二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1726733460267.jpg-(28440 B)
28440 B24/09/19(木)17:11:00No.1234390178そうだねx6 18:57頃消えます
 夜のロンドン、テムズ運河。
 かつてのテムズ川を大幅に拡張した広大な運河が、ロンドン市街中心部へ南から流れ込み、大きく東に曲がるそのほとりに、「ロンドン・アイ」と呼ばれる大観覧車が建っている。
 滅亡戦争の戦火を奇跡的に逃れ、今も旧時代そのままの姿で静止している直径135メートルの鋼鉄の輪の頂点、最上部に位置するゴンドラの付け根に、一人のバイオロイドが音もなくあらわれた。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/09/19(木)17:11:16No.1234390245+
 銀色の髪にヘッドドレス、モノトーンのナースウェアに身を包んだ彼女は、すばやく周囲を見回してからフレームの下へ手を差し伸べ、もう一人のバイオロイドを引っ張り上げる。
「ふう……」
 引き上げられた方はゆたかな肢体をひとつ伸ばしてから頭へ手をやり、まとめていた髪をほどいた。身長と同じほどもある長いピンク色の髪が、さっと夜風に流れる。
「頭を上げないで」
「わかっています」
 眼下にはロンドン市街が広がる。東にウォータールー駅、西にはビッグ・ベンとウェストミンスター宮殿が、夜空にくろぐろとした巨体を浮かび上がらせている。
 そして、南にはフローレンス・ナイチンゲール博物館。街の明かりというものが絶え果てて久しいこの時代にあって、ことさら高くも大きくもないその建物はしかし、夜闇の中にあかあかと照らし出されていた。その周囲に、ひっきりなしに火の手が上がっていたからだ。
「……あそこに救出チームが」
「ええ」
 セラピアス・アリスは美しい顔をしかめ、鋼鉄のフレームを握る手に力をこめた。
224/09/19(木)17:11:39No.1234390320+
「焦ってはだめです。あと二分半」
 ブラックリリスがその肩に手を置く。アリスは大きく深呼吸をして、体の力を抜いた。
 オルカはもうほんの数百メートル先まで近づき、減速に入っているはずだ。真下に横たわる運河の水面が、月光をはね返して異様にもり上がりはじめたのがここからでも見える。
 ロンドンにいる鉄虫の大半が、あのナイチンゲール博物館に引きよせられてこのあたりに集まってきている。河面の不自然な上昇にすでに気づいている個体もいるだろう。オルカが無事に浮上できるかどうかは、自分たち二人の働きにかかっている。
「……そういえば、少し意外でしたね」
 逸る心を落ち着かせるため、アリスはしいて声をかけた。赤外線スコープの調節をしていたブラックリリスが、眼下の闇を睨んだまま答える。
「何がです?」
「貴女が、おとなしく私の護衛についたことがです。ご主人様の側を離れたがらないかと思ったのに」
「ご主人様のご指示に背くわけがないでしょう」
「それにしても、ひとゴネくらいはするものかと」
 ブラックリリスは聞こえよがしにため息をつき、ゴーグルをはね上げてアリスを睨んだ。
324/09/19(木)17:11:55No.1234390395+
「ご主人様はもっとも危険な任務にあなたを送り出す代わりに、もっとも信頼できる護衛をつけたのです。私がここにいるのはご主人様の最高の信頼の証であり、同時に私たちバイオロイドすべてに対するご主人様の愛の証でもあります。不満など、あると思いますか?」
「…………」アリスはむっつりと押し黙った。リリスの言ったことはまさしく、彼女が何か不平らしきものを口にしたらぶつけてやろうとアリスが用意していた言葉そのままだったからだ。
 そんな彼女の内心を見透かしたように、リリスはかるく笑った。
「私の方こそ意外でしたよ。あなたが、私の護衛をすんなり受け入れたことが」
「?」
「バトルメイドにはブラックワームさんがいるでしょう。今回のような任務にうってつけではなくて?」
「ああ、それは……」
 アリスは曖昧に言いよどんだ。
424/09/19(木)17:12:21No.1234390504+
 三安のメイド型バイオロイド、バトルメイド、コンパニオン、フェアリーの三シリーズは、姉妹愛が強いことの裏返しとして縄張り意識も強い。特にバトルメイドとコンパニオンは職分が重なりがちなため、旧時代にも、また抵抗軍を結成してからも、何かにつけて張り合い、仕事や手柄を奪いあっていた。かなり険悪な間柄になったことも一度や二度ではない。
 そんなバトルメイドのアリスが、大規模戦闘護衛モデルであるブラックワームS9をさしおいてコンパニオンに護衛を任せるなどということは、確かに昔なら考えられなかっただろう。アリス自身もだが、何よりブラックワームが認めなかったはずだ。
「……それこそ、ご主人様の采配が間違っているはずがありません。ブラックワームだって、そのあたりはよくわかっています」
「……ふうん」
 リリスはニヤニヤと笑ったまま、ゴーグルを直して索敵に戻った。その横顔が癇に障って、アリスは棘のある声を出す。
「何がおかしいのです」
「いえ、アラスカからこちら、あれこれ苦労しておいでなのを眺めていましたが」リリスは口元から笑みを消さない。「長姉役もやっと板に付いてきたようですね?」
524/09/19(木)17:12:32No.1234390539+
「な……」アリスは頬がかっと熱くなるのを感じた。
「言っておきますが、ブラックワームが力不足という意味ではありませんよ。あの子は十分高い能力を持っています。あくまでご主人様の」
「それ、本人に言ってあげた方がよろしいですよ」リリスはからかうように指を振る。
「嫌味ですか?」
「先輩からのアドバイスです」
 アリスがさらに何か言い返そうとした時、二人の手首に巻いていた通信機が、小さく振動した。
 瞬時に二人とも口をつぐみ、目を見交わす。オルカが浮上を開始した合図だ。水面に現れるまで、あと十五秒。
 アリスは立ち上がり、両手を広げた。腰に巻きついたマーメイドドレス型のマルチミッションランチャーがはらりと展開し、扇形のフォルムを形作る。リリスがローザ・アズールを起動させ、青白い光の薔薇が二輪、アリスの左右に咲いた。
 攻撃地点はすでに決めてある。もう言葉はいらない。アリスは広げた両腕を、優雅に振り下ろす。
 かくて、電撃オルカ作戦は幕を開けた。
624/09/19(木)17:13:02No.1234390654そうだねx3
長くなったので続き
fu4011964.txt
今回はバトルメイド総出演編です
724/09/19(木)17:13:39No.1234390799そうだねx2
今までのまとめ
fu4011966.txt
824/09/19(木)17:38:44No.1234396632+
いい姉妹だな
924/09/19(木)17:39:33No.1234396854+
アリスと金蘭は他に比べてシナリオとかでの描写が少ないから助かる
あとバニラの戦闘メインでの活躍も良いね
1024/09/19(木)17:51:36No.1234399994+
三安軍の歩兵バニラってブラウニーと同等?
1124/09/19(木)18:14:57No.1234406644そうだねx1
>三安軍の歩兵バニラってブラウニーと同等?
ブラウニーと同じB級だけどどうみてもブより頭がいいから
逆説的に身体能力はブに劣ると思ってる
1224/09/19(木)18:20:24No.1234408327そうだねx1
バニラはAだよ!
ただし戦闘モジュールなしだと200万円なのでブラウニーの5分の1の価格
1324/09/19(木)18:21:26No.1234408655+
おおなんかきてる今から読む
1424/09/19(木)18:51:06No.1234418289+
アリスはなんでハイエンドメイドモデルで製造順でも先輩なコンちゃん差し置いて長姉面してるんだろうと時々思う
1524/09/19(木)18:53:23No.1234419103+
個体の性能ではバニラの方が上だけど部隊運用とかはブの方が勝るみたいな感じ


fu4011964.txt 1726733460267.jpg fu4011966.txt