【登場キャラクター】 ・八王子 蘭(自創作キャラ)&デジタマモン(シートNo.126) ・ジン ツジハ&デジタマモン(シートNo.184) ・デジメンタマモン?(デジモンNo.40) --------------------------------  デジタル生命体、デジタルモンスター(デジモン)。  弱肉強食のデジタルワールドに生きる彼らは、「進化」と呼ばれる生体変化を起こし、より強靭な姿へを変える性質を持っている。  幼年期、成長期、成熟期、完全体。  そして、進化の頂点である「究極体」へと。 〇〇〇 「ねぇ、デジタマモン」  とある乾燥した日。  ホーリーデジタマモンを追い求め、デジタルワールドを放浪するデジモンハンター「八王子 蘭」は、パートナーである「デジタマモン」に問いかける。 「貴方は他のデジモン達みたいに、進化ってやつをしないの? ずっと卵の殻を被っているけど」 「あのなぁ蘭……」  デジタマモンは、蘭の問いに呆れたように息をつく。   「前にも言ったと思うが。俺は完全体のパーフェクト型デジモンだ。つまり、この姿がパーフェクトなんだよ。進化などこれ以上必要ない」 「そうなの?」 「そうなの。第一、進化ってのは良いことばかりじゃない。考えてみろ。もし望まない姿になったりしたら、取り返しがつかないぞ?」 「それは確かに……」  蘭は想像する。  デジタマモンが進化して、とても大きな身体になったとしたら、自分で建てたレストランに入るのも難しくなってしまうだろう。  料理道具だって握れなくなるかもしれない。 「けどまぁ、デジモンというものは、進化を切望している連中が大多数だ」 「そもそも進化って、どうやってするのさ?」 「倒したデジモンのデータを吸収するのが主流だが、色々だ。外付けデータを組み込むって手段を使うやつもいる。デジメンタルとかな」 「デジメンタル?」 「データに組み込むだけで"アーマー進化"とやらが出来るらしい。希少だから、俺も実物を見たことはないけどな」 「へぇ。それって、お手軽に進化できるってこと? だったら、みんな欲しがりそうだ」  お手軽な進化のアイテム。  けれども、それを手にするのは、きっと相当な苦労が必要なのだろう。世の中ってままならない。  そんなことを考えながら、蘭はデジタル双眼鏡を覗く。  彼女たちは、付近の町の住民から「ホーリーデジタマモンっぽい何か」を見かけたと話を聞き、その情報を手掛かりにホーリーデジタマモンの捜索をしているところなのだ。 「……ん?」 「どうした」 「ね、ねぇ、デジタマモン! あれ見て、あれ!」  蘭はデジタマモンの眼に双眼鏡を押し付け、ある地点を指し示す。  デジタマモンがその方向を双眼鏡越しに見ると、そこには、「卵のような形状」に「翼が映えたような何か」が佇んでいた。 「ほ、ホーリーデジタマモン……なのか!?」 「そうかも! 捕まえに行こうっ!」 「おぉっ!」  どことなく怪しい気もするが、実際に現地に向かわないことには始まらない。  蘭とデジタマモンは、デジ取り網とダウンジングロッドを手に、どたばたとホーリーデジタマモン(?)を目掛けて走り出したのだった。 〇〇〇 デジモンイモゲンチャー サイドストーリー 「デジメンタマモン?アップ」 〇〇〇 「おい、デジタマモン」  とある乾燥した日。  デジタルワールドを旅する人間の女性「ジン ツジハ」は、パートナーである「デジタマモン」に呼びかける。 「この地に、アーマー進化をもたらすデジメンタルがあるそうだ」 「らしいな」 「それを使えば、お前のその不安定な殻も、少しは補強できるだろう」 「そう上手くいくとは思えんが」  ツジハの傍を歩くデジタマモンの殻には数多くのヒビが入っており、彼は自身の殻にベルトを巻いていた。  決して、その殻が割れてしまわぬように。  殻の内に秘めている、"終焉をもたらす進化"を封じるために。 「モーマンタイ。きっと上手くいく。どんなときでもポジティブハートだ」  ツジハは微笑みながら、前方に手を差し出す。  そこには、自分達と同様にデジメンタルを狙っているのか。  競争相手を排除すべく、敵対心を隠さぬ複数の野生デジモン達が、こちらに迫ってきていた。 「ふっ」  ツジハは指を三本立て、宣言した。 「三手詰みだ。行くぞデジタマモン」 「そのクソダサいキメ台詞やめろ。だが……」  高速接近した敵対デジモンの爪が、デジタマモンに迫る。  だが、その攻撃がデジタマモンの殻を傷つけることはなかった。 「1。"トライデントアーム"」  デジタマモンの殻の空洞から、サイボーグ型デジモン・メタルグレイモンを連想させる、機械化した巨大な腕が現れ、敵対デジモンの全身を引き裂いたのだ。 「2。"ブースタークロー"」  共に迫っていた敵対デジモンは、自身に危機が迫っていることを認識する前に、より重厚な機械の腕に叩き潰され砕け散る。 「ひぃっ」 「馬鹿なっ、何なんだアイツは!?」  仲間のデリートを目撃した残りの敵対デジモン達は、悲鳴と共に逃げ出す。  彼らは恐怖していた。人間の傍に立つデジタマモンは、強すぎる。自分たちのようにデジメンタルがもたらす進化を狙っている存在だとは思えない。  その強さは完全体どころではなく、まるで進化の頂点の……! 「た、助けてくれぇっ!」 「3。"ギガデストロイヤー"」  デジタマモンの殻の空洞から、有機体系ミサイルが発射される。  それは逃走するデジモン達を追尾し、彼らを一匹たりとも逃さず、データの屑へと分解した。 「宣言通り、三手詰め。チェック・メイトだ」 「だから、クソダサいからやめろと言っているだろ。聞いていて悶えそうだ」  殻零れ一つなく戦闘に勝利したデジタマモンは、パートナーであるツジハの決め台詞に辟易しながら、彼女を見上げた。 「こういう連中がいるとなると。もたもたしているとデジメンタルを持っていかれるかもしれない」 「ふふ。デジタマモンも、やはり期待しているのだろう?」 「うるさい。さっさと行くぞ」  デジタマモンは、パートナーに出発を促すが、その最中。   「「ん?」」  二人は、どたばたとした空気を察知した。 「走るの疲れた! で、デジタマモン! 先に行ってさ、ホーリーデジタマモン、捕まえておいて〜!」 「馬鹿っ、気合をいれろ蘭! 腰を入れろ腰を! ホーリーデジタマモンは近いんだ! もたもたするなっ!」  少し離れた場所で、人間の女性とデジタマモンが、わめきながら全速力で走っているのだ。  どうやら、向こうはこちらに気が付いていないらしい。 「テイマーと。別デジタマモン?」 「…………」  走り去っていく二人組を、ぽかんと見送るツジハたち。  デジメンタルをもっていかれるのでは?  そんな考えにたどり着くこともなく、ツジハの傍のデジタマモンは独り言ちた。 「何だあれ……?」   〇〇〇 「み、見つけたぁ、ホーリーデジタマモンっ!」 「捕まえろっ!」  走りすぎて朦朧としてきた蘭だったが、ようやくホーリーデジタマモンらしきものの姿に迫り、彼女は圧縮から解凍したデジタルアイテム・ネットボムを投擲する。  ネットボムは炸裂し、デジモン捕獲用の網が、ターゲットの全身に被さっていく。 「……ん?」 「んん?」  だが、妙だった。  ホーリーデジタマモン?は、一切抵抗しなかったのだ。 「何だなんだ」  なんだかおかしい。  そう思いながら、デジタマモンはネットで捕らえたホーリーデジタマモン?に近づいた。  それは確かにデジタマモンらしいフォルムをしているが、その全身はアーマーのように硬質な、金色の殻に包まれており…… 「…………」  ネット越しに、ただ、じぃーっとデジタマモン達を見つめている。  「えぇと。貴方は、ホーリーデジタマモン?」 「…………」 「どうなんだ」 「………………」 「違うのかな」 「……………………」 「黙っていたらわからないぞ」 「…………………………」 「な、何か言ってよぉ! YESでもNOでもいいからさ!」 「………………………………」 「あのな。なんか言えよ! 怖いだろ!」 「……………………………………」 「願いを、言ってみる?」 「そうしよう」 「…………………………………………」 「"現実世界に帰りたい!"」 「"億万長者になって、自分のレストランを構えたい!"」 「………………………………………………」  名前を聞いても、望みを叫んでも、彼は何も応えてくれない。  デジ違い。  その悲しい事実をほぼ確信しながら、デジタマモンは気が付いた。  このデジモンの姿は、どこかで見たことがあると。 「おい、蘭。確か図鑑持っていたよな。解凍しろ」 「え?」    デジタマモンに言われるがまま、ポーチから取り出した圧縮図鑑を解凍した蘭は、デジタマモンが示すページを開く。    アーマー進化をもたらす、デジメンタル。  その項に掲載されているうちの一つである、「希望のデジメンタル」に、この物言わぬデジモンはよく似ているのだ。 「えーと。つまりこの金色のメタリック・デジタマモンは、ホーリーデジタマモンじゃなくて」 「"希望のデジメンタマモン"、とでも呼んだ方が良いかもな」 「えぇー。デジ麺タマモン?」 「悪夢を思い出させるな!」  金色の、希望のデジメンタマモン(仮称)はただそこに佇み、無言で二人を見つめ続けている。 「進化を促す力をもっているのかな」 「試す気にもならん。というか怖い」 「どうする? この金ぴかデジメンタマモン」 「うーむ」  ハントしても、この怪しいデジモンに賞金がかかっているとも思えない。とはいえ、宿代くらいにはなってくれるかも……  そんなことをデジタマモンが考える中、彼は蘭の悲鳴を聞いた。 「どうした?」  デジタマモンが振り返ると、そこにはもう一体の、別デジメンタマモンが。 「うおっ!?」 「………………」  赤色に染まったそのデジメンタマモンは、図鑑に掲載されている「勇気のデジメンタル」によく似ている。 「ゆ、勇気のデジメンタマモン……!?」 「うわっ、こっちにも!」 「何!?」  一体どこから湧いて来たのか。  蘭たちの周囲には、一体、また一体とデジメンタマモンが集まってくる。 「………………」「………………」「………………」 「………………」「………………」「………………」 「………………」「………………」「………………」  希望。勇気。友情。愛情。純真。知識。誠実。光。優しさ。  そして、奇跡と運命のデジメンタマモンまでもが。 「あ、あわわわ」 「ひぃっ!」  デジメンタマモンは何も語らない。意志も読み取れない。  彼らはただ、蘭とデジタマモンを包囲して見つめるのみ。 「(そ、そーっと。そーっとだよ、デジタマモン……!)」 「(わかっている……!)」  蘭とデジタマモンは震えながら、自分たちを包囲するデジメンタマモン達の脇を通り抜ける。  一歩、二歩、三歩、四歩。  包囲網を抜けた二人が恐る恐る振り返ると、デジメンタマモン達の全員がこちらを見つめ、更には二人に向かって、動き始めた。 「に、逃げろっ! 蘭!」 「言われなくても、そうするよぉ!」     蘭とデジタマモンは、悲鳴を上げて逃走する。  彼女達を、デジメンタマモンズは無言で追い…… 「ん? あの別デジタマモンのテイマーだ。戻って来たぞ」 「何か連れてるな」 「あれは……ちっ」  謎のデジメンタマモンの集団に追われる蘭とデジタマモンを目撃したツジハは、悔しそうにつぶやいた。 「デジメンタル。先を越されたか」 「いや。あれはデジメンタルじゃないだろ。デジメンタルに足は生えていない」 「ベルトをしているデジタマモンがいるんだ。足が生えて走る、そういうデジメンタルもあるのかもしれないだろう?」 「だとしても、そんな不気味なもの使いたいか? 俺は断る。だいたい……」  蘭とデジタマモンは、行き以上の騒ぎっぷりで走り去っていく。  ツジハの傍のデジタマモンは、彼らに続くデジメンタマモンの集団を見送りながら、冷や汗と共につぶやいた。 「何なんだ、アレは……?」 [終わり]