深夜の山中をリベリモン率いるデジモンの集団が駆ける。空は厚い雲に覆われ月明かりが届かず、襲撃者達の姿を闇が隠していた。 先頭を走るリーダーのリベリモン、それを追うナンバー2のオーガモンの後を数匹のゴブリモンが必死について行く。 「なぁ、この先に旨いモノが沢山あるって本当なのか?」 「あぁ、何でもニンゲンが集まって寝泊りする場所らしい。食い物以外も便利なアイテムを溜め込んでるって話だ」 あるゴブリモンの問いにオーガモンが走りながら答える。 豊富な食糧と寝床、戦いに生きるデジモン達にとってそれらは金銀財宝よりも価値あるものだ。欲しい物は力で奪う、それが彼らの流儀であった。 獲物を求め木々の間をすり抜け闇夜を駆け抜ける、登りやすい道に沿って照明が設置されているが、わざわざ見付かり易いリスクを追う程愚かではない。 戦力はギリギリまで温存し、寝込みを襲い一気に制圧して奪い尽くす。ただそれだけの簡単な仕事のつもりだった、その瞬間までは。 「上だ!散れ!!」 リベリモンが叫ぶのと同時に舎弟たちが飛び退き、先刻まで彼らのいた場所にデジモンが現れた。 否、正しくは頭上から飛び掛かったデジモンが標的の居たはずの地面に武器を突き立てていたのだ。 「おっとぉ…案外、勘が良いじゃんか」 「今のうちだ、囲め!」 余裕そうに武器を地面から引き抜くデジモンをリベリモンの合図でゴブリモン達が取り囲み臨戦態勢で殺気を向ける。 それをまるで気にする素振りも無く、彼は火の玉をあるいは人魂を漂わせて自身を照らし出す。 「まぁそう焦るなよ…ボクはファントモン、この先にある宿の…まぁ、警備員みたいなもんさ。どう?雰囲気出てるでしょう?  結構練習したんだぜ?コレ。っと、無駄話してる場合じゃなかったね。キミ達は宿泊客って感じじゃなさそうだけど何の用だい?」 人を食ったような態度でヒラヒラと小さな炎を揺らめかせ見せびらかし、無関心とも侮蔑とも取れる声色で顔を向けずに語る。 訪れたデジモン達に興味が無いのを隠すつもりがまるで無い、それは、飢えている襲撃者たちを怒らせるには充分であった。 「テメェ…ナメてんのか?」 「やめてよ、スカモンみたいな臭いしてる奴なんか舐めるワケ無いだろ」 「ふざけやがって!お前ら、やっちまえ!」 あからさまな挑発に乗ったリベリモンが声を張り上げ指示を飛ばすとゴブリモン達が一斉に飛び掛かる。 だが、集団で囲んで叩き潰そうという安直な攻撃はファントモンに当たらない、まるで風に吹かれる布のようにひらりひらりと躱していく。 やがて幾度も飛び跳ねたゴブリモン達は息を切らして動きが鈍りだす。 それが狙い通りだったのか、あるいはただの気まぐれか、ファントモンが行動を開始する 「もう終わりかい?それじゃあ、ボクの番だね――絢乱・ソウルチョッパー」 大鎌を振り下ろし、薙ぎ払い、振り被る。まるで舞うように一体一体確実に賊を両断していく。 「こいつ…!ヴァンキッシュミサ――」 「それは駄目だ」 リベリモンが銃口を向け砲撃するより速く、死神の大鎌がその腕を切り落とす。 「ぐっ!?があぁぁ!?う、腕が…!!」 「テメェ!よくも兄貴を!覇王――」 「黙ってなよ――ナイトメア」 振り向きもせずにファントモンは黒いエネルギー波で迎撃する。 群れのボスを救おうと殴りかかったオーガモンを闇の波動が襲い、かつてオーガモンであったデジタマがこぼれ落ちる。 痛みに呻いていたリベリモンはその光景に言葉を失い、痛みも忘れて目を泳がせ呼吸を荒くし、逃げ出そうとエンジンを唸らせる。 だが、それを見逃すようなファントモンではなかった。手をかざすと空中から黒い鎖が現れリベリモンに巻き付く。 「うぐっ!?何だよこれ、ふざけやがって!!」 黒い鎖が悪漢を縛り上げ身動きを封じる、どうにか拘束を解こうと暴れても虚空に繋がる鎖はびくともしない。 「ぐぅ…動けなくして攻撃するなんて卑怯だぞ!」 「よく言われるよ、特にキミみたいな荒くれ者にはね」 「クソったれめ…殺すならさっさとしやがれ!」 「まぁそう焦るなって、一つ質問良いかな?どうしてウチを襲おうとした?誰に言われたの?」 ゆらり、死神が詰め寄る。フードの中に浮かぶ眼が静かな怒りに燃えているのは誰から見ても明らかであった。 だが、暴力で生きてきたリベリモンは屈しない、逆に睨み返し語気を荒げて威圧し圧倒しようとする。 これで口論になり隙が出来てピンチを脱する、彼なりに巡らしたそんな策を弄する。 「あぁ?何でそんな事を言わなきゃならねぇんだ?」 「ハァ…しっかりしなよ、仮にもボスだろう?次は無い、ここから先は慎重に言葉を選べ」 落胆と叱責、それでもファントモンは隙を見せるどころか、明確な殺意をもって大鎌を振るい凶刃の先端を首筋に突き立てた。 「がっ…あっ…お、俺は誰の指図も受けねぇ!ここに食い物が集まってるのは噂で聞いただけだ!」 ファントモンが提げている首飾りがわずかに輝いたように見えた、目玉のようなその石は様々な物を見通すのだという。 風の噂で聞いただけで実際に確かめたワケではない、ただの目の錯覚だろう。そんな事より生き残る方法を見つけ出すのが重要だ。 こいつを説き伏せて脱出して食い物を探す、その道中で新たな舎弟を捕まえられれば御の字だ。リベリモンの頭の中は既に次の悪事でいっぱいであった。 「なるほど…そこに嘘は無いみたいだねぇ…正直なのは好きだよ」 「それじゃあ…」 「だからって狼藉者を赦すワケ無いでしょ」 「この野郎…!」 「それでは、良き来世を」 一閃。また一つ、新たなデジタマがはじまりの街に転送された。 「今度は人間と一緒に来なよ、旨い飯と酒でもてなすからさ」