぼろしなんちゃう?あるいは真珠みたいに綺麗な宝石っちゅーことかもしれへんやん……かーっそんなん女の子にプレゼントしたらモッテモテやろなぁー!気になるあの子も惚れてまうやろなーかーっ!』 このあとめちゃくちゃ言いくるめられた だがしかし気になる相手がいないわけでもないというのは実際のところ図星であり、いいとこ見せたいとうのも……古今東西悲しいかな男の意地とかちょっとくらい掲げたくなる見栄である 「今頃ルドモンはどうしてっかなぁ…」 「影ちゃんトコに預けてるんやろ。なら心配あらへんよまぁ影ちゃんはきっとアカネちゃんとデートしとるんやろうけど」 「は…デ、デーッ……デッッッ……ハァッッッ!?!?!?」 「うお声でっか耳キーンなったわ」 「あんにゃろう懲罰部隊にいるくせにいい目みやがってこの……後で2.3発覚悟しろよ影太郎ォォ……ッ」 かつての仇、かつての悪役のほうが自分よりモテる 何とも世知辛い話である その事実を怒りに変えて加速するピッケル 「うおおおおおおっ!!」 1時間後 「何の成果も得られませんでしたぁあああっ!!」 世知辛さにも埋蔵金にも敗北した悲しき男が一人土下寝 それを見て爆笑するタツミ しかしこれだけやって出ないのならやはり無駄足だったのかもしれないと、さすがに飽きてきたタツミが笑いを大あくびに切り替え大きく伸びをする 「ま、ここまでやってダメならしゃーないやろ。ほな帰るで」 それに対しピッケルを掴みずるずるとほふく前進する少年 未練がましくすがるように、最後の怒りと力を込めて引き絞る 「せめて、せめてここだけ最後に…ココだけ…フン!」 パキーン ドシュッ 「アーッ!ケツに何か刺さった!?」 「うっげぇ腕痛ーっ!なんじゃこりゃ…ピッケルが欠けてやがる」 「アタタタ…なんやウチのケツを劈いたのはソレかいな。ケツ穴増えてへん見てくれへん鉄塚クーン」 「大の大人がケツぷりぷりさせながら向けてんじゃねえッ…つか何に打ち当たったんだ岩盤か?」 「そらアカンな上のプールが崩落してウチらごとぺっちゃんこかもしれへん」 「怖えこと言わないでくれッ…懐中電灯」 クロウの指示にタツミが照らす、とケタケタとした感嘆が閉所に響く 「おおっ?こら珍しい…」 「石…いや鉄か?」 「小さいけど野生のクロンデジゾイドメタルの鉱脈や、仕事の調査で見たことあるで…けどこれはもっと珍しいと思うで」 タツミがなぞる指先、その一部分が赤と青がグラデーションめいて入り混じる断層をライトの光と目で追う 「こっちはブルーデジゾイド。希少な軽くて青いクロンデジゾイドやけど…こっち、これはどうもレッドデジゾイドっぽい変質をしてるようやな」 クロンデジゾイドにいくつか種類があるとは聞いたことがある。たとえばルドモン…特にライジルドモンBMの躯体はおおよそブラックデジゾイドに近しい性質を持つため可変を得意とし、前腕を回転衝角として放つブロウクンメッサーなど瞬時に腕の形状を変化させ攻撃に転じられるのだ それとは別の赤と青のクロンデジゾイド。赤は本来通常の鉱石を再精錬しなければならないものらしいが、なんらかの原因でそれがこのマリンパークの地下の地層で起こったらしく 「そんでその二つがどういうワケか…混ざって同居しとるのがこの間」 「"ピンクデジゾイド"って言やいいのかこれ?」 「さぁーわからんウチそーゆーの専門外やねん。けど一応サンプルは持ち帰っときたいなぁ」 「いやどうすんだ、この鉄ピッケルじゃ歯が立たねえし削れな…」 「ウチにまかしときー、オボロモン」 「ワーッオバケ!?」 「いやいやウチのパートナーよ」 突如タツミの足元の影からずるりと音もなく這い出た落武者に慄くクロウをケタケタと笑い飛ばし、その背後にある桜色の鉱石を指差す 「ほい」 キン 「えっなn痛ったァ!?」 頭上を微風が撫でた、瞬間クロウの視界に星走る。刀を振り終えたオボロモンがまた静かに影に沈み、タツミはクロウの頭をワンクッションおき足元にやってきた正確な立方体に切り出された手のひらサイズのインゴットを拾い上げ満足げである 「えっ、え、今それ斬った!?」 「すごいやろウチのオハコやで」 「まっじかぁ…」 改めて舐め回すように鉱石を見つめる一同。切り口は非常に滑らかでちょっとした研磨がなされたかのような指先のひっかかりがほとんどない仕上がり。そこに微かに映り込む虚像も歪みなく在った しかしふとそこにかすかな色味のムラが見え、タツミが懐中電灯を押し当てながらしきりにぐるぐると転がす 「ははーん…そーゆーこっちゃな。いやーええもん見っけたで上に戻ったら実験や、そんでちょいと分けたるわ」 「いや見つけたの俺だろ」 「誘ったのはウチやで少年ー。でも諦めずにやりとげるその根性かっこいいで、よほど好きな女の子にプレゼントを探したかったんか?」 「ン゛ッン!!!」 「なら善は急げや戻るで」 その後 「ほい報酬」 「ちっちゃ!?」 差し出されたのは手のひらサイズのインゴットにたいして…豆粒ひとつほどの、まるでパチンコ玉 「関西人はケチくせえと聞いたことあるが…これほどとは」 「ウチ関西出身ちゃうよー。この喋り方女子ウケええねん」 「エセ関西かよッますます腹立たしく聞こえんなその喋り方!」 「まぁまぁホントにケチかはそれをお天道様にでも透かしてよーく見てから言うんやで」 「…??」 言われた通りに少しずつ空に掲げて太陽に重ね合わせる…と、ピンク色の金属光沢の中にかすかに光が漏れて、まるで中に光の玉があるかのように振る舞うではないか 「な、なんじゃこりゃ!」 「んーまぁざっくり言えば"気泡"みたいなもんやな、それも綺麗に丸くて大きな。その周りを薄く薄ーく削って《真珠》みたいなモンにしたっちゅーワケよオサレやろ!」 この地域にのみ存在するブルーデジゾイドと野生のレッドデジゾイド鉱床の合流地点…の中にある気泡を内包した部位を慎重に削り出し生み出さされた『ごく薄いシャボン玉のようなピンクデジゾイドの宝珠』 つまりそれがまぼろしの真珠の正体…というわけだ 「ホントはもっとあったんやけど、それ1粒作るのにさっきのインゴット全部鉄粉になってもうた」 「うぇえもったいねえ!?」 「ウチもここまで繊細な削りやったことなかったんやカンニンしてや。まぁ今回イチバンの功労者たるキミにやるんがスジっちゅーもんよ」 「タツミさん…!」 「代わりにオーナーに頼んでしばらく町中華屋のほうでサービスツケてくれへん?」 「そりゃバイトの俺よりオーナーに頼んでくれ」 「あっやっぱ返して」 「ノウ!絶対にノウ!」 「おっとそのままだとクロンデジゾイドとはいえ負荷がかかれば潰れてまうから、他に潜った連中から分けてもろた金属細工のガラクタでアクセサリーにでもしとかんと。どんなのがええ?」 あやうく掌で潰しかけたと気づき慌ててそっと机に敷かれたハンカチの上に戻す その隣に並ぶのは首輪、指輪、イヤリング、腕輪ーーーかつて絢爛な宝石を宿していたと思しき装飾品の残滓。まさか本当に別の場所では埋蔵金があったということかと己の運の無さを悔やみつつそれらを睨むが…どうにもピンとこない 「んーーー…身につけて邪魔にならなさそうなモンか…」 「アクセサリーなんて大なり小なり嵩張るもんやで気にしたらオシャレできへんよ」 「いや戦いの最中に壊れて無くしたら…ちょっとヘコむだろ」 「一理あるな。ならその子が普段身に付けてるモンに一緒にくっつけられれば問題ないんやない?」 「あー…髪留め!」 ふと脳裏に、かつて少々縁あって手にした『あのピンクのシャコモンの髪留め』が過る あれに一緒にくっつけてあげられれば邪魔にならないかもしれない 「ほなそれでいこか。ついでに女の子によくきくキザなセリフでも教えたろか」 「…いいやそれはやめとくぜ。俺が言っても良子たちにケツ蹴られるだけだわ」 「みんなおかえりなさい、どうだった?」 「楽しかったよー!」 …さてクロウはそういったものの、結局何と言って大事なプレゼントを他人に渡すべきかまるで知らなかった 「何見てるの…わぁ、綺麗だね」 ここしかない。頭が理解するより早く脊髄反射めいて本能が体を突き動かした 「ン」 「えっ」 「ン゛ン…み、土産……だ」 土産。お土産 もっと言い方があっただろうこのバカチンがぁ!後に彼はそう後悔したという 「……フフ、ありがと。これは」 「その髪留め、にくっつけるとか…似合うんじゃあ、ねえか?」 こぼれた笑い声に顔をそむけたまま固まっていると、くるりと回り込んできた毛先が鼻先をこすってムズムズと引き下がる 「ブハッ何すんだおまっ」 「似合ってるかな」 彼女が差し出すようにつまんだ三つ編みの先、シャコモンの髪飾りに添えられた真珠が陽光を含んで彩られていた 「お、おお…へへっ、なんだよ似合うじゃねえか」 「んー、似合わないと思うものをくれたのかな?」 「げっ違う違うそういうんじゃなくてよ!」 「ふふっ、わかってる。ありがと」