その日の彼――No.198富士見ゲンキはとても不機嫌だった、というよりは私が…いや、私たちが不機嫌にした。 数日前、同胞たちからの通知でスプシ図書館で大きな戦いが起きるとの連絡が来たが、私は無視を決め込んだ。 よく見ればただの親子喧嘩ではないか、そこに腕利きで血の気の多いテイマー達が対処するなら彼らに任せてしまおう。 私の担当するテイマーには戦場は似合わないし、何よりあのドキュメモン達の騒がしいのはノリが合わないのだ。 そう思って参加を見送って日が経つうちにどんどんと話が大きくなり…ついにその時が来た。 【イータモン(成熟期)】―――何だ、これは? これがデジモンか…?何故私の兄弟がこんな姿に…?体が震え、様々な感情が去来する。 丁度その時だ、彼がいつも通り食事を運んで来た、少しでも宿泊客の為になればと手作りされた料理、ヒトとデジモンが共に暮らせるいつも通りの平和な日常。 私はここを観測する、それだけで良い。 「どうしたの?元気ないね…大丈夫?」 あぁ…しっかりしないと… 「お父さんどしたの?あれ、スプシモン、食欲無いの?」 「しっ!空気読めよフィルモン!」 「むっ…ツカイモンこそ声が大きいよ!」 「はいはい、僕たちは向こう行こうね~」 あぁ…仲良くて羨ましいな…兄弟たちが…母上様が心配だな… 「はは…騒がしくしてごめんね、ご飯は置いておくから無理はしないようにね?」 母上様…私は… 『あのっ…!』 「何だい?」 『母上様を…私の家族を助けてください!』 それからしばらくの事はよく覚えていない、涙を流しながら震える声で事情を説明して助けを求めた、そんな所だ。 覚えてないってば。 気が付けば皆で図書館へ突撃していた―――あ、今イータモン撥ねたな… 血相を変えて塔に飛び込むなり彼は腹の底から吼える。 「スプシモンを泣かせたのはどいつだ!?」 スーパースターモン、ファントモン、ラセンモンを従えて彼は駆ける。 母上様の居る中枢部に行けば何とかなると案内している、この状況は非常に不味い。 イータモンが進化した事もそうだが、無関係な乱暴者も集まってきてどうなるのかまるで見通しが立たない。 その上で彼は気が立って冷静さを欠いていてとても落ち着いて話したり考えられる状態でないのは火を見るより明らかだ。 とにかく、イータモンの対策を伝えねば…急ぎ端末を操作する。今、この場で一番詳しいのは母上様――エンシェントモニタモン様だ、彼女に説明してもらおう。 必死になって端末と格闘していると声をかけてくる者があった、見ればNo.197の名張蔵之助とスプシモンではないか。 「ゲンキさん!すまない、僕が全部悪いんだ。後で僕のことは好きにしていい。だから少し落ち着いてくれないか?ほら、君の担当のスプシモンが、君に怯えているじゃないか。」 それ言うの!?この人すごいな…あっ、こっちは凄い顔してる…これがアンガーマネジメントか… 「…大丈夫です、落ち着きました…今はあの敵を何とかしないとみたいですね…スプシモンの電話?俺に?」 機を伺い落ち着いたタイミングでスマホを貸し、母上様と通話させる。どう見ても裏技のたぐいだが、こんな状況はこれくらい構わないだろう。 はい…はい…と相槌を打つ度に頭を下げている、別にあの人そんな謙遜する必要無いと思うけどなぁ… 「わかりました、やってみます!…よし、スプシモン、敵の数と位置を共有して」 通話を終えた彼がスマホを返しながら指示を出してくる、母上様と話しがついたのだろう。スマホの中のシートから"敵"を割り出し、抽出する。 しかし、これは…想像していたより多過ぎる。最悪な状況を通り越して地獄ではないか! 呑気に立ち話するよう誘導するよう促したのには私にも責任の一端があるが…イータモン、ゴグマモン、レイヴモンに囲まれるなんて想定出来るわけ無いだろう!? 「あれは敵で良いんだね?よし…みんな、ぶちかませ!」 私が頷くと同時に号令が出され、彼の指揮するデジモン達が駆け出し技を繰り出す。 「今、万感の思いをこの一振りに込めて…ソウルチョッパー!」 「的がデカくて助かる!一点集中!ハレースコール!」 「スプシモン、ごめん…!ジャイロスマッシュ!」 死神の鎌でレイヴモンは四肢と首を切り落とされ、降り注ぐ隕石でゴグマモンオニキスは砂利になるまで擦り潰され、 成熟期に進化したイータモンも渦巻く刃を備えた拳を打ち込まれ微塵に砕かれた。 即席のカウンターが一つずつ減る…が、すぐに戻り更に減るのを繰り返す。 倒せるが、どこかでクローンが作られている――それを伝えると彼らは一丸となって次の相手へと向かう。 戦いはまだ始まったばかりだ イータモン:残り――体 ゴグマモンオニキス:残り――体 レイヴモン:残り――体