─皆様。 皆様御機嫌よう、毎度ありがとうございます、アスタ商会です。 …いえ、違います、今回のお話は「女王」の物語ではありません。 それはまた別の機会と致しましょう。 さて皆様、今回の物語は「デジモンの名前」について、です。 デジモンの名前とはどうやって決まっているのでしょう。 発見者が名付けた、またはデジタルワールドに元から記録されていた。 等など様々な説がありますが、実態は不明となっております。 その中でもこの度の主役となるのは「ニセ」「モドキ」と名のついたデジモンたちです。 「ニセドリモゲモン」、「モドキベタモン」「モドキツカイモン」 そして「ニセアグモン博士」 発見者なる者により「ニセモノ」とされたデジモンたちは、果たしてどのような運命をたどるのでしょうか? 尤も、実体を持たない私共や、名前すら持たない皆様方には関係のない話でしたでしょうか。 ─ ─ 『アリーナ』 デジタルワールドで集まるならとりあえずココにしておけと言われるくらいのランドマークで、普段別行動している俺とニセアグモン博士は一旦合流していた。 そして 「メインフェイズ、コスト4でスカルグレイモンをスカルウォーグレイモンに進化」 俺のバトルエリアに置かれたスカルグレイモンの姿が、メキメキと骨の軋む音を立てて変貌していく。 そのフォルムは人型に変わり、右手には骨でできた大剣を携えている。 死せる竜人、ウォーグレイモンの化石。 一言で言えばそんな姿だろうか。 Lv6 スカルウォーグレイモン 究極体 ウイルス種 竜人型/アンデッド型 (紫/赤) DP11000 「フフ…しびれを切らしてエースカードを出してきたか、しかしそちらのトラッシュの現在枚数は9、とても本領発揮とは言えないだろう」 「いいんだよ、とにかくシャイングレイモンを排除しないとどうにもなんねぇ」 俺は今、ニセアグモン博士とお互いの使うデッキの調整のために模擬戦をやっている。 「スカルウォーグレイモンの進化時効果発動、トラッシュから名称に「アグモン」「グレイモン」を含むデジモンを合計登場コスト8まで…今はトラッシュ9枚だから追加で1コストで合計9コストまで、かつ3枚までコストを支払わずに登場」 俺は自分のトラッシュから「アグモン」三枚をバトルエリアへ登場させる システム上の処理はそれだけだが、目の前で起きる光景は違う。 スカルウォーグレイモンが右手の大剣を地面へと深く突き刺し、地響きと共に地面が盛り上がる。 そして、墓の底から呼び出したアグモン達が土をかき分け、地面から這い出てきた。 LV3 アグモン 成長期 ワクチン種 爬虫類型 (赤) DP3000 LV3 アグモン 成長期 ワクチン種 爬虫類型 (赤) DP3000 LV3 アグモン 成長期 ワクチン種 爬虫類型 (赤) DP3000 三枚それぞれが「連携」の効果を持つアグモン 確か3倍アグモンとかいうのがモチーフなったカード、らしい なんだ3倍アグモンって。 「スカルウォーグレイモンのアタック時効果、アグモン一体をデッキの一番下に送ってDP+4000、さらに進化元効果で+1000だ」 スカルウォーグレイモンのアタック時効果は一つ、墓から掘り返した者たちを、自分で墓に送り返して力と変える。 墓から這い出てきたアグモンの内の一体の立つ地面から、今度は無数の骨の腕が現れ、アグモンを土へと引きずり込んで共に消えていった。 「フフフ、相変わらず酷い絵面だな」 「お前のライズグレイモンも大差ないけどな…」 向こうのシャイングレイモンの効果でマイナスされた分も計上し、合計でスカルウォーグレイモンのDPは13000、これでDPの差はひっくり返った。 「DP13000でレスト状態のシャイングレイモンにアタック、吹き飛べ!」 スカルウォーグレイモンが大剣をシャイングレイモンへと構える、その剣先は先程食らったアグモンの魂なのか、禍々しい紫のオーラを纏っている。 『オールデリート』 紫色のオーラを纏った斬撃が、ニセアグモン博士のシャイングレイモンを両断する。 「うし、あとは進化元効果の貫通も持ってけ」 貫通の効果により、相手のセキュリティを1枚めくる。 ニセアグモン博士の目の前に展開したセキュリティ、その最後の一枚が砕けて消える 「っ…!」 めくられたカードを見た瞬間、ニセアグモン博士が顔をしかめた。 まるで出てきてほしくなかった、といった風だ。 「コスト2でアグモンをグレイモンに進化、これで俺のターンは終わりだ」 「……」 ニセアグモン博士は、トラッシュへと送られた最後のセキュリティを見たまま動かない。 「おーい、アグモン?聞いてるか?そっちのターンだぞ?」 「…ウム、済まない、少しぼうっとしていた」 「私のターン、育成フェイズ……… 俺達はこうやって、お互いのデッキの調整のために模擬戦をよくやる。 その歳、時折ニセアグモン博士が自分のデッキの「あるカード」を険しい顔で見たまま動かなくなることがあった。 そのカードは 「アグモン博士」 ─ 私達三人は、いつでも一緒だった。 幼年期のデジモンたちが多数集まった町、そこではやはりというべきか同じ種族のデジモンでグループが多数形成されていた。 その中の、「コロモン」の集まり、中心となっていたグループから離れて過ごす私にあの二人が声をかけたのが始まりだったか… 切り株の上で本、と言っても紙の本の形はしていない、ウィンドウに表示される書籍のデータだ、それを読んでいた私に近づく二人のコロモンが居る。 「私になにか用か」 「キミは何をしてるの?」 質問を質問で返すな、などというナンセンスな返しはするまい。 「『本』を読んでいる」 「もしかしてデジ文字が読めるの?」 もう一人の方、頭に花飾りをしたコロモンが聞いてくる 「少しはな、全てではない」 「「すごい!」」 今度は二人、声を揃えて言う。 これは単に幼年期のデジモンなのに学習が進んでいるからという理由ではない。 デジタルワールドにおいてデジ文字の識字率は低い。 何故か、必要ないからだ。 わざわざデジ文字のテクスチャを作り、その組み合わせで情報を表現せずとも、「もの」自体に情報を付加すれば視覚から付随する情報を受け取れる。 例えば商品の値段を表示したいとしよう、この場合デジ文字を組み合わせた値札など作らなくても、商品自体に値段の情報を含ませれば良いのだ。 こんな古代デジタルワールドで使われていた太古の文字など日常生活では不要だ。 「ボクも読んでみたい!」 「ワタシも!」 「身体を押し付けるんじゃない、窮屈だろう!」 こうして迫ってきた二人にデジ文字を教えることになったのが、私達3人の出会いだ。 幼年期のデジモンというものは、特にこれと言って何かをしなくても時間が経てば自然と進化するものだ。 友人のコロモン二人と私、三人同時に成長期へ進化するという奇跡的な状況下。 その日、私は「ニセモノ」になった。 ─ 「ぐぅ………」 木陰から差し込む木漏れ日が心地よい、隣では、彼…ジョン・ドゥがいびきをかいて昼寝をしている。 古代デジタルワールド時代の遺物が眠ると噂される遺跡に彼を強引に連れ出した帰り道、少し休憩と立ち寄った森林にて、気がつけば私達二人は眠りに落ちていた。 先に起きたのはどうやら私のようだ。 …うっすらとだが、何か懐かしい夢を見ていたような気がする。 「ウム……良い天気だ」 思わずひとりごつ、そのまま目を閉じ、時々草木をかき分けるそよ風を身体で感じる。 そして私は、普段私の内部を駆け巡る大量の思考ルーチンを次々と休止させていく。 何もしない、何も考えない ただ自然の中でのんびりと過ごす。 たまには悪くないだろう、そんな時間も。 などと考えていたら、ガサゴソと近くの茂みが音を立て揺れ出す。 誰か来たのだろうか? ……… 嫌、誰か来たのだろうか?ではない、何を呆けているのだ。 もしも敵だったら不味いだろう。 とっさに構えようとするが手遅れだ、茂みをかき分け、「何者か」が姿を表す。 ─ブラックテイルモンUver ウイルス種 成熟期 魔獣型 郵便マークが大きく印字された赤いリュックを背負ったブラックテイルモン。 つまりは郵便の配達員だ。 とりあえず、敵ではない。 私はとっさに武器を手に取ろうと身体を捩ったままの奇妙な姿勢を正し、警戒を解く。 「済まないが向こうの彼は今昼寝中だ、郵便なら私が代わりに受け取ろう」 寡黙な彼は首を横に振り、リュックから取り出した封筒を私に向ける。 「フム?これは私宛ということかね?」 コクリ、と頷き封筒を私に差し出す。 私はそれを受け取り、ブラックテイルモンへ礼を言って別れ、その場に座り込む。 さて、一体誰からの手紙だろうか。 私の名前が書かれた宛名の面をひっくり返し、差出人を見る 「っ!」 そこには連名で二人の名が記載されていた アグモン博士 アグ美 二人共、私の旧来の友人だ 特にアグモン博士は私の長年にして永遠のライバルでもある。 その二人の名で私宛の手紙とは、一体何事だろうか。 封を切り、中身を取り出してみる。 そこに書かれた文面を読んだ瞬間、私は飛び上がり駆け出した。 ─ 私は森を駆ける。 「えぇい!邪魔だ!『ニセハカセボー!』」 道を塞ぐ障害物に指示棒を叩きつけて排除する。 ─ニセアグモン博士くんへ。 ─お久しぶりです、突然ですが私達、結婚します。         アグ美         アグモン博士 手紙には、そう記されていた。 あの二人の関係は知っていた、しかしこんなにも早く結婚まで行くとは。 手紙によれば、どうやらロードナイト村で開催されているブライダルイベントに合わせて予定を早めたらしい。 添付されている招待状の時間をもう一度確認する、まだだ、まだ間に合う。 手紙に押印された消印の日付はかなり前だ。 きっと本来であればもっと早く手紙が届いていたのだろう、しかし私が以前の拠点を後にし、デジタルワールド中を駆け回っていたせいで配達が遅れた。 「ぐ…しくじったか」 隣で寝ている彼を叩き起こして私を進化させるべきだった、ライズグレイモンにでもなればこの程度の距離は一飛びだ。 次は、ドレスコードか。 私は「拝借」してきたD-STRAGEを操作し、メールボックスを開く 「何処だ…?」 確かブライダルイベントの通知のメールが来ていたはずだ、何処にある? …彼の性格を考えてみよう、「ロードナイト村ブライダルイベントのお知らせ」この件名を見た彼はメールを何処に分類する? 「あった!やはりここか!」 答えはゴミ箱だ。 未開封のまま放り込まれたそれをメインフォルダに移し替え、開く。 目的は添付ファイルだ。 「貸衣装 参列者用(デジモン向け)」 式の招待客向けに貸し出されたフォーマルなスーツ、私は添付ファイルを解凍し、即座に実行する。 私の、アグモンのサイズに調整されたスーツ、そのテクスチャが私の身体を覆う。 外見だけだ、「着ている」という感触はない、表面のテクスチャを上書きするだけの簡素な仕様、それでも貸出品としては十分だろう。 招待状、ドレスコード、後は…ご祝儀か。 「ぐっ…」 手持ちが心もとない、仕方ないのでストレージから私の所持するカードを数枚売却。即座にBitが振り込まれる あとは包んで完了だ。 準備は整った、後は式場へと急ぐだけだ。 『歩きスマホ禁止!』 「やかましい!!」 苛立ち混じりに目の前を塞ぐ障害物を破壊する、人間世界から流れ着いた廃棄データなのかごちゃごちゃと書いてあったが今それどころではない。 ─ アグモン博士…彼は私の親友であり、長年の宿敵でもある。 同じ場所で育ち、同じくコロモンから進化し、デジタルワールド中に散りばめられた謎を解き明かすという同じ目的を持ち… しかし私だけが「ニセモノ」なのだ。 私こそが本物であると証明したい、そう思うことの何がおかしいだろうか。 ─ 「ぜぇ…ぜぇ…」 ようやっと式場の建つロードナイト村へとたどり着いた。 息を整えながら案内板に目をやる。 会場はどこだ…左か! 「ここか」 私は入口で手早く受付を済ませ、式場の扉へと向かう。 大きく、重たい扉を両の手でゆっくりと開く。 他の招待客の目線が遅れてきた私に集中するが、気にしている余裕はない 「…やぁ、アグモン博士、アグ美くん、久しぶりだな」 「ニセアグモン博士!来てくれたギャ〜!」 「全然連絡がつかなくて!来られないかと思った!」 晴れ着姿に身を包んだ二人が奥に立っている。 「済まない、招待状の到着がトラブルで遅れてね」 お互い歩み寄りながら話を続ける。 「まずは…二人共、ご結婚おめでとう」 「ギャギャ〜!ありがとギャ〜、君とは積もる話がいっぱいあるギャ〜式の後で控室に来て欲しいギャ!」 私の片手を取りぶんぶんと振り回す、まさに大はしゃぎと言ったところだ。 「あぁ、そうだな、ところで…」 「そろそろ、私と君どちらが『本物』なのか決着を付けようか」 私は懐からD-STRAGEを取り出し言う 「…まだそんなことを、ニセアグモン博士」 彼は続ける 「何度でも言うギャ、君は確かに『ニセアグモン博士』ギャ、でも決して僕のニセモノなどでは無いギャ」 「…だろうな、君ならそう言ってくれるのは解っているさ」 私達がそれぞれ『アグモン博士』『ニセアグモン博士』に進化したあの日。 その後も彼らが私を劣っているなどという目で見たことは一度たりともない。 「だが」 「それを私自身と、周りが認めるかは別だろう」 話の雲行きが怪しくなってきたからか、周りの招待客達がざわつきはじめる。 「君の晴れ舞台を借りることになるのは申し訳ないが」 私は取り出したD-STRAGEを前に突き出す 「少々、私に付き合ってもらうぞ」 「お待ち下さい」 入口に控えていた会場警備のナイトモンが寄ってくる 「式の進行を妨げるような行為はご遠慮願います」 …成る程、全く持って正論だ。 「待つギャ!」 私を連れ出そうとするナイトモンをアグモン博士が引き止める 「その勝負、受けるギャ!」 彼も懐からD-STRAGEを取り出し、そう宣言する。 「…言い出した私が聞くのも何だが、良いのか?」 「久々に会った親友とカードゲームで遊びたいだけギャ〜」 「アグモン博士様、しかし…」 食い下がろとするナイトモンに続ける 「これはみんなには余興として楽しんもらう、というのはどうギャ?」 周りの招待客もにわかに盛り上がる始める。 それはそうだ、皆ほとんどがアグモン系列のデジモン、バトルは大好物だ 「…お二人の同意の元であるなら」 ナイトモンはそのまま入口へと下がっていった。 「有難う、アグモン博士」 「ギャギャ〜君がどんなデッキを使ってくるのか楽しみギャ〜」 「では…」 「始めようか」 ─ 「メモリーゲージ始動(スタートアップ)!」 「セキュリティシールド展開(エクステンド)!」 「デジタルゲート(戦闘)…」 「「オープン(開始)!」」 先攻と後攻を決めるコインが宙を舞い、私が先行を取ったことを示す。 Player1 ニセアグモン博士 メモリー 0 「私のターン!育成フェイズ、育成孵化!コロモンを育成エリアに登場させる!」 デジモンカードゲームにおいて、1ターン目に出来ることは限られている。 まずは、育成エリアと呼ばれる直接バトルを行うエリアと隔離されたエリアにおいて、デジタマを模したカードをめくることにより幼年期のデジモンを「孵化」させる。 「メインフェイズ…コスト0で私は育成エリアのコロモンを『アグモン』に進化させる」 続くメインフェイズにて、育成エリアに孵化させた幼年期デジモンを成長期へ進化、この時のコストは大抵が0だ。 その後はテイマーカードか、コストの低い成長期デジモンを直接バトルエリアに登場させる、こんなところだろうか。 「コスト3で『ニセアグモン博士』をバトルエリアに登場!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -3 私は、私自身を模したカードをバトルエリアに登場させる。 Lv3 ニセアグモン博士 成長期 ウイルス種 恐竜型(紫)DP1000 このデジモンは紫のテイマーとしても扱う 自分のターン このデジモンがアクティブの間、自分のバトルエリアに紫の他のカードが登場したときメモリー+1 私のデッキには、デジモンたちのパートナーたるテイマーを模したカードは採用されていない。 その代わりに、テイマーとしても扱う特殊なデジモンカードが入っている。 「以上、私のターンは終了だ」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -3 ThunChange Player2 アグモン博士 メモリー 3 メモリーゲージが相手プレイヤー、つまりアグモン博士側に傾き、ターンが交代する。 自分が支払ったコストの分だけ相手側にメモリーが傾く。 これがこのカードゲームの特徴と言えるだろう。 「僕のターンギャ!育成フェイズ育成孵化!コロモンを育成エリアに登場ギャ!」 対するアグモン博士もデジタマデッキよりコロモンを孵化させる、ただし私とはカードの「色」が違う。   「メインフェイズ、コスト0でコロモンを『アグモン』に進化ギャ!」 孵化させたコロモンをアグモンへと進化、ここも同じだ。 「コスト3で『アグモン博士』を登場ギャ!」 Player2 アグモン博士 メモリー 0 Lv3 アグモン博士 成長期 ワクチン種 恐竜型(黄)DP1000 このデジモンは黄のテイマーとしても扱う 自分のターン このデジモンがアクティブの間、自分のバトルエリアに黄の他のカードが登場したときメモリー+1 お互いの盤面が、鏡に写したように揃う。 違うのはカードの色だ、私は紫で向こうは黄 …そして私が「ニセモノ」だ。 「コスト2で育成エリアのアグモンを『ジオグレイモン』に進化するギャ!」 Player2 アグモン博士 メモリー -2 育成エリアに置かれたアグモンの上にカードが重なり、その姿が変貌していく。 全身に貼り付いたテクスチャが剥がれ落ち、身体を構成するワイヤーフレームがむき出しになる。 その体躯が大きく膨れ上がり、全身を光に包まれながらテクスチャが再び形成されていく。 Lv4 ジオグレイモン 成熟期 ワクチン種 恐竜型(黄)DP5000 アタック時 黄の自分のテイマー1体をレストさせることで、ターン終了までこのデジモンのDP+3000 進化元効果 自分のターン 相手のセキュリティデジモン全てをDP-3000 「解決する効果はなし、ターン終了だギャ!」 奴のターンは終了、再び私にターンが回ってくる。 ThunChange Player1 ニセアグモン博士 メモリー 2 「育成フェイズ、育成エリアのアグモンをバトルエリアに移動!」 育成エリアで「育成」をしたデジモンは、次のターン以降の育成フェイズにて任意にバトルエリアに移動させることが出来る。 Lv3 アグモン 成長期 ウイルス種 爬虫類型(黒)DP1000 ブロッカー 私のバトルエリアに「アグモン」と「ニセアグモン博士」が立ち並ぶ。 今移動させたアグモンは、進化元…つまり下に重なっているコロモンの効果、「アタックの対象が変更された時、ターン終了までこのデジモンのDP+1000」を持っている、この効果は今は直接影響しない。 「メインフェイズ…コスト3で『アウトサイダーズ・メモリーブースト』を手札から登場!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -1 アウトサイダー・メモリーブースト オプション(紫) このカードは黒でも色条件を満たせる。 メイン 自分のデッキの上から3枚オープンする。その中の紫/黒のデジモンカード1枚を手札に加える。残りはデッキの下に戻す。その後、このカードをバトルエリアに置く。 メイン ディレイ メモリー+2。 これは「オプション」と呼ばれるカード、オプションカードの色と同じ色のデジモンが自分の場にあることで使用でき、様々な補助効果を持つ、カードによっては直接デジモンを消滅させたりもするが。 「さて、何が出るかな?」 私は効果に従い、デッキを上から3枚をオープン、つまり相手に公開しながらめくっていく。 「ライズグレイモン」「アウトサイダーズ・メモリーブースト」「ダークティラノモン」 「ふむ…」 ライズグレイモンかダークティラノモンか…ここは、 「私は『ライズグレイモン』を手札に加える、残りのニ枚はこの順番でデッキの下だ」 「確認したギャ!」 その後、私はバトルエリアにこのオプションカードを置く、ディレイと呼ばれる効果により、次の私のターン以降このオプションカードを破棄することでメモリーを増やすことが出来るのだ。 さて、私の今のメモリーは-1、本来であればオプションカードの効果解決とともにターンは終了する しかし 「『ニセアグモン博士』の効果発動、『アウトサイダーズ・メモリーブースト』の登場によりメモリー+1だ」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー 0 アグモン博士側に傾いたメモリーが中央である0に戻る、これにより私のターンが継続する。 テイマーカードの主たる効果はターン開始時に条件を満たすことでメモリーを増やす効果だ それを採用しない代わりに私のデッキに入れたテイマーとしても扱うこのカードの効果はつまり、実質的に同色のカードの登場コストを永続的に-1することにある。 「コスト2でアグモンを『ジオグレイモン』へと進化!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -2 『ニセアグモン博士』の隣に立つアグモンの姿が変貌していく、もちろんその過程まで向こうと同じだ。 ただし決定的に違うのが Lv4 ジオグレイモン 成熟期 ウイルス種 恐竜型(黒/紫)DP5000 進撃  進化元効果 消滅時 相手のバトルエリアの最もレベルの低いデジモン一体を退化1 肌の色、だ、向こうはオレンジ、こちらは濃い青色。 「むむっ…『進撃』ギャ」 「その通りだ、まずは1枚貰おうか」 「進撃」、ジオグレイモンに書かれたこのを持つデジモンは、進化コストの支払いにより相手側にメモリーが傾いた状態でもアタックを行うことが出来る。 「ジオグレイモンでプレイヤーにアタック!」 『メガフレイム』 ジオグレイモンの口がその口を大きく開き、必殺技たるメガフレイムを撃ち出す。 それは対戦相手のアグモン博士の目の前に展開された5枚のシールドに着弾し、1枚が砕け散った。 しかし、デジモンカードゲームでシールドとはただ砕けて終わりではない。 ─セキュリティチェック 『ライズグレイモン』DP7000 Player2 アグモン博士 セキュリティ 4 「ぐぅ、敗北か」 それがこのセキュリティデジモンとのバトルだ、めくられたシールドの内容がデジモンカードであればそのデジモンとバトルをし、DPが高いほうが勝利する。 ジオグレイモンのDP5000に対しライズグレイモンのDPは7000…敗北によりジオグレイモンは消滅する。 「ライズグレイモン!『ソリッドストライク』ギャ!」 シールドの中より出現したライズグレイモンが、左手に備えるトライデントリボルバーをジオグレイモンの脳天に叩きつける。 セキュリティとのバトルでは勝敗に関わらずセキュリティデジモンは消滅、つまりこの場合、シールド1枚とジオグレイモンの双方が消滅して終わりということになる。 「消滅時の効果は特になし、ターン終了だ」 ThunChange Player2 アグモン博士 メモリー 2 「育成フェイズ!『ジオグレイモン』をバトルエリアに移動ギャ!」 前の彼のターンに進化したジオグレイモンがバトルエリアに移動してくる。 「…しかし、本当に鏡写しのようだな、お互いにジオグレイモンの系列を採用とは」 「フフフ…その通りギャ、久々に会うというのにとんでもない偶然ギャ」 向かいに立つ彼とほぼ同時に口が動く。 「そのデッキは」 「恐らく」 私のデッキはウイルス種のジオグレイモン 彼のデッキはワクチン種のジオグレイモン お互い、バトルエリアに出ては居ないものの『ライズグレイモン』も確認している。 であれば当然その先も 「「シャイングレイモンデッキ」」 向かい合う彼と共に、口角をニヤリと上げながらそう宣言する。 ─ その後、バトルは進み、鏡写しの盤面が大きく崩れだした。 そもそも同種のデジモンの色違いを採用したデッキとは言え、そのカードの効果の系統は全く違う。 私のシャイングレイモンデッキはは黒と紫の混色、主な効果は相手のデジモンに重なったカードを上から指定枚数破棄する、つまり「退化」させる効果。 対するアグモン博士のシャイングレイモンデッキは黄と赤の混色、主な効果は相手のデジモンのDPをマイナスする効果だ。 双方とも相手デジモンに対する妨害とも言える効果だが、やり方が違う。 進化時効果を使いアグモン博士の盤面のデジモンを退化させようとする私に対し、アグモン博士は自身を模した『アグモン博士』のカードを複数枚展開、退化はLV3以下にはさせられないため、実質的に退化を無効にされていた。 そうしている間にアグモン博士はメモリーブーストともう一枚、似たような効果を持つトレーニングというオプションを使い 「ライズグレイモンをコスト3で『シャイングレイモン』に進化ギャ!」 シャイングレイモン、つまり究極体まで一気に進化させていた。 Player2 アグモン博士 メモリー 0 ライズグレイモンの胸部装甲が開き、中央部にエネルギーが球体状に集中していく。 光球はみるみる内に肥大化し、ライズグレイモンの全身を包み込む。 その姿は、まさしく名の通りの「昇る(ライズ)太陽」 やがて光球は消え去り、中に居た光竜が姿を表す。 LV6 シャイングレイモン 究極体 ワクチン種 光竜型 (黄)DP11000 進化時 黄の自分のテイマー全てをレストさせる。この効果でレストさせた黄のテイマー1体ごとに、以下の効果を発揮する。 ・このターンの間、相手のデジモン1体のDPを-4000する。 ・自分のターン 自分のテイマー1体ごとに、このデジモンのDPを+1000する。 「ぐっ!『アグモン博士』を並べたのはこのためか!」 「そういうことギャ!」 進化時効果で、バトルエリアに並ぶ『アグモン博士』3枚がレストされる。 それにより私のバトルエリアのデジモン一体をDP-4000、これを3回行うことが出来る。 「『ダークティラノモン』『ライズグレイモン』に2回!、この2体にDP-4000…さらに進化元効果により1000プラスしてDP-5000ギャ!」 「シャイングレイモン!『シャイニングブラスト』!」 シャイングレイモンの翼が光り輝き、その輝きで私のバトルエリアのデジモンが灼けていく。 ダークティラノモンDP5000→0 ライズグレイモンDP7000→0 DPをマイナスされ0となったダークティラノモンとライズグレイモンは消滅、私の場に残るのはニセアグモン博士のみとなった。 「更にもう一つの効果で『シャイングレイモン』のDP+3000ギャ!」 シャイングレイモンDP11000→14000 「『シャイングレイモン』でプレイヤーにアタックギャ!」 『ジオグレイソード』 相手のアタックをブロックできる「ブロッカー」を持つダークティラノモンは先程の効果で消滅してしまった。 阻むものはない、シャイングレイモンが私のセキュリティ、その1枚を破壊する。 ジオグレイソードにより両断されたセキュリティ、その中身は。 ─セキュリティチェック 『アグモン博士』DP1000 Player1 ニセアグモン博士 セキュリティ残り 1 「…」 出たか、このカードが。 「…アグモン博士のセキュリティ効果発動、このカードを手札に加える」 「…何故、僕を、そのカードをデッキに?」 「さて、な」 「……コスト3でオプション『テスタメント』を登場ギャ!」 Player2 アグモン博士 メモリー -3 テスタメント オプション (黄) 次の相手のターン終了時まで、自分のデジモン1体は、ブロッカーを得る。 「『シャイングレイモン』にブロッカーを付与、ターン終了ギャ!」 ThunChange Player1 ニセアグモン博士 メモリー 3 「進化元効果の再起動で『シャイングレイモン』をアクティブにするギャ!」 シャイングレイモンの下に重ねられたデジモンの進化元効果、「再起動」これによりシャイングレイモンが私のターンでもアクティブに戻る。 「……」 ここから、この盤面から手札のアグモン博士を使い一定のコンボを繋げることは可能だ。 「トラッシュから名称に「アグモン」を含むデジモンカード1枚を手札に戻す」この効果を使いトラッシュからもう一種の効果の違う『ニセアグモン博士』を取り出すことで、進化元効果を使い常に進化コストを-1して進化させることが出来る。 ジオグレイモンまで繋げれば、あとはもう一種のセキュリティ枚数を参照するライズグレイモンの効果によりノーコストで完全体まで持っていける。 問題は、だ ……彼と、アグモン博士と決着を付けに来たというのに、彼を模したカードでこの曲面を切り抜けるのか? 彼に勝ち、私は彼のニセモノなどではないと証明したいのではなかったのか? だと言うのに、攻勢に回る最初の一手に彼を使う? などと、堂々巡りの思考を巡らせていると、突如視界の端に通知ディスプレイが現れる。 「何だ?」 ウインドウにはCALLINGの文字、発信元は不明。 「こんなタイミングで電話を掛けてくるだと?一体誰だ?」 「出るといいギャ〜その間僕はアグ美と話してるギャ〜」 「そうか…感謝する」 お互いの同意の元、ターンの時間制限タイマーをストップする。 目の前に表示されたウインドウの応答ボタンを爪の先でタップ 「…誰だ?」 「誰だ、はこっちのセリフだD-STRAGE泥棒」 「……君か」 電話の相手はこのD-STRAGEの持ち主、ジョン・ドゥであった。 ─ 「…誰だ?」 この声は、ニセアグモン博士か。 「誰だ、はこっちのセリフだD-STRAGE泥棒」 「……君か、一体何処から掛けている?」 昼寝から目覚めたらコイツは居ないし、D-STRAGEもない、慌てて飛び起きて周辺を探していたところ、あるものを見つけてそれに賭けた。 「俺達が昼寝してた森の近くだ、ちょっと歩くと道に出てな、そこに置いてあった電話ボックスからだ」 正直、電話ボックスが動く保証はなかった、置いてあるように見えるだけで、リアルワールドから流入してきたゴミデータかもしれなかったし。 なにより電話ボックスの使い方なんて知らない。 入ったはいいもののどうすればいいのか困っていると、後ろから声を掛けられた ─どうしたの? 相手は子供だ、小学校高学年くらい、いやそれより小さいか? ─それ、公衆電話の使い方が解らないの? ─まずは受話器を持ち上げて、次にそこのコイン投入口にBitを、そう、硬貨として実体化して。 ─10Bitずつ入れるのがオススメかな。 ─あとは…ここはデジタルワールドだし、多分解ると思う。 言われた通りに操作すると、目の間にウィンドウが現れた、接続先のIDを入力しろと書かれている。 …公衆電話なんてレトロの極地から出てくるのが仮想ウインドウか、デジタルワールドらしいといえばらしいか。 ─じゃあ、私は用があるからもう行くね 礼を告げる前にさっさと行ってしまった。 …デジタルワールドに居るということはテイマーなんだろうが、今後ろに居たのリリスモンか? 七大魔王をパートナーにするって一体どうやってんだ…? というか、なんで小学生が公衆電話の使い方を…? まぁいい、とりあえず接続先には俺のユーザーIDを入力、これで駄目ならメールアドレスでも入れてみよう…… と、そんなわけで無事に俺のD-STRAGE宛にトークを発信できたわけだ。 「で?俺のD-STRAGE勝手に持っていって何してるんだ?」 ─ 「で?俺のD-STRAGE勝手に持っていって何してるんだ?」 「それは…」 私は今親友の結婚式にロードナイト村に来ていること、その舞台で親友との決着をつけようとしていること、そして今の盤面がピンチであることをかいつまんで説明する。 「へぇ、そいつは…中々盛り上がるシチュエーションだな」 「だろう?ヤツと決着を付けるならこの場面しかないと思ったのだ、そこで…」 「で?なんで『アグモン博士』を出さないんだ?」 痛いところを直に突き刺してくる。 「……そうか、解るか」 「まぁ何度も調整に付き合ってるし、前からずっと気になってた、お前出せば進化が繋がる場面でわざとアグモン博士を出してないだろ?」 流石にデッキの調整に何度も戦えば気が付かれるか。 「出さない理由か、宿敵を模したカードだから使いたくない、では駄目か?」 「…?ならどうしてデッキに入れてるんだ?」 「コンボが成立するからだ」 「……はぁ?」 言いたいことは解っている、自分でも矛盾していると思う、カードの性能を見れば成立するコンボがあるからデッキに組み込んでいるが、私の感情はそれを使いたくないと言っている。 「あ、アホくせぇ…」 「馬鹿馬鹿しいと、そんなことは私自身が解っている!だが、私にはあるのだ!皆同じ時を過ごしていたというのにある日突然『ニセモノ』とされた屈辱が、この胸に!」 「だからこそ簡単にはこのカードを使うわけには行かないのだ!解るか!この重さが!」 「……はぁ〜」 激昂する私に心底呆れたと言わんばかりの反応を返す。 「貴様」 「いいか?」 なおも続けようとする私を遮り彼は語りだす。 「まず前提として、よほどの特殊な状況でない限り、デジモンカードゲームのバトルは決められたルール内で行われる競技だ」 特殊な状況、とは私と彼が出会った時のことだろう、あの状況下でメタルティラノモンに敗北してたら間違いなく私達は共倒れしていた。 「確認するか、アグモン、お前の周りには誰が居る?対戦相手とバトルを見ている観客だろ?」 対戦相手、勿論アグモン博士だ。 観客、これも結婚式の招待客達が余興として見ている。 「…うむ、そうだ」 「決められたルールの中で行われる競技と、それを見る観客が居る、ってことはつまり一種の『興行』とも言える訳だ」 「だったら、お前が抱えてるその感情は直接勝敗には影響はしない、それを決めるのはデッキと引きの運とプレイングだからだ」 「なっ」 思わず絶句してしまう、何を言っているんだ彼は 「もっと言えば、プレイヤー個人が抱えてる感情や負けられない理由なんて戦いを、興行を盛り上げるためのフレーバーテキストでしかない」 「お前とアグモン博士の確執がお前に気合を入れるならいいが、それに足を引っ張られて負けるなんてナンセンスだぜ」 「は」 「ハハハハハ!!!」 全く、なんて言い草だ。 私の今まで抱えてきたもの全てが、このカードバトルを盛り上げるための要素だと言い放った。 この男、決して認めはしないだろうがとんでもないカードゲーム馬鹿だ。 「あぁ、全く、そこまで言い切られると途端に馬鹿馬鹿しくなってきた」 「だろ?あぁそれと」 彼はこう付け加える 「負けられない理由を抱えているのは対戦相手だって同じだ、条件はイーブンなんだから、そういう意味でも直接勝敗には関係ないぜ」 言われて、アグモン博士の方を見る。 アグ美くんと、アグモン博士が仲睦まじく会話をしている。 それを見ていると危うくこちらの顔まで綻びそうになる。 周りでは、結婚式の招待客達がこのカードバトルを余興として楽しんでいる、彼らの前で格好悪く負けるわけにはいかないだろうう。 …成る程、確かに負けられない理由だ。 私と彼のそのどちらの理由が重いかなどという比較はそれこそナンセンスだろう。 正しくそれで勝敗は決まりなどしない。 「よし…腹は決まった、使おうではないか、我が友でありライバルでもあるアグモン博士のカードを」 「そっか、まぁ頑張れよ、俺はもう切るぜ」 「待て」 「んあ?」 「…済まなかった、勝手にD-STRAGEを持ち出して」 「あー……帰りに極上肉でも買ってきたら許す」 そう言って、彼は通話を切った。 ─ さて 「済まない、待たせたな」 「フッフッフッ…作戦会議は終わったギャ?」 わざと悪ぶった顔をして言うが、全く似合っていない。 そういうのは私の専売特許だ。 「そういった悪役の演技は私のほうが得意のようだな」 顎を引き、口角をニヤリと上げながら下げた帽子の下から目線を投げる 「おぉ…様になってるギャ…」 「だろう?」 「ニセアグモン博士、さっきと顔つきが変わったギャ」 「……さぁ、バトルを再開しよう、私のターン開始前だったな」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー 3 「育成フェイズ!育成エリアの『ニセアグモン博士』をバトルエリアに!」 前に出すのはテイマーとしても扱う効果のニセアグモン博士だ。 「メインフェイズ!『アウトサイダーズ・メモリーブースト』のディレイ発動!このカードを破棄しメモリー+2!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー 5 「コスト3で『アグモン博士』を登場させる!」 「むっ!さっきのギャ!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー 2 Lv3 アグモン博士 成長期 ワクチン種 恐竜型 (赤)DP1000 登場時 自分のトラッシュから、名称に「アグモン」を含むデジモンカード1枚を手札に戻す。 「登場時効果で私はトラッシュから『ニセアグモン博士』を手札に戻す!」 「続けるぞ!コスト3で今手札に戻した『ニセアグモン博士』を登場!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -1 Lv3 ニセアグモン博士 成長期 ウイルス種 恐竜型 (紫)DP1000 このカードが名称に「アグモン」/「グレイモン」を含むデジモンに進化するとき色条件を無視して進化できる 進化元効果 このカードが名称に「アグモン」/「グレイモン」を含むデジモンに進化するとき支払う進化コスト-1 場に出るのは、今並んでいるニセアグモン博士とは別な効果を持ったカード、元々は彼、ジョン・ドゥのデッキに採用されているカードだ。 余りが出たとのことで私のデッキにも採用している。 「『ニセアグモン博士』の効果発動、2枚分なのでメモリーは+2だ」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー 1 傾いたメモリーがこちらに戻る、ターン続行だ。 「『ウィズダム・トレーニング』のディレイ発動、このカードを破棄し、『ニセアグモン博士』を『ジオグレイモン』にコスト0で進化!」 トレーニング、これはメモリーブーストと似ているが、このカードは破棄することで進化時の支払いコストをマイナスする効果がある。 マイナス値は2、進化コストも2、つまりノーコストになる。 私がこれから進化させるのは、進化時コストマイナス効果を持つ方のニセアグモン博士だ。 「しかしジオグレイモンの進撃でも、登場したターンの攻撃不可、いわゆる召喚酔いは防げないギャ」 「もちろん知っているとも、何よりまだ終わりではない」 「私は手札から『ライズグレイモン』の効果発動!私のセキュリティは2枚以下だ!よってコストを支払わずにジオグレイモンをこのカードに進化させる!」 Lv5 ライズグレイモン(Vi) 完全体 ウイルス種 サイボーグ型 (黒) DP7000 手札 自分のセキュリティが2枚以下の時、自分のバトルエリアの進化条件を満たすデジモンをこのカードにコストを支払わずに進化させることができる。 進化時 自分のセキュリティを上から1枚破棄する。その後、このデジモンは速攻を得る。 セキュリティが2枚以下、つまりピンチに陥って初めて発揮する効果、これによりノーコストでジオグレイモンを進化させた。 しかしノーコストとはタダのことではない。 「進化時効果で私は自分のセキュリティを1枚破棄する!」 Player1 ニセアグモン博士 セキュリティ残り 0 「ギャ…しかしそのDPではシャイングレイモンを破れないギャ」 「あぁ、そこでコイツの出番だ」 「コスト4…ニセアグモン博士の進化元効果で-1しコスト3で」 「『ライズグレイモン』を『シャイングレイモン:トワイライトモード』に進化!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -2 ライズグレイモンの胸部装甲が開き、中央部にエネルギーが集中、作り出した光球がライズグレイモンの全身を包む。 ここまでは向こうと同じだ。 しかしこちらは光球の色が白熱する白から赤に染まっていく、その色とは何か。 夕焼けの色だ。 沈みゆく陽の力、昼と夜の境界線。 黄昏(トワイライト)の名を冠するシャイングレイモンが、夕焼けの中から姿を表す。 LV6 シャイングレイモン:トワイライトモード 究極体 ワクチン種 光竜型(黄/黒)DP11000 進化時 自分のセキュリティを上から1枚破棄する その後自分のセキュリティが2枚以上なら相手のバトルエリアのデジモン全てを退化1 2枚以下ならターン終了まで相手のバトルエリアのデジモン全てをDP-5000する この効果でセキュリティが破棄されなかった場合、このターンの間このデジモンはSアタック+1と進撃を得る 消滅時 自分のトラッシュの「シャイングレイモン:ルインモード」にこのデジモンを進化コストを支払って進化させることで消滅しない 自分のセキュリティ1枚ごとに、この効果で支払う進化コスト+1 「それが、君のデッキのエースギャ!」 「そうだ、セキュリティを沈んいく陽に見立て、沈むごとに違う力を発揮する」 速攻、そして進撃の効果により、私はこのままシャイングレイモンでアタックが可能だ。 「さぁ行くぞ!『シャイングレイモン:トワイライトモード』でプレイヤーにアタック!」 「『シャイングレイモン』でブロックギャ!」 『コロナブラスター』 シャイングレイモン:トワイライトモードが、ジオグレイソードを分割したような二挺の銃剣『コロナブラスター』を構える そのままシャイングレイモンを捉え、引き金を引いた。 「これでは相打ちギャ!…消滅時効果ギャ!」 「その通り!」 対するシャイングレイモンも羽を最大まで広げ『グロリアスバースト』を放つ。 ぶつかり合う2つの太陽、同DPの両者は共に消滅…いや、トワイライトモードのみが満身創痍の体でその場に浮かんでいる 「沈まぬ太陽など、無いのだよ」 私は続けて消滅時効果を発揮する。 「シャイングレイモン:トワイライトモードの消滅時効果!手札から『シャイングレイモン:ルインモード』に進化させる!ニセアグモン博士の効果で進化コスト-1!コストは3だ!」 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -5 フワリとその場に浮かんでいたシャイングレイモンの全身から、突如黒い炎が吹き出し燃え上がる。 その炎は羽と武器…剣と盾を形成していく。 LV7 シャイングレイモン:ルインモード 究極体 ワクチン種 光竜型(紫/黄)DP15000 登場時 進化時 このターンの間、相手のバトルエリアのデジモン全てをDP-6000。 アタック終了時 このデジモンと相手のバトルエリアの最もレベルの低いデジモン1体を消滅させ、自分のトラッシュから名称に「アグモン」を含むLV3のデジモン一体をコストを支払わずにバトルエリアに登場させる。 「進化時効果発動!まとめて吹き飛ぶがいい!」 『トリッドヴァイス』 シャイングレイモンが、相手のバトルエリアに並ぶアグモン博士達を吹き飛ばしていく。 アグモン博士 DP1000→0 アグモン博士 DP1000→0 アグモン博士 DP1000→0 「これでバトルエリアはがら空き…このまま攻撃してやりたいところだがアタックは終了だ、アタック終了時効果を発動」 シャイングレイモン:ルインモードのアタック終了時効果が発動し、自身の黒い炎でその身が燃え尽きていく。 相手の場にもうデジモンは居ないため、自身を消滅させるだけだ。 「私はトラッシュから「アグモン」を登場、ニセアグモン博士の効果でメモリー+2、以上、これにてターン終了だ」 ブロッカーを持つ黒いアグモンを登場させ、今度こそ私のターンは終わる。 Player1 ニセアグモン博士 メモリー -3 ThunChange Player2 アグモン博士 メモリー 3 「僕のターンギャ!育成フェイズ、育成孵化、最後のコロモンを孵化ギャ!」 さて、ここからが問題だ、このターンを凌げば私のバトルエリアのデジモンで一斉にアタックし、私の勝利となる。 テイマーとしても扱う特殊なアグモン博士は、今3枚まとめて吹き飛ばした。 ゲームルール上同カード、正確には同IDのカードだが、とにかく同じカードは4枚までしか入れられない。 テイマーカードを採用していない以上、このターン内にメモリーを増やすことは厳しいはずだが、どう出る。 「メインフェイズ、コスト3で『アグモン博士』を登場ギャ!」 Player2 アグモン博士 メモリー 0 「ほぅ」 私と同じく、効果の違う別な「アグモン博士」を出してくる。 Lv3 アグモン博士 成長期 ワクチン種 恐竜型(黄)DP1000 登場時 自分のデッキの上から3枚オープンする。その中の名称に「アグモン」を含むか、特徴に「恐竜型」を持つデジモンカード1枚を手札に加え、残りはデッキの下に戻す。 ここでサーチカードとは、一体何を狙っている? 「ヒメアグモン」「マスターティラノモン」「シャイングレイモン:バーストモード」 「そのカードは…」 ヒメアグモンとは誰のことか、決まっている、彼の隣に立つアグ美くんのことだ。 選べるのは一枚、どれを取る気だ? 「僕は「ヒメアグモン」を手札に加えるギャ!残りはこの順番でデッキに戻すギャ」 「確認した…それで、ここからどう出るつもりかね?」 「コスト0で手札から『絶光衝』を登場ギャ!」 絶光衝 オプション(黄) 自分のセキュリティを上から1枚破棄する。その後、メモリー+2。 Player2 アグモン博士 セキュリティ残り 1 Player2 アグモン博士 メモリー 2 「ほう、身を切って来たか」 「もう1枚『絶光衝』を登場ギャ!」 Player2 アグモン博士 セキュリティ残り 0 Player2 アグモン博士 メモリー 4 「随分と強引にメモリーを確保してくるのだな」 セキュリティ全てを犠牲にするとは、一体何を考えているのか。 …まさか 「私にトドメを刺す準備が出来ていると?」 「フフフ…ここから一気にクライマックスギャ!」 「コスト0で手札から『オルタナティブ・ビーイング』を登場ギャ!」 オルタナティブ・ビーイング オプション(白) 自分のバトルエリアにデジモンがいる間、このカードは色条件を無視して登場できる。 自分のバトルエリアのデジモン1体を選び、自分のデッキの一番下に置く。その後、そのデジモンと同じ名称を含みかつ名称の違う、同じレベルのデジモン1体を手札からコストを支払わずに登場させる。 このカードの効果はつまり、バトルエリアに出ているデジモンを、手札の「亜種」に入れ替えるということだ。 「『アグモン博士』をデッキの下に、手札から『ヒメアグモン』を登場ギャ〜」 Lv3 ヒメアグモン 成長期 データ種 爬虫類型(青)DP1000 自分のバトルエリアに他にデジモンが居ない間、このデジモンは速攻を得る アタック終了時 自分のバトルエリアに他にデジモンが居ないなら、このデジモンを自分のデッキの下に置く。 「成る程、登場ターンでアタックが出来ないアグモン博士の代わりに、速攻を持つ彼女を出すか」 「ヒメアグモンでプレイヤーアタックギャ!」 「アグモンでブロック!」 お互いのDPは1000、引き分けで双方が消滅だ。 ヒメアグモンの放つ爪撃を黒いアグモンが防ぎ消滅。 そのまま反動か後ろに弾き飛ばれれたヒメアグモンも共に消滅した。 私のバトルエリアには残りニセアグモン博士が2体、この2体に相手のアタックを防ぐ力はない。 あと一撃、こちらが喰らえば終わりだ。 「さて、どう出る」 私、アグモン博士、アグ美くん。 ここには私達3人が揃い、お互いのデッキにはそれぞれを模したカードが採用されている。 果たしてこの勝負を別けるのは誰か… 「コスト4で手札から『ブシアグモン』を登場ギャ!」 「ブ、ブシ?」 誰だそいつは? Player2 アグモン博士 メモリー 0 Lv3 ブシアグモン 成長期 ワクチン種 恐竜型(黄)DP2000 速攻 このデジモンは登場したターンでもアタックできる 「ブシアグモンでプレイヤーアタックギャ!」 「は」 ブシアグモンの刀により、セキュリティ全てを破壊された私自身にアタックが通る。 私とアグモン博士の決着は、誰だが知れないアグモンによって付けられた。 BATTLE END Player2 アグモン博士 WIN ─ 観客たちの声援で周りが騒がしい。 当然か、あの状況から逆転して勝利を収めたのだから。 …見れば、警備のナイトモンすら拍手を送っている。 「……完敗だ」 「ギャギャ、スレスレのバトルだったギャ〜」 私は今一番の疑問を尋ねる 「先ほど私にトドメを刺したカード、『ブシアグモン』とは一体誰なのだ…?」 「?別に誰でもないギャ、特に知り合いにも居ないギャ」 「では、『ヒメアグモン』、アグ美くんで躊躇いなくブロッカーと相打ちさせたのは」 「いくらアグ美と同じだからってカードはカードギャ〜、有用な効果だから入れているだけギャ」 「は」 「ハハハハハハハッ!!」 思わず笑ってしまう ジョン・ドゥ、彼の言う通りだ。 カードゲームはカードゲームでしか無い。 そこに私が勝手に自分の因縁を関連付けていただけだ。 自分と、相手と同じ見た目のイラストが描かれたカードだからといって、本人と同一視するなどと。 思い返してみれば馬鹿なことをしていたと思う。 これは結局、私が一人で勝手に自分の名前をコンプレックスとして抱え込み、一人で勝手に盛り上がってカードバトルに臨んだ。 ただそれだけの話だ。 彼は、アグモン博士は本心から、久々に再開した友人とカードで遊びたかっただけなのだろう。 「あぁ、全く、思い返すと本当に自分が馬鹿馬鹿しいよ」 「改めて言わせてくれ、二人共、ご結婚おめでとう」 「ギャ…ニセアグモン博士、君のそんなにいい笑顔は久々に見たギャ」 「そんな顔をしているか?今の私は」 「うん、とってもいい笑顔!」 アグ美くんにまで言われてしまう、口角が緩んでいる自覚はあるが、そこまでか。 その後、式は滞りなく進行していった。 ─ 「ふむ…」 「ギャ…」 式場の外、屋外にて食事が振る舞われている。 私とアグモン博士は二人で目の前の回転する巨大なニクを見つめている。 ドネルケバブ、人間世界でそう呼ばれる料理だ。 肉を回転させながら焼き、表面を削ぐように切ったものを野菜とともにパンに挟む。 「面白いことを考えるものだ」 「全くギャ〜」 私は2人分のドネルケバブを受け取り、彼の横に並ぶ 「それでは」 「実食と行くギャ〜」 そうやって大きく口を開いた瞬間 遠くの方からズドン、という大きな音がする 「…何だ?」 「しゅ、襲撃だー!」 村の警備なのか、別なナイトモンが駆け込んでくる。 「…皆様!誘導いたしますので避難を!」 式場の入口警備をしていたナイトモンが言葉を受け直ちに避難誘導を始める。 ─前提として、よほどの特殊な状況でない限り、デジモンカードゲームのバトルは決められたルール内で行われる競技だ ─彼はそう言っていた、しかしこの理屈には一つ穴がある。 「フッ…」 「ギャギャ〜」 私とアグモン博士は顔を見合わせ、お互いにD-STRAGEを取り出す。 「行こうじゃないか」 「ただ黙って逃げるなんてつまら……納得行かないギャ〜!」 二人同時、デッキのエースカードを呼び出す。 「シャイングレイモン!」 「シャイングレイモン:トワイライトモード!」 ─ここデジタルワールドでは、特殊な状況の割合のほうが多いことだ。