【登場キャラクター】 白崎 護&ハックモン(No.99) 斉藤 彩乃&リヴァイアモン成長期(No.201) 八王子 蘭(自創作キャラクター)&ホーリーデジタマモン(No.126) ----  デジタルモンスター、略してデジモン。  それは、デジタルワールドに存在するデジタル生命体の総称である。  現実世界とデジタルワールド。  本来交わることのない二つの世界にゲートが繋がった時、彼らデジモンは現実世界に"リアライズ"する。 @@@@ 「逃がすなハックモン!」 「わかっている!」  中学生の少年「白崎 護」は、デジタルが混入した現実世界の夕暮れの街を駆ける。  彼が追うのは、青いデジモン……マリンデビモンである。  通行人は数刻前に起きた原因不明の腐食事故に驚くばかりであったが、護とそのパートナーは知っていた。これは、現実世界にリアライズしたマリンデビモンの仕業なのであると! 「"フィフスラッシュ!"」  護のパートナーである小竜型デジモン「ハックモン」が、マリンデビモンへと高速接近して強靭な爪を振り下ろすが、マリンデビモンはその爪をつかみ取り、彼を地面へと叩きつけた。 「確かに成長期にしてはやるようだ。だが、完全体の俺に勝てるとでも?」 「ぐっ!」 「貴様の相手をしている暇は無いのだっ! さっさとデータの屑となれ!」  マリンデビモンは口部から猛毒の墨"ギルティブラック"をハックモンへと噴射する。ハックモンがマントで全身をガードし、墨を払いのけたその時には、マリンデビモンの姿はどこにもなかった。 「ハックモン! 大丈夫か!?」 「あぁ。だが、まずいな。アイツには目的地があるようだ。一直線にそこに向かっている!」 「だとすると……」  ギルティブラックの影響で腐食していく歩道を前に、護は拳を握る。  護は一般人であり、中学生である。だけれども、自身の弟と妹をリアライズしたデジモンに襲撃された過去を持つ彼は、デジモンによる事件を見過ごすわけにはいかなかった。 「このままじゃあ、被害は道路や建物では済まないかもしれない。追えるか? ハックモン」 「あぁ。急ぐぞ護!」 @@@@ デジモンイモゲンチャー サイドストーリー 「爬虫類ショップ"嫉妬"へようこそ」 @@@@ 「おぉ……凄く鮮やかなワニだ!」 「うちの看板ワニさ。品種は知らないけど」  爬虫類ショップ"嫉妬"にて、女子大生ショップ店員の「斉藤 彩乃」と大学生の「八王子 蘭」はワニコーナーを眺めていた。  年頃の近い彼女達の前に展示されているのは、「リヴァさん」の愛称を与えられた非売品ワニである。 「爬虫類を見ていると、何だか懐かしい気分になるなぁ」 「昔飼っていたとか?」 「いやいやいや! 飼っていたわけじゃないのだけれど、いつも一緒に過ごしていたというか」 「ふーん?」  蘭は特に爬虫類の購入のためにやって来たわけではなく、ただ興味本位で店に入って来ただけである。それを察している彩乃はやがて脇でスマホを弄り始めた。  他にお客がいるわけではなく、店はそろそろ閉店時間……そんな中。 「リヴァイアモン様っ!」  店の扉が乱暴に開かれた。 「うおっ」 「うわああっ!?」 「マリンデビモンが、お迎えに上がりましたぞ!」  店の中に入って来たのは、現実世界にリアライズしたデジモン……マリンデビモンである。彼は彩乃と蘭を無視してリヴァさんへと近づき、その檻の前で片膝をつく。 「嗚呼おいたわしやリヴァイアモン様! こんな成長期のような無残な姿になってしまい」 「ちょっとちょっと。コスプレのお客さん。そいつ非売品だよ」 「何だ貴様は!」 「見ての通り、バイトの店員。ここはペットショップなんだから、大声で生き物に刺激は与えないで」 「ぺ、ペットショッ……!?」  マリンデビモンは絶句し、彩乃とリヴァさんを交互に見る。  自信が崇拝した七大魔王デジモン「リヴァイアモン」が、人間にペット扱いにされている! その事実は、彼にとって到底許容できないものだった。 「き、貴様ぁっ!」  マリンデビモンは鋭利な突起の付いた触手を震わせるが、彼の憎悪に彩乃は気が付いていない。  彩乃はマリンデビモンに背を向けて、先ほどからギュインギュイーンという音と共に回り始めるリヴァさんを、叩いて静めているのだから。 「だ、駄目駄目駄目っ! イカデジモンさん、落ち着いて!」 「これが落ち着いていられるかぁっ!」  デジモン。  その存在を知っている蘭は、現実世界に現れたデジモンに驚きながらもマリンデビモンを宥めようとするが、それが彼をかえって刺激し、マリンデビモンは触手を蘭に向けた。 「我慢の限界だ!」 「ひっ……!」  蘭はポーチに手を突っ込むが、彼女は気が付いた。  ここはデジタルワールドではない。かつて彼女がデジモンハンター時代に使っていた危機脱出用のデジタルアイテムも、この現実世界には存在しないのだ。 「貴様をデリートすれば、少しは気が紛れるか!?」  マリンデビモンが触手を振りかざし、怯える蘭はたまらず目を閉じる。 ―た、助けてっ! ―ホーリーデジタマモン!  蘭が、かつてデジタルワールドを共に冒険したパートナーの名を心の中で叫んだ、その時。 「うおおい、蘭〜! 助けてくれぇっ!」  宙にデジタルゲートが開き、その中から金色の翼を生やした卵の姿のデジモンが飛び出し……マリンデビモンと衝突したのだった。 「!?!?!?」 「痛ぁっ! 誰だこいつっ!?」  現れた卵……「ホーリーデジタマモン」は、後頭部をぶつけて倒れたマリンデビモンを横目に、蘭の傍へと着地した。 「蘭っ!」 「ほ、ホーリーデジタマモン!? 本当に貴方なの!?」 「あぁ。久しぶりだな!」  蘭は眼を見開く。  デジタルワールドでの別れから、一年ほど経っただろうか。蘭の目の前にいるのは、確かに彼女のパートナーであるデジモンだった。 「一体、一体どうして現実世界に!? それに、助けてくれって? デジタルワールドで、何かあったの!?」 「あぁ、それなんだが……」  彩乃が未だにギュインギュインしているリヴァさんをペシペシ叩く中、ホーリーデジタマモンに後頭部をぶつけられたマリンデビモンは無言で身体を起こし、蘭とホーリーデジタマモンに向かって猛毒の墨"ギルティブラック"を噴霧する。  だが、不可思議なことが起こった。 「ぶつかったのは悪かったが、邪魔をするんじゃない。俺はこれから蘭に、大事な話をするんだからな!」  光を放つホーリーデジタマモンに、猛毒の墨が届かないのだ。  否、そもそも発射できていない……?  それを認識した直後、マリンデビモンは息をのんだ。気が付けば自身の手には「茹でたてパスタ」が乗った皿があり……いつの間にか自分は、無害なイカスミソースへと変貌したギルティブラックで、せっせとイカスミパスタを量産していたのだから! 「話を戻すぞ、蘭。お前と別れた後、俺はデジタルワールドでねんがんのレストランを建てたんだが」 「何故か! ぜんっぜん! 繁盛しないんだ!」 「どいつもこいつも飯がまずいと文句を言う舌馬鹿ばかりで!」 「何回場所を変えても、来るのは俺に願掛けだけしようとする連中ばかり!」 「お前をデジタルワールドに呼ぼうにも、客が来ないレストランを見せても仕方が無いし……」 「すっかり煮詰まったから、俺の方から、お前に会いにやって来たわけだ」 「こっちの世界にも、レストランがあるらしいからな!」  マリンデビモンの必殺技はその殺傷性を改竄され、美味しいソースに変貌してしまった。  それは、未知の究極体デジモンであるホーリーデジタマモンの力。理を覆し、不条理を跳ねのける願いの光"ホーリードリーム"によるものである。 「さぁ行くぞ蘭! お前の世界のレストランを、リサーチだリサーチ!」 「えぇえ!? ちょっと、ちょっと待ってよ、ホーリーデジタマモン! その姿は目立つから何とかし」  かつてデジタルワールドを共に旅してきた時のように、ホーリーデジタマモンは蘭を強引に引っ張って店外へと出て行ってしまった。  胡乱な無力化をされ、蘭たちを茫然と見送ったマリンデビモンは、かつての主であるリヴァイアモンの方を見る。 「こらヴァッさん、なに変なもん拾い食いしてんだ。腹壊すからやめろ」  リヴァさんは、彩乃が呆れる中でいつの間にか黒塗りパスタを食べており、どこか満足気な表情を見せている。  マリンデビモンが拵えたギルティブラックイカスミパスタは、なかなか美味しかったらしい…… 「…………」  マリンデビモンは「駄目だこりゃ」という失意の中、ホーリーデジタマモンが開きっぱなしであったデジタルゲートに入って、デジタルワールドへと戻っていく。  マリンデビモンの帰還と共にデジタルゲートが閉じたとき、入れ替わるようにして駆け足で入店したのは、護とハックモンであった。 「ハックモン! ここにアイツが!」 「あぁ! ……って。あれ? いないぞ。反応が消えた!?」 「えっ?」 「馬鹿な。さっきまで確かに居たのに!」  ハックモンは店内を見渡し、やがて彼は檻の中のリヴァさんと目があった。 「ま、まさかアイツは?」  七大魔王。  ペットショップのワニからその雰囲気を感じ取ったハックモンは警戒する。  リヴァさんも同様に、ハックモンから仇敵であるロイヤルナイツの気配を感じ取ったのか。リヴァさんはギュインギュイーンと進化の輝きを放ち回転を始めるが、彩乃がその身体をべしっと叩くと同時に大人しくなり、ハックモンから目を背けてしまった。 「君。もう店閉めるけど、買うものあるの? そこの大きなトカゲの餌とか?」 「え? えーと……」  彩乃の問いにハックモンと護は顔を見合わせ、店の外へ出る。  どうにも怪しい変なワニはいたが、追っていたマリンデビモンが忽然と消えてしまった以上、閉店時間の迫ったこの店に滞在する理由は皆無だったのだ。    「ホーリーデジタマモン! もっと小さくなれないの?」 「まだ足りないか? 小さくってどのくらいだ」 「たま〇っちくらい」 「何だそれ?」  護の前方の道を、金色の羽が生えた卵のぬいぐるみ?を抱えるお姉さんが走り去っていく。  胡乱な存在を見送った護とハックモンの二人は、結局それ以上の騒動にはならなかった今日に対して呟いた。 「「まぁ、良いか?」」 と。 [終わり]