私、幸村愛!今をときめく高校2年生!ちょっと夢見がちなのがたまにキズってところかな! 「ねえ、ちょっと何ボーっとしてるの?」 今話しかけてきたのはわたしの大親友のいずみん!小学校からの付き合いで、とっても頭が良いんだ! 「う…ううんなんでもない!それより今日の髪型も似合ってるね!」 「本当?ありがと愛ちゃん」 いずみんは数週間前にショートヘアにした。それまでずっとロングヘアだったから、とっても驚いた。 失恋とかしたのかな?と思ったけど、理由は聞いても教えてくれなかった。まあ、似合ってるよね。 「おはよ二人とも。何話してんの?」 彼はダイくん。私のもう一人の大親友!私たちはずっと仲良し!これまでも、そしてきっとこれからも! 「ねえ…愛ちゃん、ダイ、話したいことあるんだ。放課後私の家に来てよ」 「話なら今ここでもできるし…別に電話だっていいじゃん?」 「直接話したいの!それとも…私の家に来るの嫌だったりするのかしら?」 「そんなことないよ!ね、ダイくん?」 「え?あ、ああもちろん!」 ───────── いずみんのお家はとても大きい。 なんでも社長令嬢だとかで、とってもお金持ちらしい。羨ましいよね。 「いらっしゃい、愛ちゃん。」 「お邪魔しま〜す。ダイくんは?」 「もう来てるわ。ついてきて」 いずみちゃんの家はいつ行っても彼女とお手伝いさんしかいない。 お父さんとお母さんはいつも仕事で忙しいらしい。 「そうだ、ちょっとこれ飲んでみてくれない?」 いずみんが差し出してきたのは…緑で…どろどろした… 「えっと…何これ?」 「スムージーよ。体にいいんだって」 「へー………うん、これ見た目より美味しいね!」 「よかった。全部飲んじゃっていいよ」 彼女のその言葉に甘えて、私はそれを一気に飲み干した。 それにしても、こんなの知ってるなんてやっぱりお金持ちは違うなぁ〜… 「どう…気分とか?」 「気分…別に?……いや…ちょっと眠くなってきちゃったかも…」 それを聞いて、彼女はなぜか笑みを浮かべた。 「そう。それは…よかった。ワイズモン、運ぶ準備を」 そう言ったいずみんの横から、ローブを纏った人間?のようなものが現れた。 よく見るとそれは…足元が浮いていて…幽霊みたいで…ダメだ…眠──── ━━━━━━━━━ 「さて…人間二人が揃った…」 「鏡花、残りの材料は「言われなくてもわかってるわよワイズモン。」 錬成陣は部屋の絨毯の裏に書いてある。 この絨毯、最初に錬金術を使った時にうっかり焦がちゃったし、そろそろ買い替え時かもね。 数週間前から人体錬成に取り組んできたから、もうすべきことはわかっている。 まず、術者の髪の毛を一房。このために私は髪をショートにした。 「ああ…ストックを使いきっちゃってた…」 何回も実験を繰り返したせいで、その時に切った髪は使い切ってしまっていた。 仕方なく、私は後ろ髪のできるだけ目立たない場所を切り、供物の一つとして安置する。 次に、素材となる人間を陣に載せる。 すでに一人は配置済み。二人目を載せ、素材の準備は完了だ。 「いっ…た…!」 そして最後に、両手のひらに血が出る程度に傷をつける。 「じゃあ…始めましょうか。」 私は陣の定められた位置に手を着き、ある言葉を唱え始めた。 「Verum, sine mendacio, certum et verissimum:」 これは、ある偉大な錬金術師が残した言葉だ。 「Quod est inferius est sicut quod est superius, et quod est superius est sicut quod est inferius, ad perpetranda miracula rei unius.」 錬金術の基本を示し、最も応用が効く理論。 「Et sicut res omnes fuerunt ab uno, meditatione unius, sic omnes res natae ab hac una re, adaptatione.」 陣が起動した。手のひらの傷口から陣に血が吸い上げられ、光を放ち始める。 「Pater eius est Sol. Mater eius est Luna, portavit illud Ventus in ventre suo, nutrix eius terra est.」 二人の身体がボクセルのように分解していき、一旦陣に取り込まれる。 「Pater omnis telesmi totius mundi est hic.」 ここが私のオリジナルだ。生物の身体をデジモンと同様にデータと捉え、それをコードとし新たなプログラムを書き上げる。 「Virtus eius integra est si versa fuerit in terram.」 と言っても、今まで成功したことはない。 「Separabis terram ab igne, subtile ab spisso, suaviter, magno cum ingenio.」 分解し変換するところまでは上手くいくのだが、どうしても人間の形をとらせ保存することが出来ない。 「Ascendit a terra in coelum, iterumque descendit in terram, et recipit vim superiorum et inferiorum.」 虫、魚、犬、猫。手頃に手に入る生体は全て試した。 最後に残ったのが、人間だった。 人間を作るために人間を使うなんて馬鹿げてる。でも、今まで錬金術で人間を作り出す事に成功した者はいない。 好奇心だけが私を突き動かしている。 「Sic habebis gloriam totius mundi.」 陣の中央にデータが集まり始めた。人間の形をしている!あとは上手く最適化し保存するだけ! 「Ideo fugiet a te omnis obscuritas.」 おかしい。妙に小さい気がする。 「Haec est totius fortitudinis fortitudo fortis, quia vincet omnem rem subtilem, omnemque solidam penetrabit.」 上手くいきそうだ。あと一息! 「Sic mundus creatus est.」 錬成された赤子は、産声を上げた。 「やった!やったよワイズモン!やっぱり動物じゃダメだったんだ!人間じゃなくちゃ!」 「素晴らしいよ鏡花。わたしの識る限り、人類が人体錬成に成功した例はなかった。君が、世界で初めてだ。」 ━━━━━━━━━ 「うっ……!…………は、はぁ…」 あの時のことを夢に見るなんて、何年振りだろう。 古い手記なんて読んだのが悪かったのだろうか。 「ワイズモン!…ねぇワイズモン!……いないの?」 私はベッドから起き、戸棚の引き出しからエチゾラムを取り出した。 数錠を一気に口に含み、水道水で流し込む。 「はぁ‥っ…はぁ…」 少しは落ち着いたかしら。 こんな使い方をしてはいけないのはわかっているけれども、肉体を強化しているせいで正規の量じゃ全く効かない。 身体を引き摺るようにしてベッドに戻る。 …私は常に好奇心の奴隷だ。ほむらを作った時もそうだった。 後悔なんて一度もしたことはない。どの犠牲も素晴らしいデータをもたらし、私の実験に生かされている。 ただ、罪悪感も確かに私の心のあちこちに積み上がっていた。 逃れることの出来ない罪。私は大罪人だ。 ただ、それは私の探究をやめさせる理由になど全くならなかった。 それに、今の私の研究が実れば、全て無かった事にできる。 そう自分に言い聞かせるうち、私はいつの間にか眠っていた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 幸村 愛(さちむら あい) 鏡花と小学校時代から仲の良かった少女。 裏表のないはつらつとした性格で、体が弱かった小学校時代の鏡花にも明るく接していた。 将来の夢はお嫁さんになることで、恋多き少女のようだ。 人付き合いを嫌う傾向のある鏡花にとって、数少ない親友と言える関係性の人間だった。 八重樫 大輔(やえがし だいすけ) 高校で鏡花達と仲良くなった少年。通称ダイ。 1年生の時に愛の隣の席であり、それがきっかけで鏡花とも知り合った。 理系科目が苦手で、鏡花によく勉強を教えてもらっていた。 鏡花の家には何回か招かれたことがあったが、今回初めて鏡花の自室へと案内された。 初めて訪れる異性の部屋。興奮を隠しきれない彼の目に、異様な光景が目に入る。 赤黒い錬成陣、大量の実験器具、何語かもわからぬ書物。 それに困惑し固まる彼の後頭部を、鏡花は思いっきり強打し気絶させた。 ━━━━━━━━━ エチゾラム(実在します) チエノトリアゾロジアゼピン系の抗不安薬、睡眠導入剤。 薬理的な半減期が短いため連用後の離脱症状が出やすく、依存しやすい。 過剰投与により植物状態を招いた例が存在する。