【登場キャラクター】 ・渡辺 豆蔵&オメカモン(No.35) ・八王子 蘭(自創作キャラ)&デジタマモン(No.126) --------------------------------  ロイヤルナイツ。  それは絶対的な強さを誇り、デジタルワールドの秩序を守る「13体の聖騎士型デジモン」へと与えられる称号である。  誇り高き騎士デジモンの頂点である彼らは、暗黒系デジモンの頂点である七大魔王をも恐れず、邪悪な敵を打ち砕く。  そんな彼らの姿に、デジタルワールドの多くのデジモンは、畏怖と憧れを抱いていた。 〇●◎ デジモンイモゲンチャー サイドストーリー 【オメカモン、悩む!】 〇●◎ 「私は、オメガモンになりたいのだ」  マメモン城下町のデジタルBar「ビーンズ」にて、玩具のような風体のデジモンが、カウンターで独りごちる。 「最強のロイヤルナイツ、オメガモン。騎士として生まれたならば、憧れないわけがない」 「だが、私はマメモン城の守護者だ。マメモン騎士団長であり、マメモン武将なのだ」 「……このオメカモンは、迷っている」 「私は、この地に相応しい姿に。マメモンに、なるべきなのだろうかと」  パペット型デジモン「オメカモン」は、シュガーデータたっぷりのミルクを飲みながら、バーテンダーを見上げる。 「どう思う?」 「俺に聞くなよ。好きに決めれば良いだろ?」 「それが決められないから、困っているんだ!」 「あのなぁ……」  臨時バーテンダーのデジタマモンは、息をつく。  彼はこの地の出身ではない。昨日来たばかりの部外者であり、オメカモンの身の上や悩みなど知ったことではないのだ。 「…………」  デジタマモンはちらり、と柱時計を見る。  時計の近くには、足が疲れて椅子に座っている、パートナーの人間「八王子 蘭」の姿がある。 「(あと30分……)」  思い返せば、数日前。  望みを叶えるという"ホーリーデジタマモン"らしき存在が居るという情報を仕入れ、マメモンだらけの城下町にやって来たデジタマモンと蘭であったが、彼らが誤ハントしたのは、マメモンのアイドル・フェアリーマメモンだったのだ。   当然怒りを買い、二人は即座にマメモン警備隊に捕まって牢屋に投げ込まれたのだが…… ―この二人に、これ以上の害意はないようだ― ―どうか、手荒に扱わないでくれ―  デジタマモンと蘭は、マメモンを率いる「ジェネラル」なる者からの温情を受け、「飲食店を一日お手伝い」を条件に牢から解放されたのだ。  こうして贖罪のため、デジタマモンは臨時バーテンダーとして、蘭は臨時ウェイターとしてバーで働くことになり……その盛況ぶりに目を回したものの、現在は閉店時間も近づき、客は悩めるオメカモンを除いて、もう誰もいない。    「ロイヤルナイツなんてなったって、碌なことなさそうだけどな」 「何?」 「連中は七大魔王とも戦うんだろ? あんな奴らを相手に戦うなんて、冗談じゃない。想像するだけで、ぞっとするな」 「そうか。貴殿のようなタマゴにはわからないか。私たち騎士デジモンの誉れというものが」  オメカモンは騎士型じゃなくて、パペット型デジモンなのでは?  そうデジタマモンが突っ込む前に、オメカモンはデジタマモンに尋ねた。 「なぁ。パートナーの人間は、貴殿の問いに答えてくれるか?」 「どうしたいきなり。そりゃあまぁ、聞けば普通に答えてくれるが」 「私はかつて、伝承で聞いたことがあるのだ。私たちデジモンと、パートナーとなる人間は、鏡のような関係なのだと」 「鏡だって? ははは。何だそりゃ!」  オメカモンの言葉を聞いたデジタマモンは、吹き出した。  パートナーである蘭は、内面も外見も似ている要素が無いのだから。  自分たちは、ホーリーデジタマモンを捕まえるという願い、そして無銭飲食肩代わりの借金で繋がっているに過ぎないのだ。 「人間と縁を結んだデジモンは、パートナーとなったその人間の心を、その身に映して進化するのだという」  だけれどもオメカモンは冗談を言ったつもりはないらしく、そのまま言葉を続けた。 「貴殿のように。私にも、人間のパートナーがいる」 「血を一滴も流すことなくマメモン同士の争いを収めた彼は、私の騎士道をより高みに導くだろう」 「だが私は……」 「豆蔵のことがわからない」 「そもそも、彼は本当に人間なのか?」 「実はマメモンじゃないのか?」 「だとすれば、やはり私は望んでいようがいまいが、マメモンになる運命なのではないか?」 「豆蔵は、何も答えてくれない……」  オメカモンは、うなだれる。  ミルクが入っていたグラスは、既に空である。だが、彼の心は未だに靄が掛かっていた。 「あっ。いらっしゃいませ!」  その中。新たな客が入店してきて、椅子に座り込んでいた蘭は慌てて立ち上がり、席へと案内する。 「もうそろそろ、営業終了時間ですが」 「大丈夫。飲み物を、一杯だけだ」  客はデジタマモンにコーヒーを注文をし、オーダーを受け取ったデジタマモンはカップにインスタントコーヒーを注ぎ、しゅっとバーカウンターに滑らせる。  カップはうなだれるオメカモンを通過し、彼からちょっと遠いところで停止した。 「うーん。これはなかなか難しいな」 「遊んでないで、ちゃんと給仕しなよデジタマモン……」  蘭が目的地をオーバーしてしまったカップを手に取り、オメカモンの傍に置く。 「? 私はコーヒーなんて注文していないが」 「あちらのお客様からです」 「あちら……?」  オメカモンが、蘭の視線の先を見る。   「探したぞ。こんなところで飲んでいたのか、オメカモン」 「豆蔵……!」  そこには袈裟を着た、スキンヘッドの男が。  マメモン城のジェネラルであり、オメカモンのパートナーである高校生「渡辺 豆蔵」がカウンターに座っていた。 「豆蔵、答えてほしいんだ」  オメカモンはコーヒーをあおり、豆蔵に問いかける。   「豆蔵は、マメモンではないんだよな? マメモンの派生系統でもないんだよな……?」 「オメカモンは、僕のことがマメモンに見えているのか?」 「い、いいや。だが、私は……」  閉店時間はもうすぐ。  ラストオーダーも終わり、蘭とデジタマモンはいそいそと片付けを始めながら、こっそりと耳打ちした。  自分たちを牢獄から助けてくれたあの「ジェネラル」は、オメカモンのパートナーであり……マメモンではなく人間だったのか、と。 「大事なのは中身だ。そうだろう?」 「……っ」  豆蔵の言葉を聞くオメカモンは、残りのコーヒーを一気に飲み込み、カップを空にする。  身体が少しコーヒーの色で濃くなった彼は、どこか酩酊した状態で想った。  いつもそうだ。豆蔵は答えてくれない、と。 「誰かを守る君を見て、誰かが君に"騎士"を見出したならば」 「…………」  コーヒー酔いしたオメカモンは、ぼんやりとする意識の中、豆蔵を見つめる。 ―私は豆蔵に、マメモンの影を感じている。 ―豆蔵が正面から否定をしてくれないのが、悪いのだ…… 「私はその時、"真の騎士"になる、だったな」 ―だが私は、豆蔵と初めて出会った時から、知っている。 ―豆蔵は、私が憧れる騎士道精神の持ち主なのだと。 「そうさ」 「本当に、そうかな」 ―デジモンは、パートナーである人間の心を、その身に映して進化するのだという。 ―だとすれば、豆蔵のパートナーである私だって、本当になれるのかもしれない。 「そうだとも」 「そうか……」 ―張りぼてじゃない。 ―憧れの。 ―真の騎士たる、存在に。 「…………ZZ」 「寝てしまったか」  飲食代を支払った豆蔵は、寝落ちしたオメカモンに肩を貸す。 「お姉さん、卵くん。閉店時間だね。飲食店を手伝ってくれてありがとう」 「こちらこそ、私とデジタマモンを牢から出してくれてありがとうございました!」 「これで君たちは晴れて釈放だが。実は、この城下町には脅威が近づいているんだ。観光も良いが、早めに町を出た方が良いかもしれ……」 「こんなマメモンだらけのトンチキな町にもう用は無い! 行くぞ蘭!」 「うわあっ!?」  デジタマモンは蘭を引っ張って、マメモン城下町の外へと向かって走る。  二人が追い求めるホーリーデジタマモンは、彼らを待ってはくれないのだから! 「……。ふふ、突風みたいな二人だったな」  二人の後ろ姿を見送った豆蔵は、オメカモンと共にバーを出る。  デジタルワールド中を放浪する蘭とデジタマモンの話をもう少し聞いてみたい気持ちはあったが、彼女達にはきっと成し遂げないといけないことがあるのだろう。 「僕たちも。頑張ろうか、オメカモン」 〇●◎  数日後。  マメモン城下町には、脅威が迫っていた。 「ヒィィィィィィィ! マメモン共がまたこんなにも! ぎゃああああ!!!!!!」  マメモンに憎悪を燃やす人間「マメモンイレイザー」が、ティラノモン軍団を率いて襲撃をしかけたのだ!  マメモンイレイザーは、かつてマメモンが所以の出来事で、泣き叫び、喉から血を流し、39.6℃の高熱で三日三晩うなされる羽目になった悲しき男。彼のマメモン城下町への襲撃は、一度や二度ではなかった。 「メタルティラノモン! マスターティラノモン! ラストティラノモンッ!」 「おぞましいマメモン共を、今度こそ!」 「一丸残らず踏みつぶせぇっ!」  マメモンとティラノモンによる軍団バトルが勃発し、城下町にはティラノモンの咆哮が響き渡る。 「たっ、助けてぇ!」  その中で、小さなマメモンが道路で悲鳴を上げる。  逃げる最中に友人とはぐれて孤立してしまい、ティラノモンに囲まれてしまったのだ。 「GRRRRRRRRRR!」  ティラノモンの爪が、マメモンに襲い掛かる。  だがその爪は、マメモンのデータを抉る寸前に、宙に逸れる。 「オメカモン、推参!」  "ペンシルロケット"に乗って割り込んだオメカモンが、ティラノモンに"オメカキック"をお見舞いしたのだ。 「豆蔵!」 「あぁ!」  守護者の存在を察知したティラノモン達、そしてマメモンイレイザーは、オメカモンを取り囲む。  だが、オメカモンの傍には、パートナーの豆蔵がいた。  大きな剣を持つスラッシュマメモン。大きなキャノンを構える、キャノンマメモンも! 「オメカモン! スラッシュマメモン! キャノンマメモン!」  豆蔵が袈裟から取り出し掲げたのは、ジェネラルの証であるクロスローダー。 「デジクロス!」  クロスローダーから光が迸り、変質していくオメカモンはマメモンのデータと繋がり、武装進化する。  光が晴れたとき、そこに立つのは。 「……オメカモン様!」  救われたマメモンは、安堵した。  恐怖の権化であるマメモンイレイザーにも一切怯まない、マメモン城下町が誇る最強の騎士が、そこにいたのだから。 [終わり]