「オイナ、少しリアルワールドに行ってくる。いい子にしてるんだぞ。」 ホムコールモンは背を屈め、少女の頭を右手で優しく撫でた。 「うん!早く帰ってきてねホム!」 「ああ、善処するよ。…開け。」 配下は将軍の命令を受け、手元の装置を操作した。周囲の空間が歪み、デジタルゲートが出現する。 「いってらっしゃーい!」 少女が手を振るのを一瞥してから、彼はゲートの中へ消えていった。 ━━━━━━━━━ 「ヤバい!遅刻する!!」 俺は朝っぱらから焦っていた。まだ8月も中旬だと言うのに。 「あれ〜?ツカサ〜。こっちには夏休みってのがあるんじゃなかったのか〜?」 気の抜けたメルヴァモンの声。聞き慣れた物ではあるが、この状況だと少しイラつく。 「補習なんだよ!」 そう、俺は補習を食らっていた。 元々授業中に居眠りをしたりで授業態度の評価が悪かったことに加え、デジタルワールドにいること数ヶ月。 出席日数まで足りなくなってはもう大人しく補習を受けるしかない。 「学校か⁉︎アタシも連れていってくれよ!」 「ダメだ!クロスローダーの中で大人しくしてるならともかく、お前外に出たがるだろ…」 彼女は、と言うかデジモンはこちらの世界では目立ちすぎる。 「え〜…」 「ダーメ!そもそも俺がなんでこんな遅刻しそうになってると思ってんだよ…!」 「寝坊したからだろ?」 「じゃあ寝坊の原因は。」 「えっと…それは…その…昨日アタシが誘ったからで……ごめん」 そう。昨日の夜、彼女はいつものように俺を”誘って”きた。 そしてまたいつものように、それは夜明け近くまで続いた。 誘いに乗った俺にも多少責任があるとはいえ…ラブポイズンなんて食らったら我慢できるわけがない。 「いや…責める気はないんだけど…とにかく!俺もう行くからな!」 俺は家を出た。 ━━━━━━━━━ 「ようヒョーガモン。元気にやってるか?」 リアルワールド某所、イレイザー軍が保有する隠れ家の一つにホムコールモンはいた。 「ああ、ホムコールモン様。お久しぶりです。俺みたいな氷雪型にこっちは大変ですよー…」 「ああ、だろうな。…お前、依頼を出してたな?」 「あー…っと…まずかったですかね…?へへ…」 「まず一つ、経費で落とそうとするのはやめろ。それからもう一つ…怪しいプラグインを使うな。」 ホムコールモンの背から、何かが現れる。 「ナノモン、奴のファイル整合性チェックだ。」 ナノモンは彼の体にくっつき、ファイルの解析を始めた。 結果はほんの数秒ほどで出る。 「感染性盗聴プラグインあり。危険。」 「とうちょ…え?」 ヒョーガモンは困惑を隠せない様子だった。 「やはりな…N99プラグインを使っておいてよかった。」 「一体…どう言う…?」 「お前に渡した情報が外部に流れている兆候があった。お前が裏切ったとは考えたくなかったが…お前の行動記録を読んでいてちょうど引っかかるところがあったんでな。」 「な…なるほど…」 「ナノモン、プラグインの消去を開始しろ。」 「エラー。デジコアとの融合を検知。消去不能。」 「そうか…ヒョーガモン。今までありがとうな。」 ホムコールモンはそう言い、右手に刀を生成した。 ━━━━━━━━━ 電車に乗って数駅、そこから少し歩くと、俺の通っている高校がある。 嫌と言うほど通っている経路だし、実際嫌だ。 どの駅からでも微妙に近くない。線路沿いの道だから誰かと帰れば頻繁に会話は遮られるし、太陽を遮るものが少ないから夏場は地獄だ。 今乗っている電車のエアコンがよく効いているのが唯一の救いだ。 時計を見ると、走っても間に合うか少し怪しい時間。 俺は学校に向かって走り出した。 しかし、そういう時に限ってトラブルは起きる。 「あぁぁぁぁ!!!…ぐっ…!」 突如、目の前に氷の鬼が吹き飛ばされてきた。 「お…おい!大丈夫か!?」 見たところ、デジモンのようだ。 「人間…か…逃げろ…!彼には誰も勝てない…!」 そいつが吹き飛ばされてきた方向から、またもや誰かが現れた。 「おい…逃げるなよ。命令に従い、時には命だって捨てる。それが忠誠と言うものだろうヒョーガモン。」 現れたのは、渦を巻いた角が特徴的な騎士のようなデジモンだった。 「ええ…確かに俺は忠誠を誓いました…戦いで死ぬ覚悟もあります…!ですが…!こんな死に方はゴメンです…!」 ヒョーガモンと呼ばれていたデジモンに刀が振り下ろされようとしている。 「待てよ!」 体が勝手に動いた。騎士の右腕を肩で受け止める。両足がアスファルトにめり込んだ。 「話聞いてる限りじゃ…どう考えてもアンタら善人じゃなさそうだな!」 「邪魔をするな人間。いや…本当に人間か?まあいい!」 「うわぁっ!?」 払い除けられ、勢いのまま俺は生垣に突っ込んだ。 「いってえ…」 俺は立ち上がりながら木の葉を払う。幸いどこの骨も折れなかったようだ。というかかすり傷ひとつない。俺こんなに強かったっけ? 「…さようなら、ヒョーガモン。」 刀が一振りされると、その傷口に沿って氷が広がってゆき全身を包んだ。奴はその氷を粉砕する。 「お前…殺したのか…」 「いや?デジモンはいずれ卵へ還る。…お前、私と戦うつもりか?」 「俺一人だってな…殴り合いぐらいはできんだよ!」 俺は拳を握りしめ、こう思った。 あー…メルヴァモン連れてきとけばよかった… 「悪いが私はまだ仕事中なんだ。今度会ったら手合わせ願うよ。」 そう言って奴は両手を合わせた。刀が急激に溶け出し、煙…と言うよりは湯気のようなものを出す。氷だったのかあれ⁉︎ それが晴れると、奴はいなくなっていた。 「はぁ…こりゃもう完全に遅刻だな」 もう歩いて行くことにした。 あーあ…キレる生徒指導の顔が眼に浮かぶ… ━━━━━━━━━ 「君これで遅刻何回目!」 「えっと…5回…?」 「6回目!」 遅刻したバイトのシューシューモンを叱るバーガモンを見て、ふいに高校のことを少し思い出した。 生徒指導には結構怒られたっけなー…正直あそこに戻ろうとは…思わないな。線路沿いだから誰かと帰ってても話しにくいし。 「ねーえ、そのぐらいにしなよバーガモン。それよりさ…もっと楽しい話しようよ!」 私は帳簿を取り出す。 プールに出店した時の特別メニュー(ちょっとだけ高い)に加え、埋蔵金の時の特製ドリル。 特にドリルの方はアスタモンが用意した販路を安く利用できたこともあり、クラフトモン達に支払う謝礼や原材料費を差し引いても大儲けだった。 まさか95:5を飲むなんてね…だいぶふっかけたつもりだったんだけど… 「これだけあればさ…2店舗目とかさ、出せるんじゃないかな!」 盛り上がる私たち。 そうだ!楽音にも次の店舗どんな感じにするか意見出してもらおう! そう思って彼女にメッセージを送ったが、しばらく既読はつかなかった。 何してるんだろう? ━━━━━━━━━ 「南雲楽音さん、診察室2番にお入りください。」 アナウンスに従って部屋に入り、椅子に腰掛ける。 「さて、今日は定期の検診だったね。テチス、楽音ちゃんの検査結果出して。」 「こちらです、先生。」 「ふむ…」 エル先生は資料をぺらぺらとめくっている。 「楽音ちゃん、バングルのログを見る限り、結構な回数投与を中断しているみたいだね。何があったの?」 「えっと…それは…」 戦うため。なんて言ったら怒られそうで、言い出せない。 「もしかしたら…戦うため…だったりしますか?」 「えっ…テチスさん…どうしてそれを…」 「ああ…やっぱりそうなんですね。」 「どう言うことだテチス?」 テチスさんがどこからか分厚い紙の束を持ってくる。 「北条先生、デジヴァイスバングルの説明書全部読んでないんですか?」 「あー…概要は読んだんだけど…」 「432ページのここ、読んでみてください。」 「なになに…”投与の一時中断機能を使用した場合、部分的なデジモン化が発生する可能性がある。これは戦闘に利用できる可能性があるが、危険。”…ユウのやつなんでわざわざそんなこと書いたんだよ…」 「…そうです…私、その力で戦いました。何度も、何度も。」 力を解放するたび、全身の細胞のひとつひとつが私の殺意を煽る。目の前のものを殺せと頭の中に声が響く。 血塗られた力だけど、使わなければ戦うことはできない。今の私には、力が必要だ。一人で戦える力が。 「そう…か…君のその行為を褒めることはできない。医師としても、大人としても。でも…君は複雑な人生を生きてる。だから一概にやめろと言うのは解決にならないだろう。だから…つまりー…」 言い淀む先生。 「何かあったら私たちにもお手伝いさせてください!これでも私完全体ですから!ちゃんと戦えるんですよ!」 そういう彼女はとても頼もしげに見えた。 「それと…リフレッシュプログラムが投与された記録があるね。何があったの?」 きっとこの前ネオデスモンと戦った時のことだ。 「…思い出せないんです。多分あの時っていうのはわかるんですけど…全く記憶がなくて…その時一緒にいた人から聞く限り…アルケニモンとも違う何かになってたって…」 「ふむ…ここに関してはユウに調べておいてもらうよ。それ以外で何かおかしなところだったりはある?」 「……大丈夫です」 私はそうとだけ答えた。やっぱり、こんなに良い人たちを私の戦いには巻き込めない。 ━━━━━━━━━ 「テチス、これで今日終わり?」 「ええ、デジ科の予約は楽音ちゃんが最後です。」 「じゃあ…こっち片付けて上の病院いこっか」 先生はあくび混じりに言った。 私は引っ張り出してきた資料を棚に戻しながら、先生にこう切り出した。 「あ…あの!…北条先生にお子さんがいるって噂…本当なんですか?」 それを聞いた先生は一瞬驚いたような顔をしてから、笑い出した。 「テチス、それ多分君のことだよ。」 「えっ!?」 「ほら、休みの日はちっちゃくなってるだろ?それが子供と勘違いされたんだよ。」 よかった〜〜!!!!!返答次第じゃウチ再起不能になってたな… そんな私の心も知らずに、まだ奥さんどころか彼女もいないのにな〜と彼は笑っていた。 「…じゃあ!子供…好きですか?いやその楽音ちゃんとかカオルちゃんとか最近よく会うのでどうなのかなーと思って…」 「うーん…まあ嫌いじゃないかなぁ」 やった!その返答を聞いてそう思ったけど、冷静になると意味不明だ。 デジモンと人間の間に子供は生まれないし…そもそも私と先生はそういう関係でもないし…そもそも名前で呼ぶことも恥ずかしくてできてないし… 「そうださっきのデータさっさとユウに送っとくか…」 私がぐるぐると考え込んでいることにも気づかず、先生は仕事を進めていた。 私の思いに気づいて欲しいような…欲しくないような… ━━━━━━━━━ 「お父さーん、この無のスピリットってなんなの?」 数日前、楽音お姉ちゃんがお父さんのところに持ち込んだ物。不気味に紫の光を放つそれは、研究室で厳重に保管されていた。 「僕から説明してあげたいんだけどね…今ちょっとエルからデータが送られてきちゃって…ルクスモン、カオルに説明してあげてくれないか?」 私が帰ってきてから、お父さんはちゃんと私に向き合ってくれるようになった。とは言っても、相変わらずこういう態度のこともある。まあ…多少は仕方ないよね。 「教授…そういうのやめた方がいいって前にも言いましたよね?」 「すまない…これは本当に緊急なんだ…」 「いいよルクスモン。お父さんそういう人だもん。」 ルクスモンは私の言葉を聞いて、少し笑った。 「大人になったねカオル。」 「当たり前でしょ、私もう14歳だよ?」 そう言ったら、ルクスモンはもっと笑った。 「ちょっとー!私何か変なこと言ったー?」 「ごめんごめん、で…スピリットの話だったよね。」 「そうそう、あんな厳重にしまわれてるけどなんなの?」 「スピリットは十闘士と呼ばれるデジモンの力が宿った物なんだけど…アレはちょっと事情が違って、十闘士のデジモンそのものが封じられているようなんだ。」 「へぇー…じゃあ普通のスピリットより力強かったりするのかな?」 「それを今調べてるんだ。現状わかってるのは、スピリットエボリューションに使うことは恐らくできないという事ぐらいだよ…」 「なにそれ?」 「スピリットを使うことで人間をデジモンに変身させる事だよ。」 それってなんだか、ある人を思い出す。 「なんか…カイみたいだね。」 私を…私たちの事を助けてくれた、鎧を纏って戦う剣士。きっとカイは、今も人々を守ってるんだろうな。 ━━━━━━━━━ 「よし、ゲートの封印完了。」 刀を納めながら、俺は呟く。 「これでいくつ目だガルバ」 「14ヶ所目だね…」 オノゴロ市。この街に来てまだ1週間も経っていないが、その間にホラーを2体斬り、ゲートを14ヶ所封印した。 ホラーなんて一月に一体出れば多い方だ。明らかに何かが起きている。 「この街に陰我が多すぎるんだ。きっと、何か良くないことが起きてる。」 ビルの隙間の路地裏から大通りに出ながら、俺はあたりを見回した。 「どうするのカイ?」 「人を守る。それが俺たちの使命だからな。…ガルバ、あの女…何か感じないか。」 スーツの男二人と車に乗り込もうとしている女、何か匂う。 「なんかやな感じがする…」 「お前もか。彼女、とても大きな闇を…陰我を持ってる。」 確認してみた方がいいだろうな。俺は懐から魔導火を取り出した。 このライターには魔界の炎が蓄えられており、ホラーを見分けることができる。 「お姉さんちょっとこれ、見ていただけますか?」 「一体誰よあなた…」 彼女の目には、何も変化が現れなかった。つまり人間だ。 「ちょっと君、何をしている。」 スーツ姿の男は俺を取り押さえようとしてくる。どうやら彼女のボディガードのようだ。 「おっと失礼、人違いでした」 手を振り解き、俺はすぐさまその場を離れた。 「八重練さん…なんなんですかね今の人は…」 「どうだっていい。それより早く車を出しなさい」 彼女らは高そうな車で走り去っていった。 「今の人…ホラーじゃなかったね。」 「ああ…あれだけの陰我だ…悪人かもしれないな。」 「それでも守るんだよね?」 「ああ、それこそが守りし者だ。」 ━━━━━━━━━ 今日は良いことがない。まず会議のために本社までわざわざ出向かされた。こんな形式上の会議、リモートでやったって変わらないだろうに… 一応次席の立場にいる以上、こういうことは多々ある。全く…本当に嫌になるわね。 しかも、研究手記を一冊間違えて倉庫に送ってしまったらしい。 今すぐ必要なのに…というわけで、私はわざわざ車でそこに向かう羽目になっていた。 「はぁ…今日は本当に嫌な日ね…」 妙な男にも絡まれるし。 「だいぶ不機嫌なようだね鏡花。」 「わかってるなら、もうちょっと話しかける内容は考えなさいワイズモン。」 「すまない。今だに私は人間のことを理解しきれていない。」 「あなたは本当、昔から変わらないわね…」 数十分後、私はオノゴロ島から出て少しした辺りに居た。 そこには私が所有する古い建物がある。 ここは元々研究に使っていた場所だが、今では完全に物置になっている。 セキュリティを解除しフェンスを開く。 建物内に入るためにも、もう一段セキュリティを用意している。 「認証コードHermes1、出海鏡花」 わずかな駆動音と共に、ドアのロックが解除された。 私がこの建物を現役で使っていた頃からのシステムだから新しくはないが、それでも頼りにはなる。 さて…手記はどの箱にしまったのだったか…とにかく手当たり次第に箱を開けてみる。 「ワイズモンも手伝って、私一人じゃ見つかりそうにないわ…」 ボディガードくん達にもついてきて貰えばよかったわね… 「ふむ…なかなか懐かしいものが多いね。」 この箱は…高強度のデジタルデータを破砕するための武器ね… こっちは…ブラストモンのクリスタルか… 「鏡花、これではないか?」 「ああ…それ一番古い奴じゃないの。それじゃないのよねー…でも同じ箱に入ってるはずね…あった!」 ワイズモンが見つけたのは、私の手記の一冊目。それと同じ箱に、目当ての手記もあった。肉体強化に関するものだ。 自分の体を使った貴重なデータ…これをまた使う時が来た。 「あら…私こんなことも書いてたのね。」 気まぐれに一冊目の手記も読み返す。 …まだ手記と日記の区別をつけていなかった頃の文章だ。今見ると恥ずかしい。私は手記の一ページ目を半分、破り取った。 「何か挟まっていたぞ鏡花…これは…君と…子供の頃のほむらか?どうしてこんな写真が」 彼にそれを渡すと、ページの隙間から一枚の写真が滑り落ちた。そういえばそこに挟んだような気がする。 「ああ…ワイズモンは知らないか。これは昔一度だけほむらに会った時の写真よ。この時ほむらは造りだされてから5年…成長速度は人間とほぼ同じだし…この時のことなんて覚えてないわよ。」 覚えていないだろうし、覚えていない方が、きっと幸せだ。 ━━━━━━━━━ 私のマンションの近くには、小さな公園がある。 「ママー!お山作った!」 「わぁ、すごいわね! 高くて立派なお山!」 親子が仲良く遊んでいる声が聞こえる。 私には物心ついた頃から本当の両親がいなかったし、最初からそのことを知らされて生きてきた。 子供の頃はそのことで悩んだり、ああ言うふうに仲の良さそうな親子を見て泣いたこともあった。 でも、もう受け入れるしかないことを私はわかってる。 顔も知らないし、そもそも生きてるのかどうかだってわからない人のことをいつまでも考えてても仕方ないよね。 「ねえシャウトモン、デジモンって親がいたりするの?」 「んー…俺たちデジモンは人間と違って直接生まれるわけじゃねえからなぁ…でも、親子みてーな関係作ってるデジモンはいたりすんな。」 デジヴァイスのおかげで、シャウトモンを連れて歩きやすくなった。透明化して、他の人に見えないようにできる。 とは言っても家にいてもらった方がいい時もあるから、こうやって一緒に出かける頻度はそんなに変わらなかった。 今日一緒に出掛けているのは、彼が今スランプだからだ。新曲が思い浮かばないらしい。 「うーん…親ねぇ…」 最近はずっとこの調子で悩んでいる。 午後5時を知らせるチャイムが鳴り、親子は帰り支度を始めていた。 「シャウトモン、そろそろ帰ろ」 「んー…ああ…そうだな」 ━━━━━━━━━ 「あれ…もうこんな時間…かぁ」 眠れなかった。 時計は午前5時を指している。ふと、その横にあるカレンダーに目が行く。 9月…私が村を壊してからもう半年も経った。寝ようとして目を閉じると、いつもあの日のことが頭をよぎって眠れない。 「………お力をお貸しください」 だから、私はいつもこうしてアプリの力で眠っていた。 ────ト…! ミコ…ト…!! 「………ここって⁉︎」 地鳴りのような唸り声で目が覚める。燃え盛る家々、瓦礫から聞こえる呻き声。私は、あの日の村の中にいた。 「ミコト…!」 上から声がする。見上げると、あの日私が解き放ったモノ…ぺおる様がいた。 「我はベルフェモン。憤怒を司りし魔王…!」 ベルフェモン…?お父さんが言っていた、ぺおる様はデジモンだっていうの…本当だったんだ。 「ここまで力を取り戻すのに半年も掛かってしまった。ミコト…我に貴様の身体を寄越せ。共にこの世界を壊そう」 私の…体を… 「貴様はあの忌まわしき村を破壊したいと願い、我を解き放った。故に我は破壊を齎した。貴様はまだ破壊を求めている。この世界全てを破壊したいと願っている。」 「そ…そんなこと…ない…!」 「ならば何故未だこの村に心を囚われている?」 「…え?」 「此処は貴様の精神世界。この光景は貴様が最も強く願っている光景なのだ。貴様は未だ、あの破壊と解放の日に心惹かれている!」 そんなこと…ない…そんなことない…そんなことない!! ━━━━━━━━━ 「ふむ…今の物語、カレンダーから見るにカレントタイムラインに近いな…ベルフェモンX…使えるかもしれませんね…」 影の中、ネオデスモンはたった今見えた物語を舌の上で転がすが如く分析していた。 「クソ…干渉さえできれば…!」 しかしいくら策を立てたところで、コアが復活していない彼は無力だった。 配下を動かすにしても、彼の軍は戦闘力を重視して構成されており、自ら考え行動できるものは多くなかった。 「まあ…気長に構えましょうか…」 彼はダークネスローダーが生み出している光へと近づいた。 「スカルサタモン、今から私が言うものを拠点に持ってきなさい。」 彼は何やら、暇つぶしを思いついたようだった。 ━━━━━━━━━ N99プラグイン 感染性のプログラムから身を守るために開発されたプラグイン。使用することで著しく感染率を下げることが可能。 亜種として、既に感染しているデジモンに有効化することで封じ込めることができる、サージカルプラグインも存在する。 ───────── 229 吉村司 メルヴァモンと何度も交わったことにより肉体のデータが変質、デジモンと混ざり合っているため身体能力がやたら高くなった。 230 久亜アイナ DWで経営に頭角を表した。目指せチェーン展開。 269 流紋カイ ホラーを追ってオノゴロ島へ辿り着いた。魔戒騎士なので五行の面々とはもし会っても戦えない。 292 南雲楽音 ネオデスモンを倒して、再び彼が襲い来る日までやるべきことがなくなった。 定期的に体のデータをスキャンしているが、やはり能力解放には悪影響が多少あるようだ。 409 北条鋭流 今日もデジモン科の診察中。テチスから向けられている感情には全く気付いていない。 426 出海ほむら 愛を知らずに育ったが故に愛を求め爛れた生活を送っていたが、ブラックシャウトモンのおかげか最近は多少まともな暮らしをしている。 とはいえ、親や愛を欲する心はいまだに彼女の中に深くこびりついている。 427 神月カオル DWでカイと暮らしていた日々の記憶が彼女の背中を押し、少しづつ周りに馴染めるようになってきた。 暗い性格も改善されつつある。 442 八重練・H・鏡華 実は過去にほむらと会ったことがあるようだ。彼女は覚えていないだろうと思っているが、果たして…? 462 眠良瀬ミコト ベルフェモンは半年の時を経て、彼女の精神に干渉できるほどの力を取り戻した。 まだ、ミコトはベルフェモンの誘いに乗ってはいない。 D210 ネオデスモン 影の中でコアの再生を待っている。暇つぶしで外に干渉できない歯痒さを誤魔化そうとしている。 D240 ホムコールモン RW出張中。偽装用テクスチャを使用している場合、オッドアイで銀髪の大柄な男になる。 そのため、割と目立つ。 D244 エンシェントグリーモン 無のスピリットの一部が神月研究室で調査中。 果たして復活する時は来るのか?