「竜崎大吾か」 「源」 「笑いに来たか」 「そんなことするほど堕ちちゃいない」 既に体はぼろきれよりもひどくなっている。腕もなければ足もない、内臓も既に内に等しいはずだ、生きているのはここがデジタルワールドともリアルワールドとも取れない世界だということに他ならない。 「お前は……馬鹿だ」 「馬鹿じゃなきゃこんなことしないさ」 確かにそうだと大吾が頷いた、自らが神になって2つの世界を合わせようだなんて誇大妄想にすぎる。結果自らは無残な様を晒している。 「源、満足か」 大吾の口からはそんな言葉が出た、もっと言うべきことがあったはずなのに、もっと問わねばならないことがあったはずなのに、ただただそんな問いかけだけが口から洩れる。 浩一郎が少しばかり目を伏せてから力ない動作で首を横に振り、少し前まで持っていた活力をすべて投げ捨てたかのような瞳で大吾を見る。 「いいや…満足なんてしてないさ」 「そうか」 「ああ、やっと…やっと自分が間違ってたってわかったんだ」 「気づくのが……おせぇよ」 「だなぁ……俺はいつだって遅すぎる、動くことも考えることも」 「馬鹿が……遅いんじゃない、変な方向に跳びすぎてんだ」 「そうかも……はは……今更、気づいちまった」 「なあ、胸元にタバコあるんだ、とってくれるか」 「吸うのか」 「吸わない、もらいモン取り出し忘れてただけだ、でも最後なんだ」  その言葉を聞く義理もなかった、だが、そうした、目の前には男がいる。ただただ哀れな抜け殻の負け犬がいる。そんな相手の望みを蹴り飛ばすような精神性を大吾は持っていなかった。煙草の付け方などわからない、いかつい顔に見合わず大吾も吸いはしない。頭の中に残っている映画のワンシーンをもとにたどたどしい手つきでそれを咥えさせ火をつける。浩一郎がタバコを一口吸って即座にむせた。 「まずいな……」 「そうか」 「ああ……それよりさ、そろそろ行けよ、もうここも持たない」 浩一郎が言う。この空間は浩一郎の力によって存在していた、その主が死ぬのだからもう空間が持たないの仕方のないことだった。 「なァ、大吾」 「なんだ」 「チューモン、俺のデジヴァイス、先に出てった奴に渡してる、あればまたデジタマに戻れるから」 そんなことはないという言葉を大吾は飲み込んだ、既に消滅しててもおかしくない。完全なデリートによる存在の抹消。巨大な力に寄り添い続けた代償だ。 「見かけたら、気にかけてやってくれ、あいつは悪くないから」 「……ああ」 「そうかぁ……安心した……あいつに苦労ばっか掛けた……から……な」 その言葉を最後に大吾は背を向けた。 今日大吾は一つだけ罪を犯す。誰もがきっと赦す。しかし己を許せるかわからない。 目の前の犯罪者、何があっても確保しなければならない手合い。そんな男から目を背けて死なせる。警察ならばなりふり構わず連れ出すべきだった悪を放置することを大吾は選んだ、あるいは選ばされた。