「確かこの辺のはずだが…」 厚い雲が空を覆い隠す闇夜の空をメガシードラモンが駆ける。 ネオデスジェネラル水竜軍団、彼が居るその集団はトップの出奔を機に荒れに荒れていた。 腹心が後を継いだかと思えば、水竜らしくないと”水龍軍団”を名乗りだすし、自分に従わない者を独断で処刑して回るときた。 そんな混乱極まる組織を見限り、彼の様に独断で動くメンバーも多い、武勲をあげ自分こそがリーダーに相応しいと主張しようというのだ。 「おっ、あの辺か…選ばれし子供たちが集まるっていうのは」 山中に煌めく人工の灯り、そこに人間が集まっているという噂は聞いた事がある。だが、それを確かめた者はいない。 余程の強者が守護しているのか、あるいはただの逃亡か…全てはこれから判明するのだろう。 メガシードラモンは目標を定めて夜の闇を直進する。 「やぁ、お客さんかい?予約はしてあるかな?」 闇夜を切り裂きデジモンが飛来する、星の姿をしたスーパースターモンは自ら光を纏い、暗い中で存在をこれでもかと主張している。 星の形をした空飛ぶ足場に立って腕を組む、その姿は自信に満ちておりある種の威圧感すらあった。 予約という事は従業員だろうか、細かいことは気にする必要もあるまい。メガシードラモンは担当直入に切り返す。 「そんなものは知らん、俺はネオデスジェネラルの水竜軍団の一員として、武勲を上げ将軍の地位を得るのだ!  その一つとしてお前たちも滅ぼしてやろう。これは名誉あることだぞ?」 「ふむ、水竜軍団の噂なら聞いた事あるな…それならそういう話はお断りだ、とっとと尻尾を巻いて帰るんだね」 「ぬかせ!サンダージャベリン!」 交渉決裂と同時に雷撃が放たれる。しかし、それは星の戦士には届かない。 それどころか光の奔流が轟く電撃を押し返し飲み込む。 「シャインレーザー!!」 「何だと!?何処にそんなパワーが…ぐおおぉ!?」 電気エネルギーを取り込んだ光の奔流がメガシードラモンの顔面を焼き払う。 それでも撃ち落とすには足りない、それどころか予想外の反撃を受けたことに見て分かるほど怒りに震えている。 だとしてもスーパースターモンは臆さない。 「ったく、無駄に頑丈だな…言っておくけど、ここから下に見える景色の全部。  それが僕の大切な…命を懸けて守るものだ。だから、僕は絶対に負けない!」 「戯れ言を!ならば地上全てを焼き払ってくれるわ!!」 怒号、力を求める簒奪者は力の限り咆哮を轟かせる。 それが出来ると確信していたのか、あるいは偶然か。怒りに燃える海竜は進化の光を放つ。 ――― メガシードラモン 究極進化 ――― ――― メタルシードラモン ――― 「また面倒な…蒲焼に出来なくなったじゃねぇか」 「ほざけ!アルティメットストリーム!!」 「ガードチャージフィールド!」 進化の余韻も無く鋼の竜が砲撃を放ち、星の戦士がバリアを展開し受け止める。 「消し飛べぇ!!!」 「させるかぁ!!!」 戦う者同士の意地のぶつかり合い、結果は星の戦士に軍配が上がった。それでも戦いは止まらない。 砲撃が途切れる瞬間を見逃さず星形の乗り物がエネルギーを吹き出し突撃を敢行する。 「歯を食いしばれ!セイントナックル!!」 バキン 光のエネルギーを纏う拳が竜の顎を捉え鋼の体が剥がれ落ちる音がする。 殴られた衝撃か、鋼の体が砕かれた驚きか、あるいは両方か――メタルシードラモンの思考が鈍る。 止まるな、怯むな、俺は勝って将軍に…将軍になってどうする? いや、あいつ俺を殴れる程大きかったか? 「うおおぉ!」 スーパースターモンは止まらず拳を繰り出し続ける。一撃一撃繰り出すごとに徐々に巨大化しながら。 拳で打ち上げ、追い付いて更に殴りつけ、鋼の竜の鱗を剥ぎながら空へ――雲の上へと運んでいく。 「がはっ…何故だ!?何故クロンデジゾイドのボディが砕かれる!?完全体なんかに…!俺は究極体だぞ!!」 「ハッ!言ったはずだぞ、僕は地上を守るってな!僕"達"はその為に鍛え続けてるんだ、僕の拳に砕けない物は無い!  この期に及んで目先の物しか見えてないお前には分からないだろうさ!それがお前の…『孤独』の限界だ!!」 スーパースターモンの拳が纏う光が更に出力を上げる、狙うは一点。ワープスターを加速させトドメの一撃を放つ。 「いくぜ、全力全開・セイントナックル!!!!」 幾度も多大なエネルギーを叩き込まれたボディはその奔流により爆ぜ、断末魔を上げる事も許されないままデジタマへと還った。 その余波が厚い雲を吹き飛ばし、満月から降り注ぐ光が彼の帰る宿のある山を照らす。 「今度は友達とおいで、美味しいものを用意して待ってるよ…っと、全部防いだと思うけど被害出てないだろうな?」 勝利の余韻もそこそこに地上戻り見回りを再開する。 いつも通りの大きさに体を戻し、音を出さないよう速度を落として宿の周囲をぐるっと一周して異常が無い事を確認し、そのまま山中のデジモン達の寝床をチェックして回る。 その夜の見回りはいつもより念入りになった。 ――― 深夜の室内から満月を見上げる姿が二つ。 「ねぇメアリー」 「なぁに、ファントモン?」 「ボク、ここに居る間は大人しくしてようと思う、あれにケンカ売るのはちょっと…」 「奇遇ね、私もそう思ってた。まぁ、調査報告書のネタは増えたから良かったんじゃない?」 「えぇ…あんなのどう書けってのさ…」 「そりゃあ…『完全体にて究極体を撃退する従業員デジモンを確認。  また、複数のデジモンがテイマーの助力無しに進化・退化を操る姿もあり。  宿泊の際は不用意に刺激しないよう注意されたし』とか?」 「今のすっごくOLっぽいよ!」 「やめてよ、そんなガラじゃないわ。気付かれて不審がられる前に寝るわよ。」 「はぁい、おやすみ〜」 ―――