逆井平介は今日も大学の食堂で一人寂しくうどんを啜っていた。内気な性格とコテコテの方言が災いして今一つ周囲と打ち解ける事ができないらしい。 そんな中、一人の小柄な少女が彼の隣に座って来た。持っている盆にはラーメンが盛られた丼と何も入っていない小皿が乗っている。 あまり見ねぇ顔だべ…在学生の妹さんが何がかな…それにしだっでなしておれの隣なんがに…平介がそう思っていると少女は突然ラーメンに入っていた葱を小皿に除け始めた。 彼女はいつもこんな事をしているのだろうか、非常に慣れた手つきであっという間に葱を除け終えた少女はラーメンを食べ始める。少女の予想だにしなかった行動とその手際の良さに平介は思わず食事の手を止め目を奪われてしまう。 「光の闘士さん…うどん、伸びますよ…」 黙々とラーメンを啜っていた少女が口を開いた。 「おっどいげね。…ん?」 平介は慌ててうどんに手を付ける。が… 光の闘士。確かにそう聞こえた。 「何故私があなたの素性を知っているのか…そう言いたいのでしょう?」 平介の思っている事を言い当てた少女はスマホ取り出して操作し、画面を平介に見せた。 『おれの名はヴォルフモン!おれは、おめば必ず家に帰すてける!それだけを約束する!』 画面にはついこの間のアヤタラモンとの戦いの映像が映し出されている。 「ばっちり映っていましたから……公園の監視カメラに」 監視カメラ…ドが付くほど田舎の生まれである平介にとっては全く想定していなかった事だ。迂闊だったと思うと同時に目の前に居るこの少女はたったこれだけの映像で自分の個人情報を特定してここまでやって来たとでも言うのだろうか…都会って怖い。平介は背筋に悪寒が走った。 「どうやら怖がらせてしまったみたいですね…申し訳ございません。」 謝罪をしながら少女は先程の除けた葱が入った小皿を平介が食べているうどんの傍に置いた。 「何も取って食おうというつもりはございません。ただ、私もあなたと似た境遇にある身…現場で鉢合わせした際にうっかり敵と勘違いしてそのまま戦闘に……などというライダーマンが二度もやらかした様な展開は私としても本意ではありませんので、こうして会いに参った次第でございます…」 引き合いに出された例えは全く分からなかったが彼女の言いたい事は何となく理解できた平介。 しかし似た境遇にあると言っていたが、この子も自分と同じ様にデジモンに進化したりするのだろうか…そう考えていた平介の思考をまたも読んだかの様に少女は話し出す。 「申し遅れましたね…。私は千年桜 織姫…おりひめと書いてベガ…。闇の闘士、ダスクモンです。」 少女が名乗った刹那、禍々しい外観をしたデジモンの姿が彼女と重なった。 「あ……どうも、逆井 平介だす。よろすぐお願いします…」 闇という物々しいワードや一瞬だけ垣間見えた彼女のデジモンとしての姿に反してどうやら悪い人というわけでもないらしい。平介は直感でそう感じた。さり気なく葱を押し付けて来たりはしたが… 「早速ですが、逆井さん……あなたにお願いしたい事がございます。引き受けていただけるでしょうか?」 「…ま、任せでけろ。おれにできる事なら…何でも協力さするだ」 経緯はどうあれ、こちらに越してきてから初めてまともに打ち解ける事のできた(?)、それも自身と同じ様な境遇にある相手からの頼みだ。平介は快く引き受ける事にした。 後日… 平介は開店前の家電量販店の最前列に並んでいた。織姫からお使いを頼まれた様だ。織姫からの注文の内容を思い出す平介。 『良いですか?逆井さん。フラゲした方々の情報によると今回のアソートは完全にランダムで全てに2アソあるパターンのBOXが存在するそうですが、V3とガドル閣下が人気との事なのでこの二つだけは何としても確保して来て下さい。………私ですか?私も別の店舗で同じものを購入する予定です。』 「……確かに協力するとは言っだけども、これは違うだ……違うだよぉぉぉ!」