「わーい!今日のお昼はにんじんハンバーグだもんね!」  なんでもない昼休み、ランチタイム。食欲旺盛なボクらウマ娘にとって、カフェテリアでの昼食は大きな楽しみ。今回はデザートだって頂いちゃうぞ。厳しい基準に準ずる味、量、栄養バランス……ここは学園が大きく予算を割いている場所だって聞いたっけ。  ラッキー、今日は混んでないや!さっそく着席。もうお腹ぺこぺこだよ。 「いっただっきま――」 「ちょぉっとまった――!」  しかし、そう素直には行かない……カフェテリアに待ったの声が、だいぶ聞き覚えのある声が響いた。 「どしたのマヤノ?」  どこからともなく颯爽と現れるボクのルームメイト。自身に満ちた佇まいだ。何、なにが起きるの? 「ふっふっふっ……知ってたテイオーちゃん?帝王みたいな偉い人はね、いつも暗殺の危険と隣り合わせだったんだよ……」  腕を組み、仁王立ちで誇らしげに説明を始めるマヤノ。急に歴史の話をするようなキャラじゃないと思うんだけどな……?とにかく、話を聞くしかなさそうだった。 「そりゃ、知ってるけど……」 「だから食べ物にも『毒』が盛られてないかチェックするためにね、『毒見係』がいたんだよ……!」  話が見えてこないぞ。ボクが帝王様なのはそうとして、毒の心配?今までもこれからもそんな物に縁があるとは思わないんだけど。  いやでも、マヤノのこの話しぶりは……。 「じゃあつまりマヤノが……毒見を?」 「そう!今日のマヤ、テイオーちゃん専属の毒見係で~す」  言うが早いか、隣に座ってフォークを手に取るマヤノ。 「いいって、こんな所で毒殺されるわけないじゃん!」  一緒に食べたいならそう言えばいいじゃん。と、思ったけど、マヤノのランチは見当たらない。もしやこの子、本気だろうか? 「遠慮しないの!ほら、見ててねテイオーちゃん……えと、まずはにんじんハンバーグから」  いきなりメインディッシュに取り掛かるマヤノ。いや、そこは野菜からでしょ普通。 「ん~、おいし~♡」  かわいい。ほっぺを抑えて味わってる仕草が……じゃなかった!なんにも説明無しで続くのこれ!?ボクの困惑は他所に、ハンバーグは飲み込まれていく。ボクもお腹すいたんだけどな。 「……うん。ないね、毒!」  そりゃそうだ。 「こういうのって、食べたらしばらく待つんじゃなかった?」 「マヤのポイズンレーダーに反応しなかったからいーの!」  そんなめちゃくちゃな……。 「これで安心だねっ」 「最初から安心だったけどね?」  勝手に満足げなマヤノは、フォークを置くと少し体を寄せてくる。 「それじゃあ。ん……」  様子が変だ、なんて言葉が脳内で形になる間もなく。本当にスタートからの勢いだけで。前のめりなマヤノが、目を閉じちゃうくらい近くに来て……。  ちゅっ。  柔らかいのと、デミグラスソースの味がふわっと広がる。 「なっなっ、なにいきなり!?」  この状況で、こんな時に。予測不可能なちゅーがボクを襲う。思わず、口を抑えた。 「え〜?お味だけでも一足先に伝えてあげようかな〜って」  もじもじしてみせるマヤノ。かわいい……ってか、食べた後にすぐって、毒見係としてどうなのさ……。 「ど、毒がないなら普通に食べさせてよ……」 「だーめっ。全部マヤがチェックするまではダメなの」  こうなると強情なのがマヤノだ。抵抗は無駄。 「つぎはご飯!……うん、これも毒なし」  ドヤッ、として言ってるけど当たり前だからね? 「じゃあテイオーちゃん」 「やっぱまたするの……?」 「もちろん」 「ねぇ、何もここでしなくても――んむっ」  遠慮なく、再び奪われるボクの唇。星の〇ービィじゃないんだから。ボクだって恥ずかしくないわけじゃないんだぞ。ほら、周りの子たちがヒソヒソ話してる。もう注目の的だよ……。 「サラダも大丈夫だねっ。それでは〜」 「あのさマヤノ……」 「なあに?イヤ?」  あれ、もしかして怒ってる? 「イヤじゃないけど……」 「じゃあいいよね」  そりゃイヤじゃないけどさ。ああ、もうどうにでもなれ。  どうしてこうなったんだろう……そういえば、最近ボクも忙しかった。こういう事はあんまりできてなかったし、寂しさでオカシクなっちゃったのかな?ムードもへったくれもない三回目のさなかでも、状況を理解しようと頭が動く。だとしたらボクが悪い……かも。 「それじゃ、次はプリンを……」  待った。それだけは絶対にいけない。  押されっぱなしだったボクの中で、何かが立ち上がる。みそ汁より先にプリンが悪いとは言わない。ただ、ボクのプリンに手出しは、それだけはマヤノといえど見過ごせない。  柔らかなプリンに進行する、スプーン含むマヤノの手。手首をつかんで止め、顎に指を添えてこっちを向かせる。 「わかった、わかったよ、マヤノ」   「何が」とか「わかってない」とか言われる前に、じっと目を見据えて、これから起きることを教える。こうすると動かなくなるのは、もう覚えた。  そしてペロっとして、ちゅっとして……まあその、今日一番の派手で深いやつをした。周りの子たちから黄色い声が上がったのは、気のせいだと思いたい。 「だから、続きは部屋に戻ったら。ね?」  つう、と糸を引いて離れる唇。次にボクが見たのは、魂が抜けたようにフリーズしたマヤノで。 「は、はいぃ……」  今起きたことが頭の中でループしてるに違いない。じわ〜っと顔に赤みが差して、こっからでも熱がわかりそうなほどだった。  力が抜けてテーブルに突っ伏すマヤノを横に、ボクはようやく平穏にランチを頂くことができた。まあ、視線を感じる中での食事になったけど。  ゴメンね、マヤノ。恋はダービーだとか、戦争だとか言われるけど。腹が減っては戦はできぬってことで許してね。あ、食べ終わったらこの子をどうしよ。運ぶ……しかないよね。  その後、「カフェテリアでいちゃつく人たちがいて困る」とか「もっといちゃつけ」とか苦情がカフェテリアに殺到したとか、してないとか。