「はぁ〜あ”ぁ”〜〜〜!!!!」 上空数百メートルほどにまで跳躍し、左腕を地面に向けて拳を強く握りしめる。 落下の勢いが乗った体を弾丸とし、私は一直線に標的にむけて落ちていった。 「あ……お”………がっ…」 標的はインセキモン。数週間ほど前からこの辺りを荒らしていたらしい。 衝撃によって彼の身体中にはヒビが入り、粉砕された。 ははは…あははは…楽しいな。 私は笑っていた。 衝撃はもちろん私の体にもダメージを与えた。 骨が粉々になっているのを感じる。 「ぅ”…………あ”ああアぁァ”……!!!」 ガギボキと身体中の骨が蠢き、くっついては離れ、元の形に戻っていく。 なんとか立ち上がって、インセキモンだった残骸に左手を突っ込んだ。 デジコア。 デジモンの核にして…私の中にもあるモノ。 とっても…本当に…美味しそうだ。 口許にそれを持っていく。私はゆっくりと口を開き…齧り付き…齧り… ダメだ。 食べちゃ…だめ。それじゃ…怪物だった時と同じ。 何を躊躇ってるんだろう。私はまだ怪物。食べてもいいよね。 バケモノは…バケモノらしく… 私はデジコアに齧り付いた。 「𝟹 minute𝕤 haVe Pa─𝙥a─p𝐀─pAsse𝓓. rE-aᵈmINiStrati𝔒n wil─wI─WiLl coMm𝕖ncE..」 私の体が人間を真似た形に戻る。 「ゲホッ!…うっ…おぇ…!ゲホッゲホッ!」 デジコアの破片が、びちゃびちゃと胃液と一緒に吐き出される。 やっぱり…食べちゃダメだ。 「あ…あの…大丈夫…です?」 「だい…じょうぶ…」 話しかけてきたのは、このインセキモンの事を教えてくれたピンク色のデジモン。 名前は…えっと…うぅ…思い出せない。前は人の名前忘れるなんて絶対なかったのに… 「そうですか!エリザモン安心しました!インセキモンがいないおかげで、エリザモンたちのどかにくらせます!」 「…そう。…悪いんだけど…お水…ある?」 「おみずですか!エリザモンすぐ持ってきます!」 もう何日になるだろう。ここ最近はずっとこっちにいて、しばらくリアルワールドには帰っていない。 こっちに来てから何も食べていないけれど。お腹は空かない。 厳密に言えば、ここ何週間かお腹が空いていない。 向こうにいた時はご飯を食べないと心配されるから取り合えず食べていたけれど、 それはとても味気なく、ただ口に物を詰め込む作業の様に感じた。 最後に食べたのは…あの喫茶店のケーキ。味はよくわからなかったけど、きっと美味しいんだと思う。 エリザモンが木の椀に貯めて持ってきた水を、一気に飲み干した。 なぜだろう。リアルワールドで飲んでいた物よりも、とても美味しい。 「らくねさんはすごいです!エリザモンもあんなふうに強くなりたいです!」 「それは絶対にダメ!!!」 「えっ?」 「強くなっちゃダメ!力があると…それをどうしても使わなきゃいけなくなる…!一度使えば…使わないことに耐えられなくなる…」 「……エリザモン…よくわからないです。強くなるってそんなに悪いことです?」 「…悪いよ。私…もう行かないと。」 少し足が痛む気がする。さっきの衝撃がまだ足に残っているのかもしれない。 無理やり立ち上がって、ただ、歩き出す。 私は…どこに行きたいの? 「待って〜!」 その声に後ろ髪を引かれたのかもしれない。不意に足がもつれ、私は転んだ。 痛…く…ないかな。 最後に寝たの…そう言えばいつだっけ… 力を使ってると…自分の疲れもよくわからなくな……る……… ━━━━━━━━━ "楽音ちゃんのなんらかの過去のトラウマを愚弄してキレさせたんじゃないかな?叫び声も聞こえたし戦闘後の楽音ちゃんの顔もただ倒しきれなかった顔じゃなかったね" "色々あったけど楽音ちゃんに何かあったって所だとやっぱりあの暴走?モードかなぁ、心も身体もはじけたみたいに角と腕生えて蜘蛛の親玉みたいな姿になった" 「彼らの証言…バングルのモニタリングデータ…これらを総合すると…」 また彼女がアルケニモンのような姿に変化してしまうことは十分に想定できていた。 だから、バングルには緊急用のプログラムを仕込んでいた。 しかし…彼女の中にあるコアの力は、その想定をはるかに超えていたらしい。 「お父さん…楽音お姉ちゃん…大丈夫かな?」 「……カオル、ルクスモン。今すぐ楽音ちゃんを探さないといけない。このままだと…もっと危険な事態が起こる。」 想定外のパワーを持った状態への変異による負荷。もしかしたらバングル自体にも衝撃が加わっていたのかもしれない。 ともかく…腕輪が故障していると考えて間違い無いだろう。 新しいデジヴァイスバングルはすぐにでも作れる。早く交換しなければ… もし彼女がまたこの姿にでもなってしまったら…! 「……もう二度と、人間に戻れなくなるかもしれない。」 ━━━━━━━━━ 「………、……‥。」 なにか…音が聞こえる。 木の葉が擦れ合う様な…掠れた音。 「らくねさん起きるかな〜?」 「……………。……………、……”……。」 「そんな難しい言葉使われてもエリザモンわかんないよ〜…」 「────…………。」 「それならエリザモンもわかる!」 頭が痛い…気がする。 「…ここどこ…?」 起き上がってみると、私の体には葉っぱが被せられていたことに気づいた。 意外と暖かい。 「あっ、おきた〜!エリザモン心ぱいしたんです〜!」 「…‥………。」 掠れた音の主は、体を葉っぱで包み、背中に銃を背負っているデジモン?だった。この音って、喋ってる…の? 「えっと…その葉っぱさんは…誰…?」 「ギリードウモンししょうだよ!」 「……!!」 「間違えた!ギリードゥモンししょう!」 この掠れた音…ギリードゥモンの声…なの? 「………。・…・・、……。‥?」 「えっと…なんて言ってるの?」 「わからないんです?じゃあエリザモン通訳します!『だいぶ疲れているようだな。お前には、帰るところがあるはずだ。何故帰らない?』って言ってます!」 「私に関われば…ネオデスモンにも狙われるかもしれない…それに…私みたいなバケモノは…向こうにいちゃ…ダメだから」 「バケモノなんですか?」 「そうだよ…私は…バケモノ。」 「バケモノはいたらダメなんですか?」 「ダメだよ…!私は…周りの人を不幸にする…」 「エリザモンは幸せになりましたよ?」 「っでも!いつ…アイツに不幸にされるかわからない…」 「そうだ!らくねさんのスマホ、充電しておきましたよ!」 話聞かない子だな…え? 「ここ充電できるの?」 「パルスモンにたのみました!」 「あ…そう…」 電話が何件も掛かってきていた。 話したくないし、出たくない。けど切るのも、無視するのも辛い。 やっぱり…電源切ろうかな。 そう思った時、不意に電話が掛かってきた。 知らない番号からだった。